インクジェット式記録ヘッド
【課題】 変位特性及び信頼性の向上を図ることができるインクジェット式記録ヘッドを提供する。
【解決手段】 ノズル開口に連通する圧力発生室12の一部を構成し、少なくとも上面が下電極60として作用する振動板と、該振動板の表面に形成された圧電体層70及び該圧電体層の表面に形成された上電極80からなり且つ前記圧力発生室12に対向する領域に形成された圧電体能動部320とからなる圧電振動子を備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記上電極80が前記圧力発生室12の周壁に対向する領域まで延設し、コンタクトホールを介さず、上電極80に直接電圧を印加することができるようにし、コンタクトホール部の変位低下及び破壊を防止する。
【解決手段】 ノズル開口に連通する圧力発生室12の一部を構成し、少なくとも上面が下電極60として作用する振動板と、該振動板の表面に形成された圧電体層70及び該圧電体層の表面に形成された上電極80からなり且つ前記圧力発生室12に対向する領域に形成された圧電体能動部320とからなる圧電振動子を備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記上電極80が前記圧力発生室12の周壁に対向する領域まで延設し、コンタクトホールを介さず、上電極80に直接電圧を印加することができるようにし、コンタクトホール部の変位低下及び破壊を防止する。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電体層を形成して、圧電体層の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電振動子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電振動子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電振動子を使用したものと、たわみ振動モードの圧電振動子を使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】前者は圧電振動子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電振動子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電振動子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電振動子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0005】一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、特開平5−286131号公報に見られるように、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電振動子を形成したものが提案されている。
【0006】これによれば圧電振動子を振動板に貼付ける作業が不要となって、リソグラフィ法という精密で、かつ簡便な手法で圧電振動子を作り付けることができるばかりでなく、圧電振動子の厚みを薄くできて高速駆動が可能になるという利点がある。
【0007】また、この場合、圧電材料層は振動板の表面全体に設けたままで少なくとも上電極のみを各圧力発生室毎に設けることにより、各圧力発生室に対応する圧電振動子を駆動することができるが、単位駆動電圧当たりの変位量および圧力発生室に対向する部分とその外部とを跨ぐ部分で圧電体層へかかる応力の問題から、圧電体層および上電極からなる圧電体能動部を圧力発生室外に出ないように形成するのが望ましい。
【0008】そこで、各圧力発生室に対応する圧電振動子を絶縁体層で覆い、この絶縁体層に各圧電振動子を駆動するための電圧を供給するリード電極との接続部を形成するために窓(以下、コンタクトホールという)を各圧力発生室に対応して設け、各圧電振動子とリード電極との接続部をコンタクトホール内に形成する構造が提案されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上電極とリード電極とを接続するためにコンタクトホールを設ける構造では、コンタクトホールを設ける部分の全体の膜厚が厚くなってしまい、変位特性が低下してしまうという問題がある。
【0010】また、上述したようなインクジェット式記録ヘッドにおいては、圧電振動子の駆動による変位効率を向上するために、圧電振動子の両側に対応する部分の振動板を薄くする構造が提案されているが、このように変位を大きくとるようにすると、特に、コンタクトホール近傍にクラック等の破壊が生じ易い傾向が助長される。
【0011】さらに、これらの問題は、特に、圧電材料層を成膜技術で形成した場合に生じやすい。なぜなら、成膜技術で形成した圧電材料層は非常に薄いため、圧電振動子を貼付したものに比較して剛性が低いためである。
【0012】本発明はこのような事情に鑑み、変位特性及び信頼性の向上を図ることができるインクジェット式記録ヘッドを提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する本発明の第1の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室の一部を構成し、少なくとも上面が下電極として作用する振動板と、該振動板の表面に形成された圧電体層及び該圧電体層の表面に形成された上電極からなり且つ前記圧力発生室に対向する領域に形成された圧電体能動部とからなる圧電振動子を備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記上電極が前記圧力発生室の周壁に対向する領域まで延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0014】かかる第1の態様では、コンタクトホールを介さず上電極に直接電圧を印加することができ、コンタクトホール部の変位低下及び破壊を防止できる。
【0015】本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記圧電体能動部の前記圧電体層が、前記圧力発生室に対向する領域内に形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0016】かかる第2の態様では、圧力発生室端部近傍に対向する領域に圧電体層が存在しないので、耐久性が向上する。
【0017】本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記振動板が、少なくとも前記圧電体能動部の幅方向両側で前記圧力発生室の縁部に沿った部分に当該圧電体能動部に対応する部分の厚さより薄い薄肉部を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0018】かかる第3の態様では、少なくとも腕部の振動板が薄膜部となっているので、圧電体能動部の駆動による変位量が向上する。
【0019】本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記圧電体能動部の前記圧電体膜の上面周縁部及びその周囲を覆う絶縁体層が形成され、当該絶縁体層上に前記上電極が延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0020】かかる第4の態様では、絶縁体層上に上電極が延設され下電極との絶縁が保持される。
【0021】本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様において、前記上電極は、前記圧力発生室の長手方向の少なくとも一方の周壁に対向する領域へ延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0022】かかる第5の態様では、圧電体能動部の長手方向の一端部から駆動電圧を印加できる。
【0023】本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様において、前記上電極は、前記圧力発生室の幅方向の少なくとも一方側の周壁に対向する領域へ延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0024】かかる第6の態様では、圧電体能動部の中央近傍から駆動電圧が印加できるので、駆動時の電流の集中が回避できる。
