説明

イソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法および該方法で得られる豆乳を利用した飲食品

【課題】 豆乳等のようなイソフラボン化合物を含有するイソフラボン含有豆乳素材にジグリコシダーゼを作用させて得られる組成物や、これを副原料と混合して調製した飲食物を摂取した際に生じる舌や咽への強い刺激味の問題を改善することのできるイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 イソフラボン含有豆乳素材にジグリコシダーゼを作用させ、イソフラボン含有豆乳素材中のイソフラボン化合物をそのアグリコンに変えるイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法であって、作用させたジグリコシダーゼを失活させる工程およびpHを3.0〜5.0の範囲に調整する工程を含むことを特徴とするイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソフラボンアグリコンを高濃度で含有しながら、風味が良好なイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法および該方法で得られる豆乳を利用した飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の健康への関心の高まりに伴い、体に良いものを毎日の食生活の中で手軽に且つ豊富に摂取することができる方法が求められ、様々な生理機能を有する食品素材を利用した飲食品が検討されるようになってきている。
【0003】
このような食品素材の中でも、豆乳は良質の蛋白質を豊富に含み栄養価に優れた食品素材として注目されており、これを用いた各種飲食品が数多く考案され、その利用方法も広範囲に及んでいる。また、この豆乳に含まれるイソフラボン化合物や、大豆蛋白を分解して得られる大豆ペプチド等が種々の生理効果を有することも知られている。具体的には、脂質代謝改善効果(非特許文献1)、骨代謝改善効果(非特許文献2)、癌の予防効果(非特許文献3ないし5)等が報告されている。そして、これらの生理効果が期待できる飲食品、すなわち、豆乳に含まれるイソフラボン化合物や大豆蛋白分解物である大豆ペプチドを高含有し、かつ効率よく摂取できることを目的とした飲食品の開発が進められている(特許文献1ないし3)。
【0004】
しかしながら、イソフラボン化合物や大豆ペプチドを効率よく摂取できる飲食品の開発には課題が多く、十分に満足ゆくものが提供されているとは言えなかった。特に、豆乳に含まれるイソフラボン化合物自体が吸収性に乏しいため、イソフラボン化合物による種々の生理効果を得るためには、単に豆乳を利用するだけでは不十分であり、イソフラボン化合物の吸収性を高める必要があった。
【0005】
そこで、最近ではイソフラボン化合物の吸収性を高めるための手段が報告されている。具体的には、豆乳に、イソフラボン化合物を吸収性の高いアグリコンに変換する能力を有する乳酸菌やビフィズス菌等の微生物を作用させ、イソフラボンアグリコンを高濃度で含む発酵豆乳を得ることが報告されている(特許文献4ないし6)。
【0006】
しかしながら、上記のようにイソフラボン化合物の吸収性を高めるために微生物による発酵処理を行った豆乳のうちには、豆乳の持つ本来の風味が著しく損なわれるだけでなく、大豆由来の苦味や渋味等の風味が強調されたものもあった。また、これらの発酵豆乳には、品質の劣化等の問題、具体的には、微生物の発酵に伴う酸味や発酵臭味の産生や大豆由来の苦味や渋味の強調等の影響を受けた風味劣化、あるいは保存中の品質劣化が生じる場合もあり、必ずしも消費者の嗜好を満足させるには十分とはいえなかった。そのため、発酵処理を行った豆乳では、風味の改善や品質管理に注意を払う必要がある等、そのままあるいはそれを利用して飲食品とするには問題が多かった。
【0007】
一方、上記のように各種微生物による発酵処理を行わずにイソフラボン化合物をアグリコンに変換する方法として、イソフラボン化合物を加水分解酵素で処理する方法も報告されている。具体的には、アルカリ処理により得たイソフラボングルコンにα−ガラクトシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコ−アミラーゼ、ペクチナーゼを作用させる方法(特許文献7)が報告されている。また、イソフラボン化合物をジグリコシダーゼによりアグリコンに変換する方法も、本発明者が以前に報告している(特許文献8)。
【0008】
上記の酵素を使用してイソフラボン化合物をそのアグリコンに変換する方法のうちでは、ジグリコシダーゼを使用する方法が最もアグリコンへの変換効率が高いが、本発明者らの研究によれば、ジグリコシダーゼを作用させて得られた豆乳組成物は、そのままあるいは副原料と混合して飲食した場合に、舌や咽に刺さるような強い刺激味を感じ、非常に飲食し難いものであった。しかも、このような飲食時に感じる舌や咽への刺激味は、発酵豆乳やその他一般的に異味異臭のマスキングや風味の改善を目的として配合される各種糖質や香料等の副素材を配合しても十分に改善できるものではなかった。
【0009】
【特許文献1】特許第3289770号公報
【特許文献2】特許第3269519号公報
【特許文献3】特開平10−262619号公報
