説明

インクジェットノズル内面への凝集物の付着抑制方法

【課題】インクジェットズル内面への凝集物の付着抑制方法を提供する。
【解決手段】塩生成基含有モノマーとシリコーンマクロマーの共重合体からなるポリマー粒子を用いるインクジェット記録方式におけるノズル内面への凝集物の付着抑制方法であって、該ポリマー粒子の水分散体を基板上に塗布して乾燥させたポリマーフィルムと水との接触角が、80°以上である、インクジェットノズル内面への凝集物の付着抑制方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方式におけるノズル内面、詳しくはインクジェットヘッドのノズル内面への凝集物の付着抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。
その中でも、印字物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料系インクを用いるものが主流となってきている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
特許文献1には、印字が鮮明で、耐候性に優れ、印字状態が良好である水系インクを提供することを課題とし、色材及び(i)重合性官能基を有するマクロマー、(ii)塩生成基を有する重合性不飽和単量体、(iii)共重合可能な単量体を共重合させて得られたビニルポリマー粒子の水分散体を含有してなり、マクロマーがシリコーンマクロマー及び/又は片末端に重合性官能基を有するスチレン系マクロマーである水系インクが開示されている。
特許文献2には、優れた耐水性、耐擦過性及び耐マーカー性を発現する水性インク組成物、さらに印字性に優れたインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とし、水性媒体と、水に不溶のポリマーに染料又は顔料を含有させたポリマー粒子A及び/又は自己分散型顔料と、ポリマー粒子Bとを含有する水性インク組成物が開示されている。
これらのインクは性能がある程度改善されているが、インクジェット印字や画像形成の際に凝集物の付着が起こり、吐出性能は満足できるものではない。
【0004】
【特許文献1】特開2001−254038号公報
【特許文献2】特開2001−329199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、インクジェットヘッドのノズル内面への凝集物の付着抑制方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、インク中に表面エネルギーの低いポリマー粒子を配合することにより、インクジェット記録方式におけるノズル内面への顔料やポリマー粒子の凝集物の付着を抑制することで、吐出性を改善できること、及び得られる印刷物は印字濃度、耐マーカー性が優れていることを見出した。
すなわち、本発明は、ポリマー粒子を用いるインクジェット記録方式におけるノズル内面への凝集物の付着抑制方法であって、該ポリマー粒子の水分散体を基板上に塗布して乾燥させたポリマーフィルムと水との接触角が、80°以上である、インクジェットのノズル内面への凝集物の付着抑制方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の凝集物の付着抑制方法によれば、インクジェットヘッドのノズル内面への凝集物付着を抑制することができるため、吐出されるインク液滴の直進性が向上し、吐出性が良好となる。
また、仮にノズル内面に凝集物が付着しても、インク自体の自己洗浄性(付着物溶解性)によりノズル内面の付着物が除去されるため、インク液滴の着弾位置のバラツキが抑制され、「よれ」や「ぬけ」の少ない良好な印字、画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のインクジェットノズル内面への凝集物の付着抑制方法は、ポリマー粒子の水分散体を基板上に塗布して乾燥させたポリマーフィルムと水との接触角が、80°以上であるポリマー粒子を用いることが特徴である。以下、各構成要素について説明する。
【0009】
顔料
本発明に用いられるポリマー粒子は、顔料と共に用いることが、得られた印字物の印字濃度、耐マーカー性と共に、ノズル付着性、吐出性を向上させる観点から好ましい。
顔料としては、有機顔料及び無機顔料のいずれも使用できる。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。顔料の中では、いわゆる自己分散型顔料を用いることが好ましい。
カラー水系インクにおいては、有機顔料が好ましい。有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されるものではなく、赤色有機顔料、黄色有機顔料、青色有機顔料、オレンジ有機顔料、グリーンオレンジ有機顔料等の有彩色顔料を用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメントブルー、C.I.ピグメント・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中では、特に黒色水系インクとしてはカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
【0010】
自己分散型顔料
自己分散型顔料とは、アニオン性親水基又はカチオン性親水基である塩生成基の1種以上を直接又は他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水系媒体に分散可能である顔料を意味する。
ここで、他の原子団としては、炭素原子数1〜24、好ましくは炭素原子数1〜12のアルキレン基、置換基を有してもよいフェニレン基又は置換基を有してもよいナフチレン基等が挙げられる。
アニオン性親水基としては、顔料粒子を水系媒体に安定に分散しうる程度に十分に親水性が高いものであれば、任意のものを用いることができる。その具体例としては、カルボキシ基(−COOM1)、スルホン酸基(-SO31)、リン酸基(−PO312)、−SO2NH2、−SO2NHCOR1又はそれらの解離したイオン形(−COO-、-SO3-、−PO32-、−PO3- 1)等が挙げられる。
上記化学式中、M1は、同一でも異なってもよく、水素原子;リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;アンモニウム;モノメチルアンモニウム基、ジメチルアンモニウム基、トリメチルアンモニウム基;モノエチルアンモニウム基、ジエチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基;モノメタノールアンモニウム基、ジメタノールアンモニウム基、トリメタノールアンモニウム基等の有機アンモニウムである。