【0025】本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様において、前記上電極が前記圧力発生室とその周壁との境界を横切る部分近傍の幅が、前記圧力発生室に対向する領域の他の部分より狭くなっていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0026】かかる第7の態様では、圧力発生室とその周壁との境界に対向する領域における変位特性が向上される。
【0027】本発明の第8の態様は、第1〜7の何れかの態様において、前記上電極の少なくとも前記圧電体層との接触面が、導電性酸化物膜で形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0028】かかる第8の態様では、圧電体層の酸素欠損に基づく圧電特性の低下を防止することができる。
【0029】本発明の第9の態様は、第8の態様において、前記上電極の前記圧電体層との接触面が、IrOx,ReOx,RuOx,SrRuOx、および酸化すず・酸化インジウム系材料からなる群から選択される導電性酸化物材料で形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0030】かかる第9の態様では、圧電体層の酸素欠損に基づく圧電特性の低下を防止することができる。
【0031】本発明の第10の態様は、第1〜9の何れかの態様において、前記圧力発生室がシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成され、前記圧電振動子の各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0032】かかる第10の態様では、高密度のノズル開口を有するインクジェット式記録ヘッドを大量に且つ比較的容易に製造することができる。
【0033】
【発明の実施の形態】以下に本発明を一実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0034】(実施形態1)図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドを示す組立斜視図であり、図2は、その1つの圧力発生室の長手方向における断面構造を示す図である。
【0035】図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなる。流路形成基板10としては、通常、150〜300μm程度の厚さのものが用いられ、望ましくは180〜280μm程度、より望ましくは220μm程度の厚さのものが好適である。これは、隣接する圧力発生室間の隔壁の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0036】流路形成基板10の一方の面は開口面となり、他方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0037】一方、流路形成基板10の開口面には、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより、ノズル開口11、圧力発生室12が形成されている。
【0038】ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われるものである。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0039】本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。なお、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。
【0040】一方、各圧力発生室12の一端に連通する各ノズル開口11は、圧力発生室12より幅狭で且つ浅く形成されている。すなわち、ノズル開口11は、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。
【0041】ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口11の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口11は数十μmの溝幅で精度よく形成する必要がある。
【0042】また、各圧力発生室12と後述する共通インク室31とは、後述する封止板20の各圧力発生室12の一端部に対応する位置にそれぞれ形成されたインク供給連通口21を介して連通されており、インクはこのインク供給連通口21を介して共通インク室31から供給され、各圧力発生室12に分配される。
【0043】封止板20は、前述の各圧力発生室12に対応したインク供給連通口21が穿設された、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックスからなる。なお、インク供給連通口21は、図3(a),(b)に示すように、各圧力発生室12のインク供給側端部の近傍を横断する一のスリット孔21Aでも、あるいは複数のスリット孔21Bであってもよい。封止板20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、封止板20は、他面で共通インク室31の一壁面を構成する。
【0044】共通インク室形成基板30は、共通インク室31の周壁を形成するものであり、ノズル開口数、インク滴吐出周波数に応じた適正な厚みのステンレス板を打ち抜いて作製されたものである。本実施形態では、共通インク室形成基板30の厚さは、0.2mmとしている。
【0045】インク室側板40は、ステンレス基板からなり、一方の面で共通インク室31の一壁面を構成するものである。また、インク室側板40には、他方の面の一部にハーフエッチングにより凹部40aを形成することにより薄肉壁41が形成され、さらに、外部からのインク供給を受けるインク導入口42が打抜き形成されている。なお、薄肉壁41は、インク滴吐出の際に発生するノズル開口11と反対側へ向かう圧力を吸収するためのもので、他の圧力発生室12に、共通インク室31を経由して不要な正又は負の圧力が加わるのを防止する。本実施形態では、インク導入口42と外部のインク供給手段との接続時等に必要な剛性を考慮して、インク室側板40を0.2mmとし、その一部を厚さ0.02mmの薄肉壁41としているが、ハーフエッチングによる薄肉壁41の形成を省略するために、インク室側板40の厚さを初めから0.02mmとしてもよい。
【0046】一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.5μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体膜70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電振動子(圧電素子)を構成している。このように、弾性膜50の各圧力発生室12に対向する領域には、各圧力発生室12毎に独立して圧電振動子が設けられているが、本実施形態では、下電極膜60は圧電振動子の共通電極とし、上電極膜80を圧電振動子の個別電極として圧電体能動部を形成している。したがって、各圧電振動子の圧電体膜70の周囲には、電気絶縁性を備えた絶縁体層90が下電極膜60上に形成され、この絶縁体層90上には上電極膜80が接続端子部まで延設されている。
【0047】また、絶縁体層90は、下電極膜60と上電極膜80との短絡を確実に防ぐために、各圧電体膜70の側面から上面の少なくとも周縁を覆うように形成されている。すなわち、各圧電体膜70の上面には上電極膜80との接続するために圧電体膜70の略全体を露出させる接続孔90aが形成されている。この絶縁体層90は、成膜法による形成やまたエッチングによる整形が可能な材料、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、有機材料、好ましくは剛性が低く、且つ電気絶縁性に優れた感光性ポリイミドで形成するのが好ましい。
【0048】ここで、シリコン単結晶基板からなる流路形成基板10上に、圧電体膜70等を形成するプロセスを図4を参照しながら説明する。
