説明

インクジェット記録用インク組成物、及びそのインク組成物を用いたインクジェット記録方法

【課題】 長時間連続印字を行なった場合や、加熱機構を設けた場合に発生する、インクジェットヘッドからのアライメント不良を防止することができ、印字物の耐光性と、堅牢性(耐水性、耐マーカー性及び耐摩擦性)を得ている。しかも、十分な保存安定性の確保が可能である。
【解決手段】 水性媒体中に、一次粒子径が40nm〜70nmであるカーボンブラック、分散剤、及び樹脂エマルジョンを含有する、インクジェット記録用インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インクジェット記録用のインク組成物、及びそのインク組成物を用いるインクジェット記録方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の、インク滴を記録媒体上に吐出させて記録像を書き込む形式のインクジェット記録用のインクとして、ノズルからの吐出安定性、インクの保存安定性の向上を目的とし、水と水溶性染料と有機溶剤から成るインクが用いられていた。しかし、着色剤として水溶性染料を用いたインクでは染料の退色、色相変化等の耐光性、耐水性に問題があった。
【0003】そこで、着色剤として顔料を使用することが検討され、一部実用化に至っている。ただし、ブラックインクの着色剤としてカーボンブラックを使用すると、記録ヘッドからの吐出安定性に支障をきたすことがあるので、これらの欠点を解消する試みが従来から行われている。
【0004】例えば、特開平4−57861号公報には、カーボンブラックと染料とを含む水性黒色インクが記載されており、このインクは、優れた印字堅牢性(例えば、耐水性、耐マーカー性及び耐摩擦性)を有すると共に優れた吐出安定性を有するものとされている。
【0005】また、特開平6−287492号公報には、無機顔料(特にはカーボンブラック)と分散剤と2酸化チタン微粒子又はアルミナ微粒子とを含む水性黒色インクが記載されており、このインクによって優れた印字濃度と品位を有する信頼性に優れた記録方法が可能になるとされている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の前記インクを用いて実施するインクジェット記録方式は、短期間の吐出安定性には優れるものの、長時間連続印字を行なった場合や、加熱された記録媒体上に印字を行う場合に、インクジェットヘッドから記録紙までのインク滴の飛行軌跡が、不規則にランダムな方向に曲がる飛行曲がり(以下、アラインメント不良と称す)が起こるようになり、意図したとおりの記録を記録紙上に印刷することができなくなるという問題が生じてきた。このようなアラインメント不良は、高品位画像が要求される最近の記録方法や、今後需要が増えると思われる同原稿複数枚印字等のような、安定したプリンタの稼働が長時間要求される記録方法にとっては、致命的な欠陥となってしまう。
【0007】また、染料を含む前記の黒色インクでは、印字物の耐光性が不充分であるという欠点もあった。
【0008】従って、本発明の課題は、印字画像の耐光性、耐水性、および耐摩耗性等優れた基本特性をを維持しながら、前記のアラインメント不良を解消することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】前記の課題は、本発明による、水性媒体中に、一次粒子径が40nm〜70nmであるカーボンブラック、分散剤、及び樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする、インクジェット記録用インク組成物によって解決することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明のインクに用いることができるカーボンブラックは、一般に市販されているカーボンブラックから選択することができ、具体的には、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、又はチャンネルブラック類を挙げることができる。
【0011】カーボンブラックの含有量は、印字物に要求される色目、濃度、あるいは、好ましいインク物性を満たすために決定されるものであって、顔料の比重や嵩密度によって異なり、特に限定されるものではないが、インク組成物全重量に対して、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜12重量%である。顔料全体の含有量が0.5重量%未満になると印字濃度を確保することができなくなることがあり、30重量%を越えるとインク組成物の粘度特性に構造粘性が生じ、吐出安定性を確保することができなくなることがある。1〜12重量%の範囲内になると、高印字濃度が得られ、そしてインクジェット用インク組成物としての適性が向上するので好ましい。
