説明

イヤーチップ、イヤホン及びイヤーチップの製造方法

【課題】密着性及び装着感が両立されたイヤーチップ、イヤホン及びイヤーチップの製造方法を提供する。
【解決手段】イヤーチップは、電気音響変換素子の先端部が同軸に挿通される筒状の芯部と、芯部から放射方向に延伸する環状のフランジ部と、ゲル部からなり、芯部の外周面及びフランジ部の内周面との間の空間内に配設されている環状のゲル部と、この空間内に配設されておりゲル部が膨出変形することを許容するゲル変形許容部とを備えており、ゲル部はフランジ部の内周面の少なくとも一部に接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヤホンや補聴器に使用される、カナル型と称されるイヤーチップ、このイヤーチップを用いたカナル型イヤホン、及びこのイヤーチップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウォークマン(登録商標)及びMP3プレーヤー等のデジタルオーディオプレーヤー、携帯電話、CD・MDプレーヤー及び携帯パソコンをはじめとする携帯型情報機器の普及が進んできており、屋内外でイヤホンを使用する機会がますます増大している。このため、音質のみならず。装着感等がより優れたイヤホンが嗜好されてきており、それに対応して種々のイヤホンが商品化されている。特に、最近は、個人によって異なる耳の大きさや形状に起因する音質や装着感などの影響を極力無くすことができる耳栓タイプのカナル型イヤホンと称されるイヤホンの需要が高まってきている。
【0003】
カナル型イヤホンにおいては、外耳道内に挿入される部分を構成しており電気音響変換素子の先端部にイヤーチップが着脱自在に装着されており、外耳道の形状に合ったサイズのイヤーチップを装着して使用される。このイヤーチップはカナル型イヤホンの重要な部品であり、その性能がカナル型イヤホン装着時において特に重要な要求特性となる外耳道との密着度合い(以下、密着性と称する)と装着感とを両立させられるかを左右する。この密着性は、外部からの音を遮断する性能(以下、遮音性と称する)とも関連しており、遮音性が高まると低音域の音質が向上するなど、音質にも影響する。
【0004】
カナル型イヤホンのイヤーチップとしては、図1に示すようなものが、一般的に知られている(例えば、特許文献1)。同図において、10は電気音響変換素子の先端部が同軸に挿通される筒状の芯部、11は芯部10の周りに広がる薄い環状のフランジ部であり、これら芯部10及びフランジ部11は柔軟性のあるシリコーンゴムによって一体的に成形されている。
【0005】
このような従来の一般的なイヤーチップは、以下のような問題点を有しており、その改善が望まれている。
(1)密着性の問題:人間の外耳道の形状には個人差が存在しており、個々の様々な形状に追従させたい理由から、イヤーチップのフランジ部を薄いシリコーンゴム等で成形している。シリコーンゴムは容易に変形するが、外耳道の凹凸形状に対するフランジ部との形状追従の具合(以下凹凸追従性と称する)が良好ではなく、実際には、外耳道の凹凸への凹凸追従性はさほど良くない。以下、図2を用いて、この凹凸追従性について説明する。20は外耳道の内表面の断面、21はこの外耳道に挿入した際の従来のイヤーチップのフランジ部の断面をそれぞれ示している。フランジ部の断面21は、外耳道に挿入することによって変形はしているが、外耳道に部分的にしか接触しておらず、この部位が大きく内側に凹むように変形してしまうため、外耳道の内表面の断面20との間に隙間22が多く存在しているのである。このため、外耳道とフランジ部の密着の度合いはさほど良好では無い(遮音性の低下にも影響する)。
(2)装着感の問題:上述した(1)に起因し、フランジ部が外耳道に部分的にしか接触していないため、硬質感のある(無機質的な)感触となっており、装着時の違和感や、継続的な装着において、外耳道が圧迫されて痛みや疲労感などの不快感を誘発する場合があり、理想的である心地良い装着感を実現するには未だ満足する状況といえない。
【0006】
ちなみに、密着性を向上させるためには、フランジ部が外耳道側を押すように復元する度合い(以下、反発性と称する)を高めれば良いが、イヤーチップ材料の変形による反発弾性力を大きくしてしまい逆に、装着時に硬い違和感を強めてしまう。このため、長時間のイヤホン装着により耳内に疲れや痛みを感じさせる等、装着感に問題を発生させるトレードオフの関係にあり、単純に反発性を高めれば良いというものでも無い。
【0007】
即ち、フランジ部の凹凸追従性と反発性とは互いに相反するものであり、反発性が小さく凹凸追従性が大きい場合には、装着感は良好となるが密着性が不十分となり、逆に、反発性が大きく凹凸追従性が小さい場合には、密着性は良くなるが装着感が悪化する。従って、密着性と装着感との間の最適なバランスが要求される。
【0008】
以上述べたような問題点を解消しようとした多くの従来技術では、例えば全体を発泡体で構成することが提案されている。確かに、発泡体を用いれば、密着性及び装着感を向上させることができるが、これではイヤーチップに要求される基本的な繰り返しの使用に対して発泡体の反発性能が悪くなって密着性の低下、発泡体の破損といった耐久性の問題や、汚れが付着しやすく取れ難いなどの衛生面での問題が生じてしまう。
【0009】
また、イヤーチップにゴムより柔軟な材料であるゲルを適用することも、多数、提案されている(例えば、特許文献2〜15)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−055249号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/098201号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/202097号明細書
【特許文献4】特開表08−511412号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2008/085030号明細書
【特許文献6】特開平04−170899号公報
【特許文献7】特開平04−170898号公報
【特許文献8】米国特許出願公開第2009/214071号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2007/121980号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2009/052709号明細書
【特許文献11】米国特許第6473512号明細書
【特許文献12】米国特許第6513621号明細書
【特許文献13】米国特許第7227968号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第2008/264428号明細書
【特許文献15】米国特許第6256396号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2〜4には、イヤーチップ自体の素材としてゲルを適用することが提案されているが、この場合、ゲルの粘着性(タック性)に起因して、ゴミ(耳垢等の老廃物や埃)が付着するのみならず、装着時に不快感が生じるという問題がある。
【0012】
特許文献5〜12には、ゴムの被覆内にその全体がゲル材料で満たされるように充填すると共に密閉した構造のイヤーチップが提案されている。しかしながら、このようにゲルを満たして密閉した構造は、ゲルの変形も抑制されるので、高弾性となり、装着感が好ましくない。
【0013】
特許文献13〜15には、このような不都合を改良した構造として、変形時にゲルを密閉空間内で流動させ、これによって反発弾性を調整可能とするイヤーチップが提案されている。しかしながら、このようなイヤーチップは、構造が非常に複雑となってしまい、嗜好に合わせて交換可能とするニーズには適合することができない。
【0014】
従って本発明の目的は、密着性及び装着感が両立されたイヤーチップ、イヤホン及びイヤーチップの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的を達成するべく、本願発明者は、ゴム弾性を有するフランジ型のイヤーチップとして、フランジ部の内面の一部にゲルから構成されるゲル部を接触させ、さらにこのゲルが変形可能なスペース(ゲル変形許容部)を備えたことを基本構成とし、特定のゲルを特定の位置に特定の構成で配設することによってはじめて、フランジ部に適切な反発性を付与し、外耳道への密着性を高めると共に、ゲル独特の柔らかさによる良好な装着感を実現することができるイヤーチップを発明した。
【0016】
即ち、本発明によれば、電気音響変換素子の先端部が同軸に挿通される弾性を有する筒状の芯部と、芯部から放射方向に延伸する弾性を有する環状のフランジ部と、ゲル部からなり、芯部の外周面及びフランジ部の内周面との間の空間内に配設されている環状のゲル部と、この空間内に配設されておりゲル部が膨出変形することを許容するゲル変形許容部とを備えており、ゲル部はフランジ部の内周面の少なくとも一部に接しているイヤーチップが提供される。これにより、イヤーチップを外耳道に装着するときのフランジの変形と共に、ゲル部が膨出変形し、その膨出変形が復元しようとする力がフランジ部に作用し、従来は外耳道に部分的にしか接触しなかったフランジ部をも外耳道側に押し当てることにより、外耳道へフランジ部が隈なく追従し、もって(1)密着性、及び(2)装着感の両立にあたるものである。
