説明

インクジェットヘッドの製造方法

【目的】 印字品質に優れたインクジェットヘッドを安価に製造する方法を提供すること。
【構成】 ノズルプレート61は、射出成形とレーザ加工とによって製造される。射出成形行程は、テーパ部63となるべき有底孔68を有し、オリフィス部62を有しないノズルプレート素材をポリフェニレンサルファイドで形成する行程である。射出成形行程の次には、エキシマレーザにより薄肉部66にレーザビームを照射して薄肉部66を除去し、オリフィス部62を形成する。このようにして製造したノズルプレート61がヘッド本体の先端面にエポキシ樹脂等の接着剤で接着されることにより、インクジェットヘッドが得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、インクジェットヘッドの製造方法に関し、特にインク噴射孔の形成法に関するものである
【0002】
【従来の技術】従来、ドロップオンデマンド方式のインクジェットヘッドとして、インク吐出エネルギー発生素子を用いたインクジェットヘッドが提案されている。例えば、インク吐出エネルギー発生素子としての圧電セラミックスの変形によってインク室の容積を変化させることにより、その容積減少時にインク室内のインクをインク噴射孔から液滴(インク滴と称する)として噴射し、容積増大時にインク導入口からインク室内にインクを導入するようにしたものがある。そして、所定の印字データに従って所定のインク噴射孔からインク滴を噴射させることにより、インクジェットヘッドと対向する紙面上等に所望の文字,図形等の画像を形成するものである。
【0003】この種のインクジェットヘッドの一つに、例えば特開昭63─247051号公報に記載されているものがある。また、国際出願公開WO91/17051号公報には、インクジェットヘッドのインク噴射孔を高集積化するために、複数個のインク噴射孔から成るインク噴射孔列を2列形成したインクジェットヘッドが記載されている。
【0004】特開昭63─247051号公報に記載されているインクジェットヘッドを図14ないし図17に基づいて説明する。このインクジェットヘッド1は、図1414に示すように、圧電セラミックスプレート2とカバープレート3とノズルプレート31と基板41とから構成されている。
【0005】圧電セラミックスプレート2は、図16に矢印5で示す方向に分極処理が施され、薄い円板状のダイヤモンドブレード等により切削加工され、複数の溝8が形成されている。また、その溝8の間には側壁11が形成される。溝8は同じ深さであり、かつ平行であるが、圧電セラミックスプレート2の後端面15に近づくにつれて徐々に浅くなっており、後端面15付近には浅溝16が形成されている。そして、溝8の内面には、その両側面の上半分に金属電極13がスパッタリング等によって形成されている。また、浅溝16の内面には、その側面及び底面に金属電極9がスパッタリング等によって形成されている。
【0006】カバープレート3は、ガラス材料、セラミックス材料または樹脂材料等から形成されている。そして、カバープレート3には、研削または切削加工等によって、インク導入口21及びマニホールド22が形成されている。そして、圧電セラミックスプレート2の溝8加工側の面とカバープレート3のマニホールド22加工側の面とがエポキシ系接着剤等によって接着され、ヘッド本体26が構成される。したがって、ヘッド本体26には、溝8の上面が覆われて横方向に互いに間隔を有する複数のインク室12が構成される。そのインク室12は長方形断面の細長い形状であり、すべてのインク室12には、インクが充填される。
【0007】そして、圧電セラミックスプレート2の溝8の加工側に対して反対側の面には、基板41が、エポキシ系接着剤等によって接着されている。その基板41には各インク室の位置に対応した位置に導電層パターン42が形成されている。その導電層パターン42と浅溝16の底面の金属電極9とは、ワイヤボンディングによって導線43で接続されている。さらに、圧電セラミックスプレート2およびカバープレート3の先端面、すなわちヘッド本体26の先端面4に、各インク室12の位置に対応した位置にインク噴射孔32が設けられたノズルプレート31が接着されている。
【0008】導電層パターン42には、図15に示すように、LSIチップ51が接続されている。このLSIチップ51にはまた、クロックライン52、データライン53、電圧ライン54及びアースライン55が接続されている。LSIチップ51は、クロックライン52から供給される連続したクロックパルスに基づいて、データライン53上に現れるデータに応じて、どのインク噴射孔32からインク滴の噴射を行うべきかを判断する。そして、駆動するインク室12内の金属電極13に導通する導電層パターン42に、電圧ライン54の電圧Vを印加する。また、駆動するインク室12以外の金属電極13に導通する導電層パターン42にはアースライン55の電圧0Vを印加する。
【0009】このインクジェットヘッド1は次のように作動する。LSIチップ51が、所定のデータに従って、インクジェットヘッド1のインク室12bからインクの噴出を行なうと判断すると、金属電極13eと13fとに正の駆動電圧Vが印加され、金属電極13dと13gとが接地される。すると、図17に示すように、側壁11bには矢印14bの方向の駆動電界が発生し、側壁11cには矢印14cの方向の駆動電界が発生する。すると、駆動電界方向14b及び14cは分極方向5とが直交しているため、側壁11b及び11cは、圧電厚みすべり効果により、この場合、インク室12bの内部方向に急速に変形する。この変形によってインク室12bの容積が減少してインク圧力が急速に増大し、圧力波が発生して、インク室12bに連通するインク噴射孔32からインク滴が噴射される。また、駆動電圧Vの印加が停止されると、側壁11b及び11cが変形前の位置に徐々に戻るためインク室12b内のインク圧力が徐々に低下する。すると、インク導入口21からマニホールド22を通してインク室12b内にインクが供給される。ただし、上記の動作は従来装置の基本動作に過ぎず、製品として具体化される場合には、まず、駆動電圧をインク室の容積が増大する方向に印加し、インク室12bにインクを供給した後に、駆動電圧の印加を停止して元の状態(図16参照)に復帰させ、インク滴を噴射させるなど、種々の形態で動作させられる。
【0010】さて、この種のインクジェットヘッドのノズルプレート31の形成方法に関しては、シート状のプレートにプレス加工、ドリル加工などにより穴開け加工を施す方法のほか、特開昭61─32761号公報には、フィルム状のノズルプレート31に、高エネルギビーム(例えばエキシマレーザビーム)によりインク噴射孔32を形成する方法が開示されている。図18にその概略を示す。
【0011】また、特開平3─297651号公報には、ニッケル電鋳や射出成形によるノズルプレートの形成方法が開示されている。ここで、ノズルプレートを射出成形法により成形した従来例を、図19ないし図22を用いて説明する。図20(a)、図20(b)あるいは図22(a)、図22(b)に示す様な金型を用いて、射出成形法によりノズルプレートを作成すると、図1919あるいは図21のような、オリフィス部72あるいはオリフィス部82が貫通した状態のノズルプレート71あるいは81を得ることが出来る。尚、図20(b)および図22(b)は図20(a)および図22(a)のA−A断面を示すものであり、図中、170、180は金型コアであり、山部173、183はノズルプレート71、81のテーパ部73、83に対応する。そして、射出成形時、射出成形材料はゲート100から導入され、金型の空間に充填され、ノズルプレートが射出成形される。
【0012】また、特開平1─108056号公報にはエキシマレーザを用い、エキシマレーザビームとノズルプレートの素材となる板とを相対的に揺動運動させることにより、テーパ状のノズルを形成する方法が開示されている。
【0013】尚、前記ノズルプレートは、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリカーボネイト等の樹脂材料あるいはステンレス、ニッケル、アルミニウム、クロムなどの金属材料によって形成される。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開平3─297651号公報に開示されているニッケル電鋳による方法では製造コストが高く、大量生産性に劣るという問題があった。
【0015】また、フィルム状ノズルプレート31にエキシマレーザビームにより穴開け加工すると、図18に示すように、インク噴射孔32内の体積が小さいため、インク噴射孔32内にエアーが侵入し、良好なインク噴射が行えず、印字品質が低下するという問題があった。また、インク噴射孔32内の体積を大きくするためには、シートを厚くする必要があるが、そうすると、レーザ加工性が問題となる。
