説明

イムノクロマトグラフ法用試験具

【課題】二種類以上の被検出物質を検出するための複数の判定領域を有するイムノクロマト用試験具であり、非特異反応を抑制して被検出物質を正確に検出する試験具を提供する。
【解決手段】試料を添加する試料添加部材と、第一被検出物質と抗原抗体反応を生じる第一標識物質、及び第二被検出物質と抗原抗体反応を生じる第二標識物質を担持する標識物質保持部材と、第一被検出物質と抗原抗体反応を生じる第一固定用物質を固定化した第一判定領域と、第一判定領域の試料展開方向下流側に第二被検出物質と抗原抗体反応を生じる第二固定用物質を固定化した第二判定領域とを配置したクロマト媒体とを有し、第一被検出物質、第二被検出物質、第一標識物質、第二標識物質、第一固定用物質及び第二固定用物質の何れに対しても抗原抗体反応を生じないタンパク質と、第二固定用物質とによって第二判定領域が形成されるイムノクロマト用試験具を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の複数の被検出物質を抗原抗体反応に基づいて検出するイムノクロマトグラフ法を利用した試験具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料中の被検出物質を抗原抗体反応に基づいて免疫学的に検出するための方法として、イムノクロマトグラフ法が知られている。イムノクロマトグラフ法によると、被検出物質に結合可能な固定用抗体をクロマトグラフ担体の一部に固定して判定領域とし、被検出物質と抗原抗体反応を生じる標識抗体と試料とを、クロマトグラフ媒体において毛細管現象によって移動させる。移動してきた試料及び標識抗体を判定領域に接触させることにより、判定領域において被検出物質が標識抗体及び固定用抗体にサンドイッチ状に結合することにより、標識抗体及び被検出物質が判定領域に捕捉される。標識抗体として、抗体を感作した担体粒子(着色したラテックス粒子やコロイド状金属粒子など)を用いた場合、標識抗体が判定領域に捕捉されると判定領域が発色する。イムノクロマトグラフ法においては、このような判定領域の発色を観察することにより試料中の被検出物質の検出を行うことができる。
【0003】
上記イムノクロマトグラフ法を用いて被検出物質を検出する際、試料中に被検出物質が含まれていない陰性の試料でも陽性と判定してしまうことがある(偽陽性)。偽陽性の原因の一つとして、標識抗体が非特異的に固定用抗体に結合することが挙げられる。このような非特異反応による偽陽性を抑制するため、ブロッキング剤が用いられる(例えば、特許文献1)。この技術によると、クロマトグラフ媒体に固定用抗体を固定した後、クロマトグラフ媒体を、ブロッキング剤を含む緩衝液に浸漬し、さらに乾燥させることによって、非特異反応を抑制することができる。
【0004】
しかしながら、二種類以上の被検出物質を検出するために複数の判定領域を有するクロマトグラフ媒体を用いた場合は、特許文献1記載の技術を用いても非特異反応を抑制できないことがある。例えば、試料の展開方向から上流側に第一固定用抗体を固定した第一判定領域と、下流側に第二固定用抗体を固定した第二判定領域とを有するクロマトグラフ媒体を用いた場合、第一判定領域において検出される被検出物質を多く含む試料を展開した際に、標識抗体及び被検出物質と結合した第一固定用抗体が第一判定領域から遊離し、下流に位置する第二判定領域に捕捉されることによって、第二判定領域において偽陽性を呈することがある。
