説明

インジウム含有物からのインジウム硫化方法、及びインジウム回収方法

【課題】 硫化剤の反応効率が高く、インジウムの分離性が飛躍的に改善され、かつ、硫化剤添加量の削減、剰余硫化剤除害設備の縮小、及び該除害設備におけるNaOH使用量の削減が可能なインジウム含有物からのインジウム硫化方法、及びインジウム回収方法を提供する。
【解決手段】 インジウムを含む酸溶液から、インジウムを回収する方法において、前記酸溶液の酸化還元電位が−20mVを超えて300mVとなるまで、NaSH及びNaSの少なくともいずれかを添加し、前記酸溶液からインジウムを硫化物として沈殿させることを特徴とするインジウム含有物からのインジウム硫化方法である。該硫化沈殿方法による工程を含むことを特徴とするインジウム回収方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウム含有物からインジウム硫化物を沈殿濃縮するインジウム硫化方法、及び該硫化沈殿方法を含むインジウム含有物からのインジウム回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウム(In)は、III−V族化合物半導体としてInP、InAs等の金属間化合物に、あるいは錫をドープした酸化インジウム(ITO)として、透明導電性薄膜の代表的な材料に利用されている。該ITOは、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、タッチパネル、太陽電池、調光ガラスの透明電極、及び凍結防止膜など幅広く利用されている。
【0003】
近年、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの普及に伴い、電極に用いられる透明導電膜の需要が急速に拡大しており、ITO原料であるインジウムの需要が非常に高まっている。
【0004】
元来、インジウムには主たる鉱石がなく、工業的には亜鉛製錬、鉛製錬の副産物、例えば、ばい煙中に濃縮されたインジウムを回収することにより生産されている。したがってインジウム回収の原料は、Zn(亜鉛)、Fe(鉄)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)、As(砒素)、Cd(カドミウム)等の金属不純物を多く含んでおり、またこれら金属成分以外にも微量に含まれる成分の種類が多い。
【0005】
したがって、これら金属不純物を除去し、高純度のインジウムを回収するには複雑な工程が必要となり、一般に上記インジウムの回収工程は、(A)pH(水素イオン指数)調整により水酸化物として沈殿させる方法、(B)硫化剤の添加により硫化物として沈殿させる方法、(C)金属Al、Zn、Cd、Zn−Cd合金等の添加により置換析出させる方法、(D)溶媒抽出によってインジウムを回収する方法、(E)イオン交換法によるインジウムの回収方法、等の化学精製と、電解製錬法との組み合わせにより行なわれていた。しかしながら、これらいずれの化学精製方法においても、不純物金属の分離が不十分であるため、これと組み合わせる電解製錬方法も簡便な電解採取法(水溶液中に目的金属を浸出させておき不溶性の陽極を用いて電気分解し、一挙に陰極に高純度の金属を得る)を採用できず、煩雑な電解精製法(粗金属を陽極に、高純度金属を陰極において電気分解して精製を行なう)を採用せざるを得なかった。
【0006】
この問題に対し、インジウム含有物を酸で浸出処理し、得られた浸出液に酸化還元電位を調整しながら硫化剤を添加して銅等のインジウム以外の金属を沈殿除去し、得られたインジウム含有水溶液に硫化剤を添加してインジウムを硫化物として沈殿濃縮させ、回収したIn硫化物に硫酸酸性下でSOガスを吹き込むことによりインジウムを選択的に浸出させ、得られたインジウム含有浸出液のpHと溶存SO濃度とを調整した後、金属粉を添加してインジウムスポンジを置換析出させ、該インジウムスポンジを塩酸で浸出し、得られた浸出液に硫化剤を添加してカドミウム等の残留金属イオンを沈殿除去し、得られた電解元液を電解して高純度の金属インジウムを得る方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