【0016】一方、射出形成、プレス加工、ドリル加工による方法ではノズルのインク吐出側にバリが生じ、インクの吐出方向が曲げられ、印字品質が悪いという問題があった。例えば、射出成形法においては、ノズル内の体積を大きくできるが、図19あるいは図21に示すようなバリ75、85がオリフィス部72、82に生じる。そして、インク噴射試験を行ったところ、図19あるいは図21に示す形状のノズルプレート71、81の場合はインク噴射方向が曲げられたり、安定的なインク吐出が行われなかった。
【0017】また、特開平1─108056号公報に開示されているエキシマレーザビームとノズルプレート素材とを相対的な揺動運動させる方法においては、テーパ状のノズルを形成することができるので、インク噴射孔32内の体積を大きくすることはできるものの、処理時間が長く大量生産性に劣るという問題があった。
【0018】それに対して、特開昭63−31758号公報には、インク噴射ノズルとインク室とを共通の圧電部材により一体成形することが記載されている。このインクジェッドヘッドにおいては、インク噴射ノズルの内部に、テーパ部とオリフィス部とを有するインク噴射孔が形成されている。テーパ部はインク室側からインク噴射孔の先端側に向かうに従って直径が漸減しており、オリフィス部はテーパ部からインク噴射ノズルの先端面に到るストレートの貫通孔であるが、このオリフィス部をレーザ加工することが記載されている。
【0019】このようにテーパ部を有する有底孔の底壁にレーザ加工により貫通孔を形成すれば、前記テーパ部とオリフィス部とを同時に射出成形する場合のようにバリが生じることがなく、安定したインクの噴射が可能になる。しかし、インク噴射ノズルとインク室とを一体成形することは困難であり、特に前記特開昭63─247051号公報に記載されている形式のインクジェットヘッドにおいては殆ど不可能である。
【0020】請求項1,7,8の発明は、以上の事情を背景として、印字品質に優れたインクジェットヘッドを安価に製造する方法を提供することを課題としてなされたものである。また、請求項2ないし6の発明は、請求項1の発明に係る製造方法におけるインクジェットヘッドの歩留りを向上させることを課題としてなされたものである。請求項9の発明は、請求項1の発明に係る製造方法において生産能率を向上させることを課題としてなされたのである。請求項10ないし13の発明は、請求項1の発明に係る製造方法によって高集積度のインク噴射孔を備えたインクジェットヘッドの製造を可能にすることを課題としてなされたものである。
【0021】
【課題を解決するための手段】そして、請求項1の発明の特徴は、インクが充填される複数のインク室を有するヘッド本体と、そのヘッド本体の先端面に接合され、前記インク室の各々に対応する複数のインク噴射孔を有するノズルプレートとを備えたインクジェットヘッドの製造方法であって、(a) 前記インク室側から離れるに従って断面積が漸減する面積漸減部を有する有底孔を複数個設けたノズルプレート素材を射出成形により成形する工程と、(b) 前記有底孔の底壁をレーザ加工により貫通させ、前記インク噴射孔を形成してノズルプレートとする工程と、(c) そのノズルプレートを前記ヘッド本体の先端面に接合する工程とを含むことにある。なお、有底孔の底壁を貫通させる工程は、ノズルプレートをヘッド本体に接合する工程の前に行っても、後に行ってもよい。
【0022】請求項2の発明の特徴は、前記ノズルプレート素材を前記有底孔の前記インク室側の開口が前記インク室の有底孔側の開口より小さくなるように成形することにあり、請求項3の発明の特徴は、前記有底孔の前記インク室側の開口の寸法と前記インク室の有底孔側の開口の寸法との差である開口寸法差を、前記接合工程における組付公差に基づいて決定することにある。請求項2の発明に係るインクジェットヘッドの製造方法において、製品の歩留りを向上させるために、開口寸法差は4μm以上とすることが望ましく、8μm以上とすることがさらに望ましく、12μm以上とするとが特に望ましい。請求項3の発明において、インクジェットヘッドの歩留りを向上させる観点からは、予想される最大の組付誤差の発生にもかかわらずインク噴射孔に向いた肩面が生じないように開口寸法差を決定することが望ましいが、反面、インク噴射孔内の容積確保,インクの流れの良好さ等の観点からは、開口寸法差が小さいことが望ましい。したがって、組付誤差を小さくし、最大組付誤差発生時でもインク噴射孔向きの肩面が生じないように開口寸法差を決定することが理想的であるが、組付誤差を十分小さくできない場合には、ある程度の比率でインク噴射孔向きの肩面が生じることを許容して開口面積差を決定することも止むを得ない。
【0023】前記レーザ加工は、レーザビームを有底孔の開口側から照射して行うことが望ましく、エキシマレーザにより行うことが望ましい。また、レーザ加工は、前記複数個の有底孔の各々に対して個別にレーザビームを照射して行うことも、前記ノズルプレート素材の前記有底孔の少なくとも一部の複数個を含む領域を覆う太さのレーザビームを照射することにより行うことも可能である。後者の場合には必ず複数個の有底孔の底壁を一挙に貫通させるととなるが、前者の場合には、各有底孔に対する個別のレーザビームの照射を順次行って底壁を1度に1つずつ貫通させることも、また、複数個の有底孔に対する照射を同時に行ってそれら複数個の有底孔の底壁を一挙に貫通させることも可能である。
【0024】インク噴射孔の高い集積化を図るために、射出成形によりノズルプレート素材を成形する際に、複数個の有底孔を2列以上形成することが望ましい。その場合には、有底孔を形成するための有底孔形成突起を設けた複数の金型コアを用いて射出成形を行うことが望ましく、複数個の金型コアを使用する場合には、各金型コアの有底孔形成突起を設けた面の隣接金型コア側の縁にリブを形成しておくことが望ましい。複数の金型コアを用いて射出成形を行う場合にはまた、ノズルプレート素材の、複数の金型の合わせ部に対応する部分にレーザビームを照射することが望ましい。
【0025】
【作用】請求項1記載の発明に従って、面積漸減部を有する有底孔を備えたノズルプレート素材を射出成形法により成形し、その有底孔の底壁をレーザ加工により貫通させて、面積漸減部とオリフィス部とを含むインク噴射孔を備えたノズルプレートとすれば、インク噴射孔内の容積を大きくすることができ、また、従来の製造方法による場合のように、インク噴射孔の先端開口周縁やインク噴射孔内にバリが生じることを回避することができる。
【0026】また、請求項2〜6記載の各発明に従って、ヘッド本体のインク室の出口開口をノズルプレートのインク噴射孔の入口開口より大きくすれば、ノズルプレートのヘッド本体に対する組付誤差の存在にもかかわらず、両者の合わせ部にインク噴射孔側に向いた肩面が生じる確率を低くし、あるいは実質的に0にすることができる。
【0027】前記レーザ加工を請求項7記載の発明に従って有底孔の開口側から行えば、良好な形状のインク噴射孔を形成することができる。レーザビームにより有底孔の底壁を貫通させると、オリフィス部が形成されるのであるが、このオリフィス部は厳密にはストレートな孔にはならず、レーザビームの入射側(面積漸減部側)から出射側に向かって断面積が僅かに漸減する孔となる。また、レーザビームを有底孔の底壁より細いものとすれば、オリフィス部の入口周辺にインク室向きの肩面が形成されることとなるが、この肩面の内周縁に丸みが付く。したがって、もしレーザビームを有底孔の開口側とは反対側、すなわちノズルプレート素材の外側面側から照射すれば、オリフィス部は出口側に向かって面積が漸増することとなり、かつ、出口の内周縁に丸みが付くこととなる。このような形状のインク噴射孔からインクを噴射させるより、上記形状のインク噴射孔から噴射させる方が良いことが実験によって確かめられた。
【0028】レーザ加工を請求項8記載の発明に従ってエキシマレーザによって行えば、有底孔の底壁を良好に貫通させることができる。例えば、能率良く貫通させることができるとともに、底壁を貫通させた部分に寸法精度の高いオリフィス部を形成することができるのである。請求項9記載の発明においては、レーザビームの底壁に対する照射面の大きさおよび形状を選択することにより、底壁全体を貫通させることも、底壁の一部を底壁と相似の形状あるいは底壁とは異なる形状で貫通させることも可能である。また、1個ずつの有底孔の底壁を順次貫通させることも、複数個の有底孔の底壁の各々にレーザビームを同時に照射してそれらの底壁を一挙に貫通させることも可能である。請求項10の発明においては、ノズルプレート素材の全有底孔を覆う太さのレーザビームを照射することも、全有底孔の一部である複数個の有底孔を覆う太さのレーザビームを照射する動作を複数回繰り返すことも可能である。
