説明

イミダゾール誘導体の精製方法

【課題】高純度の2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル−1H−イミダゾール−5−メタノールを高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル−1H−イミダゾール−5−メタノールの粗体をニトリル類溶媒、および25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒で晶析することを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル−1H−イミダゾール−5−メタノールの新規な精製方法に関する。また、本発明は、それを用いた2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノールの新規な製造方法、さらに、それを用いた2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノールカリウム塩の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧治療薬である2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノールカリウム塩(以下、ロサルタンカリウムとする場合もある)を製造する方法として、2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノール(以下、トリチルロサルタンとする場合もある)のトリフェニルメチル基を脱保護して、2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノール(以下、ロサルタン酸とする場合もある)へと変換し、最後にカリウム塩化してロサルタンカリウムを得る方法が知られている(例えば、特許文献1〜3及び非特許文献1参照)。以下に前記反応を示す。
【0003】
【化1】

【0004】

医薬原薬は、当然のことながら可能な限り高純度であることが望まれており、ロサルタンカリウムも、高い収率を維持したまま、高純度化することが望まれている。
【0005】
ロサルタンカリウムを高収率でかつ高純度で得るためには、トリチルロサルタンを高純度化する必要がある。すなわち、トリチルロサルタン以降の生成物を高純度化する方法では、保護基に関係していると考えられるが、得られる化合物の性質が著しく変化し、溶媒に対する溶解性が著しく低下するため、精製が非常に困難となる。
【0006】
従来の方法において、トリチルロサルタンを精製する方法としては、1−クロロブタン及び酢酸エチルを使用し、晶析する方法(特許文献1)、トルエン/ヘプタン混合液及びトルエン及びメタノールを使用して晶析する方法(特許文献2)、酢酸エチルにより精製する方法(特許文献3)、及びニトロメタンにより晶析する方法(非特許文献1)が知られている。
【0007】
【特許文献1】特表平8−500323
【特許文献2】特開平1−117876
【特許文献3】国際公開第2007/003280号パンフレット
【非特許文献1】ジャーナル オブ メディシナル ケミストリー(Journal of Medicinal Chemistry)1991年 34巻 2525−2547頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の方法においては、トリチルロサルタンを1−クロロブタンで晶析した後、酢酸エチルで晶析しているが、収率が高い点で優れているものの純度の点で改善の余地があった。また、ハロゲン溶媒を使用しているため、人体の安全性の面からも、なるべくハロゲン溶媒使用しない精製方法が望まれていた。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法においては、純度の点では優れているものの、アルコールを使用しているためにトリチルロサルタンが分解し、収率の低下を招くことがあり、改善の余地があった。
【0010】
また、特許文献3に記載の方法においては、酢酸エチルのみを使用しており、晶析回数が多く、また、液体クロマトグラフィー上の純度はよいが、ロサルタンカリウムまで合成したときの純度の点で改善の余地があった。
【0011】
さらに、非特許文献1に記載の方法においては、ニトロメタンという不安定で爆発の恐れのある危険な化合物を用いて晶析を行っているため、操作性の点、特に大規模な生産を考慮すると、改善の余地があった。
【0012】
したがって、本発明の目的は、より高い収率で高純度のトリチルロサルタンを安全に得ることができる簡易な方法を提供することにある。さらに、高い収率で高純度のロサルタン酸を得ることができる方法、延いては、高い収率で高純度のロサルタンカリウムを得ることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、トリチルロサルタンを、特定の溶媒を使用して多段階で晶析することにより、すなわち、ニトリル類溶媒に代表される非プロトン性高極性溶媒と25℃の誘電率が2〜10である低極性溶媒とを用いて多段階で晶析を行うことにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、第一の本発明は、
下記式(1)
【0015】
【化2】


で示されるトリチルロサルタンの粗体を、ニトリル類溶媒で晶析する工程、および25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒で晶析する工程により精製することを特徴とするトリチルロサルタン、すなわち、2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノールの精製方法である。
【0016】
第一の本発明は、トリチルロサルタンの粗体をニトリル類溶媒で晶析した後、次いで、25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒で晶析することが好ましい。こうすることにより、該トリチルロサルタンの収率をより高くすることができる。また、第一の本発明においては、ニトリル類溶媒がアセトニトリルであることが好ましく、25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒が芳香族炭化水素溶媒であることが好ましい。
【0017】
また、第一の本発明においては、トリチルロサルタンが、
下記式(2)
【0018】
【化3】


で示される5−(4’−ブロモメチル−1,1−ビフェニル−2−イル)−2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾールを原料として得られるものである場合に、特に、優れた効果を発揮する。
【0019】
また、第二の本発明は、第一の本発明によりトリチルロサルタンを製造した後、塩酸または硫酸のような酸を用いてトリフェニルメチル基を脱保護することにより、
下記式(3)
【0020】
【化4】


で示されるロサルタン酸を製造する方法である。
【0021】
さらに、第三の本発明は、第二の本発明によりロサルタン酸を製造した後、水酸化カリウム等のカリウム含有塩基性化合物を用いてカリウム塩化することにより、
下記式(4)
【0022】
【化5】