前記特許文献1に記載の方法では、インジウムを硫化物として沈殿濃縮させる工程において、硫化剤(HS、NaSH)を硫酸と同時に添加する方法が採られている。
しかしながら、硫酸と硫化剤との同時添加により、HSを発生させて硫化を行う気相反応であることから、高い反応効率が得られにくい。また、環境に対する安全面から、硫化剤使用量の削減、ロスした硫化剤を系外に排出しないための除害設備の縮小、並びに除害設備におけるNaOH使用量削減が求められているのが現状である。
【0008】
また、硫化剤の反応は、インジウムとの反応効率が高く、かつインジウム以外の金属との反応が抑制されることがより望まれている。インジウム硫化処理後の工程における影響が少ないからである。
よって、硫化剤の反応効率が高く、特にインジウムとの反応効率が高く、インジウムの分離性が飛躍的に改善され、かつ、硫化剤添加量の削減、剰余硫化剤除害設備の縮小、及び該除害設備におけるNaOH使用量の削減が可能なインジウム含有物からのインジウム硫化方法、及びインジウム回収方法は、未だ満足なものが提供されておらず、さらなる改良が求められているのが現状である。
【0009】
【特許文献1】特許第3602329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、硫化剤の反応効率が高く、インジウムの分離性が飛躍的に改善され、かつ、硫化剤添加量の削減、剰余硫化剤除害設備の縮小、及び該除害設備におけるNaOH使用量の削減が可能なインジウム含有物からのインジウム硫化方法、及びインジウム回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> インジウムを含む酸溶液から、インジウムを回収する方法において、前記酸溶液の酸化還元電位が−20mVを超えて300mVとなるまで、NaSH及びNaSの少なくともいずれかを添加し、前記酸溶液からインジウムを硫化物として沈殿させることを特徴とするインジウム含有物からのインジウム硫化方法である。
<2> インジウムを含む酸溶液が、インジウム含有物を酸で浸出処理し、得られた酸浸出液の酸化還元電位を+50〜320mVに調整しながら硫化剤を添加し、前記酸浸出液から銅等の不純物を除去して得た脱銅液である前記<1>に記載のインジウム含有物からのインジウム硫化方法である。該<2>に記載のインジウム硫化方法においては、前記硫化剤のインジウムに対する高い反応率に加え、さらに前記酸溶液中に亜鉛、砒素等の不純物が含まれる場合においても、インジウムをより選択的に反応せしめることができる。
<3> インジウムを含む酸溶液からインジウムを硫化物として沈殿させる処理が、20℃を超えて60℃未満の温度条件下で行われる前記<1>から<2>のいずれかに記載のインジウム含有物からのインジウム硫化方法である。該<3>に記載のインジウム硫化方法においては、硫化剤の高反応率に加え、さらに前記酸溶液中に亜鉛、砒素等の不純物が含まれる場合においても、インジウムを選択的に反応せしめることができる。
<4> インジウムを含む酸溶液が、亜鉛を含んでなる前記<1>から<3>のいずれかに記載のインジウム含有物からのインジウム硫化方法である。
<5> NaSH及びNaSを同時に添加する前記<1>から<4>のいずれかに記載のインジウム含有物からのインジウム硫化方法である。
<6> 実質的に硫酸を添加しない前記<1>から<5>のいずれかに記載のインジウム含有物からのインジウム硫化方法である。
【0012】
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載のインジウム硫化方法による硫化沈殿工程を少なくとも含むことを特徴とするインジウム回収方法である。
<8> (1)インジウム含有物を酸で浸出処理し、インジウムと共に酸に可溶な金属を溶解する酸浸出工程と、
(2)前記(1)の工程で得られた酸浸出液にAg/AgCl電極使用で酸化還元電位を+50〜320mVに調整しながら硫化剤を添加し、Cu等のIn以外の金属を沈殿除去するCu等除去工程と、