【0029】請求項11記載の発明に従って、ノズルプレートに複数列の有底孔を形成すればインク噴射孔の集積度の高いインクジェットヘッドを製造することができ、その場合に、請求項12の発明に従って、有底孔形成突起を設けた2個以上の金型コアを用いれば、列ごとの有底孔を互いに半ピッチあるいはそれより小さい量だけずらせて形成することが容易となって、設備コストを低減させることができる。そして、複数の金型コアを使用する場合に、請求項13の発明に従って、隣接する金型コアの境界(合わせ部)にリブを形成しておけば、それらリブによりノズルプレート素材の内側面(ヘッド本体と接合される面)凹部が形成され、その凹部の底面に金型コア間に生じるバリが生じる。また、請求項14の発明に従って、成形されたノズルプレート素材の金型コアの境界に対応する部分にレーザビームを照射すれば、その部分に生じたバリを簡単に除去することができる。
【0030】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、請求項1の発明によれば、インクジェットヘッドのインク噴射のための所要エネルギーを低く保ったまま、インク噴射孔内の容積を大きくすることができ、ノズル内への気泡の侵入を防止でき、この点から印字品質を改善することができる。また、インク噴射孔内部の形状をインクの流動抵抗が良好な形状に容易に成形することができ、さらに、インク噴射孔の出口近傍にバリが生じないので、インク滴の飛翔方向が曲げられず、この点からも印字品質を改善することができる。
【0031】また、請求項2〜6の発明によれば、気泡が滞留するインクジェットヘッドが生じることによる歩留りの低下を回避することができる。請求項7の発明によれば、出口に向かって断面積が減少し、あるいは少なくとも出口に向かって断面積が増大する部分がないインク噴射孔を形成することができ、インク噴射孔の出口の内周縁に丸みが付くことを回避することができる。それによって、インク噴射特性の良好なインクジェットヘッドが得られる。請求項8の発明によれば、ノズルプレートの生産能率を向上させることによってインクジェットヘッドの製造コストを低減させることができる。請求項9の発明によれば、底壁全体を貫通させることも、底壁の一部を貫通させることもできる。特に、金型加工の都合で有底孔の底壁が四角形とされる場合にその底壁の円形部分を貫通させれば、噴射特性の良好なインクジェットヘッドを得ることができる。また、1個ずつの有底孔の底壁を順次貫通させる場合には、複数個の底壁を同時に貫通させる場合に比較してレーザの出力が小さくてよいため、安価な小形レーザの使用により設備コストを低減させることができる。請求項10の発明によれば、複数個の有底孔の底壁全体を一挙に貫通させることができ、かつ、太いレーザビームを個々の有底孔に個別に照射するためのマスクを省略することができる。
【0032】請求項11の発明によれば、インク噴射孔の集積度の高いインクジェットヘッドを製造することができ、請求項12の発明によれば、金型コアの製作が容易になり、設備コストを低減させることができる。請求項13の発明のよれば、バリがノズルプレートの凹部の底面に生じるため、ノズルプレートをヘッド本体に組み付ける場合にバリが邪魔になることがなく、バリ取り作業が不要になって製造コストの低減を図り得る。請求項14の発明によれば、金型コアの境界に生じたバリを容易に除去することができる。特に、請求項13の発明に従ってノズルプレート素材の内側面に凹部を形成しない場合には、バリがノズルプレートのヘッド本体への密着を妨げるためにそれの除去が重要になり、殊に実益が大きい。
【0033】
【発明の望ましい態様】以下、発明の望ましい実施態様を列挙するとともに、必要に応じて関連した説明を行う。
(1)前記有底孔の底壁を貫通させる工程を、レーザビームを有底孔の開口側から底壁の内面に向かって、その底壁の面積より大きい断面積のレーザビームを照射することによって行うことを特徴とする請求項1〜14のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。この態様によれば、有底孔の底壁全体が除去される。また、有底孔の面積漸減部の内周面、すなわち傾斜面にレーザビームが照射されても、レーザビームが垂直に照射されず、エネルギ密度が低いために加工は行われず、インク噴射孔のオリフィス部の位置および寸法は有底孔の位置および寸法で決まる。そして、有底孔の位置および寸法は金型の加工精度により決まり、この加工精度を上げることは比較的容易であるため、オリフィス部の形成位置および寸法の精度を容易に向上させることができる。
【0034】(2)前記有底孔の底壁を貫通させる工程を、その底壁の面積より断面積が小さく断面形状が円形のレーザビームを照射することによって行うことを特徴とする請求項1〜14のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。この態様によれば、有底孔の底壁の中央部を円形に除去することができる。インク噴射孔の出射側の部分の断面形状としては円形が最も好ましいことが確認されているため、この態様によれば噴射特性の良好なインクジェットヘッドが得られる。なお、この態様においては、インク噴射孔内にインク室向きの肩面が形成されることになるが、この肩面はインク室向きなので気泡の滞留は生じ難い。したがって、この肩面はさほど大きいものでない限りは噴射特性には影響しない。この態様においては、レーザビームを有底孔の開口側から照射することも、反対側から照射することも可能である。したがって、ノズルプレートをヘッド本体に接着した後にレーザ加工を行う場合には、この態様が望ましい。ノズルプレートをヘッド本体に接合した後に、有底孔の開口側からレーザビームを照射しようとすれば、ヘッド本体の形状をレーザビームの通過を許容する形状とすることが必要であり、例えば、インク室のノズルプレート側とは反対側の端部(前記従来のインクジェットヘッド1においては、インク室の高さを漸減させる部分や浅溝16を形成している部分)をヘッド本体とは別体に製造して、後に接合する等の対策が必要になるからである。なお、インク室の高さを漸減させる部分や浅溝16を形成している部分をヘッド本体とは別体に製造する場合には、これらの部分と前記マニホールド22やインク導入口21を形成している部分とを一体に製造し、後にヘッド本体に接合してもよい。
【0035】(3)前記有底孔の面積漸減部を、幅が一定で高さが漸減する形状に形成することを特徴とする請求項1〜14,態様1,2のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。この態様によれば、インク室およびインク噴射孔を小さいピッチで形成しつつインク噴射孔内の容積を大きくすることが容易となる。なお、本明細書において、幅および高さは、それぞれ有底孔(インク噴射孔)の列に平行な方向および直角な方向を意味し、インクジェットヘッドの使用姿勢を規定する用語ではない。例えば、インクジェットヘッドは、インク噴射孔の列の方向(幅方向)が上下方向となる姿勢で使用されることも、インク噴射孔が下向きとなる姿勢で使用されることもあるのである。
【0036】(4)前記有底孔の底壁の厚さを30〜200μmとすることを特徴とする請求項1〜14,態様1〜3のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。この態様によれば、ノズルプレート素材の射出成形の容易さと、レーザビームによる有底孔の底壁除去の容易さとの両方を享受することができる。底壁をあまり薄くすると、有底孔形成突起の頂面と金型キャビティ面との隙間が狭くなり、成形用材料が充填され難くなって成形が困難になり、底壁を厚くすれば、成形は容易になるが、レーザビームによる除去に時間がかかるようになるのであるが、上記範囲とすればこれらの両方をバランスよく回避することができるのである。
【0037】(5)前記有底孔の開口の高さを幅より大きくするとともに、前記ノズルプレートの前記ヘッド本体への接合時に、両者の高さ方向の位置決めは、ノズルプレートとヘッド本体との一方に設けた位置決め突起を他方に係合させることにより行い、幅方向の位置決めは両者の相対位置の検出とその検出結果に基づく位置補正とによって行うことを特徴とする請求項1〜14,態様1〜4のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。この態様によれば、ノズルプレートとヘッド本体との相対位置の検出とその検出結果に基づく位置補正とを高さ方向について行う必要がなくなり、両者の接合が容易となる。
