説明

アンモニウムカルボキレートの熱塩分解

本発明の課題は、従って、一般式[式中、R1、R2及びR3は、互いに独立してH、OH、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルキル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルケニル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルコキシ、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルキルチオ−(C1〜C6)−アルキル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C6〜C10)−アリール、場合によりヒドロキシル基で置換された(C7〜C12)−アラルキル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C3〜C5)−ヘテロアリール(ただし少なくとも1つのヒドロキシル基が少なくとも1つの残基R1、R2及びR3中に含まれる)、有利には、R1=H、CH3、CH2CH3、C65、(CH22SCH3及びR2=H、CH3及びR3=OH、同様に有利にはR1=CH2OH、CHOHCH3及びR2=R3=H、CH3、特に有利にはR1=R2=CH3及びR3=OH、同様に特に有利にはR1=CH2OH、R2=CH3及びR3=Hである]のアンモニウムカルボキシレートからの、ヒドロキシカルボン酸の、有利にはα−及びβ−ヒドロキシカルボン酸の製造方法であって、次の工程:アンモニウムカルボキシレートを含有する出発水溶液を加熱し、その際、アンモニウムカルボキシレートの熱分解によって、ヒドロキシカルボン酸及びアンモニアが生じ、そして同時にその溶液から少なくとも一部の遊離水及び生じたアンモニアを取り除き、そしてそれによりヒドロキシカルボン酸を含有する生成物留分を得る製造方法において、出発溶液中のアンモニウム塩の含有率が60質量%未満であり、アンモニウム塩の熱分解及び遊離水及び生じたアンモニアの1つの方法工程における除去を実施し、その際アンモニウム塩の反応が、20mol%より多く、有利には30mol%より多く、特に50mol%より多く、特に有利には75mol%より多く、極めて特に有利には90mol%より多く、及び殊に95mol%より多く、共留剤としてエーテル、アルコール又は炭化水素を使用しないことを特徴とする製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式
【化1】

[式中、R1、R2及びR3は、互いに独立してH、OH、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルキル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルケニル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルコキシ、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルキルチオ−(C1〜C6)−アルキル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C6〜C10)−アリール、場合によりヒドロキシル基で置換された(C7〜C12)−アラルキル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C3〜C5)−ヘテロアリール(ただし少なくとも1つのヒドロキシル基が少なくとも1つの残基R1、R2及びR3中に含まれる)]のアンモニウムカルボキシレートからの、ヒドロキシカルボン酸の製造方法であって、
アンモニウムカルボキシレートを含有する出発水溶液を加熱し、その際、アンモニウムカルボキシレートの熱分解によって、ヒドロキシカルボン酸及びアンモニアが生じ、そして同時にその溶液から少なくとも部分的に遊離水及び生じたアンモニアを取り除き、そしてそれによりヒドロキシカルボン酸を含有する生成物留分を得る製造方法に関する。
【0002】
一般式
【化2】

