説明

インクジェット記録装置

【課題】ヒータによりシート上のインクを乾燥させるときに、プラテンの温度の低下を抑制し、画像品質の低下を防止する。
【解決手段】インクを吐出する記録ヘッドを用いて搬送されるシートに記録を行なうインクジェット記録装置であって、前記シートの記録面に対向した位置に設置され、前記シートに吐出されたインクを乾燥させるヒータと、前記シートを支持するプラテン20,21と、を備え、前記シートの、シート搬送方向と直交する方向の端部の近傍の領域であって、前記端部よりも当該シートの中央部側の領域に対応する前記プラテン上の部分に、シート搬送方向の一端から他端に亘って熱伝導率の低い領域が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒータでインクを乾燥させることができるインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、インクを吐出する記録ヘッドに対向する位置に配置されたプラテンのシート支持面にシートを支持し画像形成を行なう。この画像形成は、記録を行なおうとする画像の画像データに基づき記録ヘッドからインクをシートに吐出することにより行なう。
【0003】
シート上に画像を形成するとき、シートに吐出されたインクが乾燥するまでの時間が長いと、隣接するインクと混じり合って滲みの原因になることがある。また、インクの乾燥時間に基づくインクの滲み等に考慮してインクの乾燥時間を考慮して記録を行なうと、画像を形成するまでに時間がかかることになる。
【0004】
そこで、インクジェット記録装置のプラテン内にヒータを配置して、シート上に吐出されたインクを乾燥させる技術が知られている(特許文献1、特許文献2参照)。プラテン内に配置されたヒータは、シートの裏面側からシートを乾燥させることにより、シート上のインクが乾く速度が早くなり、画像品質の向上を図っている。
【0005】
しかしながら、プラテン内部にヒータを配置した記録装置では、記録面の裏面側からインクを乾燥さえるため、乾燥効率が悪いという問題がある。
【0006】
そこで、ヒータをシートの記録面に対向する位置に設置し、記録面の正面側からヒータの温風によって、シートの記録面に吐出されたインクを乾燥さえる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第03807563号明細書
【特許文献2】特開2006−231704号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ヒータによりインクを乾燥させる場合、プラテンのシート支持面では、シートが覆われている部分を設定温度に保つと、シートが覆われていない部分では、ヒータの温風が直接あたるため、設定温度から温度が上昇する。一般にプラテンはシートの幅よりも長く設けられているところ、プラテンのシートに覆われない部分では温度が上昇し、シートに覆われている部分では設定温度に保たれる。
【0009】
したがって、プラテン上でシートが覆う部分と覆わない部分で温度が異なるが、シートが覆う部分のうち端部領域では、温度勾配を生じる。その結果、シートに覆われたプラテンの中で、設定温度を保っている部分と、設定温度から上昇した温度まで除々に温度勾配が生じることになる。このような温度勾配は、シートの幅方向でインクの乾燥にむらを生じさせ、結果として濃度むらが発生する。これにより、記録画像の画像品質が低下することになる。
【0010】
本発明は以上の点を鑑みてなされたものであり、ヒータによりシート上のインクを乾燥させるときに、プラテンの温度の低下を抑制し、画像品質の低下を防止するインクジェット記録装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのために本発明では、インクを吐出する記録ヘッドを用いて搬送されるシートに記録を行なうインクジェット記録装置であって、前記シートの記録面に対向した位置に設置され、前記シートに吐出されたインクを乾燥さえるヒータと、前記シートを支持するプラテンと、を備え、前記シートの、シート搬送方向と直交する方向の端部の近傍の領域であって、前記端部よりも当該シートの中央部側の領域に対応する前記プラテン上の部分に、シート搬送方向の一端から他端に亘って熱伝導率の低い領域が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上の構成によれば、シートが覆う領域と覆わない領域とで熱が伝わり難くなる。その結果、シートが覆う領域の端部領域に温度勾配が生じない。これにより、ヒータによりシート上のインクを乾燥させるときに、画像品質の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態のインクジェット記録装置を示す斜視図である。
