説明

インサート材の固定治具、および、その固定治具を用いた圧接継手工法

【課題】建設現場でのIH圧接作業において、品質管理を適切に行うために用いるインサート材の固定治具、および、その固定治具を用いた圧接継手工法を提供する。
【解決手段】IH圧接の際に圧接面間に挿入されるインサート材を保持するための保持部を備えた固定治具を用いることにより、筋材の圧接部分に留めた場合に、保持されているインサート材が圧接面間に案内されるので、柱や梁等のIH圧接箇所において、インサート材を、正しい位置に設置することができる。また、筋材1および筋材2に電源電圧VCCを与えておくことにより、インサート材4を保持する固定治具に接続されている導線5に関する電気的導通の検出有無によってインサート材の設置有無を検出できる。インサート材が適切に設置されていることを確認することによって、IH圧接作業の品質管理を適切に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はIH圧接継手の品質管理手法に関し、IH圧接継手に用いるインサート材の固定治具、および、その固定治具を用いた圧接継手工法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋を接合するための継手として、アモルファス接合継手が知られている。このアモルファス接合継手は、接合する鉄筋端面間にインサート材としてアモルファス金属箔を挿入し、圧力を加え、接合部を高周波誘導加熱装置(IH)により加熱し、その間に生じるアモルファス金属箔中の元素の拡散現象を利用して接合を行う継手工法である(例えば、特許文献1参照)。すなわち、インサート材として挿入されたアモルファス金属箔が接合面の凹凸による間隙を無くし、かつ、アモルファス金属箔が接合面において溶融することによって液相拡散接合を実現する。
【0003】
また、インサート材として、鋼製円板の両面にアモルファス材料薄膜を形成したものを用いる技術(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0004】
さらに、接合部を高周波誘導加熱する際、圧着方向における相対移動量が一定になるように制御する技術(例えば、特許文献3参照)や、加熱用のコイルを冷却する技術(例えば、特許文献4参照)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−75478号公報
【特許文献2】特開平3−230874号公報
【特許文献3】特開2004−1054号公報
【特許文献4】特開平10−230371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
建設現場での鉄筋ガス圧接作業は、作業者の熟練度が重要である。このため、鉄筋ガス圧接作業は、専門業者が行うことが多かった。
【0007】
これに対し、上述したIHを用いた圧接(以下、IH圧接と呼ぶ)については、作業者の熟練度はあまり重要ではなく、比較的簡便に作業を行うことができる。その反面、簡便さが故に、インサート材を挿入するのを、作業者が忘れることも考えられる。このため、IH圧接作業の品質を向上させる技術の実現が期待されていた。
【0008】
本発明の目的は、建設現場でのIH圧接作業において、品質管理を適切に行うために用いるインサート材の固定治具、および、その固定治具を用いた圧接継手工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるインサート材の固定治具は、圧接対象となる第1及び第2の筋材の間に挿入されるインサート材の固定治具であって、圧接の際に圧接面間に挿入されるインサート材を保持するための保持部を備え、前記第1の筋材の端部に留めた状態において、前記保持部に保持されている前記インサート材が前記圧接面間に案内されることを特徴とする。筋材のIH圧接箇所は、柱や梁が主であり、この固定治具を用いることにより、筋材圧接の際に、インサート材を、適切な位置に設置することができる。
【0010】
また、固定治具は、開閉可能であり、閉状態において第1の筋材への把持が可能な把持部を備え、前記保持部は、前記把持部によって前記第1の筋材の端部に留めた状態において、前記インサート材の主面が前記第1の筋材の端面に対向する位置に位置するように前記インサート材を保持するのが望ましい。このようにすれば、インサート材を適切な位置に設置することができる。
【0011】
前記把持部は支点を中心に開閉可能であり、前記保持部の一端は前記支点の位置に固定されており、前記保持部の他端と前記把持部との間に前記インサート材が保持されるようにすることが望ましい。このようにすれば、保持部を固定治具に容易に固定することができる。
【0012】
