説明

インクジェット記録シート

【課題】 透明性が高く、耐水性にも優れたインクジェット記録シートを提供する。
【解決手段】 インクジェット記録シートは、支持体1と、離型層2と、透明層3と、受理層4とからなるものである。支持体1の上面に離型層2が設けられ、離型層2の上面に透明層3が設けられている。透明層3の上面にはさらに受理層4が形成されている。絵柄5は、受理層4の表面の一部に形成される。この受理層4は成分としてポリビニルアルコール、ポリエステルアクリレート、エタノール、水を含み、それぞれの含有量は重量%で表示して、ポリビニルアルコール3重量%以上12重量%以下、ポリエステルアクリレート20重量%以上40重量%以下、エタノール10重量%以上25重量%以下、水30重量%以上60重量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットを用いた印刷等に使用されるインクジェット記録シートに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットを用いた印刷は現在様々な分野に用いられており、特に、インクジェット記録によるとカラー化が容易であるため、近年急速に普及している。このインクジェット記録に用いられる記録シートとしては、通常の紙を用いる場合もあるが、OHP用フイルムやバックライトディスプレイ用フイルムなどのように透明性なシートを用いる場合も多く、この場合には記録シートの透明性が可視光の波長帯域に亘って優れていることが求められる。
【0003】
インクジェット記録においては、インクを受容するための受容層が設けられているが、この受容層の機能として、液状インクを早く吸収して精細な画像を得ることが必要であり、また、インクの付かない受容層部分は、可視光領域全体の光透過をさせることでくすみや不要な着色のない高い透明性が要求される。
このような目的で作製されたインクジェット記録シートの一例が、特許文献1に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−289070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のインクジェット記録シートは、透明支持体およびその上に設けられた色材受容層からなる記録用シートであって、該色材受容層は平均粒子径が200nm以下の架橋されたポリマー微粒子と水溶性樹脂とからなり、かつ該記録用シートの透過率が80%以上であることを特徴とするものである。
このインクジェット記録シートにおいては、平均粒子径が200nm以下の架橋されたポリマー微粒子と水溶性樹脂とからなる色材受容層を形成することによって、優れたインキ吸収能を実現してインキ写り性を良好とし、また、無機微粒子を使用しなくても、良好なインキ写り性を示すため透明性を高くすることが可能であるとしている。
【0006】
架橋されたポリマー微粒子を用いると、確かに、インキ吸収性の改善や、インキ写り性の改善には効果的であると言える。しかし、これらの効果は、透過性の改善とは表裏の関係となってしまい、架橋剤によって濁りを生じてしまうため、高いレベルで透過率を維持することができなくなる。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、従来のインクジェット記録シートと比較しても透明性が極めて高く、耐水性、耐侯性にも優れたインクジェット記録シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、本発明のインクジェット記録シートは、支持体の片面に離型層が形成され、前記離型層の上面に透明層が積層され、前記透明層の上面には、絵柄が印刷される受理層が積層されたインクジェット記録シートであって、前記支持体は離型層によって剥離可能に形成され、前記受理層の組成がポリビニルアルコール3重量%以上12重量%以下、ポリエステルアクリレート20重量%以上40重量%以下、エタノール10重量%以上25重量%以下、水30重量%以上60重量%以下であり、光透過率が波長380nmから780nmの範囲に亘って90%以上であることを特徴とする。
【0009】
受理層の組成を上記の比率としたことにより、受理層の光透過率が波長380nmから780nmの範囲に亘って90%以上となり、可視光領域の全域において透明性が極めて高いインクジェット記録シートを実現できる。
【0010】
受理層の組成については、ポリビニルアルコールが3重量%未満であると吸水性が低下して好ましくなく、12重量%を超えると吸湿性が強くなり画像の滲みが出やすくなって好ましくない。ポリエステルアクリレートが20重量%未満であると接着性が弱く、透明層との接着強度が弱くなって好ましくなく、40重量%を超えると粘着力が強く印刷層がベタベタとなって好ましくない。エタノールが10重量%未満であるとアクリル樹脂の溶解不良となって好ましくなく、25重量%を超えるとアクリル樹脂が固まりにくくなって好ましくない。水が30重量%未満であるとポリマーの粘性が増加し塗布作業性が悪くなって好ましくなく、60重量%を超えるとポリマーの粘度が低すぎて塗布作業性が悪くなって好ましくない。
【0011】
受理層は絵柄が印刷される層であるため、絵柄に含まれる水分を吸収しやすい構造となっており、用途によっては受理層のみでは耐水性が十分ではない場合がある。そのため、透明層を形成することによって、耐水性を確保し、受理層をオーバーコートすることによって新たに耐侯性を確保することができる。
【0012】
本発明においては、前記受理層の厚さは、20μm以上60μm以下であることを特徴とする。
