説明

イオン交換デバイス及びそのイオン交換物質の再生方法

電気化学デバイス(10)は電気化学セル(11)を含んでいる。電気化学セルは、導電性基板及びこの導電性基板と物理的に接触しているカチオン交換物質を含む複合カチオン交換部材(12)、導電性基板及びこの導電性基板と物理的に接触しているアニオン交換物質を含む複合アニオン交換部材(14)、並びに複合カチオン交換部材と複合アニオン交換部材との間のコンパートメント(16)を含んでなる。コンパートメントは、供給流を導入するための入口、及び出力流がコンパートメントから出て行くための出口を構成している。電気化学デバイスは、再生段階で、複合カチオン交換部材上の導電性基板が電子を失い、複合アニオン交換部材上の導電性基板が電子を獲得するように、複合カチオン交換部材及び複合アニオン交換部材に電流を送るように構成されたコントロールデバイスを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、一般にイオン交換技術に関し、より特定的には、イオン交換物質を利用するイオン交換デバイス及びイオン交換物質の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、高純度水の製造、廃水の脱イオン化、又は軟水化において、溶液中に溶解している固体、イオン又はその他の荷電種を除去又は交換するためにイオン交換物質が使用される。イオン交換物質は、通例、2種の型、すなわちカチオン交換物質とアニオン交換物質を含み、これら両方の型は一般に、交換可能なイオンを含むか、又は溶液中の特定のイオンと化学的に反応する固体又はゲルである。
【0003】
イオン交換物質が元の溶液から抽出されたイオンで飽和すると、そのイオン交換物質はもはやイオン交換機能を果たすことができないか、又はイオン交換の効率が低くなる。従って、イオン交換物質を再生して、抽出されたイオンをイオン交換物質から除去する必要がある。イオン交換物質を再生するための1つの従来法は、カチオン交換物質の場合は酸性溶液又は濃縮塩溶液(例えば、飽和塩化ナトリウム溶液)を、またアニオン交換物質の場合は塩基性溶液を使用して、抽出されたイオンを交換する濯ぎ工程を有する化学的方法である。しかし、イオン交換物質の完全な再生のためには、酸性溶液及び塩基性溶液が通常過剰のイオンを含み、そのため廃棄酸又は廃棄塩基が生成し、これは有害な廃棄物であると考えられ、環境へ排出する前に追加の処理を必要とする。イオン交換物質の別の伝統的な再生方法は、DC電流の下で水をH+とOH-に分割した後、このH+とOH-によってイオン交換物質を再生する電気化学的方法である。上記化学的方法について述べたのと同様に、完全な再生のためには、生成するH+とOH-が一般に過剰であり、結果として廃棄酸又は廃棄塩基が生成する。加えて、電気分解又は水分割プロセスは、電気化学的な水の分割の効率が低いためにかなりの電気を消費する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5954937号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一言でいうと、従来のイオン交換樹脂再生方法は効率的ではなく、費用がかかる。かかる従来のアセンブリ及び方法とは異なるイオン交換デバイス及び再生方法があれば望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様は電気化学デバイスを開示する。この電気化学デバイスは電気化学セルを含む。この電気化学セルは、導電性基板及びこの導電性基板と物理的に接触しているカチオン交換物質を含む複合カチオン交換部材、導電性基板及びこの導電性基板と物理的に接触しているアニオン交換物質を含む複合アニオン交換部材、並びに複合カチオン交換部材と複合アニオン交換部材との間のコンパートメントを含んでいる。このコンパートメントは、供給流を導入するための入口、及び出力流がコンパートメントから出て行くための出口を含んでいる。電気化学デバイスは、再生段階において、複合カチオン交換部材上の導電性基板が電子を失い、複合アニオン交換部材上の導電性基板が電子を獲得するように、複合カチオン交換部材及び複合アニオン交換部材に電流を送るように構成されたコントロールデバイスを含んでいる。
【0007】
