説明

インクジェット記録材料における色止め剤としてのキトサンおよびその使用

特に印刷物の耐光性の問題、すなわちインク中の有機染料の酸化分解の問題が解決されるインクジェット記録材料を提供するために、インクジェット記録材料の色素受容層における色止め剤としてキトサンまたはその誘導体を使用することを提案する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、インクジェット記録材料の実質的に充填材無含有の色素受容層における色止め剤としてのキトサンまたはその誘導体の新規な使用に関するものであり、また、シート状支持体と色素受容層とを有するインクジェット記録材料に関するものである。
【0002】
更に、本発明は、前記記録材料を製造する方法に関する。
インクジェットの市場、特に、いわゆる写真用光沢紙の高品質市場セクターにおけるインクジェットの市場は、急速に成長している。急速に増加しているディジタルカメラの販売数に起因して、SOHO(スモールオフィス/ホームオフィス)セクターにおいてインクジェットプリンタで印刷できる写真紙に関する需要も有意に増加している。
【0003】
高品質の映像再生のための最適のペーパーコーティングの探索の結果として、様々な提案がなされたが、そのただ1つの例としてEP 0 847 868を参照する。
しかし依然として、プリンター技術および関連のあるインク組成に関する調整、また、色素受容層または色素受容性層としての紙に関する調整についての問題が残っている。互いに一緒に現在存在する様々なペーパーコーティングの概念により、様々な程度でかつ異なる焦点で起こる問題が解決される。
【0004】
現在利用可能なペーパーコーティングの一種では、手頃な価格のバインダーを有する多孔質材料(顔料)がペーパーコーティングとして使用される。多孔質シリカ粒子、いくつかの場合では、ナノ粒子、または他の高度に多孔質の材料が、顔料として使用される。非イオン性ポリマー、例えばポリビニルアルコールがしばしばバインダーとして使用される。これらの紙は、インクの乾燥時間が短いことを特徴としている。しかしながら、一方では、色はしばしば薄く、表面の光沢は低い。その他に、特にインクジェット染料の耐光性の欠如に起因する経時変化に対するこれらの紙の非感受性はあまり明白ではない。
【0005】
有機染料の酸化は、特に多孔質材料の大きな表面積に起因して、空中酸素によって高度に加速される。更に、色止め剤として使用されるカチオン性物質も酸化を加速する一因となると考えられる。第四級アミン官能基を含むPolyDAMACがしばしば使用される。一方、カチオン性色止め剤は、アニオン性有機染料が紙から容易にぬぐい取られないようにまたは紙の中で移動しないように、インク中でしばしば前記染料を色止めするのに必要である。このことは、シリカ含有コーティングがかなりアニオン性を示すことから、特にあてはまる。しばしば起こる耐光性の欠如の問題は、例えばKatri Vikman, Journal of Imaging Science and Technology(2003)47,30−37に記載されている。
【0006】
多孔質材料を有する上記コーティングの代替として、ゼラチンがコーティングとして使用される。ゼラチンは、膨潤性能を有するフィルム形成物質に属し、また、コーティングを容易に作ることができる。水性インクを接触させると、ゼラチンフィルムはその倍量で膨潤するので、大量の水を吸収できる。浸透の後、染料は層のかなり高い所に位置し、その結果として、高度の色濃度を得ることができる。ゼラチンを使用することによって、非常に均一なフィルム、すなわち非常に均一なコーティングも得られ、その結果として、高度な光沢が得られる。特に、ゼラチン−コーテッドペーパーは、はじめに言及した写真光沢に適しており、また、印刷の高度な耐光性が、ゼラチンコーティングに起因して達成される。これは、ゼラチンが、染料上に密閉フィルムを形成し、そして空中酸素との接触を防止するという事実に起因している。ゼラチンは高分子電解質であるので、ゼラチン自体は、アニオン染料の色止めに対して(製造の方法にしたがって)多かれ少なかれ役立つ。
しかしながら、この色止め効果は、概して、満足な色止めを得るには不充分である。
【0007】
カチオン色止め剤は、ゼラチンコーティングで使用することもできる。しかしながら、像質およびインクの乾燥時間への影響に加えて、特に、従来の公知の固定剤(例えば、PolyDADMAC)は、ゼラチンコーテッドペーパー上の印刷の耐光性に対して有害である。而して、一般的に、そのルールにより、色止めの改良は、同時に、印刷の耐光性を損なうという副作用を示した。
