説明

インクジェットヘッドおよびその製造方法

【課題】簡素な製造工程により、安価な基板と製造装置により、高い寸法精度のインクジェットヘッドを安価に提供する。
【解決手段】以下の製造工程によりインクジェットヘッドを製造する。(1―1)は基板101を示す。(1―2)で、基板101に孔102を形成する。(1−3)で、孔102にダミー材103を充填する。(1−4)で基板上に下電極104、圧電材料105、上電極106を成膜する。(105)で、下電極104、圧電材料105、上電極106を所定のパターンの圧電素子107を孔102に対応する位置に形成する。(1−6)でダミー材103を除去する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はインクジェットヘッドに関する。更に詳しくは、インク液滴を電気信号により制御して形成し、選択的に記録媒体に付着させるインクジェットヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】近年、プリンタはパソコンの普及と歩調を合わせて急激に普及している。なかでもインクジェットプリンタは高速印字、低騒音、高印字品位、カラー印刷の対応が良好であり、かつ安価に市場に提供できる等の利点により、他の印字方式を抑えて、急速に発展している。
【0003】ここで図3をもとにインクジェットヘッドの構造を説明する。図3に於いて、301はノズル、302はノズルプレート、303は壁、304はキャビテイ、305は振動板、307は圧電素子、309はリザーバを示す。310は供給口、311はインクタンク口を示す。第4図はインクジェットヘッドの部分斜視図である。複数のキャビテイ304が平行に一定間隔をもって配列している。キャビテイ304の一面には、圧電素子307が配接された振動板305が形成されている。圧電素子307は図示されていない信号回路より電気信号が送られ、変形する。キャビテイ304は壁303をを介して両面に振動板305とノズルプレート302が形成されている。ノズルプレート302にはそれぞれのキャビテイ304に対応するノズル301が形成されている。個々のキャビテイ304の配列方向と垂直の位置にリザーバ309が形成されている。キャビテイ304とリザーバ309は細長いスリット状の供給口310により接続される。リザーバ309は、リザーバ309上にある図示されていないインクタンクとインクタンク口311により接続されている。
【0004】次にインク滴の吐出動作を第5図をもとに説明する。図4は図3の点線部A−Bでの断面図である。図4に於いて、401はノズル、402はノズルプレート、403は壁、404はキャビテイ、405は振動板、407は圧電素子、409はリザーバ、410は供給口、421インク滴、422はインクの流れ、431は変形後の振動板、432は変形後の圧電素子を示す。圧電素子407は、図示されていない信号回路より電気信号が送られると、収縮する。それにより変形後の圧電素子432、変形後の振動板431の形状に変形する。するとキャビテイ404に体積が減少し圧力が発生する。するとキャビテイ404内に満たされたインクはノズルプレート402に設けられたノズル401と供給口410へ移動しようとする。供給口410側にはリザーバ409があり、インクに満たされている。そのためノズル401側により移動していく。結果として、ノズル401から、インク滴421となって吐出する。この際のインクの流れは、図4のインクの流れ422の矢印に示すようなものとなる。また図示されないインクタンクはリザーバ409の上に位置する。インク滴が吐出した後にインクタンクよりインクがリザーバに補充される。
【0005】次にインクジェットヘッドの従来技術の製造方法の一例を図5をもとに説明する。図5で工程は(5−1)、(5−2)、(5−3)、(5−4)、(5−5)の順に進む。図5に於いて501は基板、502は下電極、503は圧電材料、504は上電極、505圧電素子、506はキャビテイ、507はノズルプレート、508はノズルを示す。(5−1)基板501を示す。基板501はシリコンを用いる。(5−2)基板501上に下電極502を成膜し、この上に圧電材料503を成膜する。さらにその上に上電極504を成膜すえる。(5−3)これらをフォトリソエッチング法等により所望のパターンの圧電素子505を作成する。(5−4)基板501の圧電素子505の反対面に圧電素子505の位置に対応するようにキャビテイ506を作成する。これはフォトリソエッチング法によりおこなわれる。(5−5)ノズル508が形成されたノズルプレート507を、基板501のキャビテイ506面に張り合わせる。さらにこの後に図示していないインクタンク、駆動回路等の部品を組み立てインクジェトヘッドを作製する。