1は、炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基である。
これらのアニオン性親水基の中では、特にカルボキシ基(−COOM1)、スルホン酸基(-SO31)が好ましい。
【0011】
カチオン性親水基としては、アンモニウム基、アミノ基等が挙げられる。これらの中でも下記式(1)で表わされる第4級アンモニウム基、
【0012】
【化1】

【0013】
〔式中、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して水素原子又はR1(R1 は前記と同じ)、Xは、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、酢酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等のカルボン酸又は炭素数1〜8のアルキルサルフェートからプロトンを除去したアニオン性基を示す。〕、
及び下記式で表わされる基が好ましい。
【0014】
【化2】

【0015】
顔料を自己分散型顔料とするには、上記のアニオン性親水基又はカチオン性親水基の必要量を、顔料表面に化学結合させればよい。そのような方法としては、任意の公知の方法を用いることができる。例えば、米国特許第5571311号明細書、同第5630868号明細書、同第5707432号明細書、J.E.Johnson,Imaging Science and Technology's50th Annual Coference(1997)、Yuan Yu, Imaging Science and Technology's 53th Annual Conference(2000)、ポリファイル,1248(1996)等に記載されている方法が挙げられる。
より具体的には、硝酸、過酸化水素、次亜塩素酸、クロム酸のような酸化性を有する酸等の化合物によってカルボキシ基を導入する方法、過硫酸化合物の熱分解によってスルホン基を導入する方法、カルボキシ基、スルホン基、アミノ基等を有するジアゾニウム塩化合物によって上記のアニオン性親水基を導入する方法等があるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0016】
アニオン性親水基又はカチオン性親水基の存在比は、特に限定されるものではないが、自己分散型顔料1g当たり50〜5,000μmol/gが好ましく、100〜3,000μmol/gがより好ましい。
水分散体及び水系インク中、自己分散型顔料の平均粒子径は、該分散体の安定性の観点から、40〜300nmが好ましく、50〜200nmがより好ましい。なお、平均粒径は、大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)を用いて、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力して行う。
自己分散型顔料(カーボンブラック)の市販品としては、CAB−O−JET 200、同300(キャボット社製)やBONJET CW−1、同CW−2(オリヱント化学工業株式会社製)、東海カーボン株式会社のAqua−Black 162(カルボキシ基として約800μmol/g)等が挙げられる。
自己分散型顔料は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
ポリマー粒子
本発明において、ポリマー粒子に用いられるポリマーは、該ポリマーのフィルムと水との接触角が80°以上であることが重要である。
接触角は、実施例記載の方法で測定する。この接触角は、水系インクとの親和性(濡れ性)を下げ、表面エネルギーを下げる観点から、好ましくは90°以上、より好ましくは95°以上である。上限は特にないが、150°以下であれば充分と考えられる。
一方、インクジェットヘッドのノズルには、ポリエーテルイミド等のポリイミド樹脂等を用いたプレート、接着剤が用いられており、これらの樹脂がノズル内壁に露出している。これらの樹脂表面に、通常、インク由来の凝集物が徐々に付着していく。この凝集物は、ノズル縁部のポリマーや顔料などの乾燥により発生し、これが集合して膜状の付着物となり、インク液滴の方向性にバラツキを生じさせ、最終的にはノズル先端部で目詰まりを引き起こす恐れがある。
本発明においては、水との接触角が80°以上であるポリマーの粒子を用いることにより、上記耐熱性樹脂からなるヘッドノズル内面への凝集物の付着を抑制することができる。
【0018】
本発明に用いられる「ポリマー粒子」とは、連続相を水系とする溶媒中に、界面活性剤の存在下又は不存在下で、ポリマーエマルジョンとなって分散可能であるポリマー粒子である。
ポリマー粒子が、ケイ素原子やフッ素原子等の表面エネルギーを低下できる原子を構成単位に有することで、上記接触角を80°以上とすることができる。
より実際的には、ポリマー粒子は、塩生成基含有モノマー(a)に由来する構成単位及びシリコーンマクロモノマー(b)に由来する構成単位を有するポリマー粒子であることが好ましい。
また、ポリマー粒子の中では、得られる印字物の光沢性向上の観点から(i)自己乳化ポリマー粒子が好ましく、耐マーカー性向上の観点から(ii)乳化重合ポリマー粒子が好ましい。これらのポリマー粒子は、単独で又は2種類以上混合して用いることができる。
【0019】
(i)自己乳化ポリマー粒子
本発明で用いられる(i)自己乳化ポリマー粒子とは、ポリマーが有する塩生成基を中和した後、界面活性剤を添加せずにそのまま水中に投入し、攪拌、混合することにより、乳化状態とした水不溶性ポリマー(以下、「(i)自己乳化ポリマー」という)の粒子をいう。
乳化状態の判定は、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(300rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶媒を除去した後でも、乳化又は分散状態が、25℃で、少なくとも1週間安定に存在するか否かを目視で確認することにより行うことができる。
【0020】
(自己乳化ポリマー)
自己乳化ポリマーとしては、水不溶性ビニルポリマー、水不溶性エステル系ポリマー、水不溶性ウレタン系ポリマー等が挙げられる。これらの中では、水不溶性ビニルポリマーが好ましい。ここで、水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下、好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下であるポリマーをいう。溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
