説明

アーク溶接ロボットの制御方法

【課題】 溶接開始位置で確実にアークスタートできるアーク溶接ロボットの制御方法を提供する。
【解決手段】 ワイヤ切断又は逆インチング処理によってワイヤの長さを溶接時のワイヤの突き出し長さよりも短くした後(ステップS1)、溶接トーチをアークスタート位置まで移動させ(ステップS2)、ワイヤにセンシング電圧を印加してワークに対してインチング操作をし(ステップS3)、インチング中にワークとの導通を検出した場合は(ステップS4)、ワイヤがワークから離れた後、所定の長さワイヤを逆センシングし、その後、アークをスタートさせる(ステップS5)。インチング中にワークとの導通が検出できなかった場合であって、アークスタート検索回数に満たない場合には(ステップS6)、所定距離トーチを引き上げワイヤを逆インチングし(ステップS8)、アークスタート位置をXYZ方向にシフトした後(ステップS9)、導通検出を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアーク溶接ロボットにおける溶接開始点におけるアークの発生を制御するアーク溶接ロボットの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接ロボットの制御方法に関する従来技術として、例えば特開平7−185816号公報(特許文献1)、特開平9−174240号公報(特許文献2)、特開2003−181642号公報(特許文献3)があげられる。
【0003】
特許文献1の従来技術は、アークスタート時にアークの発生確率を高め、これによってアーク溶接ロボットの自動化率を高めることを目的としてなされたものであり、トーチを溶接開始点に位置させ、アークスタート指令信号を出力した後、アークが発生したか否かを検出し、アークの発生が検出された場合には溶接作業に移行し、アークの発生が検出されなかった場合にはアークスタート指令信号を停止し、トーチから突出したワイヤを溶接リトライ開始点までの移動軌跡上で移動させてからアークスタート指令信号を出力し、その後、トーチを前記移動軌跡上を溶接開始点まで復帰させてからアークが発生したか否かを検出し、アークの発生が検出された場合はそのまま溶接作業に移行するものである。
【0004】
また、特許文献2の従来技術は、アーク発生のリトライ時における溶接ワイヤの曲がりを有効に防止してエラー停止回数を低減することを目的としてなされたものであり、溶接トーチを溶接開始点に位置させてアークスタート信号を出力してアーク発生を試み、アーク発生が検出されたか否かを判別する。アークが発生が検出された場合には溶接作業に移行し、アーク発生が検出されない場合にはリトライ工程に移行する。リトライ工程においては、アークスタート信号を停止し、送り出された溶接ワイヤを引き戻した後、溶接トーチを溶接リトライ開始点に移動させ、溶接リトライ開始点でアークスタート信号を出力してアーク発生を試み、その後アーク発生が検出されたか否かを判別する。アーク発生が検出されない場合には所定の回数までこのリトライ工程を繰り返し、アーク発生が検出された場合には溶接開始点位置にアークを保ちながら戻り、溶接開始点から溶接線に沿って溶接作業を行うものである。
【0005】
更に、特許文献3の従来技術は、チップ側の溶断した溶接ワイヤがチップに融着するバーンバックを未然に防止することを目的としてなされたものであり、溶接ワイヤを所定突き出し長さに保持した溶接トーチにより被溶接部材の溶接継手の溶接開始位置を検出し、この検出した溶接開始位置に前記溶接トーチを位置決めし、溶接ワイヤを逆送給して溶接ワイヤの先端を前記溶接開始位置から離間させた後、前記溶接ワイヤと前記被溶接部材とに所定の溶接電力を供給してアークスタートするものである。
【0006】
【特許文献1】特開平7−185816号公報
【特許文献2】特開平9−174240号公報
【特許文献3】特開2003−181642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には、アークスタート失敗に起因するビードの外観が悪化し易いという問題点がある。即ちアークスタートの失敗にはアークが全く出ない場合と、一度アークが出て途切れる場合とがあり、上記従来技術では、一度出たアークが途切れる場合があり、このような場合に、一度出たアークにより溶着金属が堆積するためビードの外観が悪化するという問題点がある。
