説明

アンテナ方向調整システム

【課題】GPS、ジャイロセンサ、又は携帯電話を使用できない場合でも、FPUのアンテナを自動で高い精度で正対させる。
【解決手段】FPU送信装置10は、測角用送受信機101と、FPU送信機102に対するFPU受信機112の第1の角度を測角する角度検出部104と、第1の角度に基づきFPU送信機102のアンテナの方向を制御するアンテナ方向制御部103とを備える。FPU受信装置11は、測角用送受信機111と、FPU受信機112に対するFPU送信機102の第2の角度を測角する角度検出部114と、第2の角度に基づきFPU受信機112のアンテナの方向を制御するアンテナ方向制御部113とを備える。測角用送受信機101,111は水平・垂直方向に走査するように電波を送信し、角度検出部114,104は測角用送受信機111,101で受信した電波のタイミングから、前記第2の角度、第1の角度を測角する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレビジョン放送などの中継で使用される放送番組素材無線伝送装置(FPU:Field Pick-up Unit)のアンテナについて、その方向を調整するアンテナ方向調整システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
放送局が番組制作で使用する放送番組素材無線伝送装置(FPU)は、主にマイクロ波帯やミリ波帯の電波が使用されている。FPUのアンテナには主にパラボラアンテナが使用され、映像や音声を無線伝送する際には送信機と受信機のパラボラアンテナを常に正対させる必要がある。ここで、アンテナを自動的に正対させる方法としては、以下に述べる第1の方法や第2方法が知られている。
【0003】
(アンテナを正対させる第1の方法)
例えば、ヘリコプターからFPU受信基地局へ映像や音声を無線伝送する場合に使用するアンテナは、それぞれ、ヘリコプターについては半値角(半値幅)の広いアンテナ(例えば、直径15cm程度のパラボラアンテナ)を使用し、FPU受信基地局については、半値角の狭い(例えば、直径90cm程度のパラボラアンテナ)を使用する。アンテナの方向調整については、ヘリコプターはGPS(Global Positioning System)を用いて得られる自らの緯度、経度、及び高度と、ジャイロセンサから得られる自らの方位と、既知であるFPU受信基地局の緯度、経度、及び高度とから、FPU受信基地局のある方向を計算してアンテナの方向を自動調整することができる。送信アンテナに半値角の広いアンテナを使用するため、GPSから得られる緯度、経度、及び高度の情報精度で十分にアンテナの方向調整が可能である。
【0004】
一方、FPU受信基地局については、半値角の狭い(指向性の鋭い)アンテナを使用するため、GPSから得られる送信側(ヘリコプター)の緯度、経度、及び高度の情報精度では正確な方向調整が難しい。そのため、自動追尾が可能な既知の追尾装置用表示装置(例えば、特許文献1参照)のような方式のアンテナを用いて方向調整を行う。このように、送信側では半値角の広いアンテナを使用し、受信側では半値角の狭いアンテナを使用する場合には、かかる方法を用いてアンテナの自動方向調整が可能であり、実際に放送局などで使用されている。
【0005】
(アンテナを正対させる第2の方法)
次に、アンテナを正対させる第2の方法として、例えばリモートコントロールで動作する土木建設機器からの映像伝送用として用いられる50GHzの簡易無線機のアンテナの自動方向調整に用いられる方法がある。ミリ波帯の電波を使用する簡易無線機で用いるアンテナは送信機、受信機ともに半値角の狭いアンテナが用いられており、高い精度での方向調整が必要となる。この簡易無線機を用いる無線伝送装置は、送信側に高精度のGPS、ジャイロセンサを備え、送信側・受信側ともに本線の映像伝送装置とは異なる通信装置(例えば携帯電話)を備え、これらの機器を使用して方向調整を行う。
【0006】
送信側については、第1の方法と同様にGPSとジャイロセンサを使用して、自らの緯度、経度、及び高度、並びに方位の情報を得る。この時、GPSから精度の高い情報を得るために、GPSと通信装置とを用いてリアルタイムキネマティック方式のGPS(RTK−GPS)で情報を得る。RTK−GPSで必要となる誤差情報は、ネットワークに接続してサーバから取得する方法と、基地局に設置したRTK−GPS用の誤差情報を取得する装置から得る方法などがある。高い精度で得られた建設機器の位置情報(緯度、経度、及び高度)並びに送信アンテナの方位と、既知である受信機を設置した場所の緯度、経度、及び高度の情報とから、送信アンテナを向ける方向を計算しアンテナの方向調整を行う。
【0007】
