説明

インゲンマメの種子貯蔵タンパク質アルセリン2のプロモーター及びその利用

【課題】優れたタンパク質の貯蔵部位である植物種子に外来の有用タンパク質を生産・蓄積させる手段を提供する。
【解決手段】インゲンマメの種子貯蔵タンパク質アルセリン2遺伝子のプロモーター配列を単離し、当該プロモーターの発現制御下に外来有用タンパク質をコードする遺伝子を種子特異的に発現させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インゲンマメの種子貯蔵タンパク質アルセリン2をコードする遺伝子のプロモーター配列を含む新規なDNAに関する。また、本発明は前記DNAを含むベクターに関する。さらに、本発明は、前記DNA及びベクターの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
プロモーターは遺伝子の発現を制御する機能を持つDNAであり、植物細胞内で機能することが可能なプロモーターとして各種のプロモーターが知られている。発現させようと所期する構造遺伝子を各種プロモーターの下流に連結し、これをプラスミドベクターに挿入することで組換えベクターを作製することができる。そして、その組換えベクターを植物細胞に導入することによって、植物細胞内で所期の構造遺伝子をプロモーターの特性に応じた態様により発現させることができる。近年、遺伝子組換え技術による植物の品種改良は植物の形質改良のみならず、植物中で医薬原料、健康食品素材、酵素等の有用タンパク質を生産、蓄積させる研究開発がなされている。植物における組換え有用タンパク質の生産に関しては、その生産、蓄積部位として種子及び葉などが用いられているが、特に種子はタンパク質の貯蔵器官として優れており、目的の外来タンパク質を大量に、かつ安定的に蓄積することが可能である。また種子であるため保存安定性が高く、加工も容易である。
【0003】
一方で、目的とする有用タンパク質を種子特異的に生産、蓄積させるためには種子で遺伝子発現を誘導するプロモーターの制御下に外来遺伝子を発現させることが必要である。これまで知られている種子特異的な遺伝子発現を誘導するプロモーターとしては、イネグルテリンプロモーター(特許文献1参照)、亜麻種子特異的プロモーター(特許文献2参照)、インゲンマメアルセリン5プロモーター(特許文献3参照)が知られている。
【0004】
しかしながら、イネグルテリンプロモーターを用いて外来タンパク質を発現させた場合、その蓄積部位はでんぷん層である胚乳であり、無胚乳種子であるマメ科植物などには適さない。亜麻種子特異的プロモーターはマメ科植物で使用できることは実証されていない。インゲンマメアルセリン5プロモーターは、組換体におけるプロモーター活性についての報告がなく、実際に種子にどの程度外来タンパク質を蓄積させることができるか不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−130833号公報
【特許文献2】特表2003−525030号公報
【特許文献3】国際公開WO2002/50295号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、マメ科植物の種子特異的なプロモーター活性を有する新規なDNAを提供することである。また、本発明の目的は、当該DNAを含むベクター、及び該ベクターが導入された形質転換体を提供することである。また、本発明の目的は、優れたタンパク質の貯蔵部位である植物の種子に、外来のタンパク質を高率に発現させることで安価な外来タンパク質の生産方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、マメ科以外の植物においても、目的とする外来遺伝子を種子で発現させて、外来タンパク質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。
その研究の結果、後述される手法によって、インゲンマメの種子貯蔵タンパク質アルセリン2のプロモーター配列を有する新規なDNAを単離することに成功した。さらに、前記のDNAの塩基配列を決定した結果、前記DNAは、配列表の配列番号1の塩基配列を有する3860bpのDNA断片であることを見出した。
【0008】
さらに、前記DNAに含まれる塩基配列をレポーター遺伝子の上流に結合させたベクターを作製し、これをダイズ培養細胞及び種子へ導入した結果、前記塩基配列が種子特異的な遺伝子発現を誘導し、さらに、そのプロモーター活性が既知の種子特異的な発現を誘導するプロモーターと比較して高いことを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]
下記の(A)、(B)又は(C)に示す塩基配列を含むDNA:
(A)配列番号1の塩基配列、
(B)配列番号1の塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたものであって、種子特異的なプロモーター活性を有するDNAをコードする塩基配列、
(C)前記(A)又は(B)に記載された塩基配列の部分配列であって、種子特異的なプロモーター活性を有するDNAをコードする塩基配列、
[2]
配列番号1の塩基番号1399〜3860に記載された塩基配列を含むDNA、
[3]
[1]又は[2]に記載のDNAと、該DNAの下流に連結された外来タンパク質をコードする外来遺伝子と、該外来遺伝子の下流に連結されたターミネーター活性を有するDNAとを含むベクター、
[4]
前記ターミネーター活性を有するDNAは、配列番号2の塩基配列、又は配列番号2の塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたものであってターミネーター活性を有するDNAをコードする塩基配列を含む、[3]に記載のベクター、
[5]
[3]又は[4]に記載されたベクターが導入された形質転換植物体、
[6]
[3]又は[4]に記載されたベクターが導入された形質転換種子、
[7]
[1]又は[2]に記載のDNAの制御下において、外来タンパク質をコードする外来遺伝子を植物の種子中で発現させることを特徴とする、外来タンパク質の生産方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプロモーターは種子特異的なプロモーター活性を有するため、当該プロモーターに外来遺伝子を連結したベクターを用いて植物を形質転換することにより本来的な貯蔵器官である種子にワクチン、抗体、抗生剤、機能性タンパク質、機能性ペプチドなどに代表される、外来遺伝子に由来する有用タンパク質を効率的に生産、蓄積させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】pUHGArc2PCTを導入した形質転換ダイズの種子におけるアルセリン2タンパク質の蓄積量を示すSDS−PAGE後のCBB染色の写真である。図中の矢印はアルセリン2タンパク質を示す。
