説明

インクジェット記録媒体及びその製造方法並びにインクジェット記録方法

【課題】水性顔料インクを用いたインクジェット記録において、印字画像が傷つきにくく、耐擦過性能に優れた、高品位なインクジェット記録媒体を得る。
【解決手段】基材と、基材上に無機粒子とバインダーとを含むインク受容層と、を有するインクジェット記録媒体であって、インク受容層の表面を、(a)突出谷部深さ(Rvk)が20nm以上100nm以下、(b)算術平均粗さ(Ra)が5nm以上100nm以下、(c)局部山頂の平均間隔(S)が1.0μm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料を含有するインクを用いたインクジェット記録方法、及びこのインクジェット記録方法に好適に利用し得るインクジェット記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法による画像形成に用いるインクジェット記録媒体としてはこれまで種々の構成のものが知られている。そして今日では、コンピュータやネットワークにおける電子的な画像情報のアウトプットやデジタルカメラ、デジタルビデオ、スキャナ等で取り込んだ画像情報のアウトプット等に利用されている。このようにインクジェット記録方法による記録装置(プリンタ)の適用範囲の拡大や高機能化が著しい。このため、インクジェット記録媒体の性能に対する要求も更に多種多様、あるいは高度なものになってきている。
【0003】
上記のような出力画像の高精細化に伴い、インクジェットプリンタからインクジェット記録媒体に印字されるインクの量は増える傾向にある。その為、多量のインクを受容できる高吸収型のインクジェット記録媒体として、基材上にシリカやアルミナ水和物等の無機多孔質粒子と水溶性樹脂等のバインダーを含むインク受容層を設けた記録媒体が用いられるようになってきている。この記録媒体では、上記無機多孔質粒子にインク中の染料を吸着させることでインク吸収性を高めることが可能である。
【0004】
その一方で、従来、インクジェット用のインクとしては水溶性染料が広く用いられていたが、インクジェット記録媒体の耐候性向上を目的として、色材として顔料を含む水性インクが用いられるようになってきている。上記のような水性顔料インクを用いたインクジェット記録媒体は染料インクを用いた記録物に比べて、紫外線等の光による褪色、および大気雰囲気中に存在する微量のガスによる画像の褪色に関しては非常に優れている。
【0005】
ここで、水性顔料インク中の顔料粒子(以下「顔料インク粒子」という)の粒径は一般に約100nm程度である。このため、粒径100nm以上200nm以下のアルミナ水和物、シリカ等の無機多孔質粒子を含む従来のインクジェット記録媒体を用いた場合、印字された顔料インク粒子はインクジェット記録媒体のインク受容層の最表層部分に留まる。従って、印字物の発色性は非常に優れ、またその光沢性も優れたものとなる。しかし、一方では、顔料インク粒子がインクジェット記録媒体の表面上に固着しているだけのため、顔料インクが引っかき等により、削りとられやすく画像が非常に傷つきやすい(耐擦過性能が弱い)という問題があった。
【0006】
また、その他のインクジェット記録媒体として、粒径数μm程度の湿式シリカ等から構成されるインク受容層を有するインクジェット記録媒体を挙げることができる。このインクジェット記録媒体を用いた場合、印字された顔料インク粒子は記録媒体を構成する数μm程度の無機粒子間の隙間を浸透し、インク受容層の奥深くまで到達し、インク受容層の最表層に顔料インク粒子が留まらない。このため、上記耐擦過性には優れるものの顔料インク粒子がインク受容層の内部に沈み込んでしまっている為、印字物の発色性能として十分なものが得られていなかった。
【0007】
また、今日では銀塩写真の代替可能なインクジェット記録媒体として、JIS−Z−8741による20°鏡面光沢が10%以上のいわゆる光沢紙が必要とされている。ここで、耐擦過性に優れたものとするため数μm程度の湿式シリカを用いた場合には、インクジェット記録媒体として、20°鏡面光沢で1%以下の無光沢のマット紙しか得ることができなかった。このため、光沢紙として要求される特性を満たさない、という問題があった。
【0008】
そこで、従来から色材を表面に留まらせると共に、表面への定着後には耐擦過性に優れたものとして優れた画像特性を有するインクジェット記録媒体の製造が試みられてきた。
【0009】
特許文献1には、光沢紙としてインク受容層表面に亀裂を持たせ、その亀裂の大きさを制御することで、高光沢と画像品位を向上させる方法が述べられている。しかし、このような亀裂を持つインク受容層では、数μm程度の粒径の湿式シリカを用いた場合と同様、顔料インク粒子がその亀裂からインク受容層の奥深くまで到達してしまい、表層部分に定着させることは困難であった。このため、顔料インクを印字したインクジェット記録媒体では、発色性が不十分となっていた。
【0010】
さらに、水性顔料インクを用いたインクジェット記録媒体に関して、特許文献2、及び特許文献3には表面粗さを規定した記録媒体が記述されている。しかし、これらのインクジェット記録媒体では、印字物の高発色性、高光沢性と印字物の傷の付き易さに対する改善(耐擦過性能の向上)の両立に関して、いまだ十分に検討されていなかった。
【特許文献1】特開2001−287442号公報
【特許文献2】特開2002−307810号公報
【特許文献3】特開2004−268287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように、特許文献1〜3に代表される従来のインクジェット記録媒体では、印字物の高発色性、高光沢性と耐擦過性能は互いに両立し得ないものであった。また、これらの特性を共に優れたものとする方法に関してはいまだ十分に検討されていなかった。
【0012】
そこで、本発明者は上記課題について鋭意検討を行った結果、インクジェット記録媒体を構成するインク受容層の表面状態が、顔料インクの表面定着性及び耐擦過性に大きく影響することを発見した。すなわち、インク受容層の(a)突出谷部深さ、(b)算術平均粗さ、(c)局部山頂の平均間隔が、顔料インクの表面定着性及び耐擦過性に大きく影響しており、これらの特性を総合的に制御する必要があることを発見した。
【0013】
