説明

インクジェット記録装置における記録ヘッドの位置調整機構

【課題】 記録ヘッドの位置調整を微細に行えるようにすること。
【解決手段】 円弧状の溝31の内外縁に設けた各位置決め凹部32‥‥、33‥‥を互いに半ピッチずらせ、これらの互いに対向し合う壁面により角度調整レバー16、26に設けた共通の係止突条を係止して各凹部32、32の巾の1/2のピッチでこれらのレバー26、26を位置調整することにより、 基準ピン14、24を支点として走査方向及び紙送り方向に変位自在に取付けた2つのプレート15、25を微細に調整できるようにしたもの。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インクジェット記録装置における記録ヘッドの位置調整機構に関する。
【0002】
【従来の技術】シリアルタイプのオンデマンド型インクジェット記録装置を用いてカラープリンタを構成するに当って、単一のキャリッジに黒の記録ヘッドとカラー用の記録ヘッドを搭載した場合には、各記録ヘッドが持つ機械的な公差や取付け上の公差によって互いの位置が相対的にズレて良好なカラー画像を形成し得ないといった問題が生じる。
【0003】このような問題を解消するには15μm程度の微細な調整が必要で、このため本出願人が特開平7−314851号公報において開示した機構は、走査方向と平行な向きの当接面上の走査方向いずれか一方に回転補正板を介在させて各記録ヘッドの傾きを独立に補正するとともに、同じく走査方向と平行な向きの位置決め面のいずれか一方に調整板を介在させて、一方の記録ヘッドを基準としつつ他方の記録ヘッドの紙送り方向の調整を行うようにしたものである。
【0004】このものは、記録ヘッドの傾き調整と紙送り方向の調整とをそれぞれ微細に調整できる利点を有しているが、反面において、これらの調整には、補正量に応じて厚さを異にする複数の回転補正板と調整板とを必要とするほか、これらの補正板や調整板を差込む過程で、記録ヘッドに微妙な位置ずれを生じさせかねないといった点でさらに改善すべき余地が残されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、キャリッジ上に設けたレバーを単に回動操作するだけで、記録ヘッドの傾きや位置のズレ等を微細に調整することのできる新たな記録ヘッドの位置調整機構を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明はこのような課題を達成するためのインクジェット記録装置における記録ヘッドの位置調整機構として、記録ヘッドを担持した担持体の一部に当接してこの担持体を変位させる調整部材をキャリッジ上に回動操作可能に配設するとともに、調整部材の回動支点を中心としてキャリッジ上に設けた円弧状の溝の内外縁に、調整部材に設けた共通の係止突条の2倍の巾を有する多数の度決め凹部を、互いに位相を半ピッチずらして列設させたものである。
【0007】
【作用】このように構成したことにより、内外の各度決め凹部の互いに反対側の壁面によって調整部材に設けた共通の係止突条を係止することにより、各度決め凹部の巾の1/2のピッチで調整部材を位置決め調整できるようにする。
【0008】
【発明の実施の形態】そこで以下に本発明の実施例について説明する。図面はいずれもインクカートリッジを交換可能となしたカラーのインクジェット記録装置に適用した本発明の一実施例を示したものである。はじめに、図1をもとにこの実施例の概要構成について説明する。
【0009】図において符号1は、ガイドロッド2に沿って主走査方向に往復動するキャリッジ本体で、このキャリッジ本体1には、黒のインクカートリッジ10とカラーのインクカートリッジ20を収容する2つのカートリッジ収容室11、21が画壁3を介して形成され、また各カートリッジ収容室11、21には、蓋12、22の開閉と連動して空のインクカートリッジ10、20を引出したり、新たなインクカートリッジ10、20を記録ヘッド19、29に結合させるべく降下させるリフタ13、23が設けられている。
【0010】このキャリッジ本体1の基板5には、カートリッジ収容室11、21と対応する部分に記録ヘッド19、29の傾きをそれぞれ独自に調整するための2つの角度調整レバー16、26が、キャリッジ本体1の前面から操作し得るよう回動自在に配設され、また、カラーのインクカートリッジ20を収容するカートリッジ収容室21側の側壁4には、黒の記録ヘッド19を基準としてカラーの記録ヘッド29のみを紙送り方向に位置調整することを可能とするノズル孔位置調整レバー35が回動操作可能に設けられている。
【0011】これらの各位置調整機構は本発明の特徴部分をなすもので、以下に図2、図3をもとにこれらの構成をさらに詳しく説明する。
【0012】図2は、蓋12、22を外してキャリッジ本体1を上方から示した図で、キャリッジ本体1の基板5のガイドロッド2寄りの部分には、各収容室11、21の中央部にそれぞれ基準ピン14、24が一体的に立設されていて、これらの基準ピン14、24には、それぞれ記録ヘッド19、29を担持した担持体としてのプレート15、25が位置決めスリット15a、25aを介して回動自在に嵌め込まれ、また、基板5の黒インクカートリッジ収容室11側のガイドロッド2寄りの部分には凸部9が設けられていて、黒の記録ヘッド19を担持するプレート15をここに当接させることによって、Y軸方向、つまりガイドロッド2と直交する向きに位置決めするように構成されている。
