説明

インキュベータ

【課題】簡単な構成で小型化が容易であり、かつ、反応試料の温度を高速に制御してPCR反応時間を短縮できるインキュベータを提供すること。
【解決手段】反応試料を収容する容器と;前記容器が載置されて前記容器を保持する伝熱性の伝熱ブロックと;前記伝熱ブロックに密着し、前記伝熱ブロックを加熱するヒータと;前記ヒータに接触する接触位置と前記ヒータから離れた離間位置との間で移動可能に設けられ、前記接触位置で前記ヒータに接触して前記伝熱ブロックを冷却する冷却装置と;前記冷却装置を前記接触位置および前記離間位置に移動させる移動装置と;を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インキュベータに関する。
本願は、2007年6月29日に、日本に出願された特願2007−171867号及び、2007年7月20日に、日本に出願された特願2007−189627号に基づき優先権を主張し、これらの内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、個人のDNA多型や塩基配列の多型を調べることにより、個々人の薬物の代謝速度や副作用に関する情報を得られることが明らかにされつつある。このため、医療現場で、遺伝子診断のニーズが高まってきている。各種DNA多型の中でも、現在は一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism: SNP)の検出が多く実施されている。
【0003】
SNPを判定するためのタイピング方法としては、DNAポリメラーゼを用いてSNPを含む遺伝子領域を増幅するポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)や、構造特異的DNA分解酵素を用いて行うインベーダー法等が、適宜単独あるいは組み合わせて行われている。
【0004】
上記の方法によって行う遺伝子診断のための判定装置としては、特許文献1に示されるような構成のものが用いられている。即ち、遺伝子の増幅反応のための温度調整とタイピングのための温度調整とが2つのヒートブロックを用いて行われる。そして増幅反応後のサンプルはノズルを用いて移送され、SNPを特定するためのプローブが配置された複数の反応部に分注される。そして、反応部に配置されたサンプルに対して、下方から蛍光測定等の測定が行われる構成である。
【0005】
血液や検体等から採取されたDNA等の核酸を含む生体試料から、DNA(遺伝子)を短時間で大量に増幅させる技術として、PCR反応(Polymerase Chain Reaction)、ポリメラーゼ連鎖反応が広範に使用されている。
PCR反応では、二重鎖DNAを高温で一本鎖DNAに解離させ、その後、温度を下げてプライマーを一本鎖DNAにアニーリングさせる。そして一本鎖DNAを鋳型として、ポリメラーゼにより、新たに二重鎖DNAを合成する。これらの工程を繰り返すことで、DNAを増幅していく。温度サイクルの一例としては、95℃で1分程度、37℃で数十秒、65℃で数秒から数分、を1サイクルとして、数十回繰り返すものが挙げられる。
PCR反応では、このようにサンプルの昇温・降温を繰り返す必要がある。このため、所望の遺伝子増幅量に至るまでに必要な昇温・降温の繰り返し数(サイクル数)とPCR反応に必要な目的温度までの昇温・降温の速さとでほぼ全体の反応時間が決定される。
また、遺伝子を増幅した後、化学的、生物的、電気的に作用する試薬などを利用することにより、遺伝子のタイプを蛍光発光や電気化学的検出で判別することもある。
遺伝子タイプの判別は、一定温度で行うものもあり、この場合、PCR反応で使用する加熱手段を遺伝子タイプ判別にも利用する。これにより、インキュベータの構成部品を減らすことが可能であり、装置の小型化を実現する。
近年、個人の遺伝子タイプを調べることにより、個々人の薬の代謝速度や副作用に関する情報を得られることが明らかにされつつある。このため、医療現場では、小型で迅速な遺伝子診断(遺伝子タイプの判別)を行うニーズが高まっている。
このようなインキュベータとしては、例えばヒータにより加熱される加熱ブロックと、冷却装置により冷却される冷却ブロックとの間に反応試料を保持する反応ブロックを移動させて反応試料の温度を制御し、PCR反応の時間を短縮させるものがある(特許文献2および3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−275820号公報
【特許文献2】特開平6−277036号公報
【特許文献3】特開2000−270837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の判定装置では、ヒートブロックが2箇所に設けられており、ノズルを移動させるための分注機構も必須となる。このため、装置として一定以上の大きさが必要になるという問題がある。
【0008】
また、ノズルを用いてサンプルが反応部に分注されるときに、ノズル先端のチップの汚れや空気中のDNAなどが反応部に混入する、いわゆるコンタミネーションが発生する可能性がある。この結果、測定結果に誤差を生じる可能性があるという問題もある。
【0009】
さらに、分注機構を用いない場合でも、複数の反応を実施するために、上述の判定装置に設置するDNAチップ等の反応容器上で手作業によって試薬やサンプルを分注すると、操作のミス等のヒューマンエラーや上述のコンタミネーションが発生する可能性がある。
【0010】
また、上記特許文献2および3のような従来のインキュベータでは、つぎのような問題があった。
反応試料を保持する反応ブロックを水平方向に移動して反応ブロックを加熱用ブロック上または冷却用ブロック上の一方に移動するための水平移動装置と、水平方向に移動された反応ブロックを垂直方向に移動して反応ブロックを加熱用ブロックまたは冷却用ブロックに接触させるとともに、これらから離すための垂直移動装置とが必要になる。このため、装置の構成が複雑になり、小型化が難しいといった問題があった。
また、反応試料は反応ブロックを介して加熱用ブロックまたは冷却用ブロックから熱を吸放熱する。このため、反応ブロックの熱容量の分だけ昇温速度または降温速度が遅くなる。このため、PCR反応時間が長くなり、迅速な遺伝子診断を行うことが難しいといった問題があった。
さらに、加熱ブロックおよび冷却ブロックは、あらかじめ目的の温度に設定されているため、反応試料の温度が加熱ブロックまたは冷却ブロックの温度に近づくと、試料と加熱ブロックまたは冷却ブロックとの温度差が小さくなる。このため、試料を高速で昇温・降温させることが難しいといった問題があった。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、簡単な構成で小型化が容易であり、かつ、反応試料の温度を高速に制御してPCR反応時間を短縮できるインキュベータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の構成を採用した。
