説明

インクジェット記録シート及びそれに用いる有機粒子

【課題】 インク吸収性、発色濃度、耐オゾン性に優れたインクジェット記録シート、及びそれに用いる有機粒子を提供すること。
【解決手段】 支持体上に有機粒子を含有する層を少なくとも一層以上有するインクジェット記録シートであって、有機粒子がコア部とシェル部を有する多層構造体であり、コア部を構成する樹脂成分がpH8の水に非膨潤性であり、シェル部を構成する樹脂成分がpH8の水に膨潤性を有するか又は溶解するインクジェット記録シート、
並びに、
インクジェット記録シートに使用する有機粒子であって、コア部とシェル部を有する多層構造体であり、コア部を構成する樹脂成分がpH8の水に非膨潤性であり、シェル部を構成する樹脂成分がpH8の水に膨潤性を有するか又は溶解する有機粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方式を利用したプリンターやプロッターに適用される、インクジェット用記録シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットと呼ばれる記録方式は、印刷や写真に比較して遜色ない画像を得ることが可能で、フルカラーの画像記録分野に広く応用されつつある。フルカラーの画像を記録するため、インクの吐出量を多くすることで解像度の向上、色再現範囲の拡大が図られている。従って吐出量に合ったインク吸収容量の増大が記録シートの重要な技術課題であり、インク吸収性が記録シートに要求される重要な特性である。
【0003】
インクの吸収を確保するために、空隙量の大きな塗工層を設けることが望まれており、この塗工層を形成する塗工組成物として、無機粒子および該無機粒子を結着させる少量のバインダーからなるものが知られている。この塗工組成物は、バインダーが少量であるために無機粒子間に空隙が形成され、インク吸収性が確保できるものである。
【0004】
このような塗工層を形成することでインク吸収性を向上させ、これにより、高画質な画像を得ることが可能となってきたが、写真と比較すると、記録画像の保存性に未だ問題がある。これは、光や、SOx、NOx、酸素、オゾン等の酸化性ガスによる記録画像の退色と考えられている(一般的に、光に対する保存性は耐光性と呼ばれ、酸化性ガスによる保存性は耐ガス性と呼ばれている。特に耐ガス性の評価には、一般的にオゾンガスが使用されるため、該性能は耐オゾン性と通称されている)。
【0005】
ところで、現在広く使用されている記録シートでは、塗工層がインク吸収性向上のため空隙量を増しているので、酸化性ガスとの接触機会が増し、耐オゾン性が低下するという問題を抱えている。また、無機粒子としては通常、シリカやアルミナが使用されているが、該無機粒子の表面活性が高いために、記録画像の耐光性や耐オゾン性が低いという問題がある。
【0006】
また、記録紙表面に光沢を付与する場合には、より微細な無機粒子を選択使用して塗工層を形成することで、表面を平滑にして光沢を付与することが行われている。しかしながら、無機粒子が微細になるほど表面積が劇的に増加するため、さらに表面活性が高くなり、記録画像の耐光性や耐オゾン性がさらに低下するという問題があった。
【0007】
従って、従来の無機粒子を使用した技術の対応では、インク吸収性・耐オゾン性に優れたインクジェット記録シートを得ることは難しい。
【0008】
このような問題点を解決するため、種々の改良技術が提案されており、例えば、特開平7−266689号公報には、ポリアリルアミンを使用することで耐オゾン性に優れた記録媒体の得られることが開示されている。このポリアリルアミンは水溶性のポリマーである。
【0009】
また、特開平8−164664号公報には、シクロアミロースを固定化した無機粒子とバインダーから成る記録シートが開示されている。この記録シートでは、インク中の色素がシクロアミロースに包接されることにより、耐オゾン性が向上する。
【0010】
さらに、特開平9−254526号公報には無機ゾルとポリシロキサンポリマーをバインダー樹脂とするインク受容層が形成されたインクジェット記録シートが開示されている。このインクジェット記録シートでは、無機ポリマーであるポリシロキサンポリマーが、オゾンや紫外線などによる劣化に対して非常に強いため、画像保存性が向上する。
【0011】
このように、特定の有機ポリマーや無機ポリマーを用いて耐オゾン性を改善した記録シートは提案されているが、必ずしも満足しうるものではなかった。
【0012】
このような課題に対して、本発明者らは、WO2003/6251号において、シート状支持体上に有機粒子を含有する層を少なくとも1層以上有し、有機粒子が、水中における粒子径が乾燥状態での粒子径の5倍以上の膨潤性を有するか、あるいは水に対して溶解するものであるインクジェット記録シートを提案している。このインクジェット記録シートは、印刷後のインクによって粒子が膨潤あるいは溶解して空隙が封鎖され、外気と染料の接触が抑制されるため、優れた耐オゾン性を示す。
【0013】
この提案により、耐オゾン性を格段に向上させることはできるが、近年のインクジェットプリンターの高速化、高画質化に伴って、優れた耐オゾン性能を維持しつつも更なるインク吸収性が求められている。
【0014】
【特許文献1】特開平7−266689公報
【特許文献2】特開平8−164664公報
【特許文献3】特開平9−254526公報
