説明

インクジェットプリンタにおけるヘッド位置調整機構及びヘッド位置調整方法

【目的】 記録ヘッドの位置決めを簡単にかつ正確に行えるようにすること。
【構成】 記録ヘッド70、80をキャリッジ31のヘッドガイド溝32、33に係合させることにより走査方向の位置決めを行い、また、バネ92、92によって記録ヘッド70、80をキャリッジ31のヘッド位置決め面35、36に密着させることにより紙送り方向の位置決めを行い、さらに一方の記録ヘッドを基準として他方の記録ヘッドに調整板91を装着することにより2つの記録ヘッド70、80のズレを調整するようにしたもの。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、インク滴を吐出して記録媒体上にインク像を形成するシリアルタイプのオンデマンド型インクジェットプリンタに関し、より詳しくは、その印字ヘッドの位置調整機構とヘッドの位置調整方法に関する。
【0002】
【従来の技術】シリアルタイプのインクジェットプリンタには大きく分けて2つのタイプがあり、その1つは、インクカートリッジとヘッドが一体的に構成された、いわゆるプリントヘッドカートリッジと呼ばれているもので、他の1つは、文字通りインクジェットヘッドと呼ばれる、インクカートリッジのみを消耗品として交換するタイプのものである。
【0003】一般に、インクジェット記録方式は、記録媒体に直接印刷が可能な上、ヘッドの小型化が容易であるという利点があり、さらに、インクの色を変えることでカラー印刷も容易に行うことが出来るが、同一キャリッジに複数のインクジェットヘッドやプリントヘッドカートリッジを搭載すると、各ヘッドが持つ機械的公差あるいは取付け上の公差により、互いのノズル位置が理想とする位置に対して相対的にずれて、良好な印刷品位を得ることが出来ないことになる。
【0004】特に、インクカートリッジとヘッドが一体的に構成されたプリントヘッドカートリッジでは、インク終了時にヘッドも交換されるので、その都度ヘッドの位置調整が必要となるが、この調整をユーザに強いることはできないため、特開平5−254114号、特開平5−278027号あるいは特開平5−278306号各公報に開示されるように、試験印刷の結果をセンサで読み取り、アクチュエータでカムを駆動してヘッドの相対位置を調整するようにしていたが、この調整方法は、おのずと複雑な構成となる上、ヘッド交換の都度調整動作が必要になる問題を有していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明はかかる問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、簡単で、かつ確実なヘッドの位置調整が可能な機構とその位置調整方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明はこのような課題を達成するためのインクジェットプリンタにおけるヘッド位置調整機構として、走査軸に平行な、紙送り方向の位置を決めるヘッド位置決め面と、走査軸に垂直なヘッドガイド溝と、を有するキャリッジと、ヘッドガイド溝に係合して走査方向の動きを抑制する係合部と、ヘッド位置決め面に対応する走査方向前後の当接面と、を備えたヘッドと、このヘッドの当接面をヘッド位置決め面に押圧する付勢ばねと、によって構成したものであり、また、このヘッド位置調整方法として、1つのヘッド位置決め面に当接させた1つのヘッドを基準として、他のヘッド位置決め面に、必要とする枚数の調整板を介在させて他のヘッドを当接させることにより、1つのヘッドの印刷ドット位置に対して他のヘッドの印刷ドット位置を、紙送り方向に重ねるようにして位置調整を行うようにしたものである。
【0007】
【実施例】図1は、本発明の実施例であるカラープリンタの主要構成を示した分解斜視図であり、図2はこれを側面からみた断面図であり、さらに図3は、この主要部を真上から見た部分平面図である。はじめにこの実施例の構成について説明する。
【0008】図において、黒インクジェットヘッド70は、インク滴吐出部71と、回路基板74と、流路部材72と、黒インクを貯蔵した黒インクカートリッジ61と接続する針73とを備えており、さらにこの回路基板74にはコネクタ77が設けられていて、プリンタ本体の制御回路と接続するケーブル201と中継している。
【0009】流路部材72には、図4に示したように、ノズル112の列に対して直角な向きの当接面75がキャリッジ31の移動方向前後に設けられていて、図5に示したように、これらの面には後述する回転補正板95を装着する頭付きのフック部78が設けられ、さらにこの流路部材72には、キャリッジ31の黒インクジェットヘッドガイド溝32と係合する、突起状の係合部76が紙送りロ−ラ3側に一体的に突出形成されている。
