説明

インクジエツト記録ヘツドの製造方法

【目的】 複数回のエッチング工程によって、正確な形状のインクリザーバ部を形成することができるインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供する。
【構成】 (A)図は、(100)結晶面を表面に持つシリコン基板上に形成されたマスクパターンの一例の平面図である。第1回のエッチングは、5aを開口部とするSi3 4 膜5のエッチングマスクにより行なわれ、第2回のエッチングは、4aを開口部とするSiO2 膜4のエッチングマスクにより行なわれる。開口部4aの寸法を、開口部5aより小さくしておくことにより、インクリザーバ部2の開口部の矩系形状を非常に精度良く形成できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、インクジェット記録ヘッドの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】シリコンの異方性エッチング技術は結晶面の違いにより、エッチング速度が異なることを利用するもので、特に、{111}結晶面のエッチング速度が他の結晶面に比較して非常に遅いことを利用したものが一般的である。(100)結晶面を表面に持つシリコン基板を用いた場合、開口部が正方形もしくは長方形のパターンは、非常に精度よく形成されることが知られている。
【0003】従来、インクジェット記録ヘッドのインク流路部の形成に、このシリコンの異方性エッチングを応用した例がある。
【0004】例えば、特開昭61−230954号公報にインクジェット記録ヘッドの製造方法が記載されている。図3は、シリコンの異方性エッチングを応用したインクジェット記録ヘッドの製造方法の説明図である。図中、1はチャンネル基板、2はチャンネル部、3はインクリザーバ部、6はヒーター基板、8は連結用溝形成領域、9はエッチングマスク、10は接着剤である。図3(A)は、チャンネル部2、インクリザーバ部3を形成するためのエッチングマスク9が形成されたチャンネル基板1の斜視図である。このエッチングマスク9により、シリコンの異方性エッチングを行なうことによって、図3(B)の平面図に示すように、チャンネル基板1に、チャンネル部2、インクリザーバ部3が作製される。
【0005】上述したように、異方性エッチングでは、エッチングパターン形状が矩形の場合のみ、正しい形状にエッチングが進行するから、チャンネル部2とインクリザーバ部3と分離して形成するのである。したがって、両者を連結する通路を形成する必要がある。そのため、図3(B)において、ハッチングで図示した連結用溝形成領域8にダイシングにより連結用溝が形成される。図3(C)は、その断面図であり、同様にハッチングで図示した部分、すなわち、連結用溝形成領域8を、ダイシングソーによって切削して溝を形成し、チャンネル部2とインクリザーバ部3との間の部分を連結する。この連結用溝を形成する際は、ダイシングブレードの幅からの制約、および、流路抵抗の設計上の制約から、チャンネル部2とインクリザーバ部3との間隔は、およそ0.4mm以下にしなければならないという制約がある。
【0006】このチャンネル基板1を、図3(D)に示すように、ヒーターおよびそれに通電する電極を有するヒーター基板6とを接着剤10により貼り合わせ、ダイシングソーで個々のヘッドに分割するという方法によりインクジェット記録ヘッドが作製される。
【0007】また、特開平2−111696号公報には、一方の面に複数のエッチング開口部用のパターンを設けて、複数回のエッチング工程により、インクリザーバ部とチャンネル部を精度よく形成する方法が記載されている。
【0008】一方、ノズル数を増加する場合、インクリザーバ部を拡大する必要がある。ところが、貫通穴で構成されるインクリザーバ部の面積を大きくすると、基板の変形や破壊が生じやすくなり、強度の面からは、分割したインクリザーバ部を形成した後、それらを共通化するため短い時間のエッチングで各インクリザーバ部間を連結する方法が望ましい。
【0009】図4は、分割したインクリザーバ部を有するチャンネル基板を複数回のエッチング工程により製造する方法の説明図である。12は第1回のエッチングを行なうためのマスクであり、13は第2回のエッチングのためのマスクパターンにおける開口部である。この図では、エッチングマスク12を用いた第1回のエッチング工程により、4つの分割したインクリザーバ部11a,11b,11c,11dが形成される。ついで、開口部13が形成されたエッチングマスクを用いて、第2回のエッチングが行なわれ、チャンネル部の形成と、インクリザーバ部間の段差部14が浅くエッチングされる。ところが、第1回のエッチング中に、エッチングマスクの下をアンダーカットする部分が、マスク間の段差部14に達すると、そこからエッチングが広がり不良が発生しやすくなる。したがって、このような場合、分割したインクリザーバ部を形成する第1回のエッチング中に、すでに分割されたインクリザーバ部の間が連結してしまい、不均一な形状となることがある。