(1) 反応試料を収容する容器と;前記容器を保持する伝熱性の伝熱ブロックと;前記伝熱ブロックに密着し、前記伝熱ブロックを加熱するヒータと;前記ヒータに接触する接触位置と前記ヒータから離れた離間位置との間で移動可能に設けられ、前記接触位置で前記ヒータに接触して前記伝熱ブロックを冷却する冷却装置と;前記冷却装置を前記接触位置および前記離間位置に移動させる移動装置と;を備えるインキュベータ。
【0013】
(2) また、前記インキュベータは、以下の構成をとってもよい。
前記ヒータは、前記伝熱ブロックの下面に密着し、前記冷却装置は、前記接触位置で前記ヒータの下面に接触し、前記移動装置は、前記冷却装置をその下方及び横方向の少なくとも一方から支持する。
【0014】
(3) また、前記インキュベータは、以下の構成をとってもよい。
前記移動装置は、エアシリンダを含む。
【0015】
(4) また、前記インキュベータは、以下の構成をとってもよい。
前記移動装置は、電磁アクチュエータを含む。
【0016】
(5) また、前記インキュベータは、以下の構成をとってもよい。
前記伝熱ブロックは、熱伝導物質を含む。
【0017】
(6) また、前記インキュベータは、以下の構成をとってもよい。
前記ヒータは、熱伝導率が高いセラミック材料を含む。
【0018】
(7) また、前記インキュベータは、以下の構成をとってもよい。
前記セラミック材料は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、または窒化ケイ素を含む。
【0019】
(8) また、前記インキュベータは、以下の構成をとってもよい。
前記冷却装置は、前記ヒータに接触する接触面を有し、前記接触面には、熱伝導性シートが貼り付けられる。
【0020】
(9) また、前記インキュベータは、以下の構成をとってもよい。
前記冷却装置は、ヒートシンクを含む。
【0021】
(10) また、前記インキュベータは、以下の構成をとってもよい。
前記ヒートシンクは、流体を流す管路を有し、前記ヒートシンクは、前記管路を流れて循環する冷却水により冷却される。
【0022】
(11) また、前記インキュベータは、以下の構成をとってもよい。
前記ヒートシンクは、流体を流す管路を有し、前記ヒートシンクは、前記管路を流れて循環する、所定の冷却温度よりも沸点が低い冷媒により冷却される。
【0023】
(12) また、前記インキュベータは、以下の構成をとってもよい。
前記冷却装置は、ヒートシンクと、前記ヒートシンクを冷却するファンとを有する。
【0024】
(13) また、前記インキュベータは、以下の構成をとってもよい。
前記冷却装置は:前記ヒータに熱を伝える金属ブロックと;吸熱する吸熱面および放熱する放熱面を有し、前記吸熱面が前記金属ブロックに接触するペルチェ素子と;前記ペルチェ素子の放熱面に密着するヒートシンクと;前記ヒートシンクを冷却するファンと;を有する。
【0025】
(14) また、前記インキュベータは、以下の構成をとってもよい。
前記金属ブロックは、熱伝導物質を含む。
【0026】
(15) また、前記インキュベータは、以下の構成をとってもよい。
前記冷却装置は:吸熱する吸熱面および放熱する放熱面を有するペルチェ素子と;前記ペルチェ素子の放熱面に密着するヒートシンクと;前記ヒートシンクを冷却するファンと;を有する。
【発明の効果】
【0027】
また、本発明のインキュベータによれば、反応試料を加熱する場合には、反応試料を収容する容器を保持する伝熱ブロックがこの伝熱ブロックに密着して設けられたヒータにより急速に加熱される。このとき、冷却装置は移動装置によりヒータから離れた離間位置にある。一方、反応試料を冷却する場合には、移動装置により直ちに冷却装置がヒータとの接触位置に移動され、冷却装置によりヒータを介して伝熱ブロックが直ちに冷却される。したがって、反応試料を急速に加熱または冷却し、反応試料の温度を高速に制御できる。
また、冷却装置を接触位置および離間位置に移動する移動装置のみが可動部材となる。したがって、装置構成を簡単にできるとともに、装置の小型化が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態の遺伝子検出判定装置を示す斜視図である。
【図2】図2は、同遺伝子検出判定装置のカバーを外した状態を示す斜視図である。
【図3A】図3Aは、は同遺伝子検出判定装置に用いられる反応容器の一例を示す平面図である。
【図3B】図3Bは、は同遺伝子検出判定装置に用いられる反応容器の一例を示す正面図である。
【図4】図4は、同遺伝子検出判定装置の移動台を示す斜視図である。
【図5】図5は、同遺伝子検出判定装置の構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、同遺伝子検出判定装置による遺伝子診断の手順を示すフローチャートである。
【図7A】図7Aは、同遺伝子検出判定装置の封止部の動作を示す図である。
【図7B】図7Bは、同遺伝子検出判定装置の封止部の動作を示す図である。
【図7C】図7Cは、同遺伝子検出判定装置の封止部の動作を示す図である。
【図8】図8は、同遺伝子検出判定装置の温度調節部の動作を示す図である。
【図9】図9は、同遺伝子検出判定装置の測定部の動作を示す図である。
【図10】図10は、第2実施形態のインキュベータの構成を示す図である。
【図11】図11は、第3実施形態のインキュベータの構成を示す図である。
【図12】図12は、第4実施形態のインキュベータの構成を示す図である。
【図13】図13は、第5実施形態のインキュベータの構成を示す図である。
【図14】図14は、第6実施形態のインキュベータの構成を示す図である。
【図15】図15は、第7実施形態のインキュベータの構成を示す図である。
【図16】図16は、第8実施形態のインキュベータの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の第1実施形態の遺伝子検出判定装置(以下、単に「判定装置」と称する。)について、図1から図9を参照して説明する。
図1は、判定装置1の斜視図である。判定装置1は、判定装置本体1Aと、判定装置本体1Aに接続されたパソコン2とを備えて構成されている。パソコン2は、ディスプレイ等の表示部3を有している。判定装置本体1Aの上部は、コンタミネーション等を防ぐため、カバー4で覆われている。カバー4の前部には、後述する反応容器を設置する際に開閉される試料装填扉5と、判定装置1の状態を表示する機器表示部6とが設けられている。機器表示部6には、判定装置1の異常の有無や、現在行われている工程などの各種状態、情報が表示される。
【0030】
図2は、判定装置本体1Aのカバー4を外した状態を示す斜視図である。判定装置1は、反応容器が設置される移動台(容器設置部)7と、後述する反応容器の反応槽を複数の反応室に分割する反応槽分割部8と、反応容器を加熱、冷却する温度調節部(加熱冷却部)9と、反応容器の反応を測定する測定部10とを備えている。
【0031】
移動台7は、ステッピングモータやサーボモータ等の公知の構成からなる移動機構11によって、判定装置1の上面に設置されたレール12に沿って反応槽分割部8及び温度調節部9の上方に移動できるように構成されている。本実施形態のレール12は、試料装填扉5付近から奥に向かって直線状に設置されている。
【0032】
移動機構11としては、上記の構成のほかに、例えばステッピングモータとベルトの組み合わせや、磁力等を用いてレール12と移動台7とを移動させる構成等、公知の移動機構の構成から適宜選択して用いることができる。本実施形態の判定装置1の移動機構11は、ステッピングモータと無端ベルトとを用いて構成されている。
【0033】
図3Aは、判定装置1に設置される反応容器の一例を示す平面図、図3Bはその正面図である。反応容器100には、樹脂等からなる基板101上に、溝状の反応槽102が略平行に複数整列した状態で配置されている。各反応槽102には、PCR反応及びタイピング反応に用いられる試薬があらかじめ必要量充填されている。そして、その上面はコンタミネーションを防ぐために樹脂等からなる上面カバー101Aで覆われている。また、後述するように遺伝子を含んだサンプルが添加できるように、所定の空間が確保されている。
なお、上記試薬には酵素が含まれてもよい。これら試薬類は、乾燥状態(凍結乾燥、熱乾燥等を含む)、ゲル状、粉末状など、反応槽への載置要求に応じて所望の形状で載置することができ、ワックス等で封止されて配置されてもよい。
【0034】
図3Aに示すように、各反応槽102の両端部分の上面カバー101Aには、それぞれ注入口103と抜気口104とが設けられている。シリンジ等によって注入口103からサンプルが注入されると、抜気口104から各反応槽102内の空気が逃げて、サンプルが各反応槽102内に配置される。
【0035】
反応容器100の上面カバー101Aは、自蛍光性が低く、励起光、蛍光が透過する材質で形成され、基板101及び反応槽102は、励起光や蛍光が透過しない、熱伝導性の良好な材質で形成されるのが好ましい。材質の選択に代えて、下面に着色等を施すことによって励起光や蛍光を透過しないように加工してもよい。また、反応容器100は、後述する反応槽分割工程において大きな変形や割れが生じないように、ある程度柔軟性を有する材料で形成されるのが好ましい。
【0036】
図4は、移動台7を示す斜視図である。移動台7は、反応容器100が設置される枠状の設置部13と、設置部13に設置された反応容器100を固定する容器カバー14と、レール12上に設置される運搬部15とを有する。
【0037】
設置部13は、枠内に水平に延出する保持部13Aを有し、反応容器100の外周部が保持部13A上に保持されることによって移動台7に固定される。従って、反応容器100の下面は移動台7によって覆われておらず、各反応槽102の底面が露出して設置固定される。
【0038】
容器カバー14はヒンジ等によって開閉自在に設置部13に固定されており、設置部13に設置された反応容器100を上方から固定する。移動台7は、レール12上の運搬部15が移動機構11によって移動されるのに伴って、複数のレール12にまたがった状態でレール12に沿って移動する。
【0039】
図2に戻って、反応槽分割部8は、レール12間、すなわち移動台7が移動する軌道上に設けられている。反応槽分割部8は、上下方向への移動が可能な押圧ブロック16と、押圧ブロック16の上方に設けられたアーチ部17とから構成されている。
押圧ブロック16には、移動台7上の反応容器100が押圧ブロック16の真上に位置するときに、各反応槽102の真下に位置する部分に突出する突出部が複数設けられている。突出部は、後述するように押圧ブロック16が上昇するときに、反応槽102を変形させて複数の反応室に分割する。
【0040】
アーチ部17は、レール12の左右から上方に延びる垂直部17Aと、垂直部17Aの上端を架橋するように設けられた天板部17Bとから構成されている。天板部17Bの面積は、移動台7に設置された反応容器100全体を覆う程度の大きさに設定されており、押圧ブロック16が上昇した際に突き当てられる押さえとして機能する。
天板部17Bには、反応容器100が設置される移動台7の設置部13の開口部とほぼ同じ面積を有し、反応容器100側に突出する凸部が設けられてもよい。このようにすると、より確実に反応容器100を保持、押圧できる。
【0041】
温度調節部9は電熱ヒータやセラミックヒータ、レーザー、ハロゲンランプや、赤外線式、マイクロウェーブ式、温風式、誘導電気加熱(IH)式等の各種の加熱機等からなる加熱部18と、加熱部18の下方に設けられ、電動ファンやヒートシンク、冷風式冷却機等からなる冷却部19とを有する。必要に応じて、ペルチェ素子を用いて加熱部18及び冷却部19を構成してもよい。
【0042】
温度調節部9は、反応槽分割部8から所定の距離離れたレール12間、すなわち移動台7の軌道上に、上下方向への移動が可能に設置されている。そして、温度調節部9の上方に移動して停止した移動台7に対して上昇して反応容器100の下面、即ち各反応槽102の底面に接触する。温度調節部9は、加熱部18及び冷却部19によって、反応容器100を加熱又は冷却し、PCRに必要な温度サイクルの実現や、タイピング反応に必要な一定温度の保持(保温)を行う。
【0043】
必要に応じて、温度調節部9と反応容器100との間に金属箔やシリコングリス等を配置して、熱伝導性を向上してもよい。温度調節部9の温度調節は、後述する制御部によって行われる。
【0044】
温度調節部9の上にアーチ部17をもう一つ設け、温度調節部9とアーチ部17で移動台7や反応容器100を押さえることで、温度調節部9と反応容器を確実に接触させることができる。
また、アーチ部17を1箇所とし、押圧ブロック16や温度調節部9が移動するように構成することもできる。
さらに、アーチ部17を温度調節部9と押圧ブロック16を覆うように設置することもできる。
【0045】
測定部10は、励起光の導入及び蛍光の測光を行う発光検知部20と、発光検知部20を移動させる測定部移動機構21とから構成されている。