【0012】本発明によるインク組成物は、カーボンブラックを水性媒体中に分散させることのできる分散剤を含有する。本発明のインク組成物において使用することのできる分散剤としては、親水性部分と疎水性部分とを分子中に有する共重合体樹脂、具体的には、アクリル酸系分散剤、例えば、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、又はスチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、マレイン酸系分散剤、例えば、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル−マレイン酸共重合体、又はスチレン−アクリル酸エステル−マレイン酸共重合体、スルホン酸系分散剤、例えば、アクリル酸エステル−スチレンスルホン酸共重合体、スチレン−メタクリルスルホン酸共重合体、又はアクリル酸エステル−アリルスルホン酸共重合体、あるいはこれらの塩を挙げることができる。好ましい分散剤は、樹脂分散剤、特には、スチレンアクリル酸共重合体分散剤であり、重量平均分子量(以後単に分子量と称す)が1600〜25000で、酸価が100〜250の共重合体分散剤を使用するのが特に好ましい。
【0013】前記のスチレンアクリル酸共重合体分散剤は市販されており、具体的には、ジョンソンポリマ−株式会社製の分散剤、例えば、ジョンクリル68(分子量=10000;酸価=195)、ジョンクリル679(分子量=7000;酸価=200)、ジョンクリル680(分子量=3900;酸価=215)、ジョンクリル682(分子量=1600;酸価=235)、ジョンクリル550(分子量=7500;酸価=200)、ジョンクリル555(分子量=5000;酸価=200)、ジョンクリル586(分子量=3100;酸価=105)、ジョンクリル683(分子量=7300;酸価=150)、又はB−36(分子量=6800;酸価=250)等を用いることができる。
【0014】樹脂分散剤の含有量は、使用するカーボンブラックの種類及び含有量によって異なり、特に限定されるものではないが、重量比(顔料全体:樹脂分散剤)が20:1〜5:2の範囲であるのが好ましい。
【0015】樹脂分散剤の含有量が前記の比率より低くなると、インク組成物を放置した場合の経時的な顔料の分散安定性(凝集発生、粘度特性劣化)が悪化することがあり、この比率より高くなるとインク組成物が乾燥した場合に必要となる再分散性を得ることができないことがある。
【0016】前記の樹脂分散剤内のアクリル酸部分で塩を形成させることにより、その樹脂分散剤を溶解させるのが好ましい。この目的で使用するアルカリ中和剤としては、アクリル酸部分のカウンターイオンを提供することのできる化合物、例えば、アミノメチルプロパノール、2−アミノイソプロパノール、トリエタノールアミン、モルホリン、及び/又はアンモニア水等を挙げることができる。アルカリ中和剤の含有量は、カウンターイオンとして前記樹脂分散剤を中和することのできる量(中和当量)又はそれ以上であることができ、中和当量のほぼ1.3倍の量で含有すると、印字後の定着性の点から好ましい。更に、プロピレングリコ−ル、及び/又はイソプロパノールなどを樹脂分散剤の溶解肋剤として用いることもできる。
【0017】また、前記分散剤の溶解安定性を得るためには、分散剤中の塩をイオン解離させやすいようにpH緩衝液を添加し、インク組成物を最適なpH値に調節するのが好ましい。pH緩衝液の具体例としては、フタル酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、及び/又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩等の水溶液を用いることができる。その含有量は、ヘッドの部材の耐久性とインク組成物の安定性の観点から、概ねインク組成物がpH7〜pH10になる量であることが好ましい。
【0018】本発明のインク組成物に使用する樹脂エマルジョンは、水中でエチレン性不飽和モノマーを乳化重合若しくは懸濁重合させて調製するか、又は水中に樹脂粒子を乳化させることによって調製したエマルジョンが好ましい。
【0019】具体的には、アクリル系重合体、例えば、ポリアクリル酸エステル若しくはその共重合体、ポリメタクリル酸エステル若しくはその共重合体、ポリアクリロニトリル若しくはその共重合体、ポリシアノアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、又はポリメタクリル酸;ポリオレフィン系重合体、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリスチレン若しくはそれらの共重合体、石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、又はテルペン樹脂;酢酸ビニル・ビニルアルコール系重合体、例えば、ポリ酢酸ビニル若しくはその共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、又はポリビニルエーテル;含ハロゲン系重合体、例えば、ポリ塩化ビニル若しくはその共重合体、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、又はフッ素ゴム;含窒素ビニル系重合体、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン若しくはその共重合体、ポリビニルピリジン、又はポリビニルイミダゾール;ジエン系重合体、例えば、ポリブタジエン若しくはその共重合体、ポリクロロプレン、又はポリイソプレン(ブチルゴム);あるいはその他の開環重合型樹脂、縮合重合型樹脂、又は天然高分子樹脂等を用いることができる。