で示されるロサルタンカリウムを製造する方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノール(トリチルロサルタン)を高純度で得ることが可能であり、その純度を99.90%以上にすることも可能である。さらに、本発明によれば、前記純度のトリチルロサルタンを、高収率、すなわち、50%以上、より最適化を図れば60%以上、最も好適な条件においては70%以上の収率で取得することも可能である。
【0024】
さらに本方法により得られたトリチルロサルタンを原料として用いることにより、99.90%以上の純度の2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノール(ロサルタン酸)を得ることができ、延いては、99.90%以上の純度のロサルタンカリウムを得ることが可能である。
【0025】
なお、本発明における純度は、実施例で詳述する高速液体クロマトグラフィーで求めた純度である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノール(トリチルロサルタン)を精製する方法において、該トリチルロサルタンの粗体をニトリル類媒、および25℃における誘電率が2〜10の有機溶媒で晶析することを特徴とするものである。トリチルロサルタンは、不純物としてトリフェニルメチル基が脱離したものに由来する反応副生成物が含まれる場合があり、本発明の方法により、高収率で高純度のものとすることができる。
先ず、トリチルロサルタンの製造方法について説明する
(トリチルロサルタンの製造方法)
トリチルロサルタンは、特に制限されるものではなく、公知の方法、例えば、特表平8−500323(特許文献1)、特開平1−117876(特許文献2)、国際公開第2007/003280号パンフレット(特許文献3)、ジャーナル オブ メディシナル ケミストリー(Journal of Medicinal Chemistry)1991年 34巻 2525−2547頁(非特許文献1)により製造することができる。中でも、本発明の方法は、以下の方法により得られるトリチルロサルタンである場合に優れた効果を発揮する。すなわち、下記式(2)
【0027】
【化6】


で示され5−(4’−ブロモメチル−1,1−ビフェニル−2−イル)−2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール(以下、「原料1」とする場合もある)を原料として得られたトリチルロサルタンである場合に、本発明の方法は優れた効果を発揮する。
【0028】
前記式(2)で示される原料1は、下記式(5)
【0029】
【化7】


(式中、Rは、水素原子または塩素原子、Rは、アルデヒド基またはメチルアルコール基である。)
で示される化合物(以下、「原料2」とする場合もある)と反応させて、トリチルロサルタンを製造することができる。
【0030】
先ず、原料1と原料2との反応は、特許文献1、特許文献2、または非特許文献1に示されるように、適当な有機溶剤、例えばジメチルホルムアミド、またはハロゲン溶媒等に原料1、および原料2とを溶解させ、ここに塩基性化合物(具体的には、炭酸カリウムやナトリウムエトキシド等)を混合することにより実施できる。
【0031】
なお、この原料1と原料2の反応において、前記式(5)で示される原料2のRが水素原子、Rがアルデヒド基の場合は、原料1と原料2との反応後、公知の方法、例えば、特許文献3に記載の条件でRの塩素化、およびRのアルデヒド基の還元を実施すればよい。
【0032】
本発明の方法が、原料1より得られるトリチルロサルタンを製造する際に、特に優れた効果を発揮する理由は明らかではないが、以下のように推定している。つまり、前記原料1と原料2との反応においては、前記式(2)で示される原料1のトリフェニルメチル基が脱離した化合物が微量生成し、その化合物が多重に付加した反応副生成物を生じるものと考えられる。この反応副生成物は、トリチルロサルタンよりも極性が低いものと推定される。そのため、該トリチルロサルタンからこれら反応副生成物を除去するために、特定の溶媒、つまり、25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒で該トリチルロサルタンを晶析する必要があると考えられる。一方、ニトリル類溶媒で該トリチルロサルタンを晶析することにより、トリフェニルメチル基の脱離を抑制して、トリチルロサルタンの純度をより高めることができるものと考えられる。
【0033】
前記式(5)で示される原料2の中でも、Rが塩素原子、Rがアルデヒド基であるものを使用することが、本発明の効果を最も発揮する。すなわち、先ず原料1と原料2とを反応させ、2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−カルボクスアルデヒド(以下、アルデヒド誘導体とする場合もある)を合成し、これを還元剤により還元してトリチルロサルタンとした場合に、本発明の方法は最も優れた効果を発揮する。このアルデヒド誘導体を下記式(6)に示す。
【0034】
【化8】