発光検知部20は、励起光を導入する数本の励起光用光ファイバ(不図示)と、励起光によって発生した蛍光を測光(検知)する数本の検知用光ファイバ(不図示)とが、一本に束ねられて構成されている。判定装置1には、2箇所に発光検知部20が設けられている。発光検知部20の数は、測光に必要とされる速度に応じて、適宜増減できる。
【0046】
励起光の光源としては、発光ダイオード(LED)やレーザダイオード等の公知の機構から適宜選択して使用できる。本実施形態の判定装置1においては、例えば波長域400から600ナノメートルのLEDが使用されている。
なお、励起光の波長は、測定対象の蛍光色素(蛍光物質)に必要な波長を適宜選択できる。
【0047】
検知用光ファイバには、集光した蛍光を電圧や電流に変換して蛍光強度を計測する光電子増倍管(Photo Multiplier Tube: PMT、不図示)が接続されている。本実施形態の発光検知部20は、例えば波長域530及び610ナノメートルの2系統のPMTを有している。PMTは、測定する波長の数に応じて適宜増減してよい。また、PMTに代えて、CCDを用いた光電変換素子やフォトダイオード等を用いてもよい。
なお、発光検知部20の測定波長は、測定対象の蛍光色素(蛍光物質)に応じて適宜変更してよい。
また、発光検知部20には、必要に応じてフィルターや集光のためのレンズを設置してもよい。
さらに、発光検知部20は、蛍光に代えて、化学発光、生物発光、燐光等を検知するように構成してもよい。この場合、検知対象によって励起用の光源が不要となるときは適宜構成を変更してよい。
【0048】
測定部移動機構21は、移動台7を移動させる移動機構11と同様に、公知のモータ等から構成されている。測定部移動機構21は、発光検知部20をX軸方向(移動台7の前進後退方向)に移動させるX軸移動部21Aと、Y軸方向(レール12の幅方向)に移動させるY軸移動部21Bとが組み合わされて構成されている。これによって、発光検知部20は、温度調節部9の上方に停止した移動台7上の反応容器100の上面と平行に各反応槽102の上方に移動できるようになっている。
発光検知部20の位置の微調整ができるように、必要に応じてZ軸(上下方向)に移動させる機構をさらに組み合わせて測定部移動機構21が構成されてもよい。
【0049】
図5は、判定装置1の各部のつながりの一例を示すブロック図である。図5に示すように、機器表示部6、移動機構11、反応槽分割部8、温度調節部9、及び測定部10は、判定装置1全体の制御を行う制御部22に接続されている。また、制御部22は、測定部10で取得された蛍光強度に基づき判定を行う判定部23、及び反応容器100の情報を読み取る読取部24とも接続されている。
【0050】
制御部22は、接続された上述の各機構の動作、及び温度調節部9におけるPCR温度サイクルや保温温度の管理等を行う。制御部22は、判定装置本体1Aの内部に設けられても外部に設けられてもいずれでもよい。内部に設けられる場合は、マイクロCPU、ROM、RAM、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)等の形で搭載されてもよい。外部に設けられる場合は、例えば判定装置本体1Aに接続されたパソコン2等にソフトウェア等の制御プログラムとして格納されてもよい。さらに、制御部22は、判定装置本体1Aの内部と外部とに分散して設置されてもよい。
【0051】
判定部23は、表示部3を有するパソコン2に格納されている。判定部23は、測定対象の遺伝子多型に対応する判定パラメータ、アルゴリズム及び判定データベース等を含んで構成されている。判定部23は、測定部10の発光検知部20で得られた蛍光強度の値及び上述の判定パラメータ等に基づいて、測定したSNP部位がホモ型かヘテロ型かなどの所定の判定を行い、表示部3にその結果を表示する。
なお、上記データベースは判定部23に含まれなくてもよい。例えば、インターネット経由で別の端末のデータベースを検索してもよいし、インターネットの複数のサイトを参照してもよい。
【0052】
また、上記データベースの情報として、測定したSNP部位に関する症例や投薬に関する情報、関連医薬品の添付文書や相互作用、緊急安全性情報(ドクターレター)等の、医師が実際に投薬に際して考慮すべき情報が含まれてもよい。そして、これらの情報が判定結果とともに表示部3に表示されてもよい。
【0053】
読取部24は、反応容器100に設けられた情報記録部から反応容器の測定対象、検体番号等の各種情報を読み取る。情報記録部としては、二次元バーコード、RFID(Radio frequency Identification)、ICチップ、ICタグなどを利用できる。読み取られた各種情報は、表示部3に判定結果とともに表示されたり、判定結果等のデータ整理等に使用されたりして利用される。上記各種情報は、必要に応じて機器表示部6に表示されてもよい。
【0054】
上記のように構成された判定装置1の使用時の動作について、以下に説明する。
図6は、判定装置1を用いた遺伝子診断の手順を示すフローチャートである。まず、ステップS1の反応容器設置工程において、サンプルを注入した反応容器100を、試料装填扉5を開けて移動台7の設置部13に設置し、容器カバー14を装着する。容器カバー装着後、試料装填扉5を閉める。
【0055】
反応容器100へのサンプル注入は、核酸抽出等で得られたDNAサンプルを、シリンジ等で反応容器100の注入口103から圧力を加えて注入することによって行う。注入されたサンプルは、各反応槽102に略均一に配置され、反応槽内の試薬と混合される。
なお、反応容器が核酸抽出機能を具備している場合は、核酸抽出等の工程は省略できる。
反応容器100が設置された移動台7は、移動機構11によって、レール12上を反応槽分割部8の上方まで移動し、停止する。
【0056】
次に、ステップS2の反応槽分割工程において、図7Aに示すように、反応槽分割部8の押圧ブロック16が上昇し、反応容器100の下面に接触する。押圧ブロック16はさらに上昇し、反応容器100を所定の圧力でアーチ部17に突き当てる。
【0057】
各反応槽102は、押圧ブロック16上の複数の突出部16Aとアーチ部17の天板部17Bとの間に挟まれ、図7Bに示すように、圧力で押しつぶされて塑性変形する。反応容器100の材質により、塑性変形をさせずに反応室105を形成することもできる。
この結果、各反応槽102は、それぞれ独立した複数の反応室105に分割され、それぞれの反応室で反応が行われることが可能となる。
反応室105の形成後、押圧ブロック16は、図7Cに示すように下降して所定の位置に戻り、反応容器100の設置された移動台7は、移動機構11によってレール12上を温度調節部9の上方まで移動し、停止する。
【0058】
続くステップS3の増幅反応工程においては、温度を調節することによってPCRによるDNAの増幅と、インベーダー法によるタイピング反応を行う。
