説明

イムノクロマトグラフィー用試験具

【課題】
迅速に判定結果が得られるイムノクロマトグラフィー用試験具を提供すること
【解決手段】
本発明のイムノクロマトグラフィー用試験具は、試料添加用部材3と、試料添加用部材3に接触して配置され、試料中の測定対象と抗原抗体反応する標識物質を保持する標識保持部材5と、標識保持部材5と間隔を介して配置され、測定対象と抗原抗体反応する固定化用物質が固定された判定部を有するクロマト用膜担体9と、標識保持部材5およびクロマト用膜担体9と接触するように配置された展開用部材7とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトグラフィー用試験具に関する。
【背景技術】
【0002】
血液、血清、咽頭拭い液などの体液を検体として用いて、簡易に各種疾患の検査を行う方法してイムノクロマトグラフィーを用いる方法がある。
【0003】
まず、図6を用いて、従来のイムノクロマトグラフィー用試験具について説明する。(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
従来のイムノクロマトグラフィー用試験具は、粘着シート51上に、試料添加用部材53と、含浸部材55と、クロマト用膜担体57と、吸収用部材59を備える。含浸部材55には、ラテックス粒子で標識された抗体が含浸されており、この抗体は、測定対象の抗原と結合して複合体を形成する。クロマト用膜担体57は、ライン状の捕捉部位57Aを備え、この部位には、測定対象の抗原と結合する抗体が担持されている。
【0005】
ここで、イムノクロマトグラフィーの原理を簡単に説明する。まず、体液などの検体を展開溶媒に希釈して調製した試料を試料添加用部材53に滴下すると、この試料は、毛管現象により、含浸部材55に移動する。含浸部材55では、ラテックス粒子で標識された抗体が展開溶媒に溶出する。試料中に測定対象となる抗原が含まれる場合は、抗原抗体反応により、この抗原と上記抗体とが結合して複合体が形成される。次に、試料は、毛管現象により、クロマト用膜担体57の捕捉部位57Aに移動する。捕捉部位57Aでは、抗原抗体反応により、上記抗原が、捕捉部位57Aに担持されている抗体に捕捉される。上記抗原は、ラテックス粒子で標識された抗体と複合体を形成しているので、捕捉部位57Aには、ラテックス粒子の色がライン状に現れる。この有色のラインを目視することにより、検体中の測定対象の存在の有無を確認する。
【0006】
検体中の測定対象は通常はインフルエンザ、HBs抗原など微量な物質の検出に用いられるため高感度化が求められている。また、これらイムノクロマトグラフィーを用いた検査はベッドサイドでの検査や被験者を待合室などで待機させている間に行われるので、迅速に検査結果を得る必要がある。
【特許文献1】特開2003−344406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の試験具では、標識保持部材から標識物質の溶出が遅く、判定結果が得られるのに時間がかかるといった問題点があった。
【0008】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、迅速に判定結果が得られるイムノクロマトグラフィー用試験具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のイムノクロマトグラフィー用試験具は、試料添加用部材と、試料添加用部材に接触して配置され、試料中の測定対象と抗原抗体反応する標識物質を保持する標識保持部材と、標識保持部材と間隔を介して配置され、測定対象と抗原抗体反応する固定化用物質が固定された判定部を有するクロマト用膜担体と、標識保持部材およびクロマト用膜担体と接触するように配置された展開用部材とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の別の実施形態のイムノクロマトグラフィー用試験具は、試料添加用部材と、試料中の測定対象と抗原抗体反応する標識物質を保持する標識保持部材と、標識保持部材と間隔を介して配置され、測定対象と抗原抗体反応する固定化用物質が固定された判定部を有するクロマト用膜担体と、を備え、試料添加用部材が標識保持部材を覆ってクロマト用膜担体と接触するように配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の発明者らは、標識保持部材とクロマト用膜担体との間に展開用部材又は試料添加用部材を備えることにより、標識保持部材からの標識物質の溶出速度が高まり、その結果、高感度でかつ迅速に判定結果が得られるイムノクロマトグラフィー用試験具を提供できることを見出した。