説明

イオン発生方法、イオン発生装置および空気清浄装置

【課題】 十分な量の正イオンおよび負イオンを発生させつつ、イオン発生装置の簡素化が可能なイオン発生方法および、この方法を用いたイオン発生装置および空気清浄装置を実現する。
【解決手段】 第1の放電電極1に正もしくは負の電圧を印加し、誘導電極2との間で放電を生じさせることで正イオンもしくは負イオンを発生させる工程と、
誘導電極の外部に配置する第2の放電電極4に第1の放電電極1とは逆極性の電圧を印加し、第1の放電電極1との間で放電を生じさせることで第1の放電電極1とは逆極性のイオンを発生させる工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正イオンおよび負イオンを発生させるイオン発生方法および、この方法を用いたイオン発生装置および空気清浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、正イオンおよび負イオンを発生させるイオン発生装置を搭載した空気清浄装置が実用化されており、室内空間内に浮遊するカビ菌やウィルスの分解、ニオイの除去、集塵等の効果をもたらすことが知られている。一般的なイオン発生装置は、放電電極およびそれに対向する誘導電極間に電圧を印加し、放電を生じさせることによりイオンを発生させる。
【0003】
例えば、特許文献1は、正イオンおよび負イオンを発生させるイオン発生装置に関するものであり、図9は、従来のイオン発生装置の要部を示す斜視図である。
【0004】
特許文献1のイオン発生装置は、基板71と、誘導電極72、73と、2本の針状電極74、75とを備える。誘導電極72、73は、一体の金属板からなり、かつ平板部には2つの貫通孔が形成されており、平板部の周縁部には複数の支持部76が形成されている。平板部の両端の支持部76の各々の下端には、支持部76よりも幅の狭い基板挿入部77が形成されており、各基板挿入部77は基板71の貫通孔に挿入されて半田付けされている。2本の針状電極74、75の各々も基板71の貫通孔に挿入されて半田付けされている。針状電極74、75の先端は、基板71の表面に突出しており、それぞれ貫通孔の中心に配置されている。
【0005】
針状電極74、75に正の高電圧パルスおよび負の高電圧パルスを印加すると、針状電極74、75と誘導電極72、73の間でコロナ放電が発生し、針状電極74、75の先端部でそれぞれ正イオンおよび負イオンが発生する。発生した正イオンおよび負イオンは、送風機によって室内に送出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−305321号公報(平成19年11月22日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のイオン発生装置では、針状電極74、75を貫通孔の中央に高い精度で配置しなければならないため、製造コストがかかる上、基板71と誘導電極72、73の熱膨張率の差が大きいので、温度変化に伴って基板71と誘導電極72、73の長さに差が生じ、基板71が反るという問題があった。基板71が反ると、針状電極74、75の先端の位置が貫通孔の中心からずれ、反りの状況も一定でないためイオン発生性能が安定せず、イオン発生量が定格値から外れてしまうことがあった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、正イオンおよび負イオンを発生させるイオン発生装置において、一方のイオンを発生させる放電電極の配置に自由度を持たせることができる上、正負のイオンを安定して発生させることが可能なイオン発生方法およびこの方法を用いたイオン発生装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るイオン発生方法は、第1の放電電極に正もしくは負の電圧を印加し、誘導電極との間で放電を生じさせることで正イオンもしくは負イオンを発生させる工程と、誘導電極の外部に配置する第2の放電電極に第1の放電電極とは逆極性の電圧を印加し、第1の放電電極との間で放電を生じさせることで第1の放電電極とは逆極性のイオンを発生させる工程を含むことを特徴とする。
【0010】
また、第1の放電電極から第2の放電電極の方向へ送風することが好ましい。
【0011】
本発明に係るイオン発生装置は、誘導電極と、前記誘導電極との間で放電を生じさせ、正イオンもしくは負イオンを発生させるために正もしくは負の電圧を印加される第1の放電電極と、誘導電極の外部に第2の放電電極とを備え、第2の放電電極は、第1の放電電極とは逆極性のイオンを発生させるために第1の放電電極とは逆極性の電圧を印加され、第1の放電電極との間で放電を生じさせることを特徴とする。
【0012】
また、送風する手段を備え、第2の放電電極が第1の放電電極の風下側に配置されていることが好ましい。
【0013】
また、第2の放電電極は、金属の細線、あるいは針状、鋸刃状のように先鋭化された構成部分を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る空気清浄装置は、上記各構成のイオン発生装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、放電素子を1組にして第2の放電電極を追加することにより、十分な量の正イオンおよび負イオンを発生させつつ、構造を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明におけるイオン発生装置の構成例を示した断面図である。