受信側については、通信機能と、アンテナ方向計算ユニットとを備え、既知である自らの緯度、経度、及び高度の情報と受信アンテナの方位と、通信にて得られた送信側の緯度、経度、及び高度の情報とから受信アンテナを向ける方向を計算してアンテナの方向調整を行う。このように送信側、受信側ともに半値角の狭いアンテナを使用する場合にも、精度の高い位置情報を用いれば、アンテナの自動方向調整が可能であり、実際に建設現場などで使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56−74670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マイクロ波帯で無線伝送距離が長い場合や、ミリ波帯など減衰が大きい周波数帯の電波を使用するFPUは、送信側、受信側ともに半値角の狭いアンテナ、すなわち指向性の鋭いアンテナを使用する必要がある。この場合の自動方向調整の手段として、前述の第1の方法では送信アンテナを高精度に方向調整することが難しいという問題があった。
【0010】
また、前述の第2の方法は、送信アンテナ、受信アンテナともに自動方向調整が可能であるが、GPSは高層ビルに囲まれた場所や室内では、精度の低下や使用できない場合がある。また、ジャイロセンサは地磁気センサーを使用する場合、強い磁気が発生する場所や金属で囲まれる建物内では、精度が低下や使用できない場合がある。さらに、通信装置として携帯電話を使用する場合は、携帯電話の基地局から遠い場合や建物内では、通信が不安定、または通信できない場合がある。そのため、GPS、ジャイロセンサ、通信機能(携帯電話)の全てを使用できる環境でないと、アンテナを自動で正対させることができないという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、上記問題を解決するため、GPS、ジャイロセンサ、又は携帯電話を使用できない場合であっても、FPUのアンテナを自動で高い精度で正対させることが可能なアンテナ方向調整システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明に係るアンテナ方向調整システムは、FPU送信装置が有するFPU送信機のアンテナと、FPU受信装置が有するFPU受信機のアンテナとを自動で向かい合わせるアンテナ方向調整システムであって、前記FPU送信装置は、測角用の電波を送受信する送信側測角用送受信機と、前記FPU送信機を基準とした前記FPU受信機の第1の角度を算出する送信側角度検出部(送信側の水平・垂直角度検出部)と、前記第1の角度に基づいて前記FPU送信機のアンテナの方向を制御する送信側アンテナ方向制御部(送信側の雲台制御部)とを備え、前記FPU受信装置は、測角用の電波を送受信する受信側測角用送受信機と、前記FPU受信機を基準とした前記FPU送信機の第2の角度を算出する受信側角度検出部(受信側の水平・垂直角度検出部)と、前記第2の角度に基づいて前記FPU受信機のアンテナの方向を制御する受信側アンテナ方向制御部(受信側の雲台制御部)とを備え、前記送信側測角用送受信機は、水平方向及び垂直方向に走査するように測角用の電波を送信し、前記受信側角度検出部は、前記受信側測角用送受信機により受信された該測角用の電波の受信タイミングから、前記第2の角度を算出し、前記受信側測角用送受信機は、水平方向及び垂直方向に走査するように測角用の電波を送信し、前記送信側角度検出部は、前記送信側測角用送受信機により受信された該測角用の電波の受信タイミングから、前記第1の角度を算出することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る自動アンテナ方向調整システムにおいて、前記送信側測角用送受信機は、垂直方向及び水平方向に走査するように測角用の電波を送信する際に、走査範囲及び走査角度ステップを段階的に小さくし、前記受信側測角用送受信機は、垂直方向及び水平方向に走査するように測角用の電波を送信する際に、走査範囲及び走査角度ステップを段階的に小さくすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る自動アンテナ方向調整システムにおいて、前記FPU送信装置は、前記FPU送信機の位置情報と、前記FPU受信機の位置情報とを用いて、前記FPU送信機に対する前記FPU受信機の初期方位を算出する初期方位算出部をさらに備え、前記送信側測角用送受信機は、前記角度測定用送受信機が垂直及び水平方向に走査するように電波を送信する際に、前記初期方位を中心として走査範囲を限定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る自動アンテナ方向調整システムにおいて、前記FPU送信装置は、前記送信側測角用送受信機が前記受信側測角用送受信機から受信した電波の受信電力の値から、前記FPU送信機による無線伝送が可能か否かを判断する伝送判定部をさらに備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る自動アンテナ方向調整システムにおいて、前記伝送判定部は、前記FPU送信機の位置情報と、前記FPU受信機の位置情報とを用いて、前記FPU送信機と前記FPU受信機との間の距離を算出し、算出した距離から、測角用送受信機が測角時に受信する受信電力の値を推定し、推定した受信電力の値と、前記送信側測角用送受信機が前記受信側測角用送受信機から受信した電波の受信電力の値との比較により、前記FPU送信機による無線伝送が可能か否かを判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、GPS、ジャイロセンサ、又は携帯電話を使用できない場合であっても、FPUのアンテナを自動で高い精度で正対させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による実施例1に係るアンテナ方向調整システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明による実施例1に係るアンテナ方向調整システムの測角用送受信機の電波による走査を説明する図である。
【図3】本発明による実施例1に係るアンテナ方向調整システムの測角用送受信機の走査のタイミング及び受信信号強度を示す図である。
【図4】本発明による実施例1に係るアンテナ方向調整システムの方向調整動作を説明するフローチャートである。
【図5】本発明による実施例1に係るアンテナ方向調整システムの測角用送受信機のアンテナの対向動作を説明する図である。
【図6】本発明による実施例1に係るアンテナ方向調整システムの測角時のアンテナ走査を説明する図である。
【図7】本発明による実施例2に係るアンテナ方向調整システムの構成を示すブロック図である。
【図8】本発明による実施例2に係るアンテナ方向調整システムの測角時のアンテナ走査を説明する図である。
【図9】本発明による実施例3に係るアンテナ方向調整システムの構成を示すブロック図である。
【図10】本発明による実施例4に係るアンテナ方向調整システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明によるアンテナ方向調整システムの実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
(アンテナ方向調整システムの構成)
図1は、実施例1に係るアンテナ方向調整システムの構成を示すブロック図である。アンテナ方向調整システム1は、FPU送信装置10と、FPU受信装置11とを備える。本実施例では、FPU送信装置10は、主に中継車やヘリコプターに搭載して運用する場合のほか、携帯して3脚に載せて運用する場合などを想定している。FPU受信装置11は、主にビルの屋上や鉄塔、山頂などに設置されたFPU受信基地局に設置して運用する場合のほか、携帯して三脚に載せて運用する場合を想定している。
【0021】
FPU送信装置10は、測角用送受信機(送信側測角用送受信機)101と、FPU送信機102と、雲台制御部(送信側アンテナ方向制御部)103と、水平・垂直角度検出部(送信側角度検出部)104と、回転雲台105とを備える。FPU受信装置11は、測角用送受信機(受信側測角用送受信機)111と、FPU受信機112と、雲台制御部(受信側アンテナ方向制御部)113と、水平・垂直角度検出部(受信側角度検出部)114と、回転雲台115を備える。測角用送受信機101は、FPU送信機102の近くに配置され、測角用送受信機111は、FPU受信機112の近くに配置される。
【0022】
測角用送受信機101は、FPU受信装置11に設けられた測角用送受信機111から送信された測角用の電波を受信する。同様に、測角用送受信機111は、FPU送信装置10に設けられた測角用送受信機101から送信された測角用の電波を受信する。測角用送受信機101及び測角用送受信機111は、後述するように、測角時には水平方向及び垂直方向に走査するように測角用の電波を送信する。例えば、測角用送受信機101及び測角用送受信機111のアンテナはアレーアンテナで構成され、指向性ビームにより空間を走査する。
【0023】
水平・垂直角度検出部104は、FPU送信機102を基準としたFPU受信機112の水平方向及び垂直方向の角度をそれぞれ算出し、算出した水平方向・垂直方向の角度データを雲台制御部103に出力する。同様に、水平・垂直角度検出部114は、FPU受信機112を基準としたFPU送信機102の水平方向及び垂直方向の角度をそれぞれ算出し、算出した水平方向・垂直方向の角度データを雲台制御部113に出力する。なお、測角方法については後述する。
