説明

イオン交換樹脂固定化白金触媒

【課題】 イオン交換樹脂固定化白金触媒の存在下、ニトロ化合物に水素源或いは更に被毒化剤を接触させることを特徴とする、ヒドロキシルアミン化合物の製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】 イオン交換樹脂のマトリックス上に白金金属が固定化されたイオン交換樹脂固定化白金触媒を用いるという本発明の方法によれば、殆ど副生成物が生成することなく、目的とするヒドロキシルアミン化合物を効率よく、より工業的に安全に製造し得る。また、本発明のイオン交換樹脂固定化白金触媒は、白金金属がイオン交換樹脂のマトリックス上に固定化されていることから、多数回繰り返し使用してもその活性が低下し難く、また、該触媒の粒子径が非常に大きいことから、該触媒の回収再利用等の取り扱いが極めて容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換樹脂固定化白金触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシルアミン化合物は、例えば重合禁止剤、酸化防止剤、農薬、医薬品、化粧品、電子工業薬品等の中間体として極めて重要な化合物である。
【0003】
ヒドロキシルアミン化合物の1つであるフェニルヒドロキシルアミンは、重合禁止剤や酸化防止剤の中間体として有用な化合物であり、これは従来、ニトロベンゼンを水硫化ナトリウムで還元する方法や、白金炭素触媒を用い、ニトロベンゼンと水素とを反応させる方法(USP3694509号公報参照)等により製造されていた。
【0004】
しかしながら、前者の方法では、反応の選択性が低いため目的物の収率が実用化し得る程高くなく、また、使用する水硫化ナトリウムの臭気の作業環境への影響も懸念されている。
【0005】
一方、後者の方法では、前者と同様、工業化し得る程目的物の収率が高くなく、また、収率を上げるために反応温度を上げると、かえって反応選択性が低下して収率が下がるという問題点がある。更に、後者の方法では副生成物であるアニリンの生成割合が大きいだけでなく、反応の触媒として使用される白金炭素が発火性物質であるため、その取り扱いには十分な注意が必要である。また、前記白金触媒の粒子径は非常に小さいことから使用後にこれを回収再利用するには極めて煩雑な操作を伴う。
【0006】
上記した如き状況から、効率的、工業的且つ安全にヒドロキシルアミン化合物を製造する方法の開発が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水性溶媒中の白金を含むイオンを、下記イオン交換基




の何れかを有するイオン交換樹脂に吸着させた後、還元処理に付すことにより得られる、イオン交換樹脂固定化白金触媒に関する発明である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意研究を行った結果、白金金属がイオン交換樹脂のマトリックス上に固定化(担持)されてなる触媒、即ちイオン交換樹脂固定化白金触媒を用いることにより、目的とするヒドロキシルアミン化合物を効率的工業的且つ安全に得ることが出来、また、イオン交換樹脂に固定化された触媒は粒子径が大きいため、取り扱い易く、またその回収再利用も容易になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の方法に係るイオン交換樹脂固定化白金触媒は、水性溶媒中の白金を含むイオンを適当なイオン交換樹脂に吸着させた後、還元処理に付すことにより得られるものであり、該触媒は、イオン交換樹脂のマトリックス上に白金金属が固定化された状態となっている。ここで、白金を含むイオンとは、例えば1〜6価、具体的には2価、4価及び6価の白金イオン、或いは白金原子を含む、白金化合物由来又は白金錯体由来の陰イオン又は陽イオンをいう。
【0010】
本発明の方法に係るイオン交換樹脂固定化白金触媒を得る際、水性溶媒中に白金を含むイオンを存在させるために、該水性溶媒に溶解させる白金化合物としては、例えば白金金属、例えばPtO2等の酸化白金、例えば塩化白金、臭化白金、ヨウ化白金等のハロゲン化白金、例えばヘキサクロロ白金酸アンモニウム、テトラクロロ白金酸アンモニウム等の白金酸アンモニウム塩、例えばヘキサクロロ白金酸カリウム、テトラクロロ白金酸カリウム、テトラブロモ白金酸カリウム等のハロゲン化白金酸カリウム塩、例えばヘキサクロロ白金酸ナトリウム、テトラクロロ白金酸ナトリウム等のハロゲン化白金酸ナトリウム塩、硝酸白金、硫酸白金、酢酸白金、配位子に配位された白金錯体等が挙げられ、中でもハロゲン化白金酸カリウム塩及びハロゲン化白金酸ナトリウム塩が好ましく、その中でも特にテトラクロロ白金酸カリウム、テトラクロロ白金酸ナトリウムが好ましい。
【0011】
配位子に配位された白金錯体の配位子としては、例えば1,5-シクロオクタジエン(COD)、ジベンジリデンアセトン(DBA)、ノルボルナジエン(NBD)、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)、トリエトキシホスフィン(P(OEt)3)、トリtert-ブチルホスフィン(P(OtBu)3)、ビピリジン(BPY)、フェナントロリン(PHE)、トリフェニルホスフィン(PPh3)、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(DPPE)、トリフェノキシホスフィン(P(OPh)3)、トリメトキシホスフィン(P(OCH3)3)、エチレン(CH2=CH2)、アミン(NH3)、N2、NO、PO3等が挙げられる。
【0012】
本発明の方法に係るイオン交換樹脂固定化白金触媒を得る際に使用する、イオン交換樹脂としては、所謂骨格ポリマーにイオン交換基が結合してなるものが挙げられる。該骨格ポリマーとしては、例えば下記一般式[1]で示されるモノマーが重合或いは共重合して得られるもの等が挙げられる。
【0013】
一般式[1]

