説明

インクジェット記録方法および記録物

【課題】布帛に対して、良好な金属光沢を有する画像を記録することができるインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】本発明にかかるインクジェット記録方法は、布帛に対し、インクジェット記録装置を用いて、金属光沢を有する画像を記録するインクジェット記録方法であって、第1熱可塑性樹脂を含有する第1インク組成物の液滴を、前記布帛の上に該液滴を付着させて下地層を形成する工程と、前記下地層上に、金属顔料および第2熱可塑性樹脂を含有する第2インク組成物の液滴を付着させて金属光沢層を形成する工程と、を含み、前記第1熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、前記第2熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下であり、前記下地層を形成する工程は、前記第1熱可塑性樹脂の前記ガラス転移温度以上の温度で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法および記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷面に金属光沢を有する画像が形成された印刷物の需要が高まっている。金属光沢を有する画像を形成する方法としては、従来は、たとえば、平坦性の高い印刷面を有する記録媒体を準備して、これに金属箔を押しつけて印刷する箔押し印刷法、印刷面が平滑なプラスチックフィルムに対して金属を真空蒸着する方法、および、記録媒体に金属顔料インキを塗布し、さらにプレス加工を行う方法などによって印刷されてきた。
【0003】
一方、インクジェット記録方法は、インク組成物の小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。この記録方法は、比較的小規模な装置構成で、高解像度、高品位な画像を高速で印刷することができるという特徴を有する。そのため、このようなインクジェット記録方法によって、金属光沢面を有する記録物を印刷することが検討されている。たとえば、特開2008−088228号公報には、金属粉を含むインクジェット用インク組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−088228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、金属光沢は平滑な金属光沢面が形成されることにより発現するため、これまで、インクジェット記録方法によって金属光沢を有する画像を得る場合、表面が平滑な記録媒体を選ぶ必要があった。すなわち記録媒体としては、表面が平滑なプラスチックシートや、表面コートが施されたコート紙を用いる必要があった。
【0006】
そのため、例えば、布、絹、織物などの布帛のような表面が平坦でない記録媒体に対しては、インクジェット記録方法によって、十分な金属光沢を有する画像を形成することは難しかった。また、布帛は、インクの吸収性を有するため、金属粉等を印刷面に定着させることも困難であった。
【0007】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の1つは、布帛に対して、良好な金属光沢を有する画像を記録することができるインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0009】
本発明にかかるインクジェット記録方法の一態様は、
布帛に対し、インクジェット記録装置を用いて、金属光沢を有する画像を記録するインクジェット記録方法であって、
第1熱可塑性樹脂を含有する第1インク組成物の液滴を、前記布帛の上に該液滴を付着させて下地層を形成する工程と、
前記下地層上に、金属顔料および第2熱可塑性樹脂を含有する第2インク組成物の液滴を付着させて金属光沢層を形成する工程と、
を含み、
前記第1熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、前記第2熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下であり、
前記下地層を形成する工程は、前記第1熱可塑性樹脂の前記ガラス転移温度以上の温度で行われる。
【0010】
このようにすれば、布帛に対して、良好な金属光沢を有する画像を記録することができる。
【0011】
本発明のインクジェット記録方法において、
前記第1熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、−50℃以下であり、
前記第2熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、140℃以上であることができる。
【0012】
本発明のインクジェット記録方法において、
前記下地層を形成する工程は、40℃以上90℃以下で行われることができる。
【0013】
本発明のインクジェット記録方法において、
前記金属顔料は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる平板状粒子であって、
該平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、
該平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径において、50%平均粒子径R50は、0.5〜3μmであり、かつ、R50/Z>5の条件を満たすものとすることができる。
【0014】
本発明にかかる記録物の一態様は、上述のインクジェット記録方法によって、布帛に金属光沢を有する画像が形成されたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかるインクジェット記録方法によれば、布帛に下地層を形成し、該下地層の上に金属光沢層が形成されるため、布帛に対して、良好な金属光沢を有する画像を記録することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一例を説明するものである。
【0017】
1.インクジェット記録方法
本実施形態のインクジェット記録方法は、布帛に対し、インクジェット記録装置を用いて、金属光沢を有する画像を記録するものであって、下地層を形成する工程と、金属光沢層を形成する工程と、を含む。
【0018】
1.1.記録媒体(布帛)
本実施形態のインクジェット記録方法において、金属光沢を有する画像が形成される布帛は、特に限定されず、従来、金属光沢を有する画像を形成することが困難であった布、織物などを含む。本明細書において布帛とは、布、織物、不織布などのことを指し、天然繊維、化学繊維、あるいは混紡の繊維によって形成されたものを指す。このような布帛の具体例としては、日本工業規格JIS−L0206(1999)に定義される「1005織物」が挙げられ、同規格「3.3 織物の名称」の項に記載された織物を含む。
【0019】
1.2.インクジェット記録装置
本実施形態にかかるインクジェット記録方法では、インクジェット記録装置を用いて、各インク組成物の液滴を吐出する。本実施形態で使用するインクジェット記録装置は、インクの液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて画像の記録を行うことができるものであれば、特に限定されない。なお、本実施形態では、記録媒体として布帛を用いる。
【0020】
インクジェット記録装置の記録方式としては、例えば、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏光電極に与えて記録する方式またはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式(静電吸引方式)、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射・記録させる方式(ピエゾ方式)、インク液を印刷情報信号にしたがって微小電極で加熱発泡させ、インク滴を噴射・記録させる方式(サーマルジェット方式)等が挙げられる。