【0006】(5−4)の基板の圧電素子の反対面側にフォトリソ法によるキャビテイを形成する工程を図6をもとに詳しく説明する。図6の工程は(6−1)、(6−2)、(6−3)、(6−4)、(6−5)の順に進む。図6に於いて601は基板、602は圧電素子、603は上電極、604圧電材料、605は下電極、606はレジスト膜、607はレジストパターン、608はキャビテイを示す。(6−1)は図5の(5−2)の圧電素子602を形成された基板601である。(6−2)基板601の圧電素子602の反対面レジスト膜606を形成する。(6−3)レジスト膜606に所定のレジストパターン607を形成する。レジストはこの後のエッチング工程に保つものであればよく、ネガ及びポジのいずれのレジストを使用できる。レジストパターン607の形成は、レジスト膜606に所定のパターンが形成されたマスクごしに、露光機により露光し、現像して形成する。この際に重要なことは圧電素子602とレジストパターン607の位置ズレをいかに少なくするかである。それゆえ露光機は通常の片面露光機でなく、一度に基板の表面のパターンにあわせて裏面を露光できる両面露光機を用いる。圧電素子602のパターンに合せて、マスクの位置を調整する。(6−4)基板601をエッチングする。エッチングは強アルカリによるウエットエッチングあるいは、反応性ガスを用いるドライエッチングによる。エッチングは圧電素子602の下電極606面まで行なう。次に(6−5)で残ったレジストパターン607を酸素によるアッシング等の方法で除去する。これによりキャビテイ608を形成する
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上述の従来技術には幾つかの課題がある。以下にこれらを述べる。
【0008】まず第一の課題として基板として用いるシリコン基板自体が高価なことである。シリコン基板自体はもともと半導体を形成する為に開発がなされたものである。したがって複雑な工程をへて、高い工程管理をなされ、製造される。その為、高価である。従来技術ではこのシリコン基板をキャビテイを形成するという構造物の材料として扱っていた。この理由は、シリコンが他の材料よりも容易にエッチングできる。
【0009】また(6−3)の振動板ののパターンの位置にあわせてキャビテイを形成することによる課題がある。第二の課題として圧電素子のパターンとキャビテイのパターンの位置ズレがおきやすい。これは両面露光機で露光する際にキャビテイのマスクを基板の反対面にある、直接見ることのできない圧電素子のパターンに合わせることに起因する。この作業はミラー等の光学系を用いておこなわれるが、直接見ることのできる面のパターンに合せるよりも、位置ズレは大きくなってしまう。位置ズレが大きくなるとインクジェットヘッドの吐出特性が当然のごとくばらつく。また高密度化を追求すると圧電素子、キャビテイとも微小化する。位置ズレがあると自ずから高密度化もこれに制約されてしまう。さらに第三の課題として製造コストが高価になる。両面露光機は通常の片面露光機に対してはるかに高価である。さらにこの作業自体が複雑な為かなりの時間を要してしまう。
【0010】また(6−4)の基板のエッチングにも課題がある。第四の課題としてエッチングレートのばらつきがある。これはエッチングレートのばらつきが基板内で大きいと。あるものは圧電素子までエッチングし、またあるものはシリコンが残ってしまう。シリコン基板が残っていると図4の振動板が厚くなり、電気信号を加えても変形量が小さくなり、吐出特性が劣化する。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明のインクジェットヘッドの製造方法は(工程1)基板に孔を形成する工程、(工程2)孔にダミ−材を充填する工程、(工程3)基板に圧力素子を形成する工程、(工程4)孔に充填されたダミー材を除去する工程からなることを特徴とする。また前記(工程4)のダミー材を溶媒に溶解することにより除去することを特徴とする。また前記(工程4)のダミー材を熱融解することにより除去することを特徴とするまた前記(工程4)のダミー材を酸素により分解することにより除去することを特徴。本発明のインクジェットヘッドは前述の製造方法により製造されることを特徴とする。本発明のインクジェットプリンタは前述のインクジェットヘッドを搭載したことを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】以下に図1を用いて本発明の請求項1および請求項5記載の発明をを説明する。図1は上から下の順で製造の工程を示す。図1に於いて101は基板、102は孔、103はダミー材、104下電極、105は圧電材料、106は上電極、107は圧電素子、108はキャビテイを示す。(1―1)は基板101を示す。基板101は特に限定されるものではなく、金属、セラミックス、プラスチック等を用いることができる。