より具体的には、本発明は上記特性(a)〜(c)を所定の範囲に総合的に制御することにより、水性顔料インクによる印字画像が傷つきにくく、耐擦過性能に優れたインクジェット記録媒体を提供することを目的とする。また、発色性及び光沢性に優れ、インク受容層に亀裂のないインクジェット記録媒体を提供することを目的とする。更に、このインクジェット記録媒体を用いたインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有することを特徴とする。
1.基材と、前記基材上に無機粒子とバインダーとを含むインク受容層と、を有するインクジェット記録媒体であって、
前記インク受容層の表面が、以下の条件を満たすことを特徴とするインクジェット記録媒体。
(a)突出谷部深さ(Rvk)が20nm以上100nm以下
(b)算術平均粗さ(Ra)が5nm以上100nm以下
(c)局部山頂の平均間隔(S)が1.0μm以下
2.前記無機粒子が、平均2次粒子径210nm以上300nm以下のアルミナ水和物粒子であることを特徴とする上記1に記載のインクジェット記録媒体。
3.前記無機粒子が、平均2次粒子径230nm以上300nm以下のアルミナ水和物粒子であり、
前記インク受容層が、リウェットキャスト法により形成されたことを特徴とする上記1に記載のインクジェット記録媒体。
【0015】
4.前記突出谷部深さ(Rvk)が、20nm以上60nm以下であることを特徴とする上記1から3の何れか1項に記載のインクジェット記録媒体。
5.上記1に記載のインクジェット記録媒体の製造方法であって、
基材上に、平均2次粒子径230nm以上300nm以下のアルミナ水和物粒子を含有するインク受容層用塗工液を塗布、乾燥後、リウェットキャスト法を行うことにより、インクジェット記録媒体を製造することを特徴とするインクジェット記録媒体の製造方法。
【0016】
6.インクジェット記録媒体のインク受容層側に、色材として顔料を含むインクで画像を形成するインクジェット記録方法であって、
前記インクジェット記録媒体は、基材と、前記基材上に無機粒子とバインダーとを含むインク受容層と、を有し、
前記インク受容層の表面が、以下の条件を満たすことを特徴とするインクジェット記録方法。
(a)突出谷部深さ(Rvk)が20nm以上100nm以下
(b)算術平均粗さ(Ra)が5nm以上100nm以下
(c)局部山頂の平均間隔(S)が1.0μm以下
7.前記突出谷部深さ(Rvk)が、前記顔料の平均粒径の1/5以上であることを特徴とする上記6に記載のインクジェット記録方法。
8.前記無機粒子が、平均2次粒子径210nm以上300nm以下のアルミナ水和物粒子であることを特徴とする上記6又は7に記載のインクジェット記録方法。
9.前記突出谷部深さ(Rvk)が、20nm以上60nm以下であることを特徴とする上記6から8の何れか1項に記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水性顔料インクを用いたインクジェット記録方法において、印字画像が傷つきにくく耐擦過性に優れ、高発色かつ光沢性に優れ、半光沢以上の光沢特性を有するインクジェット記録媒体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図4に本発明のインクジェット記録媒体の一例を示す。本発明のインクジェット記録媒体は基材4上に、インク受容層5を有する。インク受容層5は一方の面6が基材4に接しており、他方の表面(基材と接する面6と反対側の面)7の表面形状が制御されている。すなわち、表面7の表面形状は以下の特性(a)〜(c)を有するように構成されている。
(a)突出谷部深さ(Rvk)が20nm以上100nm以下、
(b)算術平均粗さ(Ra)が5nm以上100nm以下、
(c)局部山頂の平均間隔(S)が1.0μm以下。
なお、基材4、及びインク受容層5は多層構成となっていてもよく、基材4の両面にインク受容層5が設けられていても良い。
【0019】
本明細書の背景技術に記載したように、例えば、特許文献2には水性顔料インクの定着性を向上させることを目的としたインクジェット記録媒体が開示されている。このインクジェット記録媒体では、上記特性を有するために、JISB 0601に従う表面の算術平均粗さ(Ra)が制御されている。この従来例では、平均粗さ(Ra)を制御するための手法として、インク受容層を支持する基材を改良する方法が示唆されている。
【0020】
しかしながら、特許文献2では、算術平均粗さ(Ra)のみが検討されているに過ぎなかった。算術平均粗さ(Ra)は、JIS B0601に規定されているように測定範囲内の凹凸を平均的に表す指標に過ぎず、凹部、又は凸部の大きさや間隔などについて表す指標ではない。このため、特許文献2のインクジェット記録媒体では、単に算術平均粗さ(Ra)を制御しているに過ぎず、凹部、又は凸部の大きさや間隔などについては制御されていなかった。
【0021】
また、その評価は、数ミクロンの曲率を有する針を用いた測定によるため、表面形状を適切に評価しているものではなかった。そこで、本発明者は、従来技術で開示されたマイクロメートルオーダーではなく、顔料インク粒子の粒径との関係で、ナノメートルオーダーの表面形状、特に凹凸形状、凹部・凸部の特性が非常に重要であることを発見した。すなわち、インク受容層最表層の形状をナノメートルオーダーで測定可能なプローブ顕微鏡を用いて検討した結果、印字画像の耐擦過性能の向上には算術平均粗さ、突出谷部深さ及び局部山頂の平均間隔が重要であることを見出した。
【0022】
(機能作用)
以下、本発明のインクジェット記録媒体では、算術平均粗さ(Ra)、突出谷部深さ(Rvk)及び局部山頂の平均間隔(S)を制御することにより、印字画像が耐擦過性に優れ、高発色かつ光沢性に優れたものとなる理由を述べる。
【0023】
まず、従来のインクジェット記録媒体では、インク受容層を支持するインクジェット記録媒体の支持基材の表面形状の変更によって、インク受容層の表面形状を制御していた。この方法としては、例えば、RCペーパの表面形状の変更や支持体そのものを非RCペーパーに変更する方法等が挙げられる。しかし、このような方法ではインク受容層表面の凹凸形状を平均的に規定する表面粗さRaを制御しているに過ぎず、インクジェット記録媒体表面のナノメートルオーダー周期の凹部、凸部の特性については制御されていなかった。
【0024】
この結果、このようなインクジェット記録媒体では、たとえ所望の算術平均粗さ(Ra)とできても、凸部と凸部、凹部と凹部の間隔がマイクロメートルオーダーの広い間隔となっていた。このため、インクジェット記録媒体に印字された100nm程度の粒径を有する顔料インクと、インクジェット記録媒体表面との物理的な密着性は十分ではなく、印字物の耐擦過性も実用上、満足のいくものではなかった。このように従来のインクジェット記録媒体で印字物の耐擦過性が劣る理由は、その表面が低周期の凹部間隔、凸部間隔を有するため、水性顔料インクに対する記録媒体のアンカー効果を持たせることが出来ないためであった。