【0008】
本発明の目的は、特に、印刷の耐光性の問題を解決する、すなわちインク中の有機染料の酸化的分解を排除するゼラチンベースのインクジェット記録材料を提案することにある。
【0009】
この目的は、シート状支持体と色素受容層とを有するインクジェット記録材料によって、本発明にしたがって達成され、その場合、前記色素受容層はゼラチンをベースにして製造され、また、色止め剤としてキトサンおよび/またはその誘導体の成分を含み、更にまた、色素受容層は実質的に充填材を含有していない。
【0010】
本発明による光沢紙は、驚くべきことに、一定不変の良好な乾燥速度に加えて、インクジェット染料のための優れた色止めおよび極めて良好な耐光性を示す。而して、得られた記録材料は、最高級光沢紙の標準に達している。
【0011】
驚くべきことに、キトサンおよび/またはキトサン誘導体は、染料の耐光性を著しく損なわずに、色素受容層のマトリックス(ゼラチンをベースとして製造される)において色止め剤として使用できるが、文献に記載されている成功事例によれば、ポリカチオン系(例えばPolyDADMACも)は、耐光性に有害なものとして一般的に評価されている。
【0012】
而して、一般的に、本発明の主題は、インクジェット記録材料の(実質的に充填材を含有していない)色素受容層における色止め剤としてのキトサンまたはその誘導体の使用である。
【0013】
キトサン自体は、変性天然物であって、天然物キチンをベースとしている。脱アセチル化反応後に、低pH値において明確にカチオン性を有する多数の遊離アミノ基がその中に存在する。
【0014】
キトサンは、インクジェット記録材料の製造と関連して既に説明した(はじめに言及した例えばEP第0 847 868号を参照されたい)が、前記記録材料中にある色素受容性層または色素受容層の成分ではない。
【0015】
特開平05−169789号は、カチオン顔料(充填材)に加えて、キトサンまたはキトサン塩を含む、記録材料のための色素受容層を推奨しており、また、前記色素受容層はバインダーとしてゼラチンを含むことができる。
【0016】
その記録材料は、純粋なゼラチン記録材料と比較して、改良された色止めを示すが、全ての多孔質材料では、インクジェット染料の染色堅ろう度は有意に低下する。更に、これらの記録材料は、最高級の光沢製品として分類されない。
【0017】
EP 0 764 546 A1では、顔料と、カルボキシル基変性ゼラチンとから成るインク受容層を有する記録材料を提供することが提案されている。ここでは、インク吸収性の改善が、純粋なゼラチンと比較して得られるが、インクジェット染料の耐光性は損なわれる。
【0018】
同じことが、米国特許第5,165,973号に記載されている記録材料にもあてはまる。前記特許では、色素受容層のために、超微粒形態の無水シリカ(充填材)に加えて、ポリカチオンポリマー、特にキトサン誘導体メチルグリコールキトサンを使用することを推奨している。
【0019】
驚くべきことに、色止め剤としてのキトサンの使用は、通常使用されるインクジェットインクの有機染料に関して極めて良好な色止め効果を示すが、その一方で、インクジェットインク中の有機顔料の耐光性に関して悪影響を及ぼさないことも見出した。しかしながら、色素受容層中に実質的に充填材が含有されているべきではないことが重要である。
【0020】
以下、キトサンという用語は、キトサン生成物自体またはその誘導体を表すために使用する。
キトサン自体は、好ましくは50%超、特に70%超の脱アセチル化度で使用される。特に良好な結果は、脱アセチル化度が75〜97%のキトサン品質で得られる。
【0021】
本発明にしたがって使用できるキトサン誘導体、例えば変性アミノ官能基を有するキトサンは、上記のキトサン品質から誘導される。変性アミノ官能基は、例えば、二官能性架橋剤によって、架橋キトサン誘導体へと転化させることができる。
【0022】
表面近くの色素受容層の領域に存在するキトサンの量は好ましくは20重量%以下である。更に多くの量が可能であるが、コーティングの色止め特性は、実質的にそれ以上増加しない。また、色素受容層における20重量%を超える量は、注目されるインクジェットの色の耐光性に対してはいかなる影響も及ぼさない。これに反して、キトサンの量が増えると、像質(例えば、印刷ポイントの辺縁の鮮明度および着色領域の一様性)は低下し、また、乾燥時間は長くなる。
【0023】
コーティング中のキトサン成分によって生じるコストファクターを考慮すると、この成分は、好ましくは10重量%以下である。有意な効果は、キトサンの量またはその誘導体の量が1重量%のオーダーのときに既に達成される。
