説明

インクジェット記録媒体

【課題】樹脂を主に含むインクジェット記録媒体への画像形成時の環境温度による、顔料インクの吸収性、発色性の変化の少ないインクジェット記録媒体を得ること。
【解決手段】インク受容層3に顔料インク10が到達すると、顔料インク10に含まれる溶媒5がインク受容層3に吸収され、インク受容層3が膨潤する。このとき、顔料インク10に含まれる溶媒5とインク受容層3に含まれる成分とが反応し発熱する。この発熱によって、インク受容層3に含まれる樹脂の高分子6間の距離がさらに広がり、顔料インク10および顔料インク10に含まれる溶媒5の吸収速度がさらに早まる。溶媒5の吸収速度が早まれば、顔料インク10が流れ出したり、画像がにじんだりすることを抑制でき、インクジェット記録媒体1に形成される画像の濃度を向上させることができる。したがって、吸収性、発色性の良好なインクジェット記録媒体1を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク受容層を備えたインクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタでは、インクをノズルから噴射してインクジェット記録媒体に画像を形成する。インクは顔料または染料を使用する。また、インクには、ノズルのインク詰まり防止、インク粘度調整等のために、溶媒が含まれる。溶媒には、取り扱いの容易で安全性の高い水が広く用いられている。
一方、展示、包装用等印刷フィルムの校正用フィルムとして、透明基材に樹脂を含んだ透明なインク受容層を設けたインクジェット記録媒体が使用されている。
基材に透明インク受容層を設けたインクジェット記録シートの例として特開平7−186520があげられる(例えば特許文献1参照)。
合成樹脂フィルムからなる基材にインク受容層である受像層が設けられた記録媒体において、受像層の水性顔料インクの吸収性、乾燥性、発色性を向上させるために、受像層にカチオン性アクリルシリコンエマルション系樹脂とカチオン性ウレタン系樹脂とを含ませたものが知られている(例えば特許文献2参照)。他に、高い画像品質と同時に耐光性、耐水性、耐擦性などの画像の保存安定性に優れた記録物を高い生産性で製造するための方法として特開2005−212458などがあげられる(例えば特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−186520号公報
【特許文献2】特開2006−88341号公報(第3項)
【特許文献3】特開2005−212458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インク受容層が樹脂を含む場合、インクジェット記録媒体への画像形成時の環境温度によって、インクの吸収性、発色性が大きく変化する。具体的には、低温になると、吸収性、発色性が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]インクを吸収するインク受容層を備えたインクジェット記録媒体であって、前記インク受容層には、樹脂と、前記インクに含まれる溶媒と反応して発熱する成分とが含まれていることを特徴とするインクジェット記録媒体。
なお、反応には、化学反応、物理反応、詳しくは水和、溶解などの反応が広く含まれる。
【0007】
これによれば、インク受容層にインクが到達すると、インクに含まれる溶媒がインク受容層に吸収され、インク受容層が膨潤する。このとき、インクに含まれる溶媒とインク受容層に含まれる成分とが反応し発熱する。この発熱によって、インク受容層に含まれる樹脂の高分子間の距離が広がり、インクおよびインクに含まれる溶媒の吸収速度がさらに早まる。溶媒の吸収速度が早まれば、インクが流れ出したり、画像がにじんだりすることを抑制でき、結果的にインクを多量に打ち込むことができるため、インクジェット記録媒体に形成される画像の濃度を向上させることができる。したがって、吸収性、発色性の良好なインクジェット記録媒体が得られる。
【0008】
[適用例2]上記に記載のインクジェット記録媒体において、前記成分は、ポリエチレングリコールであることを特徴とするインクジェット記録媒体。
【0009】
これによれば、インクの溶媒としてよく用いられる水とポリエチレングリコールとの水和反応によって生じる熱量が大きいので、より吸収性、発色性の良好なインクジェット記録媒体が得られる。
【0010】
[適用例3]上記に記載のインクジェット記録媒体において、前記インク受容層が、樹脂を含む透明基材に形成され、前記インク受容層が透明であることを特徴とするインクジェット記録媒体。
なお、ここで透明とは、使用されるインクの黒色を含む各色をインクジェット記録媒体を透過して目視で認識できることをいう。したがって、透明および半透明を含む。
【0011】
これによれば、吸収性、発色性の良好な透明なインクジェット記録媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、実施形態にかかるインクジェット記録媒体1の部分断面図である。