【0025】
そこで、顔料インク粒子をインク受容層の表面に定着させて印字物の耐擦過性能を向上させるためには、顔料インク粒子をインク受容層表面の凹凸形状とのアンカー効果により物理的に強く密着させることが重要となる。このため、このアンカー効果を発現させるためには、算術平均粗さで規定されるインク受容層表面の平均的な凹凸特性だけではなく、凹部特性(突出谷部深さ)や、凸部特性(局部山頂の平均間隔)の制御が重要となる。すなわち、顔料インク粒子の粒子径に対して算術平均粗さ、突出谷部深さ、局部山頂の平均間隔を総合的に制御することが必要となる。
以下、各特性値(Ra、Rvk、S)と本発明の効果との関係を説明する。
【0026】
(1)局部山頂の平均間隔(S)
まず、アンカー効果を発現させるために、インク受容層の表面に顔料インク粒子が埋め込まれる必要がある。このためには、顔料インク粒子の粒子径の数倍−10倍程度の間隔でインクジェット記録媒体表面に凸形状が形成されていることが必要である。具体的には、隣り合う局部山頂(凸部)間の平均間隔である局部山頂の平均間隔(S)が、1.0μm以下となる必要がある。局部山頂(例えば、図1中の8)の平均間隔(S)が1.0μmを超えると、隣り合う局部山頂(凸部)間に顔料インク粒子が効果的に埋め込まれず、結果的に顔料インク粒子と記録媒体表面とのアンカー効果が発現しない。従って、耐擦過性に劣るインクジェット記録媒体となる。
【0027】
また、局部山頂の平均間隔(S)がこれらの範囲内にあることによって、インク受容層表面の低周期の凸部のうねり成分が大きくならず、好適にインク受容層の表面に顔料インク粒子が埋め込まれる。この結果、顔料インク粒子とインク受容層表面とのアンカー効果が低下しない。更に、人間の爪等の比較的鋭利なもので傷つけられた場合であっても、インク受容層表面上の顔料インクが簡単に剥がれたり、インク受容層の白地が露出することがなく、印字画像を高品位に保つことができる。
【0028】
このように局部山頂の平均間隔(S)は、印字された顔料インクと記録媒体(インク受容層)表面との密着性向上に必要なアンカー効果を最終的に発現させるための、インクジェット記録媒体表面の凸部の間隔を規定するものである。
【0029】
なお、局部山頂の平均間隔(S)の測定には、セイコーインスツルメンツ株式会社製 Nanopics2100を用いた。この装置のプローブ(針)先端の曲率半径は約20nmである。
この装置では、走査方向に4μmの距離に1ラインの測定を行い、この後、走査方向と垂直方向にプローブを移動させて再び1ラインの測定を行うといった手順で順次、測定を行った。このようにして、256ラインを測定することで4μm×4μmの領域を測定した。次に、局部山頂の平均間隔(S)の測定には、このようにして測定した256ラインのうちの10ラインを抜き取り、それぞれの平均値をとった。
【0030】
次に、局部山頂の平均間隔(S)を1μm以下とした場合の、インク受容層表面の微細な表面形状(突出谷部深さ(Rvk)、算術平均粗さ(Ra))と本発明の効果との関係について述べる。
【0031】
(2)算術平均粗さ(Ra)
インクジェット記録媒体表面で顔料インク粒子に対するアンカー効果を発現させるためには、部分的な凸形状だけでなく表面全体の性状を制御する必要がある。すなわち、たとえ局部山頂の平均間隔(S)が1μm以下であっても、インクジェット記録媒体の表面形状(凹凸形状)が平滑な場合、印字された顔料インク粒子はインクジェット記録媒体表面の凹凸内に入り込むことが出来ない。この結果として、アンカー効果が不足し印字された顔料インク粒子とインクジェット記録媒体表面との物理形状的な密着性が劣り、耐擦過性に関して十分な性能を持つことが出来ない。このため、局部山頂の平均間隔(S)で表される凸部分間の間隔だけでなく、全体的な凹凸形状(例えば、図1では評価長さ3分の全体的な凹凸)を考慮した算術平均粗さ(Ra)が5nm以上100nm以下となっている必要がある。
【0032】
ここで、顔料インク粒子の粒子径との関係から、算術平均粗さRaが100nmを超える場合には、インク受容層を構成する無機粒子間の平均的な空隙が大きいこととなる。この結果、この隙間から顔料インク粒子がインク受容層の深部まで落ち込んでしまう。この場合、印字物の発色性を担う顔料インク粒子がインク受容層の表面に留まらないため、耐擦過性に関してはより有利となるが、印字物の発色性が満足行くものとならない。一方、算術平均粗さ(Ra)が5nm未満の場合には、顔料インク粒子がインクジェット記録媒体表面に埋め込まれず、耐擦過性に劣ったものとなってしまう。
【0033】
より具体的には、算術平均粗さRaは、発色性の観点から70nm以下が好ましく、60nm以下がより好ましく、50nm以下が更に好ましい。また、耐擦過性の観点から20nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましく、40nm以上が更に好ましい。
【0034】
(3)突出谷部深さ(Rvk)
更に、顔料インクに対して記録媒体表面が十分なアンカー効果を持つためには、算術平均粗さ(Ra)で規定される全体的な凹凸形状、及び凸部分だけでなく突出谷部深さ(Rvk)で規定される凹部を制御することが必要となる。すなわち、凹凸形状、及び凸部分の制御によって、顔料インク粒子はインクジェット記録媒体表面に埋め込まれるが、更にこの顔料インク粒子を記録媒体表面で密着挟持させる必要がある。
【0035】
以下に、突出谷部深さ(Rvk)に関して説明する。顔料インク粒子が、インクジェット記録媒体表面にアンカー効果により物理形状的に密着し、耐擦過性が向上するためには、インクジェット記録媒体表面に顔料インク粒子の大きさと同オーダーの大きさの凹部が必要である。
【0036】
インクジェット記録媒体の表面形状の凹部分が小さい、つまり、インクジェット記録媒体表面の平滑性が大きいとその表面と顔料インク粒子間で密着挟持に基づくアンカー効果が働かず、印字物の耐擦過性は優れたものとはならない。
【0037】
突出谷部深さとは、図2に示すようにJIS B0671に規定される負荷長さ率(Rmr)を横軸に、測定高さ(深さ)を縦軸にとった負荷曲線における線分DGの長さをいう。図2を元に以下に詳細に説明する。
【0038】