【特許文献1】特開平10−068730号公報(第0026欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、二種類以上の被検出物質を検出するための複数の判定領域を有するクロマトグラフ媒体を備えたイムノクロマトグラフ法用試験具であり、第一判定領域において検出される被検出物質を多く含む試料を検体として用いた場合においても、非特異反応による偽陽性を抑制して試料中の被検出物質の検出を正確に行うことができるイムノクロマトグラフ法用試験具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、試料中の第一被検出物質及び第一被検出物質と異なる第二被検出物質を検出するためのイムノクロマトグラフ法用試験具であって、前記試料を添加する試料添加部材と、前記第一被検出物質と抗原抗体反応を生じる第一標識物質、及び前記第二被検出物質と抗原抗体反応を生じる第二標識物質を担持する標識物質保持部材と、前記第一被検出物質と抗原抗体反応を生じる第一固定用物質を固定化した第一判定領域と、前記第一判定領域の試料展開方向下流側に前記第二被検出物質と抗原抗体反応を生じる第二固定用物質を固定化した第二判定領域とを配置したクロマトグラフ媒体とを有し、ブロッキング剤及び前記第二固定用物質によって前記第二判定領域が形成されるイムノクロマトグラフ法用試験具を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、ブロッキング剤及び第二固定用物質を用いて第二判定領域を作成することによって、第一固定用物質が第二判定領域に捕捉されることを妨げ、第一判定領域において検出される被検出物質を多く含む試料を検体として用いた場合においても、非特異反応による偽陽性を抑制して試料中の被検出物質の検出を正確に行うことができるイムノクロマトグラフ用試験具が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態による試験具1の上面図である。図2は、試験具1の側面図である。試験具1は、イムノクロマトグラフ法を用いて試料中のA型及びB型インフルエンザウイルスを同時に検出する試験具である。試料としては鼻汁、鼻腔拭い液、咽頭拭い液などが用いられる。図1及び図2の矢印は試料展開方向を示し、試料はこの矢印の方向に展開される。試験具1は、試料展開方向上流側から順に試料添加部材2、標識物質保持部材3、クロマトグラフ媒体4及び吸収部材5を備えている。試料添加部材2はシート状のレーヨンから構成される。標識物質保持部材3及び吸収部材5はそれぞれシート状のグラスファイバーから構成される。クロマトグラフ媒体4はシート状のニトロセルロースから構成される。
【0009】
標識物質保持部材3は、A型インフルエンザウイルス抗原と結合可能な標識抗A型インフルエンザウイルス抗原抗体(以下、標識抗A型抗体とする)と、B型インフルエンザウイルス抗原と結合可能な標識抗B型インフルエンザウイルス抗原抗体(以下、標識抗B型抗体とする)とを保持している。標識抗A型抗体とは、青色に着色されたポリスチレンラテックス粒子によって標識され、A型インフルエンザウイルス抗原に特異的な抗体を示す。標識抗B型抗体とは、青色に着色されたポリスチレンラテックス粒子によって標識され、B型インフルエンザウイルス抗原に特異的な抗体のことを示す。
【0010】
クロマトグラフ媒体4は、A型インフルエンザウイルス抗原と結合可能な固定用抗A型インフルエンザウイルス抗原抗体(以下、固定用抗A型抗体とする)を固定したA型インフルエンザウイルス判定領域6a(以下、A型判定領域6aとする)と、B型インフルエンザウイルス抗原と結合可能な抗B型インフルエンザウイルス抗原抗体(以下、固定用抗B型抗体とする)を固定したB型インフルエンザウイルス判定領域6b(以下、B型判定領域6bとする)とを備えている。
【0011】
図2に示すように、試料添加部材2、標識物質保持部材3、クロマトグラフ媒体4及び吸収部材5は、プラスチック製の基板8に接着されており、それぞれ毛細管現象による試料の展開が途切れることのないように連結されている。標識物質保持部材3の下流側の下面はクロマトグラフ媒体4のA型判定領域6aよりも上流側の上面と接して配置される。試料添加部材2の下流側の下面は標識物質保持部材3の上流側の上面と接して配置される。吸収部材5の上流側の下面はクロマトグラフ媒体4のB型判定領域6bよりも下流側の上面と接触して配置される。
【0012】