【0010】また、この異方性エッチング法を用いて{111}面でエッチングを終了させた場合、結晶方位により形状が規定されるため、エッチングマスクの開口位置や寸法に設計上の制約が多く、特に、インクリザーバ寸法は、インク吐出性能とインク流入のための貫通口位置の両面から制限がある。
【0011】図5は、上述したようなチャンネル基板の外部に、さらに大きいインクリザーバを取り付けたインクジェット記録ヘッドの概略を示す断面図である。チャンネル基板1とヒーター基板2とが接合されて構成されたヘッドチップのインクリザーバ部3の貫通孔に対して、外部インクリザーバ15の開口部は、位置が合致したものでなければならない。接合面に接着剤16を塗布してヘッドチップと外部インクリザーバとを接着し、インクリザーバ部3に、外部インクリザーバ15からインクを流入させる構造になっている。したがって、チャンネル基板1におけるインクリザーバ部3の開口部の周囲には、液密に封止するための接着代が必要である。ところが、従来のチャンネル基板においては、上述したように、インクリザーバ部3からチャンネル部2までの距離が短いため、接着剤を塗布する工程に高精度が要求され、不良も発生しやすいという問題もある。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した問題点を解決するためになされたもので、複数回のエッチング工程によって、正確な形状のインクリザーバ部を形成することができるインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明は、(100)結晶面を表面に持つシリコン基板に、異方性エッチングによってチャンネル部とインクリザーバ部を形成したチャンネル基板と、ヒーターと通電電極を有するヒーター基板とを接合してなるインクジェット記録ヘッドの製造方法において、前記インクリザーバ部は、異なる開口寸法の複数のエッチングマスクを用いて、複数回のエッチングによって形成されることを特徴とするものである。
【0014】
【作用】上述したように、本発明によれば、隣接するエッチング領域のマスク間の段差部分までエッチングが進行しないように、異なる開口寸法の複数のエッチングマスクを用いることを特徴としている。すなわち、第1回のエッチングに用いるマスクを、第2回のエッチングに用いるマスクよりも十分小さくする。その結果、深いエッチングを行なう場合や、貫通部を形成する場合には、マスク間の段差部分の幅を大きくとることができ、エッチング不良を防止することができる。
【0015】また、複数回のエッチングを行なう場合、各エッチングマスクの中心位置をずらせることにより、シリコン基板を貫通させる位置をある程度変えることができ、その結果外部からのインク流入口の封止が容易になる。
【0016】
【実施例】図1は、本発明の一実施例の説明図であり、図中、1はチャンネル基板、2はチャンネル部、3はインクリザーバ部、4はSiO2 膜、4aはその開口パターン、5はSi3 4 膜、5aはその開口パターン、6はヒーター基板である。この実施例では、インクリザーバ部2を2回のエッチング工程により形成した。図1(A)は、エッチングに用いられるマスクパターンの一例の平面図である。実線でハッチングした部分が、第1回のエッチングの際のSi3 4 膜により形成された第1のマスクパターンであり、ハッチングされていない部分5aがSi3 4 膜の開口部のパターンである。第2回のエッチングは、SiO2膜により形成された第2のエッチングマスクにより行なわれる。点線でハッチングした部分4aが、SiO2 膜の開口部のパターンである。
【0017】エッチングマスクの形成工程を説明する。(100)結晶面を表面に持つシリコン基板上に熱酸化により、SiO2 膜4を形成した後、フォトリソプロセスでチャンネル部およびインクリザーバ部を除くパターニング、すなわち、開口部4aを除くパターニングを行ない、ドライエッチング法により第2のエッチングマスクを形成する。次に、CVD法によりSi3 4 膜5を着膜し、フォトリソプロセスで、インクリザーバ部、すなわち、開口部5aを除くようパターニングし、ドライエッチング法により第1のエッチングマスクを形成する。
【0018】Si3 4 膜5で形成された第1のエッチングマスクの開口部5aにおけるインクリザーバ部に相当する開口部の寸法は、SiO2 膜4で形成された第2のエッチングマスクにおけるインクリザーバ部に相当するマスク開口部4aの寸法より小さくなっている。しかも、第1回のエッチングにより貫通させる開口部の位置とノズル表面との距離を大きくするため、チャンネル部から離れた位置にSi3 4 膜の開口部5aを形成することができる。