【0008】
また、上記従来技術は、いずれもアークスタート処理を行わないとアークスタートできるかどうか分からないので、例えば溶接ロボット2台を同期させながら溶接を行う溶接方法への適用が難しいという問題点がある。
【0009】
即ち、コラム及びパイプのようなワークを回転させながら溶接を行うシステムにおいて、2継手を2台の溶接ロボットを同期させながら溶接する場合、ポジショナ同期溶接のタイミングを同じにする必要があるので、2つの継手を同じ時間で溶接する必要がある。この場合、一方の溶接ロボットがアークスタートできないと、他方の溶接ロボットは仮にアークスタートできても溶接を中断しなければならず、連続運転性が低下すると共に、アークがスタートした側の溶接開始点に溶着金属が溜まるという不都合が生じる。このとき付いたビードは不必要な溶接金属であり、やり直しスタートしたときの外観不良の原因となる。従って、アークスタート処理を行わないとアークスタートできるかどうか分からない上記従来技術は溶接ロボット2台を同期させながら溶接する溶接方法に適用することは困難である。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、溶接開始前にアーク発生の可不可を確認し、溶接開始位置で確実にアークをスタートすることができビード外観の悪化を防止すると共に、2台の溶接ロボットを同期させながら溶接する溶接方法にも十分適用することができるアーク溶接ロボットの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るアーク溶接ロボットの制御方法は、溶接開始位置で、センシング電圧を印加した溶接ワイヤをワークに対してインチング操作により進出させ、前記溶接ワイヤの先端部が母材と接触した際の短絡を検出して前記溶接ワイヤと母材との通電性を確認した後、前記溶接開始位置で前記溶接ワイヤに所定の溶接電力を供給し、アークを点火して溶接を開始することを特徴とする。
【0012】
この場合において、2台の溶接ロボットを使用し、溶接開始位置で夫々前記溶接ワイヤと前記ワークとの通電性を確認した後、前記2台の溶接ロボットの前記溶接開始位置で同時に前記溶接ワイヤに夫々所定の溶接電力を供給し、アークを点火して同一ワークの異なる継手を前記2台の溶接ロボットで同時に溶接することが好ましい。
【0013】
また、この場合において、前記インチング操作を所定のワイヤ長さ又は所定時間行っても前記溶接ワイヤと前記母材との通電性を確認できない場合、溶接トーチ及び/又は溶接ワイヤを引き上げ、前記溶接開始位置とは異なる位置に前記溶接ワイヤを移動させた後、インチング操作により前記溶接ワイヤを進出させて前記溶接ワイヤと前記母材との通電性確認操作を行い、前記溶接ワイヤと前記母材との通電性を確認した後、通電性を確認した位置で前記溶接ワイヤに所定の溶接電力を供給し、アークを点火して溶接を開始することが好ましい。
【0014】
この場合において、前記溶接開始位置とは異なる位置における前記溶接ワイヤと前記母材との通電性確認操作を通電が確認されるまで又は予め決定した所定回数繰り返すことが好ましい。
【0015】
また、この場合において、前記センシング操作時の溶接ワイヤの溶接トーチからの突き出し長さを、溶接時のワイヤ突き出し長さよりも短くすることが好ましい。
【0016】
更に、この場合において、前記溶接ワイヤと母材との通電性を確認した後、前記溶接ワイヤが前記ワークから離れるまで逆方向にインチング操作し、さらに所定長さだけ前記溶接ワイヤを逆方向にインチング処理した後、アークを点火して溶接を開始することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本願発明に係るアーク溶接ロボットの制御方法によれば、溶接開始前にアークスタートできることを確認できるので、アークの不発生を防止して連続運転性を向上させることができる。また、アーク発生後にアークが途切れることによるビード形状の悪化を防止することができる。
【0018】
本願の請求項2に係るアーク溶接ロボットの制御方法によれば、2台の溶接ロボットを使用し、溶接開始位置で夫々前記溶接ワイヤと前記ワークとの通電性を確認した後、前記2台の溶接ロボットの前記溶接開始位置で前記溶接ワイヤに夫々所定の溶接電力を供給し、アークを点火して同一ワークの異なる継手を前記2台の溶接ロボットで同時に溶接するようにしたので、溶接効率が向上し、生産時間を短縮することができる。