まず、図8に示すように、温度調節部9が上昇し、反応容器100(不図示)の下面に接触する。温度調節部9は制御部22の制御に基づいて、反応容器100を所定の温度に加熱又は冷却する。加熱は、加熱部18(不図示)への通電によって行われ、冷却は加熱部18への通電を停止し又は通電条件を変更して、冷却部19を介して熱を放散させることによって行われる。
なお、後述するように冷媒を用いた場合は、通電のかわりに冷媒の供給の停止や供給量の変更により、温度を調整する。この調整量は予め別に制御部22に記憶させておく。
【0059】
これによって反応容器100の各反応室105内の溶液は、所定の温度サイクルで複数回、例えば30サイクル加熱されてPCR反応が進行し、所定の温度、例えば約60℃で約2分間保温されてタイピング反応が進行する。タイピング反応終了後、温度調節部9は下降して停止する。
増幅方法、タイピング反応の方法としては、上述の方法の他に、ICAN法、UCAN法、LAMP(Loop-mediated isothermal Amplification)法等の他の公知の方法を使用してもよい。
【0060】
ステップS4の測定工程において、各反応室105内のタイピング反応後のサンプルに発光検知部20から励起光を照射して、SNP部位に対応する蛍光強度を測定する。
具体的には、図9に示すように、測定部10を反応容器100(不図示)の各反応室105(不図示)の上部を走査しながら移動させ、発光検知部20により励起光を照射し、蛍光測定を行う。発光検知部20の取得した測定結果は、判定部23に送信される。
【0061】
測定データ(測定結果)は、すべての測定データを測定後、一括して判定部23に送信してもよいし、測定データが逐次送信されてもよい。一括送信までデータを蓄積する場合は、判定装置1にメモリ等の記憶媒体を設けてもよい。判定装置本体1Aとパソコン2との接続は、無線、有線等自由に選択できるが、データ送信の安定性の面から、有線で実施することが好ましい。
判定装置本体1Aから測定結果を外部(パソコン2を含む)に取り出す方法としては、上記のほかに、各種外部記憶装置、USB(Universal Serial Bus)メモリ、ハードディスク、CD−ROM、DVD−ROM等を利用することもできる。
【0062】
すべての反応室105の測定終了後、測定部10は当初の位置に戻って停止し、ステップS5の判定工程に進む。
なお、上記測定工程は、上述の増幅反応工程におけるタイピング反応前に行われてもよいし、開始とほぼ同時に開始され、タイピング反応が充分進行するまで上記走査が複数回行われてもよい。
また、PCR反応が終了し、ある時間一定温度に保持された後に上記測定工程が行われてもよい。
すなわち、図6に示された各工程は、必ずしもそれぞれ単独にかつ図6に示された順番で行われることを意味せず、複数の工程が時系列的に重複して行われる場合が含まれる。
上述のような場合は、PCR反応の終了、タイピング反応の終了までの時間は測定対象それぞれについて別途測定されて、予め制御部22に入力される。
【0063】
判定工程では、測定部10の取得した蛍光強度の値が、判定部23において測定対象SNPに適合した判定アルゴリズムに基づいて判定される。当該SNP部位がホモ型かヘテロ型か等の判定結果は、パソコン2の表示部3に表示される。このとき、必要に応じて上述の関連情報を判定装置1内外のデータベースから検索して、判定結果とともに表示部3に表示させることもできる。
【0064】
判定工程終了後、移動台7は試料装填扉5の方向に向かってレール12上を戻り、ステップS1において移動台7が設置されていた位置まで移動して停止する。こうして、一連の工程が終了する。
【0065】
本実施形態の判定装置1によれば、反応槽分割部8によって反応容器100の反応槽102が塑性変形されて、分割された各反応室105でDNA増幅反応及びタイピング反応が行われ、その後連続して測定が行われる。従って、サンプルをノズル等によって移送する必要がないので、サンプル移送に伴うコンタミネーションの発生リスクを排除できる。また、分注等のための機構を設ける必要がないので、装置を小型化できる。
【0066】
また、反応容器100が、各反応槽102の底面が露出した状態で移動台7に設置固定され、レール12にまたがって移動するので、反応槽分割部8及び温度調節部9が反応容器100の下方からアプローチしてそれぞれの処理を行うことができる。従って、反応槽分割部8及び温度調節部9の動作スペースを節約することができ、装置構成をより簡素にできる。
【0067】
さらに、温度調節部9がPCRのための温度サイクルの調節と、タイピング反応のための保温との2種類の温度調節を行うので、温度調節機構を1箇所に設けるだけで判定装置1を構成できる。従って、さらに判定装置1を小型化できる。
【0068】
加えて、判定部23が判定結果とともに当該SNPと関連する薬剤の安全性情報等を表示部3に表示する構成の場合は、判定結果を日常の臨床にすぐに役立てることができるため、個々の患者により適合する診療を行うことに貢献できる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の実施形態においては、測定部を設けず、外部の測定装置によって測定を行ってもよい。
また、例えば、上述の実施形態においては、反応槽分割部8が圧力によって反応槽102を塑性変形させて複数の反応室105に分割する例を説明したが、本発明の判定装置はこれに限定されない。反応槽102は加熱等によって変形されてもよいし、温度変化や可視光、紫外線等の光線等によって化学的に硬化させることによって変形されてもよい。また、これらの方法が適宜組み合わされてもよい。
また、反応槽102が加熱によって変形される構成をとる場合、反応槽分割部8の押圧ブロック16に冷却機構をあわせて設けることによって、反応槽分割部8と温度調節部9とが一体となった構成としてもよい。このようにすると、反応槽を複数の反応室に分割した後、反応容器を移動せずに増幅反応工程に移行することができ、装置の小型化及び作業の迅速化を一層進めることができる。
このような構成の場合、押圧ブロック16で反応室の分割形状を保ったまま、増幅、測定を行うことができる。このため反応容器100が塑性変形しないものを使用できる。
【0070】
また、上述の実施形態においては、レール12が直線状である例を説明したが、各機構の配置に応じて、適宜曲げたり蛇行させたりしてもよい。ただし、直線状に形成すると、レール12の距離を最も短くでき、装置を簡素で小型に構成できるので好ましい。
【0071】
さらに、レールを用いて軌道を構成するのに代えて、以下のように軌道が構成されてもよい。