【0024】
雲台制御部103は、水平・垂直角度検出部104から入力される角度データに基づいて、FPU送信機102がFPU受信機112に正対するように回転雲台105を制御する。同様に、雲台制御部113は、水平・垂直角度検出部114から入力される角度データに基づいて、FPU受信機112がFPU送信機102に正対するように回転雲台115を制御する。
【0025】
回転台105は、雲台制御部103から入力される制御信号に基づいて、FPU送信機102を水平方向、垂直方向に回転させる。このような動作により、FPU送信機102はFPU受信機112の方向に正確に向くように調整される。同様に、回転台115は、雲台制御部113から入力される制御信号に基づいて、FPU受信機112を回転させる。このような動作により、FPU受信機112はFPU送信機102の方向に正確に向くように調整される。
【0026】
(測角の原理)
次に、測角用送受信機101,111と水平・垂直角度検出部104,114により検知される、FPU送信機102を基準としたFPU受信機112、及びFPU受信機112を基準としたFPU送信機102の水平・垂直方向角度の検知方法について説明する。測角の原理としては、ある範囲の角度を一定の速度で走査する電波を送信・受信し、2つのパルス状の信号を検知してその時間差から角度を算出する方法が知られている(例えば、岡田和男、「航空電子入門」、社団法人日本航空技術協会、p.89−96を参照)。この方法は航空機のマイクロ波着陸装置などに用いられており、非常に簡単な原理で実現できる。
【0027】
はじめに水平方向の角度の検知について説明する。FPU送信装置10に設けられた測角用送受信機101は、水平方向に鋭く、垂直方向に広い範囲の電波を放射し、図2に示すように水平方向に角度±φの範囲を時間Sで走査する。
【0028】
図3(a)は、測角用送受信機の走査のタイミングを示す図であり、横軸に時間、縦軸に角度を示している。ここでは、測角用送受信機101が測角用の電波を送信し、該電波を測角用送受信機111が受信する場合を例に説明する。測角用送受信機101は、横軸の時間0からSの間に角度+φから−φまで電波による走査を行う。そして、休止期間Imの後、さらに時間S+Imから2S+Imの間に角度−φから+φまで電波による走査を行う。測角用送受信機111は、時間0からSの間に、測角用送受信機101から放射された電波を受信し、さらに時間S+Imから2S+Imの間に測角用送受信機101から2度目の電波を受信する。
【0029】
図3(b)は、測角用送受信機111が電波を受信し、水平・垂直角度検出部114が検出した信号強度を示す図であり、横軸に時間、縦軸に信号強度を示している。ここで、電波受信時間差ΔTは、1度目に測角用送受信機101からの電波を受信した時間と、2度目に測角用送受信機101からの電波を受信した時間との差である。電波受信時間差ΔTは、測角用送受信機111を基準とした測角用送受信機101の方位、すなわちFPU受信機112を基準としたFPU送信機102の水平方向の角度に対応するため、FPU受信機112を基準としたFPU送信機102の水平方向の角度を算出することができる。
【0030】
次に、測角用送受信機101は、水平方向に広く、垂直方向に鋭い範囲の電波を放射し、垂直方向に角度±φの範囲を時間Sで走査する。このとき、電波受信時間差ΔTは、FPU受信機112を基準としたFPU送信機102の垂直方向の角度に対応するため、FPU受信機112を基準としたFPU送信機102の垂直方向の角度を算出することができる。
【0031】
同様に、測角用送受信機111から走査しながら放射される電波を測角用送受信機101が受信することにより、FPU送信機102を基準としたFPU受信機112の水平方向及び垂直方向の角度を算出することができる。
【0032】
このような一連の動作により、送信アンテナ、受信アンテナともに正対させるための方位が得られ、アンテナの自動方向調整が可能になる。なお、測角に使用する電波の形式は、無変調の搬送波のみの電波、アナログ変調やデジタル変調された電波など、あらゆる形式で測角が可能である。
【0033】
次に、アンテナ方向調整システム1の方向調整動作について説明する。図4は、アンテナ方向調整システム1の方向調整動作を示すフローチャートである。ステップS101〜ステップS107では、アンテナ方向調整システム1は、測角の準備として、まず測角用送受信機101,111のアンテナが対向しているか否かを確認する。ステップS101では、測角用送受信機101のアンテナを東向きにして電波を送信し、測角用送受信機111のアンテナを西向きにして電波を送信する。