本発明の別の態様は電気化学アセンブリを開示する。この電気化学アセンブリは、ケーシング、及びこのケーシング内に並列に配置された複数の複合イオン交換部材を含んでいる。これら複数の複合イオン交換部材は、あらゆる隣接する2つの複合イオン交換部材間に複数のコンパートメントを画定し、2つのコンパートメントの間に少なくとも1つの二極性複合部材を含んでいる。この二極性部材は、少なくとも1つの導電性基板、1つの面上のカチオン交換物質、及び他の面上のアニオン交換物質を含んでいる。電気化学アセンブリは、さらに、再生段階において、二極性複合部材のカチオン交換面上の導電性基板が電子を失い、二極性複合部材のアニオン交換面上の導電性基板が電子を獲得するように、電流を送るように構成されたコントロールデバイスを含んでいる。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、正又は負に帯電し負又は正の化学種を吸収したイオン交換物質の再生方法を開示する。この再生方法は、イオン交換物質を大表面積の導電性基板に接合し、その大表面積の導電性基板に電流を流し、大表面積の導電性基板へ、又はそこから電子を流れさせて、吸収された化学種をイオン交換物質から溶液中に追い出すことを含んでいる。
【0009】
本発明のさらに別の態様は電気化学プロセスを開示する。この電気化学プロセスは脱イオン化段階と再生段階を含んでいる。脱イオン化段階は、供給流をコンパートメント中に導入し、溶解しているカチオン又はアニオンをイオン交換物質上に吸収させ、希薄流をコンパートメントから流出させることを含んでいる。再生段階は、イオン交換物質を導電性基板に物理的に接触させ、電流を導電性基板に流し、導電性基板に電子を失わせてイオン交換物質上に吸収されたアニオンを追い出すか、又は導電性基板に電子を獲得させてイオン交換物質上に吸収されたカチオンを追い出すことを含んでいる。
【0010】
添付の図面を通じて、類似の符号は類似の部分を表す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイスを示す。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る脱イオン化段階における図1の電気化学デバイスの一部分Aの拡大図を示す。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る再生段階における図1の電気化学デバイスの前記一部分Aの拡大図を示す。
【図4】図4は、カチオン交換物質の再生のための代表的な構成を示す。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイスを示す。
【図6】図6は、本発明の別の実施形態に係る電気化学デバイスを示す。
【図7】図7は、本発明の一実施形態に係る二極性複合部材の拡大図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、電気化学デバイス及びイオン交換物質を利用する電気化学デバイスに関する実施形態を含む。本発明は、イオン交換物質の再生方法に関する実施形態を含む。
【0013】
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る電気化学デバイス10は電気化学セル11を含んでいる。電気化学セル11は、複合カチオン交換部材12、複合アニオン交換部材14、及びこれら複合カチオン交換部材12と複合アニオン交換部材14との間のコンパートメント16を含んでいる。電気化学デバイス10は、複合カチオン交換部材12と複合アニオン交換部材14に電流を送るように作動可能な電源18を含むコントロールデバイス17を含んでいる。一実施形態では、コンパートメント16は、イオン種を含有する供給流22をコンパートメント16内に導入するための入口20と、出力流26がコンパートメント16から出て行くための出口24とを有する。幾つかの実施形態では、出力流26は、脱イオン化段階においては希薄流であり、再生段階においては濃縮溶液であり、これについては以下で詳細に述べる。幾つかの実施形態では、コントロールデバイス17はさらにスイッチ又はリレー28を含んでおり、これは一実施形態では複合カチオン交換部材12及び複合アニオン交換部材14と電源18との接続及び切断を制御する二方向スイッチである。
【0014】
一実施形態では、複合カチオン交換部材12と複合アニオン交換部材14は平面状である。別の実施形態では、複合カチオン交換部材12と複合アニオン交換部材14は円筒状である。再生段階において、複合カチオン交換部材12及び複合アニオン交換部材14はそれぞれ電源18の正の端子及び負の端子と電気的に結合する。脱イオン化段階においては、二方向スイッチ28が電源18と複合カチオン交換部材12及び複合アニオン交換部材14との接続を切断し、複合カチオン交換部材12と複合アニオン交換部材14とを短絡させる。他の実施形態では、脱イオン化率はカチオン交換部材12とアニオン交換部材14との間の電流を抵抗器又はその他の電気的方法により制御することによってさらに制御される。