【0049】図4(a)に示すように、まず、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板のウェハを約1100℃の拡散炉で熱酸化して二酸化シリコンからなる弾性膜50を形成する。
【0050】次に、図4(b)に示すように、スパッタリングで下電極膜60を形成する。下電極膜60の材料としては、Pt等が好適である。これは、スパッタリングやゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体膜70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜70の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体膜70としてPZTを用いた場合には、PbOの拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由からPtが好適である。
【0051】次に、図4(c)に示すように、圧電体膜70を成膜する。この圧電体膜70の成膜にはスパッタリングを用いることもできるが、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体膜70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いている。圧電体膜70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。
【0052】次に、図5に示すように、下電極膜60及び圧電体膜70をパターニングする。
【0053】まず、図5(a)に示すように、下電極膜60及び圧電体膜70を一緒にエッチングして下電極膜60の全体パターンをパターニングする。次いで、図5(b)に示すように、圧電体膜70のみをエッチングして圧電体能動部320のパターニングを行う。次に、図5R>5(c)に示すように、各圧力発生室12(図5では圧力発生室12は形成前であるが、破線で示す)の幅方向両側に対向した領域である圧電体能動部320の両側の振動板の腕に相当する部分の下電極膜60を除去することにより、下電極膜除去部350を形成する。このように下電極膜除去部350を設けることにより、圧電体能動部320への電圧印加による変位量の向上を図るものである。
【0054】なお、下電極膜除去部350は、下電極膜60を完全に除去せずに厚さを薄くしたものでもよい。また、圧電体能動部320の腕部に相当する部分に下電極膜除去部350を形成しているが、これに限定されず、例えば、圧電体能動部320の両端部よりも長手方向外側まで形成するようにしてもよいし、圧力発生室12の周縁部ほぼ全体に亘って形成してもよい。勿論、この下電極除去部350は、必ずしも設ける必要はない。
【0055】次いで、図6に示すように、絶縁体層90及び上電極膜80のパターニングを行う。
【0056】まず、図6(a)に示すように、圧電体膜70及び下電極膜60の上面及び側面を覆うように絶縁体層90を形成する。この絶縁体層90の好適な材料は上述した通りであるが、本実施形態ではネガ型の感光性ポリイミドを用いている。次に、図6(b)に示すように、絶縁体層90の圧電体膜70に対応する部分に、上電極膜80との接続のための接続孔90aをパターニングする。次いで、図6(c)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、Al、Au、Ni、Pt、Pd等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、Ptをスパッタリングにより成膜している。
【0057】また、特に圧電体層70としてPZTを用いた場合には、上電極膜80にPtの代わりに導電性酸化物を用いるのが好ましい。これは、PtがPZTから酸素を取り込むことに起因して、圧電特性の低下が生じる虞があるからである。この場合、上電極膜80を成膜する際に導電性酸化物材料を用いてもよいし、圧電体層70上に成膜された後に界面に導電性酸化膜を形成する導電性材料を用いてもよい。このような導電性酸化物材料、例えば、IrOx,ReOx,RuOx,SrRuOx、および、例えば、ITOなどの酸化すず・酸化インジウム系材料を挙げることができる。また、導電性材料としてはIr,Re,Ru等を挙げることができ、これらを用いて上電極膜80を形成した場合には、圧電体層70との界面に、それぞれIrOx,ReOx,RuOxの層が形成され、同様の効果を奏する。勿論、これらの材料で形成した層の上にさらにPt等の導電性膜を積層して上電極膜80としてもよい。
【0058】そして、図6(d)に示すように、圧電体膜80及び絶縁体層90の全体パターンをパターニングする。
【0059】以上が膜形成プロセスである。このようにして膜形成を行った後、図6(e)に示すように、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板の異方性エッチングを行い、圧力発生室12等を形成する。
【0060】なお、上述のパターニングの手順は、特に限定されるものではない。
【0061】このように形成された圧電体能動部320と圧力発生室12との平面位置関係及び断面を図7に示す。
【0062】図7(a)に示すように、圧電体膜70及び上電極膜80からなる圧電体能動部320は、基本的には圧力発生室12に対向する領域内に、圧力発生室12の幅より若干狭い幅で形成されている。また、上電極膜80は、圧力発生室12の長手方向一方の端部において、圧力発生室12に対向する領域から周壁に対向する領域まで連続的に延設されており、本実施形態では、圧力発生室12の長手方向一端部に対向する領域に、連結部85が形成されている。
【0063】また、圧力発生室12の長手方向一端部及び周壁に対向する領域では、絶縁体層90は、図7(b)に示すように、圧電体能動部320と同程度の厚さで形成されており、上電極膜80は、絶縁体層90上を接続端子部(図示しない)まで延設されている。
【0064】なお、本実施形態では、絶縁体層90が圧力発生室12の長手方向端部において、圧電体能動部320と同程度の厚さで形成されているが、これに限定されず、例えば、図7(c)に示すように、圧電体膜70の側面、及び下電極膜60の上面に沿って、薄く形成するようにしてもよく、実質的に下電極膜60と上電極膜80とが絶縁されていればよい。また、絶縁体層90の好適な材料としては、上述のように、感光性ポリイミド等を例示したが、本実施形態では圧電体膜70の上面を実質的に覆う必要がないので、例えば、SiO2等の透湿性が低く堅い材料を用いて、耐環境性を向上するようにしてもよい。
【0065】このような構成では、上電極膜80がリード電極の役割を兼ねているが、絶縁体層90により、下電極膜60との短絡が防止されているため、接続端子部から上電極膜80に直接電圧を供給して、下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加することができる。
【0066】したがって、コンタクトホールを形成する必要がないので、コンタクトホール部において膜が厚くなることに起因する変位低下がなく、また、圧電体膜70を圧力発生室12に対向する領域内に設けたので、連結部85近傍でのクラック等の発生が防止でき、変位特性及び信頼性を向上することができる。さらに、上電極膜80がリード電極の役割を兼ねているので、製造工程を減らすことができ、コストを削減等が可能となる。
【0067】また、以上説明した圧電体能動部320及び圧力発生室12等の一連の膜形成及び異方性エッチングは、一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割する。また、分割した流路形成基板10を、封止板20、共通インク室形成基板30、及びインク室側板40と順次接着して一体化し、インクジェット式記録ヘッドとする。
【0068】このように構成したインクジェットヘッドは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口42からインクを取り込み、共通インク室31からノズル開口11に至るまで内部をインクで満たし後、図示しない外部の駆動回路からの記録信号に従い、上電極膜80と下電極膜60との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体膜70をたわみ変形させることにより、圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口11からインク滴が吐出する。