【0021】
インクジェット記録装置は、インクジェット式記録ヘッド、本体、トレイ、ヘッド駆動機構、キャリッジなどを備えたものを例示できる。また、必要に応じて、記録中に記録媒体を加熱する機構が備えられることができる。このような機構としては、たとえば、赤外線ランプをキャリッジに設けて記録媒体を加熱するものや、記録媒体を搬送するローラー等を加熱して記録媒体を加熱するものが挙げられる。また例えば、加熱は、記録媒体に熱源を接触させて加熱する方法、赤外線やマイクロウェーブ(2,450MHz程度に極大波長をもつ電磁波)などを照射し、または熱風を吹き付けるなど記録媒体に接触させずに加熱する方法などを挙げることができる。記録媒体の加熱は、印刷の前に行っても、同時に行っても、印刷の後に行ってもよく、印刷を行っている間を通して加熱してもよい。さらに、本実施形態において、下地層を形成する工程と、金属光沢層を形成する工程を異なる温度で実施する場合には、ローラーの数を増すことや、赤外線やマイクロウェーブの照射部位を変えることなどによって、これを行うこともできる。
【0022】
インクジェット式記録ヘッドは、少なくともシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクカートリッジを備えており、フルカラー印刷ができるように構成されている。そして少なくとも2つのインクカートリッジに、本実施形態にかかる第1インク組成物および第2インク組成物を充填し、設置する。また、このインクジェット記録装置は、内部に専用のコントロールボード等を備えており、インクジェット式記録ヘッドのインクの吐出タイミングおよびヘッド駆動機構の走査を制御することができる。
【0023】
1.3.下地層を形成する工程
本実施形態にかかるインクジェット記録方法における下地層を形成する工程は、上述のインクジェット記録装置を用い、記録媒体(布帛)に対して、第1熱可塑性樹脂を含有する第1インク組成物の液滴を吐出して、付着させて行われる。本工程で形成される下地層の機能の一つとしては、記録媒体(布帛)に第2インク組成物が浸透することを抑制し、記録媒体(布帛)の表面に第2インク組成物の成分を残存させることが挙げられる。また、本工程で形成される下地層の機能の一つとしては、金属光沢層が形成される記録媒体(布帛)の面の平坦性を向上させることが挙げられる。なお、下地層は、後述する金属光沢層との界面が明確に分離している場合と、該界面が必ずしも明確に分離していない場合とがある。
【0024】
下地層を形成する工程は、第1インク組成物に含有される第1熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上の温度で行われる。記録媒体(布帛)の加熱は、たとえば上述したように、インクジェット記録装置に記録媒体(布帛)を加熱する機構を備えることによって行われることができる。下地層を形成する工程は、第1熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上の温度で、かつ、インクジェット記録装置を用いて第1インク組成物を吐出できる範囲の温度で行うことができる。下地層を形成する工程は、たとえば、室温で行うことができ、より高い温度で行われてもよい。上述したように布帛が化学繊維などの熱に弱い材質を有さない場合には、下地層を形成する工程は、たとえば、0℃以上150℃以下、好ましくは10℃以上110℃以下、さらに好ましくは20℃以上100℃以下、特に好ましくは40℃以上90℃以下で行われることができる。このようにすれば、後述する第1熱可塑性樹脂の選択の範囲を広げることができる。また、このようにすれば、第1インク組成物に溶媒が含有されるときの乾燥速度を高めることができる。
【0025】
下地層の膜厚は、好ましくは0.1μm以上20μm以下であり、より好ましくは0.2μm以上10μm以下である。下地層の膜厚が0.1μm未満であると浸透抑制効果または平坦化効果が不足することがある。
【0026】
1.4.第1インク組成物
下地層を形成する工程で用いる第1インク組成物は、少なくとも第1熱可塑性樹脂を含有する。以下に第1インク組成物に含有される成分について説明する。
【0027】
(1)第1熱可塑性樹脂
第1インク組成物に含有される第1熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度(以下、Tgと記載することがある。)が下地層を形成する工程の温度以下の温度であって、後述する第2熱可塑性樹脂のTg以下であるかぎり、任意のものを用いることができる。第1熱可塑性樹脂の種類としては、たとえば(メタ)アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ロジン変性樹脂、フェノール樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、セルロースアセテートブチレート(CAB)等の繊維素系樹脂、ビニルトルエン−α−メチルスチレン共重合体樹脂等の単独、またはそれらの共重合体を挙げることができる。
【0028】
これら例示した樹脂のうち、第1熱可塑性樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、すなわち、アクリル樹脂またはメタクリル樹脂であることが好ましく、メチルメタクリレート単独の重合体もしくはメチルメタクリレートとブチルメタクリレートとの共重合体が更に好ましい。
【0029】
第1熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、1万以上15万以下、好ましくは1万以上10万以下であることができる。第1熱可塑性樹脂の分子量が1万よりも小さいと、第1インク組成物が記録媒体(布帛)に付着されたときに十分に粘度が高まらない場合がある。また、第1熱可塑性樹脂の分子量が15万よりも大きいと、第1インク組成物の粘度が大きくなり、インクジェット記録装置で第1インク組成物の液滴を吐出できなくなる場合がある。
【0030】
第1熱可塑性樹脂は、第1インク組成物中に、溶液状態、エマルション状態、および該樹脂の粒子が分散した状態のいずれの状態で含有されてもよい。第1熱可塑性樹脂が粒子の状態で含有される場合は、該粒子の粒子径は、0.1μm以上20μm以下が好ましく、0.5μm以上10μm以下がさらに好ましい。粒子径が20μmよりも大きいと、インクジェット記録装置のノズルが閉塞してしまう場合がある。
【0031】
第1熱可塑性樹脂のTgは、第2熱可塑性樹脂のTg以下である。第1熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度を境に、低い温度では弾性率が大きくなり、高い温度では弾性率が小さくなる。したがって、第1熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度以上では、塑性変形しやすい。第1熱可塑性樹脂のTgが、下地層を形成する工程の温度よりも低いほど、下地層を形成する工程をより低温で行うことができる。また、第1熱可塑性樹脂のTgが、第2熱可塑性樹脂のTgよりも低いほど、下地層を形成する工程の温度の設定範囲をより広くすることができる。さらに、第1熱可塑性樹脂のTgと、第2熱可塑性樹脂のTgとの差が大きいほど、その間の温度に下地層を形成する工程の温度を設定する場合に、下地層を形成する工程の温度と、第1熱可塑性樹脂のTgとの差を大きくすることができる。そのため、このような場合には、第1熱可塑性樹脂および第2熱可塑性樹脂のそれぞれの機能をより高めることができる。
【0032】
第1熱可塑性樹脂の機能の一つとしては、第1インク組成物が記録媒体(布帛)に付着された際の、第1インク組成物の粘度を高め、第1インク組成物の記録媒体(布帛)への浸透を抑制することが挙げられる。これにより、第1インク組成物は、記録媒体(布帛)の表面付近に留まり、良好な下地層を形成することができる。また、第1熱可塑性樹脂の機能の一つとしては、第1インク組成物が記録媒体(布帛)に付着された際に流動または変形し、下地層の表面の平坦性を高めることが挙げられる。これにより、金属光沢層が下地層の上に形成された際に、光沢の良好な金属光沢面を形成することができる。