【0015】
図2及び3は、それぞれ、図1の電気化学デバイス10の一部分Aの拡大図であり、それぞれ本発明の一実施形態に従う脱イオン化段階及び再生段階における複合カチオン交換部材12及び複合アニオン交換部材14をより詳細に示す。代表的な複合カチオン交換部材12は、電源18の正の端子に接続されて作動可能な導電性基板30、及び導電性基板30と物理的に接触しているカチオン交換物質32を有する。幾つかの実施形態では、代表的な複合アニオン交換部材14は、電源18の負の端子に接続されて作動可能な導電性基板34、及び導電性基板34と物理的に接触しているアニオン交換物質36を有する。
【0016】
幾つかの実施形態では、導電性基板30及び34は各々が大きい表面積を有しており、一実施形態では多孔性電極である。幾つかの実施形態では、大表面積の電極30及び34は各々が導電性基材38と、この導電性基材38上の導電性の大表面積部分40とからなる。導電性基材38は、例えばプレート、メッシュ、フォイル、又はシートのようなあらゆる適切な金属構造体から形成され得る。また、導電性基材38は、例えばステンレス鋼、グラファイト、チタン、白金、イリジウム、ロジウム、又は導電性ポリマー 導電性酸化物又は導電性ポリマー/炭素複合材のような適切な導電性物質から形成され得る。さらに、これらの金属は被覆されていなくても被覆されていてもよい。1つのかかる例は白金で被覆されたステンレス鋼メッシュである。幾つかの実施形態では、1種以上の導電性ポリマーを導電性基材38として使用し得る。かかる導電性ポリマーの非限定例としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、及びこれらの組合せを挙げることができる。導電性酸化物の例はインジウムをドープした酸化スズ(ITO)、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO)、及びアルミニウムをドープした酸化亜鉛からなり得る。一実施形態では、導電性基材38はチタンメッシュである。他の実施形態では、基材38はステンレス鋼メッシュ、ポリオレフィン/グラファイト複合フィルム、グラファイトプレート、又はチタンプレートである。一実施形態では、導電性の大表面積部分40は大きい表面積を有する任意の導電性物質又は複合材から形成し得る。導電性の大表面積部分40のかかる物質の例としては、活性炭、炭素ナノチューブ、グラファイト、炭素繊維、炭素布、炭素エーロゲル、金属粉末、例えばニッケル、金属酸化物、例えば酸化ルテニウム、導電性ポリマー、及び以上のものの任意の混合物がある。
【0017】
図面には示してない別の実施形態では、導電性基板30、34は、例えばナノ−パターン化又はナノ−構造化された導電性物質からなり、導電性の大表面積部分40を形成するために微細な突起を有する。一実施形態では、導電性基板30、34は炭素ナノワイヤ又はナノチューブ(CNT)のパターン化されたアレイからなる。このCNTのパターン化されたアレイは、ナノチューブの化学的結合が全体的にsp2結合からなり、分子に独特な強度を付与するという事実に基づいて作成される。ナノチューブは互いに自然に整列して、Van der Waals力により互いに保持されるロープ様の形態になる。別の実施形態では、例えば高い圧力の下で、ナノチューブは互いに合体し、幾らかのsp2結合をsp3結合と置換し、従って強い無限の長さのワイヤを生成する可能性を生じる傾向がある。一実施形態では、ナノチューブは導電性基材38上で成長する。別の実施形態では、ナノチューブは、追加の導電性基材なしで作動することができるパターンに成長する。
【0018】
幾つかの実施形態では、カチオン交換物質32及びアニオン交換物質36は、脱イオン化段階において供給流中のイオン性化学種を吸収するか又はこれらと反応し、供給流22を脱イオン化して希薄流26とする、イオンを含有する固体、粉末、繊維、ゲルである。幾つかの実施形態では、カチオン及びアニオン交換物質はそれぞれ少なくとも0.1mequiv/gのイオン交換能を有する。より好ましくは、0.5mequiv/gより高いイオン交換能を有する。
【0019】