【0014】
(式中、R及びRは夫々独立して水素原子、低級アルキル基、カルボキシル基、カルボキシアルキル基、アルキルオキシカルボニル基、ヒドロキシアルキルオキシカルボニル基、シアノ基又はホルミル基を表し、Rは水素原子、低級アルキル基、カルボキシル基、アルキルオキシカルボニル基、ヒドロキシアルキルオキシカルボニル基、シアノ基又はハロゲン原子を表し、Rは水素原子、低級アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、置換基を有していてもよいアリール基、脂肪族ヘテロ環基、芳香族ヘテロ環基、ハロゲン原子、アルキルオキシカルボニル基、ヒドロキシアルキルオキシカルボニル基、スルホ基、シアノ基、含シアノアルキル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、カルボキシアルキル基、アルデヒド基、アミノ基、アミノアルキル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、ヒドロキシアルキル基、また、RとRとが、或いはRとRとが結合し、隣接する-C=C-と一緒になって脂肪族環を形成していてもよい。)
一般式[1]に於いて、R及びR〜Rで示される低級アルキル基としては、直鎖状、分枝状、環状の何れにてもよく、例えば炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0015】
R、R及びRで示されるカルボキシアルキル基としては、例えば上記した如き低級アルキル基の水素原子の一部がカルボキシル基に置換されたもの等が挙げられ、具体的には例えばカルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、カルボキシブチル基、カルボキシペンチル基、カルボキシヘキシル基等が挙げられる。
【0016】
R及びR〜Rで示されるアルキルオキシカルボニル基としては、例えば炭素数2〜11のものが好ましく、具体的には例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ノニルオキシカルボニル基、デシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0017】
R及びR〜Rで示されるヒドロキシアルキルオキシカルボニル基としては、上記した如き炭素数2〜11のアルキルオキシカルボニル基の水素原子の一部がヒドロキシル基に置換されたものが挙げられ、具体的には、例えばヒドロキシメチルオキシカルボニル基、ヒドロキシエチルオキシカルボニル基、ヒドロキシプロピルオキシカルボニル基、ヒドロキシブチルオキシカルボニル基、ヒドロキシペンチルオキシカルボニル基、ヒドロキシヘキシルオキシカルボニル基、ヒドロキシヘプチルオキシカルボニル基、ヒドロキシオクチルオキシカルボニル基、ヒドロキシのニルオキシカルボニル基、ヒドロキシデシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0018】
及びRで表されるハロゲン原子としては、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0019】
で表されるハロアルキル基としては、例えばR及びR〜Rで表される上記低級アルキル基がハロゲン化(例えばフッ素化、塩素化、臭素化、ヨウ素化等)された、炭素数1〜6のものが挙げられ、具体的には、例えばクロロメチル基、ブロモメチル基、トリフルオロメチル基、2−クロロエチル基、3−クロロプロピル基、3−ブロモプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、4−クロロブチル基、5−クロロペンチル基、6−クロロヘキシル基等が挙げられる。
【0020】
置換基を有していてもよいアリール基のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられ、また、該置換基としては、例えばアミノ基、ヒドロキシル基、低級アルコキシ基、カルボキシル基等が挙げられる。置換アリール基の具体例としては、例えばアミノフェニル基、トルイジノ基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、tert−ブトキシフェニル基、カルボキシフェニル基等が挙げられる。
【0021】
脂肪族へテロ環基としては、例えば5員環又は6員環であり、異性原子として1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいるもの等が好ましく、具体的には、例えばピロリジル−2−オン基、ピペリジル基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基等が挙げられる。
【0022】
芳香族ヘテロ環基としては、例えば5員環又は6員環であり、異性原子として1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいるもの等が好ましく、具体的には、例えばピリジル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、フラニル基、ピラニル基等が挙げられる。
【0023】
含シアノアルキル基としては、例えば上記した如き低級アルキル基の水素原子の一部がシアノ基に置換されたものが挙げられ、具体的には、例えばシアノメチル基、2−シアノエチル基、2−シアノプロピル基、3−シアノプロピル基、2−シアノブチル基、4−シアノブチル基、5−シアノペンチル基、6−シアノヘキシル基等が挙げられる。
【0024】
アシルオキシ基としては、例えば炭素数2〜20のカルボン酸由来のものが挙げられ、具体的には、例えばアセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ノナノイルオキシ基、デカノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0025】
アミノアルキル基としては、上記した如き低級アルキル基の水素原子の一部がアミノ基に置換されたものが挙げられ、具体的には、例えばアミノメチル基、アミノエチル基、アミノプロピル基、アミノブチル基、アミノペンチル基、アミノヘキシル基等が挙げられる。
【0026】
N−アルキルカルバモイル基としては、カルバモイル基の水素原子の一部がアルキル基で置換されたものが挙げられ、具体的には、例えばN−メチルカルバモイル基、N−エチルカルバモイル基、N−n−プロピルカルバモイル基、N−イソプロピルカルバモイル基、N−n−ブチルカルバモイル基、N−t−ブチルカルバモイル基等が挙げられる。