【0033】
第1熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度が−100℃以上110℃以下、好ましくは−80℃以上80℃以下、さらに好ましくは−80℃以上50℃以下のものを選択することが好ましい。第1熱可塑性樹脂のガラス転移温度が高すぎると、下地層を形成する工程で用いるインクジェット記録装置によって該温度よりも高い温度に加熱できなくなる場合がある。したがって、この観点からは、第1熱可塑性樹脂のガラス転移温度の値は、100℃以下が好ましく、さらに好ましくは80℃以下、特に好ましくは50℃以下である。
【0034】
第1熱可塑性樹脂の第1インク組成物に対する含有量は、0.01質量%以上50質量%以下、好ましくは0.05質量%以上40質量%以下、更に好ましくは、0.1質量%以上30質量%以下である。
【0035】
(2)その他の成分
(2−1)有機溶媒
第1インク組成物は、有機溶剤を含有することができる。本実施形態で使用できる有機溶剤としては、好ましくは極性有機溶媒、たとえば、アルコール類(たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、またはフッ化アルコールなど)、ケトン類(たとえば、アセトン、メチルエチルケトン、またはシクロヘキサノンなど)、カルボン酸エステル類(たとえば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、またはプロピオン酸エチルなど)、またはエーテル類(たとえば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、またはジオキサンなど)を用いることができる。これらのうち、常温常圧下で液体であるアルキレングリコールエーテルを1種以上含むことが好ましい。
【0036】
アルキレングリコールとしては、メチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、へキシル、2−エチルへキシルの脂肪族、二重結合を有するアリルまたはフェニルの各基をベースとするエチレングリコール系エーテルとプロピレングリコール系エーテルがある。これらのアルキレングリコールは、無色で臭いも少なく、分子内にエーテル基と水酸基を有しているので、アルコール類とエーテル類の両方の特性を兼ね備えており、しかも常温常圧下で液体であるから好ましく用いられる。また、片方の水酸基だけを置換したモノエーテル型と両方の水酸基を置換したジエーテル型があり、これらを複数種組み合わせて用いることができる。
【0037】
アルキレングリコールモノエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノへキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができる。
【0038】
アルキレングリコールジエーテルとしては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等を挙げることができる。
【0039】
また、ラクトンとしては、エステル結合による環状構造を持つ化合物が挙げられ、5員環構造のγ−ラクトンや6員環構造のδ−ラクトン、7員環構造のε−ラクトン等が江下られる。具体的には、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ヘキサラクトン、γ−ヘプタラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、γ−デカラクトン、γ−ウンデカラクトン、δ−バレロラクトン、δ−ヘキサラクトン、δ−ヘプタラクトン、δ−オクタラクトン、δ−ノナラクトン、δ−デカラクトン、δ−ウンデカラクトン、ε−カプロラクタムである。γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等を挙げることができる。
【0040】
第1インク組成物は、有機溶剤として、ジエチレングリコールジエチルエーテル、およびγ−ブチロラクトンから選ばれる少なくとも1種を含むことが特に好ましい。
【0041】
第1インク組成物に混合溶剤を含有させる場合における溶剤の混合割合は、たとえば、アルキレングリコールアルキルエーテル系溶剤1質量部に対してラクトン系溶剤を0.02〜4質量部、好ましくは0.05〜2質量部とするとよい。また、混合溶剤は、第1インク組成物中、少なくとも50質量%含有させるとよく、好ましくは70質量%以上含有させるとよい。これにより、印字安定性を向上させることができる。
【0042】
第1インク組成物は、ノズル部やチューブ内等の機器内での第1インク組成物の揮発抑制、固化防止、また、固化した際の再溶解性を目的として、混合溶剤に加えて、上記有機溶剤およびクエン酸トリエチルから選ばれる溶剤の少なくとも1種を併用することがさらに好ましい。
【0043】
また、有機溶剤として、室温、大気圧下で液状の非イオン性ポリオキシエチレン誘導体を添加してもよい。その具体例としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類であるニッサンノニオンP−208(日本油脂株式会社製)等のポリオキシエチレンセチルエーテル類、ニッサンノニオンE−202S、E−205S(日本油脂株式会社製)等のポリオキシエチレンオレイルエーテル類、エマルゲン106、108(花王株式会社製)等のポリオキシエチレンラウリルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類であるニッサンノニオンHS−204、HS−205、HS−206、HS−208(日本油脂株式会社製)等のポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル、ソルビタンモノエステル類であるニッサンノニオンCP−08R(日本油脂株式会社製)等のソルビタンモノカプリレート、ニッサンノニオンLP−20R(日本油脂株式会社製)等のソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノエステル類であるニッサンノニオンOT−221(日本油脂株式会社製)等のポリオキシエチレンソルピタンモノステアレート類、フローレンG−70(共栄社化学株式会社製)等のポリカルボン酸系高分子活剤、エマルゲン707、709(花王株式会社製)等のポリオキシエチレン高級アルコールエーテル類、ポエムJ−4581(理研ビタミン株式会社製)等のテトラグリセリンオレート類、アデカトールNP−620、NP−650、NP−660、NP−675、NP−683、NP−686(旭電化工業株式会社製)等のノニルフェノールエトキシレート、アデカコールCS−141E、TS−230E(旭電化工業株式会社製)等の脂肪族リン酸エステル類、ソルゲン30(第一工業製薬株式会社製等のソルビタンセスキオレート、ソルゲン40(第一工業製薬株式会社製)等のソルビタンモノオレート、ソルゲンTW−20(第一工業製薬株式会社製)等のポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート、ソルゲンTW−80(第一工業製薬株式会社製)等のポリエチレングリコールソルビタンモノオレートが例示される。
【0044】
また、上記の各溶剤は、単独で使用してもよいが複数組み合わせて添加することにより色材の分散安定性、インク揮発性の制御、及び粘度等の諸物性を調整することができる。
【0045】
(2−2)界面活性剤