【0017】
即ち、弾性を有する芯部と弾性を有するフランジ部との間の空間内に、フランジ部の内周面の少なくとも一部に接している環状のゲル部とこのゲル部が膨出変形するためのゲル変形許容部とを設けたことにより、フランジ部に適度な反発性を与えかつ装着感を良好にしながら外耳道へのフランジ部の密着性(遮音性)を高めている。
【0018】
また、本発明は、上述した性能の両立だけに留まらず、ゲル部材やフランジ部により密着性や装着感の性能のバランスを任意に調整可能な機能を付与することができるという技術思想を有している。
【0019】
まず、密着性や装着感の性能のバランスを、ゲル部の素材や配置等によって調整する機能について説明する。
【0020】
芯部とフランジ部との間の空間の容積Yは、フランジ部先端部と芯部の基端部との位置関係によってその定義が異なる。芯部の中心軸に垂直でイヤーチップ先端部に接する基準平面を想定した場合、この基準平面に対する垂直方向の高さにおいて、フランジ部高さが芯部高さよりも高い場合には、フランジ部先端の内周端と芯部基端の外周端とを、芯部の中心軸に向かって最短距離で結んで形成される環状の面を想定し、この環状の面とフランジ部内周面と芯部外周面とによって囲まれる空間の容積をYと定義する。一方、フランジ部の高さが芯部高さ以下の場合には、フランジ部先端の内周端と芯部外周面とを結び、かつこのフランジ部先端の内周端から芯部の中心軸方向に向かって垂直に展開される環状の面を想定し、この環状の平面とフランジ部内周面と芯部外周面とによって囲まれる空間の容積をYと定義する。
【0021】
この容積Yに対するゲル部の容積Gの比率G/Yが、5%<G/Y<80%であることが好ましく、また、フランジ部の内周面の軸断面長さLに対するゲル部がこの内周面に接している部分の軸断面長さLの比率L/Lが、20%≦L/L<100%であることも好ましい。G/Yが5%以下であると、ゲルの分量が少なすぎてフランジ部の内周面に位置するゲル部の膨出変形でフランジ部の当該部位を追従変形させるには不足し、またフランジ部へ適度な反発性を与えることができないので装着感及び密着性を共に、著しく向上するには至らない。また、G/Yが80%以上となると、ゲルの分量が多くなりすぎてゲル変形許容部の容積が小さくなり、イヤーチップ全体の反発性が大きくなりすぎるので、好ましくない。従って、本発明の作用効果を得るためのゲル部の容積G及びゲル変形許容部の容積S(G+S=Y)に基づいて定まるG/Yが、5%<G/Y<80%の範囲である場合に、最適な装着感及び密着性を与えることができる。また、L/Lが20%未満であると、フランジ部の外耳道に接触する部分にゲル部が少なすぎてその部分に適度な反発性を与えることができないため、密着性が十分に得られない場合がある。逆に、L/Lが100%以上となると、フランジ部の縁端から外部にゲル部が露出することとなり、べたつきによる装着感の劣化が生じる。従って、フランジ部の少なくとも外耳道に接触する部分にゲル部を形成して外耳道の接触部分に適度なフランジ部反発力を付与するための条件である、20%≦L/L<100%が、最適な装着感と密着性とを両立して付与できる範囲である。
【0022】
ゲル部がフランジ部の内周面に接している部分の軸断面高さHに対するゲル部が芯部の外周面に接している部分の軸断面高さHの比率H/Hが、0≦H/H≦10であることも好ましい。なお、ゲル部はフランジ部と芯部外周面で形成させる空間に形成されるので、ゲル部の高さがH以上となることはないから、HはH以下である。H/Hは、ゲルの充填形状を決めるパラメータであり、このH/Hが10を超えると、上述のL/Lが20%未満となる場合があるから望ましくない。
【0023】
ゲル部が芯部に接していないことも好ましい。これにより、フランジ部へ適度な反発性を付与して装着感を良好にしつつ、外耳道へのフランジ部の密着性を向上させる。
【0024】
ゲル部が芯部に接しており、(a)ゲル部がフランジ部の内周面に接している部分の軸断面高さHが、ゲル部が芯部の外周面に接している部分の軸断面高さHより大きいか、(b)ゲル部がフランジ部の内周面に接している部分の軸断面高さHが、ゲル部が芯部の外周面に接している部分の軸断面高さHにほぼ等しいか、又は(c)ゲル部がフランジ部の内周面に接している部分の軸断面高さHが、ゲル部が芯部の外周面に接している部分の軸断面高さHより小さいことも好ましい。(a)はゲル部のフランジ部側が芯部側より高い場合であり、フランジ部の反発力を調整することができる。この場合、H/Hが大きくなるほど、より柔らかいゲルを用いることが望ましく、適度なフランジ部反発力によって、柔らかい感触を得ることができる。(c)はゲル部のフランジ部側が芯部側より低い場合であり、芯部の弾性が補強されるので、電気音響変換素子による芯部の振れを抑制して音質の向上及び装着性の向上を図ることができると共に、外れ難くする効果もある。さらに、イヤーチップ先端部に剛性が付与されるので、装着時の先端の潰れ等を解消でき、装着が容易になる。(b)はフランジ部側と芯部側とがほぼ等しい高さの場合であり、上述の(a)の場合と(c)の場合との中間の作用効果が得られる。
【0025】
ゲル変形許容部と接するゲル部の接面は、ゲルの変形挙動を調整する形状を有していることが好ましい。このゲルの変形挙動を調整する形状とは、例えば、平面若しくは傾斜面であるか、又は環状の凹部、環状溝若しくは環状の凸部を有する面である。環状の凹部又は環状溝を有するように構成するか、平面若しくは傾斜面に構成するか、環状の凸部を有するように構成するかによって、フランジ部の反発力を調整することができる。環状溝を設けることにより、部分的にゲルの硬度を低くすることができ、しかもその分布を調整することもできるので、フランジ部の変形挙動を所望の状態に調整することが可能となる。従って、好みの密着性や装着性を実現することができる。環状の凹部を有するより環状の凸部を有する方がフランジ部の反発力は大きくなる。環状の凹部を有する構造は、ゲルが硬い場合やゲルの充填量が多い場合に使用して有効である。特に、凹部が深い場合は、上述した(a)の場合と(c)の場合とを合わせた複合作用効果を得ることができる。凹部の形状によってフランジ部反発性と芯部補強効果とのバランスを調整できる。加えて、軽量化にも寄与する。環状の凸部を有する構造は、ゲルが極端に柔らかい際にゲル反発力にコシを持たせるために使用して有効である。なお、平面若しくは傾斜面の構成は、環状の凹部を有する構造及び環状の凸部を有する構造の中間の作用効果を得ることができる。
【0026】
ゲル部の少なくとも一部が、フランジ部の法線方向において、0.5mm以上の厚さを有していることも好ましい。少なくとも一部のゲル部の厚さは、フランジ部の外耳道との接触部分における外耳道形状追従性を最適化できる範囲に選ばれる。この厚さが0.5mm未満であると、ゲル部全体が薄すぎてゲル独特の粘弾性を活用した作用効果を得ることができない。少なくとも一部の厚さが0.5mm以上であれば、フランジ部に適度な反発性を与えかつ装着感を良好にしながら外耳道へのフランジ部の密着性(遮音性)を高めることができる。なお、このゲル部の少なくとも一部の厚さは、ゲルの硬さに応じて調整される。ゲルが硬い場合は薄くする方向に、ゲルが柔らかい場合は厚くする方向に調整される。
【0027】
次に、密着性や装着感の性能のバランスを、フランジ部の構造や気体との連携によって調整する機能について説明する。
【0028】
フランジ部の反発性を調整するために、さらに反発調整部材を付加してもよい。この反発調整部材は、フランジ部の内周面と芯部の外周面との間に、内周面及び外周面の少なくも一方に接して設けられており、上述のゲル部の作用効果と共働して、フランジ部の変形や反発の挙動を調整するとともに、反発調整部による新たな作用効果を付与することができる。
【0029】
反発調整部材の具体的な形態として、芯部とフランジ部の内周面の一部との間の空間を密閉する弾性を有する密閉蓋がある。この密閉蓋は、フランジ部と同等もしくは低弾性であることが好ましい。密閉蓋を設けてゲル変形許容部を密閉系とすることにより、密閉蓋の弾性変形特性とゲル変形許容部の圧縮弾性特性とを複合的に作用させて、この部分をエアークッションとして機能させ、ゲル部の粘弾性と密閉されたゲル変形許容部のエアー弾性と密閉蓋の板ばね作用とを連動的に作用させた反発性を得ている。即ち、ゲル部の反発による外耳道へのフランジ部追従性を維持しつつ、フランジ部の変形(撓み)にエアークッション及び密閉蓋の変形特性で適度な剛性を与えている。なお、この密閉蓋付きの場合も、密閉蓋とフランジ部内周面と芯部外周面とで密閉された空間の容積Y′に対するゲル部の容積Gの比率G/Y′が、5%<G/Y′<80%であることが好ましい。密閉蓋を密閉される空間の方向に凹状に変形させることにより、外耳道への装着時にフランジ部が開放系の場合と同じように容易に変形する。フランジ部の変形に伴って密閉蓋が密閉されたゲル変形許容部に押されて張り詰め、フランジ部へ適度な反発力を付与するので、外耳道への密着性が高まる。従って、装着し易く、装着後は密閉されたゲル変形許容部と密着蓋とからの背圧が作用して密着性が向上する。さらに、密閉蓋にオリフィスを設けて半密閉としてもよい。オリフィスによりゲル変形許容部の空気の出入り度を調整することにより、フランジ部の変形にスローリバウンド性(低反発性)を付与することができる。このスローリバウンド性は、イヤーチップの弾性特性(フランジ部、ゲル部、ゲル変形許容部及び密閉蓋の複合特性として)に応じてオリフィスの径及び数を適切に選択することによって得ることができる。その結果、本発明の基本的な作用効果を維持しつつ、低反発フォームに近い装着特性(潰して挿入し、挿入後に徐々に復元して外耳道にフィットする特性)を実現することができる。
