説明

イオン透過性隔膜製造用製膜溶液の調製方法及びイオン透過性隔膜

【課題】膜厚が薄く、電気抵抗が低く、かつガス耐圧性能に優れたイオン透過性隔膜を製造するために用いられる製膜溶液を調製する方法、及び当該方法により調製された製膜溶液により製膜されてなるイオン透過性隔膜を提供する。
【解決手段】本発明の製膜溶液調製方法は、親水性無機材料、有機結合材料及び有機溶剤を含有するイオン透過性隔膜製造用製膜溶液を調製する方法であって、粉砕媒体を用いる粉砕装置に親水性無機材料と有機溶剤とを投入して、親水性無機材料を有機溶剤に分散させる分散工程と、親水性無機材料が分散してなる有機溶媒に、有機結合材料を溶解させる溶解工程とを含み、有機結合材料と親水性無機材料との配合比(質量基準)が、1:1〜2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水電解装置において使用されるイオン透過性隔膜を製造するための製膜溶液を調製する方法、及び当該方法により調製された製膜溶液を用いて製造されるイオン透過性隔膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素は、最近のエネルギー事情を反映し、石油に代わる新しいエネルギー源として多方面から注目されている。このような水素の工業的製造方法としては、コークスや石油のガス化法、水電解法等が挙げられる。
【0003】
前者の方法は、操作が煩雑であるとともに、非常に大規模な設備が必要となるので、イニシャルコストがかなりかかるという問題点がある。
【0004】
一方、後者の方法は、原料として入手し易い水を用いるものであり、電解槽内に複数の電極対を設け、これら対となる電極の間にKOH等のアルカリ電解液を流通させるとともにイオン透過性隔膜で区画して、このイオン透過性隔膜の陰極側で水素を発生するとともに陽極側で酸素を発生させるものであるが、電極間にイオン透過性隔膜と被電解液とが存在しているので、電気抵抗が大きく、電解効率が悪いという問題がある。しかしながら、この水電解法は、比較的小規模な設備でも水素の発生が可能であり、実用的であることから、電解効率の向上が望まれている。
【0005】
このようなアルカリ水電解装置において用いられるイオン透過性隔膜は、従来、例えば、親水性無機材料、有機結合材料及び有機溶剤を含む懸濁液(製膜溶液)を調製し、その懸濁液(製膜溶液)を用いて製造された湿潤シートに有機繊維布を伸張した状態で浸漬し、そのままの状態で有機溶剤を除去することにより製造されている(特許文献1,2参照)。
【0006】
かかるイオン透過性隔膜の製造に用いられる製膜溶液は、有機結合材料を有機溶剤に常温で溶解させ、得られた有機性溶液と親水性無機材料とをビーズミルに投入して両者を混合し、当該有機性溶液中に親水性無機材料を微細化しながら分散させることにより調製されている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−144262号公報
【特許文献2】特開2009−185333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1,2のようにして製膜溶液を調製する場合、有機溶剤に有機結合材料を溶解させるのに長時間を要してしまい、特に高粘度の製膜溶液を調製する際には1週間程度の期間を要してしまうという問題があった。
【0009】
また、有機性溶液中に親水性無機材料を分散させる際に、親水性無機材料が微細化するにつれて有機性溶液の粘性が増加してビーズミルの攪拌能力を超えてしまい、特に有機性溶液の粘度が高い場合には、親水性無機材料を微細化する初期の段階からビーズミルの攪拌能力を超えてしまうため、有機性溶液と親水性無機材料との混合が困難となるおそれがあった。そのため、有機溶剤の使用量を減少させることにより高粘度の製膜溶液を調製するのが困難であるという問題があった。
【0010】
さらに、製膜溶液の粘度が高くなるほど、製膜溶液からビーズを分離するのが困難となり、ビーズの分離に時間を要してしまうとともに、製膜溶液の回収率が低下してしまうという問題があった。
【0011】
これらの問題点を解決すべく、本発明者らは、ビーズミルを用いて有機溶剤に親水性無機材料を微細化させながら分散させた後に、ビーズを分離し、その後、当該有機溶剤に、親水性無機材料の配合量に対し1/4倍量の有機結合材料を溶解させることで、ビーズミルを安定的に運転することができ、短時間に、かつ高い回収率で製膜溶液を調製する方法に関する発明を完成した。
【0012】
一方で、この方法により調製された製膜溶液を用いて、膜厚が薄く、電気抵抗の小さいイオン透過性隔膜を製造しようとすると、得られるイオン透過性隔膜のガス耐圧性能が低下してしまうことが判明した。
【0013】
そこで、本発明は、膜厚が薄く、電気抵抗が小さく、かつガス耐圧性能に優れたイオン透過性隔膜を製造するために用いられる製膜溶液を調製する方法、及び当該方法により調製された製膜溶液により製膜されてなるイオン透過性隔膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、親水性無機材料、有機結合材料及び有機溶剤を含有するイオン透過性隔膜製造用製膜溶液を調製する方法であって、粉砕媒体を用いる粉砕装置に前記親水性無機材料と前記有機溶剤とを投入して、前記親水性無機材料を前記有機溶剤に分散させる分散工程と、前記親水性無機材料を分散させた前記有機溶剤に、前記有機結合材料を溶解させる溶解工程とを含み、前記有機結合材料と前記親水性無機材料との配合比(質量基準)が、1:1〜2であることを特徴とする製膜溶液調製方法を提供する(請求項1)。