【特許文献4】WO2003/6251公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上記の課題、すなわち、耐オゾン性、インク吸収性を解決したインクジェット記録シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは鋭意検討した結果、インクジェット記録シートに使用する有機粒子として、コア部とシェル部を有する多層構造体であり、コア部を構成する樹脂成分がpH8の水に非膨潤性であり、シェル部を構成する樹脂成分がpH8の水に膨潤性を有するか、あるいは溶解する有機粒子を用いれば、驚くべきことに、インク吸収性に優れ、耐オゾン性にも非常に優れたインクジェット記録シートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、
支持体上に有機粒子を含有する層を少なくとも一層以上有するインクジェット記録シートであって、有機粒子がコア部とシェル部を有する多層構造体であり、コア部を構成する樹脂成分がpH8の水に非膨潤性であり、シェル部を構成する樹脂成分がpH8の水に膨潤性を有するか又は溶解するインクジェット記録シート、
並びに、
インクジェット記録シートに使用する有機粒子であって、コア部とシェル部を有する多層構造体であり、コア部を構成する樹脂成分がpH8の水に非膨潤性であり、シェル部を構成する樹脂成分がpH8の水に膨潤性を有するか又は溶解する有機粒子である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、インク吸収性、耐オゾン性に優れたインクジェット記録シート、及び該記録シートに使用する有機粒子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のインクジェット記録シートは、支持体上に有機粒子を含有する層を少なくとも1層以上有する。
【0020】
本発明のインクジェット記録シートにおける有機粒子は、乾燥状態においては粒子形状を保持して粒子間での空隙を形成することができるため、従来技術で使用されるシリカやアルミナの無機粒子と同様な空隙を形成する成分となり、その特徴から優れたインク吸収性を示す。さらに印刷後はインクにより粒子が膨潤あるいは溶解して空隙が閉鎖され、外気と染料の接触が抑制されるため、優れた耐オゾン性を示すものである。
【0021】
以下、詳細に説明する。
【0022】
[有機粒子]
本発明の有機粒子は、コア部とシェル部を有する多層構造体であり、かつ、コア部を構成する樹脂成分がpH8の水に非膨潤性であり、シェル部を構成する樹脂成分がpH8の水に膨潤性を有するか、あるいは溶解する有機粒子である。
【0023】
本発明でいう「pH8の水に膨潤性を有する」とは、樹脂成分がインク中に含まれるアルカリ性水を吸収して体積が1.2倍以上に増加することを言う。膨潤したときの好ましい体積増加率は2倍以上であり、より好ましくは5倍以上である。また、「pH8の水に非膨潤性である」とは、樹脂成分が同水を殆ど吸収せず、体積増加率が1.2倍未満の状態のことを言う。また、「pH8の水により溶解する」とは、樹脂成分とpH8の水が平衡状態で単一の相をなしていることを言う。
【0024】
本発明における有機粒子の重量平均粒子径の測定は光散乱法により測定できる。例えば、レーザー粒径解析システム LPA−3000/3100(大塚電子株式会社)、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2000A(島津製作所)等で測定することができる。
【0025】
なお、水中における有機粒子の膨潤粒子径または溶解性の評価は、pH8に調整された水を使用し、水の温度は25℃で、水中の浸漬時間は12時間で行う。
【0026】
本発明の有機粒子の重量平均粒子径は通常、乾燥状態において20nm〜1000nmであり、好ましくは20nm〜500nm、より好ましくは20nm〜200nmである。重量平均粒子径が上記下限以上においてはインク吸収性が良好であり、重量平均粒子径が上記上限以下においては、同じ重量中における全有機粒子の合計表面積が増加するため、インクとの接触面積が増加して十分な粒子膨潤あるいは溶解が得られ、耐オゾン性に対する効果が発揮される。
【0027】
本発明の有機粒子のコア部を構成する樹脂成分は、pH8の水に非膨潤性を有する有機粒子であり、このような機能を具備するためには、コア部を構成する重合体成分組成比が、重合性二重結合を有するカルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位(a)が0〜9重量%、その他共重合可能なモノマーに由来する構成単位(b)が100〜91重量%の範囲であり、好ましくは重合性二重結合を有するカルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位(a)が0〜5重量%、その他共重合可能なモノマーに由来する構成単位(b)が100〜5重量%の範囲である。
【0028】
コア部の樹脂成分における(a)の重合体成分組成比が上記上限以下においては非膨潤性が良好であり、好ましい。
【0029】
本発明の有機粒子のシェル部を構成する樹脂成分は、pH8の水に膨潤性を有するか、あるいは溶解性を有する有機粒子であり、このような機能を具備するためには、シェル部を構成する重合体成分組成比が、重合性二重結合を有するカルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位(a)が10〜60重量%、その他共重合可能なモノマーに由来する構成単位(b)が90〜40重量%の範囲であり、好ましくは重合性二重結合を有するカルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位(a)が15〜60重量%、その他共重合可能なモノマーに由来する構成単位(b)が85〜40重量%の範囲である。
【0030】