受理層の厚さが20μm未満であると、インク吸水量が充分でなく絵柄輪郭に滲みが発生しやすくなって好ましくなく、一方、60μmを超えると高い透過率を確保しにくくなるとともに、後述する実施形態1のようなネイルアートで使用する場合に、記録シート自体が厚くなりすぎて爪との接着時に違和感・異物感が発生して好ましくない。
【0013】
本発明においては、前記透明層と前記受理層との接着強度は、前記透明層と前記離型層との接着強度より大きいことを特徴とする。
透明層は受理層の耐水性を補強する機能を有するものであるため、透明層と受理層とは一体となっていることが必要であり、透明層は受理層となじみの良い物質で形成される。一方、透明層と受理層の積層体を支持体から剥離して使用する用途を考慮すると、透明層は離型層とはなじみの悪い物質で形成される。以上のことから、透明層と前記受理層との接着強度は、前記透明層と前記離型層との接着強度より大きいことが必要となる。
【0014】
本発明においては、前記透明層の厚さは15μm以下であることを特徴とする。透明層の厚さが15μmを超えると透過率が減少し、塗布後の乾燥状態が悪くなって好ましくない。
【0015】
本発明においては、絵柄印刷に用いられるインクは、染料タイプインクまたは顔料タイプインクのいずれかから適宜選択できる。顔料タイプインクでの印刷の場合には、表層に残る絵柄が厚肉となり濃度の濃い精細画像を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、架橋剤を用いずに受理層を形成しているため、濁りがなく透明性を高いレベルで維持することができ、耐水性、耐侯性にも優れたインクジェット記録シートを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明のインクジェット記録シートをその実施形態に基づいて説明する。
図1に、本発明の実施形態に係るインクジェット記録シートの構成を示す。図1において、インクジェット記録シートは、支持体1と、離型層2と、透明層3と、受理層4とからなるものである。支持体1の上面に離型層2が設けられ、離型層2の上面に透明層3が設けられている。透明層3の上面にはさらに受理層4が形成されている。絵柄5は、受理層4の表面の一部に形成されている。
【0018】
支持体1は、厚さが30μm〜100μmの透明ペットフィルムであり、その片面に厚さが1μm〜2μmのシリコン樹脂からなる離型層2がコーティングされている。透明層3は、厚さが15μm以下の透明アクリル樹脂系紫外線硬化型樹脂によって形成され、受理層4は、厚さが20μm〜60μmの透明吸水型の樹脂膜となっている。透明層3は、離型層2と受理層4とによって挟まれた構造であり、透明層3と離型層2との接着強度(X)と、透明層3と受理層4との接着強度(Y)とは、X<Yの関係にある。この接着強度の大小関係を有することによって、透明層3は受理層4と一体となった状態で支持体1から容易に剥離することが可能となる。
【0019】
受理層4には、染料タイプインクによって絵柄5が印刷されるため、絵柄5の印刷時の吸水と染料の固形分だけがその表面に定着するように、受理層4の成分は調整されている。この受理層4は成分としてポリビニルアルコール、ポリエステルアクリレート、エタノール、水を含み、それぞれの含有量は、ポリビニルアルコール3重量%以上12重量%以下、ポリエステルアクリレート20重量%以上40重量%以下、エタノール10重量%以上25重量%以下、水30重量%以上60重量%以下である。
受理層4を上記の組成によって形成すると、受理層4の光透過率は波長380nmから780nmの範囲に亘って90%以上となる。
【0020】
光透過率の試験条件は以下の通りである。試験装置は、積分球内臓の試料室MPC−3100を付属した紫外・可視・近赤外分光光度計UV−3150(株式会社島津製作所製)を使用した。試験方法は、試料として支持体・離型層・透明層・受理層が積層された記録シート一体物を用いて、JIS R 3106に準じて可視光透過率を測定した。なお、測定のパラメータは波長範囲「380〜780nm」、スキャン速度「中速」、スリット幅「20」、サンプリングピッチ「1.0」で、測定部のS/R交換は標準とした。また、ベースラインは試料無しの状態で測定した。
【0021】
本発明の受理層4は、染料タイプインクの特性を最大限生かす工夫がなされたものであるが、顔料タイプインクでの印刷であれば表層に残る絵柄が厚肉となり濃度の濃い精細画像を形成することができる。
【0022】
具体的な受理層4の形成方法として、例えば以下のような種類の溶液を用いることができる。まず、第一溶液として、固形ポリビニルアルコールを3〜12重量%、平均粒径が0.5〜5nmのシリカを0〜20重量%、純水を30〜60重量%混合したものを使用し、温度90℃の温水状態で攪拌しながら膨潤、分散するまで約60分間経過した後、常温に戻す。なお、固形ポリビニルアルコールは、重合度が100〜10000の範囲のものを使用している。
【0023】
次に、第二溶液として、ポリエステルアクリレート等のアクリル樹脂を20〜40重量%、エタノールを10〜25重量%混合したものを使用し、常温で完全に混ざるまで希釈攪拌する。この第一溶液と第二溶液とを均等重量で混合し、常温で攪拌して完全に混合する。
【0024】
透明層3を形成する透明アクリル樹脂系紫外線硬化型樹脂と、上述した混合液体によって形成される受理層液は、それぞれスリットコーターによってコーティングされ、硬化及び乾燥させながら積層される。また、絵柄5はインクジェットプリンタによって印刷され、インク内の水分は受理層4内で吸収されてインクの固形分が受理層4の表面付近に定着する。
【0025】