【0027】
ヒドロキシアルキル基としては、上記した如き低級アルキル基の水素原子の一部がヒドロキシル基に置換されたものが挙げられ、具体的には、例えばヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基等が挙げられる。
【0028】
また、RとRとが、或いはRとRとが結合し、隣接する-C=C-と一緒になって脂肪族環を形成している場合の脂肪族環としては、例えば炭素数5〜10の不飽和脂肪族環が挙げられ、環は単環でも多環でもよい。これら環の具体例としては、例えばノルボルネン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロオクテン環、シクロデセン環等が挙げられる。
【0029】
一般式[1]で示されるモノマーの具体例としては、例えばエチレン,プロピレン,ブチレン,イソブチレン等の炭素数2〜20のエチレン性不飽和脂肪族炭化水素類、例えばスチレン,4−メチルスチレン,4−エチルスチレン,ジビニルベンゼン等の炭素数8〜20のエチレン性不飽和芳香族炭化水素類、例えばギ酸ビニル,酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,酢酸イソプロペニル等の炭素数3〜20のアルケニルエステル類、例えば塩化ビニル,塩化ビニリデン,フッ化ビニリデン,テトラフルオロエチレン等の炭素数2〜20の含ハロゲンエチレン性不飽和化合物類、例えばアクリル酸,メタクリル酸,イタコン酸,マレイン酸,フマル酸,クロトン酸,ビニル酢酸,アリル酢酸,ビニル安息香酸等の炭素数3〜20のエチレン性不飽和カルボン酸類(これら酸類は、例えばナトリウム,カリウム等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩等、塩の形になっているものでもよい。)、例えばメタクリル酸メチル,メタクリル酸エチル,メタクリル酸プロピル,メタクリル酸ブチル,メタクリル酸2−エチルヘキシル,アクリル酸メチル,アクリル酸エチル,アクリル酸プロピル,アクリル酸ブチル,アクリル酸2−エチルヘキシル,メタクリル酸ラウリル,アクリル酸ステアリル,イタコン酸メチル,イタコン酸エチル,マレイン酸メチル,マレイン酸エチル,フマル酸メチル,フマル酸エチル、クロトン酸メチル,クロトン酸エチル、3−ブテン酸メチル等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル類、例えばアクリロニトリル,メタクリロニトリル,シアン化アリル等の炭素数3〜20の含シアノエチレン性不飽和化合物類、例えばアクリルアミド,メタクリルアミド等の炭素数3〜20のエチレン性不飽和アミド化合物類、例えばアクロレイン,クロトンアルデヒド等の炭素数3〜20のエチレン性不飽和アルデヒド類、例えばビニルスルホン酸,4−ビニルベンゼンスルホン酸等の炭素数2〜20のエチレン性不飽和スルホン酸類(これら酸類は、例えばナトリウム,カリウム等のアルカリ金属塩等、塩の形になっていているものでもよい。)、例えばビニルアミン,アリルアミン等の炭素数2〜20のエチレン性不飽和脂肪族アミン類、例えばビニルアニリン等の炭素数8〜20のエチレン性不飽和芳香族アミン類、例えばN−ビニルピロリドン,ビニルピペリジン等の炭素数5〜20のエチレン性不飽和脂肪族ヘテロ環状アミン類、例えばアリルアルコール,クロチルアルコール等の3〜20のエチレン性不飽和アルコール類、例えば4−ビニルフェノール等の炭素数8〜20のエチレン性不飽和フェノール類等が挙げられる。
【0030】
イオン交換樹脂固定化白金触媒を構成する上記した如き骨格ポリマーの好ましいものとしては、例えばスチレン系樹脂或いはアクリル酸エステル系樹脂が、例えばジビニルベンゼン、ブタジエン、イソプレン、ビニルアクリレート、ビニルメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、エチレンジアクリレート、エチレンジメタクリレート、1,4-ブタンジオールアクリレート、1,6-ヘキサンジオールアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、N,N-メチレン−ビス(アクリルアミド)等の二官能性モノマーで架橋されたコポリマー等が挙げられ、具体的には、例えばスチレン−ジビニルベンゼンのコポリマー、アクリル酸メチル−ジビニルベンゼンのコポリマー等が挙げられる。
【0031】
上記した如き骨格ポリマーに結合してイオン交換樹脂を形成するイオン交換基としては、例えば陰イオン交換基、或いは陽イオン交換基等が挙げられ、本発明の方法に於いては、陰イオン交換基がより好ましい。
【0032】
上記陰イオン交換基としては、例えば弱塩基性陰イオン交換基、強塩基性陰イオン交換基等が挙げられ、また、陽イオン交換基としては、例えば弱酸性陽イオン交換基、強酸性陽イオン交換基等が挙げられる。
【0033】
陰イオン交換樹脂の塩基性は、該陰イオン交換樹脂に結合している陰イオン交換基を構成する塩基性基の塩基性によって決まり、該塩基性基が弱塩基性の基であれば樹脂も弱塩基性を示し、塩基性基が強塩基性であれば樹脂も強塩基性を示す。即ち、塩基性基の塩基性を適宜変化させることにより、陰イオン交換樹脂自体の塩基性を調節することが可能となる。
【0034】
また、陽イオン交換樹脂の酸性は、該陽イオン交換樹脂に結合している陽イオン交換基を構成する酸性基の酸性によって決まり、該酸性基が強酸性の基であれば樹脂も強酸性を示し、酸性基が弱酸性であれば樹脂も弱酸性を示す。即ち、酸性基の酸性を適宜変化させることにより、陽イオン交換樹脂自体の酸性を調節することが可能となる。
【0035】
上記した如きイオン交換樹脂を構成する陰イオン交換基としては、例えば第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム基等のアミノ基類、例えばアルキルジアミン等のジアミン類等の塩基性基が挙げられ、中でも第3級アミノ基及び第4級アンモニウム基が好ましく、特に第4級アンモニウム基が好ましい。
【0036】
上記した如き塩基性基に於いて、例えば第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、ジアミン類等は弱塩基性陰イオン交換基であり、例えば第4級アンモニウム基等は強塩基性陰イオン交換基である。
【0037】
陰イオン交換基である第2級アミノ基としては、例えば一般式[2]