【0030】
反発調整部の具体的な別の形態として、芯部からフランジ部の内周面に向かって放射状に伸長する複数のリブ部材がある。これら放射状のリブ部材を形成し、その板ばね作用を利用してフランジ部の変形挙動を調整している。外耳道の奥まで押し込んで使用する場合に、フランジ部外周面の先端部まで外耳道に密着させることができる。即ち、フランジ部の先端部まで外耳道に密着させようとしてゲルを多量に入れると硬くなってしまうので、その代りに放射状のリブ部材を形成してその板ばね作用を利用している。放射状のリブ部材の板ばね作用は、フランジ部の反発性能に合わせて、放射状リブ部材の素材、形状、厚み、形成する本数、及び配置によって調整できる。
【0031】
ゲル部のゲルが、JIS K2207−1980(50g荷重)に準拠した針入度(25℃)20〜300のゲル硬度を有していることも好ましい。ゲル硬度が20未満であると硬すぎて所望の効果が得られず、300を超えるとゲルの保形性が困難となると共に、ゲル中の溶媒によるフランジ部の膨潤が発生する場合がある。従って、針入度(25℃)20〜300の範囲であれば、好ましく本発明の上述した作用効果を得ることができる。
【0032】
ゲル部が、ゲル状発泡体又は中空フィラーを添加したゲルからなることも好ましい。ゲル状発泡体は、連続気泡系と独立気泡系のどちらも適用でき、ゲルの粘弾性と発泡密度によってゲル部の反発性を調整する。これにより、軽量化を図ることができると共に、ゲル状発泡体独特の感触を付与することができると共に、発泡体で構成したイヤーチップと同様に低音域で厚みのある音質を得ることができる。また、外殻が樹脂系の中空フィラーをゲルに添加することにより、独泡のゲル状発泡体と同様の作用効果が得られる。その程度は、フィラーの添加量によって調整できる。過剰に添加するとゲルが脆くなり、膨出変形における機械強度の耐久性が低下するので、その目安としては、ゲル100重量部に対して中空フィラー1〜4重量部程度であることが望ましい。
【0033】
ゲル部が、互いに異なる性状を有する複数のゲルから構成されることもできる。異なる性状の複数のゲルの組合せや配置によって、フランジ部の反発性と作用効果を様々に調整できる。その構成としては、種々のバリエーションが適用可能である。特に、薄いフランジ部上に高硬度のゲルを薄膜状に積層し、その上に低硬度のゲルを積層した場合、薄いフランジ部に高硬度ゲルでコシを持たせつつ、その上に積層した低硬度ゲルによって外耳道追従性及びフランジ部変形性を向上させることができる。
【0034】
本発明によれば、さらに、上述したイヤーチップと、イヤーチップの芯部が先端部に同軸に挿通される電気音響変換素子とを備えたイヤホンが提供される。
【0035】
本発明によれば、さらにまた、イヤーチップの製造方法は、筒状の芯部及びこの芯部から放射方向に延伸する環状のフランジ部を有するハウジング内にゲルを充填する充填工程と、ハウジング内面にゲルを塗工するゲル塗工工程と、塗工したゲルを硬化させる硬化工程とを備えている。ゲル塗工工程開始から硬化工程完了の過程において、芯部の軸を中心にしてハウジングを回転又は回動させる操作を行う。
【0036】
ハウジング内にゲルを充填し、このハウジングを回転させながら硬化させることにより、遠心力によってフランジ部の内周面上にゲルを積層させつつ硬化させることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、フランジ部の内周面に接触するゲル部とゲル変形許容部とを形成することにより、フランジ部に適度な反発性を与えて、外耳道へのフランジ部の凹凸追従性を向上させることによって、密着性(遮音性)と高め、かつ良好な装着感を両立している。そして、ゲル部の構成を調整することによって、フランジの反発性を自在に変えられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】カナル型イヤホン用の従来の一般的なイヤーチップの構成を概略的に示す断面図である。
【図2】図1に示した従来の一般的なイヤーチップの凹凸追従性を説明する図である。
【図3】本発明の一実施形態におけるイヤーチップの構成を概略的に示す(A)平面図及び(B)断面図である。
【図4】図3のイヤーチップを装着したカナル型イヤホンの構成を概略的に示す一部断面図である。
【図5】図3のイヤーチップの凹凸追従性を説明する図である。
【図6】外耳道と接触するフランジ部の最適な密着条件を説明するための図である。
【図7】図3のイヤーチップの構成を模式的に示した片側半分の軸断面図である。
【図8】図3のイヤーチップの構成を模式的に示した片側半分の軸断面図である。
【図9】図3のイヤーチップの製造工程の一部を説明する軸断面図である。
【図10】本発明の他の実施形態におけるイヤーチップの構成を模式的に示した片側半分の軸断面図である。
【図11】本発明のさらに他の実施形態におけるイヤーチップの構成を模式的に示した片側半分の軸断面図である。
【図12】本発明のまたさらに他の実施形態におけるイヤーチップの構成を模式的に示した片側半分の軸断面図である。
【図13】本発明のさらに他の実施形態におけるイヤーチップの構成を模式的に示した片側半分の軸断面図である。
【図14】本発明のまたさらに他の実施形態におけるイヤーチップの構成を模式的に示した片側半分の軸断面図である。
【図15】本発明のさらに他の実施形態におけるイヤーチップの構成を模式的に示した片側半分の軸断面図である。
【図16】本発明のまたさらに他の実施形態におけるイヤーチップの構成を模式的に示した片側半分の軸断面図である。
【図17】本発明のさらに他の実施形態におけるイヤーチップの構成を模式的に示した片側半分の軸断面図である。
【図18】本発明のまたさらに他の実施形態におけるイヤーチップの構成を模式的に示した片側半分の軸断面図である。
【図19】本発明のさらに他の2つの実施形態におけるイヤーチップの構成を模式的に示した片側半分の(A)平面図、(B)B−B線断面図、(C)平面図及び(D)D−D線断面図である。
【図20】本発明のまたさらに他の実施形態及び種々の変更態様におけるイヤーチップの構成を模式的に示した片側半分の軸断面図である。
【図21】本発明の実施例及び比較例におけるイヤーチップの構成を模式的に示した片側半分の軸断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図3は本発明の一実施形態におけるイヤーチップの構成を概略的に示しており、図4はこのイヤーチップを装着したカナル型イヤホンの構成を概略的に示している。
【0040】
これらの図において、40はカナル型イヤホン、30はこのイヤホン40に装着されたイヤーチップをそれぞれ示している。
【0041】
図4に示すように、イヤホン40は、ハウジング41と、ハウジング41から突出して形成された円筒状の音導管42と、この音導管42に音波を伝える電気音響変換素子43と、音導管42の回りに装着されるイヤーチップ30とを備えている。
【0042】
図3に示すように、イヤーチップ30は、イヤホン40へ取付けられる際にその音導管42に同軸に挿通されて固定装着される円筒状の芯部31と、芯部31の先端31aからその周囲に広がる薄い環状のフランジ部32と、芯部31の外周面31b及びフランジ部32の内周面32aとの間の環状の空間33内の一部に充填されている環状のゲル部34と、空間33のゲル部34以外のスペースを構成しており、ゲル部34の膨出変形を受け入れるゲル変形許容部35とを備えている。
【0043】
イヤーチップとしては、従来のフランジ部を有するものであれば、形状、材質は特に限定されない。一般的には、これらのイヤーチップの芯部31およびフランジ部32は、柔軟性のある容易に変形し易い材料、例えばシリコーンゴムやその他のエラストマ等の弾性材料によって一体的に成形されている。単なる一例であるが、本実施形態では、JISA硬度20〜50のシリコーンゴムが用いられている。フランジ部32は、本実施形態では0.1〜0.5mmの厚さに成形されている。この厚さは、ゲル部34を構成するゲルの硬度やその充填形態に応じて選択される。フランジ部32の形状は、その内周面32aと芯部31の外周面31bとの間に、本実施形態では一端が開口した環状の空間33を形成するように湾曲した環状のフレア形状となっている。
【0044】
ゲル部34のゲルは、膨出変形できる性状を有していれば特に限定されないが、少なくともイヤーチップの変形時にゲル部に印加される応力の範囲において、流動しないものである。ゲルの素材としては、アクリルゲル、ウレタンゲル等のその他のオルガノゲルを用いても良いし、ヒドロゲルを用いても良い。温度依存性や繰り返し使用によるイヤーチップの変形を低減したい場合には、使用温度の影響が小さく、圧縮変形歪が小さいシリコーンゲルが好ましい。硬化形態としては、熱可塑性、熱硬化性、エネルギ線硬化性等のいずれの形態であっても良いが、本実施形態では、生産性(作業性及びコスト)の観点から熱硬化性を用いている。さらに、副生物が無く、かつ硬化後の体積変化の無い付加反応型のものを用いることが特に望ましい。
【0045】