A型判定領域6aは、固定用抗A型抗体及びウシ血清アルブミン(BSA)を含む溶液をドッティングマシーンなどを用いて塗布することにより作製される。これにより、検体として被検出物質を含まない試料(陰性検体)を検体として用いた場合に稀に生じるA型判定領域6aの偽陽性を抑制することができる。
【0013】
B型判定領域6bは、固定用抗B型抗体及びBSAを含む溶液をドッティングマシーンなどを用いて塗布することにより作製される。これにより、A型インフルエンザウイルスを多く含む試料を試験具1に展開した場合に、上流からの試料の移動によって固定用抗A型抗体がA型判定領域6aから遊離してA型インフルエンザウイルス抗原と共にB型判定領域6bに捕捉されることを妨げることができ、B型判定領域6bにおける偽陽性を抑制することができる。
【0014】
なお、本実施形態では、被検出物質はインフルエンザウイルスであるが、被検出物質としては抗原抗体反応を生じる物質であれば特に限定されず、細菌、原生生物や真菌等の細胞、その他のウイルス、タンパク質、多糖類などが挙げられる。例えば、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、マイコプラズマニューモニエ、ロタウイルス、カルシウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、肝炎ウイルス、重症急性呼吸器症候群の病原ウイルス、大腸菌、スタフィロコッカスアウレウス、ストレプトコッカスニューモニエ、ストレプトコッカスピヨゲネス、マラリア原虫、その他消化器系疾患、中枢神経径疾患、出血熱等の様々な疾患の病原体、これらの代謝産物、癌胎児性抗原やシフラなどの腫瘍マーカー、ホルモンなどが検出対象となる。上述の病原体及びこれらの代謝産物のうち二種以上の被検出物質を同時に検出して疾患の診断を行うために用いることができるが、同種の被検出物質の型別診断に用いられるのが好ましい。同種の被検出物質の型別診断の例としては、A〜E型肝炎ウイルスの同時検出や1型及び2型ヒト免疫不全ウイルスの同時検出などが挙げられる。
【0015】
また、本実施形態では、試料添加部材2はレーヨンからなっているが、試料添加部材2の材質としては毛細管現象を生じる多孔質の吸水性物質であれば特に限定されない。例えば、グラスファイバー、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンなどを用いることも可能である。
【0016】
また、標識物質保持部材3及び吸収部材5はグラスファイバーからなっているが、これらの材質としては毛細管現象を生じる多孔質の吸水性物質であれば特に限定されない。例えば、レーヨン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンなどを用いることも可能である。
【0017】
また、クロマトグラフ媒体4はニトロセルロースからなっているが、クロマトグラフ媒体4の材質としては抗原や抗体を固定でき、毛細管現象を生じる多孔質の吸水性物質であり、クロマトグラフィーによって液体を展開できる材質であれば特に限定されない。例えば、ポリビニリデンフロライド、ポリアミド、ポリエーテルスルホンなどを用いることも可能である。
【0018】
また、本実施形態では、A型判定領域6a及びB型判定領域6bを、ブロッキング剤としてBSAを含有する抗体溶液を用いてそれぞれ作製しているが、この抗体溶液に含有させるブロッキング剤としては、A型インフルエンザウイルス抗原、B型インフルエンザウイルス抗原、標識抗A型抗体、標識抗B型抗体、固定用抗A型抗体及び固定用抗B型抗体の何れに対しても抗原抗体反応を生じないブロッキング剤であれば、特に限定されない。BSA以外には、前記ブロッキング剤としてヤギ、トリなどの血清アルブミン、グロブリン、カゼイン、ゼラチン、スキムミルク、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどを例示することができる。また、BSAの代わりにウシ、ヤギ、トリなどの動物から採取した血清を上述の抗体溶液に添加しても同様の効果を得ることができる。
