説明

インジェクション装置

【課題】細胞シャーレが収容されたインジェクション装置のチャンバ容器本体内を常時最適な細胞培養環境下に維持することのできるインジェクション装置を提供する。
【解決手段】インジェクション装置1のチャンバ容器本体50は、上部側筐体10の内部でXY方向に移動制御するXYステージ56上に搭載され、上部側筐体10に形成された開口部11の上板ガイド15の開口部16には、XY方向には固定され、Z方向には移動可能となる上板プレート90が設けられ、チャンバ容器本体50は、上板プレート90に対して、XYステージ56のXY方向への移動時に、チャンバ容器本体50が上板プレート90の下面に対して摺動可能となるように配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、薬液を充填した微細な中空のガラス針(キャピラリ針)を細胞に突き刺して、当該薬液を細胞に導入するインジェクション装置に関し、特に、細胞シャーレを収納するチャンバ容器内を最適な細胞培養環境とすることができるインジェクション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、ラフサイエンス分野、特に、再生医療やゲノム創薬などの分野において、薬液(Injectant)が充填されたキャピラリ針を細胞に突き刺し、このキャピラリ針中の薬液を細胞に導入するインジェクション装置が知られている。
【0003】
このようなインジェクション装置によるインジェクションの場合、導入する薬液と導入される細胞の組合せを選ばず、遺伝子やたんぱく質、化合物を確実に細胞に導入できるという優れた長所があるため、遺伝子の導入による人工多能性幹細胞(IPS細胞)の作成やタンパク質の導入による機能解析などへの応用が期待されている。
【0004】
この種のインジェクション装置を使用した細胞へのマイクロインジェクション技術として、特許文献1には、通常の温度、湿度、大気の環境下に細胞シャーレを登載し、キャピラリ針で細胞内に薬液を導入するインジェクション装置が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
ここで、特許文献1に開示されている従来のインジェクション装置の場合、細胞の生育に適した環境下ではない通常の室内の温度、湿度、大気中に細胞シャーレをさらしているため、インジェクション操作を行う時間は15分程度に限られ、インジェクション可能な細胞数も100個程度が限界である。
【0006】
そこで、上述したインジェクション操作に関する問題点を解消すべく、例えば、特許文献2、3には、インジェクション装置のシャーレ搭載台に小型チャンバの内部を加熱などにより細胞培養環境状態に制御する小型チャンバ容器を搭載し、長時間のインジェクション操作を可能にするインジェクション装置について開示されている。
【0007】
このように、小型チャンバ容器の内部の温度を温空気とすることにより細胞の培養に最適な温度環境(細胞培養環境状態)とすることができる。
【0008】
また、例えば、特許文献4には、試薬投入用の開口を有する上部壁は容器本体とは一定の隙間をあけて分離固定されたインジェクション装置について開示されている。
【0009】
[従来のインジェクション装置の構成]
ここで、図6を用いて、上述した従来の小型チャンバ容器内の温度を細胞培養環境状態としているインジェクション装置1aの概要について説明する。図6は、従来のインジェクション装置1aの全体構成図を示している。
【0010】
図6に示すように、インジェクション装置1aは、全体が略直方体状の筐体本体20aの内部に細胞シャーレ30が配置されたチャンバ容器本体50aを搭載している。
【0011】
また、チャンバ容器本体50aは、周囲に位置する壁柱部51aと、この壁柱部51aの底板部55aと、細胞シャーレ30を搭載するシャーレ搭載台53とを備えている。また、チャンバ容器本体50aの底板にはXYステージ56aをXY方向(図6の左右方向)に移動するXY可動台55aが連結固定されている。
【0012】
すなわち、XYステージ56aの作動によりXY可動台55aがXY方向に移動するため、このXY可動台55aに連結されたチャンバ容器本体50aもXY方向に移動可能となっている。
【0013】