シェル部の樹脂成分における(a)の重合体成分組成比が上記下限以上においてはインクによる樹脂成分の膨潤性、又は溶解性が良好であり、また(a)の重合体成分組成比が上記下限以下においては重合安定性が良好であり、好ましい。
【0031】
またコア部とシェル部の比率は、重量比で95:5〜5:95の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは90:10〜10:90の範囲である。
【0032】
以下、有機粒子を構成するモノマー成分(a)および(b)について、具体的に説明する。
【0033】
(a)の重合性二重結合を有するカルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、
アクリル酸、メタクリル酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−アタクリロイロキシエチルフタル酸、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水フマル酸等が挙げられる。
なお、(a)としては、特にアクリル酸、メタクリル酸が耐オゾン性に優れたものとなるためより好ましい。
【0034】
(b)のその他共重合可能なモノマーとしては、例えば、
アミノ基含有(メタ)アクリレート系モノマー;N、N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N、N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N、N−ジメチルアミノプロピルアクリレート、N、N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N、N−t−ブチルアミノエチルアクリレート、N、N−t−ブチルアミノエチルメタクリレート、N、N−モノメチルアミノエチルアクリレート、N、N−モノメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノアルキルアクリレート又はアミノアルキルメタクリレート類;及び/又はこれらのハロゲン化メチル、ハロゲン化エチル、ハロゲン化ベンジル等による4級塩化物等、
アクリルアミド類;アクリルアミド、メタアクリルアミド、メチロールメタアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等、
またアクリル酸アルキルエステル系モノマー及び/又はメタクリル酸アルキルエステル系モノマーであり、その具体例としては、例えば、アクリル酸エステル類;メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等、
メタクリル酸エステル類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等、
その他の炭素原子数1乃至12のアルキルアクリレート、その他の炭素原子数1乃至12のメタクリレート等が上げられる。
【0035】
また、水酸基含有(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート等の水酸基含有アクリレート又はメタクリレート類が挙げられる。
【0036】
さらに、スチレン、2−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル類;、
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;
塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;
塩化ビニル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド、クロロプレン、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、クロロプレン、ビニルピロリドン、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、アリルグリシジルエーテル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、
エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、アリルメタアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート、アリルメルカプタン等、
2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−(2−メタクリロイルオキシ)エトキシベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0037】
(b)のモノマーとしてはこれらの1種、又は2種以上を選択することができる。(b)のモノマーとしてより好ましくは、スチレン及び下記一般式(化1)で表されるモノマーである。
【0038】
【化1】

【0039】
〔式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Xはメチル基、エチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、イソボロニル基を表す。〕
【0040】
[有機粒子のガラス転移温度(Tg)]
本発明の有機粒子のガラス転移温度としては、40℃以上が好ましく、より好ましくは60℃〜250℃、さらに好ましくは60℃〜200℃である。ガラス転移温度が上記下限以上においては有機粒子の変形が少なく微細な粒子間空隙が維持できるため、優れたインク吸収性が得られる。