水不溶性ビニルポリマーとしては、(a)塩生成基含有モノマー(以下「(a)成分」ということがある)と(b)シリコーンマクロマー(以下「(b)成分」ということがある)、及び必要により(c)疎水性モノマー(以下「(c)成分」ということがある)等を含むモノマー混合物(以下「モノマー混合物」ということがある)を、溶液重合法により共重合させてなる水不溶性ビニルポリマーが好ましい。この水不溶性ビニルポリマーは、(a)成分由来の構成単位と(b)成分由来の構成単位、及び必要により(c)成分等由来の構成単位を有する。
【0021】
((a)塩生成基含有モノマー)
(a)塩生成基含有モノマーは、自己乳化促進の観点から、また得られる分散体の分散安定性を高める観点から用いられる。塩生成基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基等が挙げられる。
塩生成基含有モノマーとしては、カチオン性モノマー、アニオン性モノマー等が挙げられる。その例として、特開平9−286939号公報5頁7欄24行〜8欄29行に記載されているもの等が挙げられる。
カチオン性モノマーの代表例としては、不飽和アミン含有モノマー、不飽和アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(N',N'−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンが好ましい。
【0022】
アニオン性モノマーの代表例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
不飽和カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。不飽和スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。不飽和リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0023】
((b)シリコーンマクロマー)
(b)シリコーンマクロマーは、吐出性を高める観点から用いられる。シリコーンマクロマーは、下記式(2)で表されるシリコーンマクロマーが好ましい。
X(Y)qSi(R53-r(Z)r (2)
(式中、Xは重合可能な不飽和基、Yは2価の結合基、R5はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基、Zは数平均分子量500以上の1価のシロキサンポリマーの残基、qは0又は1、rは1〜3の整数を示す。)
シリコーンマクロマーの数平均分子量は、好ましくは500〜100,000、更に好ましくは1,000〜10,000であり、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有したクロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィーにより、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
式(2)において、Xとしては、CH2=CH−基、CH2=C(CH3)−基等の炭素数2〜6の1価の不飽和炭化水素基が挙げられる。
Yとしては、−COO−基、−COOCa2a−基(aは1〜5の整数を示す)、フェニレン基等の2価の結合基が挙げられ、−COOC36−が好ましい。
5としては、水素原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜5のアルキル基;フェニル基等の炭素数6〜20のアリール基、メトキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基等が挙げられ、これらの中ではメチル基が好ましい。Zは、好ましくは数平均分子量500〜5,000のジメチルシロキサンポリマーの1価の残基である。qは0又は1であり、好ましくは1である。rは1〜3の整数であり、好ましくは1である。
【0024】
(2)シリコーンマクロマーの代表例としては、下記式(2−1)〜(2−4)で表されるシリコーンマクロマー等が挙げられる。
CH2=CR6−COOC36−[Si(R72−O]b−Si(R73 (2−1)
(式中、R6は水素原子又はメチル基、R7はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基、bは5〜60の数を示す。)
CH2=CR6−COO−[Si(R72−O]b−Si(R73 (2−2)
(式中、R6、R7及びb は前記と同じ。)
CH2=CR6−Ph−[Si(R72−O]b−Si(R73 (2−3)
(式中、Phはフェニレン基、R6、R7及びbは前記と同じ。)
CH2=CR6−COOC36−Si(OE)3 (2−4)
〔式中、R6 は前記と同じ。Eは−[Si(R72O]c−Si(R73基(R7は前記と同じ。cは0〜65の数を示す)を示す。〕
これらの中では、式(2−1)で表されるシリコーンマクロマーが好ましく、特に、下記式(2−1a)で表されるシリコーンマクロマーが好ましい。
CH2=C(CH3)−COOC36−[Si(CH32−O]d−CH3 (2−1a)
(式中、dは8〜40の数を示す。)
式(2−1a)で表されるシリコーンマクロマーの例として、FM−0711、FM−0721、FM−0725、TM−0701(チッソ株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0025】
((c)疎水性モノマー)
(c)疎水性モノマーは、印字濃度、耐マーカー性の向上の観点から用いられる。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを示す。
【0026】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜12の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、例えば、スチレン系モノマー(c−1成分)、芳香族基含有(メタ)アクリレート(c−2成分)が挙げられる。
スチレン系モノマー(c−1成分)としては、スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、クロロスチレン等が挙げられ、特にスチレン及び2−メチルスチレンが好ましい。