第1インク組成物は、界面活性剤を含有してもよい。用いうる界面活性剤としては、たとえば、アセチレングリコール系界面活剤が挙げられる。具体的には、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等が例示され、市販品としてはサーフイノール104、82、465、485、またはTG(いずれもAir Products and Chemicals.1nc.より入手可能)、オルフインSTG、オルフインE1010(日信化学社製)、ニッサンノニオンA−10R、A−13R(日本油脂株式会社製)、フローレンTG−740W、D−90(共栄社化学株式会社製)、エマルゲンA−90、A−60(花王株式会社製)、ノイゲンCX−100(第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。また、第1インク組成物に用いうる界面活性剤としては、アクリル基含有シリコーン系界面活性剤を用いてもよい。アクリル基含有シリコーン系界面活性剤としては、例えば、BYK−UV3500(ビック・ケミー社製)などが挙げられる。これらの界面活性剤は単独、または混合して添加してよい。各界面活性剤は、たとえば、第1インク組成物に揮発抑制性を付与することにより、インクカートリッジからプリンタヘッドにインク組成物を輸送するチューブ内での第1インク組成物の蒸発を抑制してチューブ内での固形分の堆積を防止ないし軽減することができる。界面活性剤の含有量としては第1インク組成物中0.01〜48質量%、好ましくは5〜30質量%である。
【0046】
(2−3)色材および分散剤
第1インク組成物は、色材およびその分散剤を含有することができる。第1インク組成物が色材を含有すると、下地層は着色され、下地層が露出する領域を通常の印刷とすることができる。
【0047】
第1インク組成物には、通常のインクに使用することのできる色材を特に制限なく用いることができる。色材としては、顔料および染料が挙げられる。
【0048】
染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料、など通常インクジェット記録に使用される各種染料を使用することができる。
【0049】
また、顔料としては、特別な制限なしに無機顔料、有機顔料を使用することができる。
【0050】
無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。また、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(たとえば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(たとえば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用することができる。
【0051】
顔料の具体例としては、カーボンブラックとして、C.I.ピグメントブラック7、三菱化学社製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等が、コロンビア社製のRaven5750、同5250、同5000、同3500、同1255、同700等が、キャボット社製のRegal 400R、同330R、同660R、Mogul L、同700、Monarch800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、同1400等が、デグッサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、Color Black S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同140U、SpecialBlack 6、同5、同4A、同4等が挙げられる。
【0052】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、180、185、213等が挙げられる。
【0053】
また、マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、209、C.I.ピグメントヴァイオレット 19等が挙げられる。
【0054】
さらに、シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、60、16、22が挙げられる。
【0055】
ホワイト顔料としては、C.I.ピグメントホワイト6等が挙げられる。
【0056】
第1インク組成物に顔料を用いる場合は、その平均粒径が10〜200nmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは50〜150nm程度のものである。
【0057】
第1インク組成物に色材を用いる場合、色材の添加量は、0.1〜25質量%程度の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜15質量%程度の範囲である。
【0058】
第1インク組成物に顔料を用いる場合は、分散剤または界面活性剤で媒体中に分散させて得られた顔料分散液を用いることができる。好ましい分散剤としては、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、たとえば高分子分散剤を使用することができる。
【0059】
また、本実施形態の第1インク組成物が色材を含有する場合、色材を複数含有するものであっても良い。たとえば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの基本4色に加えて、それぞれの色毎に同系列の濃色や淡色を加えることができる。すなわち、マゼンタに加えて淡色のライトマゼンタ、濃色のレッド、シアンに加えて淡色のライトシアン、濃色のブルー、ブラックに加えて淡色であるグレイ、ライトブラック、濃色であるマットブラックを含有させることが例示できる。
【0060】
分散剤としては、通常のインクにおいて用いられている任意の分散剤を用いることができる。分散剤としては、有機溶媒の溶解度パラメーターが8〜11であるときに有効に作用する分散剤を用いるのが好ましい。こうした分散剤としては市販品を利用することが可能であり、その具体例としてはヒノアクトKF1−M、T−6000、T−7000、T−8000、T−8350P、T−8000EL(武生ファインケミカル株式会社製)等のポリエステル系高分子化合物、solsperse20000、24000、32000、32500、33500、34000、35200(アビシア株式会社製)、disperbyk−161、162、163、164、166、180、190、191、192(ビック・ケミー社製)、フローレンDOPA−17、22、33、G−700(共栄社化学株式会社製)、アジスパーPB821、PB711(味の素株式会社製)、LP4010、LP4050、LP4055、POLYMER400、401、402、403、450、451、453(EFKAケミカルズ社製)の単独、または混合したものを挙げることができる。
【0061】
第1インク組成物における分散剤の含有量は、第1インク組成物中の色材(特には顔料)の含有量に対して、5〜200質量%、好ましくは30〜120質量%であり、分散すべき色材によって適宜選択するとよい。
【0062】
(2−4)その他の添加剤
第1インク組成物には、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、界面活性剤等をさらに添加してもよい。酸化防止剤としてはBHA(2,3−ブチル−4−オキシアニソール)、BHT(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)等が例示され、第1インク組成物中0.01〜3.0質量%である。また、紫外線吸収剤としてはベンゾフェノン系化合物、又はベンゾトリアゾール系化合物を用いることができ、第1インク組成物中0.01〜0.5質量%である。また、界面活性剤としてはアニオン系、カチオン系、両性又は非イオン系のいずれの界面活性剤も用いることができ、第1インク組成物中0.5〜4.0質量%である。
【0063】
(2−5)その他の樹脂成分
第1インク組成物には、さらに、第1熱可塑性樹脂の他に、他の樹脂成分を含んでいてもよい。このような樹脂成分としては、第1熱可塑性樹脂の種類として挙げた、(メタ)アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ロジン変性樹脂、フェノール樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、セルロースアセテートブチレート(CAB)等の繊維素系樹脂、ビニルトルエン−α−メチルスチレン共重合体樹脂等の単独、またはそれらの共重合体を挙げることができる。このような樹脂成分を含む場合には、樹脂成分のTgは、特に限定されない。すなわち、第1熱可塑性樹脂が含まれている限り、本実施形態の効果を奏することができる。