【0020】前記の樹脂成分の含有量は、インク組成物全体に対して、好ましくは30重量%以下、より好ましくは0.5〜30重量%、更に好ましくは1〜20重量%である。含有量を0.5重量%以上にすることによって、一層良好な印字品質、特に印字濃度を確保することができ、含有量を30重量%以下にすることによって、目詰まりの発生を抑制した上でインクの定着性を付与することができる。
【0021】本発明によるインク組成物は、場合により、水溶性高分子化合物を、インク組成物全体に対して、好ましくは15重量%以下、より好ましくは3〜10重量%の量で含有して、適切な粘度を確保することができる。
【0022】水溶性高分子化合物としては、糖類又はその誘導体、例えば、サッカロース、マルチトール、マルトース、ソルビトール、マンニトール、又はグルコースの1種又はそれ以上を組合せて用いることができる。また、水酸基の含有量が大きく、水溶性が大きい化合物、例えば、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、若しくはポリエチレンオキサイド等の水溶性樹脂、及び/又はそれらの変性化合物も使用することができる。これらの水溶性高分子化合物を用いると、インク組成物の吐出安定性を向上させることができる。
【0023】また、本発明によるインク組成物は、場合により、水溶性の多価アルコールを、インク組成物全体に対して、好ましくは25重量%以下、より好ましくは6〜20重量%の量で含有することにより、吐出安定性を確保することができる。しかし、含有量が多すぎると乾燥不良となることがあるので注意が必要である。
【0024】水溶性多価アルコールとしては、例えば、炭素数3〜10の2価〜3価アルコール、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオールの1種又はそれ以上を組合せて用いることができる。
【0025】更に、本発明によるインク組成物は、場合により、界面活性剤を、インク組成物全体に対して、好ましくは2重量%以下、より好ましくは0.1〜1重量%の量で含有することにより、吐出安定性を確保することができる。しかし、含有量が多すぎると起泡性が大きくなり、吐出安定性を損なわせる危険性が生じる。
【0026】界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、例えば、高級脂肪酸塩、高級アルキルジカルボン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸の塩(例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、又はカルシウムとの塩)、ホルマリン重縮合物、高級脂肪酸とアミノ酸との縮合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフテン酸塩等、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン、アルキルエーテル硫酸塩、第二級高級アルコールエトキシサルフェート、モノグリサルフェート、アルキルエーテル燐酸エステル塩、アルキル燐酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸モノエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸カリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸ジエタノールアミン、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0027】また、ノニオン界面活性剤としては、例えば、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタンモノステアレート、アセチレングリコール、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(アセチレングリコールアルコールエチレンオキサイド)、プロピルエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、等を挙げることができる。
【0028】本発明によるインク組成物は、水性媒体内に各種の配合成分を含有している。従って、場合により、主溶媒である水に加えて、一価アルコールを、インク組成物全体に対して、好ましくは15重量%以下、より好ましくは1〜10重量%の量で含有することにより、インク組成物の乾燥性、及び浸透性を向上させることができる。一価アルコールとしては、例えば、炭素数2〜4のアルカノール、例えば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、iso−ブタノール、又はt−ブタノールの1種又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0029】また、本発明によるインク組成物は、その他必要に応じて、防カビ、防腐、防錆等の目的で安息香酸、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、ソルビン酸、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ベゾチアゾリン−3−オン〔製品名:プロキセルXL−2(ICI製)〕、3,4−イソチアゾリン−3−オン等を含むことができる。更にノズル乾燥防止の目的で、尿素、チオ尿素、及び/又はエチレン尿素等を添加することができる。