【0069】(実施形態2)実施形態2の圧電体能動部320と圧力発生室12との平面位置関係を図8に示す。
【0070】本実施形態は、図8に示すように、圧力発生室12の長手方向端部に対向する領域、すなわち、連結部85Aの上電極膜80及び絶縁体層90を幅狭に形成した以外は実施形態1と同様である。
【0071】このような構成にすることにより、実施形態1と同様の効果の他、連結部85A近傍での変位の向上を図ることができる。
【0072】なお、本実施形態では、連結部85Aの上電極膜80と絶縁体層90とを幅狭に形成したが、上電極膜80のみを幅狭に形成してもよい。
【0073】(実施形態3)実施形態3の圧電体能動部320と圧力発生室12との平面位置関係を図9に示す。
【0074】本実施形態は、図9に示すように、圧電体能動部320の中央部に連結部85Bを設け、上電極膜80を圧力発生室12の側壁に対向する領域に延設した以外は、実施形態1と同様である。
【0075】このような構成とすることにより、実施形態1と同様の効果の他、駆動時の連結部85B近傍での電流の集中を抑えることができ、圧電体膜70等の破壊を防止することができる。
【0076】(他の実施形態)以上、本発明の各実施形態を説明したが、インクジェット式記録ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0077】例えば、上述した封止板20の他、共通インク室形成板30をガラスセラミックス製としてもよく、さらには、薄肉膜41を別部材としてガラスセラミックス製としてもよく、材料、構造等の変更は自由である。
【0078】また、上述した実施形態では、ノズル開口を流路形成基板10の端面に形成しているが、面に垂直な方向に突出するノズル開口を形成してもよい。
【0079】このように構成した実施形態の分解斜視図を図10、その流路の断面を図11にぞれぞれ示す。この実施形態では、ノズル開口11が圧電振動子とは反対のノズル基板120に穿設され、これらノズル開口11と圧力発生室12とを連通するノズル連通口22が、封止板20,共通インク室形成板30及び薄肉板41A及びインク室側板40Aを貫通するように配されている。
【0080】なお、本実施形態は、その他、薄肉板41Aとインク室側板40Aとを別部材とし、インク室側板40に開口40bを形成した以外は、基本的に上述した実施形態と同様であり、同一部材には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0081】ここで、この実施形態においても、実施形態1〜3と同様に、コンタクトホールを介さず、上電極膜に直接電圧を印加することができ、変位効率を向上することができる。
【0082】勿論、以上説明した各実施形態は、適宜組み合わせて実施することにより、より一層の効果を奏するものであることは言うまでもない。
【0083】また、以上説明した各実施形態は、成膜及びリソグラフィプロセスを応用することにより製造できる薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、基板を積層して圧力発生室を形成するもの、あるいはグリーンシートを貼付もしくはスクリーン印刷等により圧電体膜を形成するもの、又は結晶成長により圧電体膜を形成するもの等、各種の構造のインクジェット式記録ヘッドに本発明を採用することができる。
【0084】さらに、上述した各実施形態では、振動板として下電極膜とは別に弾性膜を設けたが、下電極膜が弾性膜を兼ねるようにしてもよい。
【0085】このように、本発明は、その趣旨に反しない限り、種々の構造のインクジェット式記録ヘッドに応用することができる。
【0086】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、コンタクトホールを形成することなく、圧電体能動部に電圧を印加することができ、圧電体能動部を圧力発生室に対向する領域内に設けたため、変位特性及び信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す図であり、図1の平面図及び断面図である。
【図3】図1の封止板の変形例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態1の薄膜製造工程を示す図である。
【図5】本発明の実施形態1の薄膜製造工程を示す図である。
【図6】本発明の実施形態1の薄膜製造工程を示す図である。
【図7】本発明の実施形態1の要部を示す平面図及び断面図である。
【図8】本発明の実施形態2を説明する要部平面図である。
【図9】本発明の実施形態3を説明する要部平面図である。
【図10】本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図11】本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドを示す断面図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板
11 ノズル開口
12 圧力発生室
50 弾性膜
60 下電極膜
70 圧電体膜
85,85A,85B 連結部
80 上電極膜
90 絶縁体層
320 圧電体能動部
350 下電極除去部
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電体層を形成して、圧電体層の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電振動子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電振動子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電振動子を使用したものと、たわみ振動モードの圧電振動子を使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】前者は圧電振動子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電振動子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電振動子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電振動子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0005】一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、特開平5−286131号公報に見られるように、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電振動子を形成したものが提案されている。
【0006】これによれば圧電振動子を振動板に貼付ける作業が不要となって、リソグラフィ法という精密で、かつ簡便な手法で圧電振動子を作り付けることができるばかりでなく、圧電振動子の厚みを薄くできて高速駆動が可能になるという利点がある。
【0007】また、この場合、圧電材料層は振動板の表面全体に設けたままで少なくとも上電極のみを各圧力発生室毎に設けることにより、各圧力発生室に対応する圧電振動子を駆動することができるが、単位駆動電圧当たりの変位量および圧力発生室に対向する部分とその外部とを跨ぐ部分で圧電体層へかかる応力の問題から、圧電体層および上電極からなる圧電体能動部を圧力発生室外に出ないように形成するのが望ましい。
【0008】そこで、各圧力発生室に対応する圧電振動子を絶縁体層で覆い、この絶縁体層に各圧電振動子を駆動するための電圧を供給するリード電極との接続部を形成するために窓(以下、コンタクトホールという)を各圧力発生室に対応して設け、各圧電振動子とリード電極との接続部をコンタクトホール内に形成する構造が提案されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上電極とリード電極とを接続するためにコンタクトホールを設ける構造では、コンタクトホールを設ける部分の全体の膜厚が厚くなってしまい、変位特性が低下してしまうという問題がある。