【0038】(6)前記有底孔をそれの全体が面積漸減部となるように前記ノズルプレート素材の射出成形を行うことを特徴とする請求項1〜14,態様1〜5のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。この態様によれば、射出成形時におけるノズルプレート素材の有底孔形成突起からの離脱が容易である上、インクジェットヘッド使用時におけるインク噴射孔内のインクの流れを良好にすることができる。しかし、有底孔を面積漸減部と面積不変部との両方を含むものとすることも可能である。面積不変部を形成する場合には、それを面積漸減部より底壁側に形成することも、開口側に形成することも、両側に形成することも可能である。
【0039】(7)前記有底孔の面積漸減部を、有底孔の底面に向かうに従って面積の減少率が小さくなる形状に形成することを特徴とする請求項1〜14,態様1〜6のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。この態様によれば、インク噴射孔内におけるインクの流れを良好にすることができる。面積漸減部を面積が直線的に減少するテーパ状とする場合には、面積漸減部とオリフィス部(あるいは有底孔の面積不変部)とを連続して形成すると両者の境界に角部が生じてインクの流れの妨げになるが、本態様によれば、この角部の発生を抑制することができ、有底孔の底壁近傍において面積減少率が0になるようにすれば、角部が全く生じないようにすることができるのである。
【0040】
【発明の補足的説明】なお、付言すれば、請求項10の発明の特徴は、請求項1〜9の発明の特徴とは関係なく実施することが可能であり、その場合の構成要件は例えば次のようになる。
(8)インクが充填される複数のインク室と、それらインク室の先端開口を閉塞する端壁に前記複数のインク室の各々に対応して形成された複数のインク噴射孔とを有するインクジェットヘッドの製造方法であって、前記端壁に、その端壁の前記インク室側の内側面から反対側の外側面に向かうに従って断面積が漸減する面積漸減部を備えた有底孔を、前記複数のインク室に対応して形成する工程と、前記複数の有底孔の少なくとも一部の複数個の底壁に、レーザビームを同時に照射してそれら底壁を貫通するオリフィス部を形成する工程とを含むことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。この発明の実施に当たっては、生産能率向上の観点からは有底孔のすべてにレーザビームを同時に照射することが望ましいが、使用するレーザの能力等によっては、有底孔を複数のグループに分け、各グループごとに同時にレーザビームを照射することも可能である。上記端壁はインク室を形成する部分と当初から一体に形成しても、別体に形成した後に接合して一体化してもよい。
【0041】また、請求項2の発明の特徴は、請求項1の発明の特徴とは関係なく実施することが可能であり、その場合の構成要件は例えば次のようになる。
(9)インクが充填される複数のインク室を有するヘッド本体と、そのヘッド本体の先端面に接合され、前記インク室の各々に対応する複数のインク噴射孔を有するノズルプレートとを備えたインクジェットヘッドの製造方法であって、前記インク噴射孔の前記インク室側の開口を前記インク室のインク噴射孔側の開口より小さくすることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【0042】さらに付言すれば、請求項1および態様9の発明は、それぞれインクジェットヘッド自体の発明として捉えることも可能であり、その場合の構成要件は例えば次のようになる。
(10)インクが充填される複数のインク室と、それらインク室の一端面に接合され、インク室の各々に対応する複数のインク噴射孔を有するノズルプレートとを備えたインクジェットヘッドであって、前記インク噴射孔が、前記ノズルプレートの前記インク室側の内側面から反対側の外側面に向かうに従って断面積が漸減する面積漸減部と、一端がその面積漸減部に連通する一方他端が前記外側面に開口するオリフィス部とを含み、かつ、前記面積漸減部が前記ノズルプレートの射出成形時に形成され、前記オリフィス部がレーザ加工によって形成されたことを特徴とするインクジェットヘッド。
(11)インクが充填される複数のインク室と、それらインク室の一端面に接合され、インク室の各々に対応する複数のインク噴射孔を有するノズルプレートとを備えたインクジェットヘッドであって、前記インク噴射孔の前記インク室側の開口の寸法が前記インク室の前記インク噴射孔側の開口の寸法より小さいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【0043】
【実施例】本発明の実施例である製造方法によって製造されるインクジェットヘッドを図1に示す。なお、前記従来のインクジェットヘッドと同一部位、および均等部位には同一符号を付け、その説明を省略する。本インクジェットヘッド1は、圧電セラミックスプレート2と、2枚のカバープレート3と、ノズルプレート61と、2枚の基板41とを備えている。
【0044】圧電セラミックスプレート2は分極処理が施され、上下両面に薄い円板状のダイヤモンドブレード等による切削加工によって、複数の溝8が形成され、各溝8の間に残った部分が側壁11を構成している。また、溝8は、圧電セラミックスプレート2の上面側と下面側とで1/2ピッチだけずれている。各溝8の深さは485μm、幅は85μmであり、側壁11の厚さは85μmである。圧電セラミックスプレート2のこれ以外の構成、ならびにカバープレート3および基板41の構成は前記従来のインクジェットヘッド1と実質的に同じである。
【0045】圧電セラミックスプレート2とカバープレート3とはエポキシ系接着剤により図2に示すように接着されてヘッド本体26を構成している。そのヘッド本体26の先端面にノズルプレート61が同じくエポキシ系接着剤により接着されており、ノズルプレート61の前記インク室12の各々に対応する位置にはインク噴射孔64が形成されている。インク噴射孔64は、テーパ部63とオリフィス部62とを備えている。テーパ部63は、幅は一定であるが、高さがインク室12側からオリフィス部62側に向かって直線的に減少しており、インク室12から遠ざかるにつれて断面積が直線的に減少している。テーパ部63が面積漸減部となっているのである。
【0046】オリフィス部62の内のり寸法は、幅も高さも60μmである。テーパ部63は、オリフィス部62側の開口の内のり寸法はオリフィス部62と同じであるが、インク室12側の開口の寸法は、幅が60μm、高さが400μmである。インク室12の幅および高さは前述のようにそれぞれ85μm、485μmであるから、インク噴射孔64のインク室側の開口(以下、インク噴射孔入口と略称する)は、インク室12のインク噴射孔側の開口(以下、インク室出口と略称する)に比較して、幅で25μm、高さで85μm小さくされていることになる。
【0047】ノズルプレート61には、図1のY方向の位置決めのための一対の位置決め突起67が設けられている。また、ノズルプレート61の圧電セラミックスプレート2側の中央部には、インク噴射孔64の列方向に延びる溝状の凹部65が形成されている。
【0048】本インクジェットヘッド1の製造方法の特徴は、ノズルプレート61の製造方法と組付方法とにある。まず、ノズルプレート61の製造方法について説明する。ノズルプレート61は、射出成形とレーザ加工とによって製造される。射出成形工程は、テーパ部63となるべき有底孔68を有し、オリフィス部62を有しないノズルプレート素材をポリフェニレンサルファイドで成形する工程である。この射出成形に使用される金型の概略を図3(a),(b)に示す。図3において、有底孔形成突起として山部103は有底孔68を形成するためのものであり、厚さ(山部103が並んでいる方向の寸法)は一定であるが、幅(山部103が並んでいる方向に直角な方向の寸法)が裾から頂上に向かうに従って直線的に減少し、正面形状が台形を成している。
【0049】射出成形時には、射出成形材料はゲート100から導入され、金型キャビティに充填される。これによって、インク噴射孔64のテーパ部63となるべき有底孔68が2列形成されたノズルプレート素材50が射出成形される。なお、型板106と各山部103との間に薄肉部66が形成され、この薄肉部66が有底孔68の底壁を構成することになる。