(3)前記(2)の工程で得られたインジウムを含む酸溶液(脱銅液)を、前記<1>から<6>のいずれかに記載のインジウム硫化方法により処理する硫化沈殿工程と、
(4)前記(3)の工程で得られたインジウム硫化物に硫酸酸性下でSO2ガスを吹き込むことによりInを選択的に浸出するSO2浸出工程と、
(5)前記(4)の工程で得られたインジウム含有浸出液のpHを1〜3.5の範囲内に調整し、空気吹き込みによって該インジウム含有浸出液中に溶存するSO2の濃度を0.05〜0.3g/Lに調整した後、金属粉を添加し、インジウムスポンジを置換析出させる置換析出工程と、
(6)浸出液のpHが0.5〜1.5の範囲内、かつAg/AgCl電極使用で酸化還元電位が−400〜−500mVの範囲内となるように塩酸を添加して前記(5)の工程で得られたインジウムスポンジを浸出する塩酸浸出工程と、
(7)前記(6)の工程で得られたインジウム浸出液に硫化剤を添加し、Cd等の残留金属イオンを沈殿除去して電解元液を得るCd等除去工程と、
(8)前記(7)の工程で得られた電解元液を電解して高純度の金属インジウムを得る電解採取工程と、からなる前記<7>に記載のインジウム回収方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、硫化剤の反応効率が高く、インジウムの分離性が飛躍的に改善され、かつ、硫化剤添加量の削減、剰余硫化剤除害設備の縮小、及び該除害設備におけるNaOH使用量の削減が可能なインジウム含有物からのインジウム硫化方法、及びインジウム回収方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(インジウム含有物からのインジウム硫化方法、及びインジウム回収方法)
本発明のインジウム含有物からのインジウム硫化方法は、インジウム(In)含有物を酸で浸出処理し、不純物を除去して得たインジウム、亜鉛、及び砒素を含む酸溶液(脱銅液)に対し、Ag/AgCl電極を用いて酸化還元電位を測定しながら、該酸化還元電位が−20mVを超えて300mVとなるまで、NaSH及びNaSの少なくともいずれかを添加し、前記脱銅液からインジウムを硫化物として沈殿させる方法である。
本発明のインジウム回収方法は、本発明の前記インジウム硫化方法を少なくとも含み、適宜選択したその他の工程を含む。
なお、本発明の前記インジウム硫化方法は、本発明の前記インジウム回収方法の説明を通じて明らかにする。
【0015】
前記インジウム含有物(原料)としては、インジウムを含有する限り、特に制限はなく、例えば、亜鉛精錬や鉛精錬において生成する副生産物等が挙げられる。
以下、本発明の前記インジウム回収方法の工程の流れの一例として、前記インジウム含有物として、湿式亜鉛精錬において副生する中和石こうを用いた場合について、図1を参照しながら説明する。
【0016】
<(1)酸浸出工程>
前記酸浸出工程(1)は、前記インジウム含有物を酸で浸出処理し、インジウムと共に酸に可溶な金属を溶解し、酸浸出液を得る工程である。
浸出処理に使用する酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられ、コスト面から硫酸が好ましい。
【0017】
図1では、前記中和石こうを硫酸で浸出処理することにより、インジウムとともに、Cu、As、Al、Fe、Zn、Ga等の酸に可溶な不純物金属イオンが液中に浸出した酸浸出液が得られる。なお、前記酸浸出液は、不溶性石こうとのスラリーを形成している。
前記酸浸出処理により得られる前記酸浸出液の硫酸濃度としては、20〜40g/Lが好ましい。前記酸浸出液の硫酸濃度が20g/L未満であると、インジウムが沈殿することがあり、40g/Lを超えると、酸性が強くなりすぎて後工程に影響し、インジウムの回収率が低下することがある。
【0018】
<(2)Cu等除去工程>
前記Cu等除去工程(2)は、前記酸浸出工程(1)で得られた酸浸出液(スラリー)に、Ag/AgCl電極使用で酸化還元電位を+50〜320mVに調整しながら硫化剤を添加し、Cu、As等のIn以外の不純物を沈殿除去する工程である。
前記硫化剤としては、例えば、HS、NaSHが挙げられる。
なお、前記Cu等除去工程における前記酸浸出液の硫酸濃度としては、20〜40g/Lに調整することが好ましい。
