説明

イリジウムの固体分の上昇、ロジウムの固体分の上昇ならびにイリジウム合金およびロジウム合金

【課題】イリジウムの時間的安定性を、高い温度で材料の延性および加工可能性を維持しながら、前記元素を使用することなく上昇させることにある。
【解決手段】カルシウムおよび硼素を数ppmの範囲内で添加することによって、こうしてドーピングされたイリジウムの時間的安定性を1800℃の温度で、ドーピングされていないイリジウムと比較して20〜30%上昇させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い温度での高い時間的安定性を有する、イリジウム、およびZr不含およびHf不含のイリジウム合金ならびにロジウム、およびZr不含およびHf不含のロジウム合金に関する。
【背景技術】
【0002】
背景および課題の設定
白金族の金属の1つとしてのイリジウムは、例えば高溶融酸化物融液の単結晶、例えばNd−YAGレーザー結晶を成長させるための坩堝中、またはガラス工業のための構造部材中に使用される。この使用のためには、酸化物融液に対する耐蝕性と共に、高い温度でのイリジウムの高いクリープ安定性および時間的安定性が決定的に重要である。
【0003】
イリジウム合金のクリープ安定性および時間的安定性を上昇させるための1つの方法は、ドイツ連邦共和国特許出願公開第102005032591号明細書A1に記載されている。ドーピングは、モリブデン、ハフニウムおよび場合によってはレニウムで行なわれ、モリブデンとハフニウムとの総和は、0.002〜1.2質量%である(それによって、耐用時間は、ドーピングされていないイリジウムと比較して16.9MPaの負荷で二倍以上に上昇させることができた。)。
【0004】
WO 2004/007782A1には、タングステンおよび/またはジルコニウムを含有するイリジウム合金が高温での用途のために記載されており、前記合金はさらにモリブデンおよびハフニウムのような別の元素0.01〜0.5質量%を含有し、場合によりルテニウムを0.01〜10質量%含有する。
【0005】
特開昭56−81646号公報には、白金を基礎とする装飾用合金が記載されており、この合金は、強度、なかんずく硬度の上昇のために硼化カドミウムまたは硼素を高温処理後、例えばロウ付け後に含有する。
【0006】
若干の高純度のレーザー結晶を成長させる場合には、四価元素のZrおよびHfは、イリジウム坩堝中で望ましいものではない。それというのも、これらの元素は、結晶融液中で、後の使用でのレーザー特性を損なう不純物をまねきうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第102005032591号明細書A1
【特許文献2】WO 2004/007782A1
【特許文献3】特開昭56−81646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の課題は、イリジウムの時間的安定性を、高い温度で材料の延性および加工可能性を維持しながら、前記元素を使用することなく上昇させることにある。相応して、当該材料は、チタン不含である場合にも有利である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
意外なことに、カルシウムおよび硼素を数ppmの範囲内で添加することによって、こうしてドーピングされたイリジウムの時間的安定性を1800℃の温度で、ドーピングされていないイリジウムと比較して20〜30%上昇させることが見出された。これは、イリジウム合金のため、ならびにロジウムおよびロジウム合金のためにも達成されることから出発することができる。
【0010】
次の実施例につき本発明を詳説する。「部」および「百分率」の記載は、別記しない限り、残りの明細書の記載と同様に質量に関連する。
【実施例】
【0011】
比較例:
イリジウム8kgをZrO2坩堝中で溶融し、水冷却された銅製鋳型中に流し込んだ。引続き、イリジウム延べ棒を1600〜1700℃で鍛造し、数工程で1mmの最終厚さに圧延した。それぞれの圧延工程前および圧延工程中に前記延べ棒または薄板を1400℃に加熱した。この薄板は、HV10=270の硬度を有していた。圧延した薄板から試験片を時間的安定性試験のために取り出した。
【0012】
こうして製造されたイリジウムチャージのために、時間的安定性試験において1800℃の温度で時間的安定性曲線を記録した。この場合、耐用時間は、6.7〜25MPaの印加された応力で算出され、引続きこの値は、曲線によって近似的に示された。測定結果は、第1表中に記載されている。
【0013】
【表1】

