説明

イソシアヌレート基含有ポリイソシアネートの製法

【構成】 イソシアネート化合物のイソシアネート基の一部の三量化反応を行い、触媒被毒物質により反応を停止することによる行われる、イソシアヌレート環を有するポリイソシアネートの合成において、触媒として特定のアルキル鎖を有するテトラアルキルアンモニウムカルボキシレートを使うことを特徴とする合成法。
【効果】 イソシアヌレート環を有するポリイソシアネートを安定的に製造する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートの製法に関し、さらに詳しくは、イソシアヌレート環を有するポリイソシアネートを安定的に製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】分子内に耐候性、耐熱性、耐薬品性などに優れるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートは塗料、接着剤、エラストマー、人工皮革、フォームなどのポリウレタンの原料、及びプラスチックレンズ等の材料として利用される。製法については、特開平2ー258771号、特開平2ー11554号、特開平2ー3682号、特開平2ー110123号、特開平2ー250872号、特開平2−6480号、特開平2ー32068号、特開平2ー6454号、特開平1ー297420号、特開平1ー149821号、特開昭61ー111371号、特開昭60ー181078号、特開昭60ー181114号公報等、多くの特許出願がなされている。
【0003】これらの特許出願により提案されている触媒は、ヒドロキシアルキル基含有第四級アンモニウム、水酸化第四級アンモニウム、ヒドロキシアルキル基含有第四級アンモニウムカルボキシレート、フッソ化第四級アンモニウムである。これらの触媒のうち、ヒドロキシアルキル基含有第四級アンモニウムは自己分解性が高く着色の原因となり、触媒保存時に分解、酸化等により触媒活性劣化を起こす。水酸化第四アンモニウムは強アルカリ性のため、触媒保存中に空気中の二酸化炭素と反応しやすい上に、反応中ゲルが発生し反応が均一に進行しないと言った問題点を有する。
【0004】さらに、特開昭63ー57577号公報に記載の、炭素数1〜4のアルキル基を有し、かつ、全炭素数の総計が4〜12である第四アンモニウムのカルボキシレートは優れた触媒系ではあるが、触媒自身の吸湿性が強く、触媒保存時、吸湿によると思われる活性低下が生じる。このため、触媒の活性を一定に保ち、安定的に製造するためには、触媒の保存、取り扱いに多大な注意を要する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】イソシアヌレート環を有するポリイソシアネートを、安定的に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、鋭意研究検討を重ねた結果、特定のアルキル基を有するテトラアルキルアンモニウムカルボキシレートを用いることにより前記課題を解決する方法を見出し本発明に至った。即ち、本発明は、単量体ジイソシアネート、及び、単量体ジイソシアネートと1〜3官能性のアルコールとの予備ウレタン化反応物から選ばれた、少なくとも1種のイソシアネート化合物のイソシアネート基の一部の三量化反応を行い、次いで、触媒被毒物質により反応を停止することによる、イソシアヌレート環を有するポリイソシアネートの合成において、触媒として下記(1)式で表されるテトラアルキルアンモニウムカルボキシレートを使うことを特徴とするイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートの製法に関するものである。
【0007】
1 2 3 4 + /R5 COO- ・・・(1)
(式中R1 、R2 、R3 、R4 の少なくとも1つは炭素数4以上のアルキル基であり、かつ、R1 、R2 、R3 、R4 式中の炭素数の合計が13から50であり、R5 は炭素数1〜18のアルキル基、フェニル基またはベンジル基を表す。)本発明において、イソシアネート化合物は、脂肪族イソシアネート、芳香族イソシアネート等の単量体ジイソシアネート、および、これら単量体ジイソシアネートと1〜3官能性のアルコールとの予備ウレタン化反応物である。
【0008】脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)及び2,4,4(または2,2,4)ートリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)が等あげられる。芳香族ジイソシアネートの例は、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルイジンジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)及びナフタレンジイソシアネート(NDI)があげられる。
【0009】これら単量体ジイソシアネートは、最終製品の使用目的に応じ任意に選択されるが、特に非黄変性が要求される場合には脂肪族ジイソシアネートが好ましい。1〜3官能性のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級脂肪族一価アルコールのほか、エチレングリコール、プリピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、1,2,6ーヘキサントリオール等の低級脂肪族多価アルコール、及び分子量約200〜10000のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等である。
【0010】三量化反応を行うイソシアネート化合物は前記例示の少なくとも二種以上のイソシアネート化合物からなる混合物であっても良い。テトラアルキルアンモニウムカルボキシレートとしては、例えば、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、テトラデシルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルベンジルジメチルアンモニウム等のそれぞれ酢酸塩、プロピオン酸塩、ヘキサン酸塩、2ーエチルヘキサン酸塩、カプリン酸塩、ナフテン酸塩、ミリステン酸塩、ステアリン酸塩、安息香酸塩等が挙げられる。触媒濃度は使用する触媒及び反応温度により異なるが、通常、単量体ジイソシアネートに対して、10ppm 〜1%の範囲から選択される。