まず、算術平均粗さ(Ra)と同様の方法により表面粗さ曲線を求める。図2において、負荷曲線上の点でRmr値の差が40%になるような2点(A,B)を通る直線の中で傾きが最も小さい直線を求める。この直線と100%Rmrの直線との交点を点Dとする。この点Dを通り、横軸に平行な直線と負荷曲線との交点を点Eとする。また、負荷曲線と100%Rmrの直線との交点を点Fとする。このとき、線分DE、線分DF、曲線EFで囲まれる図形の面積と、三角形DEGの面積が等しくなるような100%Rmr上の点が点Gであり、この線分DGの長さが突出谷部深さ(Rvk)となる。
【0039】
この突出谷部深さ(Rvk)は、図1に示すような、測定したインクジェット記録媒体表面の粗さ曲線中の黒色部分の平均深さにあたる。記録媒体表面と顔料インク粒子との間のアンカー効果はこの突出部谷深さ(Rvk)、つまり凹部分の大きさの影響を受ける。突出谷部深さ(Rvk)は、顔料インク粒子の粒径との関係から20nm以上100nm以下の必要がある。
【0040】
突出谷部深さ(Rvk)がこれらの範囲内にあることにより、インクジェット記録媒体表面と該表面に埋め込まれた顔料インク粒子間で密着挟持に基づく良好なアンカー効果が発現し、印字物の耐擦過性に優れたものとなる。また、インク受容層を構成する無機粒子間の凹部の空隙が、顔料インク粒子に対して適度な大きさとなり、その隙間から顔料インク粒子がインクジェット記録媒体のインク受容層の深部にまで落ち込んでしまう、といったことが起こらない。この結果、印字物の発色性を担う顔料インク粒子がインクジェット記録媒体表面に留まるため、印字物の発色性が満足行くものとなる。
【0041】
また、この突出谷部深さ(Rvk)は使用する顔料の平均粒径の1/5以上であることが好ましい。このように突出谷部深さ(Rvk)が顔料の平均粒径の1/5以上であることによって、顔料インク粒子をインク受容層の表面部分に効果的に挟持させて、より優れたアンカー効果を発現させることができる。
【0042】
なお、突出谷部深さ(Rvk)は、20nm以上60nm以下が好ましく、30nm以上60nm以下がより好ましく、40nm以上50nm以下が更に好ましい。突出谷部深さ(Rvk)がこれらの範囲内にあることによって、インク受容層表面の凹部により、より効果的に顔料インク粒子をアンカー効果によって挟持できる。
【0043】
なお、上記のようなRvk、Ra及びSに関する制御は、インク受容層の最表面の形状をナノメートルオーダーで制御し、この範囲を測定可能なプローブ顕微鏡により初めて検証可能となったものである。従来のインクジェット記録媒体では、インク受容層最表面の形状をマイクロメートルオーダーで制御しているに過ぎず、これをJIS B 0651の付属書Bで規定される触針式の表面形状測定装置で確認していた。このため、ナノメートルオーダーの表面形状の制御も確認も行っていなかった。なぜなら、この触針式の表面形状測定装置では、触針先端半径が2μm、5μm、10μmのものを用いており、短波長成分の測定精度に限界があり、ナノメートルオーダーの表面形状の確認ができなかったためである。
【0044】
以上のように、本発明では上記(a)〜(c)の特性を総合的に制御する必要があり、何れか単独の特性の制御では耐擦過性、光沢性及び画像特性に優れたインクジェット記録媒体とすることができない。
【0045】
上記(a)〜(c)の特性を満たすインクジェット記録媒体の表面形状を構成するためには、インク受容層を構成する無機粒子の粒子径やバインダー含量を調節したり、インク受容層に特殊な処理を行うことで制御できる。すなわち、これらの特性を総合的に制御することによって、上記(a)〜(c)の特性を満たすインクジェット記録媒体とすることができる。
本発明のインクジェット記録媒体を構成する各構成部材(インク受容層、基材)について以下に説明する。
【0046】
1.インク受容層
(無機粒子)
インク受容層に用いる無機粒子としては、平均2次粒子径210nm以上300nm以下が好ましく、より好ましくは280nm以下のアルミナ水和物粒子を用いるのが良い。アルミナ水和物粒子の平均2次粒子径が210nmより小さい場合、インク受容層表面に留まる顔料インク粒子に対して、アンカー効果を持たせにくく、耐擦過性能が得られにくくなる場合がある。一方、300nmより大きい場合には、顔料インク粒子がインク受容層表面に留まらず、インク受容層内部にまで入り込んでしまい画像の発色性が悪化してしまうことがある。
【0047】
また、アルミナ水和物粒子のBET比表面積としては、100m2/g以上、200m2/g以下が好ましい。BET比表面積が、これより大きい場合にはインクの溶媒成分の吸収が遅くなり、インク受容層での顔料インク粒子の定着が遅くなり、画像にじみが発生してしまう場合がある。この結果として印字物の品位が悪化してしまう。一方、BET比表面積が、これより小さい場合には顔料インク粒子がインク受容層表面に留まらず、インク受容層の内部にまで入り込んでしまい画像の発色性が悪化することで、やはり印字物の品位が悪化することがある。
【0048】
(バインダー)
また、インク受容層を構成する材料としては、他にバインダーとして水溶性樹脂が必要である。水溶性のバインダーとしては例えば、ポリビニルアルコールおよびその変性物、酢酸ビニル、酸化デンプン、エーテル化デンプン、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、SBラテックス、NBラテックス、アクリルラテックス、エチレン酢酸ビニル系ラテックス、ポリウレタン、不飽和ポリエステル樹脂等が使用できる。
【0049】
インク吸収性と形成されるインク受容層の強度の点から上記バインダーの中でもポリビニルアルコールが望ましく、その含有量はインク受容層の全固形分重量に対して5質量%以上、35質量%以下が望ましい。インク受容層中のバインダーの量が、5質量%より少ないとインク受容層の強度が不十分となり、35質量%より多いとインク吸収性が悪化する場合がある。また、これよりバインダーの量が多い場合には、インク受容層の無機粒子による表面凹凸がバインダー樹脂によって埋められてしまう場合がある。このため、このような場合には顔料インク粒子とのアンカー効果が低下し、印字物の耐擦過性に劣るものになってしまう。
【0050】
(インク受容層の形成方法)
インク受容層は、基材上に順次、インク受容層用塗工液を塗工し、乾燥させることにより得ることができる。このインク受容層用塗工液中には、無機粒子、バインダーの他に、イオン交換水などの溶媒を含有する。また、インク受容層用塗工液中には更に、耐水化剤、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、蛍光染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、防腐剤等を発明の効果を損なわない範囲で適宜、含有することができる。