【0019】
本願の請求項3に係るアーク溶接ロボットの制御方法によれば、インチング操作を所定のワイヤ長さ又は所定時間行っても前記溶接ワイヤと前記母材との通電性を確認できない場合、溶接トーチを引き上げ、前記溶接開始位置とは異なる位置に前記溶接ワイヤを移動させた後、インチング操作により前記溶接ワイヤを進出させて前記溶接ワイヤと前記母材との通電性確認操作を行い、前記溶接ワイヤと前記母材との通電性を確認した後、通電性を確認した位置で前記溶接ワイヤに所定の溶接電力を供給し、アークを点火して溶接を開始するので、溶接開始時のアーク不発生を高い確率で防止することができる。
【0020】
本願の請求項4に係るアーク溶接ロボットの制御方法によれば、前記溶接開始位置とは異なる位置における前記溶接ワイヤと前記母材との通電性確認操作を通電が確認されるまで又は予め決定した所定回数繰り返すので、溶接開始時のアーク不発生をより高い確率で防止することができる。
【0021】
本願の請求項5に係るアーク溶接ロボットの制御方法によれば、センシング操作時の溶接ワイヤの溶接トーチからの突き出し長さを、溶接時のワイヤ突き出し長さよりも短くするので、通電確認操作時における溶接ワイヤの曲がり、変形を防止することができる。
【0022】
本願の請求項6に係るアーク溶接ロボットの制御方法によれば、溶接ワイヤと母材との通電性を確認した後、前記溶接ワイヤがワークから離れるまで逆方向にインチング操作し、さらに所定長さだけ前記溶接ワイヤを逆方向にインチング処理した後、アークを点火して溶接を開始するので、バーンバックの発生を抑制してスムーズにアークスタートすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明の実施形態に係るアーク溶接ロボットの制御方法に使用する装置を示すブロック図、図2は溶接ロボットを示す説明図、図3は溶接により組み立てようとするコラム柱を示す斜視図である。
【0024】
図1において、2基の溶接ロボット本体10がロボット制御装置14により制御される。この溶接ロボットの溶接トーチ11には、ワイヤ送給装置12により溶接ワイヤが送給され、この溶接ワイヤはトーチ11からワークの溶接部に向けて供給される。このワイヤの送給は、ワイヤ送給装置12により駆動され、ワイヤ送給装置12は溶接電源装置13に格納された送給モータ制御装置13aにより制御される。また、溶接電源装置13から溶接トーチ11に対して溶接電流値及び溶接電圧値の電源が供給され、溶接トーチ11を通過するワイヤに電源が供給される。
【0025】
2つの溶接ロボット本体10、各ロボット本体10の首先端に設けた溶接トーチ11及びワークへ溶接電力を供給する外部装置の溶接電源13は、夫々ロボット制御装置14により制御される。一方のロボット制御装置14には、例えば溶接するワークの姿勢を制御するポジショナ20が接続されている。また、2つのロボット制御装置14は各溶接ロボット本体10の位置制御及びインターロックのために通信ケーブルで接続されている。
【0026】
ロボット制御装置14は、演算処理装置17を中心として、入力装置15、記憶装置18、ロボット本体制御装置16及び外部制御装置19が設けられている。演算処理装置17は入力装置15から入力されたデータを基に、このデータを記憶装置18に記憶したり、記憶装置18から読み出したデータを基に演算して、外部制御装置19及びロボット本体制御装置16に制御信号を出力する。ロボット制御装置14は、送給モータ制御装置13aに制御信号を出力して、ワイヤの送給速度を制御する。また、一方のロボット制御装置14はワークの姿勢を調節するポジショナ本体20を制御する。
【0027】
溶接ロボットは、例えば、6軸の垂直多関節型のもので、先端アームの手首部先端に溶接トーチが設けられている。この溶接ロボットは、教示ペンダントである教示作業入力装置による教示作業に基づく動作と、その教示作業によって作成された教示プログラム実行データに基づく動作とを行う。
【0028】
ポジショナ本体20は、例えば、鉄骨柱であるワークの2箇所を支持する両持1軸のものである。ポジショナ本体20の支持駆動部材にはワークを保持するワーククランプ部があり、このワーククランプ部によってワークが保持される。ポジショナ本体20はロボット制御装置からの指令により、ロボット本体に対してワークが適性な溶接姿勢となるように前記ワークを回転駆動させる。