【0034】
図5は、ステップS101における測角用送受信機101,111のアンテナの対向動作を説明する図である。ステップS102では、図5に示すように、測角用送受信機101は電波を走査しながら送信し、測角用送受信機111は測角用送受信機101からの電波を受信できるかを確認する。また、測角用送受信機111は電波を走査しながら送信し、測角用送受信機101は測角用送受信機111からの電波を受信できるかを確認する。ステップS102にて、測角用送受信機101,111がお互いに電波を受信できた場合にはアンテナは対向していると判断し、ステップS108にて測角処理を行う。ステップS102にて、測角用送受信機101,111がお互いに電波を受信できず、アンテナは対向していないと判断した場合には、ステップS103に処理を進める。ステップS103では、測角用送受信機101のアンテナを西向き、測角用送受信機111のアンテナを東向きにして電波を送信し、ステップS104では、アンテナが対向しているか否かを判断する。同様に、ステップS105では、測角用送受信機101のアンテナを北向き、測角用送受信機111のアンテナを南向きにして電波を送信し、ステップS106では、アンテナが対向しているか否かを判断する。ステップS107では、測角用送受信機101のアンテナを南向き、測角用送受信機111のアンテナを北向きにして電波を送信する。
【0035】
ただし、測角用送受信機101,111に使用する受信アンテナの指向性が狭い場合は、より細かい角度(例えば、10度)ステップで測定を行う必要がある。例えば、10度ステップで測定を行う場合には、最初に測角用送受信機101の方位を0度とし、測角用送受信機111の方位を180度とすると、次のステップは、測角用送受信機101の方位を10度とし、測角用送受信機111の方位を190度とする。さらに次のステップは、測角用送受信機101の方位を20度とし、測角用送受信機111の方位を200度とする。
【0036】
続いて、ステップS108における測角動作について説明する。図6は、測角時のアンテナ走査を説明する図である。ここでは、測角用送受信機101が走査しながら測角用の電波を送信し、測角用送受信機111が測角用の電波を受信する場合について説明するが、送受信を入れ替えて、測角用送受信機111が走査しながら測角用の電波を送信し、測角用送受信機101が測角用の電波を受信する場合も同様である。本発明に係るアンテナ方向調整システム1は、測角精度を向上させるために、測角用送受信機101,111を使用して測角を行う際に、走査範囲を工夫している。最初は第1段階として図6(a)に示すように、図2で説明した方法と同様に、角度±φ1の範囲を時間S1で走査する。このとき、走査角の角度ステップをA1度とし、A1度ごとに電波を放射する。水平・垂直角度検出部114は、電波受信時間差ΔTから、測角用送受信機111を基準とした測角用送受信機101の水平方向及び垂直方向のおおよその角度を算出する。
【0037】
次に、第2段階として図6(b)に示すように、第1段階で測定した、測角用送受信機111を基準とした測角用送受信機101の方位を中心として、角度±φ2(φ2<φ1とする)の範囲を時間S2で走査する。このとき、走査角の角度ステップをA2度(A2<A1とする)とし、A2度ごとに電波を放射する。すなわち、第2段階は第1段階よりも走査範囲を狭め、走査角の角度ステップも細かくする。第2段階では第1段階よりも精度が高い測角が可能である。第2段階でアンテナの方向調整に十分な精度が得られれば第2段階の測角で終了してもよいが、さらに精度を高める場合は、第3段階に進む。この手順を送信側、受信側それぞれで行い、送信側、受信側ともにおおよその方向調整を行う。このとき第1段階よりも精度の高い方向調整ができている。
【0038】
第3段階については、図6(c)に示すように、第2段階と同様にして、第2段階で測定した、測角用送受信機111を基準とした測角用送受信機101の方位を中心として±φ3(φ3<φ2とする)の範囲を時間S3で走査する。このとき、角度ステップをA3度(A3<A2とする)とし、A3度ごとに電波を放射する。すなわち、第3段階は第2段階よりも走査範囲を狭め、角度ステップも細かくする。第3段階では第2段階よりも精度が高い測角が可能となる。この作業を送信側、受信側で繰り返すことにより精度の高い方向調整が可能となる。
【0039】
なお、測角用送受信機101及び測角用送受信機111が測角時に使用する電波の周波数が同じ場合は、測角を順番に行うことになるが、使用する電波を異なる周波数とすることで、送信側、受信側で同時に測角することができ、迅速にFPUの方向調整をすることができる。