本発明による圧接継手工法は、上記の固定治具を用いた圧接継手工法であって、前記固定治具を前記第1の筋材の端部に留めることによって、前記第1の筋材の端面と前記第2の筋材の端面との間に、前記インサート材を挿入するステップと、前記第2の筋材の端面を前記インサート材に接触させ、第1の筋材の端面と第2の筋材の端面との間に前記インサート材が挟み込まれた状態にするステップと、前記第1の筋材の端面および第2の筋材の端面ならびこれらに挟み込まれた前記インサート材を保持する前記固定治具に接続されている導線に関する電気的導通の検出有無を確認するステップとを含み、前記第1の筋材の端面と前記第2の筋材の端面との間に、前記インサート材が設置されているか否かを検出するようにしたことを特徴とする。筋材圧接の際に、インサート材の設置有無を確認でき、IH圧接作業の品質管理を適切に行うことができる。
【0013】
また、前記第1の筋材および前記第2の筋材と前記導線との電気的導通が検出できた場合に、前記第1の筋材の端面と前記第2の筋材の端面とを圧接するための装置の電源をオン状態にするのが望ましい。このようにすれば、IH圧接作業の自動化および品質の管理を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧接の際に圧接面間に挿入されるインサート材を保持するための保持部を備えた固定治具を用いることにより、筋材の圧接部分に留めた場合に、保持されているインサート材が圧接面間に案内されるので、柱や梁等のIH圧接箇所において、インサート材を、適切な位置に設置することができる。
【0015】
また、圧接面の圧接の際に、電気的導通の検出有無によってインサート材の設置有無を検出することにより、インサート材が適切に設置されていることを確認でき、IH圧接作業の品質管理を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態による固定治具の使用状態を示す斜視図である。
【図2】固定治具の構成を示す平面図である。
【図3】図1の状態を横方向から見た状態を示す図である。
【図4】電気的導通の確認によるIH圧接作業の品質管理を維持する手法を説明するための図である。
【図5】電気的導通の確認によるIH圧接作業の品質管理を維持する手法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において参照する各図では、他の図と同等部分は同一符号によって示されている。
【0018】
(インサート材の固定治具)
図1は、本実施形態による固定治具の使用状態を示す斜視図である。同図において、第1の筋材1及び第2の筋材2は、圧接対象であり、これら筋材1と筋材2との間にインサート材を挿入するために、固定治具3が用いられる。筋材1および筋材2は、例えば鉄筋である。
【0019】
固定治具3は、作業者の手指等で操作するための操作部31aおよび31bと、筋材1を把持するための把持部32aおよび32bと、操作部31aから把持部32aに至る中間部分と、操作部31bから把持部32aに至る中間部分とを、接続するための支持部30とを備えている。支持部30は、操作部31aと操作部31bとが開閉するための支点としても機能する。
【0020】
また、固定治具3は、インサート材4を保持するための保持部として機能する板バネ部33を備えている。板バネ部33の一方の端部は支持部30によって固定され、他方の端部と把持部32aおよび32bとの間にインサート材が保持されるように構成されている。なお、インサート材を保持できれば、板バネ以外の構成を採用してもよい。板バネ部33には、導線5の端部が電気的に接続されている。板バネ部33が導電性を有していれば、板バネ部33に保持されているインサート材4と導線5との間に、板バネ部33を介して電気的導通が生じる。
【0021】
図2は、固定治具3の構成を示す平面図である。固定治具3は、支持部30を支点として、操作部31aと操作部31bとが離れる状態になる方向に、図示せぬバネによって付勢されている。操作部31aと操作部31bとが離れる状態になる方向に付勢されるため、通常は、同図のように、把持部32aの先端部分と把持部32bの先端部分とが接触した状態になる。つまり、把持部32aと把持部32bとが閉じた状態になる。
【0022】
この図示されている状態において、作業者の手指等によって、操作部31aと操作部31bとを、矢印Y31a、Y31bの方向に近づけるように操作すると、支持部30を支点として把持部32aの先端部分と把持部32bの先端部分とが離れることになる。つまり、把持部32aと把持部32bとが開いた状態になる。このように、把持部32aおよび把持部32bは、支点として機能する支持部30を中心に開閉可能になっている。
【0023】
図1に戻り、固定治具3は、例えば以下のように使用することができる。すなわち、作業者の手指等(図示せず)によって把持部32aの先端部分と把持部32bの先端部分とが十分に離れるように操作部31aと操作部31bとを近づける。この状態を保ち、把持部32aと把持部32bとの間に筋材1が位置するように、固定治具3を移動させる。このとき、インサート材4の主面と筋材1の端面11とが接触する位置に、固定治具3を移動させる。