が塩素原子、Rがアルデヒド基である原料2を使用して、アルデヒド誘導体を製造し、還元することにより、トリチルロサルタンの収率を高くすることができ、延いてはロサルタンカリウムの収率を高くすることができる。しかしながら、この場合、微量な不純物として、前記反応副生成物の他、アルデヒド誘導体のアルデヒド基と、アルデヒド誘導体のトリフェニルメチル基が脱離した化合物のテトラゾール窒素とが結合した反応副生成物、さらに、アルデヒド誘導体のトリフェニルメチル基が脱離した化合物のテトラゾール窒素と、原料1が付加した反応副生成物が生じるものと考えられる。これらの反応副生成物は、前記の通り、トリチルロサルタンよりも極性が低いため、該反応副生成物を含むトリチルロサルタンの粗体を、本発明の方法により精製することで収率が高く、純度の高いトリチルロサルタンができるものと考えられる。
【0035】
次に、トリチルロサルタンの製造において、アルデヒド誘導体を還元する方法を詳細に説明する。
【0036】
(トリチルロサルタンの製造 アルデヒド誘導体の還元)
本発明の方法は、アルデヒド誘導体を還元剤により還元して、トリチルロサルタンを製造する場合に、最も効果を発揮する。
【0037】
アルデヒド誘導体は不安定であり、これを合成する工程では時間や手間をかけない方が好ましく、粗生成物のまま還元反応を行うことが好ましい。そのため、アルデヒド誘導体は、前記式(2)で示される原料1と前記式(5)で示される原料2(ただし、Rは塩素原子、Rはアルデヒド基)とを前記条件で反応させた後、水に溶解しない有機溶媒(例えば、トルエン)と水とを加え、必要に応じて、該有機溶媒層を水洗した後、乾燥させ、該有機溶媒層を濃縮して得られる粗生成物を還元することが好ましい。下記の実施例で示すが、公知の方法、例えば、特許文献1、特許文献2、または非特許文献1の方法に従えば、純度が95%〜99%程度のアルデヒド誘導体を得ることができる。また、原料1と原料2とを反応させた反応溶液中に、還元剤を直接加えて還元することもできる。
【0038】
アルデヒド誘導体を還元する方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法、例えば、特許文献1、特許文献2、または非特許文献1に記載されている方法に準じて実施してやればよい。還元剤を使用する場合には、原料1と原料2とを反応させて得られた粗生成物と、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の還元剤とを反応させればよい。具体的には、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、アセトン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の溶媒自体が還元剤と反応しない適当な有機溶媒中にアルデヒド誘導体(粗生成物であってもよい)を溶解させ、該アルデヒド誘導体に対して、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の適当な還元剤を加え、反応させればよい。
【0039】
使用する還元剤は、前記の通り、水素化ホウ素ナトリウム、または水素化ホウ素カリウムであることが好ましく、還元剤の使用量は、アルデヒド誘導体トリチルロサルタンの0.2〜5当量、望ましくは0.8〜1.2当量加えてやればよいが、これを限定するものではない。
【0040】
還元を行う際に使用する有機溶媒の量は、特に制限されるものではないが、安定して還元反応を行い、反応後の有機溶媒の除去を容易にするためには、アルデヒド誘導体1質量部に対して、好ましくは0.5〜70質量部、より好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは2〜5質量部である。
【0041】
使用する有機溶媒は、前記の中でも、後工程の操作、例えば、分液操作、および洗浄操作を容易にするためには、有機溶媒の比重は1以下のものが好ましい。さらに、原料であるアルデヒド誘導体、および目的物であるトリチルロサルタンの溶解度、また下記に詳述する活性化剤の利用、並びに濃縮操作等を考慮すると、テトラヒドロフラン、およびジオキサンのようなエーテル系溶媒を使用すること好ましく、中でも、テトラヒドロフランを使用することが最も好ましい。
【0042】
アルデヒド誘導体を還元する際には、アルデヒド誘導体と還元剤とを反応させている反応液中に、水またはアルコール等のプロトン性溶媒を活性化剤として添加し、反応を活性化させることもできる。この活性化剤の中でも、アルコールはトリチルロサルタンの収量を向上させるために濃縮等の操作が必要となり、加熱操作を行うと、該トリチルロサルタンのトリフェニルメチル基の脱離を生じる場合があるため、水を使用することが好ましい。水を活性化剤として使用する場合には、加える還元剤と等モル量以上を加えることが好ましい。
【0043】
前記還元反応において、その他の反応条件は、特に制限されるものでなく、減圧、加圧、常圧の雰囲気下で実施することができる。反応温度も−10〜30℃の範囲で実施してやればよい。反応時間も、特に制限されるものではなく3時間程度であれば充分である。還元反応の終了は、液体クロマトグラフィー等によりトリチルロサルタンの転化率が99%以上であることを確認してやればよい。
【0044】
液体クロマトグラフィーにより還元反応の反応終了を確認した後、有機溶媒として親水性のものを使用した場合には、必要に応じて濃縮し、疎水性有機溶媒、例えば、酢酸エチルと水を加えて水洗を行う。水洗に使用する水の量は、特に制限されるものではなく、還元剤由来の無機物が充分に除去できる量を使用すればよい。また、水洗に使用する水は、濃度が5〜35質量%、好ましくは濃度が15〜25質量%の食塩水を使用することもできる。水洗は、水層のpHが好ましくは7〜8まで実施する。なお、有機溶媒として疎水性のものを使用した場合には、そのまま水を加え、前記の方法に従い、水洗することができる。
【0045】
水洗が終了した後、トリチルロサルタンの分解を防止するために、処理液(疎水性有機溶媒)から水分を除去する。水分を除去するには、処理液中に乾燥剤を加えてやればよい。乾燥剤としては、公知の乾燥剤を使用することができ、具体的には、硫酸マグネシウム、または硫酸ナトリウムを使用することができる。これら乾燥剤を使用することにより、疎水性有機溶媒を濃縮する際のトリチルロサルタンの分解を防止する効果もある。乾燥剤の使用量は、特に制限されるものではなく、トリチルロサルタンの収率を考慮すると、該トリチルロサルタン100質量部に対して、5〜50質量部である。