【0038】
(式中、Rはアルキル基、アリール基、アラルキル基又はヒドロキシアルキル基を表す。)で示される基が挙げられ、第3級アミノ基としては、例えば下記一般式[3]

【0039】
(式中、R及びRは夫々独立してアルキル基、アリール基、アラルキル基又はヒドロキシアルキル基を表す。)で示される基が挙げられ、第4級アンモニウム基としては、例えば下記一般式[4]

【0040】
(R、R及びRは夫々独立してアルキル基、アリール基、アラルキル基又はヒドロキシアルキル基を表す。)で示される基が挙げられる。
【0041】
上記一般式[2]、[3]及び[4]に於いて、R〜Rで表されるアルキル基としては、直鎖状、分枝状或いは環状でもよく、通常炭素数1〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4、更に好ましくは1又は2のものが挙げられ、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1,2-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、sec-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等が挙げられる。
【0042】
一般式[2]、[3]及び[4]に於いて、R〜Rで表されるアリール基としては、通常炭素数6〜10、好ましくは6のものが挙げられ、具体的には、例えばフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。これらアリール基は、例えばアルキル基、ヒドロキシル基等の置換基を通常1〜5個、好ましくは1〜2個有していてもよい。
【0043】
上記アリール基が有していてもよいアルキル基としては、直鎖状、分枝状或いは環状でもよく、通常炭素数1〜4、好ましくは1〜2のものが挙げられ、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基等が挙げられる。
【0044】
一般式[2]、[3]及び[4]に於いて、R〜Rで表されるアラルキル基としては、通常炭素数7〜10のものが挙げられ、具体的には、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等が挙げられる。
【0045】
一般式[2]、[3]及び[4]に於いて、R〜Rで表されるヒドロキシアルキル基としては、例えば上記した如きR〜Rで表されるアルキル基の水素原子の1つがヒドロキシル基に置換されたものが挙げられ、具体的には、例えばヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシヘプチル基、ヒドロキシオクチル基、ヒドロキシノニル基、ヒドロキシデシル基、ヒドロキシシクロプロピル基、ヒドロキシシクロブチル基、ヒドロキシシクロペンチル基、ヒドロキシシクロヘキシル基、ヒドロキシシクロヘプチル基、ヒドロキシシクロオクチル基、ヒドロキシシクロノニル基、ヒドロキシシクロデシル基等が挙げられ、中でもヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基が好ましく、特にヒドロキシエチル基が好ましい。
【0046】
上記一般式[3]で示される第3級アミノ基の特に好ましい具体例としては、

等が挙げられ、上記一般式[4]で示される第4級アンモニウム基の特に好ましい具体例としては、



等が挙げられる。
【0047】
上記した如き第4級アンモニウム基は、通常適当な陰イオンとイオン結合した状態で供給される。第4級アンモニウム基とイオン結合する陰イオンとしては、例えば塩素イオン、臭素イオン、フッ素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲンイオン、水酸化物イオン、硫酸イオン、酢酸イオン等が挙げられ、中でも塩素イオンが好ましい。
【0048】
また、陰イオン交換基であるアルキルジアミン基としては、下記一般式[5]

【0049】
(式中、Aはアルキレン基を表す。)で示される基が挙げられる。
【0050】
一般式[5]に於いて、Aで表されるアルキレン基としては、直鎖状、分枝状或いは環状でもよいが、直鎖状がより好ましく、通常炭素数1〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4、更に好ましくは炭素数2のものが挙げられ、具体的には、例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、メチルメチレン基、メチルエチレン基、エチルメチレン基、テトラメチレン基、エチルエチレン基、プロピルメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基等が挙げられる。
【0051】
上記一般式[5]で示されるアルキルジアミン基の特に好ましい具体例としては、例えば

等が挙げられる。
【0052】
また、上記した如きイオン交換樹脂を構成する陽イオン交換基としては、例えばスルホン酸基、カルボキシル基等が挙げられ、中でもスルホン酸基が好ましい。
【0053】
上記した如き陽イオン交換基に於いて、例えばスルホン酸基等は強酸性陽イオン交換基であり、例えばカルボキシル基、フェノール性水酸基等は弱酸性陽イオン交換基である。
【0054】
本発明の方法に用いられるイオン交換樹脂のイオン交換基として最も好ましい具体例としては、