例えば、移動台7に駆動手段(例えばモータと車輪)を設けて自走式とし、レールの代わりに移動台7の側面に沿うようにガイドレールを設置し、必要箇所に適宜ツメ型等のストッパーを設けて、移動台7が必要な場所に係止されるように構成されてもよい。
また、本実施形態の軌道に加えて、当該軌道の上空(空中)に補助軌道を架設し、当該軌道と空中の補助軌道との2点で移動台7を保持してもよい。
さらに、本実施形態の軌道に代えて、上記補助軌道をメインの軌道として、移動台7と別に駆動手段を設け、当該駆動手段から移動台7を懸架、垂下して、各種処理(温度調節、反応槽分割等)が行われる場所に反応容器が移動されて処理が行われるように構成されてもよい。
【0072】
さらに、上述の実施形態においては、反応容器が水平に配置され、反応槽分割部8及び温度調節部9が反応容器の下方からアプローチする例を説明したが、本発明の遺伝子検出判定装置はこれには限定されない。例えば、反応容器の上面及び下面が判定装置1の左右方向に位置するように配置され、反応槽分割部8及び温度調節部9が判定装置1の左右方向から反応容器にアプローチするように構成されてもよい。この場合、反応容器温度調節部9は、反応容器の上面側、下面側のいずれか一方から、あるいは両方から加熱及び冷却を行う。
【0073】
さらに、上述の実施形態においては、温度調節部9が、増幅のための加熱及び冷却とタイピング反応のための保温を行う例を説明したが、これに代えて、温度調節部は上記加熱及び冷却のみを行い、測定部に温度調節機構を設けてタイピング反応と測定を測定部によって行うように判定装置を構成してもよい。この場合、PCR法を使用しなくても測定可能な対象物のみを測定対象とすれば、温度調節部9を設置する必要がなくなり、部品点数を削減してより装置を簡素化できる。
【0074】
さらに、上述の実施形態においては、発光検知部20が励起光用光ファイバと検知用光ファイバとから構成される例を説明したが、これに代えて、励起用LED,フォトダイオード等の光電変換素子等の光学系を組み込んで箱型に発光検知部を構成し、この発光検知部内に反応容器を収容して測定を行ってもよい。この場合、光ファイバ等の引き回しが不要となり、装置を小型化できる。
【0075】
さらに上述の実施形態においては、移動台7の設置部13が枠状である例を説明したが、これに代えて、U字状の形状や、左右から反応容器を挟持して保持する構成、反応容器の周縁を上下から挟みこんで保持する構成等を採用することもできる。
【0076】
加えて、上述の実施形態においては、反応槽を有する反応容器を用いる例を説明したが、この他に、個別の反応室(ウェル)が流路で連結されている形状の反応容器を用いてもよい。この場合、反応槽分割部を介して流路部分を変形させることによってウェルを個別に独立させ、その中で必要な反応を行うことができる。
【0077】
なお、上述した温度調節部9は、上記記載の構成に加えて、あるいは上記記載の構成に代えて、以下のインキュベータの構成をとることもできる。このインキュベータについて図面を参照して説明する。
(第2実施形態)
図10は、第2実施形態のインキュベータの構成を示す図である。
図10に示すように、第2実施形態のインキュベータは、反応試料をDNAチップ(容器)210に収納し、このDNAチップ210を伝熱ブロック220に載置してDNAチップ210の加熱および冷却を行う。DNAチップとしては、既知のDNAチップの他、第1実施形態の反応容器の各形態を利用することもできる。伝熱ブロック220は、DNAチップ210に熱を伝えるものであり、熱伝導性の良い板状の金属からなる。金属としては、銀、銅、金、アルミニウム、及びこれらいずれかを含む合金などが好ましい。伝熱ブロック220は、チップ台270に支持されている。チップ台270は、伝熱ブロック220より一周り小さい開口270Aを有し、開口270Aの周りには、伝熱ブロック220よりもひと回り大きい肉厚の薄い凹部270Bが設けられている。伝熱ブロック220は、チップ台270の凹部270Bに収納されて支持される。チップ台270は、架台272の上部に数本固定されている支柱274により支持されている。DNAチップ210の上には、DNAチップ210を伝熱ブロック220に密着させるための押さえ212が置かれる。押さえ212は、DNAチップ210からの放熱を防止するため、断熱材で構成されている。
【0078】
伝熱ブロック220の下面に密着して、チップ台270の開口270Aを貫通する板状のヒータ230が設けられている。ヒータ230は、伝熱ブロック220を加熱するものである。ヒータ230は、急速加熱・急速冷却が可能なものが好ましく、例えば熱伝導性が高いセラミックヒータから構成される。セラミック材料としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素などが好ましい。
【0079】
ヒータ230の下方には、冷却装置240が設けられている。冷却装置240は、ヒータ230に接触する接触位置とヒータ230から離れた離間位置との間で移動可能に設けられ、接触位置でヒータ230に接触して伝熱ブロック220を冷却する。冷却装置240の下には、架台272上に設けられ、冷却装置240を支持して冷却装置240を接触位置および離間位置に移動させる移動装置260が設けられている。冷却装置240は、ヒータ230の下面に接触する接触面240Aを有し、接触面240Aには、熱伝導性シート241が貼り付けられる。これにより、接触熱抵抗を小さくできる。
【0080】
第2実施形態によれば、反応試料を加熱する場合には、反応試料を収容するDNAチップ210を保持する伝熱ブロック220が、伝熱ブロック220に密着して設けられたヒータ230により急速に加熱される。一方、反応試料を冷却する場合には、冷却装置240がヒータ230に接触し、冷却装置240によりヒータ230を介して伝熱ブロック220が直ちに冷却される。ヒータ230は、熱伝導性が高いセラミックヒータからなるので、冷却装置240が接触すると急速に冷える。したがって、反応試料を急速に加熱または冷却し、反応試料の温度を高速に制御できる。
なお、ヒータ230の設定温度は、必ずしも目標温度に設定する必要はない。例えば、最初は目標温度より高い温度に設定し、しだいに目標温度に下げるようにすれば、いっそうの急速加熱を実現できる。冷却装置の場合にも同様である。
【0081】
また、冷却装置240を接触位置および離間位置に移動する移動装置260のみが可動する。したがって、装置構成を簡単にできるとともに、装置の小型化が容易となる。
また、DNAチップ210を保持する伝熱ブロック220の下方にヒータ230、冷却装置240、移動装置260が設けられる。このため、DNAチップ210の上方に空間の余裕ができるため、DNAチップ210のセットや蛍光検出などの測定などが容易になる。したがって、操作性の良い装置を提供できる。
【0082】
(第3実施形態)