【0010】一方、カラーインクジェットヘッド80は、インク滴吐出部81と、回路基板84と、流路部材82と、カラーインクカートリッジ62と接続する針83とを備えており、マゼンダインク62M、シアンインク62C、イエローインク62Yはそれぞれ独立したインク室に貯蔵されていて、針83は各色に1対1で対応している。
【0011】回路基板84にはコネクタ87が設けられていて、プリンタ本体の制御回路と接続するケーブル202と中継している。流路部材82には、図4に示したように、ノズル121の列に対して直角な向きの当接面85がキャリッジ31の移動方向前後に設けられていて、これらの面には、図5に示したように、回転補正板95を装着する頭付きのフック部88が設けられ、さらに、流路部材82にも、キャリッジ31のカラーインクジェットヘッドガイド溝33と係合する、突起状の係合部86が紙送りロ−ラ側に一体的に突出形成されている。
【0012】キャリッジ31には、カラーインクジェットヘッド80の当接面85を受ける第1のヘッド位置決め面36と、黒インクジェットヘッド70の当接面75を受ける第2のヘッド位置決め面35とがある。第1のヘッド位置決め面36は、キャリッジ31が走査する基準となる走査軸23と平行に、かつ紙送り方向と直角な向きに作られている。第2のヘッド位置決め面35はこの第1のヘッド位置決め面36に対して、図3にXと記したように、走査軸23から遠ざかる方向に平行に、かつ、第1のヘッド位置決め面36と平行にオフセットされている。
【0013】このキャリッジ31には、コの字形のばね受け部37が設けられていて、ここには、各ヘッド70、80の当接面75、85をそれぞれヘッド位置決め面35、36に圧接するための付勢ばね94、94が取付けられており、また、流路部材72、82の各係合部76、86を受入れてインクジェットヘッド70、80をキャリッジ31の走査方向に位置決めするためのヘッドガイド溝32、33がそれぞれ対応する位置に、かつヘッド位置決め面と直交する向きに設けられている。
【0014】キャリッジ31に開けられた穴38は、黒インクジェットヘッド70のインク滴吐出部71がここを貫通して、記録媒体1と対面するためのもので、同様に穴39は、カラーインクジェットヘッド80のために開けられている。キャリッジ31は、メインフレーム11に取り付けたキャリッジモータ21で駆動されるベルト22により、走査軸23に沿って往復動作する。34は、キャリッジ31の走査軸23の軸回りの回転を防ぎ、排紙フレーム12の面上を転がる従動ローラである。
【0015】これに対して回転補正板95は、黒及びカラーの各ノズル列の112(122)の角度を調整するものであり、また調整板91は、黒インクジェットヘッド70とカラ−インクジェットヘッド80の紙送り方向のずれを調整するもので、回転補正板95には、図5に示したように、連続した大穴部95aと小穴部95bが設けられていて、各流路部材72(82)の一方の当接面75(85)に設けたフック部78(88)に取付けられるように、また調整板91は、一方のヘッド70(80)を基準として他方のヘッド位置決め面36(35)と当接面85(75)の間に挟み込めるように構成されている。
【0016】41は、キャリッジ31に冠装されるカートリッジホルダである。このカートリッジホルダ41には2つのレバー51があって、黒インクカートリッジ61とカラーインクカートリッジ62とを、独立して着脱可能にしている。インクカートリッジ61、62の装着は、レバー51を図1の実線の状態にして、インクカートリッジ61、62をカートリッジホルダ41内に入れて、矢印(イ)に示すように、レバー軸52を支点に回動して破線で示す状態にすることで行われる。
【0017】この時、図2に示すように、レバー51の歯車51gと黒インクカートリッジ61のラック61gとが噛み合い、同様に、レバー51の歯車51gとカラーインクカートリッジ62のラック62gとが噛み合っている。(同図では62gは影に隠れている)。レバー51は、係止部51aをカートリッジホルダ41の被係止部41aに係止してインクカートリッジ61、62の装着状態を保つ。インクカートリッジ61、62の取り外しは、図2において、レバー51をレバー軸52を支点として反時計回りに、係止部41aの係止に抗して回動すると、歯車51gがラック61g、62gを押し上げる。なお、図2において符号2a、2b、2c、2dは記録媒体1を順次ガイドする紙案内であり、また、3は同図反時計回りに回動する紙送りローラで、支点5に取り付けた紙押えばね6で付勢される紙押えローラ4a、4bとによって巻き付けられた記録媒体1を搬送する。4cは自重で紙を押さえる紙押えローラであり、7は排紙ローラで、印刷が終了した記録媒体1をプリンタの外へ送り出す。8は排紙押さえローラで、印刷面を汚さぬように手裏剣状の尖った先端で紙を押さえている。