等の陰イオン交換基が挙げられる。
【0055】
本発明の方法に使用されるイオン交換樹脂の好ましい具体例としては、例えばジビニルベンゼンで架橋されたポリスチレンコポリマーの芳香環に上記した如き第3級アミノ基或いは第4級アンモニウム基等の陰イオン交換基が結合したものや例えばポリアクリル酸エステルのエステルのカルボニル部分に上記した如き第3級アミノ基或いは第4級アンモニウム基等の陰イオン交換基が結合したもの等の陰イオン交換樹脂、例えばジビニルベンゼンで架橋されたポリスチレンコポリマーの芳香環に上記した如きスルホン酸基又はカルボキシル基等の陽イオン交換基が結合したものや、例えばポリアクリル酸エステルのエステルのカルボニル部分に上記した如きスルホン酸又はカルボキシル基等の陽イオン交換基が結合した陽イオン交換樹脂等が挙げられる。
【0056】
本発明の方法に係る陰イオン交換樹脂又は陽イオン交換樹脂は、公知の手法で合成されたものでもよく、また、市販品でもよい。市販されている陰イオン交換樹脂の代表的な例としては、例えばDOWEX(商品名:Dow Chem Co.製)、DUOLITE(商品名:Diamond Shamrock.製)、AMBERLITE(商品名:Rohm & Haas Co.製)、NALCITE(商品名:Nalco Chemical Co.)、IRA-410J Cl(商品名:オルガノ社製)、IRA-400J Cl(商品名:オルガノ社製)等が挙げられ、陽イオン交換樹脂の代表的な例としては、例えばIR-120B Na(商品名:オルガノ社製)等が挙げられる。
【0057】
上でも述べた如く、本発明に係るイオン交換樹脂固定化白金触媒は、水性溶媒中に白金化合物を溶解して存在させた白金を含むイオンを、担体であるイオン交換樹脂に吸着させた後、これを還元処理に付すことによって容易に調製し得る。
【0058】
イオン交換樹脂固定化白金触媒を得る際に、白金化合物を溶解させる水性溶媒としては、例えば水、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の通常炭素数1〜4のアルコール類、例えばアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等の水溶性有機溶媒、或いはそれらの混合物が挙げられ、中でも含水溶媒が好ましく、特に水のみが好ましい。該水性溶媒には白金化合物を溶解し易くするために、例えば塩酸、硫酸、硝酸等の酸や、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基等を適宜添加してもよい。
【0059】
本発明に係るイオン交換樹脂固定化白金触媒は、その調製時に使用する白金化合物の種類に拘わらず外観は同様の黒色を呈することから、白金金属自体がイオン交換樹脂のマトリックス上に固定化(担持)されていると推測される。
【0060】
本発明に係るイオン交換樹脂固定化白金触媒を調製する際に使用する白金化合物の量は、イオン交換樹脂固定化白金触媒の総重量に対してPtの重量が通常0.0001〜50重量%、好ましくは0.01〜20重量%、より好ましくは0.01〜10重量%となる量である。
【0061】
陰イオン交換樹脂を用いた場合を例にとり、以下にイオン交換樹脂固定化白金触媒の調製法をより具体的に説明する。
【0062】
例えば、K2PtCl4等の白金を含む陰イオンを遊離し得る白金化合物を、要すれば塩酸、硫酸等の鉱酸を含む水性溶媒に溶解した後、該溶液と陰イオン交換樹脂とを混合し、要すればこれを静置する。次いで、沈殿物を濾過、洗浄及び乾燥し、これを例えば水素ガス、ヒドラジン等の適当な還元剤で還元処理することにより、白金金属が陰イオン交換樹脂のマトリックス上に固定化された本発明に係る陰イオン交換樹脂固定化白金触媒を得ることができる。
【0063】
また、陽イオン交換樹脂を用いた場合を例にとり、以下にイオン交換樹脂固定化白金触媒の調製法をより具体的に説明する。
【0064】
例えば、[(H2NCH2CH2NH2)Pt](NO3)2等の白金を含む陽イオンを遊離し得る白金化合物を、イオン交換水に溶解した後、該溶液と陽イオン交換樹脂とを混合し、要すればこれを静置する。次いで、沈殿物を濾過、洗浄及び乾燥し、これを例えば水素ガス、ヒドラジン等の適当な還元剤で還元処理することにより、白金金属が陽イオン交換樹脂のマトリックス上に固定化された本発明に係る陽イオン交換樹脂固定化白金触媒を得ることができる。
【0065】
上記した如きイオン交換樹脂固定化白金触媒の製造に用いられる還元剤としては、一般的に還元剤として用いられるものであればよく、中でも好ましい具体例としては、例えば水素ガス、ヒドラジン、ヒドロホウ酸ナトリウム、蟻酸アンモニウム、蟻酸ジエチルアンモニウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、一酸化炭素、エチレン等が挙げられる。
【0066】
還元処理の温度は、通常−20〜200℃、好ましくは0〜100℃、より好ましくは10〜60℃であり、還元処理方法は公知の方法に従って行えばよい。
【0067】
かくして得られたイオン交換樹脂固定化白金触媒の存在下、ニトロ化合物と水素源とを接触させることにより目的とするヒドロキシルアミン化合物が得られる。
【0068】
本発明の方法に於いて、ニトロ化合物としては、例えば一般式[6]