図11は、第3実施形態のインキュベータの構成を示す図である。
図11に示すように、第3実施形態のインキュベータは、第2実施形態の冷却装置240としてヒートシンク242を用いるとともに、第2実施形態の移動装置260としてエアシリンダ262を用いたものである。ヒートシンク242は、エアシリンダ262の固定板264にスペーサ266を介して固定されている。ヒートシンク242の上面には、熱伝導性シート241が貼り付けられる。反応試料を冷却する場合には、ヒートシンク242がヒータ230に接触し、ヒータ230からの放熱が行われる。ヒートシンクは、アルミニウム、アルミニウム合金、銅から選ばれる金属から構成されている。
なお、他の部分は、第2実施形態のインキュベータと同様の構成であり、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0083】
第3実施形態によれば、冷却装置240をヒートシンク242で構成するので、装置構成が最も簡単となる。また、移動装置260をエアシリンダ262で構成するので、装置構成が簡単になる。
なお、以後の実施の形態では、エアシリンダ262を用いた例で説明をするが、移動装置260は、エアシリンダ262に限るものではない。例えば電磁アクチュエータ(ソレノイド)、バネとモーターを組み合わせたもの、モーターとスクリューネジを組み合わせたものなどのように簡単な構成のものであればよい。
【0084】
(第4実施形態)
図12は、第4実施形態のインキュベータの構成を示す図である。
図12に示すように、第4実施形態のインキュベータは、第3実施形態のインキュベータのヒートシンク242の下にヒートシンク242を冷却する冷却ファン244を設けたものである。ヒートシンク242および冷却ファン244は、スペーサ266を介してエアシリンダ262の固定板264に固定されている。
なお、他の部分は、第3実施形態のインキュベータと同様の構成であり、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0085】
ヒートシンク242は単純に放熱を行うものであるため、第3実施形態のようにヒートシンク242単体で使用すると、加熱および冷却の繰り返しによりヒートシンク242の温度が上昇し、冷却速度が遅くなってしまうといった問題がある。
これに対し、第3実施形態によれば、ヒートシンク242を冷却する冷却ファン244を設けたので、加熱および冷却を繰り返してもヒートシンク242の温度を一定に保つことができる。したがって、PCR反応の終了まで高速冷却が可能になる。
【0086】
(第5実施形態)
図13は、第5実施形態のインキュベータの構成を示す図である。
図13に示すように、第5実施形態のインキュベータは、エアシリンダ262の固定板264にスペーサ266を介して固定されたヒートシンク246を備える。ヒートシンク246には、流体が流れる図示しない管路が設けられ、この管路に冷却水が循環してヒートシンク246の冷却が行われる。ヒートシンク246には、冷却水を供給する給水口246Aおよび冷却水を排出する排水口246Bが設けられる。ヒートシンク246の上面には、熱伝導性シート241が貼り付けられている。
なお、他の部分は、第3実施形態のインキュベータと同様の構成であり、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0087】
第5実施形態によれば、ヒートシンク246が循環する冷却水により冷却されるので加熱および冷却を繰り返してもヒートシンク246の温度を一定に保つことができる。したがって、PCR反応の終了まで高速冷却が可能になる。
また、第3実施形態のヒートシンク242に比べ、ヒートシンク246の垂直方向の厚さを薄くできるので、装置を小型化できる。
【0088】
(第6実施形態)
図14は、第6実施形態のインキュベータの構成を示す図である。
図14に示すように、第6実施形態のインキュベータは、エアシリンダ262の固定板264にスペーサ266を介して固定されたヒートシンク248を備える。ヒートシンク248には、流体が流れる図示しない管路が設けられ、この管路に目的の冷却温度よりも沸点の低い冷媒が循環してその気化熱によりヒートシンク248の冷却が行われる。ヒートシンク248には、冷媒を供給する供給口248Aおよび冷媒を排出する排出口248Bが設けられる。ヒートシンク248の上面には、熱伝導性シート241が貼り付けられている。冷媒としては、エチルアルコール、ジエチルエーテル、ベンゼン、アンモニア、アセチレン、液体窒素などが挙げられる。
なお、他の部分は、第3実施形態のインキュベータと同様の構成であり、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0089】
第6実施形態によれば、ヒートシンク248が循環する冷媒により冷却されるので加熱および冷却を繰り返してもヒートシンク248の温度を一定に保つことができる。したがって、PCR反応の終了まで高速冷却が可能になる。
また、第3実施形態のヒートシンク242に比べ、ヒートシンク248の垂直方向の厚さを薄くできるので、装置を小型化できる。
【0090】
(第7実施形態)
図15は、第7実施形態のインキュベータの構成を示す図である。
図15に示すように、第7実施形態のインキュベータは、ヒータ230を冷却する金属ブロック250と、金属ブロック250の下面に金属ブロック250に密着して設けられたペルチェ素子252を備える。
金属ブロック250は、熱伝導性の良い金属から構成され、銀、銅、金、アルミニウムなどから構成される。金属ブロック250の上面には、熱伝導性シート241が貼り付けられている。
ペルチェ素子252は、金属ブロック250を介してヒータ230を任意の温度で冷却する。ペルチェ素子252は、吸熱面252Aおよび放熱面252Bを有し、吸熱面252Aから熱を吸収(冷却)し、放熱面252Bから熱を放出する。金属ブロック250の下面には、吸熱面252Aが密着される。
ペルチェ素子252の放熱面252Bには、ペルチェ素子252の放熱面252Bからの放熱を冷却するためのヒートシンク242が密着して設けられ、ヒートシンク242の下には、ヒートシンク242を冷却する冷却ファン244が設けられている。
ヒートシンク242および冷却ファン244は、スペーサ266を介してエアシリンダ262の固定板264に固定されている。
なお、他の部分は、第3実施形態のインキュベータと同様の構成であり、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0091】
第7実施形態によれば、ペルチェ素子252により冷却温度を任意に設定できるため、より高精度に冷却速度を制御できる。例えばペルチェ素子252により冷却温度を室温以下にすることもできるので、いっそう高速な冷却速度を実現できる。