【0064】
1.5.金属光沢層を形成する工程
本実施形態にかかるインクジェット記録方法における金属光沢層を形成する工程は、上述のインクジェット記録装置を用い、下地層の上に、少なくとも金属顔料および第2熱可塑性樹脂を含有する第2インク組成物の液滴を吐出して、付着させて行われる。本工程で形成される金属光沢層の機能の一つとしては、記録媒体(布帛)に金属光沢面を形成することが挙げられる。金属光沢層の膜厚は、好ましくは0.05μm以上10μm以下であり、より好ましくは0.1μm以上5μm以下である。金属光沢層の膜厚が0.05μm未満であると、印刷面に金属光沢が得られなくなる場合がある。
【0065】
金属光沢層を形成する工程の温度は、特に限定されず、インクジェット記録装置を用いて第2インク組成物を吐出できる範囲の温度で行うことができる。金属光沢層を形成する工程は、たとえば、室温で行うことができ、さらに高い温度で行われてもよい。上述したように布帛が化学繊維などの熱に弱い材質を有さない場合には、金属光沢層を形成する工程は、高い温度、たとえば、20℃以上150℃以下、好ましくは25℃以上110℃以下、さらに好ましくは30℃以上100℃以下、特に好ましくは40℃以上90℃以下で行われることができる。本工程を高い温度で行うと、第2インク組成物に溶媒が含有されるときの乾燥速度を高めることができる。
【0066】
また、第2熱可塑性樹脂のガラス転移温度に応じて本工程の温度を調節することによって、光沢感のバリエーションを高めることができる。
【0067】
なお、下地層を形成する温度および金属光沢層を形成する温度は、インクジェット記録装置が簡易になる点で、同じ温度とすることが好ましいが、必要に応じて、互いに異なる温度とすることもできる。
【0068】
1.6.第2インク組成物
第2インク組成物は、少なくとも金属顔料および第2熱可塑性樹脂を含有する。以下に第2インク組成物に含有される成分について説明する。
【0069】
(1)金属顔料
第2インク組成物に含有される金属顔料としては、インクジェット記録方法によって当該インク組成物の液滴を吐出できる範囲内で、任意のものを用いることができる。金属顔料は、第2インク組成物が下地層の上に付着されたときに、金属光沢を付与する機能を有し、また、付着物に金属光沢を付与することもできる。このような金属顔料としては、たとえば、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅などの粒子を挙げることができ、これらの単体またはこれらの合金およびこれらの混合物から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0070】
本実施形態で使用される金属顔料は、金属光沢度の高さおよびコストの観点から、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることが好ましい。アルミニウム合金を用いる場合、アルミニウムに添加する他の金属元素または非金属元素としては、金属光沢を有するものであれば特に限定されるものではないが、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅などを挙げることができ、これらから選ばれる少なくとも1種を好ましく用いることができる。
【0071】
例示した金属顔料を用いる際は、第2インク組成物がインクジェット記録装置によって液滴を吐出できる程度の大きさの金属顔料であること、第2インク組成物の粘度が高すぎないこと等の制約を受けることがある。このような理由から、金属顔料は、いわゆる平板状粒子であることがさらに好ましい。このような金属顔料を用いると、下地層の上に形成される金属光沢層の金属光沢をさらに高めることができる。また、このような金属顔料を用いると、第2インク組成物を、よりインクジェット記録方法に適用しやすくなる。そのため、たとえば、第2インク組成物中の金属顔料の濃度を高めることができ、金属光沢層の光沢をさらに高めることができる。
【0072】
「平板状粒子」とは、略平坦な面(X−Y平面)を有し、かつ、厚みが略均一である粒子をいう。金属顔料が、金属蒸着膜を破砕して作製されたものである場合、略平坦な面と、略均一な厚みの粒子を得ることができる。したがって、この平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZと定義することができる。
【0073】
金属顔料を平板状粒子とする場合、該粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、該平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径の50%平均粒子径R50は、0.5〜3μmであり、かつ、R50/Z>5の条件を満たすことが好ましい。50%平均粒子径R50は、0.75μm以上2μm以下であることがより好ましい。50%平均粒子径R50が0.5μm未満であると、背景隠蔽性の不足した画像が形成されてしまうことがある。一方、50%平均粒子径R50が3μmを超えると、印字安定性が低下することがある。また、前記円相当径の50%平均粒子径R50と厚みZとの関係は、R50/Z>5の条件を満たすことが好ましい。R50/Z>5の条件を満たすと、高い背景隠蔽性を有する金属光沢層を形成することができる。R50/Zが5以下の場合は、背景隠蔽性が不足した金属光沢層が形成されてしまうことがある。
【0074】
平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径の最大粒子径Rmaxは、インクジェット記録装置におけるインク組成物の目詰まり防止の観点から、10μm以下であることが好ましい。Rmaxを10μm以下にすることで、インクジェット記録装置のノズル、およびインク流路内に設けられた異物除去用フィルターなどの目詰まりを防止することができる。
【0075】
ここで「円相当径」とは、平板状粒子の略平坦な面(X−Y平面)を、該平板状粒子の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの当該円の直径である。たとえば、平板状粒子の略平坦な面(X−Y平面)が多角形である場合、その多角形の投影面を円に変換して得られた当該円の直径を円相当径という。
【0076】
また、平板状粒子の円相当径の50%平均粒子径R50とは、円相当径に対する粒子の個数(頻度)分布を描いたときに、測定した粒子の総個数の50%部分に相当する円相当径のことを指す。
【0077】
平板状粒子の平面上の長径X、短径Yおよび円相当径は、たとえば、粒子像分析装置を用いて測定することができる。粒子像分析装置としては、たとえば、シスメックス社製のフロー式粒子像分析装置FPIA−2100、FPIA−3000、FPIA−3000Sを利用することができる。
【0078】
上記平板状粒子からなる金属顔料は、たとえば、以下のように製造することができる。シート状基材面に剥離用樹脂層と金属または金属化合物層とが順次積層された構造からなる複合化顔料原体の前記金属または金属化合物層と前記剥離用樹脂層との界面を境界として前記シート状基材より剥離し粉砕し微細化して平板状粒子を得る。
【0079】
上記金属または金属化合物層は、真空蒸着、イオンプレーティングまたはスパッタリング法により形成されることが好ましい。
【0080】
上記金属または金属化合物層の厚さは、20nm以上100nm以下で形成されることが好ましい。これにより、平均厚みが20nm以上100nm以下の顔料が得られる。20nm以上にすることで、反射性、光沢性に優れ、メタリック顔料としての性能が高くなる。一方、100nm以下にすることで、見かけ比重の増加を抑え、金属顔料のインク組成物中における分散安定性を確保することができる。
【0081】