【0013】一方、これらのプレート15、25は、位置決めスリット15a、25aの対側に設けた取付けビス15b、25bによって若干変位させることができるよう基板5上に取付けられており、また、これらの位置決めスリット15a、25aの対側には、後述する角度調整レバー16、26のカム面16a、26aに当接する当接面15c、25cがガイドロッド2と直交する向きに設けられ、さらにその一側には、X軸及びY軸方向にスプリング17、27の付勢力を受けるバネ受け座15d、25dが略45゜の角度をもって形成されている。
【0014】すなわち、黒の記録ヘッド19を担持するプレート15は、バネ受け座15dと基板5との間に介在させたスプリング17によって、X軸方向には基準ピン14と角度調整レバー16のカム面16aに、Y軸方向には基板5上の凸部9に向けてそれぞれ付勢され、他方、カラーの記録ヘッド19を担持するプレート25は、バネ受け座25dと基板5との間に介在させたスプリング27によって、X軸方向には基準ピン24と角度調整レバー26のカム面26aに、Y軸方向には後述するノズル位置調整レバー35の偏心円部35aに向けてそれぞれ付勢されている。
【0015】これらのプレート15、25の角度調整を行うレバー16、26は、図6乃至図8に示したように、その基端部に突設したダボ16b、26bを、プレート15、25の当接面15c、25c近傍に穿設した基板5上の各支点孔6、6を嵌合することにより、この支点孔6、6を支点として回動するように軸支され、その基端のカム面16a、26bをプレート15、25の当接面15c、25cに当接させてプレート15、25を基準ピン14、24回りに回動調整するように構成されている。
【0016】ところで、図中符号30、30は、上記した各角度調整レバー16、26を度決めするために基板5の対応する部分に設けたクリック部で、これらのクリック部30は、支点孔6を中心とする円弧状の溝31と、この溝31を挟むようにしてその内外縁に設けた多数の度決め凹部32‥‥、33‥‥とによって構成されている。
【0017】これらの外側度決め凹部32‥‥と、内側度決め凹部33‥‥は、それぞれ角度調整レバー16、26の裏面に穿設した長手方向に延びる共通の係止突条16c、26cの2倍の巾を有し、かつ互いに半ピッチづつずらして設けられていて、図6に示したように、共通の係止突条16c、26cを外側の度決め凹部32の右側の画壁32aと、内側の度決め凹部33の左側の画壁33aとによって係止するというように、互いに反対側の画壁32a、33aによって係止することにより、係止突条16c、26cを各度決め凹部32、33の巾の1/2のピッチをもって微少に調整できるように構成されている。
【0018】一方、これらの度決め凹部32、33の内側に設けた円弧溝34には、角度調整レバー16、16の裏面に設けた鉤片16d、36dが摺動自在に係止されていてレバー16、26の浮上りを抑えるように構成され、さらにこの円弧溝34の端部には、鉤片16d、26dを外すための凹部34aが形成されていて、この角度調整レバー16、26を円弧溝34の端部に位置させることにより、基板5への着脱が容易に行えるように構成されている。
【0019】これに対して、ノズル孔位置調整レバー35は、キャリッジ本体1のカラーインクカートリッジ収容室21側の側壁4下方に回動自在に取付けられている。
【0020】この調整レバー35を支持するの支持軸35bには、図2に示したように、その一部に外周をカム面となした円板35aが偏心させた状態で取り付けられていて、この円板35aには、カラーの記録ヘッド29を担持するプレート25がスプリング27のY軸方向分力により常時その先端を当接させていて、ノズル調整レバー35を回動操作することにより、この円板35aを介してプレート25をガイドロッド2の軸心と直交する向き、つまりY軸方向に移動変位させ得るように構成されている。
【0021】36は、このノズル孔位置調整レバー35を度決めするためのクリック部で、このクリック部36も、角度調整レバー16、26のクリック部30と同様に、円弧状の溝36aを挟むようにしてその内外縁に列設した凹部36b‥‥、36cの左右の壁部によってレバー35の裏面に設けた係止突条を係止することにより、凹部36b、36cの巾の1/2のピッチでこれを度決めできるように構成されている。
【0022】このように構成された実施例において、黒及びカラーの各記録ヘッド19、29を担持するプレート15、25は、バネ受け座15d、25dの略45°をなす角度の面に作用するスプリング17、27の付勢力によって、X軸方向には、位置決めスリット15a、25aの左側面と、カムの当接面15c、25cとをそれぞれ基準ピン14、24と、角度調整レバー16、26のカム面16a、26aとに当接させ、またY軸方向には、黒の記録ヘッド19を担持するプレート15は基板5上の凸部9に当接させ、カラーの記録ヘッド29を担持するプレート25はその先端をノズル位置調整レバー35の偏心円板35aに当接させて、それぞれキャリッジ本体1の基板5上に位置決め固定されている。