【特許文献4】特許第3014145号公報
【特許文献5】特開平8−214787号公報
【特許文献6】特開2000−139411号公報
【特許文献7】特開平10−117792号公報
【特許文献8】国際公開公報第WO01/73102号パンフレット
【非特許文献1】Anthony et al. Journal of Nutrition 126 , 43-50 (1996)
【非特許文献2】Ishida et al. Biological & Pharmaceutical Bulletin 21, 62-66 (1998)
【非特許文献3】Okura et al. Biochem. Biophys. Res. Commun., 2, 271,(1990)
【非特許文献4】Sharm et al. J. Steroid Biochem. Mol. Biol., 43, 557(1992)
【非特許文献5】Zwiller et al. Oncogene, 6, 219, (1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、豆乳等のようなイソフラボン化合物を含有するイソフラボン含有豆乳素材にジグリコシダーゼを作用させて得られる組成物や、これを副原料と混合して調製した飲食物を摂取した際に生じる舌や咽への強い刺激味の問題を改善することのできるイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法の提供をその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、豆乳等のイソフラボン含有豆乳素材にジグリコシダーゼを作用させるイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造において、作用させたジグリコシダーゼを失活させる工程および系のpHを3.0〜5.0の範囲に調整する工程を加えることにより、上記の舌や咽への強い刺激味を大きく抑制しうることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明はイソフラボン含有豆乳素材にジグリコシダーゼを作用させ、イソフラボン含有豆乳素材中のイソフラボン化合物をそのアグリコンに変えるイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法において、作用させたジグリコシダーゼを失活させる工程およびpHを3.0〜5.0の範囲に調整する工程を含むことを特徴とするイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明は前記製造方法により得られたイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物を含有する飲食品を提供するものである。
【0014】
更に、本発明はジグリコシダーゼを作用させたイソフラボン含有豆乳素材を、ジグリコシダーゼを失活させる工程およびpHを3.0〜5.0の範囲に調整する工程に付すことを特徴とするイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の風味改善方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、イソフラボン含有豆乳素材にジグリコシダーゼを作用させた場合に生じる、飲食時の舌や咽に刺さるような刺激味を抑制した風味良好なイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物を製造することができる。
【0016】
従って、このイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物そのままあるいは様々な副原料と混合することにより、風味良好でイソフラボンアグリコン含量の高い各種飲食品とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
豆乳等のイソフラボン含有豆乳素材中のイソフラボン化合物にジグリコシダーゼを作用させ、この化合物をそのアグリコンにすることは、本発明者らが既に国際公開公報第WO01/73102号パンフレットおよび国際公開公報第WO00/18931号パンフレットに報告している。
【0018】
具体的に、ジグリコシダーゼを作用させるイソフラボン含有豆乳素材としては、大豆や脱脂大豆あるいはフレーク大豆等から常法により得られる豆乳、大豆粉、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白等の大豆蛋白等の一般に大豆が原料であって、イソフラボン化合物を含むものが挙げられ、これらのいずれを用いても良い。
【0019】
また、イソフラボン含有豆乳素材に作用させるジグリコシダーゼとしては、例えば、上記公報において報告されたものを例示することができる。これらは既存の加水分解酵素、例えば、グルコシダーゼが基質として利用し難い二糖配糖体に作用して該二糖配糖体より二糖単位で糖を遊離させる高い活性を有するものであり、具体的には、単一あるいは複数の種類の糖類より構成された直鎖および分岐糖鎖が水酸基を介して結合して存在する種々の配糖体を基質とし、結合した糖鎖を二糖単位で切断することができる点で、既存の加水分解酵素とは異なる性質を有するものである。また、ジグリコシダーゼは前記のように二糖単位での遊離活性を有するだけではなく、一分子の糖が水酸基を介して結合した配糖体をも基質とすることができる。