芳香族基含有(メタ)アクリレート(c−2成分)としては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数7〜22、好ましくは炭素数7〜18、更に好ましくは炭素数7〜12のアリールアルキル基、又は炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数6〜12のアリール基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、ヘテロ原子を含む置換基としては、ハロゲン原子、エステル基、エーテル基、ヒドロキシ基等が挙げられる。より具体的には、例えばベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート等が挙げられ、特にベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。
(c)成分中の(c−1)成分又は(c−2)成分の含有量は、印字濃度及び耐マーカー性向上の観点から、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜80重量%である。
(c)成分の中では、印字濃度及び耐マーカー性向上の観点から、スチレン系モノマー(c−1成分)が好ましく、特にスチレン及び2−メチルスチレンが好ましいが、(c−1)成分と(c−2)成分を併用することも好ましい。
【0027】
((d)水酸基含有モノマー)
モノマー混合物には、分散安定性を高めるために、更に、(d)水酸基含有モノマー(以下「(d)成分」という)が含有されていてもよい。(d)成分は、分散安定性を高め、また印字した際に短時間で耐マーカー性を向上させるという優れた効果を発現させる。
(d)成分としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ。)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレートが好ましい。
【0028】
モノマー混合物には、更に、(e)下記式(3)で表されるモノマー(以下「(e)成分」という)が含有されていてもよい。(e)成分は、水系インクの吐出安定性を高め、連続印字しても「よれ」の発生を抑制するという優れた効果を発現させる。
CH2=C(R8)COO(R9O)p10 (3)
(式中、R8は、水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基、R9は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基、R10は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基、pは、平均付加モル数を意味し、1〜60の数、好ましくは1〜30の数を示す。)
ここで、ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子及び硫黄原子が挙げられる。
8の好適例としては、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基等が挙げられる。
9O基の好適例としては、オキシエチレン基、オキシ(イソ)プロピレン基、オキシテトラメチレン基、オキシヘプタメチレン基、オキシヘキサメチレン基及びこれらの2種以上の組合せからなる炭素数2〜7のオキシアルキレン基が挙げられる。
10の好適例としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の脂肪族アルキル基、芳香族環を有する炭素数7〜30のアルキル基及びヘテロ環を有する炭素数4〜30のアルキル基が挙げられる。
【0029】
(e)成分の具体例としては、メトキシポリエチレングリコール(1〜30:式(3)中のpの値を示す。以下、同じ。)(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエ-テル、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエ-テルが好ましい。
【0030】
商業的に入手しうる(d)、(e)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社の多官能性アクリレートモノマー(NKエステル)M−40G、同90G、同230G、EH−4G、日本油脂株式会社のブレンマーシリーズ、PE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400、同1000、PP−500、同800、同1000、AP−150、同400、同550、同800、50PEP−300、50POEP−800B等が挙げられる。
上記(a)〜(e)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0031】
(モノマー混合物中の各成分の含有量)
水不溶性ビニルポリマー製造時における、上記(a)〜(e)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ。)又は水不溶性ポリマー中における(a)〜(e)成分に由来する構成単位の含有量は、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、自己乳化性、得られるポリマー粒子の分散安定性の観点から、好ましくは3〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%、特に好ましくは5〜20重量%である。
(b)成分の含有量は、吐出性の観点から、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは15〜80重量%、特に好ましくは22〜70重量%、最も好ましくは25〜65重量%である。
(c)成分の含有量は、印字濃度、耐マーカー性の観点から、好ましくは5〜80重量%、より好ましくは10〜60重量%、特に好ましくは15〜50重量%である。
(d)成分の含有量は、ポリマー粒子の分散安定性、耐マーカー性の観点から、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは7〜20重量%である。
(e)成分の含有量は、吐出安定性等の観点から、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%である。
【0032】
〔(a)成分+(d)成分〕の合計含有量は、ポリマー粒子の分散安定性及び耐水性の観点から、好ましくは6〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%である。