【0029】
図2において、このロボット溶接装置には、2基(1対)のポジショナ31、32と、2基の溶接ロボット33、34が設けられている。ポジショナ31と32との間に溶接ロボット33が配置され、溶接ロボット34は、ポジショナ32を挟んで溶接ロボット33と対向する位置に配置されている。
【0030】
溶接ロボット33、34は、夫々レール50上を走行する移動台車35に搭載されており、各台車35上には、溶接ワイヤの貯留容器37と電源装置42とが設けられている。台車35のレール50に直交する方向の一端部には、夫々アーム40及び41が設置されている。アーム40の先端部にはトーチ38が設けられており、ワイヤ貯留容器37内にコイル状に巻回されて貯留された溶接ワイヤ39が巻き解かれてコンジットチューブ36を介してトーチ38に供給され、トーチ38を通過して溶接部に供給される。溶接電源装置42はケーブル43によりトーチ38に接続されており、トーチ38を介して溶接ワイヤ39に溶接電力を供給するようになっている。
【0031】
ポジショナ31、32は、台44に対して回転部45が回転可能に設置されている。この回転部45は中央部が矩形に切り欠かれた形状を有し、この中央切欠部には、少なくとも1対の対向する辺に、ワークを固定する固定具46が設けられている。
【0032】
図3はワークである鉄骨コラム柱を示す斜視図である。図3において、鉄骨コラム柱51は予め仮溶接して組み立てられている。このような鉄骨コラム柱51を固定具46により、ポジショナの回転部45に固定する(図2参照)。1対のポジショナ31、32は鉄骨コラム柱51の長手方向に見てその切欠部が整合する(重なる)位置に設けられており、各ポジショナ31、32により鉄骨コラム柱51を挟持したときには、各コラム53の中心軸が一致するように、固定具46が調節される。
【0033】
鉄骨コラム柱51のコラム53をポジショナ31、32により2箇所で挟持して支持し、コラム53の端面とコラムコア54のダイヤフラム55との間の4つの溶接線52を溶接する。この場合に、コラム53の端部(又は横断面)は、4辺の直線部と、4個のコーナ部とから構成され、このコーナ部は、適宜の半径で湾曲している。従って、コラム53の端部とダイヤフラム55の表面との間の溶接線52は、このコラム53の端部の外縁に沿って、4辺の直線部と4個のコーナ部とから構成されるものとなる。
【0034】
図3において、溶接対象である鉄骨コラム柱51はコラムコア54のコラム部の4側面に仕口を溶接接合し、コラム53をコラムコア54のダイヤフラム55に垂直に溶接接合することによって組み立てられる。従って、コラム53とコラムコア54のダイヤフラム55との接合線が溶接線となり、この溶接線が、例えば10パスの多重盛溶接される。この鉄骨コラム柱51の溶接継手は6箇所であり、例えば10パスの多層盛り溶接を行う場合、全溶接時間は約10時間になる。
【0035】
以下、上述の如く構成された本実施形態のロボット溶接装置によってアークスタート位置で溶接ワイヤとワークとの通電性を確認した後溶接を開始するアーク溶接ロボットの動作について説明する。
【0036】
図4は本発明に係るアーク溶接ロボット制御方法の動作フロー図であり、図5及び図6は夫々その補助図であって、図5は通電確認処理フローの補助図、図6は通電確認リトライ処理(多層盛溶接で、2パス以降のイメージ)の補助図である。
【0037】
また表1に、本実施形態に係るアーク溶接ロボットの制御方法におけるパラメータを示す。パラメータは、例えば導通箇所探索回数、導通箇所探索ワイヤ最大送給量、導通箇所探索トーチ引き上げ量、導通箇所探索リトライ距離、導通箇所探索リトライピッチ及び導通箇所探索完了後のワイヤ送給量である。
【0038】
【表1】

【0039】
図4乃至図6において、先ず図5(a)に示したような初期状態の溶接トーチをアークスタート位置であるダイヤフラム1とコラム2との接合部であって裏当金3が配置された開先部に到達させる前に、図5(b)に示したように、ワイヤの切断又はワイヤの逆インチング操作によってトーチ先端部のワイヤの突き出し長さを溶接時のワイヤ突き出し長さよりも短くする(ステップS1)。なお、図5(a)において、開先角度はθで、ルートギャップはdで表される。
【0040】