【図2】pUHGArc2PCTを導入した形質転換ダイズの種子におけるアルセリン2タンパク質の蓄積量を示すSDS−PAGE後のウェスタンブロッティングの写真である。図中の矢印はアルセリン2タンパク質を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
(1)本発明に係るプロモーター及び本発明に係るベクターに組み込まれるターミネーター
本発明に係る種子特異的なプロモーター活性を有するDNA(以下、本発明に係るDNAという)は、インゲンマメアルセリン2遺伝子のプロモーター配列を含むDNAであり、具体的には配列番号1の塩基配列又はその部分配列を含むDNAが含まれる。
【0013】
また、本発明に係るベクターに組み込まれるターミネーター活性を有するDNAは、インゲンマメアルセリン2遺伝子のターミネーター配列を含むDNAであり、具体的には配列番号2の塩基配列を含むDNAが含まれる。
【0014】
アルセリン遺伝子にはアルセリン1から7までの複数の相同性遺伝子の存在が知られており(非特許文献 Alianら;Plant Physiology 120, 1095-1104(1999))、それらの構造遺伝子をコードする部分の塩基配列の相同性は非常に高い。
【0015】
一般に特定の構造遺伝子のプロモーター配列を含むDNAの単離は、ゲノミックDNAライブラリーからのスクリーニング操作によって単離することができ、該構造遺伝子の塩基配列が明らかな場合、該塩基配列を基にプローブを調製し、ゲノミックDNAライブラリーからスクリーニングを行い、選択されたクローンの塩基配列を決定することにより、プロモーター領域を含むDNAを単離することができる。しかしながら、本発明のアルセリン2遺伝子のプロモーターのようにその構造遺伝子に相同性の高い複数の遺伝子が存在する場合、目的のプロモーター領域を含むクローンが選択される確率は低くなる。
【0016】
本発明のアルセリン2遺伝子のプロモーター配列及びターミネーター配列を含むDNAの単離は、制限酵素処理を施したゲノッミクDNAにアダプターを結合させ、既知配列とアダプター配列を基にプライマーを設計してPCRを行い未知の領域をクローニングする手法、すなわち、PCR技術を使用したゲノムウォーキング法を用いて行うことができる。具体的には、アダプター配列特異的なプライマーと、既知のアルセリン2遺伝子cDNAの塩基配列(GenBank accession No.M28470)をもとに設計したアルセリン2遺伝子特異的プライマーを用いてPCRを行うことにより、インゲンマメアルセリン2遺伝子の上流域及び下流域を増幅し、これをベクターにクローニングして塩基配列を決定することによって、インゲンマメアルセリン2遺伝子のプロモーター及びターミネーター領域の単離、及び塩基配列の決定を行うことができる。
【0017】
なお、一般にプロモーター活性を有するDNA及びターミネーター活性を有するDNAの塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加された場合であっても、該プロモーター活性及びターミネーター活性が維持され得ることは当業者において広く認識されるところである。従って、本発明に係るDNAには、配列番号1及びの塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加されて形成された塩基配列を含むDNAであって、種子特異的なプロモーター活性を有するDNAが含まれ、また、本発明に係るベクターに組み込まれるターミネーター活性を有するDNAには、配列番号2の塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加されて形成された塩基配列を含むDNAであって、ターミネーター活性を有するDNAが含まれる。このようなDNAは、部位特異的変異導入法等の当業者に周知の方法を用いて生産することができる。ここでいう「1個もしくは数個」とは、好ましくは1〜9の整数個、より好ましくは1〜4の整数個である。
【0018】
本発明において、配列番号1の塩基配列の部分配列、又は配列番号1の塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたものであって、種子特異的なプロモーター活性を有するDNAをコードする塩基配列(以下、配列番号1のホモログ配列と呼ぶ)の部分配列とは、配列番号1又は配列番号1のホモログ配列に含まれる連続した塩基配列をいう。当該部分配列を含むDNAのうち、種子特異的なプロモーター活性を有するものが本発明に係るDNAに含まれる。このようなDNAとしては、例えば、配列番号1の塩基番号1399〜3860に記載された塩基配列を含むDNAが挙げられる。
【0019】
また、いったん本発明のプロモーター及びターミネーターの塩基配列が確定されると、その後は化学合成によって、あるいはその塩基配列の一部からなるDNAをプライマーとして合成して、インゲンマメの全DNAを鋳型に該プライマーを用いたPCRによって容易に得ることができる。
【0020】
(2)プロモーター活性の検定
単離されたDNAが、種子特異的なプロモーター活性を有することの確認は、該DNAの下流に発現量を定量できるレポーター遺伝子を組込んだベクターを導入した形質転換植物体における、該レポーター遺伝子の発現部位及び発現量を調べることによって行うことができる。
【0021】
前記レポーター遺伝子としては、例えばβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子や、ルシフェラーゼ(LUC)遺伝子、GFP遺伝子などが挙げられる。
【0022】
ベクターを導入することによる形質転換植物体の作製は、すでに報告され、確立されている種々の方法により行うことができる。その好ましい例としては、アグロバクテリウム法、PEG法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法などが挙げられる。
【0023】
種子特異的なプロモーター活性を測定するために形質転換され得る植物としては、イネ、オオムギ、コムギ、トウモロコシ、ダイズ、インゲン、ナタネ、シロイヌナズナなどが挙げられる。また、形質転換される植物材料としては、例えば、根、茎、葉、種子、胚、胚珠、子房、茎頂、葯、花粉等の植物組織やその切片、未分化のカルス、プロトプラスト等の植物培養細胞が挙げられる。
【0024】
レポーター遺伝子としてGUS遺伝子を用いる場合、該遺伝子発現産物の触媒作用による5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロン酸(X−Gluc)を基質とした組織化学的染色により、プロモーター活性の測定を行うことができる。また、種子特異的であるかどうかの確認は、一過性発現の確認の場合は、種子又はそれ以外の上記各植物組織をベクターにより形質転換し、例えば3〜5日経過したものを組織化学的染色することにより確認できる。さらにはベクターによる形質転換後、それぞれの植物種で報告されている植物体を再生させる工程により形質転換植物体を得、該形質転換植物体により形成された種子を含むそれ以外の組織を調べることによっても確認できる。
【0025】
(3)本発明に係るベクター
