説明

アースフック

【課題】絶縁棒を鉄塔に固定し、且つ絶縁棒先端のフックを電線等に係止した状態で、電線等からフックに振動、衝撃が加わった場合であっても、振動、衝撃を吸収緩和してフックが電線等から離脱することを防止する。
【解決手段】絶縁棒2と、絶縁棒の先端に一端を固定されたコイルバネ10と、コイルバネを介して絶縁棒と相対回動可能に連結された先端部材20と、先端部材によって開放姿勢と閉止姿勢との間を開閉自在に支持されたフック部材30と、絶縁棒と先端部材との相対回動を阻止、或いは許容するロック機構50と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アースフックと呼ばれる送電線作業保護具の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
送電線を停電状態にした上で鉄塔上において行われる保守、点検作業は、アースフックと呼ばれる送電線作業保護具(乙種アース)を用いて送電線を接地させつつ実施される。アースフックを取り付けた状態で作業を行うことにより、万が一停電している筈の送電線に電流が流れた場合における作業員の安全確保が可能となる。
アースフックは、エポキシパイプ等からなる絶縁棒(操作棒)と、絶縁棒の先端に開閉自在に軸支された金属製のフック部材と、操作手段を操作することによってフック部材を開閉させる開閉機構と、フック部材に接続された接地金具付きアース線と、を備えている(特許文献1)。
【0003】
また、前記操作手段として、フック部材に対して絶縁棒を正逆方向へ回動させることによって開閉機構を作動させる構成を備えたものが市販されている。
アースフックによる接地作業においては、フック部材を鉄塔の腕金に取り付けられた碍子周辺の電線、或いは金具に係止し、絶縁棒を鉄塔のアース部材にワイヤ等によって固縛した上で、フック部材と電気的に接続されたアースリードを鉄塔のアース部材に接続しておく。フック部材を電線等に係止する際には絶縁棒を開放方向に回動することによって開放させたフックを電線等に引っ掛けてから絶縁棒を閉止方向へ回動してフック部材を閉じる操作を行う。開閉機構は、人間による手動操作によって絶縁棒を回動させることによってフック部材を開放したり閉止したり、開放状態、或いは閉止状態にロックするように構成されており、ロック状態ではフック部材に対して絶縁棒は回転しない。このため、フック部材が閉止した状態で、電線側からフックを押し広げる過大な力が加わった場合にはフック部材が電線から脱落する虞がある。
【0004】
例えば、フック部材を電線に係止した状態では、鉄塔に固定された絶縁棒とフック部材とは相対回転しないように開閉機構がロックされているため、風や、接地された電線上に作業員が乗った時の振動、衝撃によってフック部材が振動したりよじれると、その応力がフック部材と電線との接触部に集中し易く、閉止状態にあるフック部材を開放する方向への力が加わって電線からフック部材が離脱する虞がある。
保守、点検作業中にフック部材が電線や金具から脱落すると、万が一送電線に通電があった場合に重大事故に繋がる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−035305公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように従来のアースフックにあっては、フック部材を電線等に係止した状態では、鉄塔に固定された絶縁棒とフック部材とが相対回転しないようにロックされるため、フック部材を電線等に係止し且つ絶縁棒を鉄塔側に固定した状態で、電線等に振動、衝撃が加わった場合、フック部材が電線から脱落して重大事故に繋がる可能性があった。
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、絶縁棒を鉄塔に固定し、且つ絶縁棒先端のフック部材を電線等に係止した状態で、電線等からフック部材に振動、衝撃が加わった場合であっても、振動、衝撃を吸収緩和してフック部材が電線等から離脱することを防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、絶縁棒と、該絶縁棒の先端に一端を固定されたコイルバネと、該コイルバネを介して前記絶縁棒と相対回動可能に連結された先端部材と、該先端部材によって開放姿勢と閉止姿勢との間を開閉自在に支持されたフック部材と、前記絶縁棒と前記先端部材との相対回動を阻止、或いは許容するロック機構と、を備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、前記先端部材は、金属パイプからなるケーシングと、該ケーシング内に相対回転可能に配置された軸部材と、該軸部材に連接され且つケーシングに内蔵されて前記フック部材を開放、或いは閉止させる開閉機構と、を備え、前記開閉機構は、前記ケーシングの内部に軸方向へ進退可能に配置された雌螺子部材と、前記軸部材に一体化され、前記雌螺子部材に螺合して回転することにより該雌螺子部材を軸方向へ進退させる螺子棒と、該雌螺子部材に一体化され該雌螺子部材が軸方向へ進退する際に前記フック部材を開閉させる作用部材と、を備えることを特徴とする。