【0046】
乾燥後、前記乾燥剤を分別ろ過し、疎水性有機溶媒を濃縮することにより、トリチルロサルタンの粗体を得ることができる。この粗体は、オイル状で得られる場合があるが、室温で放置、もしくは冷却により結晶となる場合もある。本発明の方法によれば、オイル状の粗体、および結晶の粗体の何れの粗体でも取り扱うことができるが、晶析する際の溶解性を考慮すると、オイル状の粗体を下記に詳述する方法で晶析することにより操作性が容易となる。
【0047】
前記方法に従えば、純度が80.00〜99.00%のトリチルロサルタンの粗体を得ることができる。この粗体に含まれるものは、トリチルロサルタンの他、アルデヒド誘導体、反応副生成物等である。本発明の方法は、前記純度のトリチルロサルタンの粗体を晶析する場合に限定されるものではないが、前記純度のトリチルロサルタンの粗体を精製する場合に、最も効果を発揮する。また、本発明においては、特に制限されるものではないが、得られるトリチルロサルタンの純度を高めるためには、トリチルロサルタンの粗体100質量部に対して、抽出時に使用した疎水性有機溶媒を10〜30質量部含むもの、さらに15〜25質量部含むものを晶析することが好ましい。また、この疎水性有機溶媒は、酢酸エチルであることが好ましい。
【0048】
本発明は、この粗体を、ニトリル類溶媒、および25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒で多段階に晶析することを特徴とする。次に、この晶析について説明する。
【0049】
(粗体の晶析方法)
本発明においては、前記粗体をニトリル類溶媒、および25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒で晶析することにより、高収率で純度の高いトリチルロサルタンを製造することができる。
【0050】
本発明者等の検討によれば、25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒のみで晶析を行った場合(ニトリル類溶媒のような高極性非プロトン性溶媒で晶析を行わない場合)、高速液体クロマトグラフィーでの純度は、見かけ上、向上する場合があるが、以後の工程での取得物の純度に影響があることが判明した。具体的には、高極性非プロトン性溶媒で晶析を行っていない、純度99.90%以上(高速液体クロマトグラフィーの純度)のトリチルロサルタンを使用して脱保護の反応を行うと、99%以下の純度のロサルタン酸となる場合あり、条件によっては98%程度のロサルタン酸となる場合があった。
【0051】
そのため、本発明においては、ロサルタン酸の純度、延いてはロサルタンカリウムの純度を高めるために、ニトリル類溶媒のような高極性非プロトン性有機溶媒、および25℃の誘電率が2〜10である低極性有機溶媒で段階的に晶析を行うことが重要である。各溶媒における晶析の回数については、得られるトリチルロサルタンの純度と収率に応じて決定してやればよいが、ニトリル類溶媒で少なくとも1回以上、25℃の誘電率が2〜10である低極性有機溶媒で少なくとも1回以上行えばよい。中でも、収率と純度のバランスを考慮すると、ニトリル類溶媒で1回、25℃の誘電率が2〜10である低極性有機溶媒で少なくとも1〜3回晶析することが好ましい。
【0052】
(ニトリル類溶媒で晶析する工程)
ニトリル類溶媒を使用することにより、極性の高い不純物が除去できるものと考えられる。この極性の高い不純物を除去するために、アルコールのようなプロトン性有機溶剤を使用すると、トリチルロサルタンのトリフェニルメチル基の脱離が生じ、分解してしまうことがある。そのため、本発明においては、非プロトン性有機溶剤であるニトリル類溶媒を使用する。このニトリル類溶媒の中でも、高極性の非プロトン性有機溶媒であることが好ましく、またトリチルロサルタンの溶解性、操作性及び入手の容易性の観点から、好ましくは炭素数2〜5のニトリル類溶媒であり、より好ましくは炭素数2〜3のニトリル類溶媒であり、最も好ましくはアセトニトリルである。
【0053】
使用するニトリル類溶媒の量は、晶析の順序、晶析する際の溶媒の種類、温度等に応じて適宜決定してやればよいが、トリチルロサルタンの収率、純度を考慮すると、トリチルロサルタン1質量部に対して、好ましくは1〜13質量部、より好ましくは2〜5質量部、さらに好ましくは2〜3質量部である。
【0054】
晶析の際の温度も、特に制限されるものではなく、晶析する際の溶媒の種類、濃度等に応じて適宜決定してやればよいが、ニトリル類溶媒の沸点まで加熱し、室温以下、好ましくは−10〜10℃まで冷却することにより実施することができる。
【0055】
冷却後、生じた結晶を濾別することにより、トリチルロサルタンを得ることができる。濾別する際、ニトリル類溶媒で洗浄することもできる。洗浄に要する溶媒量は結晶中に含まれる溶媒が充分に置換すればよい。具体的には、トリチルロサルタン1質量部に対して、好ましくは0.1〜5質量部のニトリル類溶媒で洗浄する。
【0056】
(25℃の誘電率が2〜10の有機溶媒で晶析する工程)
本発明においては、低極性の不純物を除くために、25℃の誘電率が2〜10の有機溶媒(以下、低極性有機溶媒とする場合もある)で晶析する。
【0057】
使用する低極性有機溶媒は、トリチルロサルタンの収率、および純度、並びに、操作性および経済性を考慮すると好ましくはトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、または酢酸エチルであり、最も好ましくはトルエンである。
【0058】
使用する低極性有機溶媒の量は、晶析の順序、晶析する際の溶媒の種類、温度等に応じて適宜決定してやればよいが、トリチルロサルタンの収率、および純度を考慮すると、トリチルロサルタン1質量部に対して、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは2〜7質量部である。
【0059】
晶析の際の温度も、特に制限されるものではなく、晶析する際の溶媒の種類、濃度等に応じて適宜決定してやればよいが、使用する低極性有機溶媒の沸点まで、または85℃以上まで加熱し、室温以下、好ましくは−10〜10℃まで冷却することにより実施することができる。