一実施形態では、カチオン交換物質32は弱酸性カチオン交換物質及び強酸性カチオン交換物質の少なくとも1種からなる。弱酸性カチオン交換物質は弱酸性官能基を有する無機又は有機物質である。弱酸性官能基の例はカルボン酸官能基、ホウ酸官能基又はリン酸官能基からなる。強酸性カチオン交換物質は強酸性官能基を含む無機又は有機物質である。強酸性基の例はスルホン酸官能基又は硫酸官能基からなる。一実施形態では、例えば、弱酸性カチオン交換物質と強酸性カチオン交換物質の組合せ、無機カチオン交換物質と有機カチオン交換物質の組合せといったように2種以上のイオン交換物質を組み合わせてもよい。
【0020】
一実施形態では、アニオン交換物質36は弱塩基性アニオン交換物質及び強塩基性アニオン交換物質の少なくとも1種を含む。弱塩基性アニオン交換物質は弱塩基性官能基を含有する無機又は有機の物質である。弱塩基性官能基の例は第一、第二、第三アミン官能基及びイミダゾリウム、グアニジニウム又はピリジウム官能基からなる。強塩基性アニオン交換物質は強塩基性官能基を含有する無機又は有機の物質である。強塩基性官能基の例は第四アンモニウム官能基からなる。幾つかの実施形態では、1種以上の導電性ポリマーをアニオン交換物質として使用してもよい。かかる導電性ポリマーの非限定例としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、及びこれらの組合せを挙げることができる。
【0021】
一実施形態では、複合カチオン交換部材12及び複合アニオン交換部材14を製造する方法は大表面積の電極30、34を製造することを含む。大表面積の電極を製造する方法は米国特許出願公開第2008/0057398号及び係属中の出願番号第11/947328に記載され例示されている。これらはいずれも本出願人に譲渡されており、その開示内容は援用により全体が本明細書の一部をなす。幾つかの実施形態では、出来上がった大表面積電極30及び34はそれぞれが複数の気孔を有する。一実施形態では、大表面積部分38の表面積は、窒素吸着BET法で測定して約100m2/g〜約5000m2/gの範囲であり得る。特定の実施形態では、大表面積部分38の表面積は約750m2/g〜約3000m2/gの範囲である。さらに特定の実施形態では、大表面積部分38の表面積は約1500m2/g〜約2500m2/gの範囲である。一実施形態では、気孔の平均直径は1ナノメートルより大きい。
【0022】
複合カチオン交換部材12及び複合アニオン交換部材14を製造する方法は、上記で形成された大表面積電極30及び34上/内にカチオン交換物質又はアニオン交換物質32を形成して大表面積部分40と物理的に接触させることを含んでいる。一実施形態では、この方法は、イオン交換モノマー、架橋剤及び適切な開始剤の混合物を形成し、この混合物を、例えば注入(キャスティング)、浸漬、スプレーコート、スクリーン印刷、又はスピンコートにより、大表面積部分40上/内に分散させることを含んでいる。アニオン交換モノマーの例としては、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド及びその他第四/第三アミノ基を含有する全てのモノマーがある。カチオン交換モノマーの例としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、4−スチレンスルホン酸ナトリウム塩及びその他スルホン酸又はカルボキシル基を含有する全てのモノマーがある。架橋剤の例としては、N、N−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート及びその他単官能性又は多官能性の二価結合(dibond)基を含有する全ての化学物質がある。開始剤の例としては、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル及びその他全てのアゾ又は過酸化物化学物質がある。
【0023】
一実施形態では、カチオン交換物質又はアニオン交換物質32及び36と大表面積部分40との接触界面は大表面積部分40の表面積の10パーセントより大きい。1つの特定の実施形態では、カチオン交換物質又はアニオン交換物質32及び36と大表面積部分40との接触界面は大表面積部分40の表面積の40パーセントより大きい。さらに特定の実施形態では、カチオン交換物質又はアニオン交換物質32及び36と大表面積部分40との接触界面は大表面積部分40の表面積の70パーセントより大きい。
【0024】