【0040】
再び図4を参照するに、ステップS109では、雲台制御部103,113は、水平・垂直角度検出部104,114により算出した角度に基づいて、回転雲台105,115を制御する。
【0041】
このように、実施例1のアンテナ方向調整システム1によれば、測角用送受信機101,111、及び水平・垂直角度検出部104,114を用いることで、送信側、受信側の水平・垂直方向の角度が分かり、GPSやジャイロセンサ、携帯電話などが使用できない場合でも、FPUの方向調整を正確に行うことができ、FPU送信機102とFPU受信機112とを正対させて、映像・音声を伝送することが可能となる。
【0042】
また、航空機のマイクロ波着陸装置は、送信電波の走査範囲を徐々に狭くすることはなく、また一定の角度で走査を行うが、実施例1のアンテナ方向調整システム1では、走査範囲を徐々に狭め、走査の角度ステップも徐々に小さな値とする。これにより、精度の高い角度の測定を行い、高精度な方向調整を実現することが可能となる。
【実施例2】
【0043】
次に、本発明による実施例2に係るアンテナ方向調整システムについて、図面を参照して説明する。なお、実施例1と同じ構成要素には同一の参照番号を付して説明を省略する。図7は、実施例2に係るアンテナ方向調整システムの構成を示すブロック図である。アンテナ方向調整システム2は、FPU送信装置13と、FPU受信装置11とを備える。実施例2のFPU受信装置11は、実施例1のFPU受信装置11と同じである。実施例2のFPU送信装置13は、実施例1のFPU送信装置10(図1参照)と比較して、さらに位置情報取得部106と、初期方位算出部107とを備える点が相違する。
【0044】
位置情報取得部106は、GPS衛星からの電波を受信して、FPU送信機102の位置情報を取得する。なお、GPS衛星の電波の受信が困難な場所については、地図から求めた緯度・経度を入力するなどの手段を用いてもよい。
【0045】
初期方位算出部107は、位置情報取得部106から入力されるFPU送信機102の位置情報と、既知であるFPU受信機112の位置情報とを用いて、FPU送信機102に対するFPU受信機112のおおよその方位(初期方位)を算出する。
【0046】
雲台制御部103は、初期方位決定部107から入力される方位に基づいて回転雲台105を制御し、FPU送信機102のアンテナをFPU受信機112の方に向ける。
【0047】
測角用送受信機101は、図8に示すように、初期方位決定部107により決定されたFPU送信機102の初期方位を中心にして、測角用送受信機101が走査する角度の範囲を±φdに限定して走査する。また、図6を参照して説明したように、段階的に走査範囲を狭め、角度ステップを細かくすれば、さらに精度を高めることができる。
【0048】
このように、実施例2のアンテナ方向調整システム2によれば、位置情報を取得可能な環境下においては、測角用送受信機101,111を使用して測角を行う際に、GPSから得られる位置情報を使用しておおよその方位を推定して走査範囲を限定することができるので、測角用送受信機101が測角に要する時間を短縮することが可能となる。また、FPU送信装置13を搭載した中継車等は、現場まで移動し、現場で停止してFPU受信装置11に放送番組素材データを送信することを想定しているが、測角速度を速くすることにより、中継車は移動しながら放送番組素材データを送信することも可能となる。
【0049】
さらに、FPU送信装置13に、位置情報をFPU受信装置11に伝える通信手段を備え、FPU受信装置11に初期方位算出部を備えるように構成してもよい。この場合には、FPU受信装置11は、図示しない初期方位算出部により、FPU送信装置13から入力されるFPU送信機102の位置情報と、既知であるFPU受信機112の位置情報とを用いて、FPU受信機112に対するFPU送信機102のおおよその方位(初期方位)を算出する。そして、測角用送受信機111が走査する角度の範囲を限定して走査することで、測角用送受信機111が測角にかかる時間を短縮することができる。
【実施例3】
【0050】
次に、本発明による実施例3に係るアンテナ方向調整システムについて、図面を参照して説明する。なお、実施例1と同じ構成要素には同一の参照番号を付して説明を省略する。図9は、実施例3に係るアンテナ方向調整システムの構成を示すブロック図である。アンテナ方向調整システム3は、FPU送信装置14と、FPU受信装置11とを備える。実施例3のFPU受信装置11は、実施例1のFPU受信装置11と同じである。実施例3のFPU送信装置14は、実施例1のFPU送信装置10(図1参照)と比較して、伝送判定部108をさらに備える点が相違する。