【0060】
冷却後、生じた結晶を濾別することにより、トリチルロサルタンを得ることができる。濾別する際、使用した低極性有機溶媒で洗浄することもできる。洗浄する場合、使用する低極性有機溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、得られるトリチルロサルタンの純度、収量を考慮すると、トリチルロサルタン1質量部に対して、好ましくは0.1〜5質量部である。
【0061】
(晶析工程の順序)
トリチルロサルタンの粗体は、ニトリル類溶媒、および25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒を使用し、多段階で晶析することが重要である。
【0062】
本発明において、晶析工程の順序は、先にニトリル類溶媒で晶析し、次いで25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒で晶析することもできるし、先に25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒で晶析し、次いでニトリル類溶媒で晶析することもできる。中でも、使用する溶媒の量を低減し、かつ、収率を高くするためには、先にニトリル類溶媒で晶析することが好ましい。この理由は明らかではないが、晶析を行う前のトリチルロサルタンの粗体は、微量ではあるが酢酸エチルのような有機溶媒を含んでいるため、極性の高い不純物と共にこれら有機溶媒を除去することにより、25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒による精製の効果が高くなるものと考えられる。その結果、25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒の使用量を低減できるものと考えられる。下記の実施例で示すが、トリチルロサルタンの純度を同程度にしようとした場合、先にニトリル類溶媒で晶析することにより、25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒での晶析回数を減らすことができる。そのため、先にニトリル類溶媒で晶析する場合には、ニトリル類溶媒で1回晶析した後、25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒で1回〜3回晶析することにより、高収率で高純度のトリチルロサルタンを得ることができる。より好ましい態様としては、ニトリル類溶媒で1回晶析した後、25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒で2回〜3回晶析すればよい。
【0063】
本発明の方法によれば、トリチルロサルタンの純度を液体クロマトグラフィーにおいて99.50%以上とすることも可能である。さらに前記有機溶媒の組み合わせで晶析を繰り返すことにより、99.90%以上の純度とすることも可能である。さらに、晶析順序、晶析溶媒の最適化を図れば、収率は、理論値に対して7割程度とすることもできる。
【0064】
このように本発明によれば、高収率で高純度のトリチルロサルタンを製造することができる。次に、得られたトリチルロサルタンを使用して、ロサルタン酸の製造方法について説明する。
【0065】
(ロサルタン酸の製造方法)
本発明においては、前記方法で取得したトリチルロサルタンを適当な有機溶媒に溶解し、塩化水素、または硫酸等の酸と反応させることにより、トリメチルフェニル基を脱保護し、2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノール(ロサルタン酸)に変換する。
【0066】
具体的には、特許文献1に記載の方法に従って反応を行えばよい。このロサルタン酸の製造において使用する有機溶媒は、特に制限されるものではなく、トリチルロサルタンおよびロサルタン酸の両者を溶解できるものであればよく、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、アセトン、エチルメチルケトン、ジイソプロピルケトン等のケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル類などが利用可能である。中でも、トリチルロサルタン、ロサルタン酸、及び酸性水溶液の溶解性、留去の容易さなどの点からメタノール、テトラヒドロフラン、アセトンが好ましく、最も好ましくはテトラヒドロフランである。有機溶媒の使用量も特に制限されるものではなく、トリチルロサルタン1質量部に対し、有機溶媒1〜10質量部であることが好ましい。
【0067】
また、使用する酸も、公知のものを使用することができ、具体的には、塩酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸、又はトリフルオロ酢酸等を使用することができ、これらの水溶液を使用することもできる。中でも、後工程の操作性の点から、塩酸、または硫酸が好ましく、もっとも好ましいのは塩酸である。酸水溶液を使用する場合、酸の濃度は、特に制限されるものではないが、反応時間、操作性、及び溶解性の点から、1〜10規定であることが好ましく、3〜6規定であることがより好ましく、4〜5規定であることがさらに好ましい。
【0068】
酸の使用量(具体的には、塩化水素、硫酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸など)は、前記トリチルロサルタン1モルに対して、1モル以上使用する。例えば、4規定の塩酸水溶液を用いた場合は、反応性、操作性の点から、加えるトリチルロサルタン1質量部に対して、塩酸水溶液を1〜2質量部使用することが好ましい。
【0069】
また、ロサルタン酸を製造する際、酸を加える際の温度は、特に制限されるものではないが、副反応を抑えるために0〜30℃が好ましく、0〜25℃がより好ましく、0〜20℃がさらに好ましい。また、酸を加えた後の反応温度は、特に制限されるものではないが、0〜30℃が好ましく、0〜25℃がより好ましく、0〜20℃がさらに好ましい。
【0070】
反応時間も、特に制限されるものではなく、液体クロマトグラフィーにより原料であるトリチルロサルタンの消失が確認できるまで行えばよい。具体的には、時間にして2〜24時間であれば充分である。
【0071】