【0010】また、上述したようなインクジェット式記録ヘッドにおいては、圧電振動子の駆動による変位効率を向上するために、圧電振動子の両側に対応する部分の振動板を薄くする構造が提案されているが、このように変位を大きくとるようにすると、特に、コンタクトホール近傍にクラック等の破壊が生じ易い傾向が助長される。
【0011】さらに、これらの問題は、特に、圧電材料層を成膜技術で形成した場合に生じやすい。なぜなら、成膜技術で形成した圧電材料層は非常に薄いため、圧電振動子を貼付したものに比較して剛性が低いためである。
【0012】本発明はこのような事情に鑑み、変位特性及び信頼性の向上を図ることができるインクジェット式記録ヘッドを提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する本発明の第1の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室の一部を構成し、少なくとも上面が下電極として作用する振動板と、該振動板の表面に形成された圧電体層及び該圧電体層の表面に形成された上電極からなり且つ前記圧力発生室に対向する領域に形成された圧電体能動部とからなる圧電振動子を備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記上電極が前記圧力発生室の周壁に対向する領域まで延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0014】かかる第1の態様では、コンタクトホールを介さず上電極に直接電圧を印加することができ、コンタクトホール部の変位低下及び破壊を防止できる。
【0015】本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記圧電体能動部の前記圧電体層が、前記圧力発生室に対向する領域内に形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0016】かかる第2の態様では、圧力発生室端部近傍に対向する領域に圧電体層が存在しないので、耐久性が向上する。
【0017】本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記振動板が、少なくとも前記圧電体能動部の幅方向両側で前記圧力発生室の縁部に沿った部分に当該圧電体能動部に対応する部分の厚さより薄い薄肉部を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0018】かかる第3の態様では、少なくとも腕部の振動板が薄膜部となっているので、圧電体能動部の駆動による変位量が向上する。
【0019】本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記圧電体能動部の前記圧電体膜の上面周縁部及びその周囲を覆う絶縁体層が形成され、当該絶縁体層上に前記上電極が延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0020】かかる第4の態様では、絶縁体層上に上電極が延設され下電極との絶縁が保持される。
【0021】本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様において、前記上電極は、前記圧力発生室の長手方向の少なくとも一方の周壁に対向する領域へ延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0022】かかる第5の態様では、圧電体能動部の長手方向の一端部から駆動電圧を印加できる。
【0023】本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様において、前記上電極は、前記圧力発生室の幅方向の少なくとも一方側の周壁に対向する領域へ延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0024】かかる第6の態様では、圧電体能動部の中央近傍から駆動電圧が印加できるので、駆動時の電流の集中が回避できる。
【0025】本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様において、前記上電極が前記圧力発生室とその周壁との境界を横切る部分近傍の幅が、前記圧力発生室に対向する領域の他の部分より狭くなっていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0026】かかる第7の態様では、圧力発生室とその周壁との境界に対向する領域における変位特性が向上される。
【0027】本発明の第8の態様は、第1〜7の何れかの態様において、前記上電極の少なくとも前記圧電体層との接触面が、導電性酸化物膜で形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0028】かかる第8の態様では、圧電体層の酸素欠損に基づく圧電特性の低下を防止することができる。
【0029】本発明の第9の態様は、第8の態様において、前記上電極の前記圧電体層との接触面が、IrOx,ReOx,RuOx,SrRuOx、および酸化すず・酸化インジウム系材料からなる群から選択される導電性酸化物材料で形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0030】かかる第9の態様では、圧電体層の酸素欠損に基づく圧電特性の低下を防止することができる。
【0031】本発明の第10の態様は、第1〜9の何れかの態様において、前記圧力発生室がシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成され、前記圧電振動子の各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0032】かかる第10の態様では、高密度のノズル開口を有するインクジェット式記録ヘッドを大量に且つ比較的容易に製造することができる。
【0033】
【発明の実施の形態】以下に本発明を一実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0034】(実施形態1)図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドを示す組立斜視図であり、図2は、その1つの圧力発生室の長手方向における断面構造を示す図である。
【0035】図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなる。流路形成基板10としては、通常、150〜300μm程度の厚さのものが用いられ、望ましくは180〜280μm程度、より望ましくは220μm程度の厚さのものが好適である。これは、隣接する圧力発生室間の隔壁の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0036】流路形成基板10の一方の面は開口面となり、他方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0037】一方、流路形成基板10の開口面には、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより、ノズル開口11、圧力発生室12が形成されている。
【0038】ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われるものである。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0039】本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。なお、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。
【0040】一方、各圧力発生室12の一端に連通する各ノズル開口11は、圧力発生室12より幅狭で且つ浅く形成されている。すなわち、ノズル開口11は、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。
【0041】ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口11の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口11は数十μmの溝幅で精度よく形成する必要がある。