上述したブロッキング剤の中では、BSA、カゼイン、ゼラチン、又はスキムミルクを用いることが好ましい。
【0019】
また、本実施形態に用いられる抗体としては、被検出物質と結合可能なものであれば特に限定されない。即ち抗体としては、マウスやラットなどの動物に被検出物質を免疫して作製されるポリクローナル抗体でも、ハイブリドーマなどによって産生されるモノクローナル抗体(Kohler & Milstein, 1975, Nature, vol.256, 495)でもよく、これらを単独又は適宜組み合わせて用いることができる。
また、同一の抗原を認識できるものであれば、標識抗A型抗体の抗原結合部と固定用抗A型抗体の抗原結合部とは同一であっても異なっていてもよい。同様に、標識抗B型抗体の抗原結合部と固定用抗B型抗体の抗原結合部とは同一であっても異なっていてもよい。
【0020】
また、本実施形態では、担体粒子としてポリスチレンラテックス粒子を用いているが、抗原又は抗体を感作できる粒子であれば特に限定されない。例えばポリスチレン以外のラテックス粒子、金、銀、白金のようなコロイド状金属粒子、酸化鉄のようなコロイド状金属酸化物粒子などを用いることができる。ラテックス粒子は、種々のモノマーを重合又は共重合させることによって得ることができる。例えば、モノマーとしては、重合性不飽和芳香族類(例えば、クロルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエンなど)、重合性不飽和カルボン酸類(例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸など)、重合性カルボン酸エステル類(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、エチレングリコール−ジ−(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸トリブロモフェニルなど)、不飽和カルボン酸アミド類(例えば、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ブタジエン、イソプレン、酢酸ビニル、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニルなど)、重合性不飽和ニトリル類、ハロゲン化ビニル類、共役ジエン類などを例示することができ、これらのうち一種又は二種以上を用いることができる。
【0021】
また、クロマトグラフ媒体4のB型判定領域6bよりも下流に、試料が適切に展開されたかどうかを確認するためのコントロール領域を作製してもよい。コントロール領域には、例えば、ビオチン(又はアビジン)を固定することができる。この場合、標識物質保持部材3には有色の担体粒子によって標識されたアビジン(又はビオチン)を保持させる。標識物質保持部材3に保持された標識アビジン(又は標識ビオチン)は、試料が展開されると試料と共に試料展開方向下流にクロマトグラフ的に移動し、コントロール領域に達すると固定されているビオチン(又はアビジン)と結合してコントロール領域に捕捉され、コントロール領域が発色する。この発色を観察することにより試料が適切に展開されたかどうかを確認することができる。
【0022】
また、試験具1は、図2aに示すように、試料添加部材2の下流側の下面が標識物質保持部材3の上面全部と接触する構造を有していてもよい。
また、試験具1は、図2bに示すように、クロマトグラフ媒体4と標識物質保持部材3とが間隔を介して配置され、試料添加部材2の下面が標識物質保持部材3を覆い、試料添加部材2の下流側の下面がクロマトグラフ媒体4のA型判定領域6aよりも上流側の上面と接触する構造を有していてもよい。
また、試験具1は、図2cに示すように、試料添加部材2の下面が標識物質保持部材3の上面全部と接触し、試料添加部材2の下流側の末端がクロマトグラフ媒体4のA型判定領域6aよりも上流側の一部と接触する構造を有していてもよい。
【0023】