塗工方法としては、ブレードコーティング法、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、スロットダイコーティング法等を用いることができる。
【0051】
また、インク受容層形成後、リウェットキャスト法やカレンダー処理等を施すこともできる。これらの処理を用いることにより、図3に示すように、所定のRa、S、及びRvkを保ちながら、かつインクジェット記録媒体の最表面のみを平滑化することができる。
【0052】
これによって、インクジェット記録媒体表面と顔料インク粒子との間のアンカー効果を損なわずに、インクジェット記録媒体表面の平滑度が向上する。このため、耐擦過性に優れJIS−Z−8741による20°鏡面光沢で10%以上の光沢紙を得ることが可能となる。なお、キャスト法は光沢面を形成する方法によりウエット法、リウエット法、凝固法に分類できるが、生産性の点からリウェット法が好ましい。
【0053】
このリウェットキャスト法では、基材上にインク受容層用塗工液を塗布した後、一度、塗工液を乾燥する。この後、再湿潤液(リウェット液)により再度、インク受容層を可塑化させて加熱された鏡面ドラム面に圧接、乾燥、離型させて高光沢仕上げにする方法である。このリウェットキャスト法では、インク受容層のみを平滑化し優れた光沢を付与できる。
【0054】
また、耐擦過性能をより向上させるために、キャスト法やカレンダー処理法を用いた場合には、用いない場合に比べてアルミナ水和物粒子の平均2次粒子径を大きくすることが望ましい。この場合、顔料インク粒子のインク受容層表面からの落ち込みによる発色の低下が起きない範囲とする必要がある。
【0055】
リウェットキャスト法を用いる場合、アルミナ水和物粒子の平均2次粒子径としては、230nm以上300nm以下が好ましく、280nm以下がより好ましい。アルミナ水和物粒子の平均2次粒子径が230nmより小さい場合、インク受容表面に留まる顔料インク粒子に対してアンカー効果を持たせにくく耐擦過性能が得られにくくなる場合がある。一方、300nmより大きい場合には、顔料インク粒子がインク受容層表面に留まらずインク受容層内部にまで入り込んでしまい、画像の発色性が悪化してしまう場合がある。
【0056】
以上のように、基材上に、平均2次粒子径230nm以上300nm以下のアルミナ水和物粒子を含有するインク受容層用塗工液を塗布、乾燥後、リウェットキャストを行う。このようにインクジェット記録媒体を製造することにより、容易に上記(a)〜(c)の条件を満たすインクジェット記録媒体とすることができる。
【0057】
2.基材
上記インク受容層を設ける基材としては、紙又はプラスチックシートを使用できる。紙としては上質紙、コート紙、バライタ紙等の紙材、プラスチックシートとしてはポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル等のプラスチックシートを挙げることができる。
【0058】
3.水性顔料インク
本発明における水性顔料インクに関して、以下に説明する。顔料を含有するインクを使用する場合には、顔料に加えて更に水、水溶性有機溶剤及びその他の成分、例えば、分散剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤等を必要に応じて添加する。
【0059】
本発明で使用される水性顔料インク中の顔料の含量は、インク全重量に対して、重量比で1質量%以上、20質量%以下、好ましくは2質量%以上、12質量%以下の範囲で用いる。また、顔料インク粒子の平均粒子径は80nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0060】
本発明において使用される顔料としては、具体的には、黒色のインクに使用されるものとしてカーボンブラックが挙げられる。このカーボンブラックとしては、例えば、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。このカーボンブラックとしては一次粒子径15nm以上40nm以下、BET法による比表面積50m2/g以上300m2/g以下、DBP吸油量40ml/100g以上150ml/100g以下のものが好ましく用いられる。また、揮発分が0.5%以上10%以下、pH値が2以上9以下等の特性を有するものが好ましく用いられる。
【0061】
このような特性を有するカーボンブラックの市販品としては、例えば、以下のものがあり、何れも好ましく使用することができる。
No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、No.2200B(以上、三菱化成社製)、
RAVEN1255(以上、コロンビア社製)、
REGAL400R、REGAL330R、REGAL660R、MOGUL L(以上、キャボット社製)、
ColorBlack FWl、COLOR Black FW18、Color Black S170、Color Black S150、Printex 35、Printex U(以上、デグッサ社製)。
【0062】
また、イエローのインクに使用される顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、C.I.Pigment Yellow 2、C.I.Pigment Yellow 3、C.I.Pigment Yellow 13、C.I.Pigment Yellow 16、C.I.Pigment Yellow 83等が挙げられる。
【0063】
マゼンタのインクに使用される顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 5、C.I.Pigment Red 7、C.I.Pigment Red 12、C.I.Pigment Red 48(Ca)、C.I.Pigment Red 48(Mn)、C.I.Pigment Red 57(Ca)、C.I.PigmentRed 112、C.I.Pigment Red 122等が挙げられる。
【0064】