上記複合化顔料原体における剥離用樹脂層は、前記金属または金属化合物のアンダーコート層であるが、シート状基材面との剥離性を向上させるための剥離性層である。この剥離用樹脂層に用いる樹脂としては、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、セルロース誘導体、ポリビニルブチラール、アクリル酸重合体または変性ナイロン樹脂が好ましい。
【0082】
上記の1種または2種以上の混合物の溶液をシート基材に塗布し乾燥させると、剥離用樹脂層を形成することができる。塗布後は粘度調整剤などの添加剤を添加することができる。
【0083】
上記剥離用樹脂層の塗布は、一般的に用いられているグラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布、ディップ塗布、スピンコート法など公知の技術を用いることができる。塗布・乾燥後、必要であれば、カレンダー処理により表面の平滑化を行うことができる。
【0084】
剥離用樹脂層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.5μm以上50μm以下であり、より好ましくは1μm以上10μm以下である。0.5μm未満では分散樹脂としての量が不足し、50μmを超えるとロール化した場合、顔料層との界面で剥離しやすいものとなってしまう。
【0085】
上記シート基材としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム、ナイロン66、ナイロン6などのポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、トリアセテートフィルム、ポリイミドフィルムなどの離型性フィルムを挙げることができる。これらのうち、ポリエチレンテレフタレートまたはその共重合体が好ましい。
【0086】
シート基材の厚さは、特に限定されないが、好ましくは10μm以上150μm以下である。10μm以上であれば、工程等で取扱い性に問題がなく、150μm以下であれば、柔軟性に富み、ロール化、剥離等に問題がない。
【0087】
また、上記金属または金属化合物層は、特開2005−68250号公報に例示されるように、保護層で挟まれていてもよい。該保護層としては、酸化ケイ素層、保護用樹脂層が挙げられる。
【0088】
酸化ケイ素層は、酸化ケイ素を含有する層であれば特に制限されるものではないが、ゾル−ゲル法によって、テトラアルコキシシランなどのシリコンアルコキシドまたはその重合体から形成されることが好ましい。シリコンアルコキシドまたはその重合体を溶解したアルコール溶液を塗布し、加熱焼成することにより、酸化ケイ素層の塗膜を形成する。
【0089】
上記保護用樹脂層としては、分散媒に溶解しない樹脂であれば特に限定されるものではないが、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、セルロース誘導体等を挙げることができる。これらのうち、ポリビニルアルコールまたはセルロース誘導体から形成されることが好ましい。
【0090】
上記樹脂1種または2種以上の混合物の水溶液を塗布し乾燥させると、上記保護用樹脂層を形成することができる。塗布液には、粘度調整剤などの添加剤を添加することができる。上記酸化ケイ素および樹脂の塗布は、上記剥離用樹脂層の塗布と同様の手法により行われる。
【0091】
上記保護層の厚さは、特に限定されないが、50nm以上150nm以下の範囲が好ましい。50nm未満では機械的強度が不足であり、150nmを超えると強度が高くなりすぎるため粉砕・分散が困難となり、また金属または金属化合物層との界面で剥離してしまう場合がある。
【0092】
また、特開2005−68251号公報に例示されるように、前記「保護層」と「金属または金属化合物層」との間に色材層を有していてもよい。
【0093】
色材層は、任意の着色複合顔料を得るために導入するものであり、本実施形態に使用する金属顔料の金属光沢、光輝性、背景隠蔽性に加え、任意の色調、色相を付与できる色材を含有できるものであれば特に制限されるものではない。この色材層に用いる色材としては、染料、顔料のいずれでもよい。また、染料、顔料としては、公知のものを適宜使用することができる。
【0094】
この場合、色材層に用いられる「顔料」とは、一般的な工学の分野で定義される、天然顔料、合成有機顔料、合成無機顔料等を意味する。
【0095】
この色材層の形成方法としては、特に限定されないが、コーティングにより形成することが好ましい。また、色材層に用いられる色材が顔料の場合は、色材分散用樹脂をさらに含むことが好ましく、該色材分散用樹脂としては、顔料と色材分散用樹脂と必要に応じてその他の添加剤等を溶媒に分散または溶解させ、溶液としてスピンコートで均一な液膜を形成した後、乾燥させて樹脂薄膜として作製されることが好ましい。なお、複合化顔料原体の製造において、上記の色材層と保護層の形成がともにコーティングにより行われることが、作業効率上好ましい。
【0096】
上記複合化顔料原体としては、上記剥離用樹脂層と金属または金属化合物層との順次積層構造を複数有する層構成も可能である。その際、複数の金属または金属化合物層からなる積層構造の全体の厚み、すなわち、シート状基材とその直上の剥離用樹脂層を除いた、金属または金属化合物層−剥離用樹脂層−金属または金属化合物層、または剥離用樹脂層−金属または金属化合物層の厚みは5000nm以下であることが好ましい。5000nm以下であると、複合化顔料原体をロール状に丸めた場合でも、ひび割れ、剥離を生じ難く、保存性に優れる。また、顔料化した場合も光沢性、背景隠蔽性に優れており好ましいものである。また、シート状基材面の両面に、剥離用樹脂層と金属または金属化合物層とが順次積層された構造も挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0097】
上記シート状基材からの剥離処理法としては、特に限定されないが、上記複合化顔料原体を液体中に浸浸することによりなされる方法、また液体中に浸浸すると同時に超音波処理を行い、剥離処理と剥離した複合化顔料の粉砕処理を行う方法が好ましい。
【0098】
上記のようにして得られた平板状粒子からなる金属顔料は、剥離用樹脂層が保護コロイドの役割を有し、溶剤中での分散処理を行うだけで安定な分散液を得ることが可能である。また、該金属顔料を本実施形態の第2インク組成物に用いる場合は、上記剥離用樹脂層由来の樹脂が下地層に対する接着性を付与する機能も担うことができる。
【0099】
上記金属顔料の濃度は、第2インク組成物全質量に対して好ましくは0.1質量%以上3.0質量%以下であり、より好ましくは0.25質量%以上2.5質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以上2.0質量%以下である。
【0100】
(2)第2熱可塑性樹脂
第2インク組成物に含有される第2熱可塑性樹脂としては、インクジェット記録方法によって当該インク組成物の液滴を吐出できる範囲内で、かつ、第1熱可塑性樹脂のTg以上のTgを有するかぎり任意のものを用いることができる。第2熱可塑性樹脂の種類は、「1.4.(1)第1熱可塑性樹脂」の項で例示したものを用いることができる。
【0101】
第2熱可塑性樹脂の機能の一つとしては、第2インク組成物が下地層の上に付着された際に、第2インク組成物に含有される金属顔料の間の接着性を付与し、金属顔料の剥がれ等を抑制することが挙げられる。これにより、金属光沢層の耐擦過性等を高めることができる。また、第2熱可塑性樹脂の機能の一つとしては、第2インク組成物が平板状の金属顔料を含有するとき、下地層の表面と、該金属顔料の平坦な面とを平行に配置させ、金属光沢層の光沢感を高めることが挙げられる。この機能を発現するメカニズムについては、定かではないが、第2熱可塑性樹脂の変形や第2インク組成物の粘度の分布や変化に起因していると考えられる。これにより、金属光沢層が下地層の上に形成された際に、より良好な金属光沢面を形成することができる。さらに、第2熱可塑性樹脂の機能の一つとしては、金属光沢層の表面にわずかな凹凸を付与することを挙げることができる。これにより、光沢に曇りやつや消し等の質感を付与することなどができ、光沢感のバリエーションを高めることができる。
【0102】