【0015】
本発明者らによる鋭意研究の結果、製膜溶液に親水性無機材料の微粒子が含まれていると、製膜溶液のチキソトロピー性が発現され、粘性が不安定となるため、かかる製膜溶液を用いて、膜厚が薄く、電気抵抗の小さいイオン透過性隔膜を製造しようとすると、当該隔膜における膜層(親水性無機材料及び有機結合材料の混合物)と基材(有機性繊維布等)との密着不良が起こり、イオン透過性隔膜のガス耐圧性能が低下してしまうことが推察された。しかしながら、上記発明(請求項1)のように有機結合材料と親水性無機材料との配合比を上記範囲にすることで、製膜溶液のチキソトロピー性の発現を抑制し、粘性を安定化させることができるため、かかる製膜溶液を用いて製造されるイオン透過性隔膜における膜層と基材との密着性を向上させることができ、イオン透過性隔膜の膜厚を薄く、電気抵抗を小さくし、かつガス耐圧性能を向上させることができる。また、上記発明(請求項1)によれば、有機溶剤に有機結合材料を溶解させる前に、有機溶剤に親水性無機材料を分散させることで、有機溶剤の粘性が極度に高くなることがないため、ビーズミル等の粉砕装置を用いた場合に、当該粉砕装置の攪拌能力を超えることなく安定的に運転することができる。
【0016】
上記発明(請求項1)においては、前記親水性無機材料を14〜23質量%、前記有機溶剤を66〜72質量%、前記有機結合材料を11〜14質量%配合するのが好ましい(請求項2)。
【0017】
上記発明(請求項1,2)においては、前記分散工程において、前記親水性無機材料の配合量に対して3質量%以上の分散剤を前記有機溶剤に添加するのが好ましい(請求項3)。
【0018】
本発明者らによる鋭意研究の結果、イオン透過性隔膜にピンホールが発生する一因として、製膜溶液に親水性無機材料を配合すると、その親水性無機材料の微粒子の存在により膜素材(膜層)に隙間が生じてしまうことが推察された。そのため、イオン透過性隔膜におけるピンホールの発生を抑制すべく親水性無機材料のさらなる微細化を試みたところ、親水性無機材料の平均粒子径が小さく(0.5μm以下)なると、製膜溶液がチキソトロピー性を発現して、製膜溶液中で親水性無機材料が再凝集しやすくなり、得られる製膜溶液の性状(粘性等)が不安定となるおそれがあることが分かった。そこで、上記発明(請求項3)のように、親水性無機材料に対して3質量%以上の分散剤を添加することで、製膜溶液のチキソトロピー性の発現を抑制し、親水性無機材料の再凝集を抑制することができ、得られる製膜溶液の性状(粘性等)を安定的に維持することができる。よって、このような製膜溶液を用いることで、優れたガス耐圧性能を有するイオン透過性隔膜を製造することができる。
【0019】
上記発明(請求項1〜3)においては、前記溶解工程において、70〜120℃の温度条件下で前記有機溶剤に前記有機結合材料を溶解させるのが好ましい(請求項4)。かかる発明(請求項4)によれば、有機溶剤に有機結合材料を短時間で溶解させることができるため、製膜溶液を短時間に調製することができる。
【0020】
上記発明(請求項1〜4)においては、前記親水性無機材料が分散してなる前記有機溶剤から前記粉砕媒体を分離した後、前記溶解工程において、前記有機溶剤に前記有機結合材料を溶解させるのが好ましい(請求項5)。
【0021】
上記発明(請求項5)によれば、有機結合材料を溶解させる前の低粘度の有機溶剤から粉砕媒体を分離することで、当該粉砕媒体を短時間に、かつ容易に分離することができる。これにより、製膜溶液を短時間で調製することができるとともに、製膜溶液の回収率を向上させることができる。
【0022】
上記発明(請求項1〜5)においては、前記製膜溶液中に含まれる前記親水性無機材料の平均粒子径が、0.1〜0.5μmであるのが好ましい(請求項6)。かかる発明(請求項6)によれば、得られるイオン透過性隔膜の膜素材(膜層)に隙間が生じてしまうのを抑制し、膜層を緻密化することができるため、当該隔膜におけるピンホールの発生を抑制することができる。この結果、イオン透過性隔膜のガス耐圧性能を向上させることができる。
【0023】
なお、本発明において「平均粒子径」とは、体積平均粒子径を意味し、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された値であるものとする。
【0024】
上記発明(請求項1〜6)においては、前記粉砕装置としてビーズミルを用いることができる(請求項7)。かかる発明(請求項7)のように粉砕装置としてビーズミルを用いたとしても、親水性無機材料の微細化により混合液の粘性が極度に上昇することがなく、ビーズミルの攪拌能力内で安定的な運転が可能となる。
【0025】
上記発明(請求項1〜7)においては、前記溶解工程により得られた懸濁液に含まれる気泡を、当該懸濁液を攪拌しながら除去する脱泡工程をさらに含むのが好ましい(請求項8)。
【0026】