のヒドロキシカルボン酸例えばグリコール酸、乳酸又は2−ヒドロキシイソ酪酸は、重要な出発物質製薬化学、農薬又は高分子化学の範囲で重要であり、かつ大規模工業で使用される中間体、例えばアクリル酸誘導体の合成のために、さらに食料及び試料の添加物として使用される。ヒドロキシカルボン酸は、化学合成又は生物学的方法、例えば糖又はデンプンの発酵によって、微生物の使用下で、又はカルボン酸ニトリルの酵素的加水分解によって生じる。一般式(I)における置換基R1、R2及びR3が、互いに異なり、かつCO2Hとは異なる場合に、化合物の2つの光学活性型(エナンチオマー)が存在する。化学合成においては、しばしば2つのエナンチオマーのラセミ化合物のみが得られる一方で、生物学的方法においては、しばしば高い過剰なエナンチオマーを得ることができる。有利に形成されたエナンチオマーの決定は、この場合、微生物又は酵素の適した選択で実施することができる。微生物学的方法において、カルボン酸は、しばしばアンモニウムカルボキシレートの水溶液として得られる発酵培養液又は酵素反応の反応溶液中のアンモニウムカルボキシレートの含有率は、使用された方法に依存し、しかし多くの場合10質量%を越えず、かつしばしばさらに明らかに低い(EP 1 466 984 A1、US 6 937 155、US 7 198 927 B2)。
【0003】
先行技術から、対応するアンモニウムカルボキシレートの水溶液から、遊離したヒドロキシカルボン酸の製造方法、例えばカチオンの又はアニオンのイオン交換クロマトグラフィー、電気浸透、反応性溶剤での抽出又は鉱酸での発酵培養液の酸性化、及び続く濃縮、結晶化又は蒸留によるカルボン酸の分離が公知である(Joglekar et al. Separation and Purification Technology, 2006, 52, 1 −17)。多くのこれらの方法は、ヒドロキシカルボン酸の製造に関して、工業規模で相応する欠点を有する。この方法は、部分的に非常に費用がかかり、特に、生物学的方法から得られた溶液中でアンモニウムカルボキシレートの比較的少ない濃縮によって、部分的に費用がかかり、かつ故障しやすい装置が必要であり、及び/又は追加の化学物質の使用によって、処分されもしくは費用をかけてリサイクルされるモル量の副生成物を生じる。例えば、アンモニウムカルボキシレートの鉱酸での酸性化の場合に、又はイオン交換クロマトグラフィーの場合に、追加の廃棄費用を引き起こす鉱物塩のモル量が生じる。
【0004】
それらの相応するアンモニウムカルボキシレートからの遊離ヒドロキシカルボン酸を得るための他の手がかりは、遊離酸及び式(i)によるアンモニアに対するアンモニウムカルボキシレートの熱分解である。
【化3】

【0005】
US 6 291 708 B1は、水溶液中でアンモニウム塩を適したアルコールと混合し、そしてアルコール−水−混合物を、続いて、アンモニウム塩を熱的に遊離酸及びアンモニアに分解するために高圧下で加熱する方法を記載している。同時に、共留剤として適したガスをアルコール−水−混合物と接触させ、その結果ガス状の生成物流、得られたアンモニア、水及びアルコールの一部を排出する一方で、液相中で少なくとも10%のアルコールが残っており、かつ遊離酸と反応して相応するエステルを形成する。これらの方法の欠点は、追加の化学物質(アルコール及び共留剤としてガス)を要求し、並びに生じた遊離カルボン酸の部分的な反応で遊離カルボン酸を得るために再び加水分解されるべきであるエステルを生じる。
【0006】
US 2003/0029711 A1は、特に、アンモニウム塩の水溶液から、共留剤として炭化水素成分の添加下での、有機酸の抽出のための方法を記載している。その混合物の加熱によって、有機酸からなる共沸混合物及び共留剤を含有するガス状の精製物流が得られる。これらの精製物流からの酸の分離のために、他の工程、例えば凝縮及びさらに蒸留が実施される。さらに、この方法も、特に工業規模での適用のために、明らかに費用がかかるさらなる化学物質(共留剤)の添加を要求する。
【0007】
EP 0 884 300 A1は、第一工程において、アンモニウム塩の水溶液が、それ自体又は適した有機溶剤、例えばキシレン、トルエンもしくはアニソール中で加熱され、その結果、低分子のポリ−α−ヒドロキシカルボン酸が得られ、そして遊離水に加えて、モノマーのα−ヒドロキシカルボン酸の凝縮によってポリ−α−ヒドロキシカルボン酸を形成された水の一部及びアンモニアも取り除かれる、対応するアンモニウム塩からのα−ヒドロキシカルボン酸の抽出の二段階方法を記載している。第二方法工程において、続いて、新たに水の添加及び得られた水溶液の加熱は、ポリ−α−ヒドロキシカルボン酸のモノマーのα−ヒドロキシカルボン酸への加水分解のために必要である。さらなる方法工程に加えて、これらの方法の他の欠点は、共沸剤が、水溶液に添加され(有機の共留剤が不要である場合に典型的に0.002×105Pa未満)、及び多く要求される、アンモニウムカルボキシレートの水溶液(共留剤が使用されない場合に80質量%より多い含有率)中での出発濃縮が要求される場合での、共留剤(共沸剤)の添加又は著しく低い圧力である。