本発明に係るベクターは、本発明に係るDNAと、該DNAの下流に位置する外来タンパク質をコードする外来遺伝子と、該外来遺伝子の下流に位置するターミネーター活性を有するDNAとを含む。該外来遺伝子には、インゲンマメ以外に由来する遺伝子の他、インゲンマメに由来する遺伝子であって、アルセリン2遺伝子と異なる塩基配列を有する遺伝子も含まれる。該外来遺伝子は、ワクチン、酵素、抗体、機能性タンパク質、機能性ペプチド等の有用なタンパク質をコードする遺伝子であることが好ましい。これらの遺伝子に、該遺伝子の発現産物を細胞の特定の位置に配置させるためのシグナルペプチドをコードする塩基配列や、該発現産物の単離・精製を容易にするためのタグペプチド(GST、his−tag等)をコードする塩基配列等を結合させ、融合タンパク質として発現されるようにすることもできる。本発明に係るベクターは、さらに選抜マーカーを含むことが好ましい。該選抜マーカーとしては、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子などが例示される。本発明に係るベクターを植物に導入することで、後述する形質転換植物体を作製することができる。
【0026】
本発明に係るベクターは、当業者に既知の手段を用いて作製することができる。例えば、配列番号1の塩基配列からなるDNAと、その下流に位置する外来遺伝子と、さらにその下流に位置する配列番号2の塩基配列からなるDNAとを含むベクターは以下のようにして得ることができる。
【0027】
まず、配列番号1の5’末端から3’側に向けて連続した塩基配列からなる第1のプライマーと、配列番号2の3’末端から5’側に向けて連続した塩基配列の相補鎖からなる第2のプライマーを用いて、インゲンマメのゲノミックDNAをテンプレートとしてPCRを行い、配列番号1の塩基配列と配列番号2の塩基配列と、これら2つの配列の間に挟まれたアルセリン2遺伝子から構成されたDNAを得、これをpBluescriptII
SK(−)のような市販のクローニングベクターに組み込む。これをホストとなる大腸菌に導入して適宜複製させてから再度抽出し、これをテンプレートとして、配列番号2の5’末端から3’側に向けて連続した塩基配列からなる第3のプライマーと、配列番号1の3’末端から5’末端に向けて連続した塩基配列の相補鎖からなる第4のプライマーを用いて、PCRを行う。この増幅産物に、別に単離されてきた外来遺伝子を連結して環状プラスミド状のベクターとすれば、本発明に係るベクターを作製することができる。ここで、前記第1〜4のプライマーには、必要に応じて制限酵素認識配列を付加することもできる。
【0028】
前記第1のプライマーの5’末端を、配列番号1の5’末端より下流に設定すれば、配列番号1の塩基配列の部分配列からなるDNAと、その下流に位置する外来遺伝子と、さらにその下流に位置する配列番号2の塩基配列からなるDNAとを含むベクターを作製することができる。
【0029】
上記のように作製したベクター中の塩基配列は、部位特異的変異導入法などの当業者に周知の手法で当該塩基配列において1個もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加された塩基配列に変異させることができる。
また、選抜マーカーをコードする遺伝子は公知の塩基配列のものを使用することができ、市販のベクターにも種々の選抜マーカー遺伝子を含むベクターが市販されているため、本願発明に係るベクター中への選抜マーカー遺伝子の挿入は、当業者に周知の分子生物学的手法により容易に行うことができる。
【0030】
(4)本発明に係る形質転換植物体
上記のように調製した組換えベクターを用いて、対象植物を形質転換し、形質転換植物体を調製することができる。形質転換植物体を調製するには、すでに報告され、確立されている種々の方法を利用することができる。その好ましい例としては、アグロバクテリウム法、PEG法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法などが挙げられる。
【0031】
本発明において形質転換に用いられる植物としては、イネ、オオムギ、コムギ、トウモロコシ、ダイズ、インゲン、ナタネ、シロイヌナズナなどの植物が挙げられる。また、形質転換される植物材料としては、例えば、根、茎、葉、種子、胚、胚珠、子房、茎頂、葯、花粉等の植物組織やその切片、未分化のカルス、プロトプラスト等の植物培養細胞が挙げられる。上記組織及び細胞に形質転換した後、選抜マーカー遺伝子によってもたらされる耐性効果を指標に、形質転換植物細胞を選抜する。選抜された細胞から、それぞれの植物種で報告されている植物体を再生させる工程を経て、形質転換植物体を得ることができる。
【0032】
こうして得られた形質転換植物体の栽培を行い、種子を稔実させることで、本発明に係る形質転換種子を得ることができ、該形質転換種子中に目的とする外来タンパク質が得られる。
【0033】
遺伝子が植物体に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、ウエスタンブロッティング法などによって行うことができる。例えば、形質転換植物体の種子からタンパク質を抽出し、ウエスタンブロッティングを行う。ウエスタンブロッティング後、生産された外来タンパク質に特異的な一次抗体及び西洋わさび過酸化酵素(HRP)などを標識した二次抗体を用いて免疫染色を行うことにより、本発明に係るベクターを用いた外来遺伝子の導入が適切に行われ、該外来遺伝子に由来する有用タンパク質が種子に蓄積されていること、及びその蓄積量を確認することができる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の実施例を示して具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
なお、以下の実施例で行われるアルセリン2遺伝子のプロモーター領域及びターミネーター領域を含むDNAの単離操作は、制限酵素処理を施したゲノミックDNA断片にアダプターを結合させ、既知配列とアダプター配列に基づいてプライマーを設計し、これらのプライマーを用いてPCRを行い未知の領域をクローニングするための市販されたキットである、株式会社ベックス製のRightWalk KitTMを用いて実施した。
【0035】
[実施例1]
(1)インゲンマメ野生種のゲノミックDNAの調製
インゲンマメ野生種(系統番号:G12866)の生葉1gからDNeasy Plant Maxi kit(キアゲン社製)を用いてゲノミックDNA50μgを抽出した。
【0036】
(2)インゲンマメ野生種からのアルセリン2遺伝子のプロモーター配列を含むDNAの単離
(i)第一回伸長反応
280ngの上記ゲノミックDNAを制限酵素SauIIIAIで消化した後、dGTPを加え、klenow enzyme(プロメガ社製)により1塩基伸張反応を行った。その後、RightWalk KitTM付属のRWA−1アダプターとLigation high(東洋紡績社製)を用いて連結反応を行い、アルセリン2遺伝子の上流域のDNAを単離するためのPCRの鋳型とした。
