説明

イヤパッド

【課題】密閉性を高めて、外部への音漏れ、騒音の侵入などを抑制することができるイヤパッドを提供する。
【解決手段】イヤパッド7はヘッドホンのハウジングのユーザの側頭部に対向する側の面に設けられる。イヤパッド7はハウジング5に取り付けられた状態においてハウジング側に位置する底面72、ユーザの側頭部に接触する接触面73を備える。イヤパッド7は中央にユーザの耳を収納するための開口部71を有し、正面視縦長の環状に形成されている。イヤパッド7は、鉛直方向においては外寸Vと内寸vの差が大きくなるように、すなわち、接触面73の幅が広くなるように形成されている。また、水平方向においては、外寸Hと内寸hの差が小さくなるように、すなわち、接触面73の幅が狭くなるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イヤパッドに関し、詳しくは、ヘッドホンなどに設けられる緩衝部材としてのイヤパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、音声再生装置から出力される音声を聴くためにヘッドホンが使用されている。このヘッドホンは一般的に、ユーザの頭部に接するヘッドバンドと、ヘッドバンドの左右両端に設けられ、スピーカなどからなる音声出力手段を収容したハウジングとを備える。そして、ハウジングにおけるユーザの側頭部に対向する側の面には、ハウジングがユーザの側頭部に直接当接することを防ぐ緩衝部材としてイヤパッドが設けられている。
【0003】
イヤパッドは、ヘッドホンを装着した際のユーザの耳、側頭部などへの接触による不快感を低減する緩衝部材として働く。また、イヤパッドは気密性の高い素材を用いて構成されており、ユーザの側頭部との隙間を密閉することにより、外部からの騒音を遮断してスピーカからの音声を聴取し易くする役割も担う。さらに、スピーカからの音声が外部に漏れることを防ぐ役割も担う。
【0004】
イヤパッドには種々の形状があり、例えば、外径が内径から等距離なものがある。また、幅が一定の円形状に形成されたもの、幅が一定の略長方形状に形成されたものなどもある。しかし、それら、幅が一定の形状では、図1に示すように、ヘッドホン装着時にイヤパッド1000とユーザの側頭部2000との間に耳周辺の毛髪が挟み込まれる。これにより、イヤパッド1000とユーザの側頭部2000により形成される空間と外部とが連通してしまい、密閉性が低くなってしまう。また、耳周辺の側頭部の凹凸との間に隙間が生じることによっても密閉性が低くなってしまう。
【0005】
密閉性が低いと、外部への音漏れを防ぐことができない。また、出力される音声の低音域の再現が不十分となる。図2Aは横軸を周波数、縦軸を再生される音声の音圧とし、密閉度の高いイヤパッドを備えるヘッドホンと密閉度の低いイヤパッドを備えるヘッドホンとにおける音圧の比較結果を示したものである。図2Aからわかるように密閉度が低い場合は、周波数が低い領域、すなわち低音域においては音圧が低くなってしまい、低音域が十分に再現されていない。
【0006】
さらに、外部からの騒音の侵入も問題となる。図2Bは、横軸を周波数、縦軸を騒音の侵入量とし、密閉度の高いイヤパッドを備えるヘッドホンと密閉度の低いイヤパッドを備えるヘッドホンとで騒音侵入量を比較したものである。比較は、密閉していないヘッドホン、密閉度が低いヘッドホン、密閉度が高いヘッドホンの3つで行っている。図2Bからわかるように、密閉度が高ければ騒音の侵入量を低減することができる。
【0007】
そこで、ヘッドホンを構成するヘッドバンドの側圧を大きくすることにより、密閉性を高めることが行われている。また、イヤパッドは、ユーザがヘッドホンを装着した際にユーザの側頭部の形状に追従して変形するため、イヤパッド自体を大きく形成することによりユーザの頭部との接触面積を大きくして、密閉性を高めることも行われている。
【0008】
さらに、イヤパッドを環状緩衝部材とその環状緩衝部材を覆う被覆部材とから構成し、環状緩衝部材は、外環部材と中環部材と内環部材とから構成され、少なくとも中環部材の硬度が、外環部材と内環部材と異なるイヤパッドが提案されている(特許文献1)。
【0009】