第2熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、1万以上15万以下、好ましくは1万以上10万以下である。第2熱可塑性樹脂の分子量が1万よりも小さいと、第2インク組成物が下地層に付着されたときに金属顔料のバインダーとしての効果が小さい場合がある。また、第2熱可塑性樹脂の分子量が15万よりも大きいと、第2インク組成物の粘度が大きくなり、インクジェット記録装置で第2インク組成物の液滴を吐出できなくなる場合がある。
【0103】
第2熱可塑性樹脂は、第2インク組成物中に、溶液状態、エマルション状態、および該樹脂の粒子が分散した状態のいずれの状態で含有されてもよい。第2熱可塑性樹脂が粒子の状態で含有される場合は、該粒子の粒子径は、0.1μm以上20μm以下が好ましく、0.5μm以上10μm以下がさらに好ましい。粒子径が20μmよりも大きいと、インクジェット記録装置のノズルが閉塞してしまう場合がある。
【0104】
下地層を形成する工程の温度と金属光沢層を形成する工程の温度とが同一であって、当該温度を第2熱可塑性樹脂のTgよりも低くする場合には、第2熱可塑性樹脂のTgが高いほど、温度の設定範囲を広くすることができる。さらに、第2熱可塑性樹脂のTgと、第1熱可塑性樹脂のTgとの差が大きいほど、その間の温度に金属光沢層を形成する工程の温度を設定する場合に、金属光沢層を形成する工程の温度と、第2熱可塑性樹脂のTgとの差を大きくすることができる。そのため、このような場合には、第2熱可塑性樹脂および第1熱可塑性樹脂のそれぞれの機能をより高めることができる。
【0105】
第2熱可塑性樹脂のガラス転移温度の値は、80℃以上が好ましく、さらに好ましくは100℃以上、特に好ましくは140℃以上である。特に、第2熱可塑性樹脂のガラス転移温度が140℃以上であると、金属光沢層を形成する工程の温度が、第2熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも十分に低くできるため、金属光沢層の耐擦過性を高めつつ金属光沢感につや消し等のバリエーションを付与しやすくすることができる。
【0106】
第2熱可塑性樹脂の第2インク組成物に対する含有量は、0.01質量%以上50質量%以下、好ましくは0.05質量%以上40質量%以下、更に好ましくは、0.1質量%以上30質量%以下である。
【0107】
(3)その他の成分
第2インク組成物は、その他の成分を含有することができる。第2インク組成物に含有することができる成分としては、有機溶媒、界面活性剤、色材、分散剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、界面活性剤、およびその他の樹脂成分などが挙げられる。第2インク組成物に色材を含有させる場合は、金属光沢層が着色され、着色された金属光沢を得ることができる。これらの成分は、いずれも「1.4.第1インク組成物」の項で述べたと同様であるため、説明を省略する。
【0108】
1.7.各インク組成物の物性
第1インク組成物および第2インク組成物の物性は特に限定されるものではないが、例えばその表面張力は好ましくは20mN/m以上50mN/m以下である。表面張力が20mN/m未満になると、インク組成物がインクジェット記録装置のノズル周辺に濡れ広がるか、またはノズル等から滲み出してしまい、液滴の吐出が困難になることがあり、表面張力が50mN/mを超えると、付着対象の上において濡れ広がらず、良好な印刷ができないことがある。
【0109】
第1インク組成物および第2インク組成物の20℃における粘度は、好ましくは2mPa・s以上10mPa・s以下であり、より好ましくは3mPa・s以上5mPa・s以下である。各インク組成物の20℃における粘度が上記範囲内にあると、インクジェット記録装置にさらに好適となり、ノズルから組成物が適量吐出され、組成物の飛行曲がりや飛散を一層低減することができる。
【0110】
以上説明したインクジェット記録方法によれば、第1インク組成物に含有される第1熱可塑性樹脂のTgが、第2インク組成物に含有される第2熱可塑性樹脂のTg以下であり、下地層を形成する工程の温度が、第1熱可塑性樹脂のTg以上である。そのため、第1インク組成物の布帛(記録媒体)への浸透が抑制されるとともに、下地層の表面を平滑化させることができる。そして、平坦度の高い下地層の上に第2インク組成物によって金属光沢層が形成される。そのため、布帛に対して良好な金属光沢を有する画像を記録することができる。
【0111】
2.記録物
本実施形態にかかるインクジェット記録方法によって得られる記録物は、布帛に光沢度の高い金属光沢面が形成されている。
【0112】
3.インクセット
本実施形態にかかるインクセットとして、少なくとも上記第1インク組成物および第2インク組成物を備えたものを例示する。上記の各インク組成物をそれぞれ単独または複数備えたインクセットとしてもよいし、さらに一または複数の他のインク組成物を含むインクを備えたインクセットとしてもよい。インクセットに備えることができる他のインク組成物としては、シアン、マゼンタ、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタ、ダークイエロー、レッド、グリーン、ブルー、オレンジ、バイオレット等のカラーインク組成物、ブラックインク組成物、ライトブラックインク組成物等が挙げられる。
【0113】
4.インクカートリッジおよびインクジェット記録装置
本実施形態にかかるインクカートリッジとして、上記のインクセットを備えたものを例示する。これによれば、上記のインクジェット記録用光硬化型インク組成物を備えたインクセットを容易に運搬することができる。本実施形態にかかるインクジェット記録装置は、上述の各インク組成物、インクセット、またはインクカートリッジを備えたものであり、たとえば、「1.インクジェット記録方法」の項で述べたインクジェット記録装置を例示できる。
【0114】
5.実施例および比較例
以下、実施例および比較例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0115】
5.1.布帛
実施例および比較例の布帛として、サンワサプライ株式会社製インクジェット用コットン布シール(型番:JP−NU4)を用いた。
【0116】
5.2.第1インク組成物および第2インク組成物の調製
表1に示す配合の第1インク組成物および第2インク組成物を以下のように調製した。
【0117】
【表1】

【0118】
5.2.1.第1インク組成物
第1インク組成物(A1)は、表1に示す組成となるように調製した。
【0119】
有機溶媒として、エチレングリコールジエチルエーテル、γ−ブチロラクトン、およびテトラエチレングリコールジメチルエーテルを用い、第1熱可塑性樹脂として、アクリル樹脂(ハリアクロンN−2043−60MEX(ハリマ化成株式会社製))(Tg=−50〜−60℃)を用いた。また、界面活性剤としては、BYK−UV3500(アクリル基含有シリコーン系界面活性剤:ビック・ケミー社製)を用いた。また、第1インク組成物(A1)には、他の樹脂成分としてセルロースアセテートブチレート(ブチル化率35%〜39%、分子量7万、Tg=141℃)を添加した。第1インク組成物の混合の手順としては、有機溶媒、セルロースアセテートブチレートおよび界面活性剤を混合・溶解した後に、アクリル樹脂をそのインク溶媒中へ添加した。そして、更に常温・常圧下30分間マグネティックスターラーにて混合・撹拌した後、孔径5μmのPTFE製メンブレンフィルターにてろ過を行い、第1インク組成物(A1)を調製した。
【0120】
第1インク組成物(A2)は、上述の第1インク組成物(A1)の第1熱可塑性樹脂であるアクリル樹脂(ハリアクロンN−2043−60MEX(ハリマ化成株式会社製))の代わりに、第1熱可塑性樹脂として、ローム&ハース社製「パラロイドB−60」(分子量60,000、Tg=75℃、メチルメタクリレート−ブチルメタクリレート共重合体)を用いた。第1インク組成物(A2)には、セルロースアセテートブチレートを配合しなかった。そして、第1インク組成物(A1)と同様にして第2インク組成物(A2)を調製した。
【0121】
5.2.2.第2インク組成物