また、本実施形態では、標識抗体及び固定用抗体を用いて試料中の抗原を検出することにより被検出物質の有無を判定するが、標識抗原及び固定用抗原を用いて試料中の抗体を検出することにより被検出物質の有無を判定してもよい。この場合、標識抗原として試料中の抗体と抗原抗体反応を生じる抗原を感作した担体粒子を用い、クロマトグラフ媒体4の判定領域には試料中の抗体と抗原抗体反応を生じる固定用抗原を感作する。
【0024】
以下、試験具1を用いたA型及びB型インフルエンザウイルスの検出について説明する。
先ず、生体から採取した試料には、前処理が施される。前処理を施すことによって、インフルエンザウイルスはより検出に適した状態となり、検出感度を高めることができる。前処理は、前処理液に試料を添加し、フィルターで濾過することによって行われる。前処理液としては、非イオン系界面活性剤及びアルカリ金属イオンなどを含む水溶液を用いることができる。
【0025】
前処理を施された試料(以下、被検試料とする)は試験具1の試料添加部材2に添加される。被検試料が添加されると毛細管現象によって試料添加部材2から下流に向かって移動し、標識物質保持部材3に到達する。被検試料は標識物質保持部材3に担持されている標識抗体と共にクロマトグラフ媒体4に移動する。クロマトグラフ媒体4のA型判定領域6aに被検試料及び標識抗体が到達すると、被検試料中にA型インフルエンザウイルスが存在する場合は、A型判定領域においてA型インフルエンザウイルス抗原が標識抗A型抗体及び固定用抗A型抗体にサンドイッチ状に結合する。標識抗A型抗体は標識物として青色のポリスチレンラテックス粒子を備えているため、A型判定領域6aに捕捉されると、A型判定領域6aは青色に発色する。この発色が観察されるか否かによって、被検試料中のA型インフルエンザウイルスの存否を判定できる。同様に、B型判定領域6bに被検試料及び標識抗体が到達すると、被検試料中にB型インフルエンザウイルスが存在する場合は、B型判定領域においてB型インフルエンザウイルス抗原が標識抗B型抗体及び固定用抗B型抗体にサンドイッチ状に結合する。標識抗B型抗体は標識物として青色のポリスチレンラテックス粒子を備えているため、B型判定領域6bに捕捉されると、B型判定領域6bは青色に発色する。この発色が観察されるか否かによって、試料中のB型インフルエンザウイルスの存否を判定できる。被検試料及び各判定領域に捕捉されなかった標識抗体は、試験具1の最下流に位置する吸収部材5によって吸収される。
【0026】
<比較例>
(クロマトグラフ媒体Aの作製)
クロマトグラフ媒体Aにはニトロセルロース膜(日本ミリポア社製)を用いた。
【0027】
A型判定領域には固定用抗A型インフルエンザ抗原抗体が固定される。PBSに、固定用抗A型インフルエンザ抗原抗体を2.0mg/ml、BSAを1.0mg/mlの濃度で含有させて調製した固定用抗A型抗体溶液(pH7.0)をニトロセルロース膜に線状に塗布し、この線をA型判定領域とした。
【0028】
B型判定領域には固定用抗B型インフルエンザ抗原抗体が固定される。上記ニトロセルロース膜のA型判定領域よりも下流に、PBSに固定用抗B型インフルエンザ抗原抗体を1.5mg/mlの濃度で含有させて調整した固定用抗B型抗体溶液(pH7.0)を線状に塗布し、この線をB型判定領域とした。
【0029】
なお、固定用A型抗体溶液及び固定用B型抗体溶液のニトロセルロース膜への塗布は、バイオドット社製XYZ3000を用いて行った。
【0030】
固定用抗A型抗体溶液及び固定用抗B型抗体溶液をニトロセルロース膜へ塗布した後、ニトロセルロース膜を乾燥させた。その後、ブロッキング溶液(リン酸1ナトリウム、10mM;アジ化ナトリウム、0.1w/v%;BSA、1.0w/v%;pH7.0)に浸漬してブロッキング処理を行い、さらに乾燥させ、クロマトグラフ媒体Aとした。
【0031】
(標識物質保持部材の作製)
