説明

インクジェットヘッド

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、インク滴を飛翔させて記録媒体上に画像を形成するインクジェット記録装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】インクジェットヘッドにおいて記録画像の品質を上げるには、インク滴の飛翔力が大きいこと、すべてのノズルにおいてばらつきのない安定した吐出であることが必要である。
【0003】高い飛翔力を得るために一端を枠体に固定し、ノズルに対向する端部を自由端として弾性振動板に接合するように構成したインクジェットヘッドが特開昭60−90770号公報に報告されている。
【0004】このインクジェットヘッドは圧電素子に駆動信号を印加して弾性振動板を変形させ、加圧室の容積変化によるインクの動圧により、該加圧室より連通するノズルからインク滴を吐出させている。
【0005】また特開平3−284950号公報では、振動板の圧電素子と加圧室隔壁との接合部以外の部分の実質的なヤング率を変えることにより、隣接する圧力室間の相互干渉を防ぎインク滴の吐出効率向上及び吐出安定化を図る方法が報告されている。図6に示すインクジェットヘッドにおいて、図中、15は隔壁、16は上板、17は加圧室、4は振動板、18は電極、9は圧電素子、19は溝、aはクリアランス部である。振動板4には凹部があり、積層圧電素子9への電圧印加に伴う加圧室17内方の変位により該加圧室17に連通する図示せぬノズルよりインク滴を吐出する。振動板4に設けられた凹部は圧電素子9と隔壁15とのクリアランス部aに設けられ、該クリアランス部aの実質上のヤング率を変えることにより、隣接する加圧室間の相互干渉のないインクジェットヘッドを実現している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、圧電素子と振動板との接合において、前記圧電素子の変形を確実に振動板に伝達するには、十分な接着面積を確保するために接着剤量を多くする必要がある。接着層の厚みが必要以上に大きいと、高分子樹脂よりなる接着層のヤング率は圧電素子に比べて極めて小さいために、接着層が圧電素子の変位を吸収してしまい、伝達効率が低下する。また、接着剤量が多いと接合時に接着剤がはみ出して、振動板の圧電素子の振動に対する応答を上げるために設けた凹部に達し、振動板の動きを阻害し、吐出安定性が損なわれるといった問題がある。
【0007】
【課題を解決するための手段】このような問題を解消するために本発明においては、圧電素子と、該圧電素子に振動板を介して対向配置された加圧室を有する流路形成部とからなり、前記圧電素子の変形による加圧室の容積変化により、該加圧室に連通するノズルからインク滴を吐出させるインクジェットヘッドであって、前記圧電素子と振動板との間に接着剤及びヤング率が7×1010Pa以上の複数の球状物を有している接着層を設けたことを特徴とする。
【0008】
【実施例】以下に本発明の詳細を図示した実施例に基づいて説明する。
【0009】図1、図2は本発明におけるインクジェットヘッドを示すものであって、図中符号1で示すノズルプレートは後述する圧電素子9の配列形態に合わせて複数のノズル2、2、2、…2´、2´、2´…が設けられており、流路形成部3及び圧電素子9の変形を伝達する振動板4との積層により実際のインク流路は形成されている。
【0010】流路形成部3は高分子樹脂、例えばポリサルフォンまたはポリエーテルサルフォンまたはポリカーボネートの射出成形により、あるいは感光性樹脂のフォトリソ加工により形成されている。圧電素子9に対向する領域には振動板4と協同して加圧室を形成する凹部5aが設けられ、またノズルプレート1側にはインク供給流路を形成する凹部5bが設けられ、さらに加圧室を形成する凹部5aとノズル及びインク供給流路を形成する凹部5bはそれぞれ通孔6a、6bにより連通させられている。
【0011】振動板4の圧電素子9と当接する近傍には凹部4a、4a´を形成して圧電素子9の振動に応答しやすく形成されており、表面には外枠7と基台8a、8bに固定された圧電素子9の一端面が後述する方法で固定されている。
【0012】図3は振動板4と圧電素子9との接合状態を示すものである。接着層10の中には粒径の一様な金属球11が一列に配列して存在している。