また、ゲルの一部を発泡させたゲル状発泡体(例えば、株式会社タイカによるNP−GEL等)を用いても良い。この場合、ゲル状発泡体は、連泡系と独泡系のどちらも適用でき、ゲルの粘弾性と発泡密度によってゲル部の反発性を調整する。これにより、軽量化を図ることができると共に、ゲル状発泡体独特の感触を付与することができると共に、発泡体で構成したイヤーチップと同様に低音域で厚みのある音質を得ることができる。また、外殻が樹脂系の中空フィラーをゲルに添加することにより、独泡のゲル状発泡体と同様の作用効果が得られる。その程度は、フィラーの添加量によって調整できる。過剰に添加するとゲルがぼろぼろの状態となってしまうので、その目安としては、ゲル100重量部に対して中空フィラー1〜4重量部程度であることが望ましい。
【0046】
さらにまた、このゲル部34のゲルとしては、膨出変形できる程度の硬度を有していることがよく、JIS K2207−1980(50g荷重)に準拠した針入度(25℃)で20〜300のゲル硬度を有していることが、後述する作用効果を得るために望ましい。ゲル硬度が20未満であると硬すぎてこの作用効果が得られず、300を超えるとゲルが柔らかくなりすぎて、変形後に元の形状に復元できなくなり(ゲルの破壊)、本発明の作用効果の再現ができなくなる問題が発生しやすくなると共に、ゲル中の溶媒によるフランジ部32の膨潤が著しく発生する場合があり、フランジ部の寸法や反発性が変化して、外耳道への密着性を損なったり、外耳道に接触するフランジ部の外表面に液状の溶媒が滲み出して、装着感を悪くするので好ましくない。
【0047】
空間33内へのゲル部34の充填形態としては、図3に示すように、フランジ部32の内周面32aに接してゲルが隣接一体化するように構成されている。本実施形態では、環状のゲル部34の外周端34aはフランジ部32の内周面32aの途中で終端しており、環状のゲル部34の内周端34bは芯部31の外周面31bに接している。ゲル部34のイヤホン本体側の面(図において上面)34cはゲル変形許容部35との境界面を構成しており、軸方向に向かって(図において)下がる傾斜面を構成している。
【0048】
このように、ゲル部34がフランジ部32の内周面32aに接して隣接一体化されており、しかも、ゲル部34が変形できるゲル変形許容部35が設けられているため、フランジ部32の変形を受けてゲル部34がゲル変形許容部35側に膨出変形する一方、前記膨出変形の復元する力がフランジ部に作用して、フランジ部32に対して適度なコシが付与されると共に、このフランジ部32がゲル部34の滑らかな変形に追従して滑らかに変形するようになる。これにより、外耳道と接するフランジ部32が、外耳道に満遍なく接触するので、部分接触のときのような硬質感のある柔らかさと違って、ペラペラ感の無い実のある柔らかさ、例えるならば、小指のような質感である肉感を有することとなる。その結果、装着感(継続的な使用感)が大幅に向上する。さらに、ゲル部34がフランジ部32に対して適度に変形反発するので、フランジ部32は外耳道の形状に追従し易くなる。その結果、密着性が大幅に向上し、外耳道への密着面積が大きくなるので、抜け難くなり保持性も改善される。
【0049】
図5は本実施形態のイヤーチップの凹凸追従性を説明する図であり、20は外耳道の内表面の断面、32′はこの外耳道に挿入した際の本実施形態のイヤーチップのフランジ部32の断面、34′は同じく外耳道に挿入した際の本実施形態のイヤーチップのゲル部34の断面をそれぞれ示している。同図の矢印に示すように、ゲル部34の反発が生じるため、フランジ部32の断面32′は、外耳道の内表面の断面20の凹凸に良好に追従しているため、隙間が減少して、密着性が向上する。
【0050】
図6は外耳道と接触するフランジ部の最適な密着条件を説明するための図であり、変形量に対する応力特性を示している。ただし、Aはゲル部の存在しない従来のイヤーチップ、Bは従来のイヤーチップのフランジ部を高弾性にしたもの、又はゲル部は存在しているが空間全てがゲルで満たされているか若しくはそのゲルの硬度が高いイヤーチップ、Cはゲル部及びゲル変形許容部が存在する本発明のイヤーチップの場合である。
【0051】
同図から分かるように、Aの従来のイヤーチップでは、変形量の増大に対して応力がさほど変化せず、このため、外耳に装着した際の応力Pが非常に低い。即ち、装着性は満足できても密着性が不十分である。また、Bの従来のイヤーチップのフランジ部を高弾性にしたもの、又はゲルで全て満たされているか若しくはゲル硬度が高いイヤーチップでは、変形量の増大に対して応力が急激に増大し、このため、外耳に装着した際の応力Rが非常に高くなる。即ち、密着性は満足できるが、外耳道への反発力が非常に大きくなり、圧迫感を感じたり、継続的な装着によって外耳道に痛みを感じたりして、装着感が不良となる。これに対して、Cの本発明のイヤーチップでは、変形量の増大に対して応力が適度に増大し、外耳に装着した際の応力Qが、密着性と装着感を両立する適度な反発特性領域の値となっている。即ち、装着性、及び密着性において最適なバランスを得ることができる。
【0052】
図7及び図8は本実施形態におけるゲル部34の充填形態を説明するために、イヤーチップを片側半分の軸断面で模式的に示している。
【0053】
図7に示すように、ゲル部34の容積をG、ゲル変形許容部35の容積をS、空間33の容積をYとすると、Y=G+Sとなる。本実施形態では、この空間33の容積Yに対するゲル部34の容積Gの比率G/Yが、5%<G/Y<80%であることが望ましい。比率G/Yが5%以下であると、ゲルの分量が少なすぎてフランジ部32へ適度な反発性を与えることができないので装着感を良好とはならず、しかも密着性がさほど高くならない。また、比率G/Yが80%以上となると、ゲルの分量が多くなりすぎてゲル変形許容部35の容積Sが小さくなり、イヤーチップ全体の反発性が大きくなりすぎるので望ましくない。従って、この比率G/Yが、5%<G/Y<80%の範囲である場合に、最適な装着感及び密着性を与えることができる。
【0054】
また、図7に示すように、フランジ部32の内周面32aの軸断面長さLに対するゲル部34がこの内周面32aに接している部分の軸断面長さLの比率L/Lが、20%≦L/L<100%であることが望ましく、フランジ部の付け根を基点として、L/L=20%の点を含むことが特に好ましい。本発明では、ゲル部34は、フランジ部の外耳道に接する部分の内面に形成することが重要であるが、イヤホンチップ先端側のフランジ部は、外耳道装着時には外耳道に接触しないことが多く、L/L=20%の点は、ほぼその境界部に該当する点である。従って、L/L=20%を含んで、20%≦L/L<100%に設定されることによって、外耳道に接するフランジ部分には、必ずゲル部34が形成される構成となり、本発明の作用効果が発揮される。なお、軸断面長さLの起点は、図7に示すとおり、イヤホンチップの中心軸方向に対するフランジ部の最も先端側の点と、上述の中心軸の垂線とが接する点とする。この比率L/Lが20%未満であると、フランジ部32の外耳道に接触する部分に適度な反発性を与えることができない。逆に、比率L/Lが100%以上となると、フランジ部32の縁端から外部にゲル部34が露出することとなり、べたつきによる装着感の劣化が生じる。従って、フランジ部32の少なくとも外耳道に接触する部分にゲル部34を形成して外耳道の接触部分に適度なフランジ部反発力を付与するための条件である、20%≦L/L<100%が、最適な装着感と、密着性とを両立して付与できる範囲となる。
【0055】
ゲルの充填形状は、図8に示すように、ゲル部34がフランジ部32の内周面32aに接している部分の軸断面高さHに対するゲル部34が芯部31の外周面31aに接している部分の軸断面高さHの比率H/Hで表した場合に、0≦H/H≦10であることが望ましい。比率H/Hが10を超えると、上述の比率L/Lが20%未満となる場合があるので望ましくない。本実施形態では、ゲル部34が芯部31に接しており、ゲル部34のフランジ部側が芯部側より高くなっている。換言すれば、ゲル変形許容部35との境界面が軸方向に向かって(図において)下がる傾斜面を構成している。特に、比率H/Hが、0<H/H≦0.8の範囲にある。この比率H/Hが大きくなるほど、より柔らかいゲルを用いることが望ましく、これにより、適度なフランジ部反発力とゲル独特の柔らかい感触を得ることができる。
【0056】
ゲル部34の少なくとも一部が、フランジ部の法線方向において、0.5mm以上の厚さを有していることが望ましい。この少なくとも一部のゲル部34の厚さは、フランジ部の外耳道との接触部分における外耳道形状追従性を最適化できる範囲に選ばれる。この厚さが0.5mm未満であると、ゲル部34全体が薄すぎてゲル独特の粘弾性を活用した作用効果を得ることができない。少なくとも一部のゲル部34の厚さが0.5mm以上であれば、フランジ部32に適度な反発性を与えかつ装着感を良好にしながら外耳道へのフランジ部32の密着性(遮音性)を高めることができる。なお、このゲル部34の少なくとも一部の厚さは、ゲルの硬さに応じて調整される。ゲルが硬い場合は薄くする方向に、ゲルが柔らかい場合は厚くする方向に調整される。
【0057】
図9は本実施形態におけるイヤーチップの製造工程の一部を説明する軸断面図である。以下、同図を用いて、本実施形態におけるイヤーチップの特にゲル部34の形成工程を説明する。
【0058】