次ぎに、図5(c)に示したように、トーチ先端部のワイヤの長さを溶接時のワイヤ突き出し長さよりも短くしたトーチをアークスタート位置に移動させ(ステップS2)、この状態で、ワイヤの先端部にセンシング電圧を印加してワイヤインチング操作を行う(ステップS3)。
【0041】
次ぎに、ワイヤのインチング中に溶接ワイヤとワークとの通電を検知した場合又は最大ワイヤインチング量、例えば20mmに達した場合であって(ステップS4)、図5(d)に示したように、センシング電圧が低下することによって通電を検出し、これによって溶接開始位置が検出できた場合、図5(e)に示したように、前記溶接ワイヤがワークから離れてセンシング電圧が上昇するまで逆方向にインチング操作し、その後、更に図5(f)に示すように、所定長さ、例えば5mmだけワイヤを逆方向インチング操作してアークスタート性を向上させた後、アークをスタートして溶接を開始する(ステップS5)。
【0042】
ワイヤのインチング操作中に溶接ワイヤとワークとの通電を検知できず又は最大ワイヤインチング量、例えば20mmまで達しない場合であって(ステップS4)、所定のアークスタート可能位置検索回数、例えば3回を超えた場合は(ステップS6)、アークスタート開始位置を検出できなかったとしてエラー処理へ移行する(ステップS7)。
【0043】
一方、ワイヤのインチング操作中に溶接ワイヤとワークとの通電を検知ない場合であって(ステップS4)、所定のアークスタート可能位置検索回数、例えば3回に満たない場合は(ステップS6)、図6(a)に示したように、所定距離、例えば5mmだけトーチを引き上げ、溶接ワイヤを逆方向に例えば15mmインチング操作し、図6(b)に示したように、XYZ方向のアークスタート位置を基準とした位置にトーチを引き上げる(ステップS8)。次ぎに、図6(c)示したように、XYZ方向に所定距離シフトした前記溶接開始位置とは異なる位置、例えば溶接線進行方向のシフト量を0mm、溶接線左右シフト量を壁から1mm離れる位置まで移動し(ステップS9)、この位置で図6(d)に示したように、再度センシング電圧を印加して通電性確認操作を実施する(ステップS3)。図6(e)に示したように、これによっても溶接ワイヤとワークとの導通を検出できなかった場合は、再度所定長さだけワイヤを逆方向にインチング操作し(ステップS8)、その後、図6(f)に示したように、同様にワイヤの引き上げ処理を行い、通電が検出されるまで又は予め設定した所定回数この通電性確認操作を繰り返す(ステップS9)。なお、溶接開始位置とは異なる位置とは、前記溶接開始位置の近傍であって溶接開始位置以外の位置をいい、この位置から溶接を開始しても差し支えない位置をいう。
【0044】
このような溶接ワイヤとワークとの通電性確認操作が2台の溶接ロボット33及び34で別々に行われ、溶接ワイヤとワークとの通電性を確認した後、2台の溶接ロボット33及び34で同時にアークを点火し、2台の溶接ロボット33及び34を同期させながら溶接を開始し、各溶接継手に対してアーク溶接が行われる。なお、この場合、一方のトーチが点火できることを確認した後、他方のトーチの点火可能の確認を待って、両方のトーチで同時にアークを点火して溶接をスタートさせる。
【0045】
図3の鉄骨コラム柱において、溶接線が直線である部分については、図7(a)の期間に示すように、ポジショナ31、32は静止したままで、溶接ロボット33、34のアーム40、41を動かして、軌跡1にて示すように、トーチ38を水平方向に移動させる。これにより、溶接線の直線部を溶接ワイヤ39により溶接する。
【0046】
一方、コーナ部については、図7(b)乃至(e)に示すように、ポジショナ31、32によりコラム及びダイヤフラムをコラムの中心軸の周りに回転(自転)させつつ、トーチ38を軌跡2乃至10まで経由して円弧状に移動させる。これにより、コーナ部が溶接ワイヤ39により溶接され、次順位の直線部の溶接に移る。なお、鉄骨コラムのロボット溶接では例えば裏当金方式レ型開先T継手の各パイプの周を連続して溶接するものである。この継手はルートギャップの変動、コーナ半径のばらつきがあり、同じ板厚/径であっても溶接金属量が異なるために、溶接条件を変える必要がある。
【0047】