反応終了後、反応液を塩基性にし、生じたロサルタン酸を水溶性とする。反応液を塩基性とするために、塩基性水溶液、具体的には、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウム水溶液を添加する。使用する塩基性水溶液は、特に制限されるものではないが、20質量%〜50質量%の濃度のものを使用することが好ましい。添加する塩基性水溶液の液量は、特に規定されるものではないが、反応液のロサルタン酸の水溶性を完全なものとするために、反応液のpHが11以上、より好ましくはpH12〜13に調整されるまで添加する。
【0072】
前記の通り、pHを調整した後、反応に使用した有機溶媒を留去する。有機溶媒を留去することにより、副生したトリフェニルメタノールが水溶液中に析出するが、これを濾過により取り除く。より確実にトリフェニルメタノールを除くためには、有機溶媒留去した後、水溶液を、好ましくは10℃以下、より好ましくは5℃以下に0.5〜24時間程度放置する。
【0073】
次いで、水溶液中に溶存している他の有機物(不純物)を除くため、該水溶液を有機溶媒で洗浄する。洗浄に用いられる有機溶媒は、疎水性の有機溶媒であれば特に制限されるものではなく、具体的には、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン溶媒を採用すればよい。
【0074】
さらに、疎水性の有機溶媒で洗浄した水溶液に、濃塩酸を加えることにより、ロサルタン酸を析出させる。濃塩酸を加えた水溶液は、特に制限されるものではなく、pHを1〜5とすることが好ましく、さらにpHを2〜4とする好ましい。また、ロサルタン酸を析出するために、該水溶液の温度を0〜20℃とすることが好ましく、さらに、4〜10℃とすることが好ましい。析出したロサルタン酸は、濾別することにより得ることができるが、この際、水で洗浄することが好ましい。さらに、濾別したロサルタン酸を短時間で乾燥させるためには、洗浄に使用する水には、アルコールを含ませることもできる。ロサルタン酸は適度な温度での送風乾燥もしくは減圧乾燥により乾燥することもできる。
【0075】
このようにして得られたロサルタン酸は、本発明の方法によれば、純度99.90%以上とすることもできる。さらに最適な条件で反応を行えば、該ロサルタン酸の収率を97%以上とすることも可能である。
【0076】
本発明によれば、前記トリチルロサルタンにおいて、ニトリル類溶媒で晶析を行っているため、液体クロマトグラフィーで確認できない不純物を低減することができる。下記の実施例、比較例で示すが、前記トリチルロサルタンを低極性有機溶媒のみで晶析したものと比較して、得られるロサルタン酸の純度をより高めることができる。
【0077】
次に、得られたロサルタン酸からロサルタンカリウムを製造する方法について説明する。
【0078】
(ロサルタンカリウムの製造)
本発明においては、前記方法で得られたロサルタン酸を水酸化カリウム、カリウム−t−ブトキシド等のカリウム含有塩基性化合物と反応させ、ロサルタンカリウム(カリウム塩)を製造することができる。具体的には、特許文献1及び特許文献3の方法に従い実施することができる。
【0079】
ロサルタン酸は、先ず、アルコール類に懸濁させる。アルコールとしてはメタノール、エタノール、またはイソプロピルアルコールを使用することができる。これらアルコール類のうち、後の処理を考慮すると、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0080】
また、使用するカリウム含有塩基性化合物、特に、水酸化カリウムは、水またはアルコール類に溶解して用いることが好ましく、操作性の点において、水に溶解して使用することが好ましい。カリウム含有塩基性化合物として、水酸化カリウムの水溶液を使用する場合、特に制限されるものではないが、水酸化カリウム水溶液の濃度は50質量%程度であることが操作性の点で好ましい。また、ここで使用する水酸化カリウム水溶液のカリウム含有量は、JIS記載(K8574)の方法等により定量を行い、正確な濃度を確認しておくことが好ましい。使用する水酸化カリウムの量は、ロサルタン酸1モルに対して、0.98〜1モルとなるようにすることが好ましい。
【0081】
前記アルコール類中に懸濁させたロサルタン酸とカリウム含有塩基性化合物、例えば、水酸化カリウム水溶液とを混合することにより、ロサルタンカリウムを合成することができる。得られたロサルタンカリウムは、以下の方法により精製することが好ましい。前記方法に従い、例えば、前記アルコール類としてイソプロピルアルコールを使用してロサルタンカリウムを合成した場合、イソプロピルアルコールを減圧蒸留して留去し、再び、イソプロピルアルコールを加え、ロサルタンカリウムを再溶解した後、イソプロピルアルコールを減圧蒸留して留去する。こうすることによって、例えば、水酸化カリウム水溶液を使用した場合でも、水分を容易に除去することができる。次いで、イソプロピルアルコールを加え、ロサルタンカリウムを溶解または懸濁させ、ここに貧溶媒を滴下することにより、ロサルタンカリウムを晶析することができる。この操作により系中の水分量を最終的には0.5%以下とすることでき、かつ、イソプロピルアルコールと貧溶媒の比率を簡易に制御可能となり、容易に目的物であるロサルタンカリウムを高い収率で取得することが可能となる。なお、前記貧溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒が操作性及び入手の容易性の点で好ましい。
【0082】
本発明によれば、純度が99.90%以上のロサルタンカリウムを簡易に製造することが可能となる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
(液体クロマトグラフィー分析条件 純度の確認)
<使用機器>
高速液体クロマトグラフィー分析装置:
Waters社製alliance2695/2996/2489
ガードカラム:
GL Science Inertsil ODS−3 4.0x20mm 5μm
カラム:
GL Science Inertsil ODS−3 4.6x250mm 5μm
<測定条件>
検出:UV
測定波長:220nm,
サンプル温度:25℃,
カラム温度:40℃,
流量:1.5mL/分,
分析時間:25分
移動相の送液:以下の移動相の混合比を表1に示すように変えて濃度勾配制御した。
【0085】
【表1】