pH8.0のPBSに平均粒径0.3μmの青色ポリスチレンラテックス粒子を添加し、さらにグルタルアルデヒドを最終濃度が0.1w/v%となるよう添加し、25℃で一時間攪拌を行った。攪拌された混合液を遠心して上清を除去し、沈渣にpH8.0のPBSを添加した。次に、ポリスチレンラテックス粒子を分散させ、A型インフルエンザウイルス抗原に結合可能なモノクローナル抗体100μg/mlを添加し、これを25℃で二時間攪拌した。これを遠心して、上清を除去した。得られた沈渣にBSAを10w/v%含有するpH8.0のPBSを加え、混和して分散させた後、37℃で一晩静置した。このようにして調製された混合液を遠心して上清を除去し、沈渣にBSAを5w/v%含有するpH8.0のPBSを添加した。これを混和して分散させた後、0.8μmメッシュのフィルターで濾過し、得られた濾過液を標識抗A型抗体溶液とした。
【0032】
標識抗B型抗体溶液は、A型インフルエンザウイルス抗原に結合可能なモノクローナル抗体に代えて、B型インフルエンザウイルス抗原に結合可能なモノクローナル抗体を用いること以外、標識抗A型抗体溶液と同様にして調製された。
【0033】
上記のようにして調製された標識抗A型抗体及び標識抗B型抗体を1:1の混合比で混合し、これをグラスファイバーに含浸させた後乾燥させ、標識物質保持部材を得た。
【0034】
(試験具Aの作製)
図2において、クロマトグラフ媒体4としてクロマトグラフ媒体Aを用いて試験具Aを作製した。
【0035】
<実施例>
(クロマトグラフ媒体B及びCの作製)
BSAを1.0mg/ml含有する固定用抗B型抗体溶液を用いてB型判定領域を作製すること以外は、クロマトグラフ媒体Aと同様にしてクロマトグラフ媒体Bを作製した。
BSAを2.0mg/ml含有する固定用抗B型抗体溶液を用いてB型判定領域を作製すること以外は、クロマトグラフ媒体Aと同様にしてクロマトグラフ媒体Cを作製した。
【0036】
(試験具B及びCの作製)
図2において、クロマトグラフ媒体4としてクロマトグラフ媒体Bを用いて試験具Bを作製した。
図2において、クロマトグラフ媒体4としてクロマトグラフ媒体Cを用いて試験具Cを作製した。
【0037】
<固定用抗B型抗体溶液へのBSA添加による効果>
(試験具A〜Cを用いたインフルエンザウイルスの検出)
試料としては、A型インフルエンザウイルスもB型インフルエンザウイルスも含まれていない試料(陰性試料)、A型インフルエンザウイルス弱陽性試料(試料1)及びA型インフルエンザウイルス強陽性試料(試料2)を用いた。
【0038】
次に、これらの試料に前処理を施した。試料と0.3w/v%のノニデットP−40(ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニールエーテルの商品名)を含む前処理液(pH7.8)とを混合し、試料と前処理液の混合液をフィルターで濾過することによって被検試料を得た。陰性被検試料を前処理したものを陰性被検試料とし、試料1を前処理したものを被検試料1とし、試料2を前処理したものを被検試料2とした。
【0039】
これらの被検試料をそれぞれ試験具A〜Cの試料添加部材に添加し、インフルエンザウイルスの検出を行った。検証結果を表1に示す。
【表1】

【0040】
表1中、+の数が多いほど判定領域において発色が強いことを示し、即ち陽性の程度が強いことを示す。
−は判定領域において発色が観察されなかったことを示し、即ち陰性であることを示す。
【0041】
表1より、何れの試験具を用いても陰性被検試料を検体として用いた場合は各判定領域においてインフルエンザウイルスは検出されなかった。
【0042】
被検試料1を検体として用いた場合は、何れの試験具を用いてもA型判定領域が発色し、B型判定領域は発色しなかった。即ち、A型インフルエンザウイルスが陽性であると判定された。
【0043】
被検試料2を検体として用いた場合は、何れの試験具を用いてもA型判定領域が濃く発色し、A型インフルエンザウイルスが強陽性であると判定された。しかしながら、試験具Aにおいて、B型インフルエンザを含まない被検試料2を検体として用いたにもかかわらず、B型判定領域が発色した。A型インフルエンザウイルスを高濃度に含む試料を用いたときに生じるこの現象は、固定用抗A型抗体がA型判定領域から遊離し、A型インフルエンザウイルス抗原と共にB型判定領域に捕捉されることによって起こる偽陽性反応である。