【0051】
FPUはマイクロ波帯やミリ波帯の電波を用いて無線伝送するため、送受信点が見通しとなる場所での運用が基本である。そのため、伝送路上に例えば建物や樹木があると無線伝送が不安定となり、映像が途切れることがある。ビルや山陰などの影響で季節の変化にかかわらず無線伝送ができない場合は、伝送不可としてFPUの運用者は迷うことなく、別の場所から伝送するなどの対策を行うことができるが、例えば樹木などによる伝送路の遮へいは、冬は伝送可能であったが夏は伝送不可になるなど、FPUの運用に慣れた担当者であっても樹木の影響か、アンテナの方向調整の調整不足なのか判断が難しい場合がある。特にFPU送信機102を設置した中継車、すなわち送信側は、FPU受信機112で受信した受信電力の値についての情報がないため、さらに判断を難しくしている。
【0052】
そこで、本実施例のFPU送信装置14は、伝送判定部108を設けている。伝送判定部108は、測角用送受信機101が測角用送受信機111から受信した電波の受信電力の値から、FPU送信機102による無線伝送が可能か否かを判断する。また、伝送判定部108は、判定結果をユーザに通知する機能を有する。例えば、音声により判定結果を通知したり、図示しないディスプレイ上に判定結果を表示したりする。
【0053】
例えば、測角用送受信機101,111が測角のために使用する電波の周波数が、FPU送信機102、FPU受信機112の使用する電波の周波数に近い場合は、電波の伝搬損失はほぼ同じである。よって、この場合には、伝送判定部108は、送受信機101が測角用送受信機111から受信した電波の受信電力の値がFPUの無線伝送に必要な受信電力の値以上であれば、伝送が可能であると判断し、FPUの無線伝送に必要な受信電力の値未満であれば、伝送不可であると判断する。
【0054】
測角用送受信機101,111が測角のために使用する電波の周波数が、FPU送信機102、FPU受信機112の使用する電波の周波数と異なる場合であっても、受信電力の値は周波数に依存することから、伝送判定部108は、測角用送受信機101が受信した受信電力の値から、FPUを使用した場合の受信電力の値の推定が可能で、FPUの伝送の可否を判断することが可能である。
【0055】
このように、実施例3のアンテナ方向調整システム3によれば、伝送判定部108をさらに備えることにより、FPUを用いた無線伝送の可否を判断してユーザに通知することができるので、FPUのユーザは別の場所から伝送するなどの対策を即座に行うことが可能となる。
【実施例4】
【0056】
次に、本発明による実施例4に係るアンテナ方向調整システムについて、図面を参照して説明する。なお、実施例3と同じ構成要素には同一の参照番号を付して説明を省略する。図10は、実施例4に係るアンテナ方向調整システムの構成を示すブロック図である。アンテナ方向調整システム4は、FPU送信装置14と、FPU受信装置11とを備える。実施例4のFPU受信装置11は、実施例1のFPU受信装置11と同じである。実施例4のFPU送信装置15は、実施例1のFPU送信装置10(図9参照)と比較して、位置情報取得部106及び伝送判定部109をさらに備える点が相違する。
【0057】
位置情報取得部106は、GPS衛星からの電波を受信して、FPU送信機102の位置情報を取得する。
【0058】
伝送判定部109は、位置情報取得部106により取得したFPU送信機102の位置情報と、既知であるFPU受信機112の位置情報とを用いて、FPU送信機102とFPU受信機112との間の距離を算出する。そして、算出したFPU送信機102とFPU受信機112との間の距離から、測角用送受信機101,111が測角時に受信する受信電力の値を推定する。伝送判定部109は、受信電力の推定値と、測角用送受信機101が測角用送受信機111から受信した電波の受信電力の値との比較により、FPU送信機102による無線伝送が可能か否かを判断する。例えば、両者の差が閾値以下である場合には、無線伝送路上に障害となる遮へい物などが無く、FPUを用いた無線伝送が可能であると判断し、両者の差が閾値を越える場合には、無線伝送路上に障害となる遮へい物があり、FPUを用いた無線伝送ができないと判断する。また、伝送判定部109は、判定結果をユーザに通知する機能を有する。
【0059】
このように、実施例4のアンテナ方向調整システム4によれば、位置情報取得部106及び伝送判定部109をさらに備えることにより、位置情報を取得可能な環境下においては、FPUを用いた無線伝送の可否の判断を高精度で行うことが可能となる。
【0060】