〔(a)成分+(e)成分〕の合計含有量は、ポリマー粒子の分散安定性及び吐出安定性の観点から、好ましくは6〜75重量%、より好ましくは13〜50重量%である。
また、〔(a)成分+(d)成分+(e)成分〕の合計含有量は、ポリマー粒子の分散安定性及び吐出安定性の観点から、好ましくは6〜60重量%、より好ましくは7〜50重量%である。
(a)、(b)、(c)成分の重量比〔(a)/[(b)+(c)]〕は、長期保存安定性、吐出性等の観点から、好ましくは0.01〜0.5、より好ましくは0.03〜0.3、更に好ましくは0.05〜0.2である。
【0033】
(水不溶性ポリマーの製造)
(i)自己乳化ポリマーとするための水不溶性ポリマーは、溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法により、モノマー混合物を共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒としては、特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましい。
重合の際には、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。重合の際には、更に、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の重合連鎖移動剤を添加してもよい。
モノマー混合物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるので一概には決定することができない。通常、重合温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜80℃であり、重合時間は、好ましくは1〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
【0034】
得られる水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、印字濃度、耐マーカー性、吐出性の観点から5,000〜500,000が好ましく、10,000〜400,000が更に好ましく、10,000〜300,000が特に好ましい。
なお、ポリマーの重量平均分子量は、溶媒として、60mmol/Lのリン酸及び50mmol/Lのリチウムブロマイドを溶解した含有ジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
【0035】
((i)自己乳化ポリマー粒子の製造)
前記水不溶性ポリマーから(i)自己乳化ポリマー粒子を製造する場合は、次の工程(1)及び(2)により、水分散体として得ることが好ましい。
工程(1):水不溶性ポリマー、有機溶媒、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を、攪拌する工程。
工程(2):前記有機溶媒を除去する工程。
前記工程(1)では、まず前記水不溶性ポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に中和剤を含む水性媒体に加えて混合、攪拌し、水中油型の分散体を得る。このように、中和剤を含む水性媒体に水不溶性ポリマーを添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い、微粒径の(i)自己乳化ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。該混合物の攪拌方法に特に制限はない。
混合物中、有機溶媒は10〜70重量%が好ましく、水不溶性ポリマーは2〜40重量%が好ましく、水性媒体は10〜70重量%が好ましい。
水不溶性ポリマーの中和度には、特に限定がない。通常、最終的に得られる水分散体の液性が弱酸性〜弱アルカリ性、例えば、pHが4〜10になるように調整することが好ましい。
【0036】
前記工程(2)では、前記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶媒を留去して水系にすることで、(i)自己乳化ポリマー粒子の水分散体を得ることができる。得られた水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は、通常0.1重量%以下、好ましくは0.01重量%以下である。
得られる(i)自己乳化ポリマー粒子の水分散体のD50(散乱強度の頻度分布における、小粒子側から計算した累積50%の値)は、水分散体の保存安定性の観点から、500nm以下が好ましく、300nm以下が更に好ましく、200nm以下が特に好ましい。また、製造のし易さから、その下限は10nm以上が好ましい。
また該水分散体のD90(散乱強度の頻度分布における、小粒子側から計算した累積90%の値)は、粗大粒子を減らして分散体の保存安定性を高める観点から、2000nm以下が好ましく、1000nm以下が更に好ましく、500nm以下が特に好ましい。また、製造のし易さから、その下限は20nm以上が好ましい。
なお、D50及びD90の測定は、前記の大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000を用いて、同様の条件で行う。
【0037】
(ii)乳化重合ポリマー粒子
本発明で用いられる(ii)乳化重合ポリマー粒子とは、界面活性剤及び/又は反応性界面活性剤を用いて、モノマー混合物を乳化重合して得られるポリマー(以下、「乳化重合ポリマー」という)の粒子をいう。モノマー混合物は、前記の(a)成分と(b)成分、及び必要により(c)成分を含むことが好ましい。
従って、この乳化重合ポリマーは、前述の(a)成分由来の構成単位と(b)成分由来の構成単位、及び必要により(c)成分由来の構成単位を有することが好ましく、更に、前述の(d)成分、(e)成分を含有してもよい。
乳化重合の重合開始剤としては、公知のものを使用でき、例えば過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物、クメンヒドロペルオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキサイド、パラメンタンヒドロペルオキサイド等の有機系過酸化物、アゾビスジイソブチロニトリル、メトキシベンゼンジアゾメルカプトナフタレン等のアゾ系開始剤等の有機系開始剤、又は過酸化物や酸化剤に亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、糖等の還元剤を併用するレドックス重合開始剤等が挙げられる。