以上のようにして形成されたインクジェット記録シートは、第一実施形態として、ネイルアート用の記録シートとして利用できる。この場合には、図1に示すインクジェット記録シートの絵柄5の表面が爪に接触するように配置して、絵柄5を爪に転写し、離型層2から透明層3・受理層4を剥離して支持体1と離型層2を除去する。受理層4は可視光の波長帯域に亘って高い光透過率を有しており、かつ透明層3は耐水性が良く、耐侯性の優れたネイルアートが可能となる。
【0026】
また、第二実施形態として、OHP用フイルムやバックライトディスプレイ用フイルムに対して用いる記録シートとして利用できる。この場合には、図1に示すインクジェット記録シートの絵柄5の表面が、OHP用フイルムやバックライトディスプレイ用フイルムに接触するように配置して、絵柄5をこれらのフィルムに転写し、離型層2から透明層3・受理層4を剥離して支持体1と離型層2を除去する。受理層4は可視光の波長帯域に亘って高い光透過率を有しており、かつ透明層3は耐水性が良く、耐侯性の優れたシートであるため、屋外で用いられる広告用のバックライトディスプレイ用フイルムのような用途の場合にも、耐水性・耐侯性の高いフイルムを実現することができる。また、用途によっては支持体1と離型層2を剥離しないでそのままフィルムシートとして使用することもできる。
【0027】
ここで、架橋剤を用いない本発明のインクジェット記録シート(発明品)と、架橋剤を用いたもの(比較品)とについて、その濁度(ヘイズ)と反射率に関する測定結果を示す。
表1に、濁度(ヘイズ)についての測定結果を示す。濁度は、光がサンプル内を通り抜けずに、散乱または吸収される光学特性として定義されるものである。
【0028】
【表1】

【0029】
表1における濁度の平均値は、光源の波長を390nmから730nmまでとしたときの測定値の平均を表す。架橋剤を添加した比較品に比べて、架橋剤を添加していない発明品は、濁度が低く、従って透明度が高いことが実証されている。
【0030】
次に、反射率についての測定結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
反射率の平均値は、光源の波長を390nmから730nmまでとしたときの測定値の平均を表す。その測定の角度設定を図2に示しており、入射角と受光角との和が鋭角となる場合と、ほぼ直角となる場合とについてデータを得るために、受光角が12°と45°の2通りとなるように、入射角を変えて反射率を測定した。発明品と比較品については、支持体1上に形成された受理層4に対して入射角を変えて測定した。支持体1のみの場合にもこれと同様に入射角を変えて測定した。
【0033】
発明品と比較品の反射率を比較すると、受光角が12°のときはほぼ同等であるが、受光角が45°になると、発明品の反射率が低くなっている。
以上の結果から、架橋剤を用いない本発明のインクジェット記録シートは、濁度が低く、透明性が高いレベルで維持され、また、反射率も低いことから、絵柄が印刷されたときに、絵柄を見やすい状態となっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、透明性が高く、耐水性、耐侯性にも優れたネイルアート用のインクジェット記録シート、あるいはOHP用フイルム、バックライトディスプレイ用フイルム等に用いられるインクジェット記録シートとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録シートの構成を示す図である。
【図2】反射率測定の角度設定を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 支持体
2 離型層
3 透明層
4 受理層
5 絵柄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の片面に離型層が形成され、前記離型層の上面に透明層が積層され、前記透明層の上面には、絵柄が印刷される受理層が積層されたインクジェット記録シートであって、前記支持体は離型層によって剥離可能に形成され、前記受理層の組成がポリビニルアルコール3重量%以上12重量%以下、ポリエステルアクリレート20重量%以上40重量%以下、エタノール10重量%以上25重量%以下、水30重量%以上60重量%以下であり、光透過率が波長380nmから780nmの範囲に亘って90%以上であることを特徴とするインクジェット記録シート。
【請求項2】
前記受理層の厚さは、20μm以上60μm以下であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録シート。
【請求項3】
前記透明層と前記受理層との接着強度は、前記透明層と前記離型層との接着強度より大きいことを特徴とする請求項1または2記載のインクジェット記録シート。
【請求項4】
前記透明層の厚さは15μm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の記インクジェット記録シート。
【請求項5】
絵柄印刷に用いられるインクは、染料タイプインクまたは顔料タイプインクのいずれかから適宜選択できることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のインクジェット記録シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−160808(P2007−160808A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362429(P2005−362429)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(591245141)株式会社渕上ミクロ (26)
【Fターム(参考)】