製膜溶液に気泡が含まれていると、イオン透過性隔膜の膜素材にピンホールが発生するおそれがあるため、製膜前に製膜溶液から気泡を十分に除去する必要がある。一方、親水性無機材料の平均粒子径を0.1〜0.5μmに微細化するために粉砕装置等を用いることで、得られる懸濁液(製膜溶液)に微細な気泡が含まれてしまうが、親水性無機材料の微細化により懸濁液(製膜溶液)にチキソトロピー性が発現し、気泡の除去が困難となってしまう。しかしながら、上記発明(請求項8)のように、懸濁液を攪拌して当該懸濁液に剪断応力を与えることで、懸濁液の粘性が低下し、気泡の除去効率が向上する。よって、かかる製膜溶液を用いれば、優れたガス耐圧性能を有するイオン透過性隔膜を製造することができる。
【0027】
上記発明(請求項8)においては、前記溶解工程により得られた懸濁液を、ホモジナイザーを用いて攪拌した後に、前記気泡を除去するのが好ましい(請求項9)。かかる発明(請求項9)によれば、製膜溶液中の各製膜材料がほぼ均一に混合されるため、緻密化された膜層を有するイオン透過性隔膜を製造することが可能となり、イオン透過性隔膜のガス耐圧性能を向上させることができる。
【0028】
また、本発明は、上記発明(請求項1〜9)に係る製膜溶液調製方法により調製された製膜溶液を用いて製造されてなるイオン透過性隔膜を提供する(請求項10)。かかる発明(請求項10)によれば、ガス耐圧性能に優れたイオン透過性隔膜を提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、膜厚が薄く、電気抵抗が小さく、かつガス耐圧性能に優れたイオン透過性隔膜を製造するために用いられる製膜溶液を調製する方法、及び当該方法により調製された製膜溶液により製膜されてなるイオン透過性隔膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係るイオン透過性隔膜製造用製膜溶液の調製方法により調製された製膜溶液を使用し得るイオン透過性隔膜の製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】図1に示すイオン透過性隔膜の製造装置による製造工程を示す概略図である。
【図3】図2に示す製造工程の次の工程を示す概略図である。
【図4】実施例1〜2及び比較例1の製膜溶液の粘度(25℃)の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の一実施形態に係るイオン透過性隔膜製造用製膜溶液の調製方法を説明する。
本実施形態に係るイオン透過性隔膜製造用製膜溶液の調製方法においては、まず、親水性無機材料を微細化しながら有機溶剤に分散させ、混合液を調製する。
【0032】
親水性無機材料を分散させる有機溶剤としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、エチレングリコールのモノ及びジエーテル、又はメチルエチルケトンのようなケトン類等を用いることができる。これらの中では、特にN−メチル−2−ピロリドンが好適である。
【0033】
親水性無機材料としては、例えば、フッ化カルシウム(CaF)、フルオロアパタイト(FAP)、ヒドロキシアパタイト(HAP)、酸化ジルコニウム(ZrO)等を用いることができ、好ましくは、フッ化カルシウムを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
混合液中の親水性無機材料は、平均粒子径0.5μm以下の微粒子であるのが好ましく、特に平均粒子径0.1〜0.2μmの微粒子であるのが好ましい。親水性無機材料の平均粒子径が0.5μm以下であることで、得られるイオン透過性隔膜の膜素材に隙間が生じるのを抑制し、当該隔膜のガス耐圧性能を向上させることができる。特に0.1〜0.2μmであることで、イオン透過性隔膜の膜層をより緻密化し得るため、膜素材に隙間が生じるのをより抑制することができ、隔膜のガス耐圧性能をより向上させることができる。
【0035】
混合液は、粉砕媒体を用いる粉砕装置に親水性無機材料、有機溶剤及び粉砕媒体を投入して、攪拌することにより調製する。これにより、親水性無機材料を微細化しながら有機溶剤に分散させることができ、また、有機溶剤が比較的低粘度であることで、粉砕装置での攪拌により親水性無機材料が微細化されても、混合液の粘度が高くなりすぎることがないため、粉砕装置の攪拌能力を超えることがない。よって、効率的に混合液を調製することができる。
【0036】
上記粉砕装置としては、混合液を調製しながら平均粒子径0.5μmを超える親水性無機材料を平均粒子径0.5μm以下、好ましくは0.1〜0.2μmに粉砕し得るものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ビーズミル、ボールミル等の湿式粉砕装置が挙げられ、これらのうち、粒径0.1〜5mm、好ましくは粒径0.3〜1mmのジルコニア製、アルミナ製又はガラス製等のビーズを粉砕媒体として用いるビーズミルが好適である。
【0037】
粉砕媒体の配合割合は、特に限定されるものではないが、親水性無機材料に対して2〜4倍量(質量基準)程度であればよい。粉砕媒体の配合割合が上記範囲内であれば、親水性無機材料を効率的に微細化することができる。
【0038】