【0086】
面積測定範囲:試料注入後25分間までの範囲を測定した。ただし、移動相だけでブランクを測定し、ブランクのピークを除いた面積を求めた。
以上の装置、条件により、各生成物の純度を確認した。
【0087】
実施例1
(アルデヒド誘導体の製造)
N,N−ジメチルアセトアミド2510g中、5−(4’−ブロモメチル−1,1’−ビフェニル−2−イル)−2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール631g(原料1)、2−n−ブチル−4−クロロ−1H−イミダゾール−5−カルボクスアルデヒド(原料2)211g、および無水炭酸カリウム186gの混合物を0℃以上5℃以下で8時間攪拌して、さらに25℃として4時間攪拌した。トルエン4kgと水4kgを加え、トルエン層を抽出し、さらに水層にトルエン4kgを加え、再抽出を行った。得られたトルエン層と前記トルエン層を併せて、水2kgで3回洗浄し、トルエン層を硫酸マグネシウム100gで乾燥した後、硫酸マグネシウムを濾別した。次いで、トルエン溶液を濃縮し、得られた結晶を乾燥することにより2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−カルボクスアルデヒド(アルデヒド誘導体)750gを純度97.56%で取得した。
【0088】
(アルデヒド誘導体の還元 トリチルロサルタンの粗体)
前記アルデヒド誘導体33.33gとテトラヒドロフラン67mLと水2.7gを混合し、ここに水素化ホウ素ナトリウム2.28gを添加し、室温で2時間反応させた。次いで、水33mL、酢酸エチル33mLを加え、攪拌した後に静置し分液した。下層の水層を廃棄した後、20%食塩水33mLで酢酸エチル層を3回洗浄した。酢酸エチル層を硫酸マグネシウム3gで乾燥させた後、硫酸マグネシウムを濾別した。次いで、酢酸エチル層を減圧濃縮し、油状の2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル−1H−イミダゾール−5−メタノール(トリチルロサルタン)の粗体(油状の粗体)を得た。このトリチルロサルタンの粗体は、液体クロマトグラフィーによる純度87.00%であり、該粗体100質量部に対して、酢酸エチルを24質量部含んでいた。
【0089】
(トリチルロサルタンの製造 ニトリル類溶媒と低極性有機溶媒による晶析)
前記トリチルロサルタンの粗体(油状の粗体)44.15gに、アセトニトリル78.2g加え還流下攪拌し、4時間かけ室温まで温度を下げ、その後、4℃まで氷冷し、同温で30分攪拌し熟成させた。生じた結晶を濾別し、同溶媒で洗浄した。この結晶の液体クロマトグラフィーによる純度は98.41%であった。この結晶にトルエン96.7gを加え90℃で加熱完溶させた。4時間かけ室温まで温度を下げ、その後、攪拌下4℃まで冷却し、同温を30分保持したのち、生じた結晶を濾別し、同溶媒で洗浄した。この結晶にトルエン93.5gを加え90℃で加熱完溶した。4時間かけ室温まで温度を下げ、その後、攪拌下4℃まで冷却し、同温を30分保持した後、生じた結晶を濾別し、同溶媒で洗浄した。湿体の結晶を40℃で減圧乾燥し、トリチルロサルタンの結晶22.41g(純度99.97%、収率68.25%)を取得した。
(ロサルタン酸の製造)
前記方法により得られた2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル−1H−イミダゾール−5−メタノール(トリチルロサルタン)の結晶10gにテトラヒドロフラン20mLと4規定塩酸水溶液15mL加え室温で2時間攪拌した。50質量%水酸化カリウム水溶液で溶媒のpHを12.5に調整し、溶媒中に含まれるテトラヒドロフランを減圧留去した。1時間5℃で攪拌した後に生じた結晶(トリフェニルメタノール)を濾別した。濾液を30mLのジクロロメタンで2回洗浄し、さらにトルエン30mLで1回洗浄した。水層を濃塩酸でpH3.8に調整し、析出した結晶を濾過後水洗し、40℃で減圧乾燥を行い、2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノール(ロサルタン酸)の結晶を純度99.92%で6.21g(収率97.66%)取得した。
【0090】
(ロサルタンカリウムの製造)
前記方法により得られた2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノール(ロサルタン酸)の結晶5gに47.9質量%水酸化カリウム水溶液1.356gとイソプロピルアルコール20mLを混合し、還流下、ロサルタン酸を溶解した。イソプロピルアルコールを減圧留去し、残渣を乾固した。残渣にイソプロピルアルコール20mL加え還流下溶解した後、再び減圧留去し、残渣を乾固した。残渣にイソプロピルアルコール20mL加え、還流下、30分攪拌し、シクロヘキサン60mLを滴下し、4℃まで4時間かけて冷却し、同温を30分保持した。結晶を濾別し、イソプロピルアルコールとシクロヘキサン1:3の混合液で洗浄し、ロサルタンカリウムの結晶を純度100%で4.77g(収率87.52%)取得した。
【0091】
実施例2、3及び比較例1〜6
実施例1と同様に合成した2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル−1H−イミダゾール−5−メタノール(トリチルロサルタン)の油状の粗体を、実施例1と同様の操作で、表2で示す晶析溶媒と溶媒量でそれぞれ晶析を行った。
【0092】
また、各実施例、比較例で得られたトリチルロサルタン10gを使用し、実施例1と同様の方法でロサルタン酸を製造した。
【0093】
さらに、各実施例、比較例で得られたロサルタン酸5gを使用し、実施例1と同様の方法でロサルタンカリウムを製造した。
これら結果を表2に示す。
【0094】
【表2】