【0024】
ゼラチンベースの色素受容層を製造することによって、キトサンの高度な色止め効果に加えて、はじめに言及したゼラチンコーティングの利点が得られる。その記録材料では、ゼラチンの良好な水吸収性という利益も得られる。
【0025】
本発明にしたがって好ましく使用されるゼラチン品質は、特にローブルームゼラチン(low−bloom gelatin)、特に骨ゼラチンおよび/または無水コハク酸によって変性されたゼラチンである。
【0026】
キトサンが中性水に不溶性であるという事実を考慮して、水性媒体のpH値は5以下でなければならない。
本発明による記録材料の色素受容層は、好ましくは、支持層に対して5〜20g/mの面積比重量で施用される。特に、色素受容層の面積比重量は、10〜15g/mが適当である。
【0027】
本発明による記録材料の色素受容層の既に記載した成分は、紫外線吸収剤および界面活性剤などによって補うことができる。
文献において、色素受容層でしばしば使用される、無機顔料を含む充填材は:カオリン、Ca−またはBa−カーボネート、二酸化ケイ素、二酸化チタン、ベントナイト、ゼオライト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、またはコロイド状二酸化ケイ素、ならびに不活性有機粒子、例えばプラスチック球である。
【0028】
無機顔料の例は:酸化アルミニウムまたは水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム水和物、多孔質シリカ、コロイド状シリカおよびそれらの混合物、硫酸バリウム、酸化チタンおよびベーマイト(例えばEP 1 226 959 A2を参照されたい)ならびにベントナイトおよび炭酸カルシウムである。
【0029】
これらの充填材/顔料は、インクジェット染料の耐光性を大きく損なわないように、本発明による色素受容層中において、少量で、すなわち、せいぜい4重量%以下、好ましくは、せいぜい2重量%で存在すべきである。充填材および顔料を含有していない色素受容層が最適である。
【0030】
適当な紫外線吸収剤は、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、チアゾリドン、オキサゾールおよびチアゾール(例えばEP 1 00 767 A1を参照されたい)である。
【0031】
次の化合物は、例えば、界面活性剤として使用される:例えばEP 1 211 089 A2で推奨されている、非イオン性フッ素化アルキルエステル、Zonyl(登録商標)フルオロケミカル(DuPont Corp.)、ポリシロキサン、ポリオキシエチレン−ラウリルエーテルおよび他のポリ(オキシエチレン−コ−オキシプロピレン)、ポリオキシエチレンおよびイオン性界面活性剤、例えばDowfax(登録商標)(Dow Chemicalsのアルキルジフェニルオキシドジスルホン酸)またはAlkonol(登録商標)(DuPont Corp.のアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム)である。
【0032】
更に、本発明は、記録材料上におけるインクジェット印刷プロセスのための色素受容層を製造する方法に関するものであり、その場合、キトサンおよび/またはその誘導体と、ゼラチンおよび/またはゼラチン誘導体と、そして溶媒とを含むコーティング組成物を製造し、シート状支持体に施用し、乾燥させる。
【0033】
撥水性ポリマー(PE、PVC)で被覆された紙は、好ましくは、色素受容層で被覆される前に、コロナ処理される。
コーティング組成物を製造するとき、キトサンおよびその誘導体は、通常は水に不溶性であり、pH値5以下の水性媒体でのみ溶解することを考慮しなければならない。
【0034】
而して、本発明による方法の変法では、5以下のpHを有する水性媒体を好ましくは溶媒として使用し、その中にキトサンまたはその誘導体を溶解し、そして次に、ポリマーフィルム形成媒体としてゼラチンおよび/またはゼラチン誘導体を混合する。しかしなから、ゼラチンは、好ましくは、キトサン/キトサン誘導体溶液中でまず最初に膨張させ、次いで、より高い温度まで、例えば60℃まで加熱して、ゼラチンを完全に溶解させる。
このようにして得られたコーティング物質は塗り広げることができる。
【0035】