特許文献1に記載のイヤパッドにおいては、中環部材の硬度が内環部材及び外環部材よりも低いため、環状緩衝部材が被覆部材に覆われると、その被覆部材の張力により外環部材と内環部材が中環部材側に歪むことになる。その結果、その歪みに被覆部材の張力が吸収されて、外環部材と内環部材との上面は略平坦となる。そして、その平坦面にユーザの頭部が当接することにより、ユーザの頭部とイヤパッドとの接触面積が増加して、イヤパッドによる密閉性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−105841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、ヘッドバンドの側圧を大きくする手法は、言い換えればユーザの耳や頭部を締め付ける力が大きくなるものであるため、ユーザに不快感や痛みを与えることとなる。また、イヤパッドを大きく形成する手法においては、ヘッドホンの携帯性が損なわれることとなる。
【0012】
特許文献1に記載のイヤパッドを用いることにより、ヘッドホンの携帯性を損なうことなく密閉性を高めることができる。しかし、その密閉性はまだ充分満足のいくものではないと考えられる。また、イヤパッドの材質に特徴を持たせる以外にも、イヤパッドの形状に特徴を持たせることにより密閉性を高めることが可能だと考えられる。
【0013】
したがって、この発明の目的は、密閉性を高めて、外部への音漏れ、騒音の侵入などを抑制することができるイヤパッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、音声出力手段を収納可能なハウジングに取り付け可能であり、開口部を有することにより環状に形成され、ハウジング側に位置する底面とユーザの側頭部に接する接触面とを有し、水平方向外寸に対して鉛直方向外寸が大きく形成されるとともに、外周下端から内周下端までの距離である接触面の鉛直方向下部の幅が、外周側端から内周側端までの距離である接触面の水平方向の幅よりも大きくなるように形成されているイヤパッドである。
【0015】
第2の発明は、音声出力手段を収納可能なハウジングに取り付け可能であり、開口部を有することにより環状に形成され、ハウジング側に位置する底面とユーザの側頭部に接する接触面とを有し、接触面は傾斜面を有するように形成されているイヤパッドである。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、ヘッドバンドの側圧を高めるなどの手法を採用することなくイヤパッドの密閉性を高めて、外部への音漏れ、騒音の侵入などを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来のイヤパッドによる問題点を説明するための図である。
【図2】図2Aはイヤパッドの密閉度と音圧の関係を示す図であり、図2Bはイヤパッドの密閉度と騒音侵入量の関係を示す図である。
【図3】この発明に係るイヤパッドを備えるヘッドホンの外観構成を示す図である。
【図4】第1の実施の形態に係るイヤパッドの外観図である。
【図5】第1の実施の形態に係るイヤパッドの断面図である。
【図6】イヤパッドが当接するユーザの側頭部について説明するための図である。
【図7】イヤパッドの鉛直方向外寸のサイズと騒音侵入量および遮音量の関係を示す図である。
【図8】第2の実施の形態に係るイヤパッドの外観図である。
【図9】第2の実施の形態に係るイヤパッドの断面図である。
【図10】ヘッドホン装着時におけるイヤパッドの状態を示す図である。
【図11】この発明に係るイヤパッドの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
<1.第1の実施の形態>
[1−1.ヘッドホンおよびイヤパッドの構成]
[1−2.イヤパッドによる効果]
<2.第2の実施の形態>
[2−1.イヤパッドの構成]
[2−2.イヤパッドによる効果]
<3.変形例>
【0019】
<1.第1の実施の形態>
[1−1.ヘッドホンおよびイヤパッドの構成]
図3は、この発明に係るイヤパッド7を備えるヘッドホン1の外観構成を示す図である。ヘッドホン1は、ヘッドバンド2、スライダ3、ハンガ4、ハウジング5、コード6およびイヤパッド7から構成されている。
【0020】
ヘッドバンド2はユーザの頭部に沿うように湾曲状に形成されており、装着状態においてユーザの頭頂部に接することによりヘッドホン1全体を支持するものである。ヘッドバンド2はプラスチックなどの合成樹脂、金属などを用いて構成されており、所定の剛性および弾性を有することにより可撓性を備えている。これにより、装着時にはハウジング5およびイヤパッド7をユーザの側頭部方向に押圧してヘッドホン1の装着状態を維持することができる。なお、ヘッドバンド2の内面におけるユーザの頭頂部に当接する部分に緩衝材としてゴムなどを設けるようにしてもよい。また、携帯時に中央で折り畳めるようにヒンジを備えるようにしてもよい。