シアンのインクに使用される顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 1、C.I.Pigment Blue 2、C.I.PigmentBlue 3、C.I.Pigment Blue 15:3、C.I.Pigment Blue 16、C.I.Pigment Blue 22、C.I.Vat Blue 4、C.I.Vat Blue 6等が挙げられる。
【0065】
なお、黒色、イエロー、マゼンダ、シアンのインクに使用される顔料としては、上記のものに限られるわけではない。また、顔料を使用する場合にインク中に含有させる分散剤としては、水溶性樹脂ならどのようなものでも使用することができる。重量平均分子量が1000以上、30000以下の範囲のものが好ましく、3000以上、15000以下の範囲のものがより好ましく使用される。
【0066】
このような分散剤として具体的には、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体等からなる群から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの塩等が挙げられる。
【0067】
分散剤としては、ロジン、シェラック、デンプン等の天然樹脂を好ましく使用することもできる。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶であり、アルカリ可溶型樹脂である。尚、これらの顔料分散剤として用いられる水溶性樹脂は、インク全重量に対して0.1質量%以上、5質量%以下の範囲で含有させるのが好ましい。
【0068】
更に、水性顔料インクは、インク全体が中性又はアルカリ性に調整されていることが好ましい。このようにすれば、顔料分散剤として使用される水溶性樹脂の溶解性を向上させ、長期保存安定性に一層、優れたインクとすることができる。好ましくは、インクを7以上、10以下のpH範囲とするのが望ましい。
【0069】
この際に使用されるpH調整剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等の無機アルカリ剤、有機酸や鉱酸等が挙げられる。
【0070】
4.インクジェット記録方法
本発明のインクジェット記録方法は、下記(a)〜(c)の特性を有するインクジェット記録媒体のインク受容層側(インク受容層の表面)に、色材として顔料を含むインクで画像を形成することが好ましい。このインクとしては上記「3.顔料インク」に記載のインクを用いることができる。
(a)突出谷部深さ(Rvk)が20nm以上100nm以下
(b)算術平均粗さ(Ra)が5nm以上100nm以下
(c)局部山頂の平均間隔(S)が1.0μm以下。
【0071】
このインクジェット記録方法としては、静電吸引方式、圧電素子を用いるインクジェット記録方法、発熱素子を用いるインクジェット記録方法等を利用することができるが、その方法は特に限定されない。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
(塗工液11の作製)
アルミナ水和物粉末(Sasol社製、商品名:DISPERAL HP 30,比表面積 110m2/g;無機粒子)を、イオン交換水中に攪拌しながら混合し、固形分20wt%のアルミナ水和物粗分散液を得た。さらに、このアルミナ水和物粗分散液にホモジナイザーにより分散処理を行い、アルミナ水和物分散液を得た。アルミナ水和物分散液中のアルミナ水和物粒子の平均2次粒子径をベックマン・コールター製レーザー光散乱・回折式粒度分布測定装置LS230により測定したところ280nmであった。
【0073】
該アルミナ水和物分散液100質量部に対し、ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社、商品名:JM−26;バインダー)の10wt%水溶液を、20質量部、混合攪拌した。その後、イオン交換水で希釈して固形分15wt%の塗工液11を得た。
【0074】
(塗工液12の作製)
アルミナ水和物粉末(Sasol社製、商品名:DISPERAL HP 18,比表面積 150m2/g;無機粒子)を、イオン交換水中に攪拌しながら混合し、固形分20wt%のアルミナ水和物粗分散液を得た。さらに、このアルミナ水和物粗分散液にホモジナイザーにより分散処理を行い、アルミナ水和物分散液を得た。アルミナ水和物分散液中のアルミナ水和物粒子の平均2次粒子径をベックマン・コールター製レーザー光散乱・回折式粒度分布測定装置LS230により測定したところ210nmであった。
【0075】
該アルミナ水和物分散液100質量部に対し、ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社、商品名:JM−26;バインダー)の10wt%水溶液を、20質量部、混合攪拌した。その後、イオン交換水で希釈して固形分15wt%の塗工液12を得た。
【0076】
(塗工液13の作製)
アルミナ水和物粉末(Sasol社製、商品名:DISPERAL HP 22,比表面積 150m2/g;無機粒子)を、イオン交換水中に攪拌しながら混合し、固形分20wt%のアルミナ水和物粗分散液を得た。さらに、このアルミナ水和物粗分散液にホモジナイザーにより分散処理を行い、アルミナ水和物分散液を得た。アルミナ水和物分散液中のアルミナ水和物粒子の平均2次粒子径をベックマン・コールター製レーザー光散乱・回折式粒度分布測定装置LS230により測定したところ230nmであった。
【0077】
該アルミナ水和物分散液100質量部に対し、ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社、商品名:JM−26;バインダー)の10wt%水溶液を、20質量部、混合攪拌した。その後、イオン交換水で希釈して固形分15wt%の塗工液13を得た。
【0078】
(塗工液14の作製)
アルミナ水和物粉末(Sasol社製、商品名:DISPERAL HP 14,比表面積 180m2/g;無機粒子)を、イオン交換水中に攪拌しながら混合し、固形分20wt%のアルミナ水和物粗分散液を得た。さらに、このアルミナ水和物粗分散液にホモジナイザーにより分散処理を行い、アルミナ水和物分散液を得た。アルミナ水和物分散液中のアルミナ水和物粒子の平均2次粒子径をベックマン・コールター製レーザー光散乱・回折式粒度分布測定装置LS230により測定したところ170nmであった。
【0079】
該アルミナ水和物分散液100質量部に対し、ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社、商品名:JM−26;バインダー)の10wt%水溶液を、20質量部、混合攪拌した。その後、イオン交換水で希釈し固形分15wt%の塗工液14を得た。