【0042】また、各圧力発生室12と後述する共通インク室31とは、後述する封止板20の各圧力発生室12の一端部に対応する位置にそれぞれ形成されたインク供給連通口21を介して連通されており、インクはこのインク供給連通口21を介して共通インク室31から供給され、各圧力発生室12に分配される。
【0043】封止板20は、前述の各圧力発生室12に対応したインク供給連通口21が穿設された、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックスからなる。なお、インク供給連通口21は、図3(a),(b)に示すように、各圧力発生室12のインク供給側端部の近傍を横断する一のスリット孔21Aでも、あるいは複数のスリット孔21Bであってもよい。封止板20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、封止板20は、他面で共通インク室31の一壁面を構成する。
【0044】共通インク室形成基板30は、共通インク室31の周壁を形成するものであり、ノズル開口数、インク滴吐出周波数に応じた適正な厚みのステンレス板を打ち抜いて作製されたものである。本実施形態では、共通インク室形成基板30の厚さは、0.2mmとしている。
【0045】インク室側板40は、ステンレス基板からなり、一方の面で共通インク室31の一壁面を構成するものである。また、インク室側板40には、他方の面の一部にハーフエッチングにより凹部40aを形成することにより薄肉壁41が形成され、さらに、外部からのインク供給を受けるインク導入口42が打抜き形成されている。なお、薄肉壁41は、インク滴吐出の際に発生するノズル開口11と反対側へ向かう圧力を吸収するためのもので、他の圧力発生室12に、共通インク室31を経由して不要な正又は負の圧力が加わるのを防止する。本実施形態では、インク導入口42と外部のインク供給手段との接続時等に必要な剛性を考慮して、インク室側板40を0.2mmとし、その一部を厚さ0.02mmの薄肉壁41としているが、ハーフエッチングによる薄肉壁41の形成を省略するために、インク室側板40の厚さを初めから0.02mmとしてもよい。
【0046】一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.5μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体膜70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電振動子(圧電素子)を構成している。このように、弾性膜50の各圧力発生室12に対向する領域には、各圧力発生室12毎に独立して圧電振動子が設けられているが、本実施形態では、下電極膜60は圧電振動子の共通電極とし、上電極膜80を圧電振動子の個別電極として圧電体能動部を形成している。したがって、各圧電振動子の圧電体膜70の周囲には、電気絶縁性を備えた絶縁体層90が下電極膜60上に形成され、この絶縁体層90上には上電極膜80が接続端子部まで延設されている。
【0047】また、絶縁体層90は、下電極膜60と上電極膜80との短絡を確実に防ぐために、各圧電体膜70の側面から上面の少なくとも周縁を覆うように形成されている。すなわち、各圧電体膜70の上面には上電極膜80との接続するために圧電体膜70の略全体を露出させる接続孔90aが形成されている。この絶縁体層90は、成膜法による形成やまたエッチングによる整形が可能な材料、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、有機材料、好ましくは剛性が低く、且つ電気絶縁性に優れた感光性ポリイミドで形成するのが好ましい。
【0048】ここで、シリコン単結晶基板からなる流路形成基板10上に、圧電体膜70等を形成するプロセスを図4を参照しながら説明する。
【0049】図4(a)に示すように、まず、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板のウェハを約1100℃の拡散炉で熱酸化して二酸化シリコンからなる弾性膜50を形成する。
【0050】次に、図4(b)に示すように、スパッタリングで下電極膜60を形成する。下電極膜60の材料としては、Pt等が好適である。これは、スパッタリングやゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体膜70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜70の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体膜70としてPZTを用いた場合には、PbOの拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由からPtが好適である。
【0051】次に、図4(c)に示すように、圧電体膜70を成膜する。この圧電体膜70の成膜にはスパッタリングを用いることもできるが、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体膜70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いている。圧電体膜70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。
【0052】次に、図5に示すように、下電極膜60及び圧電体膜70をパターニングする。
【0053】まず、図5(a)に示すように、下電極膜60及び圧電体膜70を一緒にエッチングして下電極膜60の全体パターンをパターニングする。次いで、図5(b)に示すように、圧電体膜70のみをエッチングして圧電体能動部320のパターニングを行う。次に、図5R>5(c)に示すように、各圧力発生室12(図5では圧力発生室12は形成前であるが、破線で示す)の幅方向両側に対向した領域である圧電体能動部320の両側の振動板の腕に相当する部分の下電極膜60を除去することにより、下電極膜除去部350を形成する。このように下電極膜除去部350を設けることにより、圧電体能動部320への電圧印加による変位量の向上を図るものである。
【0054】なお、下電極膜除去部350は、下電極膜60を完全に除去せずに厚さを薄くしたものでもよい。また、圧電体能動部320の腕部に相当する部分に下電極膜除去部350を形成しているが、これに限定されず、例えば、圧電体能動部320の両端部よりも長手方向外側まで形成するようにしてもよいし、圧力発生室12の周縁部ほぼ全体に亘って形成してもよい。勿論、この下電極除去部350は、必ずしも設ける必要はない。
【0055】次いで、図6に示すように、絶縁体層90及び上電極膜80のパターニングを行う。
【0056】まず、図6(a)に示すように、圧電体膜70及び下電極膜60の上面及び側面を覆うように絶縁体層90を形成する。この絶縁体層90の好適な材料は上述した通りであるが、本実施形態ではネガ型の感光性ポリイミドを用いている。次に、図6(b)に示すように、絶縁体層90の圧電体膜70に対応する部分に、上電極膜80との接続のための接続孔90aをパターニングする。次いで、図6(c)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、Al、Au、Ni、Pt、Pd等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、Ptをスパッタリングにより成膜している。
【0057】また、特に圧電体層70としてPZTを用いた場合には、上電極膜80にPtの代わりに導電性酸化物を用いるのが好ましい。これは、PtがPZTから酸素を取り込むことに起因して、圧電特性の低下が生じる虞があるからである。この場合、上電極膜80を成膜する際に導電性酸化物材料を用いてもよいし、圧電体層70上に成膜された後に界面に導電性酸化膜を形成する導電性材料を用いてもよい。このような導電性酸化物材料、例えば、IrOx,ReOx,RuOx,SrRuOx、および、例えば、ITOなどの酸化すず・酸化インジウム系材料を挙げることができる。また、導電性材料としてはIr,Re,Ru等を挙げることができ、これらを用いて上電極膜80を形成した場合には、圧電体層70との界面に、それぞれIrOx,ReOx,RuOxの層が形成され、同様の効果を奏する。勿論、これらの材料で形成した層の上にさらにPt等の導電性膜を積層して上電極膜80としてもよい。