あるいは、成分ゼラチンおよび成分キトサンは乾燥状態で混合することができ、そして溶媒として5以下のpH値を有する水性媒体を加えることができる。最後に、温度を上昇させて完全にゼラチンを再溶解させる。この方法では、塗り広げることができるコーティング組成物も得られる。
【0036】
ローブルームゼラチン、特に、骨ゼラチンおよび/または無水コハク酸で変性されたゼラチンが、好ましくはゼラチンとして使用される。
コーティング組成物の更なる成分として、シート状支持体に対する接着を向上させるかまたは施用時にその湿潤性を既に向上させ、また、記録材料上における画像印刷の質を向上させるのにも役立つことができる界面活性剤が推奨される。
【0037】
利用可能なキトサンのタイプまたは誘導体のタイプの中では、好ましくは実質的に完全に脱アセチル化もされている低粘度の生成物が好ましくは使用される。
支持体上のコーティングの厚さは、広い範囲で変えることができ、良好な結果は、5〜20g/mの面積比重量(乾燥状態で)を有するコーティングによってしばしば得られる。好ましい範囲は、10〜15g/mである。
【0038】
色止めは色素受容層の表面近くで起こるので、色素受容層は二重層として構成され、その場合、その下層は、好ましくは、色素受容層のコーティング組成物で使用されるのと同じフィルム形成剤によって形成され、かつその場合、色止め剤と、キトサン成分および/またはキトサン誘導体成分を含むコーティング物質とが色素受容層の上部に施用されることを提供できる。
【0039】
いずれにせよ、そのキトサン成分および/またはキトサン誘導体成分が、20重量%以下の濃度で色素受容層の表面に近接して存在するには充分である。
色止めに関する有意な効果は、約1重量%のキトサン成分および/またはキトサン誘導体成分によって既に得られる。而して、好ましい範囲は1〜10重量%である。
【0040】
本発明のこれらのおよび他の利点は、実施例によって以下で更に詳細に説明されるだろう。
実施例1
処方:
GELITA(登録商標)Imagel MSゼラチン(無水コハク酸で変性された豚皮様皮膚ゼラチン)15g
TM 1220タイプキトサン0.25g
水84.75g
調製:
84.75gの水を250mlビーカー中0.25gのキトサン(ChitoClear(登録商標)TM 1220(製造者:Primex;脱アセチル化度97%)に加え、その混合物を、濃酢酸と一緒に強力に撹拌することによってpH5に調整した。次いで、15gのゼラチンを加える。その混合物を25分間膨潤させてから、ゼラチンが溶解するまで60℃に加熱する。pH値を測定する。T = 60℃の超音波浴中で混合物全体を脱気する。
【0041】
次いで、その混合物を、120μm巻線材によって、従来のポリエチレンで被覆された写真用原紙(製造業者:Felix Schoeller Holding GmbH & Co.KG)に湿潤フィルムとして塗布し、5分間乾燥させる。それにより、約15g/mの塗布量が得られる。
【0042】
次いで、その紙を、室温で、数時間、懸濁させる。乾燥させた後、切り抜きによって生じたむらを切り捨て、その紙をA4判に切る。
実施例2
処方:
15gのGELITA(登録商標)Imagel MSゼラチン
0.5gのTM 1220タイプキトサン
84.5gの水
実施例1に記載のようにして混合物およびコーティングを調製した。
【0043】
実施例3
処方:
15gのGELITA(登録商標)Imagel MSゼラチン
1gのTM 1220タイプキトサン
84gの水
実施例1に記載のようにして混合物およびコーティングを調製した。
【0044】
実施例4
15gのGELITA(登録商標)Imagel MSゼラチン
3gのTM 1220タイプキトサン
82gの水
実施例1に記載のようにして混合物およびコーティングを調製した。
【0045】
実施例5
処方:
15gのGELITA(登録商標)Imagel BP 150ゼラチン(ローブルーム骨ゼラチン)
0.25gのTM 1220タイプキトサン
84.75gの水
実施例1に記載のようにして混合物およびコーティングを調製した。
【0046】
実施例6
処方:
15gのGELITA(登録商標)Imagel BP 150 ゼラチン
0.5gのTM 1220タイプキトサン
84.5gの水
実施例1に記載のようにして混合物およびコーティングを調製した。
【0047】
実施例7
処方:
15gのGELITA(登録商標)Imagel BP 150 ゼラチン
1gのTM 1220タイプキトサン
84gの水
実施例1に記載のようにして混合物およびコーティングを調製した。
【0048】
実施例8
処方:
15gのGELITA(登録商標)Imagel BP 150 ゼラチン