同図(A)に示すように、まず、芯部31及びこの芯部31に一体的に形成された薄い環状のフランジ部32からなるハウジングを回転テーブル90上にその回転中心軸90aと同軸に装着し、同図(B)に示すように、ハウジング内(フランジ部32の内周面内)にゲル91を充填する。次いで、同図(C)に示すように、この回転テーブル90を回転させ、充填したゲル91を遠心力により、フランジ部32の内周面に沿って展開させる。さらに、同図(D)に示すように、回転テーブル90を回転させた状態で、例えば熱風92を吹き付けることによりこのゲル91を硬化させゲル部34を作成する。なお、エネルギ線硬化型のゲルの場合は、熱風92に代えてエネルギ線を照射する。このように、ハウジングを回転させながらゲルを硬化させることにより、遠心力によってフランジ部32の内周面上にゲルを積層させつつ硬化させてゲル部34を形成する。なお、HとHが同じで、Sと接するゲル部の形状が略平坦のゲル部を形成する場合には、回転テーブルを回転させる操作を省略して硬化させればよい。さらに、別の製法の形態として、ハウジング内にゲルを充填後、Sと接するゲル部の形状を転写形成する型を押し当てた状態で硬化し、次いで、この型を外す方法としてもよい。
【0059】
図10は、本発明の他の実施形態におけるイヤーチップを片側半分の軸断面で模式的に示している。本実施形態は、ゲル部104の充填形態が図3の実施形態の場合と異なっており、その他の構成は図3の場合と同様である。従って、図10において、同様の構成要素については図3の場合と同じ参照番号を使用している。
【0060】
本実施形態においては、ゲル部104が芯部31の外周面31bに接しておらず、フランジ部32の内周面32aのみに接している。従って、本実施形態では、前述した比率H/HがH/H=0となる。本実施形態のごとく、ゲル部104がフランジ部32の内周面32aのみに接することにより、フランジ部32へ適度な反発性を付与して装着感を良好にしつつ、外耳道へのフランジ部32の密着性を向上させる。
【0061】
本実施形態におけるその他の構成及び作用効果は図3の実施形態の場合と同様である。
【0062】
図11は、本発明のさらに他の実施形態におけるイヤーチップを片側半分の軸断面で模式的に示している。本実施形態は、ゲル部114の充填形態が図3の実施形態の場合と異なっており、その他の構成は図3の場合と同様である。従って、図11において、同様の構成要素については図3の場合と同じ参照番号を使用している。
【0063】
本実施形態においては、環状のゲル部114の外周端114aはフランジ部32の内周面32aの途中で終端しており、環状のゲル部114の内周端114bは芯部31の外周面31bに接している。ただし、本実施形態では、ゲル部114の芯部側がフランジ部側より高くなっている。換言すれば、ゲル変形許容部35との境界面114cが軸方向に向かって(図において)上がる傾斜面を構成している。特に、比率H/Hが、1.2<H/H≦10の範囲にある。これにより、芯部31の弾性が補強されるので、電気音響変換素子による芯部31の振れを抑制(ダンピング)して音質の向上及び装着性の向上を図ることができると共に、外れ難くする効果もある。さらに、イヤーチップ先端部に剛性が付与されるので、装着時の先端の潰れ等を解消でき、装着が容易になる。
【0064】
本実施形態におけるその他の構成及び作用効果は図3の実施形態の場合と同様である。
【0065】
図12は、本発明のまたさらに他の実施形態におけるイヤーチップを片側半分の軸断面で模式的に示している。本実施形態は、ゲル部124の充填形態が図3の実施形態の場合と異なっており、その他の構成は図3の場合と同様である。従って、図12において、同様の構成要素については図3の場合と同じ参照番号を使用している。
【0066】
本実施形態においては、環状のゲル部124の外周端124aはフランジ部32の内周面32aの途中で終端しており、環状のゲル部124の内周端124bは芯部31の外周面31bに接している。ただし、本実施形態では、ゲル部124の芯部側とフランジ部側とがほぼ同じ高さとなっている。換言すれば、ゲル変形許容部35との境界面124cが平面を構成している。特に、比率H/Hが、0.8<H/H≦1.2の範囲にある。これにより、図3の実施形態と図11の実施形態との中間の効果を得ることができる。
【0067】
本実施形態におけるその他の構成及び作用効果は図3及び図11の実施形態の場合と同様である。
【0068】
図13は、本発明のさらに他の実施形態におけるイヤーチップを片側半分の軸断面で模式的に示している。本実施形態は、ゲル部134の充填形態が図3の実施形態の場合と異なっており、その他の構成は図3の場合と同様である。従って、図13において、同様の構成要素については図3の場合と同じ参照番号を使用している。
【0069】
本実施形態においては、環状のゲル部134の外周端134aはフランジ部32の内周面32aの途中で終端しており、環状のゲル部134の内周端134bは芯部31の外周面31bに接している。ゲル変形許容部35と接するゲル部134の上面(図において)134cは、ゲルの変形挙動を調整する形状として、環状の凹部134dを有している。換言すれば、ゲル変形許容部35との境界面134cが環状の凹部134dを有する面を構成している。本実施形態のように、環状の凹部134dを有する構造は、ゲルが硬い場合やゲルの充填量が多い場合に使用して有効である。特に、凹部が深い場合は、上述した図3の実施形態と図11の実施形態とを合わせた複合作用効果を得ることができる。凹部134dの形状によってフランジ部反発性と芯部補強効果とのバランスを調整できる。加えて、軽量化にも寄与する。
【0070】
本実施形態におけるその他の構成及び作用効果は図3及び図11の実施形態の場合と同様である。
【0071】
図14は、本発明のまたさらに他の実施形態におけるイヤーチップを片側半分の軸断面で模式的に示している。本実施形態は、ゲル部144の充填形態が図3の実施形態の場合と異なっており、その他の構成は図3の場合と同様である。従って、図14において、同様の構成要素については図3の場合と同じ参照番号を使用している。
【0072】
本実施形態においては、環状のゲル部144の外周端144aはフランジ部32の内周面32aの途中で終端しており、環状のゲル部144の内周端144bは芯部31の外周面31bに接している。ゲル変形許容部35と接するゲル部144の上面(図において)144cは、ゲルの変形挙動を調整する形状として、環状の凸部144dを有している。換言すれば、ゲル変形許容部35との境界面144cが環状の凸部144dを有する面を構成している。本実施形態のように、環状の凸部144dを有する方が環状の凹部を有するよりフランジ部32の反発力が大きくなる。本実施形態のように環状の凸部144dを有する構造は、ゲルが極端に柔らかい際にゲル反発力にコシを持たせるために使用して有効である。
【0073】
本実施形態におけるその他の構成及び作用効果は図3及び図11の実施形態の場合と同様である。
【0074】
図15は、本発明のさらに他の実施形態におけるイヤーチップを片側半分の軸断面で模式的に示している。本実施形態は、ゲル部154の形態が図3の実施形態の場合と異なっており、その他の構成は図3の場合と同様である。従って、図15において、同様の構成要素については図3の場合と同じ参照番号を使用している。
【0075】
本実施形態においては、ゲル変形許容部35と接するゲル部154は、ゲルの変形挙動を調整する形状として、複数の同軸の環状溝154aを備えている。なお、この同軸の環状溝154aの数は1以上任意である。このような環状溝154aを設けることにより、ゲル部154において、部分的にゲルの硬度を低くすることができ、しかもその分布を調整することもできるので、フランジ部32の変形挙動を所望の状態に調整することが可能となる。従って、好みの密着性や装着性を実現することができる。
【0076】
本実施形態におけるその他の構成及び作用効果は図3の実施形態の場合と同様である。
【0077】
図16は、本発明のまたさらに他の実施形態におけるイヤーチップを片側半分の軸断面で模式的に示している。本実施形態は、密閉蓋166が設けられている点が図3の実施形態の場合と異なっており、その他の構成は図3の場合と同様である。従って、図16において、同様の構成要素については図3の場合と同じ参照番号を使用している。
【0078】
フランジ部32の反発性を調整するための反発調整部材として、本実施形態においては、芯部31の外周面31b及びフランジ部32の内周面32aとの間の環状の空間33を密閉する弾性を有する環状の密閉蓋166が備えられている。この密閉蓋166は、本実施形態では、芯部31及びフランジ部32と同一の材料で形成されている。芯部31、フランジ部32及び密閉蓋166を一体的に成形しても良いし、密閉蓋166のみを後に接着しても良い。一体的に成形する場合、ゲル部34は注射器具により密閉蓋166を介して注入して充填する。このように、密閉蓋166を設けてゲル変形許容部35を密閉系とすることにより、この部分をエアークッションとして機能させ、ゲル部34の粘弾性と密閉されたゲル変形許容部35のエアー弾性と密閉蓋166自体の板ばね作用とを連動的に作用させた反発性を得ている。即ち、ゲル部34の反発による外耳道へのフランジ部追従性を維持しつつ、フランジ部32の変形(撓み)にエアークッション及び密閉蓋166の変形特性で適度な剛性を与えている。なお、この密閉蓋166を備えた本実施形態においても、密閉された空間の容積Y′に対するゲル部34の容積Gの比率G/Y′が、5%<G/Y′<80%であることが好ましい。
【0079】
本実施形態におけるその他の構成及び作用効果は図3の実施形態の場合と同様である。
【0080】