図2を参照して、脱イオン化段階においては、二方向スイッチ28が電源18と複合カチオン交換部材12及び複合アニオン交換部材14との接続を切断し、複合カチオン交換部材12と複合アニオン交換部材14の回路が短絡させられる。供給流22中のイオン化されたカチオンM+はカチオン交換物質32上に吸収され、供給流22中のイオン化されたアニオンX-はアニオン交換物質36上に吸収される。こうして、供給流22が脱イオン化されて、出口24を通ってコンパートメント16を出て行く希薄流26が生成する。
【0025】
図3を参照して、再生段階においては、二方向スイッチ28が電源18と複合カチオン交換部材12及び複合アニオン交換部材14とを接続し、複合カチオン交換部材12及び複合アニオン交換部材14をそれぞれ正極及び負極として充電する。電流の下で、複合カチオン交換部材12の導電性基板34は電子を失い、この電子は幽霊線の矢印で示した方向で複合アニオン交換部材14の導電性基板34に送られる。従って、アニオン交換物質36上に吸収されたアニオンX-がコンパートメント16内の溶液中に追い出され、カチオン交換物質32上に吸収されたカチオンM+がコンパートメント16内の溶液中に追い出される。再生段階の出力流26は比較的高い濃度のイオンを含む濃縮溶液である。
【0026】
一実施形態では、電源18は、複合カチオン交換部材12と複合アニオン交換部材14との間の電圧の差が0〜10Vであるように制御される。1つの特定の実施形態では、複合カチオン交換部材12と複合アニオン交換部材14との間の電圧の差は0〜5Vである。さらに別の1つの特定の実施形態では、複合カチオン交換部材12と複合アニオン交換部材14との間の電圧の差は0〜2Vである。
【0027】
一実施形態では、二方向スイッチ28が電源18と複合カチオン交換部材12及び複合アニオン交換部材14との接続を切断し、複合カチオン交換部材12と複合アニオン交換部材14との間の回路を短絡させると、電気化学デバイス10は脱イオン化段階に戻る。電圧の差により生じた電流が複合カチオン交換部材12から複合アニオン交換部材14に流れ、電子が複合アニオン交換部材14から複合カチオン交換部材12に流れる。従って、複合アニオン交換部材14上のより正に帯電した基が放出され、供給流22中のアニオン化学種を吸収し、複合カチオン交換部材12上のより負に帯電した基が放出され、カチオンを吸収する。
【0028】
上記再生方法は、作動対として複合カチオン交換部材12及び複合アニオン交換部材14の両方を使用する場合に限定されない。一実施形態では、別々のカチオン交換物質又はアニオン交換物質の再生方法は、イオン交換物質を大表面積の導電性基板と物理的に接触するように接合し、電力エネルギーを大表面積導電性基板に送って、電子を大表面積導電性基板から、又は大表面積導電性基板に送ることで、吸収されたイオンをカチオン交換物質又はアニオン交換物質から溶液中に追い出すことを含んでいる。図4に、カチオン交換物質32の再生のための代表的な構成を示す。カチオン交換物質32は導電性基板30の大表面積部分40に接合されている。カチオン交換物質32の再生中、電源18が電流を導電性基板30に送り、導電性基板から電子を引き出す。従って、カチオン交換物質32上に吸収されたカチオンM+が溶液中に追い出される。
【0029】
図5を参照すると、本発明の別の実施形態に係る電気化学デバイス42は、ケーシング44、各々が複合カチオン交換部材12及び複合アニオン交換部材14とその間のコンパートメント16を含む複数の電気化学セル11、並びにコントロールデバイス17を含んでいる。図示した実施形態では、異なるセル11のカチオン交換部材12は並列に接続され、異なるセル11のアニオン交換部材14は並列に接続されている。コントロールデバイス17は、各セル11に電流を送るように作動可能な電源を含んでおり、従ってカチオン交換部材12は再生段階において対応するアニオン交換部材14より高い電位を有する。図示した実施形態では、電気化学デバイス42はさらに、各々の2つの隣接するセル11間の複数の絶縁性フィルム46を含んでいる。
【0030】
図6に、本発明のさらに別の実施形態に係る電気化学デバイス50を示す。電気化学デバイス50は、ケーシング52内に支持された複数並んだ複合イオン交換部材12、14及び54、あらゆる2つの隣接する複合イオン交換部材12、14及び54間に画定された複数のコンパートメント60、並びに電源18を有する。各複合イオン交換部材12、14及び54は平面状であり、互いに実質的に平行に配置されている。ケーシング面に最も近い両方の最も外側のイオン交換部材は、それぞれ複合カチオン交換部材12と複合アニオン交換部材14であり、これらは電気化学デバイス10に関して記載したものと同様である。複合カチオン交換部材12及び複合アニオン交換部材14はそれぞれ電源18の正極及び負極に作動可能なように接続されている。