【0041】
なお、本発明におけるガラス転移温度(Tg)は、共重合成分としての単量体単独重合体のTgおよび単量体組成比から、質量分率によってフォクス(FOX)の式より算出することができる。単量体単独重合体のTgについては、POLYMER HANDBOOK(A WILEY-INTERSCIENCE PUBLICATION)に多数の測定値が掲載されている。
【0042】
[有機粒子の製造方法]
本発明の有機粒子は、公知の乳化重合法、あるいは機械乳化法に基づき製造することができる。例えば乳化重合法では、分散剤と開始剤の存在下で、各種モノマーを一括で仕込み重合する方法、モノマーを連続的に供給しながら重合する方法がある。その際の重合温度としては通常30〜90℃であり、一般的にエマルションと呼ばれる実質的に有機粒子の水分散系が得られる。乳化重合法によって得られる有機粒子の水分散系は、少量の分散剤で非常に安定で、且つ粒子径の非常に小さいものが容易に得られるという点で優れている。
【0043】
ここで好ましく使用される分散剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、水溶性ポリマー等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を選択することができる。以下、これらについて詳しく説明する。
【0044】
アニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウムジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、tert−オクチルフェノキシエトキシポリエトキシエチル硫酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0045】
カチオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0046】
両性界面活性剤の具体例としては、例えば、
ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート、アルキルアミングアニジンポリオキシエタノール、アルキルピコリニウムクロライド等が挙げられる。
【0047】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、tert−オクチルフェノキシエチルポリエトキシエタノール、ノニルフェノキシエチルポリエトキシエタノール等が挙げられる。
【0048】
水溶性ポリマーの具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、変成ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0049】
分散剤の使用量は特に制限されないが、通常、共重合させるモノマーの全重量を基準として0.02〜10重量%、より好ましくは0.02〜5重量%、最も好ましくは0.02〜3重量%である。
【0050】
重合に使用される開始剤としては、通常のラジカル開始剤が使用でき、例えば、過酸化水素;過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウム等の過硫酸塩;クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(N−フェニルアミジノ)プロパン〕二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−〔N−(4−クロロフェニル)アミジノ〕プロパン}二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−〔N−(4−ヒドロキシフェニル)アミジノ〕プロパン}二塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(N−ベンジルアミジノ)プロパン〕二塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(N−アリルアミジノ)プロパン〕二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−〔N−(2−ヒドロキシエチル)アミジノ〕プロパン}二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル〕プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−〔2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕、2,2’−アゾビス(イソブチルアミド)二水和物、等のアゾ化合物;あるいはこれらと鉄イオン等の金属イオン及びナトリウムスルホキシレート、ホルムアルデヒド、ピロ亜硫酸ソーダ、亜硫酸水素ナトリウム、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤との組み合わせによるレドックス開始剤等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を選択することができる。
【0051】
一般的な開始剤の使用量は、共重合させるモノマーの全重量を基準として0.01〜5重量%である。
【0052】
また、必要に応じてt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、アリルスルフォン酸、メタアリルスルフォン酸及びこれ等のソーダ塩等のアリル化合物などを分子量調節剤として使用することも可能である。これら連鎖移動剤を使用することで有機粒子の分子量を調節することが可能で、その量や種類は水膨潤性又は溶解性に優れるように適時選択することができる。