図17は、本発明のさらに他の実施形態におけるイヤーチップを片側半分の軸断面で模式的に示している。本実施形態は、密閉蓋176の形状が図16の実施形態の場合と異なっており、その他の構成は図16の実施形態の場合と同様である。従って、図17において、同様の構成要素については図16の場合と同じ参照番号を使用している。
【0081】
フランジ部32の反発性を調整するための反発調整部材として、本実施形態においては、密閉蓋176が密閉される空間の方向に凹状に撓ませた状態で装着されている。このように、密閉蓋176を密閉される空間の方向に凹状に撓ませた状態で装着させることにより、外耳道への装着時に、密閉蓋が密閉空間のエアー圧に押されて容易に平坦若しくは凸状に膨出変形できるので、フランジ部32が開放系の場合と同じように容易に変形する。そして、装着後は、フランジ部32の変形に伴って密閉蓋176が密閉されたゲル変形許容部35に押されて張り詰め、フランジ部32へ適度な反発力を付与するので、外耳道への密着性が高まる。従って、装着し易く、装着後は密閉されたゲル変形許容部35と密閉蓋176とからの背圧が作用して密着性が向上し、密着性と装着感の両立に加えて、装着する際の取り扱い性も改善される。
【0082】
本実施形態におけるその他の構成及び作用効果は図3及び図16の実施形態の場合と同様である。
【0083】
図18は、本発明のまたさらに他の実施形態におけるイヤーチップを片側半分の軸断面で模式的に示している。本実施形態は、密閉蓋186の形態が図16の実施形態の場合と異なっており、その他の構成は図16の実施形態の場合と同様である。従って、図18において、同様の構成要素については図16の場合と同じ参照番号を使用している。
【0084】
フランジ部32の反発性を調整するための反発調整部材として、本実施形態においては、密閉蓋186に少なくとも1つのオリフィス186aを設け、半密閉状態としている。このようなオリフィス186aにより、ゲル変形許容部35の空気の出入り度を調整することにより、フランジ部32の変形にスローリバウンド性(低反発性)を付与することができる。このスローリバウンド性は、イヤーチップの弾性特性(フランジ部32、ゲル部34、ゲル変形許容部35及び密閉蓋186の複合特性として)に応じてオリフィス186aの径及び数を適切に選択することによって得ることができる。その結果、本発明の基本的な作用効果を維持しつつ、低反発フォームに近い装着特性(潰して挿入し、挿入後に徐々に復元して外耳道にフィットする特性)を実現することができる。
【0085】
本実施形態におけるその他の構成及び作用効果は図3及び図16の実施形態の場合と同様である。
【0086】
図19は、本発明のさらに他の2つの実施形態におけるイヤーチップを片側半分の(A)平面、(B)B−B線断面、(C)平面及び(D)D−D線断面で模式的に示している。これら2つの実施形態は、放射状のリブ部材196及び196′が設けられている点が図3の実施形態の場合と異なっており、その他の構成は図3の場合と同様である。従って、図19において、同様の構成要素については図3の場合と同じ参照番号を使用している。
【0087】
図19(A)及び(B)の実施形態においては、フランジ部32の反発性を調整するための反発調整部材として、芯部31からフランジ部32の内周面32aに向かって放射状に伸長する弾性を有する複数のリブ部材196が設けられている。特に本実施形態では、放射状のリブ部材196は、芯部31の外周面31b及びフランジ部32の内周面32aとを連結している。これら複数の放射状のリブ部材196は角度間隔が等しくなるように設けられている。なお、本実施形態では4つのリブ部材が設けられているが、その数は2つ以上であれば任意である。ただし、均一の角度間隔を有することが望ましい。このリブ部材196は、本実施形態では、芯部31及びフランジ部32と同一の材料で形成されている。芯部31、フランジ部32及び放射状リブ部材196を一体的に成形しても良いし、放射状リブ部材196のみを後に接着しても良い。このような放射状リブ部材196を設けることにより、その板ばね作用を利用してフランジ部32の変形挙動が調整できる。イヤーチップを外耳道の奥まで押し込んで使用する場合に、フランジ部32の外周面の先端部まで外耳道に密着させることができる。即ち、フランジ部32の先端部まで外耳道に密着させようとしてゲルを多量に入れると硬くなってしまうので、その代りに複数の放射状リブ部材196を形成してその板ばね作用を利用しているのである。
【0088】
図19(C)及び(D)の実施形態においては、放射状のリブ部材196′は、芯部31の外周面31bのみに連結されており、フランジ部32の内周面32aには連結されていない。この場合、リブ部材196′は片持ちの板ばねとして作用する。さらに、本実施形態のように、固定される側、即ち芯部31側の厚みを厚くして剛性を持たせることが望ましい。また、フランジの変形を制限するストッパー部材としてリブを機能させることもできる。
【0089】
なお、本実施形態の変更態様として、リブ部材をフランジ部32側に固定しても良い。また、図19(A)及び(B)の実施形態のように両端が連結されたリブ部材と、図19(C)及び(D)の実施形態のように片端のみが連結されたリブ部材とを併用した形態としてもよい。
【0090】
本実施形態におけるその他の構成及び作用効果は図3の実施形態の場合と同様である。
【0091】
図20は、本発明のまたさらに他の実施形態及び種々の変更態様として、互いに性状の異なる複数のゲルを組合せて適用した構成におけるイヤーチップを片側半分の軸断面で模式的に示している。本実施形態は、ゲル部の形態が図3の実施形態の場合と異なっており、その他の構成は図3の場合と同様である。従って、図20において、同様の構成要素については図3の場合と同じ参照番号を使用している。
【0092】
図20(A)〜(H)は横方向積層タイプであり、図20(I)〜(N)は縦方向積層タイプであり、図20(O)は両者の複合タイプである。図示した以外にも種々のバリエーションが適用可能である。
【0093】
図20(A)に示す実施形態では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aに沿ってその上に積層された低硬度の第1のゲル部204aと、この第1のゲル部204a全体の上に積層された高硬度の第2のゲル部204bとから構成されている。また、図20(B)に示す変更態様では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aに沿ってその上に積層された低硬度の第1のゲル部204aと、この第1のゲル部204aの一部及び芯部31の外周面31b間に積層された高硬度の第3のゲル部204cとから構成されている。さらに、図20(C)に示す変更態様では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aの一部に接して積層された低硬度の第4のゲル部204dと、この第4のゲル部204d及び芯部31の外周面31bの一部間に積層された高硬度の第5のゲル部204eとから構成されている。
【0094】
これら図20(A)〜(C)のタイプは、外耳道と当接する部分に低硬度のゲル部を配置し、芯部側はそれより硬度の高いゲル部を設けてフランジ部32への反発力を高めている。
【0095】
図20(D)に示す変更態様では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aに沿ってその上に積層された高硬度の第6のゲル部204fと、この第6のゲル部204f全体の上に積層された低硬度の第7のゲル部204gとから構成されている。また、図20(E)に示す変更態様では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aに沿ってその上に積層された高硬度の第6のゲル部204fと、この第6のゲル部204fの一部及び芯部31の外周面31b間に積層された低硬度の第8のゲル部204hとから構成されている。
【0096】
これら図20(D)及び(E)のタイプは、フランジ部側に高硬度のゲル部を配置してフランジ部32に補強硬度を付与し、芯部側には低硬度のゲル部を配置することにより全体の柔らかさを提供している。即ち、薄いフランジ部32上に高硬度の第6のゲル部204fを薄膜状に積層し、その上に低硬度の第7のゲル部204g又は第8のゲル部204hを積層することにより、薄いフランジ部32に高硬度ゲルでコシを持たせつつ、その上に積層した低硬度ゲルによって外耳道追従性及びフランジ部変形性を向上させている。
【0097】
図20(F)に示す変更態様では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aの一部に接して積層された高硬度の第9のゲル部204iと、この第9のゲル部204i及び芯部31の外周面31bの一部間に積層された超低硬度の第10のゲル部204jとから構成されている。
【0098】
この図20(F)のタイプでは、フランジ部側に高硬度のゲル部を配置してフランジ部32に補強硬度を付与し、芯部側には超低硬度のゲル部を配置することにより電気音響変換素子による微細な振動を抑制(ダンピング)させている。
【0099】