【0019】
前記酸浸出工程(1)、及び前記Cu等除去工程(2)により、前記中和石こう中に含まれるインジウムの90%以上が硫酸酸性溶液中に移行する。
次いで、例えば、フィルタープレス等を用いて沈殿物(銅残渣)と、脱銅液とを固液分離する。この時、前記不溶性石こうが濾過助剤の働きをするため、一般には濾過性が悪い硫化物の濾過性が著しく改善される。
濾過により分離された前記銅残渣は、亜鉛製錬の本系統へ送られる。
得られた脱銅液の硫酸濃度は、20〜40g/Lであることが好ましい。
ここで銅を除去するのは、次の工程において、銅の含有量が少ないことが好ましいためであり、該銅の含有量としては、1質量ppm以下であることが好ましい。
【0020】
<(3)硫化沈殿工程>
本発明の前記硫化沈殿工程(3)は、得られた前記脱銅液に対し、Ag/AgCl電極を用いて酸化還元電位を測定しながら、該酸化還元電位が−20mVを超えて300mVとなるまで、NaSH及びNaSから選択される硫化剤(ただし、硫酸を除く)を添加し、インジウムを硫化物として沈殿させる工程である。
該硫化沈殿工程(3)においては、硫酸を添加しない。
【0021】
前記(2)の工程で得られた前記脱銅液の酸化還元電位は300mV程度であり、該酸化還元電位は、硫化剤の添加により低下していく。前記酸化還元電位が−20mV以下であると、Znの沈殿も著しく、インジウム選択性に乏しくなるため、前記酸化還元電位は−20mVを超えて300mVまでの範囲とする。
【0022】
前記硫化沈殿工程(3)は、20℃を超えて60℃未満の温度条件下で行われることが好ましい。20℃以下であると、インジウム選択性が低下することに加え、フィルタープレス等での濾過性が悪化することがある。また、60℃以上ではIn選択性が低下することがある。さらに、この温度範囲とすることにより、冷却設備が不要となるため好ましい。
【0023】
前記(3)の工程後、フィルタープレス等を用いて固液分離し、硫化物として沈殿したインジウム(硫化インジウム)を回収し、液中に残るZn、Fe、Al、Ga等の不純物を含む濾液(硫化后液)を分離除去する。
なお、沈殿物中のインジウム回収率は95%以上である。
濾液(硫化后液)は排水系統へ送られる。
【0024】
<(4)SO浸出工程>
前記SO浸出工程(4)は、前記(3)の工程で得られた硫化インジウムに対し、硫酸酸性下でSOガスを吹き込むことによりInを選択的に浸出する工程である。
前記SOガスを吹き込みながら、酸化力を適度にコントロールすることにより、Inは浸出しつつ他の不純物の浸出を抑えることができる。
【0025】
前記(4)の工程後、フィルタープレス等を用いて固液分離し、インジウムの90質量%以上が液中に移行したインジウム含有浸出液を回収し、ケーキ(硫黄残渣)を分離除去する。前記ケーキ(硫黄残渣)は、亜鉛製錬の本系統へ送られる。
【0026】
<(5)置換析出工程>
前記置換析出工程(5)は、前記(4)の工程で得られたインジウム含有浸出液のpHを1〜3.5の範囲内に調整し、空気吹き込みによって該インジウム含有浸出液中に溶存するSOの濃度を0.05〜0.3g/Lに調整した後、金属粉を添加し、インジウムスポンジを置換析出させる工程である。
【0027】
前記インジウム含有浸出液のpHは、アルカリ(例えば、苛性ソーダ等)で中和することにより1〜3.5の範囲に調整する。pHが1より低いと、置換剤として加える金属粉(例えば、亜鉛末)の使用量が過剰に必要となり、pHが3.5を超えると、インジウムが水酸化物を生成してしまうことがある。
【0028】
前記金属粉としては、インジウムよりイオン化傾向の大きい金属の粉末が挙げられ、例えば、亜鉛末等が挙げられる。前記金属粉を添加することにより、インジウムスポンジを置換析出させる。
【0029】
前記(5)の工程後、フィルタープレス等を用いて、前記インジウムスポンジと、置換后液を固液分離する。
なお、前記(4)の工程において、浸出にSOを使用しているため、前記インジウム含有浸出液中には、SOが溶存しているが、該溶存しているSO濃度を0.05〜0.3g/Lにコントロールすることにより、置換析出される前記インジウムスポンジの塊状化を防止することができ、粉状のインジウムスポンジを得ることができる。