(1―2)で、基板101に孔102を形成する。孔102の形成方法は特に限定されるものではなく機械加工、エッチング、レーザ加工等の方法を使用できる。また孔102のついた基板を成型法により形成することもできる。プラスチックの射出成形、ロストワックスによる金属成型等の方法で可能である。これらの成型法は精密な型さえできれば、もっとも量産性に富んだ方法であるといえる。(1−3)で、孔102にダミー材103を充填する。ダミー材103は後で容易に除去できるものであり、かつ後の成膜工程で安定であるものである。(1−4)で基板上に下電極104、圧電材料105、上電極106を成膜する。(105)で、下電極104、圧電材料105、上電極106を所定のパターンの圧電素子107を孔102に対応する位置に形成する。(1−6)でダミー材103を除去する。この後に図示しないが、ノズルプレート等の部品を組み立て、インクジェットヘッドを製造する。
【0013】次にこのインクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンタの一例を図2を用い、本発明の請求項6記載の本発明を説明する。図2はインクジェットプリンタの部分断面を含む斜視図である。図2において、201は筐体、202はプラテン、203はガイドロール203、204はインクジェットヘッド、205は紙、206は紙を示す。インクジェットプリンタは筐体201にプラテン202、ガイドロール203、ガイドロール203に接続するインクジェットヘッド204、その他の部品から構成される。紙205は矢印1の方向にプリンタに供給される。プラテン202により、ガイドロール203の下に搬送され、紙206に位置する。ガイドロール203にはインクジェットヘッド204が接続される。インクジェットヘッド204はガイドロール203を矢印3の方向に移動できる。インクジェットヘッド204はパソコンからの信号により任意の位置に移動し、インクを吐出する。紙206はプラテン202により矢印2の方向に搬送され、これらの動きにより紙206に印字される。
【0014】
【実施例】以下に具体的実施例をあげ、詳しく説明する。
【0015】まず請求項2記載の本発明を説明する。
【0016】(1)厚さ0.2mmのガラス基板にエッチング法により幅0.05mm、長さ1mmの孔を複数形成する。形成方法はフォトリソエッチング法により行なった。
【0017】(2)次にこの孔にポリエステル樹脂を溶融し、ダミー材を充填する。
【0018】(3)次に下電極としてPtを0.0002mm成膜した。成膜方法はスパッタ法により行なった。
【0019】(4)次に圧電材料を0.005mm成膜した。圧電材料はチタン酸ジルコン酸鉛を用いた。成膜はチタン酸ジルコン酸鉛のゾル液を作成し、これを塗布、乾燥した。
【0020】(5)次に上電極としてプラチナを0.0001mm成膜した。成膜方法はスパッタ法により行なった。
【0021】(6)次に上電極と圧電材料から幅0.03mm、長さ0.9mmの圧電素子を形成した。これはフォトリソエッチング法により作成した。
【0022】(7)次にダミー材の高分子樹脂を除去した。これは高分子樹脂を溶解する溶剤(例えばキシレン等の芳香族溶剤)をダミー材に吹きつけ、除去した。
【0023】(8)以下ノズルプレート等の他の部品と組み立てインクジェットヘッドを作成した。
【0024】次に請求項3記載の本発明を説明する。
【0025】(1)厚さ0.2mmのガラス基板にエッチング法により幅0.05mm、長さ1mmの孔を複数形成する。形成方法はフォトリソエッチング法により行なった。
【0026】(2)次にこの孔に融点100℃の飽和炭化水素を溶融し、ダミー材を充填する。
【0027】(3)次に下電極としてPtを0.0002mm成膜した。成膜方法はスパッタ法により行なった。
【0028】(4)次に圧電材料を0.005mm成膜した。圧電材料はチタン酸ジルコン酸鉛を用いた。成膜はチタン酸ジルコン酸鉛のゾル液を作成し、これを塗布、乾燥した。
【0029】(5)次に上電極としてプラチナを0.0001mm成膜した。成膜方法はスパッタ法により行なった。
【0030】(6)次に上電極と圧電材料から幅0.03mm、長さ0.9mmの圧電素子を形成した。これはフォトリソエッチング法により作成した。
【0031】(7)次にダミー材の飽和炭化水素を除去した。これは120℃の加熱をすることにより融解し、除去した。
【0032】(8)以下ノズルプレート等の他の部品と組み立てインクジェットヘッドを作成した(9)このインクジェットヘッドの吐出特性を測定したところ、5m/秒のインク滴の吐出速度で安定に吐出した。
【0033】次に請求項4記載の本発明を説明する。
【0034】(1)厚さ0.2mmのガラス基板にエッチング法により幅0.05mm、長さ1mmの孔を複数形成する。形成方法はフォトリソエッチング法により行なった。