【0030】本発明によるインク組成物の諸物性は適宜制御することができるが、本発明の好ましい態様によれば、インク組成物の粘度は、好ましくは25mPa・秒以下、より好ましくは10mPa・秒以下(25℃)である。粘度がこの範囲内にあると、インク組成物をインク吐出ヘッドから安定に吐出させることができる。また、インクの表面張力は適宜制御することができるが、30〜50mN/m(25℃)であることが好ましい。
【0031】
【作用】本発明者らは、本発明によるインクジェット記録用インク組成物を開発する過程で以下の知見を得た。もっとも、本発明は、以下の推論によって限定されるものではない。
【0032】カーボンブラックはその着色性、耐光性、補強性等の特性を活かして、印刷用インキ、ゴム補強剤等様々な用途に使用されている。インクジェット記録用インクの着色剤としてカーボンブラックが使用されるのは、安価でありながらその着色性、耐光性に優れるからである。
【0033】一般にカーボンブラックは、一次粒子径が、平均粒径で10〜30nmのものが使用されている。水性分散液中では、それらの各カーボンブラック一次粒子が個々に分散されているのではなく、それらの各カーボンブラック一次粒子が数個から数十個連なって、不規則で入り組んだ鎖状のストラクチャーを形成し、100nm〜200nm程度の大きさの二次粒子が分散粒子として存在している。これは、カーボンブラックが、ストラクチャー構造を形成することができるほど粒子間の相互作用が強い為である。そのため、二次粒子径を100nmより遥かに小さくすることは技術的に難しく。また、200nmより大きくすると、分散安定性が著しく損なわれることになる。
【0034】このようなカーボンブラックの粒子間の相互作用はゴム等の補強剤として使用する場合は極めて有用となるが、インクジェット記録用インクに使用する場合は、このような特性による弊害が生じてくる。
【0035】即ち、インクジェット記録ではノズル孔から高速度でインク滴を吐出する為、吐出の際インクに高セン断力がかかり、上記のような鎖状のストラクチャーが存在することにより、インク滴の吐出が不安定な状態となり、その結果、インクジェットヘッドのノズル周りにインクミストが多数付着して乾燥固化し、吐出時のアライメント不良の原因となる。特にインク中に顔料、樹脂等の固形分を多く含有する場合や、プリンタに加熱定着機構を設けた場合には短時間でアライメント不良が発生する。
【0036】そこで、例えば、インク中に水溶性高分子等を多量に添加することで、インクミストの乾燥をある程度緩和することは可能であるが、この場合も長時間連続印字を行なう場合等には、やはりアライメント不良が発生してしまう。加えて、インクの紙上での乾燥性を低下させることにもなり、印字物の耐水性、耐擦性を損なう結果となる。
【0037】本発明者らは、一次粒子の粒子径を最適な範囲に設定することで、二次粒子である分散粒子が複雑な鎖状の構造になるのを防止でき、インク滴の吐出の安定化が可能であることを見いだした。しかし、反面、紙上での印字物の堅牢性、特に耐マーカー性と耐摩擦性が大きく低下してしまうことも判明した。
【0038】そこで、本発明者らは、一次粒子の粒子径の範囲を最適化したカーボンブラック、分散剤、及び樹脂エマルジョンを含有したインク組成物を使用することにより、インク滴の吐出時に発生するインクミストの発生を抑えることで、根本的にアライメント不良の発生を防止に成功し、加えて印字物の耐光性と、堅牢性(耐水性、耐マーカー性及び耐摩擦性)、及び、十分な保存安定性の確保することに成功した。更に、プリンタに加熱定着機構等の加熱手段を設けた場合においても安定した吐出を可能とした。
【0039】
【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0040】<実施例1>本発明によるインクジェット記録用インク組成物を、以下の手順で調製した。
【0041】(1)顔料分散液の調製スチレン−アクリル酸共重合体樹脂(ジョンクリル550;重量平均分子量=7500;酸価=200)4重量部、トリエタノールアミン2.7重量部、及びイソプロピルアルコール0.4重量部を、イオン交換水72.9重量部に、70℃の加温下で完全に溶解させた。
【0042】次に、カーボンブラックとしてCF9(三菱化成株式会社製;一次粒子径=40nm)20重量部を前記溶液に加え、プレミキシングを行った後、アイガーミル(アイガージャパン社製)でカーボンブラックの平均粒子径(二次粒子径)が約120nmになるまで分散を行い(ビーズ充填率=70%;メディア径=0.7mm)、目的のカーボンブラック分散液(以下、CB分散液と称する)を得た。
【0043】尚、カーボンブラックの粒子径は電子顕微鏡による算術平均径を表わす。
【0044】(2)インク組成物の調製次に、前記の各分散液を使用して、本発明のインク組成物を調製した。
【0045】
前記のCB分散液 15.00重量部スチレンアクリルエステルエマルシ゛ョン(固形分として) 10重量部ジエチレングリコール 12重量部マルチトール(固形分として) 8.0重量部アニオン性界面活性剤 0.5重量部リン酸水素二ナトリウム 0.1重量部イオン交換水 37.4重量部なお、スチレンアクリルエステルエマルジョンは、固形分40.0%製品の水分散液であり、マルチトールは固形分80%の水溶液であるため、前記の値は固形分換算した値で示してある。また、アニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸のアンモニウム塩〔ハイテノールN07;第一工業製薬株式会社〕を使用した。使用したスチレンアクリルエステルエマルジョンにおけるスチレンアクリルエステルの最低造膜温度(MFT)は85℃であった。