【0037】
次に、公知のインゲンマメアルセリン2遺伝子のcDNAの塩基配列(GenBank accession No.M28470)に基づき、配列番号4及び配列番号5の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(それぞれプライマーSP1及びプライマーSP2と命名)を、株式会社ファスマックのカスタム合成受託サービスを利用して作製した。以降、特に記述がない限りプライマーの合成は、同社を利用して行った。
【0038】
次に、上記で構築したアダプターを連結したゲノミックDNA2.8ngを鋳型とし、RightWalk KitTM付属のプライマーWP−1及びプライマーSP1を用いてPCRを行った。PCRは、一反応あたり50μLの反応液を用い、変性反応を94℃、2分で1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを65℃で30秒、及び伸長反応を68℃で5分を1サイクルとして35サイクル行った。なお、反応液は200μMのdNTP混合液、1.5mMのMgSO4溶液、1μMの上記各プライマー、1ユニットのKOD−Plus−(東洋紡績社製)を含むKOD−Plus−Ver.2バッファーを含んでいる。
【0039】
PCR終了後、反応液を100倍に希釈し、その1μLを2回目のPCRの鋳型とし、RightWalk KitTM付属のプライマーWP−2及びプライマーSP2を用いてPCRを行った。なお、2回目のPCRの溶液組成及び温度条件は、鋳型とプライマー以外、1回目のPCRと同条件で行った。
【0040】
増幅されたDNA断片は、最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行った後、予めSmaIで処理したpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)と連結反応を行った。
【0041】
この反応産物を、Arc2P(i)とし、株式会社ファスマックのDNAシーケンシングサービスを用いて塩基配列を決定した。その結果、アルセリン2遺伝子の開始コドンの上流844bpの新規な領域を含むことを確認した。以降、特に記述がない限り塩基配列の決定は同社のシーケンシングサービスを用いて行った。
【0042】
次に、さらに上流域を単離するため、新たなプライマーを作製し第二回目となる伸長反応を行った。
【0043】
(ii)第二回伸長反応
280ngの上記ゲノミックDNAを制限酵素BglIIで消化した後、dGTPを加え、klenow enzyme(プロメガ社製)により1塩基伸張反応を行った。反応後、RightWalk KitTM付属のRWA−1アダプターと連結反応を行い、プロモーター単離のためのPCRの鋳型とした。
【0044】
次に、公知のインゲンマメアルセリン2遺伝子のcDNAの塩基配列(GenBank accession No.M28470)に基づき、配列番号6の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(プライマーsecondSP1と命名)を、また第一回伸長反応で得られた開始コドンの上流844bpの塩基配列に基づき配列番号7の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(プライマーsecondSP2と命名)を作製した。
【0045】
次に、上記で構築したアダプターを連結したゲノミックDNA2.8ngを鋳型とし、RightWalk KitTM付属のプライマーWP−1及びプライマーsecondSP1を用いてPCRを行った。PCRの溶液組成及び温度条件は、鋳型とプライマー以外、上記(i)の第一回伸長反応と同条件で行った。
【0046】
反応終了後、上記PCR液を100倍に希釈し、その1μLを2回目のPCRの鋳型とし、RightWalk KitTM付属のプライマーWP−2及びプライマーsecondSP2を用いてPCRを行った。なお、2回目のPCRの溶液組成及び温度条件は、鋳型とプライマー以外、1回目のPCRと同条件である。
【0047】
増幅されたDNA断片は、最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行った後、予めSmaIで処理したpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)と連結反応を行った。
【0048】
反応産物を、Arc2P(ii)とし塩基配列を決定した。その結果、Arc2P(i)の上流197bp(合計1041bp)の新規な領域を含むことを確認した。次に、さらに上流域を単離するため、新たなプライマーを作製し第三回目となる伸長反応を行った。
【0049】
(iii)第三回伸長反応
280ngの上記ゲノミックDNAを制限酵素XbaIで消化した後、dCTPを加え、klenow enzyme(プロメガ社製)により1塩基伸張反応を行った。反応後、RightWalk KitTM付属のRWA−2アダプターと連結反応を行い、プロモーター単離のためのPCRの鋳型とした。
【0050】
次に、第二回伸長反応で得られた197bpの塩基配列に基づき、配列番号8及び配列番号9の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(それぞれプライマーthirdSP1及びプライマーthirdSP2と命名)を作製した。
【0051】
次に、上記で構築したアダプターを連結したゲノミックDNA2.8ngを鋳型とし、RightWalk KitTM付属のプライマーWP−1及びプライマーthirdSP1を用いてPCRを行った。PCRの溶液組成及び温度条件は、鋳型とプライマー以外、上記(i)の第一回伸長反応と同条件で行った。
【0052】
反応終了後、上記反応液を100倍に希釈し、その1μLを2回目のPCRの鋳型とし、RightWalk KitTM付属のプライマーWP−2及びプライマーthirdSP2を用いてPCRを行った。なお、2回目のPCRの溶液組成及び温度条件は、鋳型とプライマー以外、1回目のPCRと同条件である。
【0053】
増幅されたDNA断片は、最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行った後、予めSmaIで処理したpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)と連結反応を行った。
【0054】
この反応産物を、Arc2P(iii)とし、塩基配列を決定した。その結果、Arc2P(ii)の上流2819bp(合計3860bp)の新規な領域を含むことを確認した。以上、三回の伸長反応によってアルセリン2遺伝子の開始コドンの上流5′側非翻訳領域を含む3860bpの新規なプロモーター配列を含むDNAを取得することができた(配列番号1)。アルセリン2遺伝子と相同性を有する公知の遺伝子であるアルセリン1(GenBank accession No.M68913)、アルセリン3(GenBank accession No.AX463292)、アルセリン4(GenBank accession No.AX463293)及びアルセリン5−1(GenBank accession