【0044】
試験具B及びCにおいて、被検試料2を検体として用いた場合、B型判定領域は発色せず、正確にインフルエンザウイルスの検出が行われた。このことから、BSAを含有させた固定用抗B型抗体溶液を用いて試験具B及びCのB型判定領域を作製することによって、試験具B及びCのB型判定領域における偽陽性反応を完全に抑制できることが判明した。
【0045】
<固定用抗A型抗体溶液へのBSAの添加による効果>
BSAを添加した固定用抗A型抗体溶液を用いてA型判定領域を作製することによって、陰性試料を用いた場合にどのような効果が得られるかを、試験具Bを用いて検証した。また、対照として、BSAを含まない固定用抗A型抗体溶液を用いてA型判定領域を作製すること以外は試験具Aと同様にして作製した試験具Dを用いた。
検出には検体として陰性被検試料1〜40を用いた。
【0046】
検証結果を表2に示す。
【表2】

【0047】
表2中、wは判定領域において薄い発色が観察されたことを示し、即ち弱陽性であることを示す。
−は判定領域において発色が観察されなかったことを示し、即ち陰性であることを示す。
【0048】
表2より、試験具Dでは陰性被検試料1〜40のうち、2検体でA型判定領域に薄い発色が観察された。これはA型判定領域での非特異的反応によって起こった偽陽性である。しかしながら、試験具Dではすべての検体においてA型判定領域における発色は見られず、偽陽性を抑制することができた。
【0049】
以上の結果より、BSAを含有する固定用抗A型抗体溶液を用いてA型判定領域を作製することにより、陰性被検試料を検体として用いた場合にA型判定領域で起こる偽陽性を抑制できることが判明した。
【0050】
<固定用抗B型抗体溶液へのBSA以外のタンパク質の添加による効果>
BSA以外のタンパク質を添加した固定用抗B型抗体溶液を用いてB型判定領域を作製することによってどのような効果が得られるかを検証した。
【0051】
カゼインを1.0mg/ml含有する固定用抗B型抗体溶液を用いてB型判定領域を作製すること以外は、試験具Aと同様にして試験具Eを作製した。
ゼラチンを1.0mg/ml含有する固定用抗B型抗体溶液を用いてB型判定領域を作製すること以外は、試験具Aと同様にして試験具Fを作製した。
スキムミルクを1.0mg/ml含有する固定用抗B型抗体溶液を用いてB型判定領域を作製すること以外は、試験具Aと同様にして試験具Gを作製した。
【0052】
ここでは、試験具E〜Gを用い、さらに対照として試験具Dを用いて、陰性被検試料、被検試料1及び被検試料2のインフルエンザウイルスの検出を行った。
【0053】
検証結果を表3に示す。
【表3】

【0054】
表3中、+の数が多いほど判定領域において発色が強いことを示し、即ち陽性の程度が強いことを示す。
wは判定領域において薄い発色が観察されたことを示し、即ち弱陽性であることを示す。
±は判定領域において極めて薄い発色が観察されたことを示す。
−は判定領域において発色が観察されなかったことを示し、即ち陰性であることを示す。
【0055】
表3より、何れの試験具を用いても陰性被検試料を検体として用いた場合は各判定領域においてインフルエンザウイルスは検出されなかった。
【0056】
被検試料1を検体として用いた場合は、何れの試験具を用いてもA型判定領域が発色し、B型判定領域は発色しなかった。即ち、A型インフルエンザウイルスが陽性であると判定された。
【0057】