【0058】そして、図6(d)に示すように、圧電体膜80及び絶縁体層90の全体パターンをパターニングする。
【0059】以上が膜形成プロセスである。このようにして膜形成を行った後、図6(e)に示すように、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板の異方性エッチングを行い、圧力発生室12等を形成する。
【0060】なお、上述のパターニングの手順は、特に限定されるものではない。
【0061】このように形成された圧電体能動部320と圧力発生室12との平面位置関係及び断面を図7に示す。
【0062】図7(a)に示すように、圧電体膜70及び上電極膜80からなる圧電体能動部320は、基本的には圧力発生室12に対向する領域内に、圧力発生室12の幅より若干狭い幅で形成されている。また、上電極膜80は、圧力発生室12の長手方向一方の端部において、圧力発生室12に対向する領域から周壁に対向する領域まで連続的に延設されており、本実施形態では、圧力発生室12の長手方向一端部に対向する領域に、連結部85が形成されている。
【0063】また、圧力発生室12の長手方向一端部及び周壁に対向する領域では、絶縁体層90は、図7(b)に示すように、圧電体能動部320と同程度の厚さで形成されており、上電極膜80は、絶縁体層90上を接続端子部(図示しない)まで延設されている。
【0064】なお、本実施形態では、絶縁体層90が圧力発生室12の長手方向端部において、圧電体能動部320と同程度の厚さで形成されているが、これに限定されず、例えば、図7(c)に示すように、圧電体膜70の側面、及び下電極膜60の上面に沿って、薄く形成するようにしてもよく、実質的に下電極膜60と上電極膜80とが絶縁されていればよい。また、絶縁体層90の好適な材料としては、上述のように、感光性ポリイミド等を例示したが、本実施形態では圧電体膜70の上面を実質的に覆う必要がないので、例えば、SiO2等の透湿性が低く堅い材料を用いて、耐環境性を向上するようにしてもよい。
【0065】このような構成では、上電極膜80がリード電極の役割を兼ねているが、絶縁体層90により、下電極膜60との短絡が防止されているため、接続端子部から上電極膜80に直接電圧を供給して、下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加することができる。
【0066】したがって、コンタクトホールを形成する必要がないので、コンタクトホール部において膜が厚くなることに起因する変位低下がなく、また、圧電体膜70を圧力発生室12に対向する領域内に設けたので、連結部85近傍でのクラック等の発生が防止でき、変位特性及び信頼性を向上することができる。さらに、上電極膜80がリード電極の役割を兼ねているので、製造工程を減らすことができ、コストを削減等が可能となる。
【0067】また、以上説明した圧電体能動部320及び圧力発生室12等の一連の膜形成及び異方性エッチングは、一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割する。また、分割した流路形成基板10を、封止板20、共通インク室形成基板30、及びインク室側板40と順次接着して一体化し、インクジェット式記録ヘッドとする。
【0068】このように構成したインクジェットヘッドは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口42からインクを取り込み、共通インク室31からノズル開口11に至るまで内部をインクで満たし後、図示しない外部の駆動回路からの記録信号に従い、上電極膜80と下電極膜60との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体膜70をたわみ変形させることにより、圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口11からインク滴が吐出する。
【0069】(実施形態2)実施形態2の圧電体能動部320と圧力発生室12との平面位置関係を図8に示す。
【0070】本実施形態は、図8に示すように、圧力発生室12の長手方向端部に対向する領域、すなわち、連結部85Aの上電極膜80及び絶縁体層90を幅狭に形成した以外は実施形態1と同様である。
【0071】このような構成にすることにより、実施形態1と同様の効果の他、連結部85A近傍での変位の向上を図ることができる。
【0072】なお、本実施形態では、連結部85Aの上電極膜80と絶縁体層90とを幅狭に形成したが、上電極膜80のみを幅狭に形成してもよい。
【0073】(実施形態3)実施形態3の圧電体能動部320と圧力発生室12との平面位置関係を図9に示す。
【0074】本実施形態は、図9に示すように、圧電体能動部320の中央部に連結部85Bを設け、上電極膜80を圧力発生室12の側壁に対向する領域に延設した以外は、実施形態1と同様である。
【0075】このような構成とすることにより、実施形態1と同様の効果の他、駆動時の連結部85B近傍での電流の集中を抑えることができ、圧電体膜70等の破壊を防止することができる。
【0076】(他の実施形態)以上、本発明の各実施形態を説明したが、インクジェット式記録ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0077】例えば、上述した封止板20の他、共通インク室形成板30をガラスセラミックス製としてもよく、さらには、薄肉膜41を別部材としてガラスセラミックス製としてもよく、材料、構造等の変更は自由である。
【0078】また、上述した実施形態では、ノズル開口を流路形成基板10の端面に形成しているが、面に垂直な方向に突出するノズル開口を形成してもよい。
【0079】このように構成した実施形態の分解斜視図を図10、その流路の断面を図11にぞれぞれ示す。この実施形態では、ノズル開口11が圧電振動子とは反対のノズル基板120に穿設され、これらノズル開口11と圧力発生室12とを連通するノズル連通口22が、封止板20,共通インク室形成板30及び薄肉板41A及びインク室側板40Aを貫通するように配されている。
【0080】なお、本実施形態は、その他、薄肉板41Aとインク室側板40Aとを別部材とし、インク室側板40に開口40bを形成した以外は、基本的に上述した実施形態と同様であり、同一部材には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0081】ここで、この実施形態においても、実施形態1〜3と同様に、コンタクトホールを介さず、上電極膜に直接電圧を印加することができ、変位効率を向上することができる。
【0082】勿論、以上説明した各実施形態は、適宜組み合わせて実施することにより、より一層の効果を奏するものであることは言うまでもない。
【0083】また、以上説明した各実施形態は、成膜及びリソグラフィプロセスを応用することにより製造できる薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、基板を積層して圧力発生室を形成するもの、あるいはグリーンシートを貼付もしくはスクリーン印刷等により圧電体膜を形成するもの、又は結晶成長により圧電体膜を形成するもの等、各種の構造のインクジェット式記録ヘッドに本発明を採用することができる。
【0084】さらに、上述した各実施形態では、振動板として下電極膜とは別に弾性膜を設けたが、下電極膜が弾性膜を兼ねるようにしてもよい。
【0085】このように、本発明は、その趣旨に反しない限り、種々の構造のインクジェット式記録ヘッドに応用することができる。
【0086】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、コンタクトホールを形成することなく、圧電体能動部に電圧を印加することができ、圧電体能動部を圧力発生室に対向する領域内に設けたため、変位特性及び信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す図であり、図1の平面図及び断面図である。
【図3】図1の封止板の変形例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態1の薄膜製造工程を示す図である。
【図5】本発明の実施形態1の薄膜製造工程を示す図である。
【図6】本発明の実施形態1の薄膜製造工程を示す図である。