No.Z50202)のプロモーター配列との相同性を調べた結果、いずれとの比較においても相同性は55.4%以下であり、配列番号1に記載のDNAは新規なアルセリンプロモーター配列を含むDNAであることが明らかとなった。
【0055】
[実施例2]
(1)インゲンマメ野生種からのアルセリン2遺伝子のターミネーター配列を含むDNAの単離
上記実施例1(1)で抽出したゲノミックDNA280ngを制限酵素NheIで消化した後、dCTPを加え、klenow enzyme(プロメガ社製)により1塩基伸張反応を行った。反応後、RightWalk KitTM付属のRWA−2アダプターとLigation high(東洋紡績社製)を用いて連結反応を行い、ターミネーター遺伝子の単離のためのPCRの鋳型とした。
【0056】
次に、公知のインゲンマメアルセリン2遺伝子のcDNAの塩基配列(GenBank accession No.M28470)に基づき、配列番号10及び配列番号11の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(それぞれプライマーSP3及びプライマーSP4と命名)を作製した。
【0057】
次に、上記で構築したアダプターを連結したゲノミックDNA2.8ngを鋳型とし、RightWalk KitTM付属のプライマーWP−1及プライマーSP3を用いてPCRを行った。PCRは、一反応あたり50μLの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを65℃で30秒、及び伸長反応を68℃で5分を1サイクルとして35サイクル行った。なお、反応液は200μMのdNTP混合液、1.5mMのMgSO4溶液、1μMの上記各プライマー、1ユニットのKOD−Plus−(東洋紡績社製)を含むKOD−Plus−Ver.2バッファーを含んでいる。
【0058】
PCR終了後、反応液を100倍に希釈し、その1μLを2回目のPCRの鋳型とし、RightWalk KitTM付属のプライマーWP−2及びプライマーSP4を用いてPCRを行った。なお、2回目のPCRの溶液組成及び温度条件は、鋳型とプライマー以外、1回目のPCRと同条件で行った。
【0059】
増幅されたDNA断片は、最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行った後、予めSmaIで処理したpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)と連結反応を行った。
【0060】
反応産物を、Arc2Tとし、塩基配列を決定した。その結果、アルセリン2遺伝子の3’側非翻訳領域を含む終止コドンの下流795bpの新規な領域を含むことを確認した(配列番号2)。公知のアルセリン2遺伝子と相同な遺伝子であるアルセリン1(GenBank accession No.M68913)及びアルセリン5−1(GenBank accession No.Z50202)のターミネーター領域と相同性について検索した結果、いずれとの比較においても相同性は49.1%以下であり、配列番号2に記載のDNAは新規なターミネーター配列を含むDNAであることが明らかとなった。
【0061】
[実施例3]
(1)アルセリン2ゲノム遺伝子に相当するDNAの合成と単離
上記実施例1(1)で抽出したゲノミックDNA80ngを鋳型として、PCRを行った。配列番号1及び配列番号2に記載された塩基配列に基づき、配列番号12及び配列番号13の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(それぞれプライマーArc2P及びプライマーArc2Tと命名)を作製した。
【0062】
PCRは、一反応あたり50μLの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを57℃で30秒、及び伸長反応を68℃で4分を1サイクルとして25サイクル行った。なお、反応液は200μMのdNTP混合液、1.5mMのMgSO4溶液、1μMの上記各プライマー、1ユニットのKOD−Plus−(東洋紡績社製)を含むKOD−Plus−Ver.2バッファーを含んでいる。
【0063】
増幅されたDNA断片は、最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行った後、予めSmaIで処理したpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)と連結反応を行った。
【0064】
反応産物を、Arc2PCTとし、塩基配列を決定した。その結果、アルセリン2遺伝子、及びその5’側非翻訳領域を含む開始コドンの上流2461bpのプロモーター領域を含み、且つ3’側非翻訳領域を含む終止コドンの下流795bpの新規な領域を含むことを確認した(配列番号3)。こうして得られた組換えベクターArc2PCTを導入した大腸菌DH5α(タカラバイオ株式会社製)は、大腸菌Escherichia coli DH5α/Arc2PCTと命名され、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに2008年7月30日より、受託番号P-21624 として寄託されている。
【0065】
(2)植物におけるプロモーター活性検定ベクターの作製
(i)アルセリン2プロモーター活性検定ベクターの作製
上記実施例3(1)で得たArc2PCTの10ngを鋳型として、プロモーター、ターミネーター及びベクター部分を増幅するPCRを行った。配列番号3に記載された塩基配列に基づき、配列番号14及び配列番号15のオリゴヌクレオチド(それぞれプライマーArc2P3及びプライマーArc2T5と命名)を作製した。
【0066】
PCRは、一反応あたり50μLの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを57℃で30秒、及び伸長反応を68℃で6分30秒を1サイクルとして25サイクル行った。なお、反応液は200μMのdNTP混合液、1.5mMのMgSO4溶液、1μMの上記各プライマー、1ユニットのKOD−Plus−(東洋紡績社製)を含むKOD−Plus−Ver.2バッファーを含んでいる。こうして、アルセリン2遺伝子のプロモーター2461bpとターミネーター795bp及びそれらの間にベクターの配列を含むDNA断片Arc2PTを得た。
【0067】
次に、植物細胞形質転換用ベクターpBI221(Clontech社製)のβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子のPCRによる増幅反応を行った。
【0068】
公知のpBI221の塩基配列(GenBank accession No.AF502128)に基づき、配列番号16及び配列番号17のオリゴヌクレオチド(それぞれプライマーGUS5及びプライマーGUS3と命名)を作製した。