【0053】
本発明の有機粒子の特徴であるコア部とシェル部を有する多層構造体を得る方法は、予めコア部を構成する有機粒子の重合反応を完結させた後、この有機粒子の存在下にシェル部を構成する成分を重合反応させる、シード乳化重合法により得ることができる。
【0054】
[支持体]
本発明において、支持体としては、従来からインクジェット用記録シートに用いられる支持体、例えば、普通紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、樹脂被服紙、樹脂含浸紙、非塗工紙、塗工紙等の紙支持体、両面又は片面をポリエチレン及び/又はチタン等の白色顔料を練り込んだポリエチレン等のポリオレフィンで被覆した紙支持体、プラスチック支持体、不織布、布、織物、金属フィルム、金属板、及びこれらを貼り合わせた複合支持体を用いることができる。
【0055】
プラスチック支持体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリイミド、ポリカーボネート、セロファン、ポリナイロン等のプラスチックシート、フィルム等が好ましく使用される。これらのプラスチック支持体は透明なもの、半透明なもの、及び不透明なものを用途に応じて適宜使い分けることができる。
【0056】
また支持体には白色のプラスチックフィルムを用いることも好ましい。白色のプラスチック支持体としては、少量の硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛などの白色顔料をプラスチックに含有させたものや、微細な空隙を多数設けて不透明性を付与した発泡プラスチック支持体、及び白色顔料(酸化チタン、硫酸バリウム)を有する層を設けた支持体を用いることができる。
【0057】
本発明においては支持体の形状は限定されないが、通常用いられるフィルム状、シート状、板状等の他に、飲料缶のような円柱状、CDやCD−R等の円盤状、その他複雑な形状を有するものも支持体として使用できる。
【0058】
本発明のインクジェット記録シートには有機粒子が使用されているため、印刷されるまでは無機粒子と同様な粒子間の空隙を維持した塗工層が形成できる。さらに、印刷後にインクによって有機粒子のシェル部を構成する樹脂成分が膨潤あるいは溶解し粒子間空隙が閉鎖されるため、ガスの進入が抑制され耐オゾン性が優れたものになると考えられる。また、非膨潤性のコア部が存在するためにインクの吸収性にも優れていると考えられる。また、無機粒子の場合には、表面強度を維持するために粒子同士を結着させるバインダーが必須であるが、バインダーは粒子間空隙を埋めて空隙率を低下させ、インク吸収性を悪化させることになる。これに対し、本発明の有機粒子は無機粒子と異なり、粒子表面のみがわずかに融着して粒子間空隙と表面強度を両立することができるため、有機粒子のみ、つまりは有機粒子を含有する層における該有機粒子の含有量が100重量%であっても、優れたインク吸収性を維持できるという、無機粒子と異なる特徴も有している。
【0059】
[有機粒子含有層]
本発明では、支持体表面に、上記した有機粒子を含む層が少なくとも1層以上形成されてなる。
【0060】
有機粒子を含有する層における該有機粒子の含有比率は、20〜100重量%であり、より好ましくは40〜100重量%であり、更に好ましくは60〜100重量%である。前記下限以上であると、耐オゾン性に優れるために好ましい。
【0061】
この有機粒子を含有する層には、前記した有機粒子以外に無機粒子を含有させることも可能である。無機粒子としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、リトボン、ゼオライト、水酸化マグネシウム等が挙げられる。高い空隙率を得てインク吸収性を向上させるためには、シリカやアルミナが好ましく、より好ましくは1次粒子径が100nm以下の微粒子である。
【0062】
本発明の有機粒子が含有される層に、これらの無機粒子を含有させる場合には、該層100重量部に対して、無機粒子の合計が80重量部以下、好ましくは60量部以下、より好ましくは40重量部以下である。
【0063】
また該有機粒子を含有する層には、通常インクジェット記録用シートに使用されている各種添加剤や各種添加材を併用しても良い。例えばバインダー機能を有するポリマーとして、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、澱粉、ゼラチン、カゼイン等の水溶性ポリマーが挙げられる。
【0064】
さらに水不溶性ポリマーの水分散体としては、例えば、アクリル系ポリマー、スチレン−アクリル系ポリマー、MBR系ポリマー、SBR系ポリマー、ウレタン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、EVA系ポリマーの水分散体等が挙げられる。
【0065】
これらバインダー機能を有するポリマーを使用する場合、その使用量は有機粒子を含有する層100重量部に対して0〜40重量部が好ましく、より好ましくは0〜30重量部、さらに好ましくは0〜20重量部である。バインダー量が上記上限以下であれば、インク吸収性が良好であるために好ましい。
【0066】
さらに、耐水にじみ性や発色濃度を向上させる目的で、カチオン系水溶性ポリマーを含有させることも可能である。
【0067】