粉砕装置の攪拌速度は、粉砕装置における攪拌羽根先端の線速度として5m/sec以上であるのが好ましく、特に10〜15m/secであるのが好ましい。なお、攪拌羽根を備えない粉砕装置を用いる場合、粉砕装置の攪拌速度は、500〜2500rpmであるのが好ましく、特に1500〜2000rpmであるのが好ましい。また、粉砕装置による粉砕処理時間は0.5〜3時間程度であればよい。
【0039】
有機溶剤は、得られる製膜溶液における配合割合が66〜72質量%となるように配合するのが好ましく、特に当該配合割合が68〜72質量%となるように配合するのが好ましい。
【0040】
また、親水性無機材料は、得られる製膜溶液における配合割合が14〜23質量%となるように配合するのが好ましく、特に当該配合割合が14〜19質量%となるように配合するのが好ましい。
【0041】
混合液の調製に際して、有機溶剤に分散剤を添加するのが好ましい。分散剤を添加することで、混合液における親水性無機材料の分散性を向上させることができるとともに、得られる製膜溶液における親水性無機材料の再凝集を抑制し、製膜溶液のチキソトロピー性の発現を抑制することができる。その結果として、製膜溶液の粘性を安定化させることができるため、安定した粘度条件で製膜を行うことができ、製造されるイオン透過性隔膜のガス耐圧性能を向上させることができる。また、ガス耐圧性に優れたイオン透過性隔膜を、良好な再現性をもって製造することができる。
【0042】
分散剤としては、例えば、オレイン酸等の不飽和脂肪酸;リン酸エステル塩系の湿潤分散剤;アミン塩、アミド系の分散剤等が挙げられ、これらのうちの一種を単独で、又は二種以上を混合して用いることができる。
【0043】
分散剤の添加量は、親水性無機材料に対して3〜20質量%であるのが好ましく、特に10〜15質量%であるのが好ましい。この添加量であれば、混合液における親水性無機材料の分散性を向上させることができるとともに、得られる製膜溶液における親水性無機材料の再凝集を抑制することができ、製膜溶液のチキソトロピー性の発現を抑制することができる。また、分散剤の添加量を調整することで、得られる製膜溶液の粘度を制御することができる。
【0044】
このようにして得られる混合液から、粉砕媒体を分離する。粉砕装置にて親水性無機材料が微細化されると、次第に混合液の粘度が高くなるおそれがあるが、本実施形態においては、混合液に有機結合材料が含まれていなく、混合液の粘度が比較的低いため、混合液から粉砕媒体を短時間に、かつ容易に分離することができ、混合液の回収率を極めて高くすることができる。これにより、製膜溶液の調製量を増大させることができる。
【0045】
混合液から粉砕媒体を分離する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、真空濾過等により行えばよい。
【0046】
次に、粉砕媒体が分離された混合液に有機結合材料を溶解させる。
有機結合材料としては、例えば、イオン透過性隔膜の運転条件下で安定であり、溶剤中に溶解し、かつ溶剤から沈殿でき、さらに織布支持体及び無機酸化物又は水酸化物を攻撃しない任意の種類の有機材料を使用することができる。このような有機結合材料としては、フッ化ポリビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンのようなフルオロカーボン重合体、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール等を用いることができる。これらの中では、特にポリスルホンが好適である。
【0047】
混合液に有機結合材料を溶解させる際には、好ましくは70〜120℃、特に好ましくは80〜90℃の温度条件下で混合液に有機結合材料を溶解させる。溶解温度が70℃以上であることで、有機結合材料の溶解時間を短縮することができ、具体的には12時間以内、好ましくは6時間程度で混合液に有機結合材料を溶解することができる。また、溶解温度が120℃を超えると、有機結合材料が変性してしまうおそれがある。
【0048】
有機結合材料は、得られる製膜溶液における配合割合が11〜14質量%となるように配合するのが好ましく、特に当該配合割合が13〜14質量%となるように配合するのが好ましい。
【0049】
製膜溶液における有機結合材料と親水性無機材料との配合比(質量基準)は、1:1〜2であり、好ましくは1:1〜1.5であり、特に好ましくは1:1である。有機結合材料と親水性無機材料との配合比が上記範囲内であれば、製膜溶液のチキソトロピー性の発現を抑制することができるため、製膜溶液の粘度(25℃)を所定の範囲で安定化させることができる。
【0050】
続いて、混合液に有機結合材料を溶解させて得られた懸濁液(製膜溶液)を、ホモジナイザーを用いて攪拌する。ホモジナイザーを用いた懸濁液の攪拌処理は、2000〜5000rpmで3〜10分間行うことができる。これにより、製膜材料(主に、親水性無機材料)が均一に混合・分散されることになり、かかる製膜溶液から得られるイオン透過性隔膜のガス耐圧性能を向上させることができる。
【0051】
かかる攪拌処理に使用し得るホモジナイザーとしては、例えば、高速回転型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0052】