【0008】
使用される方法は、WO 2006/069129 A1において記載されている。ここで、第一工程において、アンモニウムカルボキシレートの水溶液から、遊離水を引き続き取り除き、そしてその結果無水のアンモニウムカルボキシレートが得られる。そしてこれを分離方法工程において減圧下で100〜140℃に加熱し、その際塩の熱分解が生じ、形成されたアンモニアを減圧下で取り除き、そしてポリ−ヒドロキシ酸、ヒドロキシカルボン酸のオリゴマー、アンモニウム塩のオリゴマー及び転化されていないアンモニウムカルボキシレートからの生成混合物が得られる。続いてこの生成混合物をさらなる工程において水と混合し、そして加水分解のために加熱する。この方法においても、まず分離方法工程において熱的に分解されることができる、非常に十分な無水塩の製造が必要である。さらに、加水分解のためのさらなる分離プロセス工程が必要である。
【0009】
WO 00/59847は、ヒドロキシカルボン酸の、それらのアンモニウム塩の水溶液からの製造方法を記載している。該方法は、水溶液中のアンモニウム塩の濃縮が、水性塩分解のために60質量%より多いためにアンモニウム塩水溶液の濃縮のための分離プロセス工程を、及びさらに形成されたアンモニウムの除去のための共留剤の使用も要求するアンモニウム塩の熱分解に対する他の分離方法工程を要求することも記載している。
【0010】
さらに多くの文献から公知の方法の場合に生じる問題は、同様に式(ii):
【化4】

によって放出されたアンモニアとの反応において形成されたカルボン酸の濃縮による、著しい量のヒドロキシカルボン酸アミドの形成である。
【0011】
さらに、光学活性ヒドロキシカルボン酸のアンモニウム塩の反応の場合に、特に強酸又は強塩基の存在で及び高温で、反応状況によってラセミ混合物を形成するためのステレオ情報の完全な損失を導きうる、立体中心のエピマー化の危険性がある。
【0012】
従って、本発明の課題は、分離方法工程において水溶液の濃縮が実施されず、アンモニウム塩の熱分解、並びに形成されたアンモニア及び水溶液からの遊離水の取り出しが、1つの方法工程において、共留剤として有機溶剤の添加なしに生じうる、遊離ヒドロキシカルボン酸を、それらのアンモニウム塩の水溶液から得るための方法を提供することであった。
【0013】
驚くべきことに、ヒドロキシカルボン酸が、アンモニウム塩の含有率が60質量%未満である、それらのアンモニウム塩の水溶液の熱塩分解によって、共留剤として有機溶剤又は不活性ガス使用することなしに、同時に少なくとも一部分の遊離水及び得られたアンモニアを取り除くことができる水溶液の加熱によって得られうることが見出されている。
【0014】
本発明の課題は、従って、一般式
【化5】

[式中、R1、R2及びR3は、互いに独立してH、OH、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルキル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルケニル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルコキシ、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルキルチオ−(C1〜C6)−アルキル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C6〜C10)−アリール、場合によりヒドロキシル基で置換された(C7〜C12)−アラルキル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C3〜C5)−ヘテロアリール(ただし少なくとも1つのヒドロキシル基が少なくとも1つの残基R1、R2及びR3中に含まれる)]のアンモニウムカルボキシレートからの、ヒドロキシカルボン酸の、有利にはα−及びβ−ヒドロキシカルボン酸の製造方法であって、
次の工程:
アンモニウムカルボキシレートを含有する出発水溶液を加熱し、その際、アンモニウムカルボキシレートの熱分解によって、ヒドロキシカルボン酸及びアンモニアが生じ、そして同時にその溶液から少なくとも部分的に遊離水及び生じたアンモニアを取り除き、そしてそれによりヒドロキシカルボン酸を含有する生成物留分を得ることを含む製造方法において、