カチオン系水溶性ポリマーとしては、例えば、カチオン化ポリビニルアルコール、カチオン化澱粉、カチオン化ポリアクリルアミド、カチオン化ポリメタクリルアミド、ポリアミドポリウレア、ポリエチレンイミン、アリルアミン又はその塩の共重合体、エピクロルヒドリン−ジアルキルアミン付加重合体、ジアリルアルキルアミン又はその塩の重合体、ジアリルジアルキルアンモニウム塩の重合体、ジアリルアミン又はその塩と二酸化イオウ共重合体、ジリルジアルキルアンモニウム塩−二酸化イオウ共重合体、ジアリルジアルキルアンモニウム塩とジアリルアミン又はその塩もしくは誘導体との共重合体、ジアルキルアミノエチルアクリレート4級塩の重合体、ジアルキルアミノエチルメタクリレート4級塩の重合体、ジアリルジアルキルアンモニウム塩−アクリルアミド共重合体、アミン−カルボン酸共重合体等が挙げられる。
【0068】
さらに、その他に、本発明の有機粒子を含有する層には、帯電防止剤、酸化防止剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、耐水化剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、蛍光増白剤、着色顔料、着色染料、浸透剤、発泡剤、離型剤、抑泡剤、消泡剤、流動性改良剤、増粘剤、顔料分散剤、カチオン性定着剤等を含んでいてもよい。
【0069】
[記録シートの構成]
本発明におけるインクジェット記録シートの好ましい構成例としては、有機粒子の含有される層が、インクの受理に関わる層に使用されていることである。例えば、支持体上に有機粒子を含有する層のみを設けた単層構造や、支持体上にインク受容層を設け、その上層に本発明である有機粒子を含有する層を設ける方法、本発明の有機粒子を含有する層を設けた後に、その上層に別の層を設けることによって構成される、多層構造等が挙げられる。中でも、支持体上にインク受容層を設け、その上層に本発明である有機粒子を含有する層がインク受容層の上層にある場合、特に耐ガス性に優れるため好ましい。
【0070】
本発明の有機粒子を含有する層の量は、通常、シート状支持体上に、坪量として通常0.1〜50g/mであるが、特に制限されるものではない。
【0071】
[記録シートの製造方法]
本発明のインクジェット記録シートは、支持体上または支持体上にインク受容層を設け、その上層に本発明である有機粒子を含有する層に塗工組成物を塗布し、これを乾燥させて層を形成することによって製造することができる。塗工液の塗布方法に限定はなく、例えば、エアナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、ブレードコーター、スライドホッパーコーター、グラビアコーター、フレキソグラビアコーター、カーテンコーター、エクストルージョンコーター、フローティングナイフコーター、コンマコーター、ダイコーター等の従来既知の塗布方法を用いることができ、続けて乾燥される。
【実施例】
【0072】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。又、実施例において示す部及び%は、特に明示しない限り重量部及び重量%を示す。
【0073】
<有機粒子の作製>
[製造例1:有機粒子分散系(A1)の製造]
脱イオン水513.4部とラウリルスルホン酸ソーダ1.5部を反応容器に仕込み、窒素気流下で70℃に昇温した後、過硫酸アンモニウム1.7部を添加した。これとは別に、スチレン160.5部、t−ブチルメタクリレート160.5部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート17.1部、ジビニルベンゼン3.4部を脱イオン水136.6部中にラウリルスルホン酸ソーダ1.7部を使って乳化させた乳化混合物を作り、この乳化混合物を4時間で反応容器に滴下した。その後、更に同温度で4時間保持して重合を完結させた。
【0074】
その結果、不揮発分35%、pH3で有機粒子が水に分散したエマルション組成物を得た。
【0075】
[製造例2:有機粒子分散系(A2)の製造]
脱イオン水689.9部とステアリルトリメチルアンモニウムクロライド0.97部を反応容器に仕込み、窒素気流下で70℃に昇温した後、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩0.97部を添加した。これとは別に、スチレン91.3部、t−ブチルメタクリレート91.3部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート9.7部、ジビニルベンゼン1.9部を脱イオン水77.7部中にステアリルトリメチルアンモニウムクロライド3.5部を使って乳化させた乳化混合物を作り、この乳化混合物を4時間で反応容器に滴下した。その後、更に同温度で4時間保持して重合を完結させた。
【0076】
その結果、不揮発分20%、pH3で有機粒子が水に分散したエマルション組成物を得た。
【0077】
[製造例3:有機粒子分散系(A3)の製造]
脱イオン水613.1部に製造例1で得た有機粒子分散系(A1)330.1部をシード粒子として反応容器に仕込み、窒素気流下で70℃に昇温した後、過硫酸アンモニウム0.2部を添加した。これとは別に、メチルメタクリレート21.8部、ブチルアクリレート5.5部、メタクリル酸6.9部、n−トデシルメルカプタン0.2部を脱イオン水13.7部中にラウリルスルホン酸ソーダ0.2部を使って乳化させた乳化混合物を作り、この乳化混合物を4時間で反応容器に滴下した。その後、更に同温度で4時間保持して重合を完結させた。
【0078】
その結果、不揮発分15%、pH3で有機粒子が水に分散したエマルション組成物を得た。
【0079】
[製造例4:有機粒子分散系(A4)の製造]