【0013】粒径がφ6〜10μmの金属球11を粘度約10万センチポアズのエポキシ接着剤に重量比率15〜20%で混合攪拌する。これ以下では後述する接着層部の実質上のヤング率が不十分であり、またそれ以上では信頼性のある圧電素子、振動板間の接着力が得られない。これを15μm厚のパターンマスク及びスキージにより一様な15μmの接着層を形成する。
【0014】外枠7の振動板4との接合面と圧電素子9の振動板4との接合面が同一面状になるよう、基台8と外枠7を固定した後、この接合同一面を前述の接着層に一定圧で圧接して接着層を接合同一面に転写形成する。ノズルプレート1、流路形成部3及び振動板4を積層して形成された流路セットの振動板4表面に一定荷重で前述の外枠7と圧電素子9の接合同一面を接合する。
【0015】このように構成したインクジェットヘッドの各圧電素子9の両電極間に図4で示す電気信号を印加する。印可信号ア部の充電により圧電素子9は電界と垂直方向、本実施例では軸方向にゆっくりと収縮する。圧電素子9の先端と接続固定された振動板4も圧電素子9の方向に変位し、これに連なる振動板可動部を加圧室の容積を拡大する方向に変位させる。これにより、インクリザーバ部よりインクが加圧室内へ徐々に流れ込みインク滴形成に備える。充電時にノズル先端より引き込まれたノズルメニスカスが定常状態に達するに必要な時間を経た後、印可信号イ部の放電により圧電素子9は元の位置に速やかに伸張する。振動板4及び振動板可動部を加圧室の方向に変位させ加圧室内を圧縮する。加圧室内の容積縮小により圧力を受けたインクは通孔6aを通ってノズル2に到達してインク滴となって飛翔する。
【0016】この時圧電素子9と振動板4の接合において図3で示したとおり、金属球11が接着層10内に一列に配列しており、金属球11のヤング率(2.11×1011Pa)は接着剤のヤング率(2〜3×109Pa)に比べてかなり大きいために、接着層10としてのヤング率を実質上大きくすることができた。これにより圧電素子9の変位を振動板4に伝達する際、接着層10に吸収されることなく効率よく伝達することができた。具体的には本実施例では接着剤のみの場合に比べて同一駆動条件で、吐出インク量及びインク滴の吐出スピードを約10%向上させることができた。
【0017】金属球11が圧電素子9と振動板4間のギャップを規制する機能も果たすために、接着層10の厚みを均一化でき接着状態のばらつきは少ない。また接着層10をつぶしすぎて接着剤がはみだし、振動板4の圧電素子9と当接する近傍に設けられた圧電素子9の振動に対する応答を上げるための凹部4aに侵入し、その機能を損なうこともない。これにより、ヘッド特性のばらつきの少ない、安定した吐出特性を得ることができた。
【0018】インク滴吐出に伴うノズルメニスカスの引き込みは、ノズルメニスカスのもつ毛細管力によりインクリザーバ部よりインクを引くことにより充填され、次のインク滴形成に備えることになる。
【0019】図5は第2の実施例を示すものであって、振動板4と圧電素子9間の接着層10の中には粒径が規定値以下の複数種の粒径の無機質の球、例えばガラスビーズ12が配列して存在している。このガラスビーズ12は圧電素子4の接合表面の表面粗さの最大値(約3〜5μm)に対して約2倍の粒径以下であり、具体的にはφ6〜10μm以下である。この時の粒径分布においては、最大径の粒径のガラスビーズが10〜15%含まれていることが、後述する圧電素子9と振動板4間のギャップを規制する機能を確保する上で必要である。
【0020】粒径がφ6〜10μm以下の複数種の粒径のガラスビーズ12を粘度約10万センチポアズのエポキシ接着剤に重量比率25〜30%で混合攪拌する。これ以下では後述する接着層部の実質上のヤング率が不十分であり、またそれ以上では信頼性のある圧電素子、振動板間の接着力が得られない。これを15μm厚のパターンマスク及びスキージにより一様な15μmの接着層を形成する。
【0021】本実施例でのインクジェットヘッドの組立方法は前述の金属球を使用した場合と同様で、マスク及びスキージにより一様な接着層を形成し、転写により接着層を接着面に形成した後、流路形成部3とその振動板4側表面で接合することで完成する。