【0080】
(塗工液15の作製)
アルミナ水和物粉末(Sasol社製、商品名:DISPERAL HP 40,比表面積 100m2/g;無機粒子)を、イオン交換水中に攪拌しながら混合し、固形分20wt%のアルミナ水和物粗分散液を得た。さらに、このアルミナ水和物粗分散液にホモジナイザーにより分散処理を行い、アルミナ水和物分散液を得た。アルミナ水和物分散液中のアルミナ水和物粒子の平均2次粒子径をベックマン・コールター製レーザー光散乱・回折式粒度分布測定装置LS230により測定したところ350nmであった。
【0081】
該アルミナ水和物分散液100質量部に対し、ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社、商品名:JM−26;バインダー)の10wt%水溶液を、20質量部、混合攪拌した。その後、イオン交換水で希釈し固形分15wt%の塗工液15を得た。
【0082】
(塗工液16の作製)
湿式シリカ(株式会社トクヤマ製、商品名:ファインシール X−60;無機粒子)を、イオン交換水中に攪拌しながら混合し、固形分20wt%のシリカ分散液を得た。得られたシリカ分散液中のシリカ粒子の平均2次粒子径を塗工液11で用いたのと同様の方法により測定したところ、7μmであった。
【0083】
該シリカ分散液100質量部に対し、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ クラレポバール、商品名:PVA−117;バインダー)の10wt%水溶液を65質量部、混合攪拌した。その後、イオン交換水で希釈して固形分15wt%の塗工液16を得た。
【0084】
(実施例1)
基材として坪量185g/m2の上質紙を用い、その上に上記塗工液11を絶乾量25g/m2となるようにスロットダイコータで塗工した後、乾燥させてインクジェット記録媒体を得た。
【0085】
(実施例2)
実施例1で得た記録媒体にリウェット液として精製水を用い、塗工面が湿潤状態にあるうちに表面温度100℃のキャストドラムに圧着させてキャスト済みのインクジェット記録媒体を得た。
【0086】
(実施例3)
基材として坪量130g/m2の印画紙用レジンコート紙(RC紙)を用い、その上に上記塗工液11を絶乾量40g/m2となるようにスロットダイコータで塗工した後、乾燥させてインクジェット記録媒体を得た。
【0087】
(実施例4)
基材として坪量185g/m2の上質紙を用い、その上に上記塗工液12を絶乾量25g/m2となるようにスロットダイコータで塗工した後、乾燥させてインクジェット記録媒体を得た。
【0088】
(実施例5)
基材として坪量185g/m2の上質紙を用い、その上に上記塗工液13を絶乾量25g/m2となるようにスロットダイコータで塗工した後、乾燥させてインクジェット記録媒体を得た。
【0089】
(実施例6)
実施例5で得た記録媒体にリウェット液として精製水を用い、塗工面が湿潤状態にあるうちに表面温度100℃のキャストドラムに圧着させてキャスト済みの記録媒体を得た。
【0090】
(実施例7)
基材として坪量130g/m2の印画紙用レジンコート紙(RC紙)を用い、その上に上記塗工液13を絶乾量40g/m2となるようにスロットダイコータで塗工した後、乾燥させてインクジェット記録媒体を得た。
【0091】
(比較例1)
基材として坪量130g/m2の印画紙用レジンコート紙(RC紙)を用い、その上に上記塗工液14を絶乾量40g/m2となるようにスロットダイコータで塗工した後、乾燥させてインクジェット記録媒体を得た。
【0092】
(比較例2)
基材として坪量185g/m2の上質紙を用い、その上に上記塗工液14を絶乾量25g/m2となるようにスロットダイコータで塗工した後、乾燥させてインクジェット記録媒体を得た。
【0093】
(比較例3)
比較例2で得たインクジェット記録媒体に対して、リウェット液として精製水を用い、塗工面が湿潤状態にあるうちに表面温度100℃のキャストドラムに圧着させてキャスト済みのインクジェット記録媒体を得た。
【0094】
(比較例4)
実施例4で得たインクジェット記録媒体に対して、リウェット液として精製水を用い、塗工面が湿潤状態にあるうちに表面温度100℃のキャストドラムに圧着させてキャスト済みのインクジェット記録媒体を得た。
【0095】
(比較例5)
基材として坪量130g/m2の印画紙用レジンコート紙(RC紙)を用い、その上に上記塗工液15を絶乾量40g/m2となるようにスロットダイコータで塗工した後、乾燥させてインクジェット記録媒体を得た。
【0096】
(比較例6)
基材として坪量185g/m2の上質紙を用い、その上に上記塗工液15を絶乾量25g/m2となるようにスロットダイコータで塗工した後、乾燥させてインクジェット記録媒体を得た。
【0097】
さらに、上記のようにして得た記録媒体に対して、リウェット液として精製水を用い、塗工面が湿潤状態にあるうちに表面温度100℃のキャストドラムに圧着させてキャスト済みのインクジェット記録媒体を得た。
【0098】
(比較例7)
基材として坪量130g/m2の印画紙用レジンコート紙(RC紙)を用い、その上に上記塗工液16を絶乾量30g/m2となるようにスロットダイコータで塗工した後、乾燥させ、インクジェット記録媒体を得た。
【0099】
(インク受容層の表面形状の評価方法)
実施例及び比較例により作製したインクジェット記録媒体のインク受容層の表面形状を、セイコーインスツルメンツ株式会社製の走査型プローブ顕微鏡(商品名:Nanopics2100)により評価を行った。測定領域は4μm×4μm角について行い、算術平均粗さ(Ra)を計測する際のカットオフ値(λc)を1.3μm、局部山頂の平均間隔(S)を計測する際の基準長さを4μmとした。また、上記測定領域を測定した256ラインのうちの10ラインを抜き取り、平均値をとった。
【0100】
この条件で測定した粗さ曲線について、算術平均粗さ(Ra)、突出谷部深さ(Rvk)、局部山頂の平均間隔(S)を計測した。なお、算術平均粗さ(Ra)については、上記条件以外はJIS B 0601(2001)に従って計測した。局部山頂の平均間隔(S)については、上記条件以外はJIS B 0601(1994)に従って計測した。また、突出谷部深さ(Rvk)については、JIS B 0671−2に従って計測した。
【0101】