【0021】
スライダ3は、ヘッドバンド2の両端に設けられている。そして、スライダ3にはハンガ4が設けられている。スライダ3はヘッドバンド2内部において摺動可能に構成されている。スライダ3が摺動することにより、ハンガ4をヘッドバンド2に対して下方または上方に移動させることができる。ヘッドホン1の装着時には、ユーザの頭部の大きさや耳と頭頂部との距離などに合わせてスライダ3の伸縮度合いを調整することにより、ハウジング5およびイヤパッド7をユーザの耳に対向する位置に合わせる事ができる。これにより、ユーザは自らの身体的特徴や嗜好に応じた装着感を得ることができる。一方、ヘッドホン1を使用しない場合には、スライダ3を縮めた状態にすることにより、保管スペースを節約することができる。
【0022】
ハンガ4はスライダ3の先端に設けられており、ハウジング5を回動自在に支持するものである。ハンガ4は、一対の先端からそれぞれ内向きに突出する支持ピン(図示せず。)で軸支することによりハウジング5を回動自在に支持する。これにより、ヘッドホン1の装着時においては、ユーザの耳の周囲の形状に合わせてハウジング5の向きが変わるため、ハウジング5をユーザの側頭部の形状に適した状態で耳に対向させることができる。
【0023】
ハウジング5は、内部に音声処理回路、スピーカ(共に図示せず。)などを収容する収容部として機能するものである。ハウジング5は例えば、プラスチックなどの合成樹脂を用いて形成されている。音声処理回路は例えば、スピーカを駆動する音声信号に対して、ノイズキャンセリング処理、信号増幅処理、イコライジング処理などの所定の音声信号処理を施すものである。スピーカは音声処理回路により処理が施された音声信号を音声として出力する音声出力手段である。
【0024】
コード6は、内部に左チャンネル用導線L、右チャンネル用導線R、グランド線Gなどが挿通しており、音声信号を伝送するためのものである。コード6の一端は一対のハウジング5のうち一方のハウジング5内に収容された音声処理回路に接続される。また、コード6の他端にはプラグ(図示せず。)が設けられている。そのプラグがMP3プレーヤなどの音声再生装置(図示せず。)に接続されることにより、ヘッドホン1が音声再生装置に接続される。
【0025】
コード6が接続されてない他方のハウジング5内のスピーカを駆動するために、コード6が接続された一方のハウジング5と、コード6が接続されていない他方のハウジング5との間には、接続コード(図示せず)が設けられている。この接続コードは、コード6またはコード6が接続されたハウジング5内の音声処理回路に接続され、ハンガ4、スライダ3及びヘッドバンド2の内部を挿通して他方のハウジング5内の音声処理回路に接続される。この接続コードによって、コード6が接続されていない他方のハウジング5内の音声処理回路に音声信号が伝送される。ただし、左右両方のハウジング5内の音声処理回路にそれぞれ音声信号を供給するように2本のコードをそれぞれ左右のハウジング5に接続する構成としてもよい。
【0026】
イヤパッド7は、弾力性を有するように構成されており、ハウジング5におけるユーザの側頭部に対向する側の面に設けられている。イヤパッド7は、ハウジング5とユーザの側頭部との間に介在することにより、ハウジング5とユーザの側頭部間の緩衝部材として機能するものである。すなわち、イヤパッド7は、ヘッドホン1の装着時において、変形しにくい硬い素材で形成されたハウジング5が直接ユーザの側頭部に接してユーザに不快感や痛みを与えることを防止するものである。
【0027】
また、イヤパッド7は、イヤパッド7とユーザの側頭部により形成される空間(以下、イヤパッド内部空間、と称する。)を密閉することにより、低音域の再現性の向上などの音質の向上を図る役割も担う。また、スピーカから出力される音声が外部に漏れることを防ぐ役割も担う。さらに、イヤパッド7は外部からの騒音を遮断してスピーカからの音声を聴取し易くする働きも担う。
【0028】
イヤパッド7とハウジング5との間には防護ネット8が設けられている。この防護ネット8は、ハウジング5に収容されているスピーカ、音声処理回路への塵埃の侵入を防止するためのものである。
【0029】
図4はイヤパッド7の外観図である。図4Aは正面図(ユーザの側頭部に接触する側から見た図)、図4B、図4Cは側面図、図4Dは上面図、図4Eは下面図である。また、図5はイヤパッド7の断面図であり、図5Aは図4Aにおける5A−5A断面図、図5Bは図4Aにおける5B−5B断面図である。
【0030】