また、チャンバ容器本体50aにはキャピラリ針81を挿通させる開口部91aが形成された上板プレート90aが嵌合固定されている。また、加湿器54により水蒸気が発生するようになっている。
【0014】
上述した従来のインジェクション装置1aの場合、細胞シャーレ30内の細胞の観察は、顕微鏡60の観察部61で行なうとともに、チャンバ容器本体50aの上方に設けた3軸マニピュレータ80によりキャピラリ針81を開口部91aに挿通させ、インジェクション対象エリアの範囲でXY方向に移動させることにより複数の細胞に対するインジェクションを行なうことができる。
【0015】
また、このチャンバ容器本体50a内の温度保持やCO2濃度ガスの供給は、チャンバ制御ユニット(図示せず)による加熱やCO2濃度ガスの送出により行ない、これにより、チャンバ容器本体50a内の温度を細胞培養環境状態とするようにしている。
【0016】
【特許文献1】特開2004−141143号公報
【特許文献2】特開2005−331862号公報
【特許文献3】特開2007−140155号公報
【特許文献4】特開2005−198565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところが、上述した従来の加熱温度を制御したインジェクション装置の場合、以下に示す問題がある。すなわち、チャンバ容器本体50aの上板プレート90aには、キャピラリ針81を挿入するための開口部91aが必要となる。
【0018】
そして、この開口部91aの寸法は、細胞シャーレ30内に配置された細胞にインジェクションするためには、細胞が分布する領域とほぼ同じ大きさの幅寸法t´(約10〜15mm)が必要となる。
【0019】
ところが、このように開口部91aの幅寸法を大きくした場合には、開口部91aを介して、チャンバ容器本体50a内の温空気や水蒸気の漏れが発生したり、CO2ガスの漏出量が増加することとなり、これによって、チャンバ容器本体50a内を最適な細胞培養環境下に維持することができないという問題が生じている。
【0020】
そこで、この発明は、上述した従来技術による問題点を解決するためになされたものであり、チャンバ容器本体内を最適な細胞培養環境下に維持することができるインジェクション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
開示のインジェクション装置のチャンバ容器本体は、第一の筐体の内部でXY方向に移動可能となるように配置されたXY移動機構上に搭載されるとともに、針を挿入する通孔が形成された上板プレートは、第一の筐体の開口部に対して、XY方向(左右方向)に固定され、Z方向(高さ方向)には移動可能となるように静置された状態で設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
インジェクション装置のチャンバ容器本体は、第一の筐体の内部でXY方向に移動可能となるように配置されたXY移動機構上に搭載されるとともに、チャンバ容器本体は、上板プレートに対して、XY移動機構のXY方向への移動時に、当該チャンバ容器本体の上面部が上板プレートの下面部に対して摺動可能となるので、針を挿入する上板プレートの通孔の幅寸法を小通孔とすることができ、これによって、最大限の範囲の細胞へのインジェクションを可能とすることができる。
【0023】
また、チャンバ容器本体の上板プレートに形成された通孔を通じて内部の温空気や水蒸気が漏出することがないため、培養チャンバ容器内を好適な細胞培養環境とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、この発明に係るインジェクション装置の実施例1を詳細に説明する。なお、以下では、本実施例1に係るインジェクション装置の特徴および構成を説明し、これに続いて、このインジェクション装置によるインジェクション処理の詳細を説明することとする。
【0025】
ここで、図1は、実施例1に係るインジェクション装置を示す全体構成図である。また、図2は、実施例1に係るチャンバ容器本体のXY移動による上板の上下移動を説明する図を、図3は、図1のインジェクション装置の要部を示す拡大図を、図4は、図3とは別の細胞に対するインジェクションをそれぞれ説明する説明図である。
【実施例1】
【0026】
[インジェクション装置1の構成]