【0024】
その後、作業者の手指等(図示せず)が固定治具3から離れることにより、把持部32aと把持部32bとが閉じてそれらの間に筋材1を挟んだ状態になる。この状態は、固定治具3が筋材1に留められ、かつ、インサート材4の主面が筋材1の端面11に接触している状態であり、図示せぬバネの付勢力によってこの状態が維持される。この固定治具3が筋材1に留められた状態では、板バネ部33に保持されているインサート材4が、筋材1の端部と接触する位置に案内されている。
【0025】
図1および図2に示されているように、インサート材4は、本例では、略円形の平板に、矩形の突出部41が付加された形状である。この突出部41が付加されているので、インサート材4は板バネ部33によって保持しやすい。突出部41が板バネ部33によって保持された状態で、固定治具3が筋材1に留められることにより、インサート材4を筋材1の端部と接触する位置に案内することができる。なお、インサート材4には、例えば、アモルファス金属箔を用いることができる。
【0026】
ここで、図1の状態を矢印Y1方向すなわち横方向から見た状態を示す図3を参照すると、板バネ部33は波状に屈曲し、矢印Y2の方向への付勢力を有する部分を有している。この付勢力によって、板バネ部33と把持部32a(32b)との間に、インサート材4が保持される。
【0027】
なお、板バネ部33には孔が設けられており、支持部30は、その孔と、操作部31aから把持部32aに至る中間部分に設けられた孔と、操作部31bから把持部32aに至る中間部分に設けられた孔とを貫いた状態になっている。これにより、支持部30は、上述したように、支点として機能する。
【0028】
(IH圧接)
図1に戻り、板バネ部33の波状に屈曲している部分と把持部32aおよび32bとの間に、インサート材4の端部が保持されている場合において、筋材1の端部すなわち筋材2に対向する面の近傍部分に固定治具3が留められると、インサート材4は筋材1と筋材2との間で、かつ、筋材1の端部と接触する位置に固定される。すなわち、図1に示されている状態になる。この状態から筋材2の端部21をインサート材4に近づけ、インサート材4に接触させる。その後、固定治具3を取り外す。固定治具3を取り外した状態が図4の状態である。
【0029】
この状態において、筋材1の端面11と筋材2の端面21とを近づける方向、すなわち筋材1および2の長さ方向に圧力をかけ、さらに端面11および端面21ならびにインサート材4の部分を高周波誘導加熱装置(図示せず)によって加熱する。すると、インサート材4の元素の拡散現象により、筋材1の端面11と筋材2の端面21とが接合される。
【0030】
筋材のIH圧接箇所は柱や梁が主であり、筋材圧接の際にインサート材4を正しい位置に設置することが難しい場合もある。そのような場合、この固定治具3を用いることにより、インサート材4を、正しい位置に設置することができる。
【0031】
(圧接継手工法)
上述した固定治具3、導電性を有する筋材、および、導電性を有するインサート材を用いてIH圧接を行う場合、電気的導通を検出することによって、IH圧接作業の品質管理を適切に行うことができる。電気的導通の確認によるIH圧接作業の品質管理を維持する手法について、図5を参照して説明する。
【0032】
同図において、筋材1、インサート材4、筋材2は、いずれも導電性を有しているものとする。本例では、トランジスタTr1、2つの抵抗素子R1およびR2が用いられる。同図のように、筋材1と筋材2との間は、導線等によって電気的に接続されている。筋材2には、電源電圧VCCが接続されている。電源電圧VCCは、例えば5V程度である。
【0033】
トランジスタTr1は、そのコレクタ端子がインサート材4に電気的に接続され、そのベース端子が抵抗素子R1を介してインサート材4に電気的に接続されている。トランジスタTr1のエミッタ端子は、抵抗素子R2を介してグランドに接続されると共に、ピークホールド回路6に接続されている。
【0034】
ここで、図1のように、筋材1の端面11にインサート材4を置くと、それらが接触して電気的導通が生じる。これにより、導線5を通じて電源電圧VCCが供給されるので、トランジスタTr1がオフ状態からオン状態に遷移し、抵抗素子2の一端に出力電圧を得ることができる。
【0035】
この状態において、筋材1の端面11とインサート材4とを接触させ、筋材1の端面11と筋材2の端面21との間にインサート材4が挟み込まれた状態にする。その後、固定治具を取り外す。固定治具を取り外した状態が図4の状態である。さらに、筋材1の端面11と筋材2の端面21とを近づける方向、すなわち筋材1および2の長さ方向に圧力をかけ、端面11および端面21ならびにインサート材4の部分を高周波誘導加熱する。これにより、インサート材4の元素の拡散現象により、筋材1の端面11と筋材2の端面21とが接合される。
【0036】