【0023】この状態のもとで、いま、例えばカラーの記録ヘッド29に設けたノズル列29aの傾きを調整する必要が生じた場合には、調整に必要とする量だけ対応する角度調整レバー26を、調整方向に、例えば反時計方向に回動操作する。
【0024】これにより、角度調整レバー26の裏面に穿設した長手方向に延びる共通の係止突条26cは、円弧状の溝31を挟むようにして設けた内外の度決め凹部12、33を区画する各画壁32a、32aを乗り越えるようにしてこのレバー26を所要の位置へ回動変位させ、その位置で、係止突条26cを外側の度決め凹部32と内側の度決め凹部33の互いに対向し合う画壁32a、33aに当接させるようにして、角度調整レバー26を度決め凹部32、33の各配列ピッチの1/2の微少なピッチをもって位置決め固定する。
【0025】そしてこのように位置決めしたことにより、図4に示したように、当接面25cを介して角度調整レバー26のカム面26aと当接したプレート15は、担持したカラーの記録ヘッド29を保持しつつ基準ピン24を支点として図中矢印方向に回動変位して、ノズルプレートに設けたノズル列29aを角θだけ回動調整する。
【0026】この角度調整を行った状態のもとで、黒とカラーの各ノズル19a、29aの孔位置を紙送り方向に一致させるべくカラーインクカートリッジ収容室21側の側壁4に設けたノズル孔位置調整レバー35を必要とする量だけ調整方向に回動操作すると、カラーの記録ヘッド29を担持したプレート25は、基準ピン24と角度調整レバー26のカム面26aとに案内されつつ、先端をレバー35の偏心円板35aに当接しているプレート25をガイドロッド2の軸心と直交する向きに、つまりY軸方向に移動変位させ、黒の記録ヘッド19を基準としてこのノズル孔の位置とカラーのノズル孔の位置を正しく紙送り方向に一致させる。
【0027】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、キャリッジ上に記録ヘッド担持体を変位させる調整部材を回動自在に設ける一方、この回動支点を中心として設けた円弧状の溝の内外縁に、調整部材に設けた共通の係止突条の2倍の巾を有する多数の度決め凹部を互いに半ピッチずらして列設したので、内外の度決め凹部の互いに対向し合う壁面によって共通の係止突条を位置決め凹部の巾の1/2のピッチをもって位置決めすることにより、ノズル相互の間のズレ等を可能な限り微細に調整することができる。
【0028】しかも、内外2列の度決め凹部の間に溝を設けたことにより、これらの凹部の径方向の寸法精度を不要となして微細な凹部の成形をより容易にすることができ、またさらに、調整部材にはこれらの凹部に係止される共通の係止突条を設けたことにより、あたかも1列のクリック孔により係止するのと同様の位置決め係止を行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す装置の斜視図である。
【図2】同上装置を上面から示した図である。
【図3】同上装置を側面から示した図である。
【図4】各調整状態を示した説明図である。
【図5】基板を示した上面図である。
【図6】角度調整レバーの位置決め調整機構を示した上面図である。
【図7】図7のA−A線断面図である。
【図8】図7のB−B線断面図である。
【符号の説明】
1 キャリッジ
15、25 プレート
16、26 角度調整レバー
30 クリック部
31 円弧状の溝
32、33 度決め凹部
35 ノズル位置調整レバー
36 クリック部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 記録ヘッドを担持した担持体の一部に当接して該担持体を変位させる調整部材をキャリッジ上に回動操作可能に配設するとともに、上記調整部材の回動支点を中心として上記キャリッジ上に設けた円弧状の溝の内外縁に、上記調整部材に設けた共通の係止突条の2倍の巾を有する多数の度決め凹部を、互いに位相を半ピッチずらして列設させたことを特徴とするインクジェット記録装置における記録ヘッドの位置調整機構。
【請求項2】 上記調整部材を、上記担持体を走査方向に変位させる角度調整用の部材となしたことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置における記録ヘッドの位置調整機構。
【請求項3】 上記調整部材を、2つの上記担持体のうちの一方を紙送り方向に変位させるノズル位置調整用の部材となしたことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置における記録ヘッドの位置調整機構。

【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【図6】
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