説明

イオン交換膜を用いた全固体エレクトロクロミック素子

【課題】用途に合わせて様々な大きさ、厚み、強度にでき、あらゆる色を同時あるいは逐次に発色し、また基盤材料と組合せてあらゆる色を発色することができ、しかも液漏れ被害のない自動車用防眩ミラー等に活用される全固体エレクトロクロミック素子を提供する。
【解決手段】金属陽イオンを含ませたイオン交換膜にエレクトロクロミック薄膜および透明電極をレーザーアブレーションにより堆積し、それらを透明基盤でサンドウィッチし、あるいは、発色層をイオン交換膜に密着させた全固体エレクトロクロミック素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換膜をイオン伝導性材料層として用い、発色層へ金属陽イオンあるいは無機陰イオンを出し入れして発色させる全固体エレクトロクロミック素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
<先行技術>
先行特許文献においては、「イオン交換膜自体で金属陽イオンを出し入れして発色させる全固体エレクトロクロミック素子」は存在せず、特許文献1(特開平7-152050号公報)には「エレクトロクロミック層に電解質を仕込み固体化した全固体エレクトロクロミック素子」が紹介され、特許文献2(特開2007-156148号公報)には「エレクトロクロミック層と電解質層との間に無機電解質中間層(LiPON)をいれたもの」が紹介され、特許文献3(特許第2778044号)には、「ガラス電解質を用いた全固体エレクトロクロミック素子(白と青のみ)」が紹介され、また特許文献4(特開平03-231229号公報)には、「遷移金属酸化物のエレクトロクロミック材料層に、特定のポリマーに溶媒和されたイオンを複合化させたイオン伝導性材料層を重ねた電気化学発色素子」が紹介されている。
これら先行特許で紹介のエレクトロクロミック素子は、そのいずれもサイズ制限、強度不足、柔軟性に乏しい、発色種類、発色応答限界などの問題がある。
例えば、特許文献1は全固体エレクトロクロミック素子に関する特許であるが、発色層等素子構成部を組み上げた後に、イオン伝導性材料層として厚さ約300マイクロメートルの高分子重合体に金属イオンを含む溶媒を含ませた物を塗布して素子を作成しており、本発明とは製造プロセスも用いる電解質の強度も大きく異なる。また、特許文献2は、エレクトロクロミック層とイオン伝導性材料層に無機電解質中間層を入れた内容であるが、イオン伝導性材料層としてはリチウムイオン、水素イオンあるいはカルシウムイオンを含む液体電解質が使用されており、全固体素子とは言い難く本発明とは異なっている。特許文献3では、イオン伝導性材料層に非晶質ガラス電解質を用いた全固体エレクトロクロミック素子が紹介されているが、ガラスは機械的強度が低く、それは厚みが薄くなるにつれ低くなり、本発明でイオン伝導性材料層として用いるイオン交換膜の一般的な引張強度は23℃、相対湿度50%の環境で40 kps程度であり、ガラス電解質と比較して機械的強度が高いので、電子ペーパーや防眩ミラーなど振動や衝撃を伴う使用の場合であっても破損することなく安全であると考えられる。また、イオン伝導性材料層の製造に関して、特許文献1〜3は全てアルゴン雰囲気下で素子を作製するプロセスが含まれるが、本発明で用いるイオン交換膜は空気中でも化学的分解は起こり難いため、空気雰囲気で取り扱える大きな利点がある。
【特許文献1】特開平7-152050号公報
【特許文献2】特開2007-156148号公報
【特許文献3】特許第2778044号公報
【特許文献4】特開平03-231229号公報(審査未請求で取り下げ処分)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、用途に合わせて様々な大きさ、厚み、強度にすることができると共に、あらゆる色を同時あるいは逐次に発色可能であり、また基盤材料と組み合せてあらゆる色を発色することができ、しかも液漏れ被害のない自動車用防眩ミラー等の活用される全固体エレクトロクロミック素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の特徴とする構成は、次の(1)のとおりである。
(1)、金属陽イオンを含ませた固体のイオン交換膜にエレクトロクロミック材料の薄膜および透明電極をレーザーアブレーションにより堆積させ、それらを透明基盤でサンドウィッチし、あるいは、エレクトロクロミック材料の薄膜をイオン交換膜に密着させたことを特徴とするイオン交換膜を用いた全固体エレクトロクロミック素子。
【発明の効果】
【0005】
本発明の全固体エレクトロクロミック素子は、用途に合わせて様々な大きさ、厚み、強度にすることができると共に、あらゆる色を同時あるいは逐次に発色可能であり、また基盤材料と組み合せてあらゆる色を発色することができる。
自動車用防眩ミラーなどで問題となっている液漏れ被害がなくなり高価なシール技術が不要となる。
既存の電子ペーパーよりも格段に薄くて軽く、さらに乾電池を用いて低電圧(3 V程度)動作をする表示素子を市場に提供することができる。省電効果も期待できる。また本発明の原理を用いて、充放電可能、あるいは電池の容量に追随して呈色する電池も作成することができる。
本発明の全固体エレクトロクロミック素子の用途は、イオン交換膜に透明電極をパターニング析出させることにより、文字や絵の表示・消去が可能となるし、電気を印加したペンあるいは筆で文字、絵を表示あるいは消去できる。
液漏れしない防眩ミラー、窓ガラスへの表示機能付加、各種カードへのポイントや残高の表示機能付加、めくり要らず日めくりカレンダーなどのディスプレイ、インク要らず消しゴム要らず紙状ホワイトボード、進路表示板や電光掲示板等々幅広い用途が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に本発明の全固体エレクトロクロミック素子において、前記各構成条件の具体的な手段とその技術的意義を詳述する。
【0007】
本発明の全固体エレクトロクロミック素子において、イオン伝導性材料層として、炭素を主成分として、水素、酸素、窒素、フッ素、硫黄、リンを含むあるいはそれらからなる陽イオン交換能あるいは陰イオン交換能を有するイオン交換膜を用いる。
【0008】
本発明の全固体エレクトロクロミック素子において、前記のイオン交換膜に含ませる陽イオンとしては、第三周期第四族から十二族を除く金属イオンもしくはNH4+イオン、特に、エレクトロクロミック層へ容易に可逆的に挿入する水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオンが最も望ましい。これにより、イオン伝導性材料層として用いるイオン交換膜が着色せず、エレクトロクロミック層の発色を損なうことないために視認性向上等の効果を呈する。陰イオンとしては、OH-イオンが望ましい。
また陽イオンを含ませる方法は、それら陽イオンを含む水溶液に適度な大きさの前処理を施したイオン交換膜を室温で一晩程度浸漬させ、イオン交換膜内のイオンを目的イオンで十分交換させる。ここで浸漬時間(イオン交換時間)は使用する膜の大きさに依存する。例えば、10cm四方のフッ素系陽イオン交換膜の場合であると、500mL 3%の過酸化水素水溶液中で1時間、500mL 蒸留水中で1時間、500 mL 10%程度の硫酸水溶液中で1時間、500 mL蒸留水中で1時間続けて煮沸後、目的陽イオンを含む水溶液に浸漬させるとよい。ただし、上記二段階目のプロセスを除外することも可能である。また、時間は1時間程度が適当で、短時間であることは望ましくない。さらに水素イオンの場合には、このイオン交換プロセスを省略することもできる。陰イオン交換膜であれば、NaCl溶液に乾燥したイオン交換膜を一晩程度浸漬したのち、水で洗浄後、目的の陰イオンを含む水溶液に一晩程度浸漬させるとよい。例えば、10cm四方の膜に対しては、10%水酸化アンモニウム水溶液に一晩程度浸漬させると、OH-イオンが膜内に取り込まれ、その膜をイオン伝導性材料層として使用できる。
【0009】
本発明の全固体エレクトロクロミック素子において、前記エレクトロクロミック材料の薄膜としては、WO3、MoO3、Ir2O3、Cr2O3、V2O5、Ir(OH)2、Ni(OH)2を用いる。これにより着色・消色の作用効果を呈する。
【0010】
本発明の全固体エレクトロクロミック素子において、前記透明電極としては、ITO、ZnO、SnO2、In2O3を用いる。これにより、エレクトロクロミック層の着色・消色を電圧の印加により制御する効果を呈する。
【0011】
本発明の全固体エレクトロクロミック素子において、前記透明基盤としては、高分子、ガラス、樹脂製の基盤を用いる。これによりエレクトロクロミック層の着色・消色を外部に表示させたまま、エレクトロクロミック素子を衝撃から保護する作用効果を呈する。
【実施例】
【0012】
本発明の実施例を表1により紹介する。
【0013】
【表1】