【図2】第1の実施形態のインクジェット記録装置の主要断面を示す概略図である。
【図3】第1の実施形態のプラテンを示す平面図および断面図である。
【図4】第1の実施形態のシート幅領域と温度の関係を示す図である。
【図5】第2の実施形態のシート幅領域と温度の関係を示す図である。
【図6】第3の実施形態のプラテンを示す平面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置を示す斜視図である。インクジェット記録装置は、インクを吐出する記録ヘッドを用いてシート(記録媒体)に記録を行なう。
【0015】
本実施形態の装置で使用するシートは、水分を弾く塩化ビニール等の受容層を持たないシート(以下、受容層無しシートと呼ぶ)を想定している。また、一般的な受容層有りのシートも使用可能である。使用するインクは、シート上で熱を加えることによってインク中の水分が蒸発し、続いて軟化、そして被膜化するという性質を持つエマルション成分を多く含むものを想定している。シート上でインクが被膜化することによって画像の耐候性、耐水性、耐擦化性を向上させることができる。
【0016】
インクジェット記録装置は、ロール紙3から引き出したシートPを搬送ローラ7とピンチローラ8により画像形成部に搬送する。画像形成部には、シートに向けてインク滴を吐出する記録ヘッドを搭載するキャリッジ5と、キャリッジ5を案内支持するレール6と、ロール紙3を裁断するカッター9を有している。
【0017】
キャリッジ5の対向側には、記録ヘッドの記録面と所定の長さ離れた位置に、シートを吸着支持するためのプラテン20、21が配置されている。このプラテン20は、不図示の吸引手段にフレーム11を介して略密閉経路を成す様に接続されている。
【0018】
キャリッジ5は、レール6に沿って往復運動しながら記録ヘッドからインク滴を吐出し、キャリッジ5の運動方向が切換わるタイミングで搬送ローラ7とピンチローラ8が、シートPを所定量ずつ排紙ガイド10方向に繰り出して画像形成動作を行う。この動作を繰り返し、画像形成が終了したら、カッター9はシートPを裁断して記録動作を完了する。
【0019】
図2は、本実施形態のインクジェット記録装置の主要断面を示す概略図である。シートPに形成された画像を乾燥させるためのヒータ4がシートの記録面と対向するように、回動カバー12に支持されながら設置されている。回動カバー12は、外装カバー2の回動軸13周りに図2に示すR方向に回動することができ、ロール紙3のセット時やインクタンクの交換や機内清掃等メンテナンス等における記録装置内のユーザ操作を行なう時に適宜開放できる構造になっている。また、ヒータ4の発熱エネルギーがシートP上の画像を効率よく乾燥させるための反射板15も、回動カバー12に支持されている。これらのヒータ4と反射板15が、不図示のヒータ駆動システムにより、記録画像の乾燥に最適な温度になる様に制御され、例えば、ヒータ熱をシートP上の記録画像に均一に照射(H)する。
【0020】
プラテン20、21はフレーム11に固定されたベース23上に固定されている。シートPをプラテン20、21のシート搬送面に吸着するために、プラテン20、21には吸引孔24が複数形成されており、ファン14を駆動すると略密閉経路をなすフレーム11を介して吸引孔24にシートへの吸着力fが作用するようになっている。
【0021】
次に、本実施形態のプラテン20、21の構成について詳細に説明する。本実施形態のインクジェット記録装置で記録を行う場合、ヒータ4は反射板15によって均一に画像形成面を照射(H)する。そうすると、シートPと共にプラテン20、21のシート搬送面が昇温する。図1に示すように、本実施形態のインクジェット記録装置1は、シート幅W2のロール紙3を搭載しており、プラテン20、21のシート搬送面では、シート幅の領域W2はシートを介してヒータ照射される。一方、その他の領域Wmax−W2はヒータにより直接照射される。
【0022】
その結果、領域Wmax―W2では、領域W2に比べて高い温度上昇が生じ、両領域の境界部側から徐々に領域W2側へ温度伝播がなされ、Wmax―W2の近傍の領域では温度勾配が生じ、領域W2の温度分布が不均一になる。このように、プラテンの場所によって温度が異なると、乾燥むらが生じ、画像むらを発生し、濃度むらが生じる。その結果、画像品質が低下することになる。
【0023】
本実施形態では、そのような温度勾配が発生しないように、シートの画像形成端部領域に対応するプラテンの位置に、熱伝導率の低い領域をプラテンに設けるものである。
【0024】