最後に、このようにして調製された製膜溶液を、真空脱泡装置を用いた脱泡処理に付し、製膜溶液中に含まれる微細な気泡を除去する。微細な気泡が含まれたままの製膜溶液を用いてイオン透過性隔膜を製造すると、イオン透過性隔膜の膜層に気泡が混入し、得られるイオン透過性隔膜にピンホールが発生するおそれがあり、これにより隔膜のガス耐圧が低下するおそれがある。したがって、調製された製膜溶液を脱泡処理に付することで、製造されるイオン透過性隔膜におけるピンホールの発生を抑制することができ、ガス耐圧性能に優れたイオン透過性隔膜を製造することができる。
【0053】
なお、上記脱泡処理は、製膜溶液を攪拌しながら行うのが好ましい。粉砕装置でのCaFの微細化により、得られる製膜溶液の粘性が高くなり、静置状態での脱泡処理では製膜溶液に気泡が残留してしまうおそれがあるが、攪拌により製膜溶液に剪断応力を与えることで、製膜溶液の粘性を低下させることができ、気泡を容易に除去することができる。
【0054】
上記脱泡処理は、1〜5時間程度行えばよく、好ましくは2.5〜4時間程度行えばよい。かかる時間をかけて脱泡処理を行うことで、製膜溶液中の微細な気泡を十分に除去することができる。
【0055】
上述のようにして調製される製膜溶液は、製膜溶液調製後からイオン透過性隔膜の製造に使用されるまでの間、密閉系で製膜溶液を緩やかに(60rpm程度)攪拌しておくのが好ましい。攪拌しておくことで、親水性無機材料の再凝集をより抑制し、製膜溶液の性状をより安定化させることができる。
【0056】
このようにして調製される製膜溶液の粘度(25℃)は、1500〜3000mPa・s程度であり、後述する実施例にて明らかなように、製膜溶液に与える剪断応力に依存することなく、安定した粘性を有することになる。したがって、安定した粘度条件で製膜処理に使用し得ることとなり、ガス耐圧性能に優れるイオン透過性隔膜を、良好な再現性をもって製造することができる。
【0057】
以上説明したように、本実施形態に係る製膜溶液の調製方法によれば、有機結合材料と親水性無機材料との配合比を所定の範囲内に設定することで、製膜溶液におけるチキソトロピー性の発現を抑制し、製膜溶液の性状を安定化させることができる。結果として、安定した性状の製膜溶液を用いてイオン透過性隔膜を製造することができ、得られる隔膜の膜厚を薄くし、電気抵抗を小さくし、かつガス耐圧性能を向上させることができる。また、良好な再現性をもって当該隔膜を製造することができる。
【0058】
さらに、製膜溶液の調製にあたりビーズミル等の粉砕装置を用いたとしても当該粉砕装置を安定的に運転することができ、短時間に、かつ高い回収率で製膜溶液を調製することができる。しかも、ビーズミル等の粉砕装置にて有機溶剤に親水性無機材料を微細化しながら分散させ、ビーズを分離した後に有機結合材料を溶解させることで、有機溶剤の配合量を低減させても、粉砕装置の安定的な運転が可能であるため、高粘度(1500〜3000mPa・s,25℃)の製膜溶液を調製することができる。
【0059】
そして、本実施形態に係る製膜溶液の調製方法によれば、従来の方法に比して製膜溶液の調製量を増大させることができるため、製造されるイオン透過性隔膜の長さを増加させることができ、イオン透過性隔膜を効率的に製造することができるようになる。
【0060】
上述のようにして調製された製膜溶液を用い、例えば、図1に示すイオン透過性隔膜の製造装置によりイオン透過性隔膜を製造することができる。
【0061】
図1に示すように、イオン透過性隔膜の製造装置1は、有機性繊維布2の原反ロール3と、第1のガイドロール8Aと、この第1のガイドロール8Aの下側に設置された図示しない駆動装置を備えた一対のカレンダーロール4A,4Bと、このカレンダーロール4A,4B上に配置された塗工機構たる製膜溶液Lを受ける断面略V字状の塗工部材6と、この塗工部材6に製膜溶液Lを供給する給液装置5とを有する。そして、このカレンダーロール4A,4Bの下方には抽出槽7が配置されていて、この抽出槽7の底部側には第2のガイドロール8Bが固設されていて、抽出槽7の外側には図示しない駆動装置を備えた送給機構たる一対のニップロール9A,9Bが設けられている。
【0062】
そして、本実施形態においては、カレンダーロール4A,4Bは、それぞれその両側が枠体10A,10Bにより支持されていて、この枠体10A,10Bに接続されたシリンダ機構11A,11Bによりそれぞれ水平方向にわずかに移動可能となっており、その間隙が調整可能となっている。また、第1のガイドロール8Aは、その図示左端がカレンダーロール4A,4Bの間隙の垂直上方に位置しており、第2のガイドロール8Bは、その図示右端がカレンダーロール4A,4Bの間隙の垂直下方に位置している。さらに、原反ロール3は図示しない制動機構により所定の負荷をもって回動するように制御可能となっており、この回動負荷と一対のニップロール9A,9Bの引張力とにより有機性繊維布2の送給速度及び張力が調整可能となっている。
【0063】