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、標識保持部材からの標識物質の溶出速度が高まるので、イムノクロマトグラフィーの判定結果を迅速に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。図面は、説明の便宜のために用いられるものであり、本発明の範囲は、図面に示す実施形態に限定されない。
1.第1の実施形態
図1は、本発明の第1の実施形態のイムノクロマトグラフィー用試験具の断面図である。このイムノクロマトグラフィー用試験具は、表面に粘着層を有するプラスチック板からなる基材1上に、レーヨンの不織布からなる試料添加用部材3と、グラスファイバーの不織布からなる標識保持部材5と、レーヨンの不織布からなる展開用部材7と、ニトロセルロースの多孔体からなるクロマト用膜担体9と、セルロースの不織布からなる吸収部材11とを備える。標識保持部材5は、試料添加用部材3に接触して配置され、試料中の測定対象と抗原抗体反応する標識物質を保持する。クロマト用膜担体9は、標識保持部材と間隔を介して配置され、測定対象と抗原抗体反応する固定化用物質が固定された判定部を有する。展開用部材7は、標識保持部材5およびクロマト用膜担体9と接触するように配置されている。吸収部材11は、クロマト用膜担体9と接触するように配置されている。
【0014】
クロマト用膜担体9には、上流側から順に、ライン状の第1判定部9A、第2判定部9B及び対照部9Cが形成され、標識保持部材5には、第1標識物質、第2標識物質及び対照用標識物質が保持されている。第1判定部9A、第2判定部9B及び対照部9Cには、固定化用物質として、それぞれ、抗インフルエンザA抗体、抗インフルエンザB抗体(以下、それぞれ「抗FluA抗体」、「抗FluB抗体」とする。)、ビオチンが固定されている。第1標識物質及び第2標識物質は、それぞれ、青色ラテックス粒子で標識された抗FluA抗体及び抗FluB抗体であり、対照用標識物質は、赤色ラテックス粒子で標識されたアビジンである。抗FluA抗体及び抗FluB抗体は、それぞれ、第1測定対象であるインフルエンザA型ウィルス及び第2測定対象であるインフルエンザB型ウィルス(以下、それぞれ「FluAウイルス」、「FluBウイルス」とする。)と抗原抗体反応により結合する。
【0015】
抗FluA抗体を例にとると、試料中にFluAウイルスが含まれていると、標識保持部材5にある標識された抗FluA抗体は、FluAウイルスの所定部位を認識して、抗原抗体反応により結合して複合体を形成する。次に、クロマト用膜担体9にある抗FluA抗体は、FluAウイルスの別の部位を認識して複合体を捕捉する。複合体が捕捉されると、第1判定部9Aには青色のラインが現れ、FluAウイルスの存在が目視により確認される。
【0016】
また、アビジンは、クロマト用膜担体9にある抗FluA抗体、抗FluB抗体には捕捉されないが、ビオチンと特異的に結合するので、対照部9Cに固定されたビオチンに捕捉される。アビジンが捕捉されると、対照部9Cには赤色のラインが現れ、アビジンが対照部9Cに到達したことが目視される。対照部9Cは、第1判定部9A及び第2判定部9Bの下流に設けられるので、赤色のラインを確認することにより、試料が第1判定部9A及び第2判定部9Bを通過したことが確認される。
【0017】
本発明の試験具を用いるとイムノクロマトグラフィーの判定結果を迅速に得ることができる。その原理を以下、説明する。
【0018】
患者の鼻腔吸引液などの検体を展開溶媒に希釈して調製した試料を試料添加用部材3に滴下すると、この試料は、毛管現象により、標識保持部材5、展開用部材7、クロマト用膜担体9、吸収部材11を順次移動する。試料が、標識保持部材5を通過する際に、標識保持部材5に保持されている標識物質が展開溶媒に溶出する。本発明は、標識保持部材5とクロマト用膜担体9の間に、展開用部材7を設けることによって、この溶出の速度を速めるものである。
【0019】