【0035】(2)次にこの孔に融点100℃の飽和炭化水素を溶融し、ダミー材を充填する。
【0036】(3)次に下電極としてPtを0.0002mm成膜した。成膜方法はスパッタ法により行なった。
【0037】(4)次に圧電材料を0.005mm成膜した。圧電材料はチタン酸ジルコン酸鉛を用いた。成膜はチタン酸ジルコン酸鉛のゾル液を作成し、これを塗布、乾燥した。
【0038】(5)次に上電極としてプラチナを0.0001mm成膜した。成膜方法はスパッタ法により行なった。
【0039】(6)次に上電極と圧電材料から幅0.03mm、長さ0.9mmの圧電素子を形成した。これはフォトリソエッチング法により作成した。
【0040】(7)次にダミー材の飽和炭化水素を除去した。これは酸素プラズマをダミー材吹きつけることにより、飽和炭化水素が分解し、水及び二酸化炭素が生成され、除去した。
【0041】(8)以下ノズルプレート等の他の部品と組み立てインクジェットヘッドを作成した。
【0042】(9)このインクジェットヘッドの吐出特性を測定したところ、5m/秒のインク滴の吐出速度で安定に吐出した。
【0043】
【発明の効果】以上述べたように、本発明のインクジェットヘッドの発明方法によれば、簡単な工程で製造でき、かつ高価な製造装置を使用せず、また寸法精度管理も容易に行なえるので安価で吐出特性の安定したインクジェットヘッドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項1記載の本発明のインクジェットヘッドの製造方法の一実施例を示す工程図。
【図2】請求項6記載の本発明のインクジェットプリンタの一例を示す工程図。
【図3】インクジェットヘッドの一例を示す斜視図。
【図4】インクジェットヘッドの吐出動作を説明する断面図。
【図5】従来のインクジェットヘッドの製造方法を示す工程図。
【図6】図5の(5−3)の工程を詳細に説明する工程図。
【符号の説明】
101.基板
102.孔
103.ダミー材
104.下電極
105.圧電材料
106.上電極
107.圧電素子
108.キャビテイ
201.筐体
202.プラテン
203.ガイドロール
204.インクジェットヘッド
205.紙
206.紙
301.ノズル
302.ノズルプレート
303.壁
304.キャビテイ
305.振動板
307.圧電素子
309.リザーバ
310.供給口
311.インクタンク口
401.ノズル
402.ノズルプレート
403.壁
404.キャビテイ
405.振動板
407.圧電素子
409.リザーバ
410.供給口
421.インク滴
422.インクの流れ
431.変形後の振動板
432.変形後の圧電素子
501.基板
502.下電極
503.圧電材料
504.上電極
505.圧電素子
506.キャビテイ
507.ノズルプレート
508.ノズル
601.基板
602.圧電素子
603.上電極
604.圧電材料
605.下電極
606.レジスト膜
607.レジストパターン
608.キャビテイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 インクを満たしたキャビテイ内に、電気信号により圧力を発生する圧力素子と、インク滴を吐出するノズルを設けられたインクジェットヘッドにおいて、基板に孔を形成する工程(工程1)、孔にダミ−材を充填する工程(工程2)
基板に圧力素子を形成する工程(工程3)
孔に充填されたダミー材を除去する工程(工程4)によりインクジェットヘッドを製造することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】 前記(工程4)のダミー材を溶媒に溶解することにより除去することを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項3】 前記(工程4)のダミー材を熱融解することにより除去することを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】 前記(工程4)のダミー材を酸素により分解することにより除去することを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項5】 請求項1記載のインクジェットヘッドの製造方法により製造されることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項6】 請求項5載のインクジェットヘッドを搭載したことを特徴とするインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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