【0011】反応の進行は、反応液のNCO%測定、赤外分光測定、屈折率測定等で追跡することができる。反応が所望の転化率に達した時点で、触媒被毒物質の投入により触媒を失活させて反応を停止する。イソシアヌレートへの転化反応が進み過ぎると、三量化と共に五量化、七量化が部分的に生じ生成物の粘度が上昇するため、反応は、イソシアネート化合物の転化率が5〜70%の範囲で行うのが一般的であり、10〜60%の範囲で行うのが好ましい。
【0012】上記触媒被毒物質としては、たとえば、塩酸、りん酸、硫酸、ジクロロ酢酸、ベンゾイルクロライド、アセチルクロライド等の酸性物質が用いられる。触媒被毒物質の使用量は、触媒1当量あたり、好ましくは、0.4〜100当量さらに好ましくは0.6〜40当量である。反応は溶剤を用いても、用いなくてもよい。溶剤を用いる際には当然、イソシアネート基にたいして反応活性を持たない溶剤を選択すべきである。
【0013】反応温度は通常20〜160℃、好ましくは40〜120℃の範囲から選ばれる。反応を停止した後、過剰の単量体ジイソシアネートおよび溶剤を除去して製品を得る。この単量体ジイソシアネートおよび溶剤の除去は、例えば、薄膜蒸留法や溶剤抽出法により行われる。
【0014】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。また、触媒の保存試験は下記のように行った。なお、本発明はこれらに制限されるものでない。
(触媒の保存試験)触媒を20℃、湿度65%RHで一週間開放保存し、ポリイソシアネート合成において転化率が20%に達するまでに必要な触媒量を、試験前後で比較する事で保存安定性を判断した。
【0015】
【実施例1】
(触媒の合成)水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液にカプリン酸、nーブタノールを加えた後、減圧共沸蒸留し、30%テトラブチルアンモニウム・カプリエート/n−ブタノール溶液を作りポリイソシアネート合成反応に使用した。
(ポリイソシアネートの合成)温度計、撹はん機、窒素シール管を備えたガラス製四つ口フラスコに、単量体ジイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネート1000gを仕込み、フラスコ内の空気を窒素で置換し、撹はんしながら60℃に加熱した。反応液の屈折率測定により、ヘキサメチレンジイソシアネートの転化率が20%になるまで触媒を徐々に添加し、20%になった時点で85%りん酸水溶液を0.5g添加して反応を停止した。保存試験前の触媒では、必要触媒量はヘキサメチレンジイソシアネートに対して300ppmであった。保存試験後の触媒では、必要触媒量は305ppmであり、活性の低下はほとんど認められなかった。
【0016】
【実施例2】実施例1と同様にしてテトラヘキシルアンモニウム・酢酸塩・/nーブタノールを合成し、ポリイソシアネート合成は実施例1の手順を繰り返した。保存試験前のものでは、必要触媒量は450ppmであった。保存試験後のものでは、必要触媒量は455ppmであり、活性の低下はほとんど認められなかった。
【0017】
【実施例3】テトラブチルアンモニウム・カプリン酸塩にかえてヘキサデシルトリメチルアンモニウム・プロピオン酸塩を使う以外は実施例.1の手順を繰り返した。保存試験前のものでは、必要触媒量は310ppmであった。保存試験後のものでは、必要触媒量は310ppmであり、活性の低下はほとんど認められなかった。
【0018】
【比較例1】テトラブチルアンモニウム・カプリン酸塩にかえて、ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム/nーブタノールを使う以外は、実施例1の手順を繰り返した。保存試験前のものでは、必要触媒量は50ppmであった。保存試験後のものでは、必要触媒量は100ppmであり、著しい活性の低下が認められた。
【0019】
【比較例2】テトラブチルアンモニウム・カプリン酸塩にかえて、テトラプロピルアンモニウム・カプリン酸塩を使う以外は、実施例1の手順を繰り返した。保存試験前のものでは、必要触媒量は250ppmであった。保存試験後のものでは、必要触媒量は330ppmであり、著しい活性の低下が認められた。
【0020】
【発明の効果】イソシアヌレート環を有するポリイソシアネートの合成において、触媒として特定のアルキル鎖を有するテトラアルキルアンモニウムカルボキシレートを使うことでより安定的に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】単量体ジイソシアネート、及び、単量体ジイソシアネートと1〜3官能性のアルコールとの予備ウレタン化反応物から選ばれた、少なくとも1種のイソシアネート化合物のイソシアネート基の一部の三量化反応を行い、次いで、触媒被毒物質により反応を停止することによる、イソシアヌレート環を有するポリイソシアネートの合成において、触媒として下記(1)式で表されるテトラアルキルアンモニウムカルボキシレートを使うことを特徴とする、イソシアヌレート基含有ポリイソシアネートの製法。
1 2 3 4 + /R5 COO- ・・・(1)
(式中R1 、R2 、R3 、R4 の少なくとも1つは炭素数4以上のアルキル基であり、かつ、R1 、R2 、R3 、R4 式中の炭素数の合計が13から50であり、R5 は炭素数1〜18のアルキル基、フェニル基またはベンジル基を表す。)

【公開番号】特開平6−166677
【公開日】平成6年(1994)6月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−323012
【出願日】平成4年(1992)12月2日
【出願人】(000000033)旭化成工業株式会社 (901)