ここで、図2を用いて、展開用部材7がある場合(図2(a))とない場合(図2(b))の試料展開速度を比較する。図2(a)、(b)は、それぞれ本発明の試験具、従来の試験具に対応する。図2(a)、(b)において、試料添加用部材3、標識保持部材5、展開用部材7は、レーヨンやグラスファイバーの不織布からなるので、これらの部材では、試料が素早く吸収され、試料の展開速度が速い。一方、クロマト用膜担体9は、ニトロセルロースの多孔体からなるので、クロマト用膜担体9では、試料の吸収が遅く、試料の展開速度が遅い。図2(a)、(b)の矢印の太さは、各部材での試料の展開速度を模式的に示している。
【0020】
まず、図2(b)を参照すると、試料添加用部材3に滴下された試料は、試料添加用部材3及び標識保持部材5内で素早く展開するが、クロマト用膜担体9に到達した時点で展開速度が遅くなる。クロマト用膜担体9での試料の展開速度が遅いので、試料が標識保持部材5内で停滞する。
【0021】
次に、図2(a)を参照すると、試料添加用部材3に滴下された試料は、試料添加用部材3及び標識保持部材5内で素早く展開し、さらに、展開用部材7内で素早く展開する。このため、標識保持部材5内で試料が停滞しない(すなわち、標識保持部材5内で試料が素早く移動する)。標識保持部材5内で試料が素早く移動するので、標識保持部材5に保持されている標識物質が展開溶媒に素早く溶出する(この状況は、少なくとも、展開用部材7が十分に試料で満たされるまで続く。)。標識物質の溶出が速いので、判定部にラインが現れるのが早くなる。従って、本実施形態の試験具を用いるとイムノクロマトグラフィーの判定結果を迅速に得ることができる。
【0022】
ここまで、特定の実施形態を例にとって説明してきたが、本発明は、この実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0023】
検出物質は抗原抗体反応を生じる物質であれば特に限定されず、細菌、原生生物や真菌などの細胞、ウイルス、タンパク質、多糖類などが挙げられる。例えば、前記インフルエンザウイルスのほか、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、マイコプラズマニューモニエ、ロタウイルス、カルシウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、肝炎ウイルス、重症急性呼吸器症候群の病原ウイルス、大腸菌、スタフィロコッカスアウレウス、ストレプトコッカスニューモニエ、ストレプトコッカスピヨゲネス、マラリア原虫、その他、消化器系疾患、中枢神経系疾患、出血熱等の様々な疾患の病原体、これらの代謝産物、癌胎児性抗原やシフラなどの腫瘍マーカー、ホルモンなどが例示される。
【0024】
基材1は、試料添加用部材3や標識保持部材5などの上記部材を適切に配置するためのものであり、プラスチック以外にも紙やガラスなど種々の材質のものを用いることができる。試料添加用部材3は、レーヨン以外にも、グラスファイバー又はセルロースファイバーなどの種々の素材で形成することができる。標識保持部材5は、グラスファイバー以外にも、セルロースファイバーなどの種々の素材で形成することができる。展開用部材7は、レーヨン以外にも、グラスファイバー又はセルロースファイバーなどの種々の素材で形成することができる。クロマト用膜担体9は、ニトロセルロース以外にも、ナイロン(例えば、カルボキシル基やアルキル基を置換基として有してもよいアミノ基が導入された修飾ナイロン)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、セルロースアセテートなどの種々の素材で形成することができる。吸収部材11は、セルロース以外にも、グラスファイバーなどの種々の素材で形成することができる。試料添加用部材3、標識保持部材5、展開用部材7、クロマト用膜担体9及び吸収部材11には、不織布又は多孔体以外にも、毛管現象により試料を展開可能な種々の構造のものを用いることができる。
【0025】