上述したようなイオン透過性隔膜の製造装置1において、有機性繊維布2としては、特に制限はないが、ポリプロピレンからなるメッシュ、エチレンとモノクロロトリフルオロエチレン等の予めハロゲン化されたエチレンとの共重合体からなるメッシュ、ポリアミド(ナイロン(登録商標))からなるメッシュ等を用いることができる。製膜溶液に親水性無機材料が含まれることで、疎水性の有機性繊維布2と、親水化した膜層との密着性が低下し、得られるイオン透過性隔膜1において膜層が有機性繊維布2から剥離してしまうおそれがある。その結果として当該隔膜1のガス耐圧性能が低下してしまうが、有機性繊維布2として親水性基を有するポリアミドからなるメッシュを用いることで、有機性繊維布2と膜層との密着性が増加し、膜層が有機性繊維布2から剥離するのを抑制することができ、イオン透過性隔膜1のガス耐圧性能を向上させることができる。
【0064】
この有機繊維布2としては、織布又は不織布を用いることができ、その繊維径は1mm以下であることが好ましく、特に繊維径が0.5mm以下であることが好ましい。また、有機繊維布2の織目の寸法は特に制限はないが、4mm以下であることが好ましく、特に1mm以下であることが好ましい。
【0065】
次に、上述したようなイオン透過性隔膜の製造装置1を用いたイオン透過性隔膜の製造方法について説明する。
〔初期工程〕
図2に示すように、原反ロール3には有機性繊維布2が巻装されており、当該有機繊維布2を、あらかじめ第1のガイドロール8Aを経由して塗工部材6及びカレンダーロール4A,4B間に通し、さらに第2のガイドロール8Bを経てニップロール9A,9B間に通しておく。このとき抽出槽7は空となっており、カレンダーロール4A,4Bを移動させて所定の間隙に調整する。このカレンダーロール4A,4Bの間隙は、有機性繊維布2の厚さと所望とするイオン透過性隔膜の厚さとに応じてシリンダ機構11A,11Bにより適宜設定すればよいが、具体的には0.1〜1mmとすればよい。
【0066】
この状態で図3に示すように抽出槽7に溶媒抽出液としての水Wを所定の位置まで満たしたら、ニップロール9A,9Bを駆動する。このとき図示しない制御手段によりニップロール9A,9Bの引張力を制御することにより、原反ロール3の負荷とともに有機性繊維布2の送給速度及び張力を調整することができる。具体的には、有機性繊維布2の送給速度を1〜25m/分、張力を70〜250N/幅の範囲内で適宜調整すればよい。これにより、有機性繊維布2を伸張させ、ヨレを無くし、厚みムラや気泡の浸入を抑制することができる。
【0067】
〔塗工工程〕
続いて、給液装置5から製膜溶液Lを断面略V字状の塗工部材6に供給する。これにより製膜溶液Lは、塗工部材6における断面略V字状の両側の斜面に沿って幅方向に広がりながらカレンダーロール4A,4B間に流下する。この状態で有機性繊維布2がカレンダーロール4A,4B間を通過することで、有機性繊維布2への気泡の浸入を防止しつつ両面に製膜溶液を塗布するとともに、カレンダーロール4A,4B間で圧接することにより、製膜溶液Lが有機性繊維布2の繊維内に滲入する。
【0068】
〔抽出工程〕
続いて、有機性繊維布2の送給を続けると、有機性繊維布2はカレンダーロール4A,4Bから抽出槽7に浸漬される。これにより有機性繊維布2に塗布された製膜溶液Lの両面における偏りを防止することができる。そして、この状態を3〜10分程度保持して親水性無機材料を凝固させるとともに製膜溶液L中の溶媒成分を抽出槽7の水Wに溶出させることで緻密層を形成することができる。本実施形態においては、第2のガイドロール8Bの図示右端がカレンダーロール4A,4Bの間隙の垂直下方に位置しているので、有機性繊維布2はカレンダーロール4A,4Bからそのまま垂下して抽出槽7に浸漬されることになる。これにより有機性繊維布2に塗布された製膜溶液Lの両面における偏りを防止することができる。
【0069】
〔絞り工程〕
さらに、このようにして製膜溶液Lによる緻密層を形成した有機性繊維布2は、第2のガイドロール8Bからニップロール9A,9Bに誘導され、余分な水分が除去される。以上により製造時のピンホールの発生や厚みムラ、ヨレを抑制して歩留りを改善したイオン透過性隔膜2Aを製造することができる。
【0070】
本実施形態により調製された製膜溶液を用いて製造されるイオン透過性隔膜は、従来の製膜溶液を用いて製造されるイオン透過性隔膜より優れたガス耐圧性能を有する。具体的には、かかる隔膜のガス耐圧は、50〜200kPaであり、好ましくは100〜200kPaである。このような優れたガス耐圧性能を有しつつ、当該隔膜の膜厚は200〜600μm、好ましくは300〜400μmであり、電気抵抗は0.5〜2.0Ω・cm、好ましくは0.5〜1.0Ω・cmである。
【0071】
上述したように、本実施形態により調製される製膜溶液は、有機結合材料と親水性無機材料とを所定の配合比で含有するとともに、所定量の分散剤を含有することで、チキソトロピー性の発現が抑制され、最適な粘性を維持した状態で製膜処理に用いることができる。さらに、親水性無機材料の平均粒子径が0.5μm以下であることで、緻密化された膜層を形成することができ、また脱泡処理を施すことで、気泡の残留によるピンホールの発生を抑制することができる。よって、本実施形態により調製される製膜溶液を製膜に用いることで、膜厚が薄く、電気抵抗が小さく、かつ優れたガス耐圧性能を有するイオン透過性隔膜を製造することができる。