出発溶液中のアンモニウム塩の含有率が60質量%未満であり、アンモニウム塩の熱分解及び遊離水及び生じたアンモニアの1つの方法工程における除去を実施し、その際アンモニウム塩の反応が、20mol%より多く、有利には30mol%より多く、特に50mol%より多く、特に有利には75mol%より多く、極めて特に有利には90mol%より多く、及び殊に95mol%より多く、共留剤としてエーテル、アルコール又は炭化水素を使用しないことを特徴とする製造方法である。
【0015】
有利には、さらに熱塩分解の出発溶液の濃縮を実施しない。
【0016】
α−ヒドロキシカルボン酸、例えばグリコール酸(R1=R2=H;R3=OH)、乳酸(R1=CH3;R2=H;R3=OH)、クエン酸(R1=R2=CH2COOH;R3=OH)、酒石酸(R1=CHOHCOOH;R2=H;R3=OH)、2−ヒドロキシイソ酪酸(R1=R2=CH3;R3=OH)、2−ヒドロキシ−2−フェニルプロパン酸(R1=CH3;R2=Ph;R3=OH)及び4−メチルチオ酪酸(R1=CH2CH2SCH3;R2=H;R3=OH)の製造方法の使用が特に有利であり、2−ヒドロキシイソ酪酸が特に有利であり、かつβ−ヒドロキシカルボン酸、例えば3−ヒドロキシプロピオン酸(R1=CH2OH;R2=H;R3=H)、3−ヒドロキシ酪酸(R1=CH2OHCH3;R2=H;R3=H)、3−ヒドロキシ吉草酸(R1=CH2OHCH2CH3;R2=H;R3=H)、3−ヒドロキシヘキサン酸(R1=CH2OHCH2CH2CH3;R2=H;R3=H)、3−ヒドロキシヘプタン酸(R1=CH2OHCH2CH2CH2CH3;R2=H;R3=H)、3−ヒドロキシオクタン酸(R1=CH2OHCH2CH2CH2CH2CH3;R2=H;R3=H)及び3−ヒドロキシイソ酪酸(R1=CH2OH;R2=CH3;R3=H)の製造のために、特に3−ヒドロキシイソ酪酸が好ましい。
【0017】
本発明の記載内容において、"遊離水"は、主に形成されたヒドロキシカルボン酸のポリ−ヒドロキシカルボン酸への凝縮によって形成されるべき水と対照的に、溶剤として使用される水溶液中での水を意味する。本発明の1つの利点は、他の方法と対照的に、ヒドロキシカルボン酸のアンモニウム塩は、熱塩分解の場合に、まず大きい部分を(低分子の)ポリ−ヒドロキシカルボン酸に転化せず、遊離ヒドロキシカルボン酸は、分離方法工程において加水分解によってのみ得られることである。
【0018】
加熱方法は、使用される装置/プラントに依存し、かつ例えば温浴、温度調節可能な反応器ジャケットで、又は出発溶液と加熱されたガス流との接触によって実施される。有利には、装置を短い滞留時間及び大きい表面、例えば薄膜蒸発器、短期間蒸発器、流下薄膜蒸発器で使用される。前記温度は、使用される圧力に依存して、熱塩分解を生じ、かつ副生成物、例えばカルボン酸アミドの形成が最小にされるように選択される。有利には、同時に遊離水の少なくとも一部及び反応の間に得られたアンモニアを蒸留する。適した温度範囲及び圧力範囲は、当業者によって決定され、同様に、必要な熱処理の持続を、例えば形成されたアンモニアの量、又は反応溶液の温度経過の監視によって決定されうる。
【0019】
特定の一実施態様において、反応溶液の温度は、70〜300℃、有利には80〜250℃、特に100〜220℃、及び特に有利には120〜200℃である。
【0020】
さらに有利な一実施態様において、アンモニアを含有する出発水溶液の加熱を、減圧で実施する。減圧は、この場合、本発明の意味において、1×105Pa未満、有利には0.9×105Pa未満、及び特に有利には0.8×105Pa未満、及び殊に0.7×105Pa未満の圧力を意味する。
【0021】
有利には、圧力、温度及び装置の組合せが、反応装置での出発水溶液の短い滞留時間を達するように選択される。
【0022】
本発明の意味における共留剤は、水、もしくは熱塩分解の場合に生じた構成成分を有する共沸混合物である有機溶剤、又は形成されたアンモニア及び/又は水蒸気(キャリヤーガス)の放出のために使用される有機溶剤の不活性ガスもしくは蒸気である。有利には本発明の意味において、有機溶剤又は有機アミンは、共留剤又は抽出剤として使用されない。有利には、さらに、アンモニア及び水の除去のために、共留剤として不活性ガスは使用されない。
【0023】
有利な一実施態様において、それに反して、キャリヤーガスとして空気を使用することができる。