表1において、2層と4層と5層はレーザーアブレーション法により堆積した。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明の全固体エレクトロクロミック素子の用途は、イオン交換膜に透明電極をパターニング析出させることにより、文字や絵の表示・消去が可能となるし、電気を印加したペンあるいは筆で文字、絵を表示あるいは消去できる。
液漏れしない防眩ミラー、窓ガラスへの表示機能付加、各種カードへのポイントや残高の表示機能付加、めくり要らず日めくりカレンダーなどのディスプレイ、インク要らず消しゴム要らず紙状ホワイトボード、進路表示板や電光掲示板等々幅広い用途が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のイオン交換膜を用いた全固体エレクトロクロミック素子の典型的な構成略図である。
【図2】イオン交換膜を用いた全固体エレクトロクロミック素子の着色状況を示す写真である。
【符号の説明】
【0016】
1、6 透明基盤
2、5 透明電極
3 イオン交換膜
4 エレクトロクロミック材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを含ませたイオン交換膜にエレクトロクロミック材料の薄膜および透明電極をレーザーアブレーション法により堆積させ、それらを透明基盤でサンドウィッチしたこと、あるいは、エレクトロクロミック材料の薄膜をイオン交換膜に密着させたことを特徴とするイオン交換膜を用いた全固体エレクトロクロミック素子。
【請求項2】
前記イオン交換膜として炭素を主成分として、水素、酸素、窒素、フッ素、硫黄、リンを含むあるいはそれらからなる陽イオン交換能あるいは陰イオン交換能を有するイオン交換膜を用いることを特徴とする請求項1に記載のイオン交換膜を用いた全固体エレクトロクロミック素子。
【請求項3】
前記エレクトロクロミック材料の薄膜として、WO3、MoO3、Ir2O3、Cr2O3、V2O5、Ir(OH)2、Ni(OH)2を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のイオン交換膜を用いた全固体エレクトロクロミック素子。
【請求項4】
前記透明電極として、ITO、ZnO、SnO2、In2O3を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3に記載のイオン交換膜を用いた全固体エレクトロクロミック素子。
【請求項5】
前記透明基盤として高分子、ガラス、樹脂製の基盤を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4に記載のイオン交換膜を用いた全固体エレクトロクロミック素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−150057(P2011−150057A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9854(P2010−9854)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【Fターム(参考)】