図1に示すように、インジェクション装置1は、上部側筐体10と下部側筐体20とを備えており、このうち上部側筐体10の内部には、細胞シャーレ30が配置されたチャンバ容器本体50が設けられ、下部側筐体20の内部には、細胞シャーレ30内の細胞を観察するための倒立型の観察装置(顕微鏡60)が設けられている。なお、細胞シャーレ30の内部には複数の細胞a、b(図3、4)を含む細胞懸濁液が貯留されている。
【0027】
ここで、インジェクション対象となる細胞が培養されている細胞シャーレ30の寸法は、外径35mm程度のものを使用することとする。また、この細胞シャーレ30を収容するためのチャンバ容器本体50の外形寸法は、約100mm程度のものを使用することとする。
【0028】
さらに、このチャンバ容器本体50の容積は、できるかぎり小さいことが望ましく、従って、このチャンバ容器本体50の高さ寸法は、細胞シャーレ30の高さに5〜10mm程度加算させた寸法となる。
【0029】
また、図1に示すように、チャンバ容器本体50と上板プレート90とにはチャンバ制御ユニット70が接続されており、このチャンバ容器本体50内の温度および湿度、CO2濃度は、チャンバ容器本体50に接続されたチャンバ制御ユニット70により行われる。
【0030】
すなわち、チャンバ容器本体50の壁柱部40と底板部52および上板プレート90の内部に設けられた透明ヒータ(図示せず)に対する加熱制御を行うとともに、チャンバ容器本体50の送出管71を通じて送出されるCO2ガス(5%濃度)の供給制御を通孔42を介して行っている。また、細胞に対するキャピラリ針81の突き刺し(軸方向への突き出し)は、3軸マニピュレータ80の作動により行なわれる。
【0031】
また、チャンバ容器本体50の壁柱部40には加熱用ヒータ(図示せず)が内蔵されており、このチャンバ容器本体50の内部にはシャーレ搭載台53と加湿器54とがそれぞれ設置されている。
【0032】
また、チャンバ容器本体50の内部に設けられたシャーレ搭載台53には、隣接して加湿器54が設置されており、この加湿器54は、水槽に満たされた水をヒータで適温(36〜37℃)まで加熱し水蒸気を発生させることができる。
【0033】
下部側筐体20は、全体が略直方体状の箱体からなり、この下部側筐体20の内方部は、開口部21となっており、この開口部21から顕微鏡60の観察筒部61が延出するように顕微鏡60が配置されている。また、上部側筐体10の上方には、キャピラリ針81を微動させインジェクションを行なうための3軸マニピュレータ80が配置されている。
【0034】
上部側筐体10は、全体が略直方体状の箱体からなり、この上部側筐体10の内方部に形成された開口部11には、上板プレート90を静置させるための上板ガイド15が嵌合固定されている。すなわち、この上板ガイド15の内方部に形成された開口部16が上板プレート90を静置させるための嵌合部となる。
【0035】
チャンバ容器本体50は、このチャンバ容器本体50の筐体周囲に位置する壁柱部40と、この壁柱部40の下方に固設された底板部52と、細胞シャーレ30を搭載するシャーレ搭載台53とを備えている。
【0036】
また、壁柱部40の底板部52にはXYステージ56のXY可動台55が連結固定されている。XYステージ56は、XY移動制御部(図示せず)によりXY可動台55をXY方向(図1の左右方向)に移動させることができる。
【0037】
すなわち、XYステージ56の作動によりXY可動台55がXY方向に移動するため、このXY可動台55に底板部52を介して連結されたチャンバ容器本体50もXY方向に移動可能となっている。実際には、チャンバ容器本体50の壁柱部40の上面41(図3、4)が上板プレート90の下面92と摺接しながら移動することとなる。
【0038】
また、チャンバ容器本体50の上面部には、上板プレート90が上板ガイド15に対してXY方向(図2、3の左右方向)に拘束される構成で静置される。すなわち、上部側筐体10に形成された開口部11には、上板ガイド15が嵌合固定されるとともに、この上板ガイド15に形成された開口部16には、XY方向(図2、3の左右方向)に固定されるとともに、Z方向(図1、2の上下方向)に移動可能な上板プレート90が載置されている。なお、この上板プレート90の内部には細胞環境を暖めるための透明ヒータ(図示せず)が敷設されている。
【0039】