【0020】
このようなジグリコシダーゼは、国際公開公報第WO00/18931号パンフレットに記載の、ジグリコシダーゼを産生する微生物から得ることができる。具体的なジグリコシダーゼを産生する微生物としては、アスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、リゾプス(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、タラロマイセス(Talaromyces)属、モルチエレラ(Mortierella)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、アクチノプラネス(Actinoplanes)属等の微生物が挙げられる。より具体的な、ジグリコシダーゼを産生する微生物としては、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)IFO4407、アスペルギルス ニガーIAM2020、アスペルギルス フミガタス(Aspergillus fumigatus)IAM2046、ペニシリウム マルタイカラー(Penicillium multicolor)IAM7153等が挙げられる。これらの菌株は、財団法人発酵研究所(郵便番号532−8686、住所大阪府淀川区十三本町2丁目17−85、電話番号:06−6300−6555)または東京大学分子細胞研究所IAMカルチャーコレクション(郵便番号:113−0032、住所:東京都文京区弥生1−1−1、電話番号:03−5841−7827)に上記番号で保存されており、ここから入手できる。
【0021】
上記のジグリコシダーゼをイソフラボン含有豆乳素材に作用させる条件は、特に限定されるものではないが、イソフラボン化合物からアグリコンへの変換率、すなわち、アグリコンの生成量が50%以上、より好ましくは90%以上になるように反応温度、時間等の条件を適宜設定することが好ましい。豆乳中におけるアグリコンの生成率が50%よりも少ないとイソフラボンの持つ種々の生理効果を十分に得ることができないため好ましくない。具体的な条件としては、豆乳1kgに対してジグリコシダーゼを0.01〜1質量%、好ましくは0.05〜0.1質量%添加し、30〜70℃、好ましくは40〜60℃の処理温度、0.5〜4時間、好ましくは0.5〜2時間の処理時間が挙げられる。
【0022】
本発明のイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法は、上記のようにイソフラボン含有豆乳素材にジグリコシダーゼを作用させた後に、ジグリコシダーゼを失活させる工程およびpHを3.0〜5.0の範囲に調整する工程を行えばよい。
【0023】
上記のジグリコシダーゼを失活させる工程は、酵素を失活させる通常の条件で行えばよく、特に限定されるものではない。具体的な条件の例としては88〜92℃で5〜10分間の加熱処理もしくはそれと同等の効果を奏する熱処理が挙げられる。ここで前記加熱処理と同等の効果を奏する熱処理としては、例えば、95〜100℃で5〜10秒間の加熱処理が挙げられる。このような、ジグリコシダーゼの失活を行った後であってもイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物は舌や咽を刺すような刺激味が強いことが多いため、後記のpHを3.0〜5.0の範囲に調整する工程が必要となる。
【0024】
このpHを3.0〜5.0、好ましくは3.5〜4.2の範囲に調整する工程は、有機酸、無機酸あるいは果汁等の通常食品に添加される酸味剤を用いてイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物のpHを前記範囲に調整すればよい。具体的な酸味剤としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、コハク酸、アスコルビン酸等の有機酸、リン酸等の無機酸、あるいはリンゴ、ストロベリー、柑橘類等の各種果汁を挙げることができるが、豆乳自体の良好な風味を損なわないためには、有機酸を使用することが好ましく、中でも乳酸、リンゴ酸および酒石酸のいずれかまたはこれらを併用することが特に好ましい。このイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物のpHが5.0よりも高い場合には、舌や咽を刺すような独特の刺激味を十分に改善することできないため、該組成物をそのまま、あるいは各種飲食品とした場合には、飲食しにくいものとなる。逆にpHが3.0よりも低い場合には、酸味が強すぎて風味上の問題が生じるため好ましくない。このpHを3.0〜5.0の範囲に調整する工程は、ジグリコシダーゼの失活をさせる工程の前または後の何れでも良いが、失活前に調整した場合は、酵素失活のための加熱処理によって豆乳素材中の蛋白質が熱変性を起こす可能性があるため後が好ましい。
【0025】
上記した本発明の製造方法により、舌や咽への刺激性や、収斂味を改善された風味良好なイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物を得ることができる。得られたこのイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物はそのままあるいは副原料と混合して各種飲食品とすることができる。