【0014】
耐用時間は、6.7MPaで1403.7時間(約58.5日間)ないし25MPaで0.73時間の範囲内で変動し、応力が増加するとこの耐用時間は減少した。応力が増加すると延伸率は、増大し、破断時の伸びは、重大な傾向を示さない。
【0015】
算出された時間的安定性曲線から、所定の耐用時間に対して時間的安定性に関する次の内挿した値がもたらされた。
【0016】
【表2】

【0017】
第1の実施例:
イリジウム8kgをZrO2坩堝中で溶融し、水冷却された銅製鋳型中に流し込んだ。流し込みの直前に、カルシウム0.08g(10ppm)および硼素0.08g(10ppm)で充填された、Ptシート(20mm×20mm×0.05mm)からなるバッグを溶融液中に入れた。
【0018】
引続き、イリジウム延べ棒を、比較例におけるドーピングされていないイリジウムチャージと同様に鍛造し、1mmの最終厚さに圧延した。薄板の硬度は、HV10=226〜242であった。圧延した薄板から試験片を時間的安定性試験および分析のために取り出した。
【0019】
こうして、全部で7つのイリジウムチャージを製造し、試験した。GDL分析(Glow Discharge Lampグロー放電灯)を用いて、最初にカルシウムおよび硼素の含量を測定した。分析結果は、第3表中に記載されている。カルシウムおよび硼素の含量は、全てのチャージに関して殆んど同一である。
【0020】
【表3】

【0021】
ドーピングされていないイリジウムチャージの時間的安定性曲線から出発して、時間的安定性試験を1800℃の温度および16.9MPaの印加された応力で実施した。10時間のドーピングされていないイリジウムチャージの耐用時間(第2表)と比較して、ドーピングされたチャージに関しては、17.93時間ないし56.52時間までの明らかに高い耐用時間が達成された(第4表)。
【0022】
更に、耐用時間の上昇と共に、ドーピングされていないイリジウムと比較して破断時の伸びの増加傾向が観察された。測定された破断時の伸びの最小値は、23%であり、73%の最大値が達成された。ドーピングされたイリジウムチャージの延伸率は、8.3・10-7〜3.4・10-6-1の間にあった。
【0023】
【表4】

【0024】
第2の実施例
実施例1からのチャージFのために、1800℃の温度で時間的安定性試験に加えて16.9MPaで時間断層線(Zeitbruchlinie)を記録した。この場合、印加された応力は、14MPa〜25MPaの範囲内で変動した。分析結果は、第5表中に記載されている。
【0025】
【表5】

【0026】
時間断層線の算出後に、所定の耐用時間に関して次の内挿された時間的安定性の値がもたらされた:
【表6】

【0027】
この安定性の値と、同じ耐用時間での純粋なイリジウムの時間的安定性とを比較した場合には、全ての耐用時間で少なくとも23%の時間的安定性の上昇が達成される。内挿された値の延伸率は、特に僅かな応力の場合に明らかに純粋なイリジウムの延伸率未満にある。測定された破断時の伸びに関連して、純粋なイリジウムの場合よりも部分的に殆んど3倍高い値が達成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加的に硼素0.5〜30ppmおよびカルシウム0.5〜20ppmを含有する、イリジウム、およびZr不含およびHf不含のイリジウム合金ならびにロジウム、およびZr不含およびHf不含のロジウム合金。
【請求項2】
イリジウムおよびその合金ならびにロジウムおよびその合金の時間的安定性を上昇させる方法において、前記金属またはそのZr不含およびHf不含の合金に硼素およびカドミウムを添加することを特徴とする、イリジウムおよびその合金ならびにロジウムおよびその合金の時間的安定性を上昇させる方法。
【請求項3】
イリジウム、およびZr不含およびHf不含のイリジウム合金ならびにロジウム、およびZr不含およびHf不含のロジウム合金の時間的安定性を上昇させるためのカルシウムおよび硼素の使用。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法または使用において、硼素0.5〜30ppmおよびカルシウム0.5〜20ppmを添加することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法または使用。

【公開番号】特開2011−6791(P2011−6791A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147186(P2010−147186)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(390023560)ヴェー ツェー ヘレーウス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (42)
【氏名又は名称原語表記】W.C.Heraeus GmbH 
【住所又は居所原語表記】Heraeusstrasse 12−14, D−63450 Hanau, Germany