【0024】
出発溶液中でのアンモニウム塩の濃縮は、有利な一実施態様において、50質量%未満、有利には30質量%未満、特に20質量%未満、及び特に有利には15質量%未満である。
【0025】
出発水溶液として、発酵培養液又は酵素反応の反応溶液が、ヒドロキシカルボン酸のアンモニウム溶液の製造のために使用され、場合により本発明に夜方法における使用の前に部分的に精製されうる。発酵培養液の部分的な精製のための方法は当業者に公知であり、かつ例えば、細胞材料の分離のための濾過又は遠心分離を含む。この場合、出発溶液は、発酵プロセスの結果、微量の有機溶剤が得られるが、しかし有機溶剤は、共留剤又は抽出剤として有機溶剤に添加されない。本発明の意味において、微量の有機溶剤として、可能な場合に発酵プロセスにおいて副産物として得られた有機溶剤(例えばエタノール)が示され、誘発における割合は、アンモニウムカルボキシレートの物質量に対して、10mol%未満、有利には5mol%未満、特に有利には2mol%未満、及び殊に1mol%未満である。
【0026】
さらに、出発溶液は、他の源から、例えばポリマー、例えばポリラクチドの分解によっても得られる。
【0027】
本発明の他の重要な態様は、ヒドロキシカルボン酸の一部分が、生成物留分中で、ヒドロキシカルボン酸誘導体の全質量に対して、25mol%未満、有利には15mol%未満、特に7.5mol%未満、及び特に有利には1mol%未満であることである。ヒドロキシカルボン酸誘導体は、本発明の意味において、遊離ヒドロキシカルボン酸、遊離オリゴヒドロキシカルボン酸及び遊離ポリヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸のアンモニウム塩、及びヒドロキシカルボン酸アミドである。
【0028】
好ましい一実施態様において、全体のプロセスの間(すなわち、出発溶液において、熱塩分解の間の反応用駅及び得られた生成物留分)のアンモニウム塩の含有率は、60質量%未満、有利には50質量%未満、より有利には30質量%未満、特に20質量%未満、及び特に有利には15質量%未満である。R1、R2及びR3が互いに異なり、かつCOOHではない場合に、得られた有利ヒドロキシカルボン酸のエピマー化の割合は、使用したアンモニウムカルボキシレートの鏡像異性体過剰率に対して、40%未満、有利には25%未満、より有利には10%未満、及び特に有利には5%未満である。
【0029】
得られた生成物留分は、さらなる精製なしに転化生成物に転化されうる。本発明の意味において、例えばα−及びβ−ヒドロキシカルボン酸のアクリル酸誘導体への脱水が有利であり、一般式(II)のヒドロキシカルボン酸は、α−ヒドロキシカルボン酸の場合に、R1=(C1〜C6)−アルキル又は(C7〜C12)−アラルキル及びR2=H、(C1〜C6)−アルキル又は(C7〜C12)−アラルキル、R3=OHであり、β−ヒドロキシカルボン酸の場合に、R1=(C1〜C6)−アルキル−OH又は(C7〜C12)−アラルキル−OH、並びにR2及びR3は、同一又は異なり、かつそれぞれ独立してH、(C1〜C6)−アルキル又は(C7〜C12)−アラルキルである。α−及びβ−ヒドロキシカルボン酸をアクリル酸誘導体に脱水するための方法の系列は、陶業者に高知であり、それらは、例えば、PCT/EP2007/055394、US 3,666,805及びUS 5,223,394に記載されている。
【0030】
本発明による方法は、さらに、ヒドロキシカルボン酸の生成物留分からの精製及び分離のための1つ以上の続く工程を含んでよい。適した方法工程は、濃縮、結晶化、イオン交換クロマトグラフィー、電気分解、抽出、並びに反応性を用いて及び不活性溶剤を用いて、並びにヒドロキシカルボン酸の適したアルコールでのエステル化による精製、続いて得られたエステルの上流及びエステルの遊離酸への加水分解、並びにこれらの工程の組合せを含む。生成物留分中に存在する副生成物は、熱塩分解において形成された遊離ヒドロキシカルボン酸の分離前又は分離後に取り除かれ、又は例えばヒドロキシカルボン酸アミド及びオリゴカルボン酸もしくはポリヒドロキシカルボン酸の酵素的又は化学的加水分解によって、ヒドロキシカルボン酸に転化される。生成物留分が、熱塩分解のために出発溶液よりも著しく少ないアンモニウム塩及び水を含有するために、これらの続く任意の方法工程において要求される化学物質の量及び得られた廃棄物(例えば酸性処理の場合に鉱物塩)の量は、事前に本発明による方方によって熱的に処理されていない出発溶液からの精製及び分離の場合により著しく低い。