【0038】
乳化重合に用いる界面活性剤としては、特に限定されないが、好ましくは、アニオン系界面活性剤(例えば、ドデシルベンザンスルホン酸ナトリウム、ラウルリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩等)、ノニオン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド等)が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0039】
乳化重合においては、成膜させたポリマー膜(フィルム)上への水の接触角を80°以上とし、凝集物の生成を抑制し、水分散体及び水系インクの吐出性を高める観点から、反応性界面活性剤を用いることが好ましい。
反応性界面活性剤は、分子内にラジカル重合可能な不飽和2重結合を1個以上有する界面活性剤である。反応性界面活性剤は優れたモノマー乳化性を有しており、安定性に優れた水分散体を製造することができ、その結果として耐マーカー性及び吐出性を向上させる。
反応性界面活性剤としては、炭素数8〜30、好ましくは12〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基等の疎水性基を少なくとも1個と、イオン性基、オキシアルキレン基等の親水性基を少なくとも1個有し、アニオン性又はノニオン性であるものが好ましい。
アルキル基としては、例えば、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ベヘニル基等が挙げられる。
アルケニル基としては、オレイル基、オクテニル基等が挙げられる。
イオン性基としては、カチオン性基(アンモニウム基等)とアニオン性基が挙げられるが、アニオン性のものが好ましく、カルボキシ基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基等のアニオン性基又はその塩基中和物が更に好ましい。中和のために使用する塩基は、前記の中和剤と同様である。
オキシアルキレン基は、炭素数1〜4のものが好ましく、繰り返し単位の平均重合度は好ましくは1〜100、更に好ましくは4〜80、特に好ましくは4〜50である。なかでもオキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基が好ましい。
オキシアルキレン基を2種以上、例えばオキシエチレン基とオキシプロピレン基を用いる場合は、ブロック型、ランダム型、交互型等のいずれでもよい。オキシアルキレン基の末端は特に限定されず、水酸基の他、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基でもよい。
【0040】
乳化重合ポリマー粒子が、アニオン性モノマー由来の構成単位を有する場合は、ポリマー粒子の凝集安定性の観点から、反応性界面活性剤は、アニオン性基及び/又はオキシアルキレン基を有するものが好ましく、カチオン性モノマー由来の構成単位を有する場合は、ポリマー粒子の凝集安定性の観点から、反応性界面活性剤は、カチオン性基及び/又はオキシアルキレン基を有するものが好ましい。
反応性界面活性剤の具体例としては、例えば下記式(4)、(5)で表されるスルホコハク酸エステル系(例えば、花王株式会社製、ラテムルS−120P、S−180A、三洋化成株式会社製、エレミノールJS−2等)、及び一般式(6)で表されるアルキルフェノールエーテル系(例えば、第一工業製薬株式会社製、アクアロンHS−10、RN−20等)が挙げられる。
【0041】
【化3】

(式中、M2は、Na、K、又はNH4を示し、R11は、炭素数8〜18のアルキル基を示す。)
【0042】
【化4】

(式中、M2及びR11は、式(4)と同じである。)
【0043】
【化5】

(式中、Xは、H、SO3Na、SO3K、又はSO3NH4を示し、R11は、式(4)と同じであり、nは1〜200、好ましくは1〜50の整数を示す。)
【0044】
これらの反応性界面活性剤の中でも、乳化重合の操作性の観点から、上記式(4)及び(5)のアニオン性基を有するものが好ましい。これらの反応性界面活性剤は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
反応性界面活性剤の使用量は、反応性界面活性剤以外のエチレン性不飽和モノマー100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、更に好ましくは0.1〜3重量部である。該使用量が0.1重量部以上のときにポリマー粒子の安定性が良好となってポリマー粒子の分散安定性が向上し、10重量部以下のときに耐マーカー性が良好となる。
【0045】
(各成分又は各成分に由来する構成単位の含有量)
前記モノマー混合物中における(a)〜(e)成分の含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は(ii)乳化重合ポリマー中における(a)〜(e)成分に由来する構成単位の含有量は、(a)成分以外は、用いる目的及び好適範囲において、前記の自己乳化ポリマーの場合と同じである。モノマー混合物中における(a)成分の含有量又は(a)成分に由来する構成単位の含有量は、分散安定性の観点から、好ましくは0.3〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%、特に好ましくは0.5〜3重量%である。
得られるポリマー粒子の固形分量は1〜80%が好ましく、安定性と配合性の点から、10〜70%が好ましい。
【0046】
((ii)乳化重合ポリマー粒子の製造)
(ii)乳化重合ポリマー粒子は、公知の乳化重合法により、製造することができる。
乳化重合ポリマーは、造膜性を良くして耐マーカー性を向上させる観点から、ガラス転移温度は、好ましくは50℃以下、更に好ましくは30℃以下である。また、被膜強度を上げて耐マーカー性を向上させる観点から、ガラス転移温度は、好ましくは−70℃以上、更に好ましくは−40℃以上である。
水分散体及び水系インク中、(ii)乳化重合ポリマー粒子の水分散体のD50(散乱強度の頻度分布における、小粒子側から計算した累積50%の値)は、インクの保存時に安定に存在すればよく、特に限定されないが、前記の大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)の測定方法(25℃)により、好ましくは5〜300nmであり、より好ましくは30〜200nmである。
【0047】