【0046】前記成分を混合してインク組成物とした。こうして得られたインク組成物を、金属メッシュフィルター(真鍋工業株式会社製;綾織り=2300メッシュ)に通過させて、本発明のインク組成物を得た。
【0047】<実施例2>カーボンブラックとしてSpecial Black 250(デグサ社製;一次粒子径=56nm)を用いて、前記実施例1と同様の方法で調製を行い、実施例3のインク組成物を得た。
【0048】<実施例3>カーボンブラックとしてRAVEN 430 BEADS(コロンビア社製;一次粒子径=65nm)を用いて、前記実施例1と同様の方法で調製を行い、実施例3のインク組成物を得た(但し、二次粒子径は150nmである)。
【0049】<実施例4>カーボンブラックとしてSTERLING R(キャボット社製;一次粒子径=75nm)を用いて、前記実施例1と同様の方法で調製を行い、実施例4のインク組成物を得た(但し、二次粒子径は150nmである)。
【0050】<比較例1>カーボンブラックとしてSpecial Black 550(デグサ社製;一次粒子径=25nm)を用いて、前記実施例1と同様の方法で調製を行い、比較例1のインク組成物を得た。
【0051】<比較例2>カーボンブラックとして#10(三菱化成株式会社製;一次粒子径=84nm)を用いて、前記実施例1と同様の方法で調製を行い、比較例2のインク組成物を得た(但し、二次粒子径は170nmである)。
【0052】<比較例3>カーボンブラックとしてSpecial Black 550(デグサ社製;一次粒子径=25nm)を用いて、前記実施例1と同様の方法で調製を行った。但し、スチレンアクリルエマルジョン水溶液は添加せず代わりに同量のイオン交換水を添加した。
【0053】<比較例4>カーボンブラックとしてCF9(三菱化成株式会社製;一次粒子径=40nm)を用いて、前記実施例1と同様の方法で調製を行った。但し、スチレンアクリルエマルジョン水溶液は添加せず代わりに同量のイオン交換水を添加した。
【0054】<比較例5>カーボンブラックとしてSTERLING R(キャボット社製;一次粒子径=75nm)を用いて、前記実施例1と同様の方法で調製を行った。但し、スチレンアクリルエマルジョン水溶液は添加せず代わりに同量のイオン交換水を添加した。
【0055】<特性評価>次に、実施例1〜3、及び比較例1〜5で調製したインクジェット記録用インク組成物の吐出特性、及び保存安定性を評価した。
【0056】(1)吐出安定性評価圧電素子を用いる形式の記録へッドにインク組成物を充填し、ノズルからインク組成物を吐出させて記録紙(Xerox−4024)に印字を行い、印字開始初期と、2時間経過後との印字状態の比較を行い、以下の3段階で評価した。
○:2時間の連続印字でも殆ど飛行曲がりがない。
×:2時間の連続印字で飛行曲がりが発生し、ベタ部に白筋の発生がある。
××:連続印字1時間未満で飛行曲がりが発生し、ベタ部に白筋の発生がある。
【0057】(2)耐マーカー性評価各インク組成物を用いて作成した印字サンプルを、市販の水性蛍光ペンで、なぞった場合の印字サンプルの汚れ度合を目視により評価した。
○:水性蛍光ペンでなぞっても尾引き等汚れがない。
△:水性蛍光ペンでなぞると尾引きが発生するが、実用上問題がないレベル。
×:水性蛍光ペンでなぞると尾引きが発生し、汚れがひどい。
【0058】(3)保存安定性評価前記の各インクをポリエチレン容器に半分まで入れ、蒸発しないように蓋をし、60℃で1ヶ月放置後、粘度変化を以下の3段階で評価した。それぞれの評価の判定方法は以下のものである。
○:初期値に対し変化が20%未満である。
△:初期値に対し変化が20%以上、30%未満である。
×:初期値に対し変化が30%以上である。
【0059】上記の評価方法に基づき、実施例1〜3、および比較例1〜5のインクの評価結果を表1に示す。
【0060】なお、記録方法はプラテンに加熱手段を備えた記録装置により、加熱された記録媒体上にインク組成物滴を吐出して行った。
【0061】
【表1】


【0062】
【発明の効果】本発明によるインク組成物は、水性媒体中に、一次粒子径が40nm〜70nmであるカーボンブラック、分散剤、及び樹脂エマルジョンを含有することにより、長時間連続印字を行なった場合や、加熱された記録媒体上に印字を行なった場合に発生する、インクジェットヘッドからのアライメント不良を防止し、印字物の耐光性と、堅牢性(耐水性、耐マーカー性及び耐摩擦性)も確保している。しかも、十分な保存安定性の確保が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水性媒体中に、一次粒子径が40nm〜70nmであるカーボンブラック、分散剤、及び樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする、インクジェット記録用インク組成物。
【請求項2】 請求項1に記載のインク組成物をインク滴として吐出して記録を行うことを特徴とする、インクジェット記録方法。
【請求項3】 樹脂エマルジョンの溶融温度以上に加熱された記録媒体上に、請求項1に記載のインク組成物をインク滴として吐出して記録を行なうインクジェット記録方法。