【0018】つぎに上述した装置による各インクジェットヘッド70、80単体状態での、ノズル列112、122と当接面75、85との角度補正について説明する。図4(a)に示すように、当接面75、85からノズル列112、122に至るまでには、流路部材72、82と、インク滴吐出部71、81と、ノズル111、121と複数の部品が介在し、これらの機械的公差をトータルすると少なからぬ値となる。その結果、同図において誇張して示したように、本来90゜であるべき角度が角度S゜,T゜という傾きを生ずる。
【0019】そこで図4(b)に示したように、この傾きに応じて適切な厚みの回転補正板95を装着する。回転補正板95の装着は、図5に示したように、流路部材72、82のフック部78、88に、回転補正板95の大穴部95aを通し、次いで、フック部78、88の裏に回転補正板95の小穴部95bが来るように引き下げる。こうして補正された後は、図4(b)に見られるように、回転補正板95の面が新たな当接面75、85に相当して機能する。偶然のことながら、回転補正板95を用いずとも当接面75、85とノズル列112、122が直角であれば、回転補正板95は使用しない。
【0020】次に、インクジェットヘッド70、80の、キャリッジ31に対する位置決めについて説明する。キャリッジ走査方向の位置決めを行なうには、黒インクジェットヘッド70とカラーインクジェットヘッド80の各流路部材72、82に設けた係合部76、86をキャリッジのヘッドガイド溝32、33に係合させることにより規定する。この際、ヘッドガイド溝32、33はヘッド70、80が紙送り方向に移動することを妨げない。
【0021】一方、紙送り方向の位置決めを行なうには、付勢ばね92のばね力を用いてカラーインクジェットヘッド80の当接面85を第1のヘッド位置決め面36に密着させる。これにより、カラーインクジェットヘッド80は、既にヘッド単体で当接面85とノズル列122との傾きを補正させてあるので、この当接面85が走査軸23と平行な第1のヘッド位置決め面36に密着することによってノズル列122はキャリッジ31の走査方向に対して直角になる。
【0022】次に黒インクジェットヘッド70では、流路部材72の当接面75が付勢ばね92で押圧されることにより第2のヘッド位置決め面35に密着する。黒インクジェットヘッド70も、予めヘッド単体で当接面75とノズル列112との傾きが補正されているので、その当接面75が走査軸23と平行な第2のヘッド位置決め面35に密着することで、ノズル列112はキャリッジ31の走査方向に対して直角になる。
【0023】ところで、カラー印刷を行うには、黒インクジェットヘッド70とカラーインクジェットヘッド80のノズル位置が、記録媒体1上において紙送り方向で重ならなければならない。黒インクジェットヘッド70とカラーインクジェットヘッド80は、それぞれが機械的公差を持った部品で構成されていて、単体で傾きの補正がなされる関係上、当然の事ながら、2つのヘッドは紙送り方向において相対的にずれる。
【0024】そこで、こうした2つのヘッドの紙送り方向のずれを調整するために調整板91が用いられる。この調整は、まず、調整板91を用いずに黒インクジェットヘッド70とカラーインクジェットヘッド80をキャリッジ31に仮固定して印刷を行う。オフセット値(図2R>2のX寸法)は、2つのヘッドの公差の上下限値と傾き補正板95の最大厚みを考慮して設定され、黒インクジェットヘッド70の当接面75からノズル列112が最も離れ、カラーインクジェットヘッド80の当接面85からノズル列122が最も近くても、調整板91を用いずに印刷した場合、カラーインクジェットヘッド80のノズル列122が、黒インクジェットヘッド70のノズル列112より走査軸23から遠ざかる事はない。
【0025】調整板91を用いずに印刷した結果、黒の印刷ドットとカラーの印刷ドットが重なれば調整は終了するが、印刷ドットが重ならない場合には、一方のヘッドを基準として他方のヘッドに1番薄い調整番91を装着して印刷する。この実施例では、印刷密度を1インチ当り360ドットとしてあるため、ドット間距離は約0.07mmに合わせて、調整板91は0.07mmが最も薄く、次に0.14mmといった具合に0.07mm刻みに形成されている。
【0026】0.07mmの刻みによる調整分解能はその半分の0.035mmで、印刷ドットの重なりは、2つの印刷ドットのずれが調整板91の分解能である0.035以下であることを意味しているから、1番薄い調整板91で黒の印刷ドットとカラーの印刷ドットが重なれば調整は終了し、印刷ドットが重ならない場合には、印刷ドットが重なるまで、順次調整板91の厚みを増していく動作を繰り返す。このように、一方のヘッドを基準として、他方のヘッドをずらしながら作業性よく調整する。