上述の各実施形態は、個々に代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施例4のFPU送信装置15において、初期方位算出部107をさらに備える構成とし、FPU送信機102に対するFPU受信機112のおおよその方位を算出するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
このように、本発明によれば、送信機のアンテナと受信機のアンテナとを自動で向かい合わせることができるので、アンテナを用いて電波を送受信する任意の用途に有用である。
【符号の説明】
【0062】
1,2,3,4 アンテナ方向調整システム
10,13,14,15 FPU送信装置
11 FPU受信装置
101 測角用送受信機(送信側測角用送受信機)
102 FPU送信機
103 雲台制御部(送信側アンテナ方向制御部)
104 水平・垂直角度検出部(送信側角度検出部)
105 回転雲台
106 位置情報取得部
107 初期方位算出部
108,109 伝送判定部
111 測角用送受信機(受信側測角用送受信機)
112 FPU受信機
113 雲台制御部(受信側アンテナ方向制御部)
114 水平・垂直角度検出部(受信側角度検出部)
115 回転雲台


【特許請求の範囲】
【請求項1】
FPU送信装置が有するFPU送信機のアンテナと、FPU受信装置が有するFPU受信機のアンテナとを自動で向かい合わせるアンテナ方向調整システムであって、
前記FPU送信装置は、
測角用の電波を送受信する送信側測角用送受信機と、
前記FPU送信機を基準とした前記FPU受信機の第1の角度を算出する送信側角度検出部と、
前記第1の角度に基づいて前記FPU送信機のアンテナの方向を制御する送信側アンテナ方向制御部とを備え、
前記FPU受信装置は、
測角用の電波を送受信する受信側測角用送受信機と、
前記FPU受信機を基準とした前記FPU送信機の第2の角度を算出する受信側角度検出部と、
前記第2の角度に基づいて前記FPU受信機のアンテナの方向を制御する受信側アンテナ方向制御部とを備え、
前記送信側測角用送受信機は、水平方向及び垂直方向に走査するように測角用の電波を送信し、前記受信側角度検出部は、前記受信側測角用送受信機により受信された該測角用の電波の受信タイミングから、前記第2の角度を算出し、
前記受信側測角用送受信機は、水平方向及び垂直方向に走査するように測角用の電波を送信し、前記送信側角度検出部は、前記送信側測角用送受信機により受信された該測角用の電波の受信タイミングから、前記第1の角度を算出する
ことを特徴とするアンテナ方向調整システム。
【請求項2】
前記送信側測角用送受信機は、垂直方向及び水平方向に走査するように測角用の電波を送信する際に、走査範囲及び走査角度ステップを段階的に小さくし、
前記受信側測角用送受信機は、垂直方向及び水平方向に走査するように測角用の電波を送信する際に、走査範囲及び走査角度ステップを段階的に小さくする
ことを特徴とする、請求項1に記載のアンテナ方向調整システム。
【請求項3】
前記FPU送信装置は、前記FPU送信機の位置情報と、前記FPU受信機の位置情報とを用いて、前記FPU送信機に対する前記FPU受信機の初期方位を算出する初期方位算出部をさらに備え、
前記送信側測角用送受信機は、前記角度測定用送受信機が垂直及び水平方向に走査するように電波を送信する際に、前記初期方位を中心として走査範囲を限定することを特徴とする、請求項1又は2に記載のアンテナ方向調整システム。
【請求項4】
前記FPU送信装置は、前記送信側測角用送受信機が前記受信側測角用送受信機から受信した電波の受信電力の値から、前記FPU送信機による無線伝送が可能か否かを判断する伝送判定部をさらに備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアンテナ方向調整システム。
【請求項5】
前記伝送判定部は、前記FPU送信機の位置情報と、前記FPU受信機の位置情報とを用いて、前記FPU送信機と前記FPU受信機との間の距離を算出し、算出した距離から、測角用送受信機が測角時に受信する受信電力の値を推定し、推定した受信電力の値と、前記送信側測角用送受信機が前記受信側測角用送受信機から受信した電波の受信電力の値との比較により、前記FPU送信機による無線伝送が可能か否かを判断することを特徴とする、請求項4に記載のアンテナ方向調整システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−220318(P2012−220318A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85603(P2011−85603)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)