脱イオン水613.1部に製造例1で得た有機粒子分散系(A1)330.1部をシード粒子として反応容器に仕込み、窒素気流下で70℃に昇温した後、過硫酸アンモニウム0.2部を添加した。これとは別に、メチルメタクリレート15.0部、ブチルアクリレート5.5部、メタクリル酸13.6部、n−トデシルメルカプタン0.2部を脱イオン水13.7部中にラウリルスルホン酸ソーダ0.2部を使って乳化させた乳化混合物を作り、この乳化混合物を4時間で反応容器に滴下した。その後、更に同温度で4時間保持して重合を完結させた。
【0080】
その結果、不揮発分15%、pH3で有機粒子が水に分散したエマルション組成物を得た。
【0081】
[製造例5:有機粒子分散系(A5)の製造]
脱イオン水612.5部に製造例2で得た有機粒子分散系(A2)331.6部をシード粒子として反応容器に仕込み、窒素気流下で70℃に昇温した後、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩0.2部を添加した。これとは別に、メチルメタクリレート21.8部、ブチルアクリレート5.5部、メタクリル酸6.9部、n−トデシルメルカプタン0.2部を脱イオン水13.4部中にラウリルスルホン酸ソーダ0.2部を使って乳化させた乳化混合物を作り、この乳化混合物を4時間で反応容器に滴下した。その後、更に同温度で4時間保持して重合を完結させた。
【0082】
その結果、不揮発分15%、pH3で有機粒子が水に分散したエマルション組成物を得た。
【0083】
[製造例6:有機粒子分散系(A6)の製造]
脱イオン水582.1部とラウリルスルホン酸ソーダ0.9部を反応容器に仕込み、窒素気流下で70℃に昇温した後、過硫酸アンモニウム1.5部を添加した。これとは別に、メチルメタクリレート188.6部、ブチルアクリレート47.2部、メタクリル酸58.9部、n−トデシルメルカプタン1.5部を脱イオン水117.9部中にラウリルスルホン酸ソーダ1.5部を使って乳化させた乳化混合物を作り、この乳化混合物を4時間で反応容器に滴下した。その後、更に同温度で4時間保持して重合を完結させた。
【0084】
その結果、不揮発分30%、pH3で有機粒子が水に分散したエマルション組成物を得た。
【0085】
[製造例7:有機粒子分散系(A7)の製造]
脱イオン水613.1部に製造例1で得た有機粒子分散系(A1)330.1部をシード粒子として反応容器に仕込み、窒素気流下で70℃に昇温した後、過硫酸アンモニウム0.2部を添加した。これとは別に、メチルメタクリレート21.8部、ブチルアクリレート5.5部、スチレン6.9部、n−トデシルメルカプタン0.2部を脱イオン水13.7部中にラウリルスルホン酸ソーダ0.2部を使って乳化させた乳化混合物を作り、この乳化混合物を4時間で反応容器に滴下した。その後、更に同温度で4時間保持して重合を完結させた。
【0086】
その結果、不揮発分15%、pH3で有機粒子が水に分散したエマルション組成物を得た。
【0087】
<インクジェット記録シートの作製>
[塗布液(B1)の作成]
インクジェットインク受容層用塗布液としてまず、気相法シリカ(アエロジル200;日本アエロジル社製)を含む水分散液を、高圧ホモジナイザーを用いて分散した。次に、この分散液中に含まれる気相法シリカ100部に対して、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重縮合物(シャロールDC902P;第一工業製薬社製)4部、ポリビニルアルコール(PVA235;クラレ社製)20部、ホウ酸4部になるように添加して、固形分濃度12%の塗布液(B1)を得た。
【0088】
[インクジェットインク受容シート(C1)の作成]
両面をポリエチレンで被覆した紙支持体(厚み230μm)上に、上記塗布液(B1)を、ワイヤーバーを用いて乾燥膜厚35μmになるように塗布、乾燥して、インクジェットインク受容シート(C1)を得た。
【0089】
[実施例1]
上記インクジェットインク受容シート(C1)上に、製造例3で得られた有機粒子分散系(A3)を、ワイヤーバーを用いて固形分換算で1g/mの塗工量になるように塗布、乾燥して、実施例1のインクジェット記録シートを得た。
【0090】
[実施例2]
実施例1において、有機粒子分散系(A3)を(A4)に変更した以外は実施例1と同じ方法で作成し、実施例2のインクジェット記録シートを得た。
【0091】
[実施例3]
実施例1において、有機粒子分散系(A3)を(A5)に変更した以外は実施例1と同じ方法で作成し、実施例2のインクジェット記録シートを得た。
【0092】
[実施例4]
製造例5で得られた有機粒子分散物(A5)と、カチオン性コロイダルシリカ20%分散液(スノーテックス AK;日産化学工業社製)と、ポリビニルアルコール(PVA117;クラレ社製)とが、固形分重量比で「87:10:3」になるように調合した。このようにして得られた塗布液をインクジェットインク受容シート(C1)の上に、固形分換算で1g/mの塗工量になるようにワイヤーバーで塗布して、実施例4のインクジェット記録シートを得た。
【0093】
[比較例1]
実施例1において、有機粒子分散系(A3)を(A6)に変更した以外は実施例1と同じ方法で作成し、比較例1のインクジェット記録シートを得た。
【0094】
[比較例2]
実施例1において、有機粒子分散系(A3)を(A7)に変更した以外は実施例1と同じ方法で作成し、比較例2のインクジェット記録シートを得た。
【0095】
[評価方法]
以下に、得られた有機粒子及び記録シートの評価方法について記述する。
【0096】
<有機粒子水膨潤性の測定方法>