被検試料2を検体として用いた場合は、何れの試験具を用いてもA型判定領域が濃く発色し、A型インフルエンザウイルスが強陽性であると判定された。しかしながら、対照として用いた試験具Dにおいては、B型判定領域が発色し、偽陽性を呈した。一方、試験具E〜Gにおいては、B型判定領域が発色したが、試験具Aにおける発色よりも極めて薄い発色であった。このことより、カゼイン、ゼラチン又はスキムミルクを含む固定用抗B型抗体溶液を用いて試験具E〜GのB型判定領域を作製することによって、試験具E〜GのB型判定領域における偽陽性反応を抑制できることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】試験具1の上面図である。
【図2】試験具1の側面図である。
【図3】図2とは異なる構造を有する試験具1の態様である。
【符号の説明】
【0059】
1 試験具
2 試料添加部材
3 標識物質保持部材
4 クロマトグラフ媒体
5 吸収部材
6a A型判定領域
6b B型判定領域
8 基板







【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の第一被検出物質及び第一被検出物質と異なる第二被検出物質を検出するためのイムノクロマトグラフ法用試験具であって、前記試料を添加する試料添加部材と、前記第一被検出物質と抗原抗体反応を生じる第一標識物質、及び前記第二被検出物質と抗原抗体反応を生じる第二標識物質を担持する標識物質保持部材と、前記第一被検出物質と抗原抗体反応を生じる第一固定用物質を固定化した第一判定領域と、前記第一判定領域の試料展開方向下流側に前記第二被検出物質と抗原抗体反応を生じる第二固定用物質を固定化した第二判定領域とを配置したクロマトグラフ媒体とを有し、ブロッキング剤及び前記第二固定用物質によって前記第二判定領域が形成されるイムノクロマトグラフ法用試験具。
【請求項2】
前記ブロッキング剤及び前記第二固定用物質を含む溶液を塗布することによって前記第二判定領域が形成される請求項1記載のイムノクロマトグラフ法用試験具。
【請求項3】
第二ブロッキング剤及び第一固定用物質によって前記第一判定領域が形成される請求項1記載のイムノクロマトグラフ法用試験具。
【請求項4】
前記第二ブロッキング剤及び前記第一固定用物質を含む溶液を塗布することによって前記第一判定領域が形成される請求項3記載のイムノクロマトグラフ法用試験具。
【請求項5】
前記ブロッキング剤がグロブリン、アルブミン、カゼイン、ゼラチン、スキムミルク、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1記載のイムノクロマトグラフ法用試験具。
【請求項6】
前記第二ブロッキング剤がグロブリン、アルブミン、カゼイン、ゼラチン、スキムミルク、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも一種である請求項3記載のイムノクロマトグラフ法用試験具。
【請求項7】
前記ブロッキング剤と、前記第二ブロッキング剤とが同じである請求項3記載のイムノクロマトグラフ法用試験具。
【請求項8】
前記クロマトグラフ媒体が、第三ブロッキング剤を含む溶液に浸漬されることによりブロッキングされる請求項1〜7の何れかに記載のイムノクロマトグラフ法用試験具。
【請求項9】
前記第三ブロッキング剤がグロブリン、アルブミン、カゼイン、ゼラチン、スキムミルク、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも一種である請求項8記載のイムノクロマトグラフ法用試験具。
【請求項10】
前記第一被検出物質及び/又は前記第二被検出物質がウイルス、細菌、原生生物、真菌、腫瘍マーカー又はホルモンである請求項1〜9の何れかに記載のイムノクロマトグラフ法用試験具。
【請求項11】
前記第一標識物質が着色ラテックス粒子及び第一被検出物質と抗原抗体反応を生じる第一物質を備え、前記第二標識物質が着色ラテックス粒子及び第二被検出物質と抗原抗体反応を生じる第二物質を備える請求項1〜10の何れかに記載のイムノクロマトグラフ法用試験具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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