【0095】

実施例1または2と、比較例3、4および5とを比較すると、比較例3、4および5の酢酸エチル及びトルエン(低極性有機溶媒)のみで晶析したトリチルロサルタンは見かけ上純度が高いが、このトリチルロサルタンを原料として使用して得られるロサルタン酸は、実施例1または2と比較して純度が低下していた。このことから、低極性有機溶媒のみでの晶析では液体クロマトグラフィーで確認できない不純物が存在し、ロサルタン酸の純度が低下したことが分かった。
【0096】
比較例6では、本発明と同等の純度のロサルタン酸、ロサルタンカリウムとすることができるが、トルエンを使用している実施例よりも、使用する溶媒量が多くなり、さらに晶析の回数も多くなった。このことから、アセトニトリルとトルエンとを組み合わせた本発明の晶析は、溶媒量、晶析回数ともに低減できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】


で示される2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル−1H−イミダゾール−5−メタノールの粗体を、ニトリル類溶媒で晶析する工程、および25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒で晶析する工程により精製することを特徴とする2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル−1H−イミダゾール−5−メタノールの精製方法。
【請求項2】
ニトリル類溶媒で晶析する工程を行った後、25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒で晶析する工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル−1H−イミダゾール−5−メタノールの精製方法。
【請求項3】
前記ニトリル類溶媒がアセトニトリルであることを特徴とする請求項1または2に記載の2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル−1H−イミダゾール−5−メタノール精製方法。
【請求項4】
前記25℃の誘電率が2〜10である有機溶媒が芳香族炭化水素溶媒であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル−1H−イミダゾール−5−メタノールの精製方法。
【請求項5】
前記2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル−1H−イミダゾール−5−メタノールの粗体が、下記式(2)
【化2】


で示される5−(4’−ブロモメチル−1,1−ビフェニル−2−イル)−2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾールを原料として得られたものであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル−1H−イミダゾール−5−メタノールの精製方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の方法により、2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノールを精製した後、得られた2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−(2−トリフェニルメチル−2H−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノールと、酸とを反応させることを特徴とする、
下記式(3)
【化3】


で示される2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノールの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法により、2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノールを製造した後、得られた2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノールとカリウム含有塩基性化合物とを反応させることを特徴とする、
下記式(4)
【化4】


で示される2−n−ブチル−4−クロロ−1−[(2’−テトラゾール−5−イル)−1,1’−ビフェニル−4−イル)メチル]−1H−イミダゾール−5−メタノールカリウム塩の製造方法。


【公開番号】特開2010−77070(P2010−77070A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247225(P2008−247225)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】