請求項3の発明は、前記フック部材を開放方向、或いは閉止方向へ付勢する弾性部材を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、絶縁棒と、フック部材を開閉自在に軸支した先端部材との間にコイルバネを配置したことによって、アースフックを電線(金具)と鉄塔との間に差し渡して固定した際に、フック部材(先端部材)と絶縁棒との間に加わる捻れ方向、或いは折れ方向への応力をコイルバネによって緩衝し、フック部材が電線等から離脱することを防止できる。
更に、コイルバネが常時有効に作用していると、絶縁棒を回転させることによって開閉機構を動作させることができなくなるため、先端部材と絶縁棒とを固定したり固定解除することにより、両部材の相対回動を任意の時に阻止できるようにした。従って、アースフックのフック部材を電線等に係止するためにフック部材を開閉させる場合や、電線に係止されていたフック部材を電線から取り外すためにフック部材を開放させる場合には、先端部材と絶縁棒とを固定状態にロックしてコイルバネを無効にすることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係るアースフック(送電線作業保護具)の全体構成(ロック解除状態)を示す説明図であり、(b)は絶縁棒と先端部材とのロック状態を示す要部構成図であり、(c)はロック機構の構成を示す斜視図である。
【図2】(a)(b)及び(c)はフック部材の開放状態を示すアースフックの要部(開閉機構)の拡大図、右側面図、及び左側面図である。
【図3】(a)(b)及び(c)はフック部材の閉止状態を示すアースフックの要部(開閉機構)の拡大図、右側面図、及び左側面図である。
【図4】は本発明のアースフックを鉄塔と碍子との間に取り付けた状態を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1(a)は本発明の一実施形態に係るアースフック(送電線作業保護具)の全体構成(ロック解除状態)を示す説明図であり、(b)は絶縁棒と先端部材とのロック状態を示す要部構成図であり、(c)はロック機構の構成を示す斜視図である。また、図2(a)(b)及び(c)はフック部材の開放状態を示すアースフックの要部(開閉機構)の拡大断面図、右側面図、及び左側面図であり、図3(a)(b)及び(c)はフック部材の閉止状態を示すアースフックの要部(開閉機構)の拡大断面図、右側面図、及び左側面図であり、図4は本発明のアースフックを鉄塔と碍子との間に取り付けた状態を示す略図である。
【0011】
アースフック1は、基端部にグリップ部(被固定部)3を有したエポキシパイプ等の絶縁材料から成る絶縁棒2と、絶縁棒2の先端に一端を固定されたコイルバネ10と、コイルバネ10を介して絶縁棒先端と相対回動可能に連結された先端部材20と、先端部材20に設けた軸部(ボルト)21によって開放姿勢(図2)と閉止姿勢(図3)との間を開閉自在に支持された金属製のフック部材30と、絶縁棒2と先端部材20とを接離自在に連結して両者の相対回動を阻止、或いは許容するロック機構50と、先端部材20に一端を電気的に接続された接地用リード線60と、を備えている。
先端部材20は、金属パイプからなるケーシング22と、ケーシング22内に相対回転可能に配置された軸部材25と、軸部材25に連接され且つケーシング22に内蔵されてフック部材30を開放、或いは閉止させる開閉機構40と、を備える。
軸部材25は、後端部25aをコイルバネ10の先端開口からその内部に突出させると共に、軸部材25にはコイルバネの先端部が固定されている。また、絶縁棒2の先端部2aはコイルバネの後端開口からその内部に突出させると共に、コイルバネの後端部が固定されている。軸部材25の後端部25aと絶縁棒の先端部2aには、両部をロック(相対回動不能に固定)したりロック解除するためのロック機構50が設けられている。また、軸部材25は、その外周に周方向に形成された周溝26を有し、ケーシング22に設けたガイド部材23を周溝26内に嵌合させることによりケーシング22に対して軸方向移動不能に支持されると共に、ガイド部材23に沿って軸部材25が相対回転可能に構成されている。