【0050】上記金型の一構成要素である金型コア110,111を図4に示す。これら金型コア110,111に形成される山部103の位置は、インク噴射孔64のピッチの1/2だけ互いにオフセットしている。そのため、これら2列の山部103を備えた金型コアを一体で製造することは困難である。山部103は、金型コア素材に、切削加工,研削加工,ワイヤカッティング等により、断面形状が台形であって複数の山部103が連続した長手形状の突部を形成し、その突部にそれを直角に横切る多数の溝を加工することによって形成するのであるが、この溝は薄い円板状のダイヤモンドブレード等による切削によって形成するのであり、1/2ピッチずれた2列の山部103を備えた金型コアを製作する場合、ダイヤモンドブレードが一方の突部に溝を形成する際に他方の突部と干渉するため、溝の形成ができないのである。そこで、金型コア110,111を別個に製作し、射出成形時にはこれら金型コア110,111を一体的に組み合わせて使用できるようにされているのである。
【0051】金型コア110,111には、山部103が形成された面の、両金型コア110,111の合わせ面側の縁に沿って長手形状の突部であるリブ105がそれぞれ形成され、これらリブ105は前記ノズルプレート61の凹部65に対応する寸法とされている。これら金型コア110,111を使用してノズルプレート61を成形すれば、リブ105間の隙間に射出成形材料が侵入してバリが発生するが、このバリはノズルプレート61の凹部65の底面に形成されるため、ノズルプレート61を圧電セラミックスプレート2およびカバープレート3の先端面4に接着する際の邪魔にはならない。凹部65はバリが接着の邪魔になることを回避するための逃がし溝なのである。
【0052】ノズルプレート61の素材の射出成形の次には、エキシマレーザにより薄肉部66にレーザビームを照射して薄肉部66を除去し、オリフィス部62を形成する。このレーザ加工は、ノズルプレート61をヘッド本体26の先端面4に接着した後に行うことも可能である。しかしながら、本実施例においては、レーザビーム照射の都合上、接着前にレーザ加工が行われる。何故ならば、後述するように、レーザビームは有底孔68側から照射するのであるため、ノズルプレート61をヘッド本体26に接着した後には、ヘッド本体26が邪魔になってレーザビームの照射が不可能であるからである。
【0053】図5(a)に示すように、ノズルプレート素材50の有底孔68が形成された側から、エキシマレーザによってすべての有底孔68を覆い得る太さのレーザビームを照射する。すると、各薄肉部66の全体が除去され、有底孔68が図5(b)に示すように貫通孔となり、薄肉部66の存在していた部分にオリフィス部62が形成され、有底孔68がテーパ部63となって、ノズルプレート61が得られる。なお、有底孔68の傾斜した内周面にはレーザビーム91が垂直には照射されないため、単位面積当たりのエネルギが薄肉部66に比較して低くなり、加工されない。また、レーザビーム91の焦点が薄肉部66の高さに合わせてあるため、圧電セラミックスプレート2およびカバープレート3と接着される面も加工されない。ノズルプレート素材50およびエキシマレーザがそのように設計されているのである。
【0054】しかし、現実には、レーザビームの焦点のばらつきやレーザ出力の大きさ等の関係で、上記加工されないはずの部分が加工されてしまうこともあり得る。そのために、ノズルプレート素材50の内側面のレーザビームの照射された部分とされない部分との間に段差が生じ、ノズルプレート61をヘッド本体26に接着する際に両者が密着しない場合には、レーザビーム91をノズルプレート素材50のヘッド本体26に密着する内側面以上の断面積を有するものとすればよい。このようにすれば、ノズルプレート素材50の内側面全体が同様に加工され、段差が生じないのである。ノズルプレート素材50の薄肉部66以外の部分も加工される場合には、凹部65の底面に生じたバリも除去される。このバリは前述のようにノズルプレート61のヘッド本体26への密着を妨げないため、実用上は残っても差し支えないのであるが、薄肉部66の除去と同時に除去されるのであればその方がよい。また、バリが除去されるのであれば、バリが邪魔になってノズルプレート61とヘッド本体26との間に隙間が生じる恐れがなくなるので、凹部65の形成を省略することも可能であり、金型コア110,111の加工が容易になるとともに、凹部65の形成によりノズルプレート素材50が反る恐れがなくなって好都合である。
【0055】薄肉部66の除去は、図6(a)に示すように、オリフィス部62の断面形状と相似形の開口を有するマスクを通過したレーザビーム92をすべての有底孔68に同時に照射することによって行うことも可能である。この際、レーザビーム92の太さを有底孔68の底面(薄肉部66)より若干太くすれば、薄肉部66全体が除去される。
【0056】以上のような穴開け法によれば、オリフィス部62の断面形状と相似形の開口を有するマスクを通過したレーザビームと、各薄肉部66との相対位置を正確に合わせる必要がなく、インク噴射孔64の出口部となるオリフィス部62の位置精度が、加工精度を高めることが容易な金型コア110,111の精度で保証される。
【0057】しかし、この場合には、オリフィス部62の出射側(出口)の形状が方形になる。出口が方形であってもインク噴射は支障なく行われるが、インク噴射孔の出口の形状は円形が好ましいとされている。したがって、上記穴開け法に代えて、断面形状が円形で有底穴68の底面より細いレーザビーム92を照射し、図6(b)に示すようなノズルプレート61を製造してもよい。この場合には、テーパ部63とオリフィス部62との境界に肩面が生じるが、この肩面はインク室12向きなので、後述するように気泡の滞留が生じ難く、小さければインクの噴射に支障はない。また、有底孔68の開口側からレーザビーム92を照射する場合には、この肩面の内周縁が多少加工されて丸みが付くため、インクの流れが良好となる。一方、薄肉部66の貫通によって形成されるオリフィス部62は厳密にはストレートな孔にならず、出口側に向かって断面積が僅かに漸減する孔となる。そして、出口の内周縁には丸みが生じない。
【0058】この形状のオリフィス部62を備えたインク噴射孔からはインクの噴射が特に良好に行われることが実験によって確認されている。すなわち、60μm×60μmの正方形の薄肉部66の中央部に断面形状が円形で直径50μmのオリフィス部62を形成したノズルプレート61と、比較のために反対側、すなわちノズルプレート素材50の有底孔68が形成されていない側の面から直径50μmのオリフィス部62を形成したノズルプレートとを試作して、インク噴射試験を行ったところ、前者の方が良好にインクの噴射が行われることが確認されたのである。
【0059】出口側に向かって断面積が漸減するとともに、出口の内周縁には丸みを有しないオリフィス部62を備えたインク噴射孔64からインクが噴射される場合には、インク滴のノズルプレート61からの離れがよく、インク噴射孔64から真っ直ぐに飛翔する。また、インク噴射後にインク室12内に負圧が生じた際、インク噴射孔64の出口から気泡が侵入し難く、万一侵入した場合にはインクにより押し出され易い。それに対して、比較例においては、オリフィス部62が出口側に向かって断面積が漸増するとともに、出口の内周縁には丸みを有する孔となり、この場合には、インク滴の後端部がオリフィス部62の出口の丸みに沿って広がり、インク噴射孔64から真っ直ぐに飛翔し難くなる。また、出口から気泡が侵入し易く、一端侵入した気泡が排出され難いのである。
【0060】ただし、レーザビーム92の太さを有底孔68の底面より細くする場合には、レーザビーム92の照射位置の精度によってインク噴射孔64の出口の位置精度が決まるため、有底孔68の開口あるいはノズルプレート素材50の内側面あるいは外側面に設けた位置決め専用のマークをCCDカメラ等の撮像装置で撮像し、開口やマークの位置を検出してその検出結果に基づいてレーザビーム92とノズルプレート素材50との相対位置決めを行うことが望ましい。位置決め専用のマークを位置決め突起(ノズルプレート素材50の内側面に形成する場合はヘッド本体26から外れた位置に形成するか、ヘッド本体26の対応する位置に位置決め突起の嵌入を許す凹部を形成することが必要),位置決め孔等とすればノズルプレート素材50の成形時に成形可能であり、好都合である。また、ノズルプレート素材50の材料とは異なる色,反射率等光学的特性を有する平面マークとすることも可能である。