したがって、インサート材4が筋材間に挿入された場合、トランジスタTr1に電源電圧VCCが供給され、トランジスタTr1はオフ状態からオン状態に遷移する。
【0037】
一方、インサート材4が板バネ部33によって保持されていない場合、筋材1の端面11に固定治具3を取り付けても、トランジスタTr1に電源電圧VCCが供給されないので、トランジスタTr1はオフ状態のままである。つまり、トランジスタTr1のオン状態またはオフ状態を判定することによって、インサート材4の有無を確認することができる。
【0038】
本例では、トランジスタTr1のエミッタ端子と抵抗素子R2の一端との間に周知のピークホールド回路6が接続されており、その出力によってリレースイッチ回路7をオン状態またはオフ状態にすることによって、高周波誘導加熱装置(図示せず)の電源回路8をオン状態またはオフ状態に設定することができる。そして、ピークホールド回路6のホールド時間を、IH圧接作業の加熱時間を考慮して設定しておけば、トランジスタTr1がオン状態になることでリレースイッチ回路7をオン状態にし、電源回路8をオン状態に設定することができ、かつ、加熱が終了した後に電源回路8がオン状態になることはなく、安全性が確保できる。
【0039】
なお、インサート材4が挿入されていない状態では高周波誘導加熱装置(図示せず)の電源回路8はオフのままであり、圧接は行われない。以上により、IH圧接作業の自動化および品質の管理を実現することができる。
【0040】
(まとめ)
上述したように、インサート材を保持するための保持部を備えた固定治具を、筋材の圧接部分に留めた場合に、保持されているインサート材が圧接面間に案内されるので、柱や梁等のIH圧接箇所において、インサート材を適切な位置に設置することができる。
【0041】
また、上述した固定治具を用いた圧接継手工法によれば、圧接面の圧接の際に、電気的導通によってインサート材の設置有無を検出でき、圧接作業の品質管理を適切に行うことができる。
【符号の説明】
【0042】
1、2 筋材
3 固定治具
4 インサート材
5 導線
6 ピークホールド回路
7 リレースイッチ回路
8 電源回路
11、21 端面
30 支持部
31a、31b 操作部
32a、32b 把持部
33 板バネ部
41 突出部
R1、R2 抵抗素子
Tr1 トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧接対象となる第1及び第2の筋材の間に挿入されるインサート材の固定治具であって、圧接の際に圧接面間に挿入されるインサート材を保持するための保持部を備え、前記第1の筋材の端部に留めた状態において、前記保持部に保持されている前記インサート材が前記圧接面間に案内されることを特徴とするインサート材の固定治具。
【請求項2】
開閉可能であり、閉状態において第1の筋材への把持が可能な把持部を備え、
前記保持部は、前記把持部によって前記第1の筋材の端部に留めた状態において、前記インサート材の主面が前記第1の筋材の端面に対向する位置に位置するように前記インサート材を保持することを特徴とする請求項1に記載のインサート材の固定治具。
【請求項3】
前記把持部は支点を中心に開閉可能であり、
前記保持部の一端は前記支点の位置に固定されており、前記保持部の他端と前記把持部との間に前記インサート材が保持されることを特徴とする請求項2に記載のインサート材の固定治具。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の固定治具を用いた圧接継手工法であって、
前記固定治具を前記第1の筋材の端部に留めることによって、前記第1の筋材の端面と前記第2の筋材の端面との間に、前記インサート材を挿入するステップと、前記第2の筋材の端面を前記インサート材に接触させ、第1の筋材の端面と第2の筋材の端面との間に前記インサート材が挟み込まれた状態にするステップと、前記第1の筋材の端面および第2の筋材の端面ならびこれらに挟み込まれた前記インサート材を保持する前記固定治具に接続されている導線に関する電気的導通の検出有無を確認するステップとを含み、前記第1の筋材の端面と前記第2の筋材の端面との間に、前記インサート材が設置されているか否かを検出するようにしたことを特徴とする圧接継手工法。
【請求項5】
前記第1の筋材および前記第2の筋材と前記導線との電気的導通が検出できた場合に、前記第1の筋材の端面と前記第2の筋材の端面とを圧接するための装置の電源をオン状態にすることを特徴とする請求項4に記載の圧接継手工法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−148331(P2012−148331A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10412(P2011−10412)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】