本実施形態においては、各継手に対して例えば10パスの多層盛り溶接が行われる。鉄骨柱51の溶接継手は6箇所であることから、10パスの多層盛り溶接により60箇所の溶接線が溶接される。多層盛り溶接を行う場合、その積層方法によりリトライ処理を行う方法は異なるが、図8に示したように、各パス毎にその方向を変えることで、よりアーク発生可能位置の検出が容易となり、また、その検出までの距離を最短にすることによってアークスタート可能位置の検出時間を短縮することができる。
【0048】
例えば、図8に示したような多層盛り溶接を行う場合、1、2、3パスは1層1パスの溶接であることから、立て板であるダイヤフラム1側、開先側のいずれの方向にもリトライ処理を行うことができるが、ワークとトーチとの干渉を避けるため、開先側へリトライ方向を設定する。4パス目以降は振分パスであることから、先に溶接したビードの上にはスラグが堆積していることが予想されるので、4、6、8、10パスについては立て板側へリトライ方向を設定し、5、7、9パスについては開先側へリトライ方向を設定する。これによって、アーク発生可能位置の検出が容易となる。
【0049】
本実施形態によれば、溶接開始前にアークスタートできる位置を確認し、アークの不発生を防止することにより、バーンバックを防止し、例えば6継手に対する10パスの多層盛り溶接であっても、溶接を途中で中断することなく、安定した連続溶接を行うことができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、2台のロボットによる同時溶接において、アークスタートの確率が向上するので、アーク発生の失敗による溶接作業の停止を防止することができ、2台の溶接ロボットを同時にスタートさせ、同期させながら1つのワークの異なる継手を同時に溶接することができる。従って、溶接時間を約1/2に短縮することができる。なお、シングルトーチの溶接ロボットを使用した場合にも、アークスタートの失敗をなくして良好な溶接が可能となる。
【0051】
鉄骨コラム柱のように継手が多く、多層盛り溶接を行う場合、主として夜間無人運転によって行われる。例えば、作業者が夕方帰宅時に溶接ロボットによる無人溶接運転をスタートさせ、次ぎの日の朝出勤する迄の十数時間の間に所定の溶接作業を終わらせようとする夜間運転が行われる。この場合、1回でもアークスタートを失敗すると自動運転が停止するが、本実施形態では、アーク不発生を確実に防止できるので、夜間の無人運転であっても途中で中止することなく、指定した多層盛り溶接を確実に行うことができる。近時、溶接ロボットの操業時間に占める夜間運転時間の比率が以前よりも増大しており、それだけ夜間無人運転の重要性が向上しているが、本実施形態のアーク溶接ロボット制御方法を適用することにより、その要望に十分応えることができる。
【0052】
本実施形態に係るアーク溶接ロボット制御方法は、アークスタート時だけでなく、何らかの理由で溶接作業が中止した後、再スタートする場合にも適用することができる。ワイヤの種類を変化させた場合等においては、スラグののり等が変化するので、本実施形態に係るアーク溶接ロボット制御方法は、特に有用である。
【0053】
本実施形態においては、センシング電圧を印加した溶接ワイヤをワークに対して所定のワイヤ長さ又は所定時間インチング操作を行っても前記溶接ワイヤと母材との通電性を確認できなかった場合、溶接トーチを引き上げ、溶接ワイヤを逆方法にインチングした後、前記溶接ワイヤを溶接開始位置とは異なる位置に移動させて再度通電確認操作を行う場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、溶接トーチの引き上げ又は溶接ワイヤの逆方向へのインチングのいずれか一方の操作を行った後、前記溶接ワイヤを溶接開始位置とは異なる位置に移動させて再度通電確認操作を行うようにしてもよい。また、溶接ワイヤの逆方向への移動(引き上げ)は必ずしもインチングによるものでなくても良い。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係るアーク溶接ロボット制御方法は、溶接開始前にアークスタートできることを確認することができるので、アークの不発生を確実に防止することができ、自動溶接の分野、特に2台の溶接ロボットを同期させる無人自動溶接の分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態で使用する装置のブロック図である。