インクジェット記録媒体1は、基材2とインク受容層3とを備えている。
基材2としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ジアセテート系樹脂、トリアセテート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セロハン、若しくはセルロイドなどの透明なフィルム等を用いることができる。
インク受容層3としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、澱粉、水溶性セルロース誘導体、アクリルシリコン系樹脂等を主成分として用いることができる。
【0013】
本実施形態では、インク受容層3にインクの溶媒と反応して発熱する成分を加える。インクの溶媒には、取り扱いの容易な水が多く用いられているので、水と反応して発熱する成分が好ましい。
例えば、アルキレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ベンチレングリコール、ヘキシレングリコール等のアルキレングリコール、グリセロール等の脂肪酸トリオール類、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレンを有するジアルキレングリコール類、およびその誘導体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイド、のブロックまたはランダム共重合体等のアルキレンを有するポリアルキレンオキサイド類その誘導体、そしてエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの共重合体のブチルモノエーテル、ポリエチレンオキサイドのブチルモノエーテル、ポリ(エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド)のグリセロールアダクト、ポリプロピレンオキサイドのグリセロールアダクト等のエーテルを有するポリアルキレンオキサイド類の1種または2種以上が用いられる。
【0014】
水と反応して発熱する成分としては、水との水和熱が大きいポリエチレングリコールが好ましい。また、ポリエチレングリコールは、平均重合度が200〜1000であるのが好ましい。この範囲内であれば、単位重量当たりの水和熱発生量が極めて大きい。
インク受容層3に添加するポリエチレングリコールの量は、1重量パーセント以上が好ましい。
【0015】
インク受容層3は、塗布、乾燥工程によって形成する。例えば、塗布液に、水と反応して発熱する成分をそのまま、あるいはエマルジョンの状態で混合し、塗布後乾燥させる。また、インク受容層3の厚さは数十μmが好ましい。
【0016】
図2(a)〜(d)および図3(a)〜(b)は、インク受容層3に、インクの溶媒と反応して発熱する成分を加えないときの、インクジェット記録媒体のインク吸収性の温度特性を評価した結果を示す図である。基材2には、PET(ポリエチレンテレフタレート)を用いている。
打ち込み量(いわゆるduty)を変えてインクをインクジェット記録媒体1に打ち込んで、目視でインクの凝集あるいはにじみを確認し、凝集あるいはにじみの発生しない最大の打ち込み量によって吸収性を評価した。
【0017】
サンプルとして3つの異なるサンプルを用意し、インク噴射時の温度を13℃、27℃、湿度を35%、65%と変えて評価した。また、インクの噴射は、1次色、2次色、3次色で行った。ここで、1次色の打ち込み量の最大値は通常100%、2次色の打ち込み量の最大値は200%、3次色の打ち込み量の最大値は300%である。これらの値は、インクジェットプリンタの仕様により異なる。
【0018】
図2において、(a)は13℃、35%、(b)は27℃、35%、(c)は13℃、65%、(d)は27℃、65%での結果を示している。
図3に2次色を例に、湿度一定で温度が変化したときの各サンプルでの凝集あるいはにじみの発生しない最大の打ち込み量の差を(a)に、温度一定で湿度が変化したときの各サンプルでの凝集あるいはにじみの発生しない最大の打ち込み量の差を(b)に示した。
(a)に示した温度変化させた結果と、(b)に示した湿度変化させた結果とを比較すると、温度変化させた場合、凝集あるいはにじみの発生しない最大の打ち込み量の変化が大きいことがわかる。具体的には、27℃から13℃への14℃の温度差で、凝集あるいはにじみの発生しない最大の打ち込み量として倍以上の差がある。
【0019】
図4(a)および(b)に、1次色と2次色について、打ち込み量と反射濃度(OD(Optical Density)値)との関係を表す図を示した。
横軸がインクの打ち込み量を表し、縦軸が反射濃度を表している。
1次色および2次色ともに、インク打ち込み量が増えると、反射濃度が向上することがわかる。