第2インク組成物に添加される金属顔料を得るために、まず以下のように金属顔料分散液を作成した。
【0122】
膜厚100μmのPETフィルム上に、セルロースアセテートブチレート(ブチル化率35%〜39%、関東化学株式会社製)3.0質量%およびジエチレングリコールジエチルエーテル(日本乳化剤株式会社製)97質量%からなる樹脂層塗工液をバーコート法によって均一に塗布し、60℃で10分間乾燥させることで、PETフィルム上に樹脂層薄膜を形成した。
【0123】
次に、真空蒸着装置(真空デバイス株式会社製、VE−1010型真空蒸着装置)を用いて、上記樹脂層の上に平均膜厚20nmのアルミニウム蒸着層を形成した。
【0124】
次に、上記方法により形成した積層体を、ジエチレングリコールジエチルエーテル中、超音波分散機(アズワン株式会社製、VS−150)を用いて、剥離、微細化、および分散処理を同時に行い、積算の超音波分散処理時間が12時間である金属顔料分散液を作製した。
【0125】
得られた金属顔料分散液を、開き目5μmのSUSメッシュフィルターにてろ過処理を行い、粗大粒子を除去した。次いで、ろ液を丸底フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターを用いてジエチレングリコールジエチルエーテルを留去した。これにより、金属顔料分散液を濃縮し、その後、その金属顔料分散液の濃度調整を行い、5質量%濃度の金属顔料分散液を得た。
【0126】
金属顔料の粒度分布および50%体積平均粒子径を、レーザー式粒度分布測定機(セイシン企業社製、「LMS−30」)を用いて測定したところ、50%平均粒子径;1.03μm、最大粒子径;4.9μmであった。
【0127】
また、粒子径・粒度分布測定装置(シスメックス社製、FPIA−3000S)を用いて金属顔料の長径(X方向)−短径(Y方向)平面の円相当径の50%平均粒子径R50、平均膜厚Zを測定し、さらに、得られたR50とZとの測定値に基づき、R50/Zを算出したところ、平均粒子径Rmax:3.2μm、50%平均粒子径R50:0.89μm、平均膜厚Z:0.02μm、R50/Z:44.5であった。なお、粒度分布値(CV値)を、CV値=粒度分布の標準偏差/粒子径の平均値×100の計算式により求めたところ、粒度分布値(CV値):38.2であった。
【0128】
また、金属顔料の平均膜厚を、電子顕微鏡により無作為に選んだ10個の平均膜厚を測定したところ、その平均値は20nmであった。
【0129】
第2インク組成物は、表1に示す組成となるように調製した。
【0130】
有機溶媒として、エチレングリコールジエチルエーテル、γ−ブチロラクトン、およびテトラエチレングリコールジメチルエーテルを用いた。また、第2熱可塑性樹脂として、第2インク組成物には、セルロースアセテートブチレート(ブチル化率35%〜39%、Tg=141℃)を用いた。また、界面活性剤としては、BYK−UV3500(アクリル基含有シリコーン系界面活性剤:ビック・ケミー社製)を用いた。第2インク組成物の混合の手順としては、上記の金属顔料分散液、有機溶媒、および界面活性剤を混合・溶解した後に、第2インク組成物をそのインク溶媒中へ添加した。そして、更に常温・常圧下30分間マグネティックスターラーにて混合・撹拌した後、孔径5μmのPPプリーツカプセルフィルター(ADVANTEC製、CCP−3−C1B)にてろ過を行い、第2インク組成物を調製した。
【0131】
5.3.評価用試料の作成
実施例の各試料は、インクジェット記録装置として、インクジェットプリンターSP−300V(ローランドD.G.社製)を用いて作成した。該プリンターのシアンインクの代わりに上述の第1インク組成物を、イエローインクの代わりに第2インク組成物を充填して使用した。なお、マゼンタインク、ブラックインクはそのままとした。また、該プリンターは、印字位置において、記録媒体(布帛)を加熱することができるように、温度調節可能なローラーを取り付ける改造を行った。
【0132】
表2には、実施例および比較例の試料の作成条件(下地層の形成温度、用いたインク組成物)を示す。
【0133】
【表2】

【0134】
各試料は、プリンターのローラーの温度を表2に示した温度に設定し、第1インク組成物によって下地層を形成し、その上に第2インク組成物によって金属光沢層が形成されるように印刷したものとした。各試料とも、下地層をベタ印刷として10回繰り返して印刷して形成し、その後、金属光沢層をベタ印刷として2回繰り返して印刷して形成した。これらの試料の下地層および金属光沢層に用いたインク量は、1.6mg/cmであった。各試料は、作成後、常温にて8時間乾燥させて、評価に供した。
【0135】
5.4.評価方法
各試料の評価は、各試料を目視で観察することにより行った。観察結果における基準は、金属光沢感が優れているものをAとし、金属光沢感が不足しているものをCとして、表2に併記した。
【0136】
5.5.評価結果
表2を見ると、実施例の布帛は、第1インク組成物に含有される第1熱可塑性樹脂Tgが、第2インク組成物に含有される第2熱可塑性樹脂のTg以下であり、良好な金属光沢が得られていた。この結果は、実施例において下地層が形成されるとき、第1インク組成物の布帛(記録媒体)への浸透が抑制され、かつ、下地層の表面が平滑化していることを示していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明にかかるインクジェット記録方法によれば、布帛に対して、良好な金属光沢を有する画像を記録することができる。したがって、たとえば、安価なプリンターによって、容易かつ安価に金属光沢画像を印刷するという要求に応えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛に対し、インクジェット記録装置を用いて、金属光沢を有する画像を記録するインクジェット記録方法であって、
第1熱可塑性樹脂を含有する第1インク組成物の液滴を、前記布帛の上に該液滴を付着させて下地層を形成する工程と、
前記下地層上に、金属顔料および第2熱可塑性樹脂を含有する第2インク組成物の液滴を付着させて金属光沢層を形成する工程と、
を含み、
前記第1熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、前記第2熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下であり、
前記下地層を形成する工程は、前記第1熱可塑性樹脂の前記ガラス転移温度以上の温度で行われる、インクジェット記録方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、−50℃以下であり、
前記第2熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、140℃以上である、インクジェット記録方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記下地層を形成する工程は、40℃以上90℃以下で行われる、インクジェット記録方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記金属顔料は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる平板状粒子であって、
該平板状粒子の平面上の長径をX、短径をY、厚みをZとした場合、
該平板状粒子のX−Y平面の面積より求めた円相当径において、50%平均粒子径R50は、0.5〜3μmであり、かつ、R50/Z>5の条件を満たす、インクジェット記録方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のインクジェット記録方法によって、布帛に金属光沢を有する画像が形成された、記録物。

【公開番号】特開2011−121215(P2011−121215A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279101(P2009−279101)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】