すなわち、細胞シャーレ30内の細胞にインジェクションする場合、細胞の位置を顕微鏡60により観測したのち、XYステージ56の作動(移動)により、細胞シャーレ30をキャピラリ針81の位置にまで移動し、その後、キャピラリ針81を3軸マニピュレータ80により軸方向に突き出すことで細胞に突き刺すこととなる。
【0040】
この際、上述したように、上板プレート90は、チャンバ容器本体50に対するXY方向には、上板ガイド15の周囲に動くことなく拘束(固定)されているため、チャンバ容器本体50が上板プレート90に対してXY方向に摺動移動することとなる。
【0041】
すなわち、図2に示すように、上板プレート90は、チャンバ容器本体50の上板ガイド15の開口部16に対して静置されているだけなので、チャンバ容器本体50の上面が多少傾斜していても追従して作動するように安定しており、これにより、チャンバ容器本体50がXY移動する場合にも多少Z方向に上下動をしながらチャンバ容器本体50との隙間を常に最小限に保持することができる。
【0042】
以上説明したインジェクション装置1によれば、細胞シャーレ30内の培養液中に配置された全ての細胞に対してインジェクションを行なう場合にも、上板プレート90とキャピラリ針81のXY方向との位置関係は変化しないため、上板プレート90の開口部91は、キャピラリ針81を容易に挿入させるのに必要な大きさ(寸法)とすることができる。
【0043】
具体的には、この上板プレート90に形成された開口部91は、直径が約2〜3mmと極めて小さくすることができる。このため、開口部91を通じて、チャンバ容器本体50内の温空気や水蒸気が漏出することがなくなるため、この結果、常時、チャンバ容器本体50内を最適な細胞培養環境に保持することができる。
【0044】
すなわち、上記インジェクション操作中に、上板プレート90は、上板ガイド15により拘束されているためXY方向には移動することはなく、キャピラリ針81とのXY方向の位置関係は、ほぼ一定に保たれるため、上板プレート90に形成されたキャピラリ針81用の開口部91は、キャピラリ針81の直径(約1mm)と若干のマージン±1mm程度を加えた大きさ(直径2〜3mm)で十分となる。そのため、チャンバ容器本体50の内部の雰囲気を細胞培養環境(温度37℃、湿度90%以上、CO2濃度5%)に保持することを容易に行なうことができる。
【0045】
ここで、従来の細胞培養環境下でない状態でのインジェクションでは、細胞の生存力(viability)に顕著な影響が出ない時間範囲(約15分程度)しかインジェクションができなかったため、インジェクション装置1によるインジェクション可能な細胞数は、100個程度が限界であった。
【0046】
そのため、適用できる実験には大きな制約があったが、本実施例1で示したインジェクション装置1の場合、上板プレート90に形成されたキャピラリ針81を挿通させる開口部91(図2)の幅寸法tを極めて小さくすることができるため、長時間(例えば、5時間程度)のインジェクション操作も可能となり、これによって、2000個程度の細胞に対するインジェクションが可能となる。この結果、インジェクション装置1による実験の適用範囲を著しく拡大することができる。
【0047】
[インジェクション装置1によるインジェクション手順]
上述で示した本実施例1のインジェクション装置1により細胞に対するインジェクションを行なう場合には以下の手順で行なう。
【0048】
すなわち、(1)先ず、細胞インキュベータから細胞が培養されている細胞シャーレ30を取り出し、チャンバ容器本体50の上板ガイド15に載せてある上板プレート90を、この上板ガイド15から取り外して、細胞シャーレ30をシャーレ搭載台53に設置・固定する。
【0049】
次に、(2)上板プレート90を上板ガイド15内に落とし込み、この上板プレート90をチャンバ容器本体50の上面に静置する。そして、細胞シャーレ30内の細胞を顕微鏡60で観測して、目的とする細胞を視野の中央に移動し、キャピラリ針81を、3軸マニピュレータ80により軸方向に突き出し薬液吐出を行うことにより細胞内への薬液導入を行なう。
【0050】
次に、(3)細胞に対するインジェクションを行なったならば、別の細胞を対象として同じ操作を繰り返す。具体的に説明すると、図3に示すように、細胞aにキャピラリ針81によりインジェクションを行なった後、続いて、この細胞aの隣接した位置にある細胞bに対して、インジェクションを行なう場合には、図4に示すように、XYステージ56を片側(図4の右側)に移動させ、細胞シャーレ30に配置された細胞bをキャピラリ針81の下方に配置させ、インジェクションを行なうこととなる。