【0012】
開閉機構40は、ケーシング22の内部に軸方向へ進退可能に配置された雌螺子部材42と、軸部材25の先端部に一体的、且つ同一軸心状に連接され、雌螺子部材42に螺合して回転することにより雌螺子部材を軸方向へ進退させる螺子棒44と、雌螺子部材42に一体化され雌螺子部材が軸方向へ進退する際にフック部材30を開閉させる作用部材46と、フック部材30を開放方向、或いは閉止方向(本実施形態では開放方向)へ付勢する図示しない弾性部材(例えば、トーションバネ)と、を備え、ロック機構50によって絶縁棒2と軸部材25とが一体化されている時に絶縁棒2の正逆回転力が螺子棒44に確実に伝達されて螺子棒を正逆回転させるように構成されている。換言すれば、ロック機構50が絶縁棒2と軸部材25を離間させている時には、絶縁棒と軸部材とはコイルバネ10を介して連結されているため、絶縁棒からの回転力はコイルバネを介して軸部材25に伝達されることとなる。
雌螺子部材42は、ケーシング22の内周に沿って軸方向へ進退自在に配置されたパイプであり、その内周には螺子棒44の雄螺子部と螺合する雌螺子部を有する。螺子棒44は、ガイド部材23によって回転可能、且つケーシングに対して軸方向へ移動不能に支持されているため、絶縁棒を操作することにより螺子棒44が図2(a)に示した正転方向(閉止方向)に回転するときに雌螺子部材42はケーシング22内を先端方向へ移動する。雌螺子部材42の先端側に一体化された作用部材46は、その肩部46aでフック部材30の被作用部31を押圧した時にフック部材を閉止方向へ付勢する。
一方、螺子棒44が図3(a)に示した逆転方向(開放方向)へ回転する時に雌螺子部材42はケーシング22内を後方へ移動する。このとき雌螺子部材42の先端側に一体化された作用部材46の肩部46aが後方へ退避するため、フック部材を開放方向へ常時付勢する前記弾性部材の力が開放されてフック部材を開放方向へ動作させる。
【0013】
ロック機構50は、軸部材25の後端部25aと絶縁棒の先端部2aとをロック(一体化)したりロック解除するための手段であり、本例では、軸部材のパイプ状の後端部25aの端縁に形成された略L字状のスリット52と、絶縁棒先端部2aに設けられて軸部材後端部25aの後端開口内に嵌合する小径の嵌合部54と、嵌合部54の外周から外径方向へ突設されてスリット52内に係合する係合ピン56と、を有する。スリット52は、軸方向へ延びる部位52aと、周方向へ延びる部位52bと、更に軸方向へ屈曲した部位52cとからなる。
図1(c)のようにコイルバネ10に抗して絶縁棒先端部の嵌合部54を軸部材後端部25aの開口内に押し込むと共に、係合ピン56をスリット52内に入れ込んで終端部52cまで移動させることにより、コイルバネの力により抜け落ちしなくなる。このロック状態において、先端部材20に対して絶縁棒2を正逆回動させることにより、開閉機構40が作動してフック部材30を開閉動作させることができる。
また、軸部材後端部25aと絶縁棒先端部2aとを離間させた非ロック状態において、先端部材20に対して絶縁棒2を正逆回動させると、コイルバネ10の弾発力の範囲内では軸部材後端部25aに対して回転トルクが伝達されて開閉機構40が作動してフック部材30を開閉動作させることができるが、弾発力を越えた大きなトルクが加わるとコイルバネ10は捻れ変形して緩衝するため、絶縁棒からのトルクが軸部材後端部25aにそのまま伝わらない。
【0014】
以上の構成を備えたアースフック1を鉄塔に設置する場合には、図4に示した様に、絶縁棒2の後端部をロープ等によって鉄塔の腕金100に固縛する一方で、フック部材を碍子102端部の金具104(或いは、電線106)に係止し、更に接地用リード線60を鉄塔の図示しないアース部材に接続する。
フック部材30は、先端部材20に対して絶縁棒2を正逆回動させることによって、軸部21を中心として開閉動作する。フック部材の開閉操作は、ロック機構50によって絶縁棒2を軸部材25にロックした状態で行う。
図2のようにフック部材30が開放している時に、フック部材と先端部材20との間の間隙に電線106を入れ込み、この状態で絶縁棒2を図2(a)に示した正転方向へ回動させる。すると、雌螺子部材42が先端方向へ移動して作用部材46の肩部46aがフック部材30の被作用部31を閉止方向へ押圧し、図示のように開放位置にあるフック部材30を弾性部材に抗して閉止方向へ回動させることができ、図3のようにフック部材30と先端部材のケーシング22との間で電線を係止することができる。