まず有機粒子分散系のpHをpH3に調整したときの粒子径(重量平均粒子径)を(n1)とし、次に1%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8に調整したときの粒子径(重量平均粒子径)(n2)から、下記の式1に従って樹脂成分の体積膨潤倍率(m1)を算出した。
【0097】
体積膨潤率(m1)=(n23/n13
【0098】
またこの時の有機粒子が多層構造体の場合は、コア部を構成する粒子の有機粒子分散系のpHをpH3に調整したときの粒子径を(n3)、コア部を構成する粒子の樹脂成分の膨潤倍率を(m1)とし、下記の式2に従ってシェル部を構成する樹脂成分の膨潤倍率(m2)を算出した。
【0099】
シェル部膨潤倍率(m2)=(n23−m1・n13)/(n13−m1・n13
【0100】
また、樹脂成分の体積が測定されなかった場合、若しくは(m1及びm2)が0.1以下の場合は樹脂成分が溶解したと判定した。
【0101】
なお、粒子径はレーザー粒径解析システム LPA−3000/3100(大塚電子株式会社)を用いて測定した。
【0102】
<有機粒子のイオン性測定方法>
本発明の有機粒子分散系のpHをpH3に調整したものと、1%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8に調整したもののゼータ電位をそれぞれ測定した。このときの水中におけるゼータ電位が0mV以上(+)である場合は「カチオン性」、ゼータ電位が0mV以下(−)である場合は「アニオン性」とした。
【0103】
なお、本明細書におけるゼータ電位測定は、ZetaPotential/ParticleSizer380ZLS(NICOMP社製)等により測定することができる。
【0104】
<インク吸収性の測定方法>
市販のインクジェットプリンター(PM950C;セイコーエプソン社製)を用いて、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの各色を縦方向にベタ印刷し、プリンターから排出された直後に、上部にPPC用紙を押しつけて、インクがPPC用紙へ転写される度合いを目視で評価した。評価基準は以下の通りである。
【0105】
◎:インクの転写が全くなく、インク吸収性に優れる。
○:インクの転写が殆どなく、インク吸収性に優れる。
△:インクの転写があるが、実用上の限度内である。
×:インクが全く吸収されていない。
【0106】
<耐オゾン性の測定方法>
市販のインクジェットプリンター(PM950C;セイコーエプソン社製)を用いて、シアン(型番ICC21:インクのpH8.8)のベタ印刷を行った記録シートを、オゾン導入口と排出口のついたガラス製容器中に入れ、オゾン濃度33ppmの環境下で1.5時間保管した。保管前と保管後のシアン濃度の色差ΔEを、分光色差計(NF333;日本電色工業社製)を用いて測定した。評価基準は以下の通りである。
【0107】
◎:ΔEが5未満以下であり、耐オゾン性に非常に優れる。
○:ΔEが5以上15未満であり、耐オゾン性に優れる。
△:ΔEが15以上30未満であり、耐オゾン性に劣る。
×:ΔEが30以上であり、耐オゾン性が悪い。

【0108】
【表1】

【0109】
【表2】


【0110】
表2に示した通り、実施例1〜4では優れたインク吸収性、耐オゾン性が得られた。一方、比較例1においては、有機粒子が水膨潤性樹脂成分のみから構成されており、インク吸収性と耐オゾン性の双方を満足するには至らなかった。また、比較例2においては、有機粒子が水膨潤性を有していないために耐オゾン性が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の有機粒子を用いたインクジェット記録シートは、インク吸収性に優れ、且つ、耐オゾン性に優れているので、インクジェット記録シートとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に有機粒子を含有する層を少なくとも一層以上有するインクジェット記録シートであって、有機粒子がコア部とシェル部を有する多層構造体であり、コア部を構成する樹脂成分がpH8の水に非膨潤性であり、シェル部を構成する樹脂成分がpH8の水に膨潤性を有するか又は溶解性するインクジェット記録シート。
【請求項2】
支持体がシート状支持体である請求項1に記載のインクジェット記録シート。
【請求項3】
有機粒子のシェル部を構成する重合体が、重合性二重結合を有するカルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位(a)を10〜60重量%、及びその他共重合可能なモノマーに由来する構成単位(b)を90〜40重量%含む請求項1に記載のインクジェット記録シート。
【請求項4】
インクジェット記録シートに使用する有機粒子であって、コア部とシェル部を有する多層構造体であり、コア部を構成する樹脂成分がpH8の水に非膨潤性であり、シェル部を構成する樹脂成分がpH8の水に膨潤性を有するか又は溶解性する有機粒子。
【請求項5】
有機粒子のシェル部を構成する重合体が、重合性二重結合を有するカルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位(a)を10〜60重量%、及びその他共重合可能なモノマーに由来する構成単位(b)を90〜40重量%含む請求項4に記載の有機粒子。


【公開番号】特開2006−335004(P2006−335004A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164592(P2005−164592)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】