【0092】
(第8実施形態)
第8実施形態では、第1実施形態の判定装置1の温度調節部9に代えて、下記のインキュベータが備えられる。
図16は、第8実施形態の判定装置1の構成を示す図である。
第8実施形態のインキュベータは、ペルチェ素子252を備える。移動台(容器設置部)7の下方にインキュベータのペルチェ素子252が配置される。
ペルチェ素子252は、吸熱面252Aおよび放熱面252Bを有し、吸熱面252Aから熱を吸収(冷却)し、放熱面252Bから熱を放出する。
ペルチェ素子252は、吸熱面252Aと放熱面252Bの機能を切り替えることが可能なため、一つのペルチェ素子252で加熱と冷却とを行うことができる。
ペルチェ素子252の放熱面252Bには、ペルチェ素子252の放熱面252Bからの放熱を冷却するためのヒートシンク242が密着して設けられ、ヒートシンク242の下には、ヒートシンク242を冷却する冷却ファン244が設けられている。ペルチェ素子252の上面には、熱伝導性シート241が貼り付けられている。
ヒートシンク242および冷却ファン244は、スペーサ266を介してエアシリンダ262の固定板264に固定されている。
なお、スペーサ266、エアシリンダ262、及び固定板264の構成は、第3実施形態のインキュベータと同様の構成であり、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0093】
第8実施形態によれば、ペルチェ素子252により冷却温度を任意に設定できるため、より高精度に冷却速度を制御できる。例えばペルチェ素子252により冷却温度を室温以下にすることもできるので、いっそう高速な冷却速度を実現できる。
また、第8実施形態によれば、反応槽を変形させて複数の反応室に分割するとともに、インキュベータによって高速かつ正確な加熱、冷却がおこなわれるため、検出判定作業の大部分を機械化できる。このため、人為的なミスを防ぎ、多数のサンプルを効率的に処理できる。
また、第8実施形態によれば、遺伝子検出・判定を行うためにかかる時間を短縮し、かつ小型の装置を提供することが可能となる。
すなわち、レール上を走行する移動台の周りに加熱冷却、検出機構を置くことで装置の小型化が可能となる。大型になりがちだった加熱冷却機構を本発明の構成とすることで、高速の加熱冷却と小型化を同時に達成することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のインキュベータによれば、簡単な構成で小型化が容易であり、かつ、反応試料の温度を高速に制御してPCR反応時間を短縮できる。
【符号の説明】
【0095】
1 遺伝子検出判定装置
7 移動台(容器設置部)
8 反応槽分割部
9 温度調節部(加熱冷却部)
10 測定部
11 移動機構
12 レール
23 判定部
24 読取部
100 反応容器
102 反応槽
105 反応室
210 DNAチップ
212 押さえ
220 伝熱ブロック
230 ヒータ
240 冷却装置
260 移動装置
270 チップ台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応試料を収容する容器と;
前記容器が載置されて前記容器を保持する伝熱性の伝熱ブロックと;
前記伝熱ブロックに密着し、前記伝熱ブロックを加熱するヒータと;
前記ヒータに接触する接触位置と前記ヒータから離れた離間位置との間で移動可能に設けられ、前記接触位置で前記ヒータに接触して前記伝熱ブロックを冷却する冷却装置と;
前記冷却装置を前記接触位置および前記離間位置に移動させる移動装置と;
を備えるインキュベータ。
【請求項2】
前記ヒータは、前記伝熱ブロックの下面に密着し、
前記冷却装置は、前記接触位置で前記ヒータの下面に接触し、
前記移動装置は、前記冷却装置をその下方及び横方向の少なくとも一方から支持する、請求項1に記載のインキュベータ。
【請求項3】
前記移動装置は、エアシリンダを含む、請求項1に記載のインキュベータ。
【請求項4】
前記移動装置は、電磁アクチュエータを含む、請求項1に記載のインキュベータ。
【請求項5】
前記伝熱ブロックは、熱伝導物質を含む、請求項1に記載のインキュベータ。
【請求項6】
前記ヒータは、熱伝導率が高いセラミック材料を含む、請求項1に記載のインキュベータ。
【請求項7】
前記セラミック材料は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、または窒化ケイ素を含む、請求項6に記載のインキュベータ。
【請求項8】
前記冷却装置は、前記ヒータに接触する接触面を有し、前記接触面には、熱伝導性シートが貼り付けられる、請求項1に記載のインキュベータ。
【請求項9】
前記冷却装置は、ヒートシンクを含む、請求項1に記載のインキュベータ。
【請求項10】
前記ヒートシンクは、流体を流す管路を有し、前記ヒートシンクは、前記管路を流れて循環する冷却水により冷却される請求項9に記載のインキュベータ。
【請求項11】
前記ヒートシンクは、流体を流す管路を有し、前記ヒートシンクは、前記管路を流れて循環する、所定の冷却温度よりも沸点が低い冷媒により冷却される請求項9に記載のインキュベータ。
【請求項12】
前記冷却装置は、ヒートシンクと、前記ヒートシンクを冷却するファンとを有する請求項1に記載のインキュベータ。
【請求項13】
前記冷却装置は:
前記ヒータに熱を伝える金属ブロックと;
吸熱する吸熱面および放熱する放熱面を有し、前記吸熱面が前記金属ブロックに接触するペルチェ素子と;
前記ペルチェ素子の放熱面に密着するヒートシンクと;
前記ヒートシンクを冷却するファンと;を有する請求項1に記載のインキュベータ。
【請求項14】
前記金属ブロックは、熱伝導物質を含む、請求項13に記載のインキュベータ。
【請求項15】
前記冷却装置は:
吸熱する吸熱面および放熱する放熱面を有するペルチェ素子と;
前記ペルチェ素子の放熱面に密着するヒートシンクと;
前記ヒートシンクを冷却するファンと;を有する請求項1に記載のインキュベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−125262(P2012−125262A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−82488(P2012−82488)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【分割の表示】特願2009−521610(P2009−521610)の分割
【原出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】