1gのTM 1220タイプキトサン
82gの水
実施例1に記載のようにして混合物およびコーティングを調製した。
【0049】
実施例9(比較実施例)
PolyDADMAC溶液、すなわち水中34〜40%ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(Certrex 340A 、製造業者:Mobil Oil AG)を有する参照コーティング
処方:
15gのGELITA(登録商標)Imagel MSゼラチン
3gのPolyDADMAC溶液
0.08gの界面活性剤溶液(ポリエチレン紙上における湿潤挙動を改善するため)
83.92gの水
調製:
15gのGELITA(登録商標)Imagel MSゼラチン、0.08gの界面活性剤溶液、3gのPolyDADMACおよび83.92gの水を250mlビーカーに入れる。その混合物を25分間膨潤させてから、ゼラチンが溶解するまで60℃に加熱する。その混合物を、希酢酸でpH5に調整する。T = 60℃の超音波浴中で混合物全体を脱気する。
【0050】
実施例1のようにして、ポリエチレン紙を被覆する。塗布量は約15g/mである。
実施例10(比較実施例)
PolyDADMAC溶液を有する参照コーティング
処方:
15gのGELITA(登録商標)Imagel BP 150 ゼラチン
3gのPolyDADMAC溶液
0.08gの界面活性剤溶液(実施例9)
83.92gの水
実施例9に記載のようにして混合物およびコーティングを調製した。
【0051】
実施例11(比較実施例)
色止め剤の無い参照コーティング
処方:
15gのGELITA(登録商標)Imagel BP 150 ゼラチン
0.08gの界面活性剤溶液(実施例9)
84.92gの水
実施例9に記載のようにして混合物およびコーティングを調製した。
【0052】
実施例12(比較実施例)
EPSONから市販されているハイグレード参照紙:すなわち、EPSON Premium Photo Glossy Paper。
【0053】
実施例13(比較実施例)
特別なインクジェットゼラチン(GELITA(登録商標)Imagel MA;ドデセニルコハク酸で変性された豚皮)と、インクジェット染料に適すると証明された保存特性を有する界面活性剤としてPluroni PE 6200(製造者:BASF)とを有する実験室サンプル。
【0054】
処方:
15gのGELITA(登録商標)Imagel MSゼラチン
0.45gのPluronic PE 6200
84.55gの水
調製:
15gのGELITA(登録商標)Imagel MA、0.45gのPluronic PE 6200および84.55gの水を250mlビーカーに入れる。その混合物を25分間膨潤させてから、ゼラチンが溶解するまで60℃に加熱する。その混合物を、希釈水酸化ナトリウム溶液でpH8.5に調整する。T = 60℃の超音波浴中で混合物全体を脱気する。
【0055】
次いで、その混合物を、120μm巻線材でポリエチレン紙に塗布し、そして80℃で5分間乾燥させる。
乾燥させた後、その紙を、A4判に切る。
【0056】
試験法の説明
像質の測定
像質を測定するために、フォトライクに適合していて、かつ現在利用されている様々な技術およびインクを代表している3つの異なるプリンター(HP 970 Cxi、Canon S 800およびEPSON Stylus Photo 870)で試験イメージを印刷し、そしてその品質を、次の基準:すなわち、粘着性、にじみ、ビーディング、バンディング、ブロンズ光沢、ウィッキング/フェザリングに関して評価した。
【0057】
乾燥時間の測定
乾燥時間は、印刷後に約1mmの薄いストリップ上をモスラバー(moss rubber)を通過させたときに、基色のシアン色、マゼンタ色、黄色および黒色が何度も連続して印刷された前記ストリップ上において色のスミアリングが観察されなくなるまでの時間として決定した。乾燥時間は、HP 970 Cxiで印刷された印刷物について測定した。
【0058】
色止めの測定
緑色、青色および黒色の組み合わせを、幅14mmおよび長さ50mmのストリップ上に、写真印刷に適する様々なインクジェットプリンタ(上記参照)で印刷した。24時間後、各印刷物の1/2を、10分間、水(室温)中に浸漬した。次いで、印刷物を乾燥させ、色彩値の変化ΔE*を、ミノルタ製色彩計(MINOLTA CHROMAMETER CR 300)で測定した。
【0059】
耐光性の測定