イヤパッド7は中央にユーザの耳を収納するための開口部71を有し、正面視縦長の環状に形成されている。イヤパッド7はハウジング5に取り付けられた状態においてハウジング5側に位置する底面72、ヘッドホン1の装着時においてユーザの側頭部に接触する接触面73およびハウジング5に接続するための接続部74を備える。
【0031】
イヤパッド7は、鉛直方向においては外寸Vと内寸(開口部71の鉛直方向直径)vの差が大きくなるように、すなわち、接触面73の幅が広くなるように形成されている。一方、水平方向においては、外寸Hと内寸(開口部71の水平方向直径)hの差が小さくなるように、すなわち、接触面73の幅が狭くなるように形成されている。
【0032】
また、鉛直方向においては、外周上端から内周上端までの距離(接触面73の縦幅p)と、外周下端から内周下端までの距離(接触面73の縦幅q)とは略同一になるように形成されている。また、水平方向においては、左側外周側端から左側内周側端までの距離(接触面73の横幅r)と、右側外周側端から右側内周側端までの距離(接触面73の横幅s)とは略同一になるように形成されている。
【0033】
このようにして、この発明に係るイヤパッド7は、接触面73の縦幅pおよび縦幅qは広く、接触面73の横幅rおよび横幅sは狭くなるように形成されている。なお、イヤパッド7の開口部71は上述した条件を満たしつつ、余分な隙間を生じさせることなく、ユーザの耳を収めることができる適切なサイズとなるように形成するとよい。
【0034】
イヤパッド7は、環状に形成された緩衝部9と、緩衝部9を被覆するカバー10とから構成されている。緩衝部9は、例えば、発泡ウレタン・綿・化学繊維などの弾力性のある材料を用いて形成されている。ただし、緩衝部9を構成する材料は、それらに限定されるものではなく、適度な弾力性を有しているものであればいかなる材料であってもよい。
【0035】
カバー10は、緩衝部9の全面を覆い、ヘッドホン1の装着時においてユーザの側頭部に直接接触するものである。第1の実施の形態においては、カバー10は緩衝部9における底面72側を覆う底面側被覆部101と、緩衝部9における接触面73側を覆う接触面側被覆部102とから構成されている。底面側被覆部101と接触面側被覆部102とは例えば縫い合わせるにより結合されている。カバー10は例えば、天然皮革、合成皮革などの肌触りのよい材料で形成されることが好ましい。
【0036】
接続部74は、イヤパッド7のハウジング5側の外周に設けられており、イヤパッド7の中心方向に開いた断面略略コの字状に形成されている。接続部74は、ハウジング5方向に延長形成され、その先端がイヤパッド7の中心方向に向くように形成されている。そして、イヤパッド7の中心方向に向けて延長形成された部位が、ハウジング5の外周に形成されたイヤパッド取り付け用溝(図示せず。)に挿入されることにより、イヤパッド7は、ハウジング5に固定される。イヤパッド7は、ハウジング5から取り外して、交換することもできる。
【0037】
[1−2.イヤパッドによる効果]
第1の実施の形態に係るイヤパッド7は上述のように構成されている。次にそのイヤパッド7による効果について説明する。図6Aに示すように人の耳の裏および耳の下には顎の上端部分、首などによる凹凸が存在する凹凸領域500がある。ヘッドホン1の装着時にその凹凸領域500における凹凸とイヤパッド7との間に隙間が生じてイヤパッド内部空間と外部とが連通してしまうと密閉性が低くなる。密閉性が低くなると、ヘッドホン1から外部への音漏れ、外部からの騒音の侵入、音質の低下などが生じてしまう。
【0038】
また、図6Aに示すように、耳の前方(ヘッドホン1装着状態における顔方向)、耳の後方(ヘッドホン1装着状態における後頭部方向)および耳の上方には髪の毛が存在する。ヘッドホン1を装着した際、イヤパッド7が直接皮膚に接触せずに、イヤパッド7と側頭部の皮膚とで髪の毛を挟んでしまうと、その髪の毛部分を介してイヤパッド内部空間と外部とが連通してそこからも外部への音漏れ、騒音の侵入などが生じてしまう。
【0039】
ユーザがヘッドホン1を装着すると図6Bに示すようになる。ヘッドホン1の装着状態においては図6Cに示すようにイヤパッド7の接触面73が側頭部の耳周辺に接触する。図6Cにおいて斜線で示される範囲が接触面73が接触している領域である。
【0040】