上記方法に従って、算術平均粗さ(Ra)、突出谷部深さ(Rvk)、局部山頂の平均間隔(S)を計測した。そして、(a)Rvkが20nm以上100nm以下、(b)Raが5nm以上100nm以下、(c)Sが1.0μm以下、の何れか一つでも条件を満たさない場合は、本発明の範囲外のインクジェット記録媒体とした。特に、比較例7のインク受容層に関しては、シリカ粒子の粒径が7μmであることから、上記方法に従って算術平均粗さを計測したところ、数μmオーダーとなった。このため、上記(b)の範囲外になると共に、上記測定方法では算術平均粗さが大きすぎて測定不能であった。そこで、このサンプルだけは、Raのみを株式会社ミツトヨ社製、表面粗さ測定機SJ−201(商品名)で測定した。
【0102】
(印字物の評価)
プリンターとしてキヤノン(株)製 imagePROGRAPH6400(商品名)を用い、Bkインク(BCI−1431 Bk)の顔料インクで160%打込み量のパッチ画像を印字し、下記の評価を行った。尚、1平方インチあたり、1200×1200ドットの印字を行った場合の打込み量を100%とした。
また、粒度分布測定装置(商品名:ナノトラックUPA−150、日機装株式会社)を用い、顔料インク粒子の粒子径を測定したところ、平均粒子径は96nmであった。
【0103】
(1)擦過性評価
印字後、24時間室内で放置し、十分乾燥させた後、画像を爪で強く擦った。
【0104】
印字画像が削れて、白い基材が大きく見えてしまうものを×、
僅かに白地が現れるものを○、
白地が見えないものを◎
とした。
【0105】
(2)画像濃度(OD)評価
印字後、24時間室内で放置し、十分乾燥させた後、反射濃度計(Mcbeth SERIES1200(商品名)、マクベス社製)を用いて画像濃度を測定した。なお、画像濃度は2.0以上であれば、実用上、十分満足行くものであり、2.0未満では性能的に劣るものと評価できる。
【0106】
(3)光沢性評価
インクジェット記録媒体の未印字部でのJIS−Z−8741による20°鏡面光沢を測定した。20°鏡面光沢としては1.5%以上10%未満であれば、半光沢紙として十分満足できる。
また、10%以上あれば光沢紙として満足の行くものである。
上記のようにして測定した結果を下表1に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
表1の実施例の結果より、Rvkを20nm以上100nm以下、Raを5nm以上100nm以下、Sを1.0μm以下とすることにより、耐擦過性及び高発色・光沢性に関して良好な結果が得られたことが分かる。具体的には、耐擦過性が「◎」又は「○」、20°鏡面光沢度が1.8%以上、ODが2.2以上となった。
【0109】
一方、比較例では、耐擦過性が「×」となったり、20°鏡面光沢度が1%以下となったり、ODが2未満となるものがあった。このため、Rvk、Ra、Sの何れかが上記範囲外となると、耐擦過性及び高発色・光沢性などの画像特性を両立させたインクジェット記録媒体とすることが困難であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】インクジェット記録媒体表面の粗さ曲線と突出谷部深さを表す図である。
【図2】負荷曲線上における、突出谷部深さの説明図である。
【図3】インクジェット記録媒体表面の粗さ曲線を表す図である。
【図4】本発明のインクジェット記録媒体の一例を表す図である。
【符号の説明】
【0111】
1 コア部
2 突出谷部
3 評価長さ
4 基材
5 インク受容層
8 局部山頂(凸部)
9 突出谷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に無機粒子とバインダーとを含むインク受容層と、を有するインクジェット記録媒体であって、
前記インク受容層の表面が、以下の条件を満たすことを特徴とするインクジェット記録媒体。
(a)突出谷部深さ(Rvk)が20nm以上100nm以下
(b)算術平均粗さ(Ra)が5nm以上100nm以下
(c)局部山頂の平均間隔(S)が1.0μm以下
【請求項2】
前記無機粒子が、平均2次粒子径210nm以上300nm以下のアルミナ水和物粒子であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項3】
前記無機粒子が、平均2次粒子径230nm以上300nm以下のアルミナ水和物粒子であり、
前記インク受容層が、リウェットキャスト法により形成されたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項4】
前記突出谷部深さ(Rvk)が、20nm以上60nm以下であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項5】
請求項1に記載のインクジェット記録媒体の製造方法であって、
基材上に、平均2次粒子径230nm以上300nm以下のアルミナ水和物粒子を含有するインク受容層用塗工液を塗布、乾燥後、リウェットキャスト法を行うことにより、インクジェット記録媒体を製造することを特徴とするインクジェット記録媒体の製造方法。
【請求項6】
インクジェット記録媒体のインク受容層側に、色材として顔料を含むインクで画像を形成するインクジェット記録方法であって、
前記インクジェット記録媒体は、基材と、前記基材上に無機粒子とバインダーとを含むインク受容層と、を有し、
前記インク受容層の表面が、以下の条件を満たすことを特徴とするインクジェット記録方法。
(a)突出谷部深さ(Rvk)が20nm以上100nm以下
(b)算術平均粗さ(Ra)が5nm以上100nm以下
(c)局部山頂の平均間隔(S)が1.0μm以下
【請求項7】
前記突出谷部深さ(Rvk)が、前記顔料の平均粒径の1/5以上であることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記無機粒子が、平均2次粒子径210nm以上300nm以下のアルミナ水和物粒子であることを特徴とする請求項6又は7に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記突出谷部深さ(Rvk)が、20nm以上60nm以下であることを特徴とする請求項6から8の何れか1項に記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−290367(P2007−290367A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68846(P2007−68846)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】