耐光性を測定するために、4つの基色、すなわちシアン色、マゼンタ色、黄色および黒色の着色領域(40mm×25mm)を印刷した。24時間乾燥させた後、各サンプルの1/2を隠蔽し、ATLAS(SUNTEST XLS+)から市販されている機器に付属しているフィルター処理されたキセノン照明(filtered xenon light)を照射した。フィルターを使用して3mmの窓ガラス越しという条件をシミュレートした。ランプの出力は、計器で710W/mに設定した。
【0060】
SUNTEST XLS+を使用するときは、試験領域の相対大気湿度および温度を制御できないので、相対試験のみ実施できる。換言すれば、試験領域において同じ時間で測定されたサンプルの測定結果のみを互いに比較できる。
【0061】
照射終了後、色彩値の変化ΔE*を、再び、MINOLTA CHROMAMETER CR 300で測定した。
試験結果
乾燥時間(HP DESKJET 970 Cxiによる印刷物に基づいて決定した)
【0062】
【表1】

【0063】
像質および乾燥時間の比較により、以下の結果が得られた:
像質および乾燥時間を比較すると、混合物の固形分の重量を基準として約10重量%のキトサン濃度までは、悪影響は無いことが分かった(実施例1、2、3、5、6および7)。キトサン固形分がより高い場合、ビーディングの増加が、乾燥時間の延長と共に観察された。実施例9および10(比較実施例)に関しては、乾燥時間は決定できなかった。
【0064】
コーティングの色止め
コーティングの色止めは、既に説明した方法にしたがって測定した。様々な実施例の紙について得られた値は、表2にまとめてある。比較実施例13に関する値は、上記試験条件下でコーティングが部分的に分離し、測定するに値しないと考えられるので、記載していない。
【0065】
【表2】

【0066】
色止めに関する測定値は、キトサンの濃度が上昇すると、色止めが向上することを明確に示している。
耐光性
実施例3および7のコーティングは、同様な、ほとんどの場合、比較実施例(10、11、12)に比べてはるかに良好な色止めを示す。而して、耐光性試験では、実施例3、9、12および13を、互いに直接比較で、すなわち1回の試験で比較した。良好な耐光性を有することが知られているゼラチン感光紙(実施例13)は、試験の基準とした。
ここでは、ゼラチン感光紙は、キャノン製プリンター(Canon S 800)およびオリジナルのキャノンインクセットを使用して印刷した。その結果は表3にまとめてある。
【0067】
【表3】

【0068】
更なる一連の試験では、基色で印刷された実施例7、10、12および13の紙を、直接比較によって試験した。すなわち4つすべてのサンプルに1回の試験で同時に光を照射した。その結果は表4にまとめてある。
【0069】
【表4】

【0070】
光照射の試験値は、PolyDADMACとゼラチンとによるコーティングおよび市販のEPSON紙に比べて、ゼラチン/キトサンコーティングによって、染料の保存性が実質的に向上することを明確に証明している。純粋なゼラチンコーティングの場合の高度な耐光性は、ほぼ達成されたかまたは超えられた。しかしながら、実施例13の特別なゼラチンコーテッドペーパーの場合は、前記コーティングが、色止め試験の厳しい試験条件下で分離する傾向があるので、色止めを測定する意味がない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録材料の実質的に充填材を含有していない色素受容層における色止め剤としてのキトサンまたはその誘導体の使用。
【請求項2】
該色素受容層がゼラチンをベースにして製造され、また、該色素受容層が色止め剤としてキトサン成分および/またはその誘導体成分を含み、そしてまた、該色素受容層が実質的に充填剤を含有していないことを特徴とする、シート状支持体と色素受容層とを有するインクジェット記録材料。
【請求項3】
該色素受容層の表面に近い領域に存在するキトサン成分および/またはその誘導体成分が、20重量%以下であることを特徴とする請求項2記載の記録材料。
【請求項4】
該色素受容層の表面に近い領域に存在するキトサン成分および/またはその誘導体成分が、1〜10重量%であることを特徴とする請求項3記載の記録材料。
【請求項5】
該色素受容層における該ゼラチン成分が、ローブルームゼラチン、特に骨ゼラチンを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の記録材料。
【請求項6】
該色素受容層における該ゼラチン成分が、無水コハク酸で変性されたゼラチンを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の記録材料。