前記置換后液は、前記硫化沈殿工程(3)における反応液中に添加されて繰り返し使用される。
【0030】
<(6)塩酸浸出工程>
前記塩酸浸出工程(6)は、前記(5)の工程で得られたインジウムスポンジを、浸出液のpHが0.5〜1.5の範囲内、かつAg/AgCl電極使用で酸化還元電位が−400〜−500mVの範囲内にあるように塩酸を添加して塩酸浸出する工程である。
【0031】
前記(6)の工程後、フィルタープレス等を用いて、インジウムの90質量%以上が液中に移行したインジウム浸出液と、浸出残分(スポンジ滓)とを固液分離し、前記インジウム浸出液を回収する。
前記浸出残分(スポンジ滓)には、Cd、Pb、Ni、As等の微量金属が濃縮され、前記インジウム浸出液から除去される。なお、該浸出残分(スポンジ滓)は、前記(4)の工程において添加され、繰り返し処理される。
【0032】
<(7)Cd等除去工程>
前記Cd等除去工程(7)は、前記(6)の工程で得られたインジウム浸出液に硫化剤を(例えば、HSガス)添加し、Cd、As等の残留金属イオンを沈殿除去して電解元液を得る工程である。
前記(7)の工程後、フィルタープレス等を用いて、インジウムの90質量%以上が液中に移行した脱Cd液と、ケーキ(カドミ残渣)とを固液分離し、前記脱Cd液を、電解元液として回収する。なお、前記ケーキ(カドミ残渣)は、前記(4)の工程において添加され、繰り返し処理される。
【0033】
<(8)電解採取工程>
前記電解採取工程(8)は、前記(7)の工程で得られた前記電解元液を電解して高純度の金属インジウムを得る工程である。
電解は、例えば、アノードにDSA(寸法適格陽極)、カソードにTi板を用いて行ない、これにより高純度の金属インジウムが得られる。
【0034】
本発明のインジウム回収方法は、本発明のインジウム硫化方法を含み、硫化剤の反応効率が高く、インジウムの分離性が飛躍的に改善され、かつ、硫化剤添加量の削減、剰余硫化剤除害設備の縮小、及び該除害設備におけるNaOH使用量の削減が可能である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1〜4)
亜鉛精錬において発生した残渣を、特許第3602329号公報に記載の方法で処理し、脱銅工程により得られた前記脱銅液4Lを撹拌機で撹拌し、Ag/AgCl電極を用いて酸化還元電位を測定しながら、該酸化還元電位が−25〜300mVとなるまで、NaSHを定量添加した。温度条件は、それぞれ20℃、40℃、60℃、80℃とし、2時間反応を行った。
反応終了後、得られたスラリーを濾過し、濾液を硫化后液とした。
NaSHの添加量、反応効率、各元素の濃度、及びインジウム選択性を、それぞれ表2に示す。
【0037】
<反応効率>
前記反応効率(%)は下記式により求めた値である。
(反応効率)=〔(Y(As)+Y(In)+Y(Zn))/(添加NaSH量)〕×100
【0038】
前記反応効率は、硫化反応式と、液中のNaSH減少量から求めた反応に必要なNaSH量を、実際に添加したNaSH量で除したものであり、以下の考え方に基づく。
・As1molをAsにするのにNaSHは3/2mol必要
・In1molをInにするのにNaSHは3/2mol必要
・Zn1molをZnSにするのにNaSHは1mol必要
であることから、それぞれX(As)グラム、X(In)グラム、X(Zn)グラム沈殿したとすると(液量4Lなので元液と后液の濃度差×4)、それぞれが消費したNaSH量Y(As)、Y(In)、及びY(Zn)は
・Y(As)=X(As)/75×(3/2)×56=1.16×X(As)
・Y(In)=X(In)/115×(3/2)×56=0.73×X(In)
・Y(Zn)=X(Zn)/65×1×56=0.86×X(Zn)
となる。
ただし、As=75、In=115、Zn=65、NaSH=56である。
【0039】
(比較例1)