【図2】本発明の実施形態で適用する溶接ロボットを示す説明図である。
【図3】本実施形態で組み立てられるコラム柱を示す斜視図である。
【図4】本発明に係るアーク溶接ロボット制御方法の動作フロー図である。
【図5】通電確認処理における動作フロー補助図である。
【図6】通電確認リトライ処理における動作フロー補助図である。
【図7】直線部と円弧部の溶接ワイヤ先端の軌跡を示す図である。
【図8】多層盛り溶接におけるアークスタート時のリトライ処理方向を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1:ダイヤフラム
2:コラム
3:裏当金
10:溶接ロボット
11:溶接トーチ
12:ワイヤ送給装置
13:溶接電源装置
13a:送給モータ制御装置
14:ロボット制御装置
15:入力装置
16:ロボット本体制御装置
17:演算処理装置
18:記憶装置
19:外部制御装置
20:ポジショナ本体
31、32:ポジショナ
33、34:溶接ロボット
35:台車
36:コンジェットチューブ
37:溶接ワイヤ貯留容器
38:トーチ
39:溶接ワイヤ
40、41:アーム
42:電源装置
43:ケーブル
44:台
45:回転部
46:固定具
50:レール
51:鉄骨コラム柱
52:溶接線
53:コラム
54:コラムコア
55:ダイヤフラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接開始位置で、センシング電圧を印加した溶接ワイヤをワークに対してインチング操作により進出させ、前記溶接ワイヤの先端部が母材と接触した際の短絡を検出して前記溶接ワイヤと母材との通電性を確認した後、前記溶接開始位置で前記溶接ワイヤに所定の溶接電力を供給し、アークを点火して溶接を開始することを特徴とするアーク溶接ロボットの制御方法。
【請求項2】
2台の溶接ロボットを使用し、溶接開始位置で夫々前記溶接ワイヤと前記ワークとの通電性を確認した後、前記2台の溶接ロボットの前記溶接開始位置で同時に前記溶接ワイヤに夫々所定の溶接電力を供給し、アークを点火して同一ワークの異なる継手を前記2台の溶接ロボットで同時に溶接することを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接ロボットの制御方法。
【請求項3】
前記インチング操作を所定のワイヤ長さ又は所定時間行っても前記溶接ワイヤと前記母材との通電性を確認できない場合、溶接トーチ及び/又は溶接ワイヤを引き上げ、前記溶接開始位置とは異なる位置に前記溶接ワイヤを移動させた後、インチング操作により前記溶接ワイヤを進出させて前記溶接ワイヤと前記母材との通電性確認操作を行い、前記溶接ワイヤと前記母材との通電性を確認した後、通電性を確認した位置で前記溶接ワイヤに所定の溶接電力を供給し、アークを点火して溶接を開始することを特徴とする請求項1又は2に記載のアーク溶接ロボットの制御方法。
【請求項4】
前記溶接開始位置とは異なる位置における前記溶接ワイヤと前記母材との通電性確認操作を通電が確認されるまで又は予め決定した所定回数繰り返すことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアーク溶接ロボットの制御方法。
【請求項5】
前記センシング操作時の溶接ワイヤの溶接トーチからの突き出し長さを、溶接時のワイヤ突き出し長さよりも短くすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアーク溶接ロボットの制御方法。
【請求項6】
前記溶接ワイヤと母材との通電性を確認した後、前記溶接ワイヤが前記ワークから離れるまで逆方向にインチング操作し、さらに所定長さだけ前記溶接ワイヤを逆方向にインチング処理した後、アークを点火して溶接を開始することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアーク溶接ロボットの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−136925(P2006−136925A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329168(P2004−329168)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)