【0031】
図7を参照して、一実施形態では、2つのコンパートメント間の各複合イオン交換部材54は二極性複合部材である。二極性複合部材54は、少なくとも1つの導電性大表面積基板62、並びにそれぞれ少なくとも1つの導電性大表面積基板62の反対側にあるカチオン交換物質32及びアニオン交換物質36を有する。カチオン交換物質32は相対的に複合アニオン交換部材14に近接してコンパートメント60に隣接しており、アニオン交換物質36は相対的に複合カチオン交換部材12に近接してコンパートメント60に隣接している。一実施形態では、二極性複合部材54はさらに導電性大表面積基板62間又は内に導電性でイオン−不透過性の部材64を含んでいる。ここで「イオン−不透過性」とは実際に「イオンに対しても水に対しても不透過性である」ことを意味する。一実施形態では、導電性でイオン−不透過性の部材64はポリオレフィンとグラファイトの複合フィルムからなる。一実施形態では、二極性複合部材54は、1つの導電性でイオン−不透過性の部材64がカチオン交換部材とアニオン交換部材との間に密に挟まれた複合部品である。代わりの実施形態では、二極性複合部材54は一体的に作成される。
【0032】
図示した実施形態では、ケーシング52は複数の入口56と複数の出口58を有する。一実施形態では、これらの入口56の1つだけがコンパートメント60の1つに供給流22を導入し、コンパートメント60は1つのコンパートメント60の出口58が直列の別のコンパートメント60の入口56と連通するように相互に接続されていて、結果として供給流22が各コンパートメント60を通過する。1つの出口58だけが、脱イオン化段階においては希薄流であり再生段階においては濃縮溶液である出力流26を流出させる。従って、供給流22は複数のコンパートメント60によって非常にきれいに脱イオン化することができ、これは一実施形態では高純度水を製造するのに使用することができる。代わりの実施形態では、ケーシング52は、並列の対応するコンパートメント60中に供給流22をそれぞれ同時に導入するための複数の入口56、及び脱イオン化段階においては希薄流であり再生段階においては濃縮溶液である出力流26が出て行くための複数の出口58を有する。もう1つ別の実施形態では、電気化学システム50は、上記並列及び直列モードの組合せとして構成することができる。従って、この電気化学システム50は高い脱イオン化効率を有する。
【0033】
図6と7を参照して、電気化学システム50の脱イオン化段階において、1以上の供給流22がコンパートメント60を通って流れ、カチオン交換物質32が溶液中のカチオンM+を吸収し、アニオン交換物質36が溶液中のアニオンX-を吸収する。供給流22は脱イオン化され、希薄流26としてコンパートメントから出て行く。
【0034】
再生段階で、スイッチ28は電源18を制御して、最も外側の複合カチオン交換部材12と複合アニオン交換部材14に、複合カチオン交換部材12をカソードとして、複合アニオン交換部材14をアノードとして、電流を送る。図2を参照して述べたように、電流の下で、複合カチオン交換部材12は電子を失い、複合アニオン交換部材14は電子を獲得する。従って、複合カチオン交換部材12上に吸収されたカチオンM+と複合アニオン交換部材14上に吸収されたアニオンX-は溶液中に追い出される。同時に、カチオン交換物質32側の導電性大表面積基板62は電子を失い、アニオン交換物質36側の導電性大表面積基板62は電子を獲得する。電場の下でのこの種の電荷再分配により、二極性複合部材54内のカチオンとアニオンは溶液中に追い出される。従って、各複合二極性部材54のカチオン交換物質32とアニオン交換物質36の両方が再生される。脱イオン化段階では、導電性大表面積基板62が再生段階で確立された電荷再分配から回復し、電子がアニオン交換面からカチオン交換面に伝達される。この手段により、アニオン交換物質36内の正に帯電した基及びカチオン交換物質32内の負に帯電した基が放出され、それぞれアニオン及びカチオンを吸収する。
【0035】