【0061】なお、本実施例のように、有底孔68の底面より細いレーザビーム92を照射して薄肉部66の中央部を貫通させる場合に、もし、レーザビーム92と有底孔68との相対位置誤差によりレーザビーム92の一部が有底孔68の傾斜した内周面にかかれば、薄肉部66の照射面が小さくなり、形成されるオリフィス部62の断面積が正規の値より小さくなる。また、オリフィス部62の断面形状も正規の形状から外れる。オリフィス部62の断面形状が円形である場合には、円の一部が欠けて非対称形になってしまうのである。このような事態が生じれば、インク滴の寸法が正規の値より小さくなり、かつ、噴射方向も乱れる(インク噴射孔64の軸方向に真っ直ぐ噴射されなくなる)ため、所期のドットが形成されない。したがって、レーザビーム92は全体が薄肉部66に照射されるようにすべきであるが、レーザビーム92と有底孔68との相対位置誤差を全くなくすことはできない。そのため、有底孔68の底面より細いレーザビーム92を照射する場合にはこのレーザビーム92は有底孔68の底面より、レーザビーム92と有底孔68との相対位置公差分だけ細くすることが望ましい。
【0062】一方、レーザビーム92を有底孔68の底面より細くすれば、前述のようにテーパ部63とオリフィス部62との境界に肩面が生じる。この肩面はインク室12向きなので、後述するように気泡が滞留し難いのであるが、それでもあまり大きければ、テーパ部63がインク噴射孔64の一部として機能しなくなり、前記特開昭61−32761号公報に記載のように、フィルム状のノズルプレートにインク噴射孔を形成する場合と同様に気泡が侵入し、滞留し易くなる問題が生じる。したがって、内部に滞留する気泡のうち噴射に影響する気泡の直径が30〜40μm程度であることを考慮し、テーパ部63とオリフィス部62との境界に生じる肩面の最大部における寸法を20μm以下とすることが望ましく、15μm以下とすることがさらに望ましい。
【0063】前記レーザビーム91の太さを、複数の有底孔68を覆うがすべての有底孔68は覆わない太さとし、覆われる範囲の有底孔68の薄肉部66を除去し、その後、レーザビーム91とノズルプレート素材50とを相対移動させて再び別の複数の有底孔68の薄肉部66を除去するという作動を必要回数繰り返して、ノズルプレート素材50をノズルプレート61にすることも可能である。レーザビーム92に関しても同様に、複数個ずつの有底孔68を同時に貫通させる動作を繰り返すことも可能である。これらいずれの場合にも、レーザビームをバリにも照射してそれを除去することが可能である。
【0064】さらに、レーザビーム91を1個の有底孔68のみを覆う太さとし、あるいはマスクを1本のレーザビーム92のみの通過を許容するものとして、1個ずつの有底孔68を順次貫通させることも可能である。この場合には、レーザビーム91,92の焦点をノズルプレート素材50の内側面にも合わせ得るようにし、そのレーザビーム91,92を金型コア110,111の合わせ部に生じたバリに照射しつつバリに沿って移動させ、バリを確実に除去することができるまで照射を繰り返せばよい。
【0065】以上のようにして製造したノズルプレート61をヘッド本体26の先端面4にエポキシ樹脂等の接着剤で接着すればインクジェットヘッド1が得られるが、インク室出口の開口寸法がインク噴射孔入口のそれと等しい場合には、接着工程において位置ずれが生じると、図7に示すように、両者の合わせ部に段差が生じ、この段差部にインク噴射孔64から侵入した気泡が滞留し易い。この段差によって生じる肩面が、肩面69aのようにインク室12側を向いている場合には、矢印70aで示すインクの流れに伴って気泡Aが排出され易いため問題はないが、肩面69bのようにインク噴射孔64に向いている場合には、気泡Bが矢印70bで示すインクの流れに伴って排出され難い。
【0066】そして、気泡が滞留すれば、インク室12の容積増減に伴って気泡が収縮,膨張を繰り返し、インクジェットヘッド1がインクを正常に噴射し得なくなる。そこで、インク噴射孔64の出口側から吸引する等により、インク室12およびインク噴射孔64内にインクの流れを生じさせ、その流れと共に気泡を排除する回復作業が行われるのであるが、この場合にもインク噴射孔64に向いている肩面69bの近傍に滞留している気泡Bは排出され難い。それどころか、肩面69bの下流側に生じる渦によって気泡Bの滞留が助けられる。
【0067】そのため、従来は、インク室12とインク噴射孔64との境に一定限度以上の段差が生じたインクジェットヘッド1は、出荷前の噴射テストに合格せず、不良品として排除され、歩留りが悪化してコスト上昇の一因となっていた。それに対して、本実施例においては、前述のようにインク室出口の開口寸法がインク噴射孔入口のそれより大きくされているため、両者の合わせ部に相当のずれが生じても肩面はインク室12に向いて形成され、インク噴射孔64に向いた肩面が形成されることはない。
【0068】前述のように、インク室出口の幅はインク噴射孔入口の幅より25μm大きくされているのみであるため、幅方向、すなわち図1のX方向において正規の位置から±12.5μmより大きい組付誤差が生じれば、インク噴射孔64に向いた肩面が形成されてしまう。そこで、本実施例においては、ノズルプレート61の圧電セラミックスプレート2への接着時には、CCDカメラを使用してインク室出口とインク噴射孔入口との撮像を行うなどにより、両者の相対位置誤差を検出し、相対位置誤差が許容範囲内になるように相対位置の補正をロボットにより行った上で接着が行われる。
【0069】それに対して、インク室出口の高さはインク吐出孔入口の高さより85μm大きくされているため、高さ方向、すなわち図1のY方向において正規の位置から±42.5μmのずれが生じなければインク噴射孔64に向いた肩面が形成されることはない。そこで、高さ方向に関しては、前記一対の位置決め突起67による相対位置決めが行われる。一対の位置決め突起67間の間隔が、圧電セラミックスプレート2と2枚のカバープレート3との厚さの和より僅かに大きいのみとされており、両面にカバープレート3が接着された圧電セラミックスプレート2、すなわちヘッド本体26が一対の位置決め突起67間に嵌入させられることによって、圧電セラミックスプレート2とノズルプレート61との相対位置決めが行われるようになっているのである。
【0070】インク噴射孔64に向いた肩面が形成されないようにするためには、インク室出口の開口寸法とインク噴射孔入口の開口寸法との差を大きくすることが望ましいのであるが、開口寸法差を大きくすれば、インク噴射孔64のテーパ部63の開き角が小さくなり、断面積が小さくなって気泡が侵入し易くなる。また、インク室12に向いた肩面であってもインクの流れの妨げにはなるため、小さい方がよい。したがって、これらの観点からはインク室出口とインク噴射孔入口との開口寸法差は小さくすることが望ましい。
【0071】所要開口寸法差の大きさは、圧電セラミックスプレート2とノズルプレート61とを接着する際の組付公差の大きさによって決まる。そこで、前述のようにCCDカメラを使用して両者の相対位置決めを行いつつ接着を行った場合の組付誤差を測定した。なお、この試験においてはインク室の幅方向のみではなく、高さ方向についてもCCDカメラによる位置決めを行った。インク噴射孔出口の幅が85μm、高さが485μmであるノズルプレート61を70個製作し、インク室出口の幅が85μm、高さが485μmであるヘッド本体26に、CCDカメラによる位置決めを行いつつ接着し、70個のインクジェットヘッド1を製作した。
【0072】これらインクジェットヘッド1を1個ずつスケール付X−Y移動テーブル上に載置し、光学顕微鏡によりインク室出口とインク噴射孔入口との幅方向および高さ方向における最大ずれ量を組付誤差として測定した。測定結果を図8に示す。この図においては、最大ずれ量が、それが幅方向に生じた場合も高さ方向に生じた場合も区別しないで一緒に示されており、図中の符号は、最大ずれ量が幅方向に生じた場合は正が右、負が左を示し、高さ方向に生じた場合は正が上、負が下を示す。図8からノズルプレート61の圧電セラミッスプレート2に対する組付誤差は±6μm以内であることが判る。換言すれば、インク室出口の開口寸法をインク噴射孔入口のそれより12μm大きくしておけば、ノズルプレート61の組付誤差によってインク噴射孔64に向いた肩面が生じることはないのである。
【0073】このことを判り易くグラフにしたのが図9である。すなわち、図8の最大ずれ量分布に基づいて、横軸に開口寸法差を、縦軸に歩留りを取って両者の関係を示したのである。図9から明らかなように、歩留り80%を望むのであれば開口寸法差を4μm以上とすべきであり、90%以上ならば8μm以上、100%ならば12μm以上とすべきである。