【0022】圧電素子9と振動板4の接合において図5で示したとおり、ガラスビーズ12が接着層10内に配列しており、ガラスビーズ12のヤング率(7〜8×1010Pa)は接着剤のヤング率(2〜3×109Pa)に比べてかなり大きいために、接着層10としてのヤング率を実質上大きくすることができる。本実施例では、ある規定値以下の複数種の粒径のガラスビーズを用いたため、圧電素子9と振動板4との接着強度を確保した上で接着剤への混合率を高めることができた。したがってガラスビーズのヤング率は金属球のヤング率の約1/2であるが、金属球を用いた場合とほぼ同等の効果が得ることができた。本実施例によれば球状物のヤング率が7×1010Pa以上あれば、圧電素子9の変位を振動板4に伝達する際、接着層10に吸収されることなく効率よく伝達することができた。具体的には本実施例では接着剤のみの場合に比べて同一駆動条件で、吐出インク量及びインク滴の吐出スピードを約10%向上させることができた。
【0023】ガラスビーズ12が圧電素子9と振動板4間のギャップを規制する機能も果たすために、接着層10の厚みを均一化でき接着状態のばらつきが少ない。また接着層10をつぶしすぎて接着剤がはみだし、振動板4の圧電素子9と当接する近傍に設けられた圧電素子の振動に対する応答を上げるためのを凹部4aに侵入し、その機能を損なうこともない。
【0024】さらに、電極が最外周に形成された圧電素子と金属製の振動板であって、圧電素子の電極部が振動板部に接合される構成の場合では、ガラスビーズによって最大径のガラスビーズの粒径から圧電素子の接合表面の表面粗さを引いた大きさに相当する接着層が確保されるために、圧電素子と振動板間は確実に絶縁される。これにより、インク中の導電率変化を計測してインク残量を検出する手段を使用する時も、圧電素子に印加された電気信号が振動板さらにはインクに電導しノイズとなって悪影響を及ぼすこともない。また、振動板がインクと接する状態で電気的に陽極となって、金属である振動板が溶解して故障に陥るようなこともない。
【0025】
【発明の効果】以上説明したように本発明においては、圧電素子と振動板間を接着剤及びヤング率が7×1010Pa以上の複数の球状物を介して接合する構成としているので、圧電素子の変位を振動板に伝達する際、接着層に吸収されることなく効率よく伝達することができ、駆動電圧の低減、インク吐出特性の安定化が図れる。
【0026】また、球状物が圧電素子と振動板間のギャップを規制する機能も果たすために、接着層の厚みを均一化でき、接着状態のばらつきによる特性ばらつきのないインクジェットヘッドをつくることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明におけるインクジェットヘッド全体を示した斜視図である。
【図2】本発明におけるインクジェットヘッドを示した断面図である。
【図3】本発明における圧電素子と振動板との接合状態を示す断面図である。
【図4】本発明におけるヘッドを駆動するための印加信号を示した説明図である。
【図5】本発明の第2の実施例においてを圧電素子と振動板との接合状態を示した断面図である。
【図6】従来の技術のインクジェットヘッドを示した説明図である。
【符号の説明】
1 ノズルプレート
2、2′ ノズル
3 流路形成部
4 振動板
4a、4b 凹部
5a、5b 凹部
6a、6b 通孔
7 外枠
8a、8b 基台
9 圧電素子
10 接着層
11 金属球
12 ガラスビーズ
15 隔壁
16 上板
17 加圧室
18 電極
19 溝
a クリアランス部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電素子と、該圧電素子に振動板を介して対向配置された加圧室を有する流路形成部とからなり、前記圧電素子の変形による加圧室の容積変化により、該加圧室に連通するノズルからインク滴を吐出させるインクジェットヘッドであって、前記圧電素子と振動板との間に接着剤及びヤング率が7×1010Pa以上の複数の球状物を有している接着層を設けたことを特徴とするインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3213858号(P3213858)
【登録日】平成13年7月27日(2001.7.27)
【発行日】平成13年10月2日(2001.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−65626
【出願日】平成5年3月24日(1993.3.24)
【公開番号】特開平6−270403
【公開日】平成6年9月27日(1994.9.27)
【審査請求日】平成11年11月5日(1999.11.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【参考文献】
【文献】特開 平4−151253(JP,A)
【文献】特開 平5−8388(JP,A)
【文献】特開 平3−216342(JP,A)