【図2】本発明におけるイオン発生装置の構成例を示した上面図である。
【図3】本発明における放電素子の構成例を示した模式図である。
【図4】実施例1における第2の放電電極の配置位置を示した断面図である。
【図5】図4に示されたA、Bに第2の放電電極を配置した条件において測定されたイオン濃度を表した図である。
【図6】比較例における第2の放電電極の配置位置を示した断面図である。
【図7】図6に示されたB、C、Dに第2の放電電極を配置した条件において測定されたイオン濃度を表した図である。
【図8】第2の放電電極の形状例を示した模式図である。
【図9】従来のイオン発生装置の要部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について図面に基づき説明する。図1は、本発明の一つの実施形態におけるイオン発生装置の断面図であり、図2は、図1のイオン発生装置の上面図である。このイオン発生装置は、第1の放電電極1と誘導電極2を含む放電素子3、第2の放電電極4、送風用ファン5、および風洞6を備える。
【0018】
放電素子3は、第1の放電電極1と誘導電極2との間で放電させ、正または負のイオンを生じさせるものであり、第1の放電電極1が電圧印加装置7に接続され、誘導電極2が接地されている。なお、誘導電極2を接地する代わりに、電圧印加装置と接続することにより、第1の放電電極1と誘導電極2の電位差を変化させ、発生させるイオンの量を調整することも可能である。
【0019】
第2の放電電極4は、図1及び図2に示すように、電界集中が起こりやすい金属の細線からなり、第1の放電電極1の風下側に配置され、電圧を印加するために電圧印加装置8が接続されている。
【0020】
図3は、図1、2で示した放電素子3を示した模式図であり、図3(a)は上面図、図3(b)は断面図である。放電素子3は、第1の放電電極1と、誘導電極2と、第1の放電電極1および誘導電極2を固定する基板9から構成される。第1の放電電極1は、誘導電極2の孔の中央部に配置される。
【0021】
上記の構成において、放電素子3の第1の放電電極1に、正もしくは負の電圧を印加し、誘導電極2との間でコロナ放電を生じさせることにより、第1の放電電極1の先端部から正イオンもしくは負イオンを発生させる。
【0022】
また、第2の放電電極4に、第1の放電電極1に印加する電圧と逆極性の電圧を印加し、第2の放電電極4と第1の放電電極1との間で放電を生じさせることにより、第2の放電電極4で第1の放電電極1で発生させるイオンと逆極性のイオンを発生させる。このとき、第1の放電電極1および第2の放電電極4間の電位差を利用して放電させているため、第2の放電電極4に印加する電圧は、第1の放電電極1に印加する電圧よりも低くできる。
【0023】
そして、送風手段の送風用ファン5と第1の放電電極1に対して、第2の放電電極4を風下側に配置することによって、発生した正イオンおよび負イオンを、室内空間に効率よく拡散させることができる。
【0024】
本発明のイオン発生装置は、正負各々のイオン発生用の放電素子3を2組備える従来のイオン発生装置と異なり、放電素子3を1組と、第2の放電電極4とにより構成される。そのため、従来のイオン発生装置において必要だった第2の放電電極4に対向する誘導電極を省くことができるため、部材のコストを抑えることができる。それに加えて、放電素子3を1組にすることで、放電素子3の発熱と基板9を小さくすることができる上に、放電素子3が放電電極1を中心に対称構造になるため、基板9の熱膨張による第1の放電電極1と誘導電極2との位置ずれを低減することができる。
【実施例1】
【0025】
次に、第2の放電電極4の設置位置を変化させた場合において、放出されるイオン濃度の測定を行った。図4は、第1の放電電極1を固定し、第2の放電電極4の配置場所を変えた構成を示し、図5は、第2の放電電極4を図4で示した各位置に配置したときのイオン濃度を示す図である。
【0026】
図4の構成において、放電素子3を風洞底面の面位置に固定し、第2の放電電極4を図に示すAあるいはBの2箇所のいずれかに配置した。第2の放電電極4の位置は、Aの場合、放電電極1の先端から高さ方向4cm、風下方向2cmであり、Bの場合、放電電極1の先端から高さ方向0.5cm、風下方向5cmである。
【0027】
これらの条件下において、第1の放電電極1に5kVの直流電圧を印加し、第2の放電電極4に−0.5〜−2.5kVの直流電圧を印加し、第1の放電電極1で発生する正イオンと、第2の放電電極4で発生する負イオンを、第1の放電電極1の先端から50cm風下方向に配置したイオンカウンタ10によって測定した。
【0028】
図5は、AあるいはBの条件において測定されたイオン濃度を表した図であり、A、Bのいずれの位置においても、十分な量の正イオンおよび負イオンの濃度を発生させることができた。このことから、従来の2組の放電電極と誘導電極を有するイオン発生装置と異なって第2の放電電極4の配置場所において、自由度があることがわかる。
【0029】