クロマト用膜担体9は、判定部を1つだけ備えてもよく、2つ以上備えてもよい。また、クロマト用膜担体9は、対照部を備えなくてもよい。また、判定部・対照部は、ライン状でなくてもよく、例えば島状に形成してもよい。標識保持部材5は、標識物質を1種だけ保持してもよく、2種以上保持してもよい。また、標識保持部材5は、対照用標識物質を保持しなくてもよい。標識物質は、青や赤以外のラテックス粒子や、金などの金属コロイド、色素分子などで標識されてもよい。また、標識物質は、蛍光粒子、磁気粒子などで標識されてもよい。この場合、対象物質の有無は目視確認できないとしても、蛍光・磁力などを測定することにより、対象物質の有無を確認することができる。標識物質が2種以上ある場合、各標識物質は、互いに異なる色に標識されても、同じ色に標識されてもよい。さらに標識物質及び対照用標識物質は、互いに異なる色に標識されても、同じ色に標識されてもよい。
【0026】
固定化用物質及び標識物質には、種々の抗体又は抗原を用いることができる。すなわち、測定対象が抗原である場合、固定化用物質及び標識物質は、この抗原と抗原抗体反応する抗体を用い、測定対象が抗体である場合、固定化用物質及び標識物質は、この抗体と抗原抗体反応する抗原を用いる。
【0027】
対照部の固定化用物質がアビジンであり、対照用標識物質がビオチンであってもよい。さらに、対照部の固定化用物質と対照用標識物質は、ビオチンとアビジンの組み合わせ以外であってもよい。例えば、抗原抗体反応により結合する組み合わせであってもよい。例えば、対照用標識物質に抗原を用い、対照部の固定化用物質にこの抗原と抗原抗体反応する抗体を用いる。この逆であってもよい。対照用標識物質には、測定対象や判定部の固定化用物質と抗原抗体反応しないものを用いる。
【0028】
2.第2の実施形態
図3は、本発明の第2の実施形態のイムノクロマトグラフィー用試験具の断面図である。この試験具は、第1の実施形態と比べて、展開用部材7を有しない点と、試料添加用部材3が標識保持部材5を覆ってクロマト用膜担体9と接触するように配置されている点が異なっている。これ以外の点は、第1の実施形態と共通している。
【0029】
第2の実施形態では、試料添加用部材3の上流部3aが、第1の実施形態の試料添加用部材3の役割を担い、下流部3cが、第1の実施形態の展開用部材7の役割を担う。すなわち、第1の実施形態と同様の試料を試料添加用部材3の上流部3aに滴下すると、この試料は、毛管現象により、標識保持部材5、試料添加用部材3の下流部3b、クロマト用膜担体9、吸収部材11を順次移動する。試料添加用部材3の下流部3bが展開用部材7と同様の機能を発揮するので、標識保持部材5内で試料が素早く移動し、標識保持部材5に保持されている標識物質が展開溶媒に素早く溶出する。標識物質の溶出が速いので、判定部にラインが現れるのが早くなる。従って、本実施形態の試験具を用いるとイムノクロマトグラフィーの判定結果を迅速に得ることができる。
【実施例1】
【0030】
以下、本発明の実施例1について説明する。
【0031】
1.イムノクロマトグラフィー用試験具(アッセイストリップ)の調製
以下の方法に従って、クロマト用のクロマト用膜担体、標識保持部材を調製し、さらにこれらを用いて、イムノクロマトグラフィー用試験具を調製した。
【0032】
1−1.クロマト用膜担体の調製
図4(クロマト用膜担体の平面図)に示すように、ニトロセルロースメンブレンからなるクロマト用膜担体9の第1判定部9A、第2判定部9B及び対照部9Cに、抗体塗布機(BioDot社)を用いて、それぞれ、リン酸緩衝液(pH7.0)で2.0mg/mLの濃度になるように希釈した抗インフルエンザA型モノクローナル抗体、1.5mg/mLの濃度になるように希釈した抗インフルエンザB型モノクローナル抗体、及びビオチンBSAを塗布し、50℃で30分間乾燥させた。
【0033】
乾燥後のクロマト用膜担体9をブロッキング液(BSAを含有するリン酸緩衝液(pH7.0))に浸漬し、ブロッキングを行った。ブロッキング後、洗浄液(SDSを含有するリン酸緩衝液(pH7.0))で洗浄し、40℃、120分間乾燥させ、クロマト用膜担体9を調製した。
【0034】
1−2.標識保持部材の調製
抗インフルエンザA型モノクローナル抗体を青色着色ポリスチレンラテックス粒子(粒径0.3μm)に感作し、分散用緩衝液(BSA及びシュークロースを含有するリン酸緩衝液(pH7.0))に懸濁し、抗インフルエンザA型モノクローナル抗体感作ラテックス粒子を調製した。
【0035】
抗インフルエンザB型モノクローナル抗体を青色着色ポリスチレンラテックス粒子(粒径0.3μm)に感作し、分散用緩衝液(BSA及びシュークロースを含有するリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、抗インフルエンザB型モノクローナル抗体感作ラテックス粒子を調製した。