【図7】本発明の実施形態1の要部を示す平面図及び断面図である。
【図8】本発明の実施形態2を説明する要部平面図である。
【図9】本発明の実施形態3を説明する要部平面図である。
【図10】本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図11】本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドを示す断面図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板
11 ノズル開口
12 圧力発生室
50 弾性膜
60 下電極膜
70 圧電体膜
85,85A,85B 連結部
80 上電極膜
90 絶縁体層
320 圧電体能動部
350 下電極除去部
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ノズル開口に連通する圧力発生室の一部を構成し、少なくとも上面が下電極として作用する振動板と、該振動板の表面に形成された圧電体層及び該圧電体層の表面に形成された上電極からなり且つ前記圧力発生室に対向する領域に形成された圧電体能動部とからなる圧電振動子を備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記上電極が前記圧力発生室の周壁に対向する領域まで延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項2】 請求項1において、前記圧電体能動部の前記圧電体層が、前記圧力発生室に対向する領域内に形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項3】 請求項1又は2において、前記振動板が、少なくとも前記圧電体能動部の幅方向両側で前記圧力発生室の縁部に沿った部分に当該圧電体能動部に対応する部分の厚さより薄い薄肉部を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項4】 請求項1〜3の何れかにおいて、前記圧電体能動部の前記圧電体膜の上面周縁部及びその周囲を覆う絶縁体層が形成され、当該絶縁体層上に前記上電極が延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項5】 請求項1〜5の何れかにおいて、前記上電極は、前記圧力発生室の長手方向の少なくとも一方の周壁に対向する領域へ延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項6】 請求項1〜5の何れかにおいて、前記上電極は、前記圧力発生室の幅方向の少なくとも一方側の周壁に対向する領域へ延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項7】 請求項1〜6の何れかにおいて、前記上電極が前記圧力発生室とその周壁との境界を横切る部分近傍の幅が、前記圧力発生室に対向する領域の他の部分より狭くなっていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項8】 請求項1〜7の何れかにおいて、前記上電極の少なくとも前記圧電体層との接触面が、導電性酸化物膜で形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項9】 請求項8において、前記上電極の前記圧電体層との接触面が、IrOx,ReOx,RuOx,SrRuOx、および酸化すず・酸化インジウム系材料からなる群から選択される導電性酸化物材料で形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項10】 請求項1〜9の何れかにおいて、前記圧力発生室がシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成され、前記圧電振動子の各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項1】 ノズル開口に連通する圧力発生室の一部を構成し、少なくとも上面が下電極として作用する振動板と、該振動板の表面に形成された圧電体層及び該圧電体層の表面に形成された上電極からなり且つ前記圧力発生室に対向する領域に形成された圧電体能動部とからなる圧電振動子を備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記上電極が前記圧力発生室の周壁に対向する領域まで延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項2】 請求項1において、前記圧電体能動部の前記圧電体層が、前記圧力発生室に対向する領域内に形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項3】 請求項1又は2において、前記振動板が、少なくとも前記圧電体能動部の幅方向両側で前記圧力発生室の縁部に沿った部分に当該圧電体能動部に対応する部分の厚さより薄い薄肉部を有することを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項4】 請求項1〜3の何れかにおいて、前記圧電体能動部の前記圧電体膜の上面周縁部及びその周囲を覆う絶縁体層が形成され、当該絶縁体層上に前記上電極が延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項5】 請求項1〜5の何れかにおいて、前記上電極は、前記圧力発生室の長手方向の少なくとも一方の周壁に対向する領域へ延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項6】 請求項1〜5の何れかにおいて、前記上電極は、前記圧力発生室の幅方向の少なくとも一方側の周壁に対向する領域へ延設されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項7】 請求項1〜6の何れかにおいて、前記上電極が前記圧力発生室とその周壁との境界を横切る部分近傍の幅が、前記圧力発生室に対向する領域の他の部分より狭くなっていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項8】 請求項1〜7の何れかにおいて、前記上電極の少なくとも前記圧電体層との接触面が、導電性酸化物膜で形成されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項9】 請求項8において、前記上電極の前記圧電体層との接触面が、IrOx,ReOx,RuOx,SrRuOx、および酸化すず・酸化インジウム系材料からなる群から選択される導電性酸化物材料で形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【請求項10】 請求項1〜9の何れかにおいて、前記圧力発生室がシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成され、前記圧電振動子の各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
【図1】
【図2】
【図8】
【図9】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図6】
【図10】
【図11】
【図2】
【図8】
【図9】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図6】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開平11−157070
【公開日】平成11年(1999)6月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−324823
【出願日】平成9年(1997)11月26日
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【公開日】平成11年(1999)6月15日
【国際特許分類】
【出願日】平成9年(1997)11月26日
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
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