また、第2の放電電極4に印加した電圧は、Aの場合−2.5kV、Bの場合−2.0kVであり、これらの電圧値は、第1の放電電極1に印加する電圧5kVと比較すると、半分以下の値であった。配置場所により第1の放電電極1と第2の放電電極4の位置関係が異なるため、印加電圧は少々異なるが、従来の印加電圧より大幅に低くできるため、消費電力の低減を図ることができる。
【0030】
<比較例>
比較例として、第2の放電電極4を放電素子3に対して近くに配置した場合と離して配置した場合において、イオン濃度の測定を行った。図6は、第2の放電電極4の配置場所を変えた構成を示し、図7は、第2の放電電極4を図6で示した各位置に配置したときのイオン濃度を示す図である。
【0031】
図6の構成において、実施例1と同様の実験系を用いて、第2の放電電極4をBに加えて、CあるいはDに配置した。第2の放電電極4の位置は、Cの場合、放電電極1の先端から高さ方向0cm、風下方向2cmであり、Dの場合、放電電極1の先端から高さ方向0.5cm、風下方向10cmである。これらの条件下において、実施例1と同様に測定した。
【0032】
図7のBは、実施例1と同じである。Cの測定結果によると、正負のイオンの発生量のバランスは良いが、全体的に少なくなった。これは、第1の放電電極1および第2の放電電極4の間隔が狭いため、第1の放電電極1で発生した正イオンが第2の放電電極4で回収され、かつ、第2の放電電極4で発生した負イオンが第1の放電電極1で回収されたことが原因であると考えられる。
【0033】
また、Dの測定結果によると、負イオンの発生量が正イオンの発生量に比べて非常に少なくなった。これは、第1の放電電極1および第2の放電電極4の間隔が広いため、第1の放電電極1および第2の放電電極4間で放電しにくくなったことが原因であると考えられる。
【0034】
以上のような実験結果より、本発明の実施形態において、第2の放電電極4は、放電素子3に対して適切な場所に配置することで、より良い効果が得られる。
【0035】
図8は、第2の放電電極4の他の構造例を示したものである。実施例1で用いた図8(a)の金属の細線の代わりに、図8(b)、(c)に示すような鋸刃状、針状のように先鋭化された構成部分を有するものとしてもよい。先鋭化された構造部分を有することで先端部の電界が強まり、より多くのイオンを発生させることができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0037】
例えば、第1の放電電極1に負の電圧を印加し、第2の放電電極4に正の電圧を印加することで、第1の放電電極1で負イオンを、第2の放電電極で正イオンを発生させてもよい。
【0038】
また、第2の放電電極4の配置場所および印加電圧は、電極の形状、電極間の距離、発生させたいイオン量等に応じて設定される。
【0039】
また、本発明に係るイオン発生装置は、イオン発生により各種効果が高められるために空気清浄装置に搭載することが可能である。なお、ここでいう空気清浄装置は、空気調和機、除湿器、加湿器、空気清浄機、ファンヒ−タ等であり、主として、家屋の室内、ビルの一室、病院の病室、自動車の車室内、飛行機の機内、船の船室内等の空気を調節すべく用いられる装置である。
【符号の説明】
【0040】
1 第1の放電電極
2 誘導電極
3 放電素子
4 第2の放電電極
5 送風用ファン
6 風洞
7、8 電圧印加装置
9 基板
10 イオンカウンタ
71 基板
72、73 誘導電極
74、75 針状電極
76 支持部
77 基板挿入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の放電電極に正もしくは負の電圧を印加し、誘導電極との間で放電を生じさせることで正イオンもしくは負イオンを発生させる工程と、
前記誘導電極の外部に配置する第2の放電電極に前記第1の放電電極とは逆極性の電圧を印加し、前記第1の放電電極との間で放電を生じさせることで前記第1の放電電極とは逆極性のイオンを発生させる工程を含むことを特徴とするイオン発生方法。
【請求項2】
前記第1の放電電極から前記第2の放電電極の方向へ送風する工程を特徴とする請求項1に記載のイオン発生方法。
【請求項3】
誘導電極と、
前記誘導電極との間で放電を生じさせ、正イオンもしくは負イオンを発生させるために正もしくは負の電圧を印加される第1の放電電極と、
前記誘導電極の外部に第2の放電電極とを備え、
前記第2の放電電極は、前記第1の放電電極とは逆極性の電圧が印加され、前記第1の放電電極との間で放電を生じさせることを特徴とするイオン発生装置。
【請求項4】
前記イオン発生装置は、送風する手段を備え、前記第2の放電電極が前記第1の放電電極の風下方向に配置されることを特徴とする請求項3に記載のイオン発生装置。
【請求項5】
前記第2の放電電極は、金属の細線であって、先鋭化された構成部分を有することを特徴とする請求項4に記載のイオン発生装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載のイオン発生装置を備えることを特徴とする空気清浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−8538(P2013−8538A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140077(P2011−140077)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】