【0036】
ストレプトアビジンを赤色ポリスチレンラテックス粒子(粒径0.19μm)に感作し、分散用緩衝液(BSA及びシュークロースを含有するリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、ストレプトアビジン感作ラテックス粒子を調製した。
【0037】
上記抗インフルエンザA型モノクローナル抗体感作ラテックス粒子、抗インフルエンザB型モノクローナル抗体感作ラテックス粒子及びストレプトアビジン感作ラテックス粒子を混合し、混合ラテックスをグラスファイバー製パッドに添加(832μL/300mm×5mm)後、真空乾燥機にて乾燥させ、標識保持部材を調製した。
【0038】
1−3.各部材の基材への貼り付け、裁断
ここで、図5(a)〜(c)を用いて、各部材の基材への貼り付け方法について説明する。図5(a)は、標識保持部材5の右端とクロマト用膜担体9の左端の距離が−3mm(すなわち、両者が3mm重なっている。)の場合であり、図5(b)は、標識保持部材5の右端とクロマト用膜担体9の左端の距離が0mm(すなわち、両者の端が同じ位置にある。)の場合であり、図5(c)は、標識保持部材5の右端とクロマト用膜担体9の左端の距離が3,5,10,20mmの場合を示す。それぞれの場合での各部材の幅(試料が流れる方向の長さ)は、表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
まず、バッキングシートからなる基材1に、図5(a)〜(c)に示すように、上記1−1で調製したクロマト用膜担体9、上記1−2で調製した標識保持部材5、不織布(セルロース90%、レーヨン10%)からなる試料添加用部材3、不織布(セルロース)からなる吸収部材11を貼り合せた。次に、試料添加用部材3と吸収部材11をそれぞれ図示のように覆う透明シール13,15を貼った。最後に、裁断機(BioDot社)にて5mm幅に裁断し、イムノクロマトグラフィー用試験具を調製した。
【0041】
2.試験
次に、上記方法で調製した図5の試験具を用いて、測定対象の検出にかかる時間について試験を行った。
【0042】
(1)まず、A型インフルエンザウイルス(培養ウイルス)A/New Caledonia/20/99を生理食塩水にて160倍に希釈した(希釈後のウイルス濃度1.8×106FFU/mL)。次に、B型インフルエンザウイルス(培養ウイルス)B/Shandong/7/97を生理食塩水にて80倍に希釈した(希釈後のウイルス濃度3.5×105FFU/mL)。なお、FFU(focus forming unit)とは、細胞に感染したウイルスを免疫染色することによって確認できるウイルス感染細胞数から算出されたウイルス数を表す単位である。
【0043】
(2)次に、検体抽出試薬(0.3w/v% NP−40(ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニルエーテル)を含むリン酸緩衝液pH7.3)800μLに、(1)で希釈したA型インフルエンザウイルスを150μL加え、混合し、A型混合試料を調製した。同様に、検体抽出試薬800μLに、(1)で希釈したB型インフルエンザウイルスを150μL加え、混合し、B型混合試料を調製した。
【0044】
(3)次に、(2)で調製したA型混合試料及びB型混合試料を別々の試験管に200μL採った。
(4)次に、(3)の試験管に上記方法で調製した図5の試験具を入れた。
(5)次に、試験具を試験管に入れたまま、しばらく放置し、次に示す項目について測定を行った。その結果を表2に示す。なお、以下の測定項目において、BioDot社のTSR3000メンブレンストリップリーダーで測定したラインの強度が0.015以上0.03未満のものを1+、0.03以上0.08未満のものを2+、0.08以上のものを3+となるような目視判定見本を作製し、試験具に現れたライン強度を該目視判定見本と比較することにより判定を行った。
(a)バックグラウンドがクリアになるまでの時間(BG Clear)
(b)ラテックスが標識保持部材から溶出完了するまでの時間(溶出時間)
(c)対照部9Cのライン強度が3+になるまでの時間
(d)第1判定部9Aのライン強度が1+になるまでの時間
(e)第1判定部9Aのライン強度が2+になるまでの時間
(f)第2判定部9Bのライン強度が1+になるまでの時間