【0069】
PCRは、一反応あたり50μLの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを57℃で30秒、及び伸長反応を68℃で2分を1サイクルとして25サイクル行った。なお、反応液は200μMのdNTP混合液、1.5mMのMgSO4溶液、1μMの上記各プライマー、1ユニットのKOD−Plus−(東洋紡績社製)を含むKOD−Plus−Ver.2バッファーを含んでいる。こうして、β−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子1812bpの遺伝子断片GUS1を得た。
【0070】
GUS1遺伝子断片は、最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行った後、上記Arc2PTと連結反応を行った。こうして、β−グルクロニダーゼ遺伝子の上流にアルセリン2遺伝子のプロモーター2461bp及び下流にターミネーター795bpを含む、プロモーター活性検定ベクターArc2PGUSを作製した。
【0071】
(ii)アルセリン5プロモーター活性検定ベクターの作製
本発明におけるアルセリン2プロモーター配列を含むDNAのプロモーター活性を確認するにあたり、他の種子特異的なプロモーター活性を有するプロモーターとの比較を行うため、種子特異的発現が認められている、公知のアルセリン5プロモーター及びターミネーター(国際公開WO02/50295号パンフレット)の単離を行った。
【0072】
インゲンマメ野生種(系統番号:G02771)の生葉1gからDNeasy Plant Maxi kit(キアゲン社製)を用いてゲノミックDNA50μgを抽出した。該ゲノミックDNA80ngを鋳型として、PCRを行った。公知のインゲンマメアルセリン5−1遺伝子(GenBank accession No.Z50202)の塩基配列に基づき、配列番号18及び配列番号19の塩基配列からなる2種類のオリゴヌクレオチド(それぞれプライマーArc5P及びプライマーArc5Tと命名)を作製した。
【0073】
PCRは、一反応あたり50μLの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃30秒、アニーリングを57℃30秒及び伸長反応68℃4分を1サイクルとして25サイクル行った。なお、反応液は200μMのdNTP混合液、1.5mMのMgSO4溶液、1μMの上記各プライマー、1ユニットのKOD−Plus−(東洋紡績社製)を含むKOD−Plus−Ver.2バッファーを含んでいる。
【0074】
増幅されたDNA断片は、最終濃度1mMのATP存在下でT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)でリン酸化反応を行った後、予めSmaIで処理したpBluescriptII SK(−)(ストラタジーン社製)と連結反応を行った。反応産物を、Arc5PCTとし、塩基配列を決定した。その結果、アルセリン5遺伝子、及びその5’側非翻訳領域を含む開始コドンの上流1818bpのプロモーター領域を含み、且つ3’側非翻訳領域を含む終止コドンの下流1192bpの領域を含むことを確認した。
【0075】
上記で得たArc5PCTの10ngを鋳型として、PCRを行った。公知のアルセリン5−1遺伝子の塩基配列より、配列番号20及び配列番号21の塩基配列からなる2種類のオリゴヌクレオチド(それぞれプライマーArc5P3及びプライマーArc5T5と命名)を作製した。
【0076】
PCRは、一反応あたり50μLの反応液を用い、変性反応を94℃で2分、1サイクル実施後、変性反応を94℃で30秒、アニーリングを57℃で30秒、及び伸長反応を68℃で6分30秒を1サイクルとして25サイクル行った。なお、反応液は200μMのdNTP混合液、1.5mMのMgSO4溶液、1μMの上記各プライマー、1ユニットのKOD−Plus−(東洋紡績社製)を含むKOD−Plus−Ver.2バッファーを含んでいる。こうして、アルセリン5遺伝子のプロモーター1818bp及びターミネーター1192bpを含む遺伝子断片Arc5PTを得た。
【0077】
これに、上記のリン酸化反応済みGUS1遺伝子断片を連結して、β−グルクロニダーゼ遺伝子の上流にアルセリン5遺伝子のプロモーター1818bp及び下流にターミネーター1192bpを含む、プロモーター活性検定ベクターArc5PGUSを作製した。
【0078】
[実施例4]
(1)ダイズ種子におけるプロモーター活性の検定
上記実施例3で得られた組換えベクターArc2PGUS及び比較区としてArc5PGUSをダイズの種子へウイスカ法(特許第3312867号公報)により遺伝子導入した。
【0079】
ダイズ(品種:Jack)の開花25日後の莢を70%エタノール溶液に1分間、次いで次亜塩素酸ナトリウム0.5%(有効塩素濃度)溶液に30分間浸漬して莢を殺菌処理した。無菌的に登熟種子を取り出し、次に種皮を取り除いた。種子を、5〜7mm角に切断し、遺伝子導入サンプルとした。
【0080】
チタン酸カリウム製ウイスカLS20(チタン工業社製)5gを1.5mL容のチューブに入れ、1時間放置した後、エタノールを除去し、完全に蒸発させて、殺菌されたウイスカを得た。このウイスカの入ったチューブに滅菌水1mlを入れ、良く攪拌した。ウイスカと滅菌水を遠心分離し、上清の水を捨てた。このようにしてウイスカを洗浄した。このウイスカ洗浄操作を3回行った。その後、同チューブに公知のMS液体培地の0.5mlを加えてウイスカ懸濁液を得た。
【0081】
上記で得られたウイスカ懸濁液の入ったチューブに、上記の種子2粒分の種子切片を入れて攪拌した後、混合物を1000rpmで10秒間遠心分離し、種子切片とウイスカを沈殿させ、上清を捨て、種子切片とウイスカの混合物を得た。
【0082】
この混合物を入れたチューブに、前記の組換えベクター(すなわち前記の組換えベクターArc2PGUS、又はArc5PGUS)の20μL(20μg)を加え、十分振り混ぜて均一な混合物を得た。次にこの均一な混合物の入ったチューブを18000×gで5分間遠心分離した。遠心分離した混合物を再度振り混ぜ、この操作を3回反復した。
【0083】
上記のようにして得られた、種子切片と、ウイスカと、ベクターを収容しているチューブを超音波発生機の浴槽にチューブが十分浸るように設置した。周波数40kHzの超音波を強度0.25W/cm2で1分間照射した。照射後、10分間、4℃でこの混合物を保持した。このように超音波処理した混合物を前記のMS液体培地で洗浄し、形質転換種子切片を得た。
【0084】
上記で組換えベクターを導入して得た種子切片を、MS培地にショ糖30グラム/L、寒天8g/Lを添加して得たMS寒天培地に置床した。その後に、28℃、2000ルックス、16時間日長の条件下で3日間培養を行った。
【0085】
上記で得られた組換えベクターが形質転換されたダイズ種子におけるGUS染色を公知の方法(Plant Genetic Transformation and Gene Expression A laboratory manual,324頁〜327頁、Blackwell Scientific Publications LTD)に準じて行った。