この発明に係るイヤパッド7は、鉛直方向においては接触面73の幅が広く形成されている。これにより、ヘッドバンド2により側頭部方向に押圧されて変形した際におけるイヤパッド7の皮膚との接触面積が増えることとなる。したがって、図6Cに示すように、イヤパッド7で耳の裏および下に存在する凹凸領域500の全面を覆うことができる。これにより、凹凸領域500における凹凸とイヤパッド7との間に隙間が生じてイヤパッド内部空間と外部とが連通してしまうことを防止し、密閉性を高めることができる。よって、接触面73は、鉛直方向の幅、特に鉛直方向下部の幅が凹凸領域500の全面を覆うことができる広さを有するように形成されるとよい。
【0041】
また、緩衝部9は例えば、発泡ウレタン・綿・化学繊維などの弾力性のある材質を用いて形成されている。したがって、イヤパッド7はヘッドバンド2により側頭部方向に押圧されると凹凸領域500における凹凸に追従して変形する。これによって、より確実に凹凸とイヤパッド7との間に隙間が生じてイヤパッド内部空間と外部とが連通してしまうことを防止し、密閉性を高めることができる。
【0042】
さらに、この発明に係るイヤパッド7の接触面73は、水平方向においては幅が狭く形成されている。これにより、耳の前方(顔方向)および後方(後頭部方向)においては、髪の毛と耳との間に存在する無頭髪領域600、610にイヤパッド7の接触面73を直接接触させることが可能となる。すなわち、イヤパッド7による髪の毛の挟みこみを抑制することが可能となる。したがって、イヤパッド内部空間と外部とが髪の毛部分において連通してしまうことを防止し、密閉性を高めることができる。なお、無頭髪領域とは、側頭部の耳の周辺における髪の毛が生えていない、または髪の毛が生えていてもその量が極少量である領域(ただし、産毛が生えている場合を含む)のことをいうものとする。
【0043】
上述したように、イヤパッド7の接触面73は鉛直方向においては幅が広く形成されることにより、密閉性を高めるという効果を奏することができる。しかし、イヤパッド7の幅は広ければ広いほど密閉性を高める効果を発揮することができるというものではない。
【0044】
図7Aは、内寸は同一であり、鉛直方向の外寸が異なることにより、鉛直方向の接触面の幅が異なる3種類のイヤパッドにおける騒音侵入量の比較結果を示すものである。幅が最も狭いものをイヤパッドAとし、その次に幅が広いものをイヤパッドBとし、幅が最も広いものをイヤパッドCとする。
【0045】
図7Aに示す結果からわかるように、イヤパッドA、イヤパッドB、イヤパッドCはいずれも騒音侵入量を低減させることができる。しかし、最も騒音侵入量を低減させているのは、接触面の鉛直方向の幅が最も広いイヤパッドCではなく、イヤパッドBである。接触面の鉛直方向の幅が最も広いイヤパッドCにおいてはイヤパッドBよりも騒音侵入量が大きくなってしまう。
【0046】
図7Bは、図7Aに示す所定の周波数FにおけるイヤパッドA、イヤパッドBおよびイヤパッドCの遮音量の比較結果を示すものである。イヤパッドAからイヤパッドBへとイヤパッドの接触面の鉛直方向の幅を広げるとそれに比例するように遮音量は大きくなっている。しかし、イヤパッドBからイヤパッドCへとさらに接触面の鉛直方向の幅を広げると逆に遮音量は小さくなっていく。イヤパッドBの幅が遮音量のピークであり、イヤパッドBよりもイヤパッドの幅を大きくすると逆に遮音量は小さくなっていく。
【0047】
この比較結果から、イヤパッドの接触面の鉛直方向の幅は広ければ広いほどよいのではなく、イヤパッドの幅には密閉性を最も高める最適値が存在するということがわかる。これは、接触面の幅が広くなりすぎると挟み込まれる髪の毛の量が増え、それによりイヤパッドが浮き上がってしまうこと、接触面の下端が顎のラインからはみ出ることにより、イヤパッド内部空間と外部とが連通してしまうことなどによると考えられる。
【0048】
この点を考慮し、この発明においては、イヤパッド7は、図4においてVで示されている鉛直方向の外寸(イヤパッド7の鉛直方向直径)と、vで示されている鉛直方向の内寸(開口部71の鉛直方向直径)とが下記の式1で示される関係を満たすように構成されている。
[式1]
1.5≦(V/v)≦1.8
【0049】
なお、図7に示す比較結果は水平方向における接触面の幅にも当てはまるものである。すなわち、水平方向の幅の最適値と比べて幅を狭くし過ぎると逆に騒音侵入量が増加し、最適値と比べて幅を広くしても騒音侵入量が増加することとなる。イヤパッドの接触面の水平方向の幅は狭ければ狭いほどよいのではなく、密閉性を最も高める最適値が存在する。この点を考慮し、この発明においては、イヤパッド7は、図4においてHで示されているイヤパッド7の水平方向の外寸(イヤパッド7の水平方向直径)と、hで示されている水平方向の内寸(開口部71の水平方向直径)とが下記の式2で示される関係を満たすように構成されるとよい。なお、この式2は、実際に複数の被験者で測定実験を行った結果も考慮したものである。