【0072】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は特に制限はなく、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0073】
上記実施形態においては、図1に示す製造装置を用いてイオン透過性隔膜を製造しているが、これに限定されるものではなく、例えば、製膜溶液をガラス板等の不活性材料からなる平滑面上に所定の厚さに均一に塗布し、湿潤シートを製造し、この湿潤シートに有機繊維布を伸張した状態で浸漬し、有機繊維布の伸張を維持したまま、蒸発や水浴中での浸出等により有機溶剤を除去した後、平滑面に残った膜材料を剥離することによりイオン透過性隔膜を製造してもよい。
【0074】
図1に示すイオン透過性隔膜の製造装置により当該隔膜を製造する場合において、例えば、絞り工程としては他の手段を用いることができる。また、絞り工程は必ずしも必要ではなく、乾燥、静置等により余分な水分を除去してもよい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例等により何ら限定されるものではない。
【0076】
〔実施例1〜2,比較例1〕
[製膜溶液の調製]
親水性無機材料としてフッ化カルシウム(キシダ化学社製,CaF)、有機結合材料としてポリスルホン(ソルベイアドバンスドポリマーズ社製,P−3500,PSU)、及び有機溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(キシダ化学社製,特級,NMP)を用い、以下のようにして製膜溶液(実施例1〜2,比較例1)を調製した。
【0077】
ビーズミル(アシザワファインテック社製,ミニツェア)のポット内にNMP、CaF、分散剤としてオレイン酸及びリン酸エステル系分散剤(BYK-Cera社製,DISPRBYK-145)、並びに適当量のジルコニア製ビーズ(φ0.8mm)を投入し、攪拌速度を攪拌羽根先端の線速度で6m/sec、攪拌時間を2時間として攪拌・混合し、フッ化カルシウムを微細化しながら分散させた。
【0078】
得られた混合液からビーズを真空濾過により分離し、マントルヒーターで85℃に昇温させた。その後、PSUを少量ずつ添加して攪拌しながら溶解させた。
【0079】
このようにして得られた懸濁液500mLを、ホモジナイザー(日本精機社製,製品名:EXCELAUTO HOMOGENIZER)を用いて5000rpmで5分間攪拌し、900mLの蓋付ガラス瓶に回収した。この懸濁液を真空脱泡装置内で攪拌させながら1.5時間以上脱泡処理に付し、その後攪拌を停止して1時間以上脱泡処理を続け、製膜溶液(実施例1〜2,比較例1)を得た。
【0080】
実施例1〜2及び比較例1の製膜溶液におけるCaF,PSU及びNMPの配合比(質量基準)、並びに各製膜溶液におけるCaFの配合量に対する分散剤の添加量(質量%)を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
上述のようにして得られた各製膜溶液(実施例1〜2,比較例1)の粘度(25℃)を、E型粘度計(東機産業社製)を用いて測定した。測定結果を表2及び図4に示す。なお、図4中、横軸は粘度測定時におけるE型粘度計のローターの回転数(rpm)を示し、縦軸は製膜溶液の粘度(mPa・s)を示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表2及び図4に示すように、実施例1及び実施例2の製膜溶液は、回転数(剪断応力)による粘度変化が小さく、製膜溶液のチキソトロピー性を抑制し得ることが判明した。したがって、実施例1及び実施例2のように、PSUとCaFとの配合比(質量基準)を1:1にして製膜溶液を調製することで、当該製膜溶液を安定した粘度条件でイオン透過性隔膜の製造に使用し得ることが確認された。
【0085】
[イオン透過性隔膜の製造]
上述のようにして調製し、製膜直前まで60rpmで攪拌していた製膜溶液(実施例1〜2,比較例1)を用いて、下記のようにしてイオン透過性隔膜を製造した。
【0086】
図1に示す隔膜製造装置において、110メッシュのナイロン製織布(NBC社製,型番:N−No.110S,厚み:120μm,幅:850mm)を原反ロール3にセットし、あらかじめ第1のガイドロール8Aを経由して塗工部材6及びカレンダーロール4A,4B間を通し、さらに第2のガイドロール8Bを経てニップロール9A,9B間を通して伸張状態とした。
【0087】
カレンダーロール4A,4B間に断面略V字状の塗工部材6から製膜溶液(実施例1〜2,比較例1)を供給し、ニップロール9A,9Bを駆動した。このときナイロン製織布の送給速度を0.5m/分、張力を約100N/幅とした。これにより製膜溶液は、塗工部材6の断面略V字状の両側の斜面に沿って幅方向に広がりながら流下し、ナイロン製織布をカレンダーロール4A,4B間に通過させることにより、気泡の浸入を防止しつつ両面に製膜溶液が塗布され、さらに製膜溶液がナイロン製織布の繊維内に滲入する。なお、カレンダーロール4A,4Bの間隙は、製膜溶液を塗布した後のナイロン製織布の厚さが300μm程度となるようにあらかじめ調節した。
【0088】