【0086】
ダイズ種子切片を直径3.5cmのシャーレに入れ、染色用バッファー(2mM X−Gluc(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β―D−グルクロン酸)、50mM NaPO4,pH7.0)を3mLずつ添加して浸漬した。37℃で一晩保温した後、染色バッファーを取り除き、70%エタノールを3mLずつ添加して洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、ダイズ種子切片におけるブルースポット数を調査した。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
上記のように本発明区のArc2PGUSを導入した種子切片のブルースポット数は、種子特異的発現プロモーターであるアルセリン5−1プロモーターを連結したArc5PGUSよりブルースポット数が多く、種子において高い発現を示すことが認められた。
【0089】
(2)ダイズ不定胚におけるプロモーター活性の検定
次に、本発明のプロモーターの発現時期を確認するため、胚発生の初期段階にあたるダイズ球状不定胚に遺伝子導入を行った。また、比較区としてβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子の上流にカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターを連結したpBI221(Clontech社製)についても遺伝子導入を行った。
【0090】
公知の方法(K. Nishizawa, Y. Kita, M. Kitayama, M. Ishimoto. (2006) A red fluorescent protein, DsRed2, as a visual reporter for transient expression and stable transformation in soybean. Plant Cell Reports 25:1355-1361)により、ダイズ(品種:Jack)未熟種子から誘導された不定胚塊(直径3mm以下)30個を1.5mL用のチューブに加え、上記実施例4(1)と同様の方法で、遺伝子導入操作を行った。
【0091】
遺伝子導入後の不定胚塊を直径3.5cmのシャーレに入れ、公知の不定胚増殖培地を3mL加え、25℃、500ルックス、23時間日長の条件下で3日間培養を行った。上記で得られた組換えベクターが形質転換されたダイズ不定胚におけるGUS染色を上記(1)の方法でGUS染色を行った。結果を表2に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
上記のように本発明区のArc2PGUSはブルースポットが認められず、胚発生の初期段階にあたるダイズ球状不定胚においては、発現が認められなかった。以上のことから、本発明のアルセリン2プロモーターは、種子の登熟後期において特異的な発現を示す高発現プロモーターであることが証明された。
【0094】
[実施例5]
(1)インゲンマメのアルセリン2タンパク質の発現プラスミドの構築
アルセリン2遺伝子のプロモーターの制御下で、インゲンマメのアルセリン2貯蔵タンパク質をダイズ種子中で発現させるための発現プラスミドを構築した。
【0095】
上記、実施例3(1)で得られた、Arc2PCTを公知のpUHGベクター(Y. Kita,K. Nishizawa,M Takahashi, M. Kitayama, M. Ishimoto. (2007)Genetic improvement of somatic embryogenesis and regeneration in soybean and transformation of the improved breeding lines. Plant Cell Reports 26:439−447)に連結し、アルセリン2遺伝子のプロモーターによりアルセリン2タンパク質を発現するための植物形質転換ベクターの構築を行った。
【0096】
Arc2PCTを制限酵素SpeIおよびHindIIIで切断を行い、pUHGベクターのSpeI、HindIIIサイトに連結反応を行い、植物形質転換ベクターpUHGArc2PCTを作成した。すなわち、Arc2PCTの2μgを制限酵素SpeI、HindIIIの20単位で37℃、2時間切断した後、アガロース電気泳動を行い、Arc2PCTにおいて約4.0kbの断片のみを切り出し、ジーンクリーン(Bio101社製)により精製した。一方pUHGプラスミド2μgをSpeI、HindIII20単位で37℃、2時間切断した後、ジーンクリーンにより精製した。夫々のDNAフラグメントを、Takara Ligation kitにて、16℃、3時間反応させた。
【0097】
このようにしてプラスミドpUHGのSpeI、HindIII切断DNAフラグメントに、Arc2PCT由来の約4.0kbのSpeI、HindIII切断フラグメントを組み込んだ植物形質転換ベクターpUHGArc2PCTを作製した。
【0098】
(2)インゲンマメのアルセリン2タンパク質の発現プラスミドによるダイズの形質転換
公知の方法(K. Nishizawa, Y. Kita, M. Kitayama, M. Ishimoto. (2006) A red fluorescent protein, DsRed2, as a visual reporter for transient expression and stable transformation in soybean. Plant Cell Reports 25:1355−1361)により、ダイズ品種Jackの未熟種子から誘導された不定胚塊(直径3mm以下)30個を1.5ml用のチューブに加え、ウイスカー超音波法(特許第3312867号)により遺伝子導入操作を行った。
【0099】
チタン酸カリウム製ウイスカーLS20(チタン工業社製)5mgを1.5ml容のチューブに入れ、1時間放置した後、エタノールを除去し、完全に蒸発させて、殺菌されたウイスカーを得た。このウイスカーの入ったチューブに滅菌水1mlを入れ、良く攪拌した。ウイスカーと滅菌水を遠心分離し、上清の水を捨てた。このようにしてウイスカーを洗浄した。このウイスカー洗浄操作を3回行った。その後、同チューブに公知のMS液体培地の0.5mlを加えてウイスカー懸濁液を得た。
【0100】
上記で得られたウイスカー懸濁液の入ったチューブに、上記の不定胚塊(直径3mm以下)30個を入れて攪拌した後、混合物を1000rpmで10秒間遠心分離し、不定胚塊とウイスカーを沈殿させ、上清を捨て、不定胚塊とウイスカーの混合物を得た。
【0101】
この混合物を入れたチューブに、実施例5(1)で作製したpUHGArc2PCTベクターの20μl(20μg)を加え、十分振り混ぜて均一な混合物を得た。
【0102】