[式2]
1.8≦(H/h)≦2.1
【0050】
<2.第2の実施の形態>
[2−1.イヤパッドの構成]
図8はこの発明の第2の実施の形態に係るイヤパッド20の外観図である。図8Aは正面図(ユーザの側頭部に接触する側から見た図)、図8Bおよび図8Cは側面図、図8Dは上面図、図8Eは下面図である。また、図9はイヤパッド20の断面図であり、図9Aは図8Aにおける9A−9A断面図、図9Bは図8Aにおける9B−9B断面図である。なお、ヘッドホン1のイヤパッド20以外の構成は第1の実施の形態と同様であるためその説明を省略する。
【0051】
イヤパッド20は略中央にユーザの耳を収納するための開口部201を有し、正面視縦長の環状に形成されている。イヤパッド20は、ハウジング5に取り付けられた状態においてハウジング5側に位置する底面202と、開口部201の側面である内周側面203と、ヘッドホン1装着時においてユーザの側頭部に接触する接触面204と、ハウジング5に接続するための接続部205とを有する。そして、第1の実施の形態と同様に鉛直方向においては外寸と内寸の差が大きくなるように、すなわち、イヤパッド20の接触面204の幅が広くなるように形成されている。また、水平方向においては、外寸と内寸の差が小さくなるように、すなわち、接触面204の幅が狭くなるように形成されている。
【0052】
また、第1の実施の形態と同様に、鉛直方向においては、外周上端から内周上端までの距離(接触面204の縦幅p)と、外周下端から内周下端までの距離(接触面204の縦幅q)とは略同一になるように形成されている。また、水平方向においては、左側外周側端から左側内周側端までの距離(接触面204の横幅r)と、右側外周側端から右側内周側端までの距離(接触面204の横幅s)とは略同一になるように形成されている。
【0053】
そして、第2の実施の形態においては、図8B乃至図8Eに示すように、接触面204は開口部201へ向けて窄むように傾斜面状に形成されている。よって、イヤパッド20は底面202からの高さが高くなるに従い接触面204の幅が狭くなるように形成されている。
【0054】
また、内周側面203は底面202から略垂直に起立するように形成されている。そして、内周側面203と接触面204とは開口部201の内周上縁206において結合されている。これにより、イヤパッド20の接触面204は開口部201の内周上縁206において底面202からの高さが最も高くなるように形成されている。
【0055】
イヤパッド20は、環状に形成された緩衝部30と、緩衝部30を被覆するカバー40とから構成されている。緩衝部30は、例えば、発泡ウレタン・綿・化学繊維などの弾力性のある材質を用いて形成されている。
【0056】
カバー40は、天然皮革、合成皮革などで構成され、緩衝部30の全面を覆い、ユーザの側頭部に直接接触するものである。第2の実施の形態においては、カバー40は、第1被覆部401、第2被覆部402、第3被覆部403の合計3つの被覆部から構成されている。第1被覆部401、第2被覆部402および第3被覆部403は例えば縫い合わせることにより結合されている。
【0057】
第1被覆部401は、緩衝部30における底面202側を被覆するためのものである。第2被覆部402は、緩衝部30における内部側面203側を被覆するためのものである。第2被覆部402は第1被覆部401の一端側に結合させることにより底面202および第1被覆部401に対して略垂直に起立するように設けられている。第3被覆部403は、第1被覆部401の他端側と第2被覆部402の先端側に結合されることにより緩衝部30における接触面204側を被覆するものである。
【0058】
このように、カバー40は第1被覆部401、第2被覆部402および第3被覆部403という3つの被覆部を用いて形成されている。これにより、第1被覆部401、第2被覆部402および第3被覆部403のそれぞれが三角形の各辺となり、断面略直角三角形状の緩衝部30をその形状に沿って被覆することができる。よって、断面略直角三角形状のイヤパッド20を容易に実現することができる。ただし、カバー40は必ずしも3枚の皮革で形成されている必要はない。1枚または2枚の皮革でこの発明に係る効果を奏することができる断面略垂直三角形状を実現できる場合には1枚または2枚の皮革を用いて形成してもよい。
【0059】
[2−2.イヤパッドによる効果]
