説明

インジウムの回収方法

【課題】インジウム含有溶液からインジウムを高い回収率で効率的且つ安価に回収するインジウムの回収方法を提供する。
【解決手段】不純物としてZn、AlおよびFeの少なくとも一種を含有するインジウム含有溶液のpHを1以上に調整し、インジウム含有溶液の温度を60℃以下、好ましくは30℃以下に保持して、このインジウム含有溶液に微量の銅化合物を添加して銅イオンを存在させるとともに、亜鉛末(Zn末)を添加して置換反応させた後に、固液分離することによってインジウムを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウムの回収方法に関し、特に、インジウム含有溶液からインジウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウム(In)は、InPやInAsなどの金属間化合物からなるIII−V族化合物半導体の原料や、錫をドープした酸化インジウム(ITO)からなる透明導電性薄膜の原料として利用されている。特に、ITOは、液晶ディスプレイ(LCD)、タッチパネル、太陽電池、調光ガラスなどの透明電極や、凍結防止膜などに幅広く利用されている。
【0003】
近年、液晶ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイの普及に伴って、その電極に用いられる透明導電膜の需要が急速に拡大しており、ITOの原料であるインジウムの需要が非常に高まっている。
【0004】
しかし、インジウムには主たる鉱石がなく、工業的には、亜鉛製錬において副生する中和石膏に濃縮されたインジウムを回収することによって生産されている。この中和石膏には、インジウムの他に、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)などの金属不純物が多く含まれており、また、これらの金属不純物以外にも微量に含まれる成分の種類が多い。
【0005】
一般に、亜鉛製錬において副生する中和石膏からインジウムを回収するために、中和石膏を硫酸で浸出してインジウム含有溶液とした後にインジウムを回収している。この浸出は、一般に硫酸濃度を20〜40g/Lにして行われ、得られたインジウム含有溶液には、25〜40g/LのZn、10〜20g/LのAl、5〜15g/LのFeが含まれている。
【0006】
従来、インジウム含有溶液からインジウムを濃縮して回収する方法として、(1)インジウム含有溶液のpHを調整することによってインジウムの水酸化物として沈殿させる方法、(2)インジウム含有溶液に硫化剤を添加することによってインジウムの硫化物として沈殿させる方法、(3)インジウム含有溶液に金属Al、Zn、Cd、Zn−Cd合金などを添加することによってインジウムを置換析出させる方法、(4)溶媒抽出によってインジウムを回収する方法(例えば、特許文献1参照)、(5)イオン交換法によってインジウムを回収する方法などが知られている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−91838号公報(段落番号0013−0018)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記(1)の方法は、金属イオンの水酸化物を生成するpH領域の相違を利用する方法であり、例えば、ZnおよびAlとInとを分離してInを濃縮・回収する方法として、pHを12以上にすることによって、ZnおよびAlを溶解し、Inを水酸化物として沈殿させて回収する方法が知られている。しかし、この方法によって生成したInの水酸化物は、濾過性が極めて悪いため、濾過設備が大きくなり、操作も長時間になるという問題がある。また、この方法では、インジウム含有溶液からFeを分離できないという問題もある。さらに、この方法では、インジウム含有溶液がZnやAlを多量に含む場合には、消費するアルカリ薬剤の量が非常に多くなり、コスト的にも不利である。
【0009】
上記(2)の方法は、金属硫化物の溶解度積の相違を利用する方法であるが、インジウム含有溶液が様々な金属不純物を含む場合には、純度の低い硫化物が大量に発生する。これらの硫化物は一般に濾過性が悪く、また、得られたInを浸出する場合に、硫酸だけでは完全に浸出することができないという問題がある。
【0010】
上記(3)の方法は、インジウムより卑な金属をインジウム含有溶液に添加して、置換によってInをスポンジとして回収する方法であるが、Zn、Al、Feなどの卑な元素との分離は容易であるが、In自体が卑であるため、回収率が悪いという問題がある。
【0011】
上記(4)および(5)の方法では、Inと分離する不純物によっては、前処理に負担がかかり、また、ランニングコストが高いという問題がある。
【0012】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、インジウム含有溶液からインジウムを高い回収率で効率的且つ安価に回収するインジウムの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、上記の(3)の方法、すなわち、インジウムより卑な金属をインジウム含有溶液に添加してインジウムを置換析出させる方法において、インジウム含有溶液に微量の銅イオンの存在下において亜鉛末(Zn末)を添加して置換反応させることにより、インジウム含有溶液の液電位が著しく低下し、液中の残留In濃度が極端に低下して、置換効率が著しく向上することを見出し、特に、インジウム含有溶液中のZn、Al、Feなどの濃度が高い場合であっても、インジウム含有溶液からZn、Al、Feなどの卑な元素を容易に分離してインジウムを高い回収率で効率的且つ安価に回収することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明によるインジウムの回収方法は、インジウム含有溶液に銅イオンの存在下で亜鉛末を添加した後に固液分離することを特徴とする。このインジウムの回収方法において、インジウム含有溶液に銅化合物を添加することによってインジウム含有溶液に銅イオンを存在させるのが好ましい。また、インジウム含有溶液のpHを1以上に調整するのが好ましく、インジウム含有溶液の温度を60℃以下に保持するのが好ましく、30℃以下に保持するのがさらに好ましい。また、インジウム含有溶液がZn、AlおよびFeの少なくとも一種を含有してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、インジウム含有溶液中のZn、Al、Feなどの濃度が高い場合であっても、インジウム含有溶液からZn、Al、Feなどの卑な元素を容易に分離してインジウムを高い回収率で効率的且つ安価に回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明によるインジウムの回収方法の実施の形態では、不純物としてZn、AlおよびFeの少なくとも一種を含有するインジウム含有溶液のpHを1以上に調整し、インジウム含有溶液の温度を60℃以下、好ましくは30℃以下に保持して、このインジウム含有溶液に微量の銅化合物を添加して銅イオンを存在させるとともに、亜鉛末(Zn末)を添加して置換反応させた後に、固液分離することによってインジウムを回収する。このように、インジウム含有溶液に微量の銅イオンの存在下においてZn末を添加して置換反応させることによって、インジウム含有溶液の液電位が著しく低下し、液中の残留In濃度が極端に低下して、置換効率が著しく向上する。