【0020】
図5に、本実施形態のインクジェット記録媒体1のインク受容層3に、インクとしての顔料インク10を噴射したときの模式的な概略断面図を示した。
顔料インク10は顔料4を溶媒5に分散させたものである。溶媒5がインク受容層3に吸収されたときの様子を説明する。
顔料インク10が噴射される前の状態を左側の図に、顔料インク10が噴射された後の状態を右側の図に示した。
顔料インク10が噴射される前のインク受容層3と顔料インク10が噴射された後のインク受容層7とを比較すると、インク受容層3が溶媒5を吸収すると、インク受容層3の樹脂の高分子6間の距離が広がり膨潤する。顔料4はインク受容層7の表面付近にとどまる。
ここで、溶媒5とインク受容層3に含まれる成分が反応して発熱すると、熱運動によって高分子6間の距離がさらに広がる。
【0021】
インク受容層3に含める溶媒5と反応して発熱する成分の量は、必要とするインク打ち込み量と単位重量当りの発熱量に応じて決めることができる。
【0022】
本実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)インク受容層3に顔料インク10が到達すると、顔料インク10に含まれる溶媒5がインク受容層3に吸収され、インク受容層3が膨潤する。このとき、顔料インク10に含まれる溶媒5とインク受容層3に含まれる成分とが反応し発熱する。この発熱によって、インク受容層3に含まれる樹脂の高分子6間の距離がさらに広がり、顔料インク10および顔料インク10に含まれる溶媒5の吸収速度がさらに早まる。溶媒5の吸収速度が早まれば、顔料インク10が流れ出したり、画像がにじんだりすることを抑制でき、結果的にインクを多量に打ち込むことができるため、インクジェット記録媒体1に形成される画像の濃度を向上させることができる。したがって、吸収性、発色性の良好なインクジェット記録媒体1を得ることができる。
【0023】
(2)顔料インク10の溶媒5としてよく用いられる水とポリエチレングリコールの水和反応によって生じる熱量が大きいので、より吸収性、発色性の良好なインクジェット記録媒体1を得ることができる。
【0024】
(3)吸収性、発色性の良好な透明なインクジェット記録媒体1を得ることができる。
【0025】
(4)溶媒5の粘度も低下し、それに伴いインク吸収速度が早まり、吸収性、発色性のより良好な透明なインクジェット記録媒体1を得ることができる。
【0026】
(5)また熱によって溶媒5の蒸発速度が早まり、乾燥も早くなり、顔料インク10が流れ出したり、画像がにじんだりすることをより抑制でき、インクジェット記録媒体1に形成される画像の濃度をより向上させることができる。したがって、吸収性、発色性のより良好なインクジェット記録媒体1を得ることができる。
【0027】
なお、実施形態は上記に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。
インク受容層3に含まれる成分は、インクに含まれる溶媒5と反応するものであれば水以外の溶媒であってもよい。
また、インク受容層3は複数の層であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態にかかるインク受容層を備えたインクジェット記録媒体の部分断面図。
【図2】インク吸収性の温度特性を評価した結果を示す図。
【図3】インク吸収性の温度特性を評価した結果を示す図。
【図4】打ち込み量と反射濃度との関係を表す図。
【図5】インク受容層に、顔料インクを噴射したときの模式的な概略断面図。
【符号の説明】
【0029】
1…インクジェット記録媒体、2…基材、3,7…インク受容層、5…溶媒、6…樹脂を構成する高分子、10…インクとしての顔料インク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吸収するインク受容層を備えたインクジェット記録媒体であって、
前記インク受容層には、
樹脂と、
前記インクに含まれる溶媒と反応して発熱する成分とが含まれている
ことを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット記録媒体において、
前記成分は、ポリエチレングリコールである
ことを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録媒体において、
前記インク受容層が、樹脂を含む透明基材に形成され、
前記インク受容層が透明である
ことを特徴とするインクジェット記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−925(P2009−925A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164695(P2007−164695)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】