【0031】
実施例
実施例1:本発明によるアンモニウム−2−ヒドロキシイソ酪酸の熱分解
洗浄ビンを介して真空ポンプに連結したリービッヒ冷却器を備えた丸底フラスコ中に、約11質量%アンモニウム−2−ヒドロキシイソブチレート水溶液(A−2HIBA)の20.53gを挿入した。撹拌しながら、その溶液を、140℃に調節された油浴中で加熱し、そして減圧(p=0.5×105Pa)で、遊離水を、同時に熱塩分解しながら蒸留した。蒸留中に、丸底フラスコ中の質量を2.86gに減らした。180分後に、その反応を終了した。そのアンモニア濃度を、ケルダール分析によって測定した。最初に供給されたアンモニアの質量の約49%(0.32g)を、丸底フラスコ中で計り直した。残りのアンモニアを、蒸留物及び洗浄瓶中で検出することができた。HPLC解析によって、2−ヒドロキシイソ酪酸の濃度(遊離酸として及び塩として)を、丸底フラスコ中で測定した。これから、化学量論的考察によって、該遊離酸と該塩との比を測定した。試験の開始前に供給された2−ヒドロキシイソ酪酸の約48mol%は塩として、及び約51mol%は遊離酸としてであった。アミドを、微量のみ検出することができた。反応率及び遊離酸の収率は、約51mol%であった。
【0032】
実施例2:本発明によるアンモニウム−2−ヒドロキシイソ酪酸の熱分解
洗浄ビンを介して真空ポンプに連結したリービッヒ冷却器を備えた丸底フラスコ中に、約11質量%アンモニウム−2−ヒドロキシイソブチレート水溶液(A−2HIBA)の20.03gを挿入した。撹拌しながら、その溶液を、160℃に調節された油浴中で加熱し、そして減圧(p=0.8×105Pa)で、遊離水を、同時に熱塩分解しながら蒸留した。蒸留中に、丸底フラスコ中の質量を2.51gに減らした。180分後に、その反応を終了した。そのアンモニア濃度を、ケルダール分析によって測定した。最初に供給されたアンモニアの質量の約44%(0.32g)を、丸底フラスコ中で計り直した。残りのアンモニアを、蒸留物及び洗浄瓶中で測定することができた。HPLC解析によって、2−HIBSの濃度(遊離酸として及び塩として)を、丸底フラスコ中で測定した。このことから、化学量論的考察によって、該遊離酸と該塩との比を測定した。試験の開始前に供給された2−HIBSの約42mol%は塩として、及び遊離酸として約51mol%であった。試験の開始前に供給されたアンモニウム2−ヒドロキシイソ酪酸約5mol%が反応して、望ましくないアミドを得た。供給された塩の反応は、この試験において、約56mol%であり、その際遊離酸収率は約51mol%であった。
【0033】
実施例3:本発明ではない、濃縮されたアンモニウム−2−ヒドロキシイソ酪酸の熱分解
濃縮されたアンモニウム−2−ヒドロキシイソ酪酸溶液を、2−ヒドロキシイソ酪酸(2−HIBS)、アンモニウムヒドロキシド及び水の秤量によって製造した。これに加えて、2−ヒドロキシイソ酪酸約35.9g、アンモニウムヒドロキシド21.6g及び水6.1gを、ビーカ中で、連続的に撹拌しながら一緒に混合した。これを7.5のpH値に調整した。この溶液は、アンモニウム−2−ヒドロキシイソ酪酸溶液約65質量%に相当する。
【0034】
次の工程は、WO 00/59847の反応蒸発に基づく:この溶液の約10.8gを、丸底フラスコ中に導入し、そして油浴中で加熱した。該油浴中の温度を、180℃に調整し、そして一定に保った。リービッヒ冷却器を介して、洗浄瓶及び真空ポンプを接続した。そのシステムの圧力を、0.05×105Paに調整し、そして一定に保った。その試験を、10分後に中止し、そして残った溶液を丸底フラスコ中で、HPLCによって解析した。これらの反応条件の場合に、アミドの有効量が形成されたことを示した。解析された2−ヒドロキシイソ酪酸の約9%(遊離酸として、塩として、及びアミドとして)は、アミドとして存在した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】