第2の実施の形態に係るイヤパッド20は上述のように構成されている。次にそのイヤパッド20による効果について説明する。図6を参照して第1の実施の形態において説明したように、人の耳の裏および耳の下には顎の上端部などの凹凸が存在する凹凸領域500がある。ヘッドホン1の装着時にその凹凸領域500における凹凸とイヤパッド20との間に隙間が生じてイヤパッド内部空間と外部とが連通してしまうことになると密閉性が低くなり、ヘッドホン1から外部への音漏れ、外部からの騒音の侵入などが生じてしまう。
【0060】
また、耳の上方、前方および後方には髪の毛が存在する。ヘッドホン1を装着した際、イヤパッド20が直接皮膚に接触せずに、イヤパッド20と皮膚とで髪の毛を挟んでしまうと、その髪の毛部分を介してイヤパッド内部空間と外部とが連通してそこからも外部への音漏れ、騒音の侵入などが生じてしまう。
【0061】
そこで、第2の実施の形態においては、イヤパッド20の接触面204が開口部201へ向けて傾斜する傾斜面状に形成され、接触面204は開口部201の内周上縁206において最も高さが高くなるように構成されている。これにより、接触面204の上縁である内周上縁206は幅が細くなっている。よって、図10Aに示すように、耳と耳の周辺に存在する髪の毛との間の髪の毛が生えていない無頭髪領域620に内周上縁206をより的確に当接させることができる。これは無頭髪領域600、610においても同様であり、無頭髪領域600、610にも内周上縁206をより的確に当接させることができる。
【0062】
そして、図10Bに示すように、ヘッドバンド2により押圧されてイヤパッド20が変形してイヤパッド20と皮膚との間に髪の毛が挟まったとしても内周上縁206は皮膚に直接当接しているため、髪の毛部分を介して外部とイヤパッド20内部とが連通することがない。すなわち、密閉性を高めることができる。
【0063】
第2の実施の形態も第1の実施の形態と同様に鉛直方向においては、イヤパッド20の接触面204は正面視において幅が広くなるように形成されている。これにより、ヘッドバンド2によりイヤパッド20が側頭部方向に押圧されてイヤパッド20が変形した際の皮膚との接触面積が増えることとなる。したがって、第1の実施の形態と同様に、図6Cに示すように、イヤパッド7で耳の裏および下に存在する凹凸領域500の全面を覆うことができる。これにより、凹凸領域500における凹凸とイヤパッド7との間に隙間が生じてイヤパッド内部空間と外部とが連通してしまうことを防止し、密閉性を高めることができる。
【0064】
また、第2の実施の形態におけるイヤパッド20は接触面204が傾斜面状に形成されているため、底面202からの高さが高くなるに従い接触面204の幅が狭くなっている。すなわち、接触面204は側頭部に接触する方向へ窄むように細くなっている。これにより、イヤパッド20の柔軟性が高くなり、ヘッドバンド2により側頭部方向に押圧された際の潰れ量が増えることとなる。したがって、ヘッドバンド2により押圧されるとイヤパッド20は耳裏、耳の下などの凹凸に追従してその形状が変形する。これによって、凹凸とイヤパッド20と間に隙間が生じることを防ぐことができ、より密閉性を高めることができる。
【0065】
さらに、第2の実施の形態においては、イヤパッド20の接触面204が傾斜面状に形成され、高さが高くなるに従い接触面204の幅が狭くなるように形成されている。よって、接触面204の先端である内周上縁206が凹凸領域500のへこみに入り込んで変形するため、イヤパッド20と凹凸領域500における凹凸との間に隙間が生じることをより確実に防ぐことができる。
【0066】
<3.変形例>
以上、この発明の一実施の形態について具体的に説明したが、この発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、イヤパッドの接触面に付されるテーパーは必ずしもイヤパッドの全周に付される必要はなく、図11Aに示すイヤパッド700ように、鉛直方向においては上部だけを斜面状に形成するようにしてもよい。
【0067】
また、図11Bに示すイヤパッド800のように、水平方向において接触面の幅を狭くするのと同様に鉛直方向上部における接触面の幅も狭く形成し、鉛直方向下部の接触面の幅は広く形成するようにしてもよい。このように構成することにより、耳の上方に存在する無頭髪領域にイヤパッドの先端をより的確に当接させることができる。これにより、ヘッドバンドにより押圧されてイヤパッドが変形してイヤパッドと皮膚との間に髪の毛が挟まったとしてもイヤパッドの先端は皮膚に直接当接しているため、髪の毛部分を介して外部とイヤパッド内部とが連通することがない。すなわち、密閉性を高めることができる。