続いて、ナイロン製織布の送給を続け、ナイロン製織布を垂下して抽出槽7に浸漬した。そして、ナイロン製織布の塗布部が第2のガイドロール8Bに到達する直前でニップロール9A,9Bを停止し、5分間保持して溶剤であるNMPを抽出させた。なお、抽出槽7内には、あらかじめ水深1mになるように純水を満たしておいた。
【0089】
その後、再度ニップロール9A,9Bを駆動して、ニップロール9A,9Bで余分な水分を除去した後切り取ることで、シート状のイオン透過性隔膜を得た。このようにして得られたイオン透過性隔膜の任意の10ヶ所の膜厚を測定した。また、得られたイオン透過性隔膜を47mmφの電解セルに組み込み、これら10ヶ所におけるガス耐圧をバブルポイント法により測定した。さらに、得られたイオン透過性隔膜を1mol/LのKOH溶液に浸漬し、これらのイオン透過性隔膜について、25℃で1000Hzの交流にて抵抗測定器(日置電機社製,LCRハイテスタ5030)を用いて電気抵抗を測定した。イオン透過性隔膜のサイズ、並びに膜厚、ガス耐圧及び電気抵抗の測定結果を表3に示す。
【0090】
【表3】

【0091】
表3に示すように、実施例1及び実施例2の製膜溶液から製造されたイオン透過性隔膜は、いずれも優れたガス耐圧性能を有することが判明した。しかも、実施例1及び実施例2の製膜溶液は、比較例1の製膜溶液に比して親水性無機材料の含有量が少ないにもかかわらず、かかる製膜溶液から製造されたイオン透過性隔膜は、比較例1の製膜溶液から製造されたイオン透過性隔膜と同等の電気抵抗を示すことが判明した。
【0092】
このように、実施例1及び実施例2の方法により調製された製膜溶液によれば、膜厚が薄く、電気抵抗が小さく、かつガス耐圧性能に優れたイオン透過性隔膜を製造可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0093】
1…イオン透過性隔膜の製造装置
2…有機性繊維布
2A…イオン透過性隔膜
3…原反ロール
4A,4B…カレンダーロール
5…給液装置
6…塗工部材
7…抽出槽
8A…第1のガイドロール
8B…第2のガイドロール
9A,9B…ニップロール
L…製膜溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性無機材料、有機結合材料及び有機溶剤を含有するイオン透過性隔膜製造用製膜溶液を調製する方法であって、
粉砕媒体を用いる粉砕装置に前記親水性無機材料と前記有機溶剤とを投入して、前記親水性無機材料を前記有機溶剤に分散させる分散工程と、
前記親水性無機材料が分散してなる前記有機溶媒に、前記有機結合材料を溶解させる溶解工程と
を含み、
前記有機結合材料と前記親水性無機材料との配合比(質量基準)が、1:1〜2であることを特徴とする製膜溶液調製方法。
【請求項2】
前記親水性無機材料を14〜23質量%、前記有機溶剤を66〜72質量%、前記有機結合材料を11〜14質量%配合することを特徴とする請求項1に記載の製膜溶液調製方法。
【請求項3】
前記分散工程において、前記親水性無機材料の配合量に対して3質量%以上の分散剤を前記有機溶剤に添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の製膜溶液調製方法。
【請求項4】
前記溶解工程において、70〜120℃の温度条件下で前記有機溶剤に前記有機結合材料を溶解させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製膜溶液調製方法。
【請求項5】
前記親水性無機材料が分散してなる前記有機溶剤から前記粉砕媒体を分離した後、前記溶解工程において、前記有機溶剤に前記有機結合材料を溶解させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製膜溶液調製方法。
【請求項6】
前記製膜溶液中に含まれる前記親水性無機材料の平均粒子径が、0.1〜0.5μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の製膜溶液調製方法。
【請求項7】
前記粉砕装置が、ビーズミルであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の製膜溶液調製方法。
【請求項8】
前記溶解工程により得られた懸濁液に含まれる気泡を、当該懸濁液を攪拌しながら除去する脱泡工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の製膜溶液調製方法。
【請求項9】
前記溶解工程により得られた懸濁液を、ホモジナイザーを用いて攪拌した後に、前記気泡を除去することを特徴とする請求項8に記載の製膜溶液調製方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製膜溶液調製方法により調製された製膜溶液を用いて製造されてなるイオン透過性隔膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−122186(P2011−122186A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278668(P2009−278668)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)