【0017】
インジウム含有溶液に添加する銅化合物は、硫酸銅や塩化銅などの易溶性の塩であれば、どのような銅化合物でもよく、すなわち、インジウム含有溶液に溶ければ、どのような銅化合物でもよく、酸化銅でもよい。この銅化合物は、中性から弱酸性下でインジウム含有溶液に溶かしてイオンとする。添加するCuの量は、添加するZn末の量が数g/L程度であれば、インジウム含有溶液中のCuの量が10〜20mg/L程度で液電位の低下が認められ、60〜80mg/L程度またはそれ以上で液電位が−1000mv前後(Ag/AgCl電極基準)に達する。
【0018】
上記の置換反応の際のpHは、pH1以下であると、Zn末の自然溶解(Zn+HSO=ZnSO+H)や、置換されたInスポンジの再溶解が進み易くなり、置換効率が悪くなるので、pH1以上であるのが好ましい。一方、pHの上限は、AlやZnが水酸化物として析出するまで高くすることができるが、置換の進行とともにpHが上昇する傾向があるので、置換終了の際のpHが、上記の水酸化物の析出pHより低いのが好ましい。なお、pHの調整に使用するアルカリ剤としては、NaOHやKOHを使用するのが好ましい。
【0019】
また、置換反応の温度が高いとZn末の自然溶解とInスポンジの再溶解が進み易くなるので、反応温度は、低いほどよく、30℃以下であるのが好ましい。また、置換反応は、反応温度が高いと短時間で終了し、反応温度が低いと終了まで長時間を要するが、この反応は、液電位の低下が定常になった時点で終了したとみなすことができる。また、この反応の際に、空気を巻き込まない程度の強さで攪拌するのが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明によるインジウムの回収方法の実施例について詳細に説明する。
【0021】
[実施例1]
インジウム含有溶液として、557mg/LのIn、35.1g/LのZn、12.4g/LのAl、6.8g/LのFeを含む硫酸酸性溶液0.9Lを用意し、この溶液にNaOH溶液を添加してpHを2.2に調整し、溶液の温度を55℃に保持した。この溶液に試薬硫酸銅(Cuとして90mg/L)を添加して溶解させた後、3.5gのZn末を添加して反応を開始させた。なお、この反応中、空気を巻き込まない程度の強さで溶液を攪拌した。
【0022】
この反応中の液電位(Ag/AgCl電極基準)の推移を図1に示す。図1から、液電位がほぼ定常になった12分経過時点で反応が終了しているのがわかる。そこで、12分経過後にC濾紙を用いて吸引濾過したところ、濾液中のIn濃度が35mg/Lであり、インジウムの回収率が93.7%であった。
【0023】
[比較例1]
インジウム含有溶液に硫酸銅を添加しなかった以外は実施例1と同様に反応させた。この反応中の液電位(Ag/AgCl電極基準)の推移を図1に示す。図1から、液電位がほぼ定常になった60分経過時点で反応が終了しているのがわかる。そこで、60分経過後にC濾紙を用いて吸引濾過したところ、濾液中のIn濃度が84mg/Lであり、インジウムの回収率が84.9%であった。
【0024】
[実施例2]
溶液の温度を27℃に保持した以外は実施例1と同様に反応させた。この反応中の液電位(Ag/AgCl電極基準)の推移を図2に示す。図2から、液電位がほぼ定常になった35分経過時点で反応が終了しているのがわかる。そこで、35分経過後にC濾紙を用いて吸引濾過したところ、濾液中のIn濃度が4mg/Lであり、インジウムの回収率が99.3%であった。
【0025】
[比較例2]
インジウム含有溶液に硫酸銅を添加しなかった以外は実施例2と同様に反応させた。この反応中の液電位(Ag/AgCl電極基準)の推移を図2に示す。図2から、液電位が漸次低下傾向を示し、定常電位になっていないのがわかる。この結果から、インジウム含有溶液中に銅イオンを存在させない場合には、溶液の温度が低いと反応速度が著しく低下して、実操業的には適用不可能であると判断される。そこで、120分経過後にC濾紙を用いて吸引濾過したところ、濾液中のIn濃度が139mg/Lであり、インジウムの回収率が75.0%であった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1および比較例1の反応時間に対する液電位(Ag/AgCl電極基準)の変化を示すグラフである。
【図2】実施例2および比較例2の反応時間に対する液電位(Ag/AgCl電極基準)の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム含有溶液に銅イオンの存在下で亜鉛末を添加した後に固液分離することを特徴とする、インジウムの回収方法。
【請求項2】
前記インジウム含有溶液に銅化合物を添加することによって前記インジウム含有溶液に銅イオンを存在させることを特徴とする、請求項1に記載のインジウムの回収方法。
【請求項3】
前記インジウム含有溶液のpHを1以上に調整することを特徴とする、請求項1または2に記載のインジウムの回収方法。
【請求項4】
前記インジウム含有溶液の温度を60℃以下に保持することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のインジウムの回収方法。
【請求項5】
前記インジウム含有溶液がZn、AlおよびFeの少なくとも一種を含有することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載のインジウムの回収方法。

【図1】
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【図2】
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