【0069】
(式中、R10は水素原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよく、且つ置換基を有していてもよい、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)で示される化合物が挙げられる。
【0070】
一般式[6]に於いて、R10で表されるアルキル基としては、直鎖状、分枝状、或いは環状でもよく、通常炭素数1〜40、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜6のものが挙げられ、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基、n-オクチル基、sec-オクチル基、tert-オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘプタコシル基、トリアコンチル基、ドトリアコンチル基、ヘキサコンチル基、オクタコンチル基等の直鎖状及び分枝状のもの、例えばシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロペンタデシル基、シクロヘキサデシル基、シクロヘプタデシル基、シクロオクタデシル基、シクロノニル基、シクロイコシル基等の飽和単環状のもの、例えばシクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基、シクロノニル基等の不飽和単環状のもの、例えばトリシクロデシル基、ジシクロペンタジエニル基、パーヒドロナフチル基、パーヒドロアントリル基、ノルボルニル基、ノルピニル基、ノルカラニル基、アダマンチル基等の飽和或いは不飽和多環状のもの等が挙げられる。
【0071】
10で表されるアリール基としては、通常炭素数6〜14、好ましくは6〜10のものが挙げられ、具体的には、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基等が挙げられる。
【0072】
10で表されるアラルキル基としては、通常炭素数7〜10のものが挙げられ、具体的には、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等が挙げられる。
【0073】
上記した如きR10で表されるアルキル基、アリール基及びアラルキル基は、その基中に、通常1〜10個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1個のヘテロ原子を含んでいてもよい。このようなヘテロ原子としては、例えば酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられ、これらは、基中で例えば−NH−、−O−、−S−、−NHR−(式中、Rはアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)、−N=、−C(=O)−NH−、−S(=O)−NH−、−C(=O)−、−S(=O)−等で示される基の形で存在する。
【0074】
ここで、−NHR−で示される基のRで表されるアルキル基、アリール基及びアラルキル基は、上記一般式[2]のRで表されるアルキル基、アリール基及びアラルキル基と同様のものが挙げられる。
【0075】
また、R10で表されるアルキル基は、通常1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基、例えば塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基等が挙げられる。
【0076】
10で表されるアリール基及びアラルキル基は、通常1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝状或いは環状の炭素数1〜6のアルキル基、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基、例えば塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基等が挙げられる。
【0077】
上記した如き一般式[6]で示されるニトロ化合物のうち、R10がアリール基であるものが好ましく、中でもニトロベンゼン、ニトロトルエン、ニトロキシレン等のニトロベンゼン誘導体が好ましく、その中でも特にニトロベンゼンが好ましい。
【0078】
本発明の方法に於ける水素源としては、例えば水素、一酸化炭素、エチレン等のガス類、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、例えばヒドラジン、メチルヒドラジン、エチルヒドラジン、tert-ブチルヒドラジン、アリルヒドラジン、フェニルヒドラジン等のヒドラジン類及びそれらの塩類(例えば塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩等)、例えば蟻酸、酢酸等のカルボン酸類及びその塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ塩)、例えば次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等の次亜リン酸類、例えば蟻酸アンモニウム、デカリン、ホルムアルデヒド等が挙げられ、中でもヒドラジン類が好ましく、その中でも特にヒドラジンが好ましい。尚、上記した如きヒドラジン類は、水和物や、予め水分を含ませた状態のものも同様に使用可能である。
【0079】
水素源の使用量は、本発明の方法の反応基質であるニトロ化合物に対して通常1〜100倍モル、好ましくは1〜50倍モルであり、中でも、水素源としてヒドラジンを用いる場合のヒドラジンの使用量は、ニトロ化合物に対して通常1〜100倍モル、好ましくは1〜50倍モル、より好ましくは1〜10倍モルである。
【0080】
水素源としてヒドラジン類を使用する場合、該ヒドラジン類を本発明の方法にそのまま用いてもよいが、該ヒドラジン類の濃度が通常10〜100重量%、好ましくは50〜100重量%となるよう水に溶解してから用いることが好ましい。
【0081】
イオン交換樹脂固定化白金触媒の使用量は、固定化されている白金の量が、基質であるニトロ化合物に対して、通常1.0×10−6〜1倍モル、好ましくは1.0×10−4〜0.4倍モルとなるような量である。
【0082】
本発明の方法に於いて、反応系に、更にイオン交換樹脂固定化白金触媒の触媒作用に対する被毒化剤(一般に触媒毒物質とも言う。)を添加すればヒドロキシルアミンの選択性を更に向上させることが可能な場合もある。
【0083】
被毒化剤としては、例えばジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等の硫黄含有化合物、例えば水銀イオン、ヒ素イオン、鉛イオン、ビスマスイオン、アンチモンイオン等の重金属イオン、例えばヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等のハロゲン化物、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等のアミン類、例えばトリフェニルホスフィン、ジフェニル(tert-ブチル)ホスフィノメタン、ジフェニル(tert-ブチル)ホスフィノエタン、ジフェニル(tert-ブチル)ホスフィノプロパン等のホスフィン類、例えば一酸化炭素、二酸化炭素等が挙げられ、中でも硫黄化合物が好ましく、特にジメチルスルホキシドが好ましい。
【0084】
被毒化剤の使用量は、ニトロ化合物に対し通常0〜100重量%、好ましくは0〜30重量%、より好ましくは0〜10重量%である。
【0085】
また、本発明の方法に使用されるニトロ化合物、水素源等が液体である場合には、それらが溶媒の役割を兼ねるため、更に反応溶媒を用いなくてよい場合がある。
【0086】
反応溶媒としては、例えば水、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール等のアルコール類、例えばアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、例えばアセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類、例えばジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素、例えばジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、例えばn−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素類、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類の有機溶媒が挙げられ、それらは単独で用いても、二種以上適宜組み合わせて用いてもよい。また、使用する反応溶媒やその組合せにより反応の選択性を変えることができる。
【0087】
尚、水と有機溶媒を組み合わせて使用する場合、有機溶媒に対する水の割合は、通常0.0001〜100倍重量、好ましくは0.001〜100倍重量、より好ましくは0.01〜50倍重量、更に好ましくは0.01〜20倍重量である。
【0088】
反応溶媒の使用量は、反応基質であるニトロ化合物に対して、通常1〜50倍重量、好ましくは1〜20倍重量、より好ましくは1〜10倍重量である。
【0089】
本発明の方法では、反応容器中のイオン交換樹脂固定化白金触媒の表面が原料等の液体に接触していれば、反応方法は、例えば懸濁床による回分、半回分、連続式方法を用いても、固定式流通式方法を用いてもよい。
【0090】
反応温度は、通常−20〜200℃、好ましくは10〜100℃、より好ましくは10〜70℃である。
【0091】
反応時間は、通常1分〜24時間、好ましくは10分〜16時間、更に好ましくは30分〜12時間である。
【0092】
反応圧力は、通常常圧〜10MPa、好ましくは常圧〜2MPaである。
【0093】
即ち、ヒドロキシルアミン化合物を得るには、例えば基質であるニトロ化合物を、該ニトロ化合物に対して約1〜50倍重量の溶媒に混合し、そこに陰イオン交換樹脂固定化白金触媒を、その中に存在する白金が基質であるニトロ化合物に対して1.0×10−6〜1倍モルになるよう添加し、更にヒドラジンを基質であるニトロ化合物に対して1〜100倍モル添加した後、被毒化剤を基質であるニトロ化合物に対して0〜100重量%添加し、還流下で約1分〜24時間撹拌反応させる。反応終了後、濾過して陰イオン交換樹脂固定化白金触媒を除いた後、反応液を濃縮し、必要に応じて精製すればよい。
【0094】
上記した如き本発明の方法によって、上記一般式[6]で示されるニトロ化合物のニトロ基がヒドロキシアミノ基となり、対応する一般式[7]で示されるヒドロキシルアミン化合物が得られる。
【0095】
一般式[7]