単数形態は、文脈から明らかに他の意味を示さない限り複数形態を包含する。本明細書及び特許請求の範囲を通じて使用する概略の言葉は、関連する基本的機能に変化を生じることなく変化することが許容される量的表現を修飾するために適用され得る。従って、「約」のような用語によって修飾された値はその正確な値に限定されない。場合によって、概略の言葉はその値を測定するための機器の精度に対応し得る。同様に、「含まない(free)」は、ある用語と組み合わせて使用することができ、重要でない数又は微量を包含し得るが、それでも修飾された用語を含まないと考えられる。
【0036】
本明細書に記載した実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の要素に対応する要素を有する物品、システム及び方法の例である。本明細書の記載により、当業者は、特許請求の範囲に記載された本発明の要素に同様に対応する代わりの要素を有する実施形態を実施し使用することができる。従って、本発明の範囲は、特許請求の範囲の文言と異ならない物品、システム及び方法を包含し、さらに特許請求の範囲の文言と実質的な差違のないその他の物品、システム及び方法も包含する。本明細書には特定の特徴及び実施形態についてのみ記載し例示して来たが、本発明の属する技術分野の当業者には多くの修正及び変更が明らかであろう。特許請求の範囲はかかる修正と変更を全て包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基板、及び該導電性基板と物理的に接触しているカチオン交換物質を含む複合カチオン交換部材、
導電性基板、及び該導電性基板と物理的に接触しているアニオン交換物質を含む複合アニオン交換部材、並びに
複合カチオン交換部材と複合アニオン交換部材との間のコンパートメントであり、供給流を導入するための入口、及び出力流が当該コンパートメントから出て行くための出口を含む、前記コンパートメント
を含んでなる電気化学セルと、
再生段階において前記複合カチオン交換部材上の導電性基板が電子を失い、かつ前記複合アニオン交換部材上の導電性基板が電子を獲得するように、前記複合カチオン交換部材及び前記複合アニオン交換部材に電流を送るように構成されたコントロールデバイスと
を含んでなる電気化学デバイス。
【請求項2】
コントロールデバイスが、脱イオン化段階において複合カチオン交換部材及び複合アニオン交換部材を放電させるように作動可能である、請求項1記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
カチオン交換物質が弱酸性カチオン交換物質、強酸性カチオン交換物質又はこれらの組合せからなる、請求項1記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
アニオン交換物質が弱塩基性アニオン交換物質、強塩基性アニオン交換物質又はこれらの組合せからなる、請求項1記載の電気化学デバイス。
【請求項5】
アニオン交換物質が、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、又はこれらの任意の組合せを含む導電性ポリマーからなる、請求項1記載の電気化学デバイス。
【請求項6】
導電性基板が導電性基材及び導電性大表面積部分を含んでなる、請求項1記載の電気化学デバイス。
【請求項7】
導電性基材がステンレス鋼、グラファイト、チタン、白金、イリジウム、ロジウム、導電性酸化物、導電性ポリマー、及び炭素複合材のいずれか又は任意の組合せからなる、請求項6記載の電気化学デバイス。
【請求項8】
導電性大表面積部分が炭素、炭素ナノチューブ、グラファイト、炭素繊維、炭素布、炭素エーロゲル、活性炭、金属粉末、及び金属酸化物のいずれか又は任意の組合せからなる、請求項6記載の電気化学デバイス。
【請求項9】
導電性大表面積部分が窒素吸着BET法で測定して100〜5000m2/gの表面積を有する、請求項6記載の電気化学デバイス。
【請求項10】
カチオン交換物質又はアニオン交換物質と導電性大表面積部分の接触界面が導電性大表面積部分の表面積の10%より大きい、請求項9記載の電気化学デバイス。
【請求項11】
カチオン交換物質又はアニオン交換物質と導電性大表面積部分の接触界面が導電性大表面積部分の表面積の40%より大きい、請求項9記載の電気化学デバイス。
【請求項12】
導電性大表面積部分が複数の気孔を含んでおり、気孔の平均直径が1ナノメートルより大きい、請求項6記載の電気化学デバイス。
【請求項13】
導電性基板が、ナノ−パターン化又はナノ−構造化された導電性物質からなり、大表面積部分を形成するために微細な突起を含んでいる、請求項1記載の電気化学デバイス。
【請求項14】