【0074】この結果を確認するために、幅85μm,高さ485μmのインク室出口を有するヘッド本体26と、幅70μm、高さ470μmのインク噴射孔入口を有するノズルプレート61とを50個ずつ製作した。すなわち、図10に示す開口寸法差H−hを15μmとしたのであり、これらヘッド本体26とノズルプレート61とをCCDカメラで位置決めしつつ接着してインクジェットヘッド1を製作し、インク噴射テストを行った。その結果、歩留りは98%であった。100%にならなかったの他のプロセスに原因があると推測される。これに対し、比較例として開口寸法差H−hが2μmのインクジェットヘッド1について同様に歩留りを調べたが、その結果は56%であり、開口寸法差が歩留りに大きな影響を与えることが確かめられた。
【0075】なお付言すれば、上記試験においては、ノズルプレート61とヘッド本体26との位置決めをCCDカメラを使用して高精度で行ったため、組付誤差の一種としての最大ずれ量が±6μmで済み、開口寸法差の望ましい範囲が、前記の通り4μm以上,8μm以上,12μm以上となるのであるが、CCDカメラによる位置決めより精度の悪い位置決め方法を採用する場合には、望ましい開口寸法差の範囲がもっと大きくなる。しかし、いずれの場合も組付精度を測定し、その測定精度と所望の歩留りとに基づいて適正な開口寸法差の範囲を決定することができる。
【0076】本発明の製造方法により製造された別のインクジェットヘッド1を図11,図12に示す。このインクジェットヘッド1においても、上記実施例と同様に、圧電セラミックスプレート2とセラミックス製のカバープレート3とがエポキシ系接着剤により接着されることにより、溝8の上面が覆われて横方向に互いに間隔を有する複数のインク室12が形成されている。そして、圧電セラミックスプレート2とカバープレート3とがエポキシ系接着剤で接着されて成るヘッド本体26の先端面4にノズルプレート61が接着されることによりインクジェットヘッド1が形成されている。ノズルプレート61の各インク室12の位置に対応する位置にはインク噴射孔64が1列設けられており、両端部には一対の位置決め突起67が設けられている。ノズルプレート61に形成されているインク噴射孔64はテーパ部63及びオリフィス部62から成っている。
【0077】ノズルプレート61は、テーパ部63を有し、オリフィス部62を有しないノズルプレート素材50を、樹脂材料であるポリフェニレンサルファイドで射出成形した後、オリフィス部62をエキシマレーザにより穴開け加工して製造される。このようにして製造されたインクジェットヘッド1のノズルプレート61は図12R>2に示すように、インク噴射孔64内の体積が大きくできるとともに、オリフィス部62にバリが生じない。
【0078】そして、本実施例の製造方法と従来の製造方法との比較のために、インクジェットヘッドによるインク噴射試験を行ったところ、従来の製造方法により射出成形時に貫通したオリフィス部72あるいはオリフィス部82を形成した図19あるいは図21に示す形状のノズルプレート71,81の場合は、インク噴射方向が曲げられたり、安定的なインク噴射が行われなかったが、本実施例方法で製造した図12に示す形状のノズルプレート61の場合は、バリ75,バリ85がないので、インク噴射方向が曲げられることなく、インク噴射が良好に行われ、良好な印字品質を示した。
【0079】また、図18に示すようなフィルム状のシートにエキシマレーザによりインク噴射孔32を形成したノズルプレート31を備えたインクジェットヘッドによるインク噴射試験も行ったが、インク噴射孔32内の体積が小さいため、頻繁にノズル内にエアーが侵入し、インク噴射が不良となった。それに対して、図12に示す形状のノズルプレート61を用いた場合は、エアーに侵入がなく、良好なインク噴射が行われた。
【0080】なお、オリフィス部62の長さは、流体力学上、短い方がインク噴射の点では好ましいが、射出成形性の点では流動抵抗が大きくなるので、好ましくない。両者の特性を鑑みてオリフィス部62の長さは30μm〜200μmが好適である。また、本実施例においては、図11から明らかなように、位置決め突起67がノズルプレート61の左右端に設けられて、左右方向(インク噴射孔64の列に並行な方向)の位置決めを行うようにされているが、図1に示した前記実施例と同様にノズルプレート61の上下端に設けて、上下方向(インク噴射孔64の列に直角な方向)の位置決めを行うようにしてもよい。
【0081】本発明の他の実施例によって製造されたインクジェットヘッドを図13に示す。このインクジェットヘッド1はノズルプレート61に形成されたインク噴射孔124の形状に特徴を有している。インク噴射孔124がオリフィス部122と面積漸減部とを有することは前記実施例と同様であり、オリフィス部122がエキシマレーザにより貫通させたものであることは同じであるが、面積漸減部の形状が異なっているのである。前記実施例においては、金型コア110の山部103の幅が裾から頂上に向かうに従って直線的に減少し、正面形状が台形を成していたのに対し、本実施例においては山部の幅の減少率が裾から頂上に向かうに従って漸減し、正面形状が逆朝顔形にされている。そのため、インク噴射孔124の面積漸減部が、先端に向かって高さの減少率が漸減する逆朝顔形部123となっている。この逆朝顔形部123により、上記実施例のテーパ部63よりもさらにインクの流動が良好となる。この様な形状のインク噴射孔124は、従来技術で述べたような、エキシマレーザを用い、レーザビームとノズルプレート素材とを相対的な揺動運動させる方法で製造することは困難であるが、本発明の方法によれば容易に大量生産することができる。
【0082】以上説明した方法で製造し、組み付けるノズルプレート61の材料としては、ポリフェニレンサルファイドのほか、液晶ポリマー、ポリアセタール、ポリフェニルサルホン、ポリフタルアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルホン、ポリカーボネートなどの樹脂材料を用いることができる。
【0083】また、セラミックス粉末、あるいは金属粉末の射出成形技術を用いてノズルプレート61を製造することもできる。例えば、セラミックス粉末、あるいは金属粉末を樹脂材料などのバインダーと混練し、金型に射出成形し、射出成形体を得た後、脱脂処理し樹脂材料を射出成形体より除去し、脱脂体を得る。さらに、脱脂体を焼結炉に挿入して焼結処理を行う。この焼結処理により脱脂体は収縮し、金型寸法よりも約10〜30%程度小さくなる。そのため、金型側の有底孔寸法およびピッチは製品よりも収縮分を見込んで大きくしておく必要がある。焼結処理の後、エキシマレーザによりオリフィス部72を貫通させる。セラミックス粉末および金属粉末は、例えば、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素、炭化珪素、ステンレスなどを用いることができる。
【0084】なお、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲での変形は可能である。例えば、図12および図13の実施例においては、ヘッド本体26のインク室出口開口とノズルプレートのインク噴射孔入口開口とが同じ大きさにされていたが、図10に示すように前者を後者より大きくすることも可能であり、それによってインクジェットヘッドの歩留り向上を図ることができる。
【0085】また、上記実施例においては、インク噴射孔64、124は、面積漸減部としてそれぞれテーパ部63,逆朝顔形部123を有していたが、これらの寸法,開き角,内のり寸法減少率等は、気泡の侵入が防止できる範囲で任意に選定可能であり、また、これら以外の形状とすることも可能である。さらに、面積漸減部においては高さが漸減させられていたが、それと共にあるいはそれに代えて幅を漸減させることも可能である。オリフィス部や面積漸減部の断面形状も上記実施例における正方形や矩形等の四角形に限定されず、円形,楕円形等他の断面形状の採用も可能である。有底孔形成突起の断面形状を、例えば裾の部分では矩形とし、頂部では円形とするというように徐々に変化させ、有底孔の断面形状を徐変させることも可能である。このような有底孔形成突起は、例えば、前述の機械加工によって山部103を形成した後、レーザ加工等によって矩形の角部の丸みを頂部側ほど大きくする等によって製作することができる。インク噴射孔64,124を3列以上形成することも可能である。
【0086】上記実施例においては、ノズルプレート61とヘッド本体26との接合が接着剤を用いた接着により行われたが、ノズルプレート61とヘッド本体26との一方に他方の嵌合を許容する嵌合穴を形成し、機械的な圧入や温度差を利用した締まり嵌めしたり、あるいはビス等の締結具を用いて固定する等、他の接合手段を採用することも可能である。また、有底孔の底壁を貫通させるためにエキシマレーザが使用されたが、他のレーザ、例えばYAGレーザの波長を4分の1にしたもの等の使用も可能である。