以下、本実施形態のプラテンについて詳細に説明をする。
【0025】
図3は、本実施形態のプラテン20、21を示す平面図および断面図である。断面図は断面A−Aを示すものであり、記録されたシートPは、図に示すY方向に排紙される。
【0026】
シート搬送面を形成するプラテン20とプラテン21は、分割位置41で隣接配置している。この分割位置とは、プラテン47のシート搬送方向直交する方向の一端から他端に亘って分割して隣接配置した隙間である。またプラテン20のシート搬送面にはシート裏面と接触をしない凹溝形状をなす断続部31、32、33が複数形成されている。この断続部31、32、33は、シート搬送方向直交する方向の一端から他端に亘って凹溝形状を形成している。これら分割位置および断続部は、本実施形態で記録を行なう可能性が高いシートの幅の端部領域に対応するものである。
【0027】
図4は、本実施形態のプラテンに、シートPを通紙して記録を行うときのシート幅領域Xと温度の関係を示す図である。
【0028】
プラテンに支持されるシートP上に形成されたインクを乾燥さえるのに必要なプラテン搬送面の目標温度を温度Tdとする。この温度は、主にシートの厚み、画像形成速度、インク濃度、ヒータ発熱量等の条件から最適な設定温度を規定できる。本実施形態では、目標温度Tdを60℃に設定すると、画像ムラのない良好な記録を行うことができる。
【0029】
プラテン20、21を熱伝導率が高い金属材料で形成すると、ヒータ4の照射によってプラテン搬送面を早く均一で安定した温度にすることができる。よって、本実施形態のプラテン20、21は、熱伝導率が高いアルミ材により形成されており、断続部31、32、33および分割位置41は、プラテン20、21を形成するアルミ材に対して熱伝導率を低くしている。
【0030】
本実施形態のインクジェット記録装置は、記録キューを受信すると、ヒータ4を駆動してプラテン20、21の全領域を目標温度Tdまで昇温する。その後、シートPをプラテン20、21上に通紙して、記録を開始する。
【0031】
プラテン20上に通紙されたシートPの両端部下側には、プラテン20に形成された断続部31、33が位置している。シートPに画像S(S1−S2−S3−S4)が記録されると、プラテン領域の温度分布はLa(太線)になる。
【0032】
すなわち、シートの幅領域W1では、断続部31、32、33の区間を除き、シート搬送面は目標温度Tdで均一状態となる。一方、非シート領域Wmax―W1のシート搬送面は、ヒータ4で直接照射され続けられているため、目標温度Tdよりも著しく上昇し、高い温度Taになる。
【0033】
この場合、断続部33の形状がプラテン20に形成されていない場合、非シート領域Wmax―W1の近傍領域では温度勾配が生じ(Lb)ることになる。その結果、シートに覆われたプラテンの中で、温度が一定の温度保っている部分と、温度が設定温度から上昇した温度まで除々に温度が上がっている部分が生じることになる。このような温度の分布は、シートの幅方向でインクの乾燥にむらを生じさせ、結果として濃度むらが発生する。これにより、記録画像の画像品質が低下することになる。
【0034】
しかしながら、本実施形態のプラテンでは、断続部33の材料肉厚を薄くすることで、熱伝導率を低くし、非シート領域Wmax―W1の温度Taがシート領域W1に伝播しにくくしている。すなわち、断続部33をシートの記録領域Sより端部外側方向に配置することにより、非シート領域Wmax−W1から画像領域Sに対する熱の伝播の影響をより受けにくくして乾燥ムラを防止することが可能となる。したがって、本実施形態のプラテンでは、非シート領域Wmax―W1の近傍領域が温度分布Lbのようにならず、シートの幅方向でのインクの乾燥のむらが低減し、その結果、濃度むらも低減する。これにより、画像品質の低下を低減することができる。
【0035】
なお、局部的にシートがプラテンと非接触になるシート幅領域W1内の断続部31、32、33の区間温度は、目標温度Tdに対してδTdb下回る温度Tbとなる。しかしながら、シートでプラテンが覆われてヒータ照射される区間W1では、δTdb程度の温度差でも記録画像に乾燥ムラが生じないため、断続部を含む画像領域S(S1−S2−S3−S4)の記録画像にはプラテンのシート搬送面の温度を起因とする乾燥ムラは生じない。
【0036】
本実施形態の断続部は材料肉厚を薄くすることで熱伝導率を低くしているが、材料肉厚を薄くする以外の形状であっても、熱伝達率が低い形状であれば、乾燥むらを抑制することができる。
【0037】
また、本実施形態では、熱伝導率が低い位置には、断続部と分割位置とを設けているが、本発明は。断続部のみであっても、分割位置のみであってもよく、組み合わせも自由である。
【0038】