【0096】
(式中、R10は前記と同じ。)
【0097】
本発明の方法に於いては、従来の方法と同様、目的とする一般式[7]で示されるヒドロキシルアミン化合物のヒドロキシアミノ基が更に還元されてアミノ基となる場合もあるが、この副生成物の生成率は、従来の方法と比べて極めて低く、非常に収率良く目的とするヒドロキシルアミン化合物を得ることが出来る。また、先にも述べたように、反応に使用したイオン交換樹脂固定化白金触媒を反応終了後に反応液から単離すれば、その活性を低下させることなく各種反応用触媒として繰り返し使用することが出来る。更に、本発明に係るイオン交換樹脂固定化白金触媒の粒子径は非常に大きいことから、該触媒の回収再利用等の取り扱いが極めて容易となる
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何等限定されるものではない。
【実施例】
【0098】
実施例1.本発明の陰イオン交換樹脂固定化白金触媒の合成
K2PtCl4を9.6×10-3M含有する1N塩酸溶液 62.5 mLに室温で撹拌しながら、イオン交換基として

【0099】
で示される基を有するスチレン/ジビニルベンゼン共重合体系陰イオン交換樹脂[商品名:IRA-410J Cl:オルガノ社製]15gを添加し、同温度で10分間撹拌反応させた。反応終了後、樹脂をメタノール、水で順次洗浄した。さらに室温で水50 mL、ヒドラジン0.2 mLを添加し1時間攪拌反応させた。反応終了後、樹脂をメタノール、水で順次洗浄し、真空乾燥して、黒色のイオン交換樹脂固定化白金触媒15.2gを得た。得られたイオン交換樹脂固定化白金触媒に担持された白金量は、重量変化によって求めた結果、約1%であった。
【0100】
実施例2.本発明の陰イオン交換樹脂固定化白金触媒の合成
K2PtCl4を9.6×10-3M含有する1N塩酸溶液 62.5 mLに室温で撹拌しながら、イオン交換基として