【0087】また、本発明におけるノズルプレートの製造工程,組付工程は、ピエゾ素子を用いたタイプや、いわゆるバブルジェットタイプ等の様々なインクジェットヘッドの製造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例方法により製造されるインクジェットヘッドの構成の概略を示す分解斜視図である。
【図2】上記インクジェットヘッドの先端部を示す断面図である。
【図3】上記インクジェットヘッドのノズルプレートを成形するための射出成形金型を示す断面図である。
【図4】上記射出成形金型の一構成要素である金型コアを示す斜視図である。
【図5】上記射出成形金型により成形されたノズルプレート素材に対するレーザ加工を説明するための断面図である。
【図6】上記レーザ加工とは別のレーザ加工を説明するための断面図である。
【図7】ノズルプレートのヘッド本体に対する組付誤差によってインク噴射異常が発生する理由を説明するための断面図である。
【図8】ノズルプレートのヘッド本体に対する組付誤差を測定した結果を示すグラフである。
【図9】ノズルプレートのインク噴射孔入口とヘッド本体のインク室出口との開口寸法差とインクジェットヘッドの歩留りとの関係を示すグラフである。
【図10】上記開口寸法差を示す断面図である。
【図11】本発明の別の実施例方法により製造されるインクジェットヘッドを示す分解斜視図である。
【図12】図11のインクジェットヘッドの先端部の断面図である。
【図13】本発明のさらに別の実施例方法により製造されるインクジェットヘッドの先端部の断面図である。
【図14】従来のインクジェットヘッドを示す分解斜視図である。
【図15】従来のインクジェットヘッドの制御部を示す概念図である。
【図16】従来のインクジェットヘッドの断面図である。
【図17】従来のインクジェットヘッドの作動状態を示す説明図である。
【図18】従来の別のインクジェットヘッドを示す断面図である。
【図19】従来のインクジェットヘッドにおける不都合を説明するための断面図である。
【図20】図19のインクジェットヘッドのノズルプレートを成形するための射出成形金型を示す断面図である。
【図21】従来のインクジェットヘッドにおける別の不都合を説明するための断面図である。
【図22】図21のインクジェットヘッドのノズルプレートを成形するための射出成形金型を示す断面図である。
【符号の説明】
2 圧電セラミックスプレート
3 カバープレート
12 インク室
26 ヘッド本体
61 ノズルプレート
62 オリフィス部
63 テーパ部
64 インク噴射孔
65 凹部
66 薄肉部
67 位置決め突起
68 有底孔
91,92 レーザビーム
103 山部
105 リブ
110,111 金型コア
122 オリフィス部
123 逆朝顔形部
124 インク噴射孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】 インクが充填される複数のインク室を有するヘッド本体と、そのヘッド本体の先端面に接合され、前記インク室の各々に対応する複数のインク噴射孔を有するノズルプレートとを備えたインクジェットヘッドの製造方法であって、前記インク室側から離れるに従って断面積が漸減する面積漸減部を有する有底孔を複数個設けたノズルプレート素材を射出成形により成形する工程と、前記有底孔の底壁をレーザ加工により貫通させ、前記インク噴射孔を形成してノズルプレートとする工程と、そのノズルプレートまたは前記ノズルプレート素材を前記ヘッド本体の先端面に接合する工程とを含むことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】 前記有底孔の前記インク室側の開口が前記インク室の有底孔側の開口より小さくなる寸法で前記ノズルプレート素材の射出成形を行うことを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項3】 前記有底孔の前記インク室側の開口の寸法と前記インク室の有底孔側の開口の寸法との差である開口寸法差を、前記接合工程における組付公差に基づいて決定することを特徴とする請求項2記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】 前記開口寸法差を4μm以上とすることを特徴とする請求項3記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項5】 前記開口寸法差を8μm以上とすることを特徴とする請求項4記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】 前記開口寸法差を12μm以上とすることを特徴とする請求項5記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項7】 前記レーザ加工を、レーザビームを有底孔の開口側から照射して行うことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項8】 前記レーザ加工をエキシマレーザにより行うことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項9】 前記レーザ加工を、前記複数個の有底孔の各々に対して個別にレーザビームを照射することにより行うことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項10】 前記レーザ加工を、前記ノズルプレート素材の前記有底孔の少なくとも一部の複数個を含む領域を覆う太さのレーザビームを照射することにより行い、それら複数個の有底孔の底壁を一挙に貫通させることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項11】 前記射出成形により、前記面積漸減部を有する複数個の有底孔を2列以上形成することを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項12】 前記ノズルプレート素材を、前記有底孔を形成するための複数の有底孔形成突起をそれぞれ設けた2個以上の金型コアを含む金型による射出成形によって成形することを特徴とする請求項11記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項13】 前記金型コアの前記有底孔形成突起を設けた面の、隣接する金型コア同士の合わせ面との交線に沿った部分にリブを形成し、これらリブにより前記ノズルプレート素材の内側面に凹部を形成することを特徴とする請求項12記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項14】 前記ノズルプレート素材の、前記金型コアの合わせ部に対応する部分にレーザビームを照射して、前記合わせ部により形成されたバリを除去することを特徴とする請求項12または13に記載のインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【図10】
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【図16】
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【図6】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図17】
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【図13】
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【図14】
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【図18】
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【図19】
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【図21】
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【図20】
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【図22】
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