【0068】
なお、第2の実施の形態に係るイヤパッドは、鉛直方向における接触面の幅を広くし、水平方向における接触面の幅を狭くするという特徴と、接触面を傾斜面状に形成するという特徴とを組み合わせることにより構成されている。しかし、その二つの特徴は常に組み合わせて用いる必要はなく、どちらか一方の特徴のみを採用してイヤパッドを構成してもよい。第1の実施の形態は鉛直方向の幅を広くし、水平方向の幅を狭くするという特徴を採用したものである。それとは異なり、鉛直方向の幅を広くし、水平方向の幅を狭くするという特徴を採用せず、接触面を傾斜面状に形成するという特徴のみを採用してイヤパッドを構成してもよい。
【0069】
また、第2の実施の形態においては、図9に示すようにイヤパッドの断面形状が略三角形状である場合を例にして説明を行った。しかし、断面形状は三角形状に限られるものではない。底面と、底面に対して略垂直の内周側面と、底面に対して略平行の上面と、傾斜面とによって断面形状が略台形状となるように構成してもよい。この場合、上面と傾斜面とが接触面として機能することになる。このように構成しても、接触面は傾斜面を含み、高さが高くなるに従い接触面の幅は狭くなるため、第2の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0070】
また、上述した実施の形態では、この発明に係るイヤパッドを頭の上を跨ぐヘッドバンドを有するヘッドホンに適用する場合を例にして説明を行った。しかし、この発明のイヤパッドは、ヘッドバンドを使わずに耳に引っ掛ける形式でハウジングを耳に装着するタイプのヘッドホンにも適用することができる。
【0071】
さらに、緩衝部9が気密性の高い材料で形成されている場合には、必ずしもカバーを設ける必要はない。
【符号の説明】
【0072】
7、20・・・・・・イヤパッド
9、30・・・・・・緩衝部
10、40・・・・・カバー
71、201・・・・開口部
72、202・・・・底面
73、204・・・・接触面
203・・・・・・・内周側面
401・・・・・・・第1被覆部
402・・・・・・・第2被覆部
403・・・・・・・第3被覆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声出力手段を収納可能なハウジングに取り付け可能であり、開口部を有することにより環状に形成され、前記ハウジング側に位置する底面とユーザの側頭部に接する接触面とを有し、
水平方向外寸に対して鉛直方向外寸が大きく形成されるとともに、
外周下端から内周下端までの距離である前記接触面の鉛直方向下部の幅が、外周側端から内周側端までの距離である前記接触面の水平方向の幅よりも大きくなるように形成されているイヤパッド。
【請求項2】
音声出力手段を収納可能なハウジングに取り付け可能であり、開口部を有することにより環状に形成され、前記ハウジング側に位置する底面とユーザの側頭部に接する接触面とを有し、
前記接触面は傾斜面を含むように形成されているイヤパッド。
【請求項3】
前記接触面は、前記開口部に向けて傾斜する傾斜面状に形成されるとともに、前記開口部の内周上縁において前記底面からの高さが最も高くなるように形成されている請求項2に記載のイヤパッド。
【請求項4】
緩衝部と該緩衝部を被覆するカバーにより構成されるとともに、内周側面をさらに有し、
前記カバーは、前記緩衝部の前記底面側を被覆する第1の被覆部と、前記緩衝部の前記内周側面側を被覆する第2の被覆部と、前記緩衝部の前記接触面側を被覆する第3の被覆部とから構成されている請求項3に記載のイヤパッド。
【請求項5】
鉛直方向における外寸Vと内寸vが以下の式(1)を満たすように形成されている請求項1または2に記載のイヤパッド。
1.5≦(V/v)≦1.8・・・(1)
【請求項6】
水平方向における外寸Hと内寸hが以下の式(2)を満たすように形成されている請求項1または2に記載のイヤパッド。
1.8≦(H/h)≦2.1・・・(2)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−54780(P2012−54780A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196012(P2010−196012)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】