次にこの均一な混合物の入ったチューブを18000xgで5分間遠心分離した。遠心分離した混合物を再度振り混ぜ、この操作を3回反復した。
【0103】
上記のようにして得られた、不定胚塊と、ウイスカーと、ベクターを収容しているチューブを超音波発生機の浴槽にチューブが十分浸るように設置した。周波数40kHzの超音波を強度0.25W/cm2で1分間照射した。照射後、10分間、4℃でこの混合物を保持した。このように超音波処理した混合物を前記のMS液体培地で洗浄した。
【0104】
処理後の不定胚塊を公知の不定胚増殖液体培地で1週間回転振とう培養し(100rpm)、その後にハイグロマイシンB(15mg/l)(ロッシュ・ダイアグノスティックス、マンハイム、ドイツ)を含んでいる新鮮な不定胚増殖液体培地で1週間培養した。さらに30mg/lのハイグロマイシンBを含んでいる不定胚増殖液体培地で4週間培養(毎週培地を交換する)した後、45mg/lのハイグロマイシンBを含んだ不定胚増殖液体培地で1週間選抜培養を行った。なお、遺伝子導入は各ベクターごとにマイクロチューブ12本の処理を行った。
【0105】
ハイグロマイシン耐性の不定胚塊を公知の不定胚成熟液体培地へ移し、4週間振とう培養(100rpm)を継続し不定胚を成熟させた。成熟した不定胚を滅菌シャーレ中に3から5日間置き乾燥させた後、公知の発芽固体培地に移した。7から10日間発芽培養を行った後、公知の発根培地に移し、発芽している幼植物体を成長させた。根と芽が伸びた後に、土壌を含んでいるポットへ植物を移し、順化するまで高湿度に維持した。
【0106】
このようにしてJack品種にpUHGArc2PCTを導入した形質転換ダイズ植物を3個体作出した。これらの形質転換ダイズの植物体は環境湿度に適応させた後、10000lx、16時間日長の環境下で栽培を継続し、すべての個体から種子を収穫した。こうして、形質転換ダイズ植物のT1世代の種子を得た。
【0107】
(3)形質転換ダイズ種子におけるアルセリン2タンパク質の蓄積量の評価
上記で得た形質転換ダイズ種子より全タンパク質を抽出し、アルセリン2タンパク質の蓄積量をSDS−PAGE後のCBB(Coomassie Brilliant Blue R−250)染色および特異抗体を用いたウエスタンブロッティング法で評価した。
【0108】
形質転換ダイズ種子より抽出した全タンパク質20μgをSDS−PAGEで分離し、ラピットCBB KANTO(関東化学株式会社製)による染色を行った(図1)。また、アルセリン2に対する特異抗体(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センターから入手)を反応させた後、ECL Advance Western Blotting Detection Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を用いて検出を行った。化学発光像を、LAS4000miniPR(富士フィルム社製)で取り込んだ後、同機付属の解析ソフトウェアMultiGageを用いて解析を行った(図2)。対照として、アルセリン2遺伝子の単離を行ったインゲンマメ野生種(系統番号:G12866)及び形質転換されてないダイズ品種Jackの種子より抽出した全タンパク質を用いた。
【0109】
その結果、上記で得た形質転換ダイズ種子の各系統にインゲンマメのアルセリン2貯蔵タンパク質に相当するシグナルバンドが確認でき、アルセリン2貯蔵タンパク質のダイズ種子中への高濃度蓄積が確認できた。尚、各レーン間を比較すると、アルセリン2貯蔵タンパク質の発現量にばらつきがあるが、遺伝子導入植物において、個体ごとに導入遺伝子の発現量にばらつきが生じることが一般的な現象であることは当業者の技術常識である。また、図1では、形質転換ダイズにおいて、アルセリン2タンパク質の存在がSDS−PAGE後のCBB染色ではっきりと認められているが、通常、植物においては、導入された外来遺伝子の発現産物であるタンパク質を、SDS−PAGE後のタンパク質染色でメジャーバンドとして検出することが困難であることに鑑みれば、本実施例における該アルセリン2タンパク質の蓄積量が極めて多いことが理解できる。
【0110】
以上の結果より、アルセリン2遺伝子のプロモーターが、ダイズ種子において、その下流に連結された目的遺伝子を高発現し、発現したタンパク質の種子中への蓄積をもたらすことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明により、本来的な貯蔵器官である植物の種子にワクチン、抗体、抗生剤などの有用タンパク質を生産・蓄積させることが可能になり、医薬品原料等の効率的、安定的な供給が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)、(B)又は(C)に示す塩基配列を含むDNA:
(A)配列番号1の塩基配列、
(B)配列番号1の塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたものであって、種子特異的なプロモーター活性を有するDNAをコードする塩基配列、
(C)前記(A)又は(B)に記載された塩基配列の部分配列であって、種子特異的なプロモーター活性を有するDNAをコードする塩基配列。
【請求項2】
配列番号1の塩基番号1399〜3860に記載された塩基配列を含むDNA。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のDNAと、該DNAの下流に連結された外来タンパク質をコードする外来遺伝子と、該外来遺伝子の下流に連結されたターミネーター活性を有するDNAとを含むベクター。
【請求項4】
前記ターミネーター活性を有するDNAは、配列番号2の塩基配列、又は配列番号2の塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、置換、挿入もしくは付加されたものであってターミネーター活性を有するDNAをコードする塩基配列を含む、請求項3に記載のベクター。
【請求項5】
請求項3又は4に記載されたベクターが導入された形質転換植物体。
【請求項6】
請求項3又は4に記載されたベクターが導入された形質転換種子。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のDNAの制御下において、外来タンパク質をコードする外来遺伝子を植物の種子中で発現させることを特徴とする、外来タンパク質の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−104363(P2010−104363A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213049(P2009−213049)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省、植物機能を活用した高度モノづくり基盤技術開発/植物利用高付加価値物質製造基盤技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】