フック部材30を閉止して電線を係止した状態で絶縁棒の端部を腕金100に固縛し、その後、ロック機構50をロック解除状態とすることによりコイルバネ10が有効となり、緩衝作用を発揮することができる。従って、電線等からフック部材30に対して種々の応力が加わった場合に、コイルバネ10が緩衝作用を発揮して先端部材20と絶縁棒2との相対動作が自由になり、フック部材と電線との間に過大な負荷が集中してもフック部材が電線から離脱することを防止できることとなる。
【0015】
一方、点検、保守作業が終了してアースフックを取り外す場合には、図3のように閉止状態にあるフック部材30を開放して電線などから離脱させ、且つ鉄塔に固縛されていた絶縁棒の端部を取り外せばよい。フック部材を開放する場合には、ロック機構50をロック状態に以降させた状態で開放のための操作を行う。開放操作では、絶縁棒2を逆転方向へ回動させることにより雌螺子部材42が後方へ移動するため、肩部46が被作用部31から離脱する方向へ移動して弾性部材が解放され、フック部材30が弾性部材の力により開放方向へ回動する。このため、フック部材を電線から容易に離脱させることが可能となる。
【0016】
このように本発明では、絶縁棒と、フック部材を開閉自在に軸支した先端部材との間にコイルバネを配置したことによって、アースフックを電線(金具)と鉄塔との間に差し渡して固定した際に、フック部材(先端部材)と絶縁棒との間に加わる捻れ方向、或いは折れ方向への応力をコイルバネによって緩衝し、フック部材が電線等から離脱することを防止できる。
更に、コイルバネが常時有効に作用していると、絶縁棒を回転させることによって開閉機構を動作させることができなくなるため、先端部材と絶縁棒とを固定したり固定解除することにより、両部材の相対回動を任意の時に阻止できるようにした。従って、アースフックのフック部材を電線等に係止するためにフック部材を開閉させる場合や、電線に係止されていたフック部材を電線から取り外すためにフック部材を開放させる場合には、先端部材と絶縁棒とを固定状態にロックしてコイルバネを無効にすることとなる。
なお、ロック機構としては、絶縁棒と先端部材とを任意にロックしたりロック解除できればどのような構造であってもよく、図1に示した構造に限定する趣旨ではない。
また、フック部材を開放方向、或いは閉止方向に付勢する弾性部材は必須ではなく、絶縁棒を正逆回動させることによって得られる回転トルクのみによってフック部材を開閉させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0017】
1…アースフック、2…絶縁棒、2a…先端部、3…グリップ部(被固定部)、10…コイルバネ、20…先端部材、21…軸部、22…ケーシング、23…ガイド部材、25…軸部材、25a…後端部、26…周溝、30…フック部材、40…開閉機構、42…雌螺子部材、44…螺子棒、46…作用部材、46a…肩部、50…ロック機構、52…スリット、54…嵌合部、56…係合ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁棒と、該絶縁棒の先端に一端を固定されたコイルバネと、該コイルバネを介して前記絶縁棒と相対回動可能に連結された先端部材と、該先端部材によって開放姿勢と閉止姿勢との間を開閉自在に支持されたフック部材と、前記絶縁棒と前記先端部材との相対回動を阻止、或いは許容するロック機構と、を備えたことを特徴とするアースフック。
【請求項2】
前記先端部材は、金属パイプからなるケーシングと、該ケーシング内に相対回転可能に配置された軸部材と、該軸部材に連接され且つケーシングに内蔵されて前記フック部材を開放、或いは閉止させる開閉機構と、を備え、
前記開閉機構は、前記ケーシングの内部に軸方向へ進退可能に配置された雌螺子部材と、前記軸部材に一体化され、前記雌螺子部材に螺合して回転することにより該雌螺子部材を軸方向へ進退させる螺子棒と、該雌螺子部材に一体化され該雌螺子部材が軸方向へ進退する際に前記フック部材を開閉させる作用部材と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のアースフック。
【請求項3】
前記フック部材を開放方向、或いは閉止方向へ付勢する弾性部材を備えたことを特徴とする請求項2に記載のアースフック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−39679(P2012−39679A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174636(P2010−174636)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)