【0101】
で示される基を有するスチレン/ジビニルベンゼン共重合体系陰イオン交換樹脂[商品名:IRA-400J Cl:オルガノ社製]15gを添加し、同温度で10分間撹拌反応させた。反応終了後、樹脂をメタノール、水で順次洗浄した。さらに室温で水50 mL、ヒドラジン0.2 mLを添加し1時間攪拌反応させた。反応終了後、樹脂をメタノール、水で順次洗浄し、真空乾燥して、黒色のイオン交換樹脂固定化白金触媒15.2gを得た。得られたイオン交換樹脂固定化白金触媒に担持された白金の量は、重量変化によって求めた結果、触媒全体の約1重量%であった。
【0102】
実施例3.本発明の陽イオン交換樹脂固定化白金触媒の合成
[(H2NCH2CH2NH2)Pt](NO3)2を9.6×10-3M含有する水溶液 62.5 mLに室温で撹拌しながら、イオン交換基としてスルホン酸基を有する、フリー化したスチレン/ジビニルベンゼン共重合体系陽イオン交換樹脂[商品名:IR-120B Na:オルガノ社製]15gを添加し、同温度で10分間撹拌反応させた。反応終了後、樹脂をメタノール、水で順次洗浄した。さらに室温で水50 mL、ヒドラジン0.2 mLを添加し1時間攪拌反応させた。反応終了後、樹脂をメタノール、水で順次洗浄し、真空乾燥して、黒色のイオン交換樹脂固定化白金触媒15.2gを得た。得られたイオン交換樹脂固定化白金触媒に担持された白金の量は、重量変化によって求めた結果、触媒全体の約1重量%であった。
【0103】
実施例4.本発明の陽イオン交換樹脂固定化白金触媒の合成
[(H2NCH2CH2NH2)Pt]Cl2を9.6×10-3M含有する水溶液 62.5 mLに室温で撹拌しながら、イオン交換基としてスルホン酸基を有する、フリー化したスチレン/ジビニルベンゼン共重合体系陽イオン交換樹脂[商品名:IR120B Na:オルガノ社製]15gを添加し、同温度で10分間撹拌反応させた。反応終了後、樹脂をメタノール、水で順次洗浄した。さらに室温で水50 mL、ヒドラジン0.2 mLを添加し1時間攪拌反応させた。反応終了後、樹脂をメタノール、水で順次洗浄し、真空乾燥して、黒色のイオン交換樹脂固定化白金触媒15.2gを得た。得られたイオン交換樹脂固定化白金触媒に担持された白金の量は、重量変化によって求めた結果、触媒全体の約1重量%であった。
【0104】
実施例5.本発明のヒドロキシルアミン化合物の合成
ニトロベンゼン10 mL(98 mmol), イソプロピルアルコール 100 mL, ジメチルスルホキシド 0.05 mL及び実施例1で得られたイオン交換樹脂固定化白金触媒4 gを仕込み、ヒドラジン 20 mLを1時間かけて滴下した。更に還流下で4時間攪拌反応させた。反応終了後、反応液中のイオン交換樹脂固定化白金触媒を濾過して除き、得られた溶液を濃縮し、イソプロピルアルコールで再結晶してフェニルヒドロキシルアミン10gを得た(収率95%)。
得られた化合物は、1H-NMRスペクトル測定によりフェニルヒドロキシルアミンであることが確認された。
【0105】
実施例6.本発明のヒドロキシルアミン化合物の合成
ニトロベンゼン10 mL(98 mmol), メタノール 100 mL, ジメチルスルホキシド 0.05 mL及び実施例1で得られたイオン交換樹脂固定化白金触媒4 gを仕込み、ヒドラジン 20 mLを1時間かけて滴下した。更に還流下で4時間攪拌反応させた。反応終了後、反応液中のイオン交換樹脂固定化白金触媒を濾過して除き、得られた溶液を濃縮し、メタノールで再結晶してフェニルヒドロキシルアミン9.7gを得た(収率92%)。
得られた化合物は、1H-NMRスペクトル測定によりフェニルヒドロキシルアミンであることが確認された。
【0106】
実施例7.
実施例6と同様にして反応を行った後、反応液からイオン交換樹脂固定化白金触媒を濾過して除き、母液をメタノールで正確に100mLに調製し、これを高速液体クロマトグラフィ−で分析して、原料であるニトロベンゼンの残存率、得られたフェニルヒドロキシルアミンの収率及び副生成物であるアニリンの生成率を求めた。濾取したイオン交換樹脂固定化白金触媒をメタノールで洗浄した後、数回繰り返して同反応に使用した。各反応後の反応液を前記と同様にして高速液体クロマトグラフィーで分析し、各反応毎の反応率(ニトロベンゼンの残存率、フェニルヒドロキシルアミンの収率及びアニリンの生成率)を求めた。結果を表1に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
表1より明らかな如く、本発明に係るイオン交換樹脂固定化白金触媒を繰り返し使用して反応を行っても、目的とするフェニルヒドロキシルアミンの収率は低下せず、また副生成物の生成率も低いままであることが確認された。このことから、本発明のイオン交換樹脂固定化白金触媒の活性は、繰り返しの使用によっても低下し難いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
イオン交換樹脂のマトリックス上に白金金属が固定化されたイオン交換樹脂固定化白金触媒を用いるという本発明の方法によれば、殆ど副生成物が生成することなく、目的とするヒドロキシルアミン化合物を効率よく、より工業的に安全に製造し得る。また、本発明のイオン交換樹脂固定化白金触媒は、白金金属がイオン交換樹脂のマトリックス上に固定化されていることから、多数回繰り返し使用してもその活性が低下し難く、また、該触媒の粒子径が非常に大きいことから、該触媒の回収再利用等の取り扱いが極めて容易となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性溶媒中の白金を含むイオンを、下記イオン交換基




の何れかを有するイオン交換樹脂に吸着させた後、還元処理に付すことにより得られる、イオン交換樹脂固定化白金触媒。
【請求項2】
イオン交換樹脂が、ジビニルベンゼンで架橋されたポリスチレンコポリマーの芳香環にイオン交換基が結合したものである請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
イオン交換樹脂が、ポリアクリル酸エステルのエステルのカルボニル部分にイオン交換基が結合したものである請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
イオン交換基が、

である請求項1〜3の何れかに記載の触媒。

【公開番号】特開2010−214373(P2010−214373A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115910(P2010−115910)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【分割の表示】特願2005−504929(P2005−504929)の分割
【原出願日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】