図20(G)に示す変更態様では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aに沿ってその上に積層された低硬度の第1のゲル部204aと、この第1のゲル部204aの一部及び芯部31の外周面31b間に積層された発泡体ゲル又は中空フィラーを添加したゲルからなる第11のゲル部204kとから構成されている。さらに、図20(H)に示す変更態様では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aの一部に接して積層された低硬度の第4のゲル部204dと、この第4のゲル部204d及び芯部31の外周面31bの一部間に積層された発泡体ゲル又は中空フィラーを添加したゲルからなる第12のゲル部204lとから構成されている。
【0100】
これら図20(G)及び(H)のタイプは、外耳道と当接する部分に低硬度のゲル部を配置し、芯部側は発泡体ゲル又は中空フィラーを添加したゲルを配置することにより、フランジ部内の振動を抑制し、遮音性を向上させている。
【0101】
図20(I)に示す変更態様では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aの一部及び芯部31の外周面31bの一部の間に積層された低硬度の第13のゲル部204mと、この第13のゲル部204m上に積層された高硬度の第14のゲル部204nとから構成されている。また、図20(J)に示す変更態様では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aの一部及び芯部31の外周面31bの一部の間に上面が傾斜するように積層された低硬度の第15のゲル部204oと、この第15のゲル部204o上に積層された高硬度の第16のゲル部204pとから構成されている。さらに、図20(K)に示す変更態様では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aの一部及び芯部31の外周面31bの一部の間に積層された発泡体ゲル又は中空フィラーを添加したゲルからなる第17のゲル部204qと、この第17のゲル部204q上に積層された低硬度の第18のゲル部204rとから構成されている。
【0102】
これら図20(I)〜(K)のタイプは、上側の層が板ばね効果を発揮し、フランジ部32の変形挙動を調整することができる。イヤーチップを外耳道の奥まで押し込んで使用する場合に、フランジ部32の外周面の先端部まで外耳道に密着させることができる。即ち、フランジ部32の先端部まで外耳道に密着させようとしてゲルを多量に入れると硬くなってしまうので、その代りに上層にこのようなゲル部を設け、その板ばね作用を利用しているのである。特に、図20(K)の変更態様は、遮音性の向上に寄与する。
【0103】
図20(L)に示す変更態様では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aの一部及び芯部31の外周面31bの一部の間に積層された高硬度の第19のゲル部204sと、この第19のゲル部204s上に積層された低硬度の第20のゲル部204tとから構成されている。また、図20(M)に示す変更態様では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aの一部及び芯部31の外周面31bの一部の間に上面が傾斜するように積層された高硬度の第21のゲル部204uと、この第21のゲル部204u上に積層された低硬度の第22のゲル部204vとから構成されている。さらに、図20(N)に示す変更態様では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aの一部及び芯部31の外周面31bの一部の間に積層された低硬度の第23のゲル部204wと、この第23のゲル部204w上に積層された発泡体ゲル又は中空フィラーを添加したゲルからなる第24のゲル部204xとから構成されている。
【0104】
これら図20(L)〜(N)のタイプによれば、イヤホンチップの先端側は、高硬度のゲルを用いることによって剛性を持たせて、外耳道へ押し込んで装着するときのイヤホンチップ先端の潰れ現象を回避しつつ、外耳道に接触する部分には低硬度のゲルを適用して、適度な反発性を付与して、密着性と装着感とを両立させることができる。
【0105】
図20(O)に示す変更態様では、ゲル部が、フランジ部32の内周面32aに沿ってその上に積層された低硬度の第1のゲル部204aと、この第1のゲル部204aの一部及び芯部31の外周面31b間に積層されたゲル状発泡体又は中空フィラーを添加したゲルからなる第11のゲル部204kと、第11のゲル部204k上に積層された高硬度の第25のゲル部204yとから構成されている。
【0106】
この図20(O)のタイプは、図20(G)のタイプと図20(K)のタイプとの複合効果を有している。
【0107】
本実施形態及び変更態様におけるその他の構成及び作用効果は図3の実施形態の場合と同様である。
【0108】
なお、上述した実施形態においては、フランジ部を均一な厚さとしているが、ゲル部の柔らかさや厚さに応じて、さらに、所望する特性に応じて、フランジ部の厚さを部分的に変化させるように構成しても良い。例えば、ゲルの柔らかさを活かしたい部分はフランジ部の厚さを薄くし、剛性やコシが欲しい部分はフランジ部の厚さを厚くしても良い。
【0109】
また、上述した実施形態においては、芯部及びフランジ部を有するハウジングの内側に後からゲルを注入して充填しているが、ゲル部を接着によりハウジング内部に配設するようにしても良い。さらに、フランジ部とゲル部とを一体成形して製造すれば、生産性が向上する。この一体成形の際に、プライマ等の接着促進成分を介在させても良い。これにより、フランジ部からのゲル部の剥離を防止することができる。
【0110】
さらに、上述した実施形態は、単一のフランジ部を有するイヤーチップであるが、複数のフランジ部が同軸に配置されたイヤーチップであっても良い。その場合、各フランジ部毎に上述した構造を別個に備えていても良く、また、一部のフランジ部のみがゲル部を備えるように構成しても良い。
【実施例】
【0111】
本発明のイヤーチップに関して、5つの実施例と2つの比較例のサンプルを実際に作成し、その特性を官能試験により評価した。図21はこの比較例及び実施例におけるイヤーチップを片側半分の軸断面で模式的に示している。
【0112】
同図(A)は比較例1として使用したイヤーチップを示している。このイヤーチップは、シリコーンゴム製のフランジ部212及び芯部211のみが存在しゲル部が存在しない市販のシングルフランジ型イヤーチップであり、ソニー株式会社製のEP−EX10のMサイズを使用した。
【0113】
同図(B)は比較例2として使用したイヤーチップを示している。このイヤーチップは、比較例1におけるイヤーチップのフランジ部212及び芯部211間の空間に未硬化の付加反応型シリコーンゲルを100%の充填率で充填し、雰囲気温度が100℃のオーブンで一時間硬化させて、上面が平坦かつ傾斜した環状のゲル部214bを構成し、さらに、0.3mm厚のJISA硬度40のシリコーンゴム製密閉蓋216を接着したものである。付加反応型シリコーンゲルとして、針入度140のゲル硬度を有する旭化成ワッカーシリコーン株式会社製のSILGEL612(以下、ゲルA)を用いた。
【0114】
同図(C)は実施例1として使用したイヤーチップを示している。このイヤーチップは、上述した比較例1におけるイヤーチップのフランジ部212及び芯部211間の空間に未硬化の付加反応型シリコーンゲルを30%の充填率で充填し、雰囲気温度が100℃のオーブンで一時間硬化させて、上面が平坦かつ水平な環状のゲル部214cを構成したものである。付加反応型シリコーンゲルとして、針入度50のゲル硬度を有する東レダウシリコーン株式会社製のCF5055(以下、ゲルB)を用いた。
【0115】
同図(D)は実施例2として使用したイヤーチップを示している。このイヤーチップは、上述した比較例1におけるイヤーチップのフランジ部212及び芯部211間の空間に、未硬化の付加反応型シリコーンゲル97重量%に対して中空フィラーを3重量%添加した未硬化のシリコーンゲルを50%の充填率で充填し、雰囲気温度が100℃のオーブンで一時間硬化させて、上面が平坦かつ水平な環状のゲル部214dを構成したものである。付加反応型シリコーンゲルとして、針入度120のゲル硬度を有するゲルAを用いた。
【0116】
同図(E)は実施例3として使用したイヤーチップを示している。このイヤーチップは、上述した比較例1におけるイヤーチップのフランジ部212及び芯部211間の空間に未硬化の付加反応型シリコーンゲルを50%の充填率で充填し、雰囲気温度が100℃のオーブンで一時間硬化させて、上面が軸中心方向に下がった傾斜面を構成している環状のゲル部214eを構成したものである。付加反応型シリコーンゲルとして、針入度50のゲル硬度を有するゲルBを用いた。
【0117】
同図(F)は実施例4として使用したイヤーチップを示している。このイヤーチップは、上述した比較例1におけるイヤーチップのフランジ部212及び芯部211間の空間に未硬化の付加反応型シリコーンゲルを30%の充填率で充填し、雰囲気温度が100℃のオーブンで一時間硬化させて、上面が平坦かつ水平な環状のゲル部214fを構成し、さらに、0.3mm厚のJISA硬度40のシリコーンゴム製密閉蓋216を接着したものである。付加反応型シリコーンゲルとして、針入度140のゲル硬度を有するゲルAを用いた。
【0118】
同図(G)は実施例5として使用したイヤーチップを示している。このイヤーチップは、上述した比較例1におけるイヤーチップのフランジ部212及び芯部211間の空間に未硬化の付加反応型シリコーンゲルを60%の充填率で充填し、雰囲気温度が100℃のオーブンで一時間硬化させて、上面が平坦かつ水平な環状のゲル部214gを構成し、さらに、0.3mm厚のJISA硬度40のシリコーンゴム製密閉蓋216を接着したものである。付加反応型シリコーンゲルとして、針入度140のゲル硬度を有するゲルAを用いた。