さらに、本実施形態では、分割部および断続部はプラテン上でシートの端部近傍の領域に設けられて。しかしながら本発明は、シートのシート搬送方向と直交する方向の端部近傍の領域であって、その端部よりもシートの中央部側の領域に対応するプラテン上の部分に、分割部または断続部が設けられていればよい。すなわち、本発明の断続部は、シート上のインクが吐出された部分の温度を一定に保つために形成された部分であるため、断続部がシートに覆われていたとしても、インクが吐出された部分が断続部にかかっていなければよい。
【0039】
なお、本実施形態では、エマルション成分を多く含むインクを使用しているが、本発明はそのようなインクに限定されるものではなく、インクの成分は如何なるものであってもよい。
【0040】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、シートの端部が断続部の配置されている場所にある場合について説明をしたが、本実施形態では、シートの端部領域がプラテン分割部の配置されている位置にある場合について説明をする。
【0041】
図5は、本実施形態のプラテンに、シートPを通紙して記録を行うときのシート幅領域Xと温度の関係を示す図である。プラテン20、21上に通紙されたシートPの各端部下側には、プラテン20の断続部31と、プラテン20、21が隣接する分割部41が位置している。画像S(S1−S2−S3−S4)が記録されると、プラテン領域の温度分布はLa(太線)になる。
【0042】
シート幅領域W2では、断続部31、32、33およびプラテン分割部41の区間を除いて、シート搬送面は目標温度Tdで均一になり、ヒータ4で直接照射される非シート領域Wmax―W2は目標温度Tdよりも高い温度Taまで著しく上昇している。
【0043】
そして、プラテンのシート搬送面に断続部となる分割部41をシートの記録領域Sより端部外側方向に配置すれば、非シート領域Wmax−W2の熱が画像領域Sに伝播されない。したがって、温度分布Laを維持することができる。結果として、シートの幅方向でのインクの乾燥のむらが低減し、その結果、濃度むらも低減する。これにより、画像品質の低下を低減することができる。
【0044】
(第3の実施形態)
上述した実施形態では、断続部31、32、33およびプラテン分割部41は、材料肉厚を薄くするまたは分割することで、熱伝導率を低くしていた。しかしながら本発明はこのような方法で熱伝導性を低くするものに限定されるものではない。
【0045】
図6は、本実施形態のプラテンを示す平面図および断面図である。本実施形態のプラテン断続部31、32、33およびプラテン分割部41の箇所に、各々熱伝導率が低い特性を有するゴム材等の断熱部材51〜54を配置している。このように熱伝導率の低い材料を配置しても、乾燥ムラのない良好な画像を得ることができる。
【符号の説明】
【0046】
4 ヒータ
20、21 プラテン
31、32、33 溝形状
41 プラテン分割部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する記録ヘッドを用いて搬送されるシートに記録を行なうインクジェット記録装置であって、
前記シートの記録面に対向した位置に設置され、前記シートに吐出されたインクを乾燥させるヒータと、
前記シートを支持するプラテンと、
を備え、
前記シートの、シート搬送方向と直交する方向の端部の近傍の領域であって、前記端部よりも当該シートの中央部側の領域に対応する前記プラテン上の部分に、シート搬送方向の一端から他端に亘って熱伝導率の低い領域が設けられていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記熱伝導率の低い領域は、前記プラテンのシート搬送方向直交する方向の一端から他端に亘って分割して隣接配置した隙間であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記熱伝導率の低い領域は、前記プラテンのシート搬送方向直交する方向の一端から他端に亘る凹溝形状であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記熱伝導率の低い領域は、熱伝導率の低い材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記シートはインクの受容層を持たない受容層無しシートであり、前記インクはエマルション成分を含むインクであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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