実施例1において、硫化剤としてNaSHとHSOとを同時に添加し、硫化反応における温度条件を65℃とした以外は実施例1と同様にしてインジウムの硫化沈殿処理を行った。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果から、実施例1〜4の硫化方法では、従来の比較例1の硫化方法よりも、硫化剤の反応効率が高く、同じ反応を得るのに硫化剤の添加量が少なくてすむことがわかる。特に、硫化后液のインジウム含有量が極めて低く、工程内で発生するインジウムロスを著しく低減可能であることがわかった。また、保持温度を40℃とすることにより、従来法と同等のインジウム選択性が得られ、かつインジウムロスを低減可能であることがわかった。このことから、本発明の硫化方法によれば、発生する剰余硫化剤は激減し、排ガス処理にかかる薬剤費の大幅な削減が可能となることが明らかになった。
【0042】
また、硫化剤としてNaSHのみを添加した実施例1〜4に対し、硫化剤としてNaSHとNaSと同時に添加して同様に行った場合においても、高いインジウム選択性と、硫化后液中のインジウムロスの低減効果が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のインジウム含有物からのインジウム硫化方法、及びインジウム回収方法は、硫化剤の反応効率が高く、インジウムの分離性が飛躍的に改善され、かつ、硫化剤添加量の削減、剰余硫化剤除害設備の縮小、及び該除害設備におけるNaOH使用量の削減が可能であるため、工業的なインジウムの回収方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明のインジウム回収方法における各工程の流れを説明した概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウムを含む酸溶液から、インジウムを回収する方法において、前記酸溶液の酸化還元電位が−20mVを超えて300mVとなるまで、NaSH及びNaSの少なくともいずれかを添加し、前記酸溶液からインジウムを硫化物として沈殿させることを特徴とするインジウム含有物からのインジウム硫化方法。
【請求項2】
インジウムを含む酸溶液からインジウムを硫化物として沈殿させる処理が、20℃を超えて60℃未満の温度条件下で行われる請求項1に記載のインジウム含有物からのインジウム硫化方法。
【請求項3】
インジウムを含む酸溶液が、亜鉛を含んでなる請求項1から2のいずれかに記載のインジウム含有物からのインジウム硫化方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のインジウム硫化方法による硫化沈殿工程を少なくとも含むことを特徴とするインジウム回収方法。
【請求項5】
(1)インジウム含有物を酸で浸出処理し、インジウムと共に酸に可溶な金属を溶解する酸浸出工程と、
(2)前記(1)の工程で得られた酸浸出液にAg/AgCl電極使用で酸化還元電位を+50〜320mVに調整しながら硫化剤を添加し、Cu等のIn以外の金属を沈殿除去するCu等除去工程と、
(3)前記(2)の工程で得られたインジウムを含む酸溶液(脱銅液)を、請求項1から3のいずれかに記載のインジウム硫化方法により処理する硫化沈殿工程と、
(4)前記(3)の工程で得られたインジウム硫化物に硫酸酸性下でSOガスを吹き込むことによりInを選択的に浸出するSO浸出工程と、
(5)前記(4)の工程で得られたインジウム含有浸出液のpHを1〜3.5の範囲内に調整し、空気吹き込みによって該インジウム含有浸出液中に溶存するSOの濃度を0.05〜0.3g/Lに調整した後、金属粉を添加し、インジウムスポンジを置換析出させる置換析出工程と、
(6)浸出液のpHが0.5〜1.5の範囲内、かつAg/AgCl電極使用で酸化還元電位が−400〜−500mVの範囲内となるように塩酸を添加して前記(5)の工程で得られたインジウムスポンジを浸出する塩酸浸出工程と、
(7)前記(6)の工程で得られたインジウム浸出液に硫化剤を添加し、Cd等の残留金属イオンを沈殿除去して電解元液を得るCd等除去工程と、
(8)前記(7)の工程で得られた電解元液を電解して高純度の金属インジウムを得る電解採取工程と、からなる請求項4に記載のインジウム回収方法。

【図1】
image rotate