【0119】
以上の比較例1及び2並びに実施例1〜5のイヤーチップをソニー株式会社製のイヤホンMDR−EX76LPに取付けたものについて官能評価を行った。その方法は、一定の白色雑音が存在する部屋内で各被験者がイヤホンを自分の耳に合うように装着し、装着感及び遮音性の官能評価を行った。一定の白色雑音は、被験者の位置で音圧レベルが60〜70dBとなる白色雑音をスピーカより発生させて得た。その際、1.2mの高さに設置した騒音計により音圧レベルの確認を行った。各評価項目の評価点としては、悪い評価側から−3、−2、−1、0、+1、+2、+3の7段階で行い、各評価項目について被験者評価点の平均値を算出し、次のように評価した。平均値が比較例1の場合より大きい場合(優れている場合)に○、同じである場合(同等の場合)に△、小さい場合(劣っている場合)に×と評価した。なお、被験者は10名で行った。その内訳は、20代男性3名、20代女性2名、30代男性2名、40代男性3名であった。
【0120】
以上の比較例1及び2の評価結果及びゲル条件が表1に示されており、実施例1〜5の評価結果及びゲル条件が表2に示されている。
【0121】
【表1】

【0122】
【表2】

【0123】
これらの表1及び2から分かるように、実施例1〜5のいずれも、ゲル部の存在しない比較例1に比べて遮音性が向上しており、ゲルの適用により外耳道への密着性が改善されている。同様に、実施例1〜5のいずれも、比較例1に比べて装着感が向上しており、密着性と装着感とが両立している。
【0124】
また、実施例1〜3の密閉蓋無しの場合も、実施例4及び5の密閉蓋有りの場合も、共に良好な密着性と装着感とを得ている。さらに、実施例3のようにゲル部の上面が傾斜面であっても、良好な密着性と装着感とを得ている。さらにまた、実施例2のように、ゲル部が中空フィラーを添加したものであっても、良好な密着性と装着感とを得ている。また、比較例2のように、空間をゲルで完全に満たしてゲル変形許容部が存在しない場合、密着性は向上するが、装着感が悪くなり、好ましくない。よって、実施例1〜5のように、ゲル変形許容部を設けることにより、さらに、ゲル部の条件を特定の条件とすることにより、密着性と装着感とを良好に両立することができる。
【0125】
以上述べた実施形態及び実施例は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0126】
10、31、211 芯部
11、32、212 フランジ部
20 外耳道の内表面の断面
21 フランジ部の断面
22 隙間
30 イヤーチップ
31a 先端
31b 外周面
32′ フランジ部の断面
32a 内周面
33 空間
34、104、114、124、194、204a、204b、204c、204d、204e、204f、204g、204h、204i、204j、204k、204l、204m、204n、204o、204p、204q、204r、204s、204u、204v、204w、204x、204y、214b、214C、214d、214e、214f、214g ゲル部
34′ ゲル部の断面
35 ゲル変形許容部
34a、114a、124a、134a、144a 外周端
34b、114b、124b、134b、144b 内周端
40 カナル型イヤホン
41 ハウジング
42 音導管
43 電気音響変換素子
90 回転テーブル
90a 回転中心軸
91 ゲル
92 熱風
114c、124c、134c、144c 境界面
134d 凹部
144d 凸部
154a 環状溝
166、176、186、216 密閉蓋
186a オリフィス
196、196′ リブ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気音響変換素子の先端部が同軸に挿通される弾性を有する筒状の芯部と、該芯部から放射方向に延伸する弾性を有する環状のフランジ部と、ゲル部からなり、前記芯部の外周面及び前記フランジ部の内周面との間の空間内に配設されている環状のゲル部と、該空間内に配設されており前記ゲル部が膨出変形することを許容するゲル変形許容部とを備えており、前記ゲル部は前記フランジ部の内周面の少なくとも一部に接していることを特徴とするイヤーチップ。
【請求項2】
前記フランジ部の内周面の軸断面長さLに対する前記ゲル部が該内周面に接している部分の軸断面長さLの比率L/Lが、20%≦L/L<100%であることを特徴とする請求項1に記載のイヤーチップ。
【請求項3】
前記空間の容積Yに対する前記ゲル部の容積Gの比率G/Yが、5%<G/Y<80%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイヤーチップ。
【請求項4】
前記ゲル部が前記芯部に接していないことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のイヤーチップ。
【請求項5】
前記ゲル部が前記芯部に接しており、前記ゲル部が前記フランジ部の内周面に接している部分の軸断面高さHが、前記ゲル部が前記芯部の外周面に接している部分の軸断面高さHより大きいことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のイヤーチップ。
【請求項6】
前記ゲル部が前記芯部に接しており、前記ゲル部が前記フランジ部の内周面に接している部分の軸断面高さHが、前記ゲル部が前記芯部の外周面に接している部分の軸断面高さHにほぼ等しいことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のイヤーチップ。
【請求項7】
前記ゲル部が前記芯部に接しており、前記ゲル部が前記フランジ部の内周面に接している部分の軸断面高さHが、前記ゲル部が前記芯部の外周面に接している部分の軸断面高さHより小さいことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のイヤーチップ。
【請求項8】
前記ゲル変形許容部と接する前記ゲル部の接面は、ゲルの変形挙動を調整する形状を有していることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のイヤーチップ。
【請求項9】
前記ゲル部の少なくとも一部が、前記フランジ部の法線方向において、0.5mm以上の厚さを有していることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のイヤーチップ。
【請求項10】
前記フランジ部の内周面と前記芯部の外周面との間に、該内周面及び該外周面の少なくも一方に接して設けられており、前記フランジ部の反発を調整する反発調整部材をさらに備えたことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のイヤーチップ。
【請求項11】
前記反発調整部材が、前記芯部と前記フランジ部の内周面の一部との間の前記空間を密閉する弾性を有する密閉蓋であることを特徴とする請求項10に記載のイヤーチップ。
【請求項12】
前記密閉蓋に少なくとも1つのオリフィスが設けられていることを特徴とする請求項11に記載のイヤーチップ。
【請求項13】
前記反発調整部材が、前記芯部から前記フランジ部の内周面に向かって放射状に伸長する複数のリブ部材であることを特徴とする請求項10に記載のイヤーチップ。
【請求項14】
前記ゲル部の前記ゲルが、JIS K2207−1980(50g荷重)に準拠した針入度(25℃)20〜300のゲル硬度を有していることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載のイヤーチップ。
【請求項15】
前記ゲル部が、ゲル状発泡体又は中空フィラーを添加したゲルからなることを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載のイヤーチップ。
【請求項16】
前記ゲル部が、互いに性状の異なる複数のゲルから構成されていることを特徴とする請求項1から15のいずれか1項に記載のイヤーチップ。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1項に記載のイヤーチップと、該イヤーチップの芯部が先端部に同軸に挿通される電気音響変換素子とを備えたことを特徴とするイヤホン。
【請求項18】
筒状の芯部及び該芯部から放射方向に延伸する環状のフランジ部を有するハウジング内にゲルを充填する充填工程と、前記ハウジング内面にゲルを塗工するゲル塗工工程と、前記塗工したゲルを硬化させる硬化工程とを備えており、前記ゲル塗工工程開始から前記硬化工程完了の過程において、前記芯部の軸を中心にして該ハウジングを回転又は回動させる操作を行うことを特徴とするイヤーチップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−139180(P2011−139180A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296599(P2009−296599)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(306026980)株式会社タイカ (62)
【Fターム(参考)】