【請求項7】
該キトサンおよび/またはその誘導体が、低粘性で、特に50%超脱アセチル化されたキトサン生成物から選択されることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一つに記載の記録材料。
【請求項8】
該キトサン生成物(一種または複数種)が、70%超脱アセチル化されることを特徴とする請求項7記載の記録材料。
【請求項9】
該キトサン生成物が、変性アミノ官能基を含むことを特徴とする請求項2〜8のいずれか一つに記載の記録材料。
【請求項10】
該色素受容層が、5〜20g/m、特に10〜15g/mの面積比重量を有することを特徴とする請求項2〜9のいずれか一つに記載の記録材料。
【請求項11】
該色素受容層が、充填材を含有していないことを特徴とする請求項2〜10のいずれか一つに記載の記録材料。
【請求項12】
該色素受容層が、特に、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、チアゾリドン、オキサゾールおよびチアゾールを含む群から選択される紫外線吸収剤を含むことを特徴とする請求項2〜11のいずれか一つに記載の記録材料。
【請求項13】
該色素受容層が、界面活性剤を含むことを特徴とする請求項2〜12のいずれか一つに記載の記録材料。
【請求項14】
キトサンおよび/またはその誘導体とゼラチンおよび/または化学的に変性されたゼラチンとを含むコーティング組成物を、溶媒を使用して製造し、シート状支持体に施用し、そして乾燥させることができることを特徴とする、記録材料上でインクジェット印刷プロセスのための色素受容層を生成する方法。
【請求項15】
キトサンおよび/またはキトサン誘導体を、5以下のpHを有する溶媒としての水性媒体中に溶かし、次いで、ポリマーフィルム形成剤と混合することを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
該コーティング物質の構成成分をまず最初に乾燥状態で混合し、次いで、5以下のpHを有する溶媒としての水性媒体を加えることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項17】
該ゼラチンが、ローブルームゼラチン、特に骨ゼラチンであることを特徴とする請求項14〜16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
該ゼラチンを、無水コハク酸で変性させることを特徴とする請求項14〜17のいずれか一つに記載の方法。
【請求項19】
該コーティング物質が、界面活性剤を含むことを特徴とする請求項14〜18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
低粘性のキトサンおよび/またはキトサン誘導体を、キトサンまたはキトサン誘導体として使用することを特徴とする請求項14〜19のいずれか一つに記載の方法。
【請求項21】
50%超、特に70%超脱アセチル化されたキトサンまたはキトサン誘導体が、キトサンとして使用されることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
該キトサンまたはキトサン誘導体が、変性アミノ官能基を含むことを特徴とする請求項14〜21のいずれか一つに記載の方法。
【請求項23】
該支持材上へのコーティングを、乾燥状態で5〜20g/m、特に10〜15g/mの面積比重量が得られるような仕方で行う請求項14〜22のいずれか一つに記載の方法。
【請求項24】
コーティング中のキトサン成分および/またはキトサン誘導体成分が、20重量%以下であることを特徴とする請求項14〜23のいずれか一つに記載の方法。
【請求項25】
キトサン成分および/またはキトサン誘導体成分が、1〜10重量%であることを特徴とする請求項24記載の方法。

【公表番号】特表2007−515318(P2007−515318A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545991(P2006−545991)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014258
【国際公開番号】WO2005/063900
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(502084056)ゲリタ アクチェンゲゼルシャフト (25)
【Fターム(参考)】