インクジェットヘッドのノズル内面への凝集物の付着抑制方法
本発明に用いられるポリマー粒子は、水分散体又は水系インク中に含有されて用いられることが好ましい。水系インクとは、水を主媒体とするインクである。
水分散体、水系インク中、ポリマー粒子の含有量は、水分散体及びインクの安定性、耐マーカー性、凝集物付着抑制性、吐出性の観点から、好ましくは0.5〜15重量%、更に好ましくは1〜12重量%、特に好ましくは2〜10重量%である。
ポリマー粒子を、顔料と共に用いる場合は、水分散体、水系インク中の顔料の含有量は、水分散体及びインクの安定性、印字濃度、吐出性の観点から、好ましくは1〜15重量%、更に好ましくは2〜10重量%、特に好ましくは2〜8重量%である。
顔料及びポリマー粒子を含有する水分散体は、顔料、ポリマー粒子及び水を混合することにより得ることができる。混合順序は何れであってもよい。
〔顔料(自己分散型顔料)/ポリマー粒子〕の重量比は、印字濃度、耐マーカー性、吐出性の観点から、好ましくは20/80〜90/10、更に好ましくは30/70〜80/30である。
水分散体、水系インク中、水の含量は、好ましくは30〜90重量%、更に好ましくは40〜80重量%である。
【0048】
水系インクには、必要により、湿潤剤、分散剤、消泡剤、防黴剤、キレート剤等の添加剤を添加することができる。また、水系インクのpHは4〜10が好ましい。
水分散体及び水系インクの好ましい表面張力(20℃)は、水分散体としては、好ましくは30〜65mN/m、更に好ましくは35〜60mN/mであり、水系インクとしては、好ましくは25〜50mN/m、更に好ましくは27〜45mN/mである。
水分散体の固形分10重量%における粘度(20℃)は、水系インクとした時に良好な粘度とするために、2〜6mPa・sが好ましく、2〜5mPa・sが更に好ましい。また、水系インクの粘度(20℃)は、良好な吐出性を維持するために、2〜12mPa・sが好ましく、2.5〜10mPa・sが更に好ましい。
【0049】
インクジェット記録方式
本発明におけるインクジェット記録方式は限定されず、ピエゾ方式、サーマル方式のいずれも採用可能であるが、特にピエゾ方式が好適である。
本発明の方法は、印刷速度が高速であっても、水との接触角が80°以上、好ましくは90°以上、より好ましくは95°以上となるポリマーの粒子を用いることで、インクジェットヘッドのノズル内面への凝集物付着を効果的に抑制することができる。
このため、本発明方法によれば、インク液滴の吐出方向が一定で、直進性が向上し、吐出性が良好となる。
また、仮にノズル内面に凝集物が付着しても、インク自体の自己洗浄性(付着物溶解性)によりノズル内面の付着物が除去されるため、インク液滴の着弾位置のバラツキが抑制され、「よれ」(ベタ印字における細い白筋)や「ぬけ」(ベタ印字における太い白筋)の少ない良好な印字、画像を得ることができる。
【実施例】
【0050】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」である。
製造例1(反応性界面活性剤を用いた乳化重合ポリマー粒子の製造)
ビーカーに、(a)アクリル酸/(b)シリコーンマクロマー(商品名:FM−0711:チッソ株式会社製)/(c)スチレン/(c)2−エチルヘキシルアクリレート=2/29/49/20のモノマー混合物100gと反応性界面活性剤ラテムルS−180A(花王株式会社製、商品名、スルホコハク酸エステル系、有効分50%)10g、過硫酸カリウム0.5g、水50gを入れ、ホモミキサーで攪拌し、均一な乳白色液を調製する。
次に、攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管を備えたガラス製反応器にイオン交換水300g、前記ラテムルS−180A 2.3g、過硫酸カリウム0.1gを仕込み、窒素置換した後、湯浴にて温度を70℃に昇温した。そこに前記の乳白色液を2時間かけて滴下し、その後80℃で2時間熟成して固形分量が29%のポリマー粒子を得た。得られたポリマー粒子のD50を測定した結果、90nmであった。
なお、D50の測定は、レーザー粒子解析システム〔大塚電子株式会社製、品番:ELS8000〕を用いて25℃で測定した。
【0051】
製造例2(自己乳化ポリマー粒子の製造)
反応容器内に、メチルエチルケトン20部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.01部、及び(a)メタクリル酸/(b)シリコーンマクロマー(商品名:FM−0711:チッソ株式会社製)/(c)ブチルアクリレート=10/60/30のモノマー混合物200部の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、混合溶液を得た。
一方、滴下ロートに、上記モノマー混合物の残りの90%を仕込み、前記重合連鎖移動剤0.27部、メチルエチルケトン60部及びラジカル重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))1.2部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記ラジカル重合開始剤0.3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。次に、このポリマー溶液に、メチルエチルケトンを所定量添加し、攪拌することにより、固形分濃度が50%のポリマー溶液を得た。得られたポリマーの重量平均分子量は、約3万であった。
得られたポリマー溶液30部に、メチルエチルケトン40部とアセトン30部を加えて攪拌して均一化した後、滴下ロートに入れ、中和を行うため、予め5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液4.3部、25%アンモニア水1.2部及びイオン交換水217.5部を入れて混合した反応容器内に、30分間かけて滴下した。更に、30分間攪拌し、乳化組成物を得た。得られた乳化組成物を、減圧下、60℃で有機溶媒、アンモニアと一部の水を除去し、更に、平均孔径5μmのフィルター(日本ポール社製)でろ過し、粗大粒子を除去し、固形分量が20%のポリマー粒子を含む水分散体を得た。得られたポリマー粒子のD50を48nmであった。
【0052】
製造例3(反応性界面活性剤を用いた乳化重合ポリマー粒子の製造)
(a)アクリル酸/(c)スチレン/(c)2−エチルヘキシルアクリレート=2/49/49のモノマー混合物を用いた他は、製造例1と同様にしてポリマー粒子を得た。得られたポリマー粒子のD50を製造例1と同じ方法で測定した結果、120nmであった。
製造例4(自己乳化ポリマー粒子の製造)