【0019】このように、SiO2 膜4、Si3 4膜5の2層で形成されたエッチングマスクのうち、まず、Si3 4 膜5を用いて、加熱したKOH水溶液で、第1回の異方性エッチングを行なう。このエッチング工程でインクリザーバ部を形成したときの断面図が、図1(B)である。上述したように、第1回の異方性エッチングに用いるSi3 4 膜5のエッチングマスクの開口部5aは、SiO2 膜4のエッチングマスクの開口部4aよりも小さく設計されており、第1回の異方性エッチング中にアンダーカットされても、SiO2 膜4まで進行しないよう十分に間隔がとられている。第1回の異方性エッチングは、シリコン基板を貫通した時点で終了するが、実質的には、Si3 4 膜5のマスクのみにしたがってエッチングしたことになる。ここで形成されたインクリザーバ部3の内壁面は、エッチング速度が結晶面に比較して非常に遅い{111}面よりなり、しかも、インクリザーバ部3の開口部の矩系形状は非常に精度良く形成できる。
【0020】次に、加熱したリン酸を用いて、Si3 4 膜5を全面にわたって除去した後、SiO2 膜4をエッチングマスクとして用い、第2回の異方性エッチングを行なう。このエッチング工程では、第1回のエッチングと同様に、加熱したKOH水溶液で行ない、チャンネル部2およびインクリザーバ部3を形成する。この第2回のエッチングにおいて、図1(C)に示されるように、チャンネル部は{111}面でエッチングがほぼ止まるため非常に精度良く形成できる。一方、インクリザーバ部3は、第1回のエッチングで形成されたものをさらに広げる工程となるが、3Aで示したように、インクリザーバ部の内部に段差を持つ構造となり、この段差3Aは、エッチング時間とともにその形状が変化する。したがって、エッチング時間を管理することによって、所望も大きさ、形状のインクリザーバ部を得ることができる。
【0021】最後に、残ったSiO2 膜4をフッ酸で全面除去する。以上のエッチング工程を経て作製されたチャンネル基板と、発熱体がそれぞれのチャンネルに対応する位置に形成されたヒーター基板とを接着し、ダイシングソーで個々のヘッドに分割する。
【0022】ここで、チャンネル部2をインクリザーバ部3と連結させる手段としては、図3(B),(C)で説明したように、ダイシングソーで予めチャンネル部2とインクリザーバ部3を連結する溝を形成することができる。
【0023】図2は、チャンネル部をインクリザーバ部と連結させる他の実施例の説明図である。図中、1はチャンネル基板、2はチャンネル部、3はインクリザーバ部、6はヒーター基板、7は厚膜樹脂層、7a,7bはその開口部である。この実施例では、図1の工程で作製されたチャンネル基板1において、チャンネル部2とインクリザーバ部3との境界部分のエッチングされていない凸部はそのままとしておく。そして、ヒーター基板に形成した厚膜樹脂層7に開口部7aおよび開口部7bをパターニングして形成する。開口部7aは、ピットと呼ばれる凹部である。開口部7bは、チャンネル基板1の上述した凸部に対向する位置に形成する。矢印で示すように、厚膜樹脂層7の開口部7bを介してインク流路が形成できる。開口部7bのパターニングは精度よくできるから、インク流路の流路抵抗を正確にできる利点がある。
【0024】以上の製造方法によって製造されたインクジェット記録ヘッドに、図5で説明したものと同様に、外部からインクを流入するためのさらに大きなインクリザーバを取り付けて記録ヘッドとすることもできる。
【0025】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、インクリザーバ部を形成するためのエッチング時に生じる欠陥を防止できるとともに、インク吐出性能を落とすことなくインク流入部の封止を容易にすることができる。さらに、ノズル面からインク流入口までの距離を大きくすることが可能であるため、外部に大きなインクリザーバを取り付ける際、封止が容易になり、歩留まりの高いインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法の一実施例の説明図である。
【図2】 チャンネル部をインクリザーバ部と連結させる他の実施例の説明図である。
【図3】 異方性エッチングを応用したインクジェット記録ヘッドの従来の製造方法の説明図である。
【図4】 複数回のエッチング工程による従来の製造方法の説明図である。
【図5】 外部インクリザーバを取り付けたインクジェット記録ヘッドの説明図である。
【符号の説明】
1 チャンネル基板、2 チャンネル部、3 インクリザーバ部、4 SiO2 膜、4a その開口パターン、5 Si3 4 膜、5a その開口パターン、6 ヒーター基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (100)結晶面を表面に持つシリコン基板に、異方性エッチングによってチャンネル部とインクリザーバ部を形成したチャンネル基板と、ヒーターと通電電極を有するヒーター基板とを接合してなるインクジェット記録ヘッドの製造方法において、前記インクリザーバ部は、異なる開口寸法の複数のエッチングマスクを用いて、複数回のエッチングによって形成されることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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