(g)第2判定部9Bのライン強度が2+になるまでの時間
(h)設定判定時間(試験具を入れてから10分後)の第1判定部9A及び第2判定部9Bの目視スコア
(i)設定判定時間以降のバックグラウンド及び感度の上昇の有無
【0045】
【表2】

【0046】
3.考察
表2を参照すると、以下のことが分かる。
(1)標識保持部材5とクロマト用膜担体9の間隔を開けるほど、バックグランドがクリアになるまでの時間が早くなった。
(2)標識保持部材5とクロマト用膜担体9の間隔を開けるほど、ラテックスが標識保持材5から溶出完了するまでの時間が早くなった。
(3)標識保持部材5とクロマト用膜担体9の間隔を開けるほど、対照部9C、第1判定部9A、第2判定部9Bのライン出現時間が早くなった。
(4)標識保持部材5とクロマト用膜担体9の間隔を開けるほど、設定判定時間(10分後)以降のバックグラウンドの上昇及び感度の上昇がなくなり、5mm以上間隔を開けることで設定時間内に設定感度まで各ラインのシグナルの上昇が完了した。
以上より、本発明の試験具を用いると、迅速に判定結果が得られることが実験的に確認された。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施形態のイムノクロマトグラフィー用試験具の断面図である。
【図2】(a)展開用部材がある場合と(2)ない場合の試料展開速度を比較のための図である。
【図3】本発明の第1の実施形態のイムノクロマトグラフィー用試験具の断面図である。
【図4】本発明の実施例1のクロマト用膜担体の平面図である。
【図5】本発明の実施例1のイムノクロマトグラフィー用試験具の断面図である。
【図6】従来のイムノクロマトグラフィー用試験具の断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1:基材 3:試料添加用部材 5:標識保持部材 7:展開用部材 9:クロマト用膜担体 9A:第1判定部 9B:第2判定部 9C:対照部 11:吸収部材 13,15:透明シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料添加用部材と、試料添加用部材に接触して配置され、試料中の測定対象と抗原抗体反応する標識物質を保持する標識保持部材と、標識保持部材と間隔を介して配置され、測定対象と抗原抗体反応する固定化用物質が固定された判定部を有するクロマト用膜担体と、標識保持部材およびクロマト用膜担体と接触するように配置された展開用部材とを備えることを特徴とするイムノクロマトグラフィー用試験具。
【請求項2】
試料添加用部材と、試料中の測定対象と抗原抗体反応する標識物質を保持する標識保持部材と、標識保持部材と間隔を介して配置され、測定対象と抗原抗体反応する固定化用物質が固定された判定部を有するクロマト用膜担体とを備え、試料添加用部材が標識保持部材を覆ってクロマト用膜担体と接触するように配置されていることを特徴とするイムノクロマトグラフィー用試験具。
【請求項3】
試料添加部材がクロマト用膜担体より試料の展開速度が速い材料で構成された請求項1または2に記載のイムノクロマトグラフィー用試験具
【請求項4】
展開用部材がクロマト用膜担体より試料の展開速度が速い材料で構成された請求項1に記載のイムノクロマトグラフィー用試験具
【請求項5】
試料添加用部材が不織布である請求項1または2に記載のイムノクロマトグラフィー用試験具。
【請求項6】
試料添加用部材及び展開用部材が不織布である請求項1に記載のイムノクロマトグラフィー用試験具。
【請求項7】
試料添加用部材がレーヨンまたはグラスファイバーからなり、クロマト用膜担体がニトロセルロースである請求項1または2に記載のイムノクロマトグラフィー用試験具。
【請求項8】
試料添加用部材及び展開用部材がレーヨンまたはグラスファイバーからなり、クロマト用膜担体がニトロセルロースである請求項1に記載のイムノクロマトグラフィー用試験具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−194687(P2006−194687A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5383(P2005−5383)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)