【0027】記録媒体1からノズル111面、121面までの距離の位置決めは、流路部材72、82の被固着部が、ネジ101の締め付けによって、キャリッジ31の底面に密着することにより決まる。記録媒体1からのノズル111、121の距離に関しては、その距離が短く(一般に1mm前後)、インク滴のスピードが速い(一般に10m/秒前後)ため、距離のばらつきによる印刷ドットのずれは無視できる。
【0028】以上の調整が終了して、黒インクジェットヘッド70とカラーインクジェットヘッド80がキャリッジ31に固着された状態で、最後の調整を行う。これは、黒インクジェットヘッド70とカラーインクジェットヘッド80のキャリッジ走査方向の印刷ドットの重ね合わせであって、この調整は、シリアルプリンタの印刷方式で一般に採用されている、キャリッジ31の走査と同期した印刷タイミング信号をシフトすることにより行われる。カラーインクジェットヘッド80のインク滴が、記録媒体1上に形成する印刷ドットを基準として、黒インクジェットヘッド70の印刷ドットがこれに重なるように、印刷のタイミングをプリンタ本体の制御回路上で合わせ込み、このようにして全ての調整が終了する。
【0029】以上、黒とカラー2つのインクジェットヘッドの取り付け及び調整方法について説明したものであるが、黒インクジェットヘッドが2つ以上ある場合においてもまったく同様の取り付け調整が可能であり、また、黒とカラーのインクジェットヘッドが入れ替わっている場合でも同様に行える。
【0030】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、キャリッジに、走査軸に平行なヘッド位置決め面と、走査軸に垂直なヘッドガイド溝を設ける一方、ヘッドには、ヘッドガイド溝に係合する係合部と、ヘッド位置決め面に対応する当接面を設けるようにしたので、キャリッジのヘッドガイド溝にヘッドの係合部を係合させ、キャリッジのヘッド位置決め面にヘッド当接面を密着させるだけで、ヘッドを走査方向に変位させることなく紙送り方向に正確に位置決めすることができる。
【0031】しかも、印刷速度の向上やカラー印刷を目的としてキャリッジに複数のインクジェットヘッドを固着・装備するプリンタにおいては、キャリッジ上の位置決め面に装着した1つのヘッドを基準として他のヘッドを固定することにより、部品個々に極度にきびしい寸法精度を必要とすることなく複数のヘッドを精度高く位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の1実施例をなすインクジェットプリンタの主要構成を示した分解斜視図である。
【図2】同上装置を側面からみた断面図である。
【図3】同上装置の主要部を真上から見た部分平面図である。
【図4】(a)(b)は、同上装置ヘッド傾きの補正方法を示した説明図である。
【図5】(a)(b)は、同上装置の回転補正板の装着部と、回転補正板について示した図である。
【符号の説明】
1 記録媒体
23 走行軸
31 キャリッジ
32、33 ヘッドガイド溝
35、36 ヘッド位置決め面
61 黒インクカートリッジ
62 カラーインクカートリッジ
70 黒インクジェットヘッド
72 流路部材
75 当接面
76 係合部
80 カラーインクジェットヘッド
82 流路部材
85 当接面
86 係合部
91 調整板
92 付勢ばね
95 回転補正板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 走査軸に平行な、紙送り方向の位置を決めるヘッド位置決め面と、該走査軸に垂直なヘッドガイド溝と、を有するキャリッジと、上記ヘッドガイド溝に係合して走査方向の動きを抑制する係合部と、上記ヘッド位置決め面に対応する走査方向前後の当接面と、を備えたヘッドと、上記ヘッドの当接面を上記ヘッド位置決め面に押圧する付勢ばねと、を備えたインクジェットプリンタにおけるヘッド位置調整機構。
【請求項2】 上記ヘッドの当接面に、ノズル列角度調節用の補正板を装着可能となしたことを特徴とする請求項1記載のインクジェットプリンタにおけるヘッド位置調整機構。
【請求項3】 キャリッジの各ヘッド位置決め面にヘッドの当接面を、キャリッジの各ヘッドガイド溝にヘッドの係合部をそれぞれ対応させて、複数のインクジェットヘッドを走査方向に並置する形式のプリンタにおいて、1つのヘッド位置決め面に当接させた1つのヘッドを基準として、他のヘッド位置決め面に、必要とする枚数の調整板を介在させて他のヘッドを当接させることにより、1つの上記ヘッドの印刷ドット位置に対して他の上記ヘッドの印刷ドット位置を、紙送り方向に重ねるようにしたことを特徴とするインクジェットプリンタにおけるヘッド位置調整方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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