複合カチオン交換部材及び複合アニオン交換部材に送られる電流が、複合カチオン交換部材と複合アニオン交換部材との間の電圧の差が再生段階において0〜10Vであるように制御される、請求項1記載の電気化学デバイス。
【請求項15】
さらに、電気化学セルを支持するためのケーシングを含む、請求項1記載の電気化学デバイス。
【請求項16】
さらに、各々がケーシング内にコンパートメントを画定する少なくとも2つの電気化学セルを含む、請求項15記載の電気化学デバイス。
【請求項17】
さらに、隣接する2つの電気化学セル間に少なくとも1つのスペーサーを含む、請求項16記載の電気化学デバイス。
【請求項18】
脱イオン化される供給流を誘導するための少なくとも1つの入口、及び脱イオン化段階中に希薄流が出て行くための少なくとも1つの出口を含むケーシングと、
ケーシング内に並列に配置された複数の複合イオン交換部材であって、あらゆる隣接する2つの複合イオン交換部材間に複数のコンパートメントを画定しており、2つのコンパートメント間に少なくとも1つの二極性複合部材を含んでおり、該二極性部材が少なくとも1つの導電性基板、1つの面上のカチオン交換物質、及び他の面上のアニオン交換物質を含む、前記複数の複合イオン交換部材と、
再生段階において、二極性複合部材のカチオン交換面上の導電性基板が電子を失い、かつ二極性複合部材のアニオン交換面上の導電性基板が電子を獲得するように、電流を送るように構成されたコントロールデバイスと
を含んでなる電気化学アセンブリ。
【請求項19】
二極性複合部材がカチオン交換物質とアニオン交換物質との間に導電性でイオン−不透過性のフィルムを含んでいる、請求項18記載の電気化学デバイス。
【請求項20】
導電性でイオン−不透過性のフィルムがポリオレフィン及びグラファイトの複合フィルムからなる、請求項19記載の電気化学デバイス。
【請求項21】
複数の複合イオン交換部材が、再生段階で電源の正の端子に接続される1つの複合カチオン交換部材、及び再生段階で電源の負の端子に接続される複合アニオン交換部材を含む、請求項18記載の電気化学デバイス。
【請求項22】
二極性複合部材のアニオン交換物質が複合アニオン交換部材よりも複合カチオン交換部材に近接しており、二極性複合部材のカチオン交換物質が複合カチオン交換部材よりも複合アニオン交換部材に近接している、請求項21記載の電気化学デバイス。
【請求項23】
正又は負に帯電しており、吸収された負又は正の化学種を有するイオン交換物質の再生方法であって、
イオン交換物質を大表面積導電性基板に接合し、
大表面積導電性基板に電流を流して、電子を大表面積導電性基板に、又は大表面積導電性基板から流れさせることで、吸収された化学種をイオン交換物質から溶液中に追い出す
ことを含んでなる、前記再生方法。
【請求項24】
イオン交換物質を大表面積導電性基板に接合することがイオン交換物質を導電性基板の大表面積部分に接合することからなり、大表面積部分が100〜5000m2/gの表面積を有する、請求項23記載の再生方法。
【請求項25】
イオン交換物質を導電性基板の大表面積部分に接合することがイオン交換物質を大表面積部分と接触させることからなり、イオン交換物質と大表面積部分の接触界面が大表面積部分の表面積の10%より大きい、請求項24記載の再生方法。
【請求項26】
供給流をコンパートメント中に導入し、
溶解したカチオン又はアニオンをイオン交換物質上に吸収させ、
希薄流をコンパートメントから流出させる
ことを含む脱イオン化段階と、
イオン交換物質を導電性基板と物理的に接触させ、
電流を導電性基板に流し、導電性基板に電子を失わさせてイオン交換物質上に吸収されたアニオンを追い出すか、又は導電性基板に電子を獲得させてイオン交換物質上に吸収されたカチオンを追い出す
ことを含む再生段階と
を含んでなる電気化学プロセス。
【請求項27】
脱イオン化段階及び再生段階を周期的かつ交互に繰り返す、請求項26記載の電気化学プロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−512024(P2012−512024A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542176(P2011−542176)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/064397
【国際公開番号】WO2010/077448
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】