[式中、R1、R2及びR3は、互いに独立してH、OH、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルキル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルケニル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルコキシ、場合によりヒドロキシル基で置換された(C1〜C6)−アルキルチオ−(C1〜C6)−アルキル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C6〜C10)−アリール、場合によりヒドロキシル基で置換された(C7〜C12)−アラルキル、場合によりヒドロキシル基で置換された(C3〜C5)−ヘテロアリール(ただし少なくとも1つのヒドロキシル基が少なくとも1つの残基R1、R2及びR3中に含まれる)]のアンモニウムカルボキシレートからの、ヒドロキシカルボン酸の、有利にはα−及びβ−ヒドロキシカルボン酸の製造方法であって、
次の工程:
アンモニウムカルボキシレートを含有する出発水溶液を加熱し、その際、アンモニウムカルボキシレートの熱分解によって、ヒドロキシカルボン酸及びアンモニアが生じ、そして同時に前記溶液から少なくとも一部の遊離水及び生じたアンモニアを取り除き、そしてそれによりヒドロキシカルボン酸を含有する生成物留分を得ることを含む製造方法において、
出発溶液中のアンモニウム塩の含有率が60質量%未満であり、アンモニウム塩の熱分解及び遊離水及び生じたアンモニアの1つの方法工程における除去を実施し、その際アンモニウム塩の反応が、20mol%より多く、共留剤としてエーテル、アルコール又は炭化水素を使用しないことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記反応溶液の温度が、70〜300℃であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アンモニウムカルボキシレートを含有する出発水溶液の加熱を減圧下で実施することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
共留剤として有機溶剤を使用しないことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アンモニア及び水の除去のために、共留剤として不活性ガスを使用しないことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アンモニウム塩の出発溶液中の濃度が、50質量%未満であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
出発水溶液が、場合により事前に部分的に精製されてよい、ヒドロキシカルボン酸−アンモニウム塩を製造するための発酵培養液又は酵素反応の反応溶液であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記出発溶液が、発酵プロセスの結果微量の有機溶剤を含有してよいが、しかし共留剤として有機溶剤を添加しない、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
生成物留分中のヒドロキシカルボン酸アミドの割合が、ヒドロキシカルボン酸誘導体の全質量に対して、25mol%未満であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記アンモニウム塩の含有率が、全体の方法の間、60質量%未満であることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
1、R2及びR3が互いに異なり、かつCOOHではない場合に、エピマー化の程度が50%未満であることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
得られた生成物留分が、他の精製なしに、反応生成物に、有利にはアクリル酸誘導体に転化されることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、さらに、前記生成物留分からのヒドロキシカルボン酸の精製及び分離のための1つ以上の続く方法工程を含有してよいことを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−528000(P2011−528000A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517829(P2011−517829)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056402
【国際公開番号】WO2010/006834
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】