(a)メタクリル酸/(c)ブチルアクリレート=10/90のモノマー混合物を用いた他は、製造例2と同様にしてポリマー粒子を得た。得られたポリマー粒子のD50を製造例1と同じ方法で測定した結果、35nmであった。
【0053】
実施例1〜3及び比較例1〜4
自己分散カーボンブラック水分散体(顔料固形分として7部)、製造例1〜3で得られたポリマー粒子を含む水分散体(ポリマー粒子固形分として3部)、グリセリン(5部)、2−ピロリドン(5部)、イソプロピルアルコール(2部)、アセチレノールEH(川研ファインケミカル株式会社製)(1部)、及び水(残量)を、全体が100部になるように、25℃で混合、撹拌して分散液を調製し、この分散液を0.8ミクロンのフィルターによって濾過し、水系インクを得た。
【0054】
得られた水系インクの(1)インクジェットノズル内面への凝集物付着性、(2)吐出性、(3)印字濃度及び(4)耐マーカー性を下記の方法により評価した。更に、実施例及び比較例で用いたポリマー粒子の水分散体を成膜させたポリマーフィルムの水接触角を測定した。結果を表1に示す。
なお、表1中の自己分散カーボンブラックはいずれも水分散体であり、略号は下記のとおりである。
CW−2:オリヱント化学工業株式会社製、商品名:BONJET CW−2、固形分濃度15%(塩生成基:カルボキシ基)
Cab:キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク社製、商品名:Cab−O−Jet200、固形分濃度20%(塩生成基:スルホン酸基)
【0055】
(1)ポリマーフィルムの水接触角
ポリマーフィルムの水接触角は、ポリマー粒子の水分散体(固形分20重量%、1g)をガラスプレート(20cm2)上に塗布(0.01g/cm2)し、25℃相対湿度50%の環境下で、24時間放置して乾燥させ、均一に成膜したフィルム上に純水を1滴滴下して、該フィルムと純水との接触角を、25℃相対湿度50%の環境下で、協和界面科学株式会社製、接触角計「CA−D型」を用いて測定する。ガラスプレートとしては、板ガラス(商品名:水スライドグラス、製造:松浪硝子工業株式会社、型名:S7224、規格:プレクリン(脱脂洗浄済)切放、幅26mm×長さ76mm、厚み1.2〜1.5mm)を用いる。単位面積当たりのポリマーの塗布量が上記のとおりであれば固形分や塗布量は調整してもよい。
(2)インクジェットノズル内面への凝集物付着性
擬似ノズル内部素材として、ポリイミドフィルム(約20cm2)(ユーピレックス25S:宇部興産株式会社製)を用い、インク(約1g)を均一に塗布した後、25℃相対湿度50%の環境下、24時間放置し乾燥させた。それを25℃の同一のインクの入ったビーカーに1時間浸漬した後、純水で軽く洗浄して、インクの残留する面積を測定した。
〔評価基準〕
○:残留するインクが塗布面の10%未満
△:残留するインクが塗布面の10%以上50%未満
×:残留するインクが塗布面の50%以上
【0056】
(3)吐出性
市販のインクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型番:EM−930C、ピエゾ方式)を用い、高品位専用紙(キヤノン株式会社製)に、ファインモード(高速印字モード)でベタ印字し、乾燥させた後、下記の基準により、目視で評価した。
なお、「よれ」とは、吐出していないノズルはないが、細い白い筋が入ることを意味し、「ぬけ」とは、吐出していないノズルがあり、太い白い筋が入ることを意味する。
〔評価基準〕
○:よれ、ぬけがない
△:よれがある
×:よれ、ぬけがある
【0057】
(4)印字濃度
前記プリンターを用い、PPC用再生紙(日本加工製紙株式会社製)にベタ印字し、室温にて24時間自然乾燥させた後、その光学濃度をマクベス濃度計(グレタグマクベス社製、品番:RD918)で測定した。
〔評価基準〕
○:印字濃度1.40以上
△:印字濃度1.35以上1.40未満
×:印字濃度1.35未満
【0058】
(5)耐マーカー性
前記プリンターを用い、PPC用再生紙(日本加工製紙株式会社製)にテキスト印字し、3分後、及び10分後に、市販の水性蛍光ペン(ゼブラ株式会社製、商品名:オプテックス1)でなぞった場合の印字サンプルの汚れ度合いを目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔評価基準〕
◎:蛍光ペンでなぞっても尾引き等汚れがない。
○:蛍光ペンでなぞると尾引きするが、実用上問題がないレベル。
△:蛍光ペンでなぞると尾引きが発生し、汚れる。
×:蛍光ペンでなぞると尾引きが前面に起こり、汚れがひどく目立つ。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示された結果から、本発明の実施例によれば、凝集物の付着が抑制され、吐出性に優れ、普通紙に印字した際に高印字濃度、耐マーカー性(特に10分後)が優れていることが分る。
さらに、実施例2及び3で得られたインクは、市販の専用紙(写真用紙<光沢>セイコーエプソン株式会社製、商品名:KA450PSK)に印字した際に、印字物は光沢性にも優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー粒子を用いるインクジェット記録方式におけるノズル内面への凝集物の付着抑制方法であって、該ポリマー粒子の水分散体を基板上に塗布して乾燥させたポリマーフィルムと水との接触角が、80°以上である、インクジェットノズル内面への凝集物の付着抑制方法。
【請求項2】
ポリマー粒子を顔料と共に用いる、請求項1に記載の凝集物の付着抑制方法。
【請求項3】
ポリマー粒子が、(a)塩生成基含有モノマーに由来する構成単位及び(b)シリコーンマクロマーに由来する構成単位を有する、請求項1又は2に記載の凝集物の付着抑制方法。
【請求項4】
ポリマー粒子が、(b)シリコーンマクロマーに由来する構成単位を10〜90重量%含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の凝集物の付着抑制方法。
【請求項5】
ポリマー粒子が、自己乳化ポリマー粒子である、請求項1〜4のいずれかに記載の凝集物の付着抑制方法。
【請求項6】
ポリマー粒子が、乳化重合ポリマー粒子である、請求項1〜5のいずれかに記載の凝集物の付着抑制方法。

【公開番号】特開2007−92045(P2007−92045A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233676(P2006−233676)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】