【0026】
具体的に上記イソフラボンアグリコン含有豆乳組成物を飲食品とする場合には、必要に応じて各種糖質や乳化剤、増粘安定剤、甘味料等その他通常各種食品に使用される副原料を配合することができる。この副原料の具体的なものとしては、ショ糖、異性化糖、グルコース、フルクトース、パラチノース、ラクトース、キシロース、麦芽糖、オリゴ糖等の糖質、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール、アスパルテーム、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムK、ステビア等の高甘味度甘味料、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、ペクチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、大豆多糖類、グアガム、ローカストビーンガム、カラギナン、キサンタンガム、ゼラチン、寒天等の増粘安定剤を挙げることができる。その他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE等のビタミン類やカルシウム、鉄、マンガン、マグネシウム、亜鉛等のミネラル類等を配合することが可能である。これら副原料の添加時期には特に制限がなく、通常の飲食品の製造方法と同様に行えばよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例および試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制約されるものではない。
【0028】
試 験 例 1
酵素処理豆乳の評価:
固形分12.0%、粗脂肪2.5%、粗蛋白質4.7%、イソフラボン配糖体含量30mg/100gの豆乳(四国化工機社製)に酵素として、ジグリコシダーゼ(天野エンザイム社製)、既存の加水分解酵素であるβ-グリコシダーゼ(セルラーゼ:天野エンザイム社製)、アントシアナーゼ(アントシアナーゼYA−2:ヤクルト薬品工業社製)、およびペクチナーゼ(ペクチナーゼSS:ヤクルト薬品工業社製)、蛋白分解酵素であるα-アミラーゼ(ユニアーゼL:ヤクルト薬品工業社製)、タンナーゼ(キッコーマン社製)をそれぞれ0.05%添加し、50℃で1時間作用させた。その後、90℃で10分間加熱して添加した酵素を失活させ、酵素処理豆乳を得た。このようにして得られた酵素処理豆乳と酵素を添加していない豆乳について、それぞれの風味を下記の評価基準を用いて確認した。また、イソフラボン分解率を液体クロマトグラフィーによって分析、定量した。その結果を併せて表1に示す。
【0029】
<咽への刺激、収斂味に関する評価基準;評価1>
( 評 点 ) ( 内 容 )
5 : 刺激、収斂味ない
4 : わずかに刺激、収斂味ある
3 : やや刺激、収斂味ある
2 : 刺激、収斂味ある
1 : 刺激、収斂味強い
【0030】
<風味総合評価基準(評価2)>
( 評 点 ) ( 内 容 )
5 : 風味非常に良い
4 : 風味良い
3 : 普通
2 : 風味やや悪い
1 : 風味かなり悪い
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果から、添加した酵素のうち、ジグリコシダーゼ、β-グリコシダーゼ、アントシアナーゼ、ペクチナーゼ等の加水分解酵素を用いた場合には、吸収性の優れたイソフラボン化合物であるアグリコンが生成されており、特にジグリコシダーゼを用いた場合にアグリコンの生成量が多いことが認められた。一方で、加水分解酵素としてジグリコシダーゼを用いて処理した豆乳は、酵素で処理していない豆乳やその他の酵素で処理した豆乳に比べても風味が著しく悪く、舌や咽への刺激が強いという問題点があることが示された。
【0033】
試 験 例 2
酵素処理条件の検討:
固形分12.0%、粗脂肪2.5%、粗蛋白質4.7%、イソフラボン配糖体含量30mg/100gの豆乳(四国化工機社製)に酵素としてジグリコシダーゼ(天野エンザイム社製)を0.05%添加し、30℃、50℃、70℃で0.5、1、2時間作用させた。その後、90℃で10分間加熱して添加した酵素を失活させてジグリコシダーゼ処理豆乳を得た。このようにして得られたジグリコシダーゼ処理豆乳の風味を試験例1と同様の評価基準でそれぞれ確認した。その結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2の結果から、ジグリコシダーゼ処理豆乳中のアグリコン生成率(イソフラボン分解率)は、作用温度や作用時間によって大きく変動することが認められた。また、ジグリコシダーゼ処理豆乳の風味、中でも舌や咽への刺激味は、当該豆乳中のアグリコン生成率が高くなるに従って著しく悪くなる傾向が認められた。
【0036】
試 験 例 3
刺激味のマスキング効果の検討:
固形分12.0%、粗脂肪2.5%、粗蛋白質4.7%、イソフラボン配糖体含量30mg/100gの豆乳(四国化工機社製)に酵素としてジグリコシダーゼ(天野エンザイム社製)を0.05%添加し、50℃で1時間作用させた。その後、90℃で10分間加熱して酵素を失活させてジグリコシダーゼ処理豆乳を得た。このようにして得られたジグリコシダーゼ処理豆乳に、一般的に風味改善効果あるものとして知られている甘味料(蔗糖、トレハロース、アスパルテーム、スクラロース)、サイクロデキストリン(α−、β−、γ−サイクロデキストリン)、乳酸、マスキング香料(クオリティーブースター(ダニスコ社製)、テイストインプルーバー(IFF製)、ミルクフレーバー(IFF製))をそれぞれ表3の濃度で添加し、豆乳組成物を得た。このようにして得られた各豆乳組成物の風味を試験例1の評価1で確認した。その結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
表3の結果から、ジグリコシダーゼを作用して得られる豆乳組成物に一般的に風味改善効果が知られている、甘味料、サイクロデキストリン、マスキング香料を添加しても舌や咽への強い刺激味に対する風味改善効果は見られなかった。一方で、該豆乳組成物に乳酸を添加した場合には、風味の改善傾向が認められた。このときの豆乳組成物のpHは4.4であった。
【0039】
試 験 例 4
pHの検討:
固形分12.0%、粗脂肪2.5%、粗蛋白質4.7%、イソフラボン配糖体含量30mg/100gの豆乳(四国化工機社製)に酵素としてジグリコシダーゼ(天野エンザイム社製)を0.05%添加し、50℃で1時間作用させた。その後、90℃で10分間加熱して酵素を失活させてジグリコシダーゼ処理豆乳を得た。このようにして得られたジグリコシダーゼ処理豆乳に乳酸を添加し、表4に示すpHの範囲にそれぞれ調整し、豆乳組成物を得た。このようにして得られた各組成物の風味を試験例1の評価基準でそれぞれ確認した。その結果を表4に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
表4に示した様に、ジグリコシダーゼを失活させて得たジグリコシダーゼ処理豆乳に乳酸を添加した場合であっても、pHが6.0以上の豆乳組成物では強い咽への刺激と収斂味が感じられた。また、pHが4.5〜5.5の範囲にある豆乳組成物は、飲食時の舌や咽への刺激味と収斂味は違和感のない程度のものであった。これに対し、pHが3.6〜4.2の範囲に調整された豆乳組成物は、舌や咽への刺激味、収斂味は感じられず良好な風味の組成物が得られた。なお、pHが3.6以下に調整された豆乳組成物は、咽への刺激、収斂味は感じられないが、pHが低くなるに従って酸味が強くなりすぎて逆に飲食し難いものとなった。
【0042】
試 験 例 5
酵素失活処理の有無の影響:
固形分12.0%、粗脂肪2.5%、粗蛋白質4.7%、イソフラボン配糖体含量30mg/100gの豆乳(四国化工機社製)に酵素としてジグリコシダーゼ(天野エンザイム社製)を0.05%添加し、50℃で1時間作用させた。その後、90℃で10分間加熱して酵素を失活させてジグリコシダーゼ処理豆乳を得た。このようにして得られたジグリコシダーゼ処理豆乳に乳酸を添加し、pHを4.0に調整し、豆乳組成物を得た。また、酵素を失活させないで得られたジグリコシダーゼ処理豆乳を同様の方法により豆乳組成物とした。このようにして得られた豆乳組成物を28℃で24時間保存した後の風味を試験例1の評価基準で確認した。その結果を表5に示す。
【0043】
【表5】

【0044】
表5の結果から、ジグリコシダーゼを作用させた後、失活処理を行っていないジグリコシダーゼ処理豆乳を用いて得た豆乳組成物では、保存後、咽への刺激、収斂味が認められた。一方、失活処理を行ったジグリコシダーゼ処理豆乳を用いて得た豆乳組成物では、保存後でも咽への刺激、収斂味は認められず、風味が良好であった。
【0045】
試 験 例 6
pHの調整法の検討:
固形分12.0%、粗脂肪2.5%、粗蛋白質4.7%、イソフラボン配糖体含量30mg/100gの豆乳(四国化工機社製)に酵素としてジグリコシダーゼ(天野エンザイム社製)を0.05%添加し、50℃で1時間作用させた後、90℃で10分間加熱して酵素を失活させた。このようにして得られたジグリコシダーゼ処理豆乳に乳酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、レモン果汁、グレープフルーツ果汁、ストロベリー果汁を添加してpHを4.0にそれぞれ調整し、豆乳組成物を得た。得られた各豆乳組成物の風味を試験例1の評価基準でそれぞれ確認した。その結果を表6に示す。
【0046】
【表6】

【0047】
表6の結果から、酵素を作用させた後、酵素活性を失活して得られた豆乳のpHを調整した場合には、乳酸等の有機酸、あるいは果汁のいずれを用いても、咽への刺激、収斂味に対して優れたマスキング効果を得ることができた。中でも、乳酸、酒石酸、リンゴ酸を使用してpHを調整して得られた豆乳組成物の風味が良好であった。
【0048】
実 施 例 1
ドリンクタイプの豆乳飲料の製造:
固形分12.0%、粗脂肪2.5%、粗蛋白質4.7%、イソフラボン配糖体含量30mg/100gの豆乳(四国化工機社製)に酵素としてジグリコシダーゼ(天野エンザイム社製)を0.05%添加し、50℃で1時間作用させた。その後、90℃で10分間加熱して酵素を失活させ、ジグリコシダーゼ処理豆乳を得た。このようにして得られたジグリコシダーゼ処理豆乳を別途調製した蔗糖を10質量%、安定剤(大豆多糖類)を0.6質量%およびヨーグルトフレーバー(ヤクルトマテリアル株式会社製)を0.1質量%含むシロップ溶液と混合した後、乳酸を用いてpHを4.0に調整した。これを更に85℃まで昇温し、50MPaで均質化後、130℃で5秒間殺菌し、ドリンクタイプのイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物(本発明品1)を得た。得られた本発明品1の風味を試験例1の評価基準で確認した。その結果を表7に示す。
【0049】
【表7】

【0050】
表7の結果の通り、本発明品1は咽への刺激や収斂味が改善された風味良好なものであった。
【0051】
実 施 例 2
ハードタイプ豆乳の製造:
固形分12.0%、粗脂肪2.5%、粗蛋白質4.7%、イソフラボン配糖体含量30mg/100gの豆乳(四国化工機社製)に酵素としてジグリコシダーゼ(天野エンザイム社製)を0.05%添加し、50℃で1時間作用させた。その後、90℃で10分間加熱して酵素を失活させてジグリコシダーゼ処理豆乳を得た。このジグリコシダーゼ処理豆乳を蔗糖12質量%およびヨーグルトフレーバー(ヤクルトマテリアル株式会社製)を0.1質量%含むシロップ溶液と混合した後、乳酸を用いてpHを4.0に調整した。これを更に50MPaで均質化後、130℃で5秒間殺菌し、寒天溶液(寒天1.5%)を10%添加し、低温にて固化させてハードタイプのイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物(本発明品2)を得た。得られた本発明品2の風味を試験例1の評価基準で確認した。その結果を表8に示す。
【0052】
【表8】

【0053】
表8の結果の通り、本発明品2は咽への刺激や収斂味が改善された風味良好なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明方法によれば、豆乳等のイソフラボン含有豆乳素材に含まれているイソフラボン化合物を高い転化率でそのアグリコンに変えることができる。しかも、この方法により得られるイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物は、飲食時の舌や咽に刺さるような刺激味を感じることが無く風味良好なものである。
【0055】
従って、本発明方法により得られるイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物は、高濃度でイソフラボンアグリコンを有するものとして、各種飲食品やその原料として利用することができるものである。

以 上


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソフラボン含有豆乳素材にジグリコシダーゼを作用させ、イソフラボン含有豆乳素材中のイソフラボン化合物をそのアグリコンに変えるイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法であって、作用させたジグリコシダーゼを失活させる工程およびpHを3.0〜5.0の範囲に調整する工程を含むことを特徴とするイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法。
【請求項2】
作用させたジグリコシダーゼを失活させる工程を行った後に、pHを3.0〜5.0の範囲に調整する工程を行うものである請求項第1項記載のイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法。
【請求項3】
pHの調整に、有機酸、無機酸、果汁から選ばれる酸味剤の1種または2種以上を用いるものである請求項第1項または第2項記載のイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法。
【請求項4】
作用させたジグリコシダーゼを失活させる工程が、88〜92℃で5〜10分間の加熱処理もしくはそれと同等の効果を奏する熱処理である請求項第1項ないし第3項の何れかの項記載のイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法。
【請求項5】
舌若しくは咽への刺激または収斂味が抑制されたものである請求項第1項ないし第4項の何れかの項記載のイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の製造方法。
【請求項6】
前記請求項第1項ないし第5項の何れかの項記載の製造方法で得られるイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物を含有する飲食品。
【請求項7】
ジグリコシダーゼを作用させたイソフラボン含有豆乳素材を、ジグリコシダーゼを失活させる工程およびpHを3.0〜5.0の範囲に調整する工程に付すことを特徴とするイソフラボンアグリコン含有豆乳組成物の風味改善方法。


【公開番号】特開2006−81440(P2006−81440A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268284(P2004−268284)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【出願人】(000216162)天野エンザイム株式会社 (26)
【Fターム(参考)】