【0051】
そして、一連の細胞インジェクションが完了した後、細胞シャーレ30をチャンバ容器本体50の内部に搭載した時の逆の手順で細胞シャーレ30を取り出し、直後、若しくは、一旦、インキュベータで適当期間培養した後、以下、薬液導入による細胞の反応を観測することになる。
【0052】
以上説明したように、本実施例1によれば、インジェクション装置1のチャンバ容器本体50は、上部側筐体10の内部でXY方向に移動可能となるように配置されたXYステージ56上に搭載され、上部側筐体10に形成された開口部11の上板ガイド15の開口部16には、XY方向には固定され、Z方向には移動可能となる板プレートが設けられ、チャンバ容器本体50は、上板プレート90に対して、XYステージ56のXY方向への移動時に、チャンバ容器本体50の上面部が上板プレート90の下面部に対して摺動可能となるように配設されるので、インジェクション装置1による細胞への薬液導入操作に要する時間的制約が解消されるとともに、インジェクション可能な細胞数を飛躍的に増大させることが可能となる。具体的には、例えば、薬液導入細胞の0.5%程度しか目的の反応が起こらないとされる実験でも、10個程度の細胞に対する反応観測を期待することができる。
【実施例2】
【0053】
次に、図5を用いて実施例2に係るインジェクション装置1Aについて説明する。図5は、実施例2に係るインジェクション装置1Aの全体構成図を示している。
【0054】
ここで、前述した実施例1のインジェクション装置1と本実施例2のインジェクション装置1Aとは、上部側筐体10に上板プレートユニット100を設けた点に相違があり、その他の構成については同一なため、同一部分の詳細な説明は省略する。
【0055】
図5に示すように、本実施例2は、実施例1で示した上板プレート90をユニット構成として、さらに上板プレートユニット100を圧縮スプリング120による一定の圧力でチャンバ容器本体50の上面部に押し付ける機構が追加されたものである。
【0056】
すなわち、同図に示すように、本実施例2のインジェクション装置1Aでは、チャンバ容器本体50を内部に備えた上部側筐体10の上部を閉塞する上板プレート90を上板プレートユニット100としている。
【0057】
すなわち、同図に示すように、上部側筐体10の片側(図5の左側)に設けられた回動軸(図示せず)を中心として、この上板プレートユニット100が開閉自在となっている。また、上板プレートユニット100を構成する上板鍔部110の両端側内方部には圧縮スプリング120を設けるとともに、この上板鍔部110の取り付け凸部111は、チャンバ容器本体50の上部側筐体10の上面に固設した取り付け部17の嵌合凹部18に嵌合可能となっている。
【0058】
これにより、上板プレートユニット100は、開閉可能であるとともに、チャンバ容器本体50に対して圧縮スプリング120によりチャンバ容器本体50側に圧縮スプリング120により押圧された状態とすることができる。
【0059】
以上説明したように、本実施例2のインジェクション装置1Aは、実施例1で示した上板プレート90をユニット構成とし、この上板プレートユニット100を圧縮スプリング120による一定の圧力でチャンバ容器本体50の上面部に押し付けているので、上板プレート90とチャンバ容器本体50との密着性が向上するとともに、上板プレートユニット100を取り出す作業やチャンバ容器本体50側に装着させる作業を不要とすることができる。これによって、細胞シャーレ30搭載や取り出し作業が容易になるためインジェクション作業全体の効率向上を図ることができる。
【0060】
(他の実施例)
ここで、以上説明した実施例1、2では、チャンバ容器本体50を上部側筐体10の内部でXY方向に移動する構成としているが、これ以外にも、例えば、チャンバ容器本体50は、固定として、細胞を内部に配置している細胞シャーレ30自体を、チャンバ容器本体50の内部でXY方向に移動するようにしてもよい。
【0061】
この場合、チャンバ容器本体50を上部側筐体10の内部でXY方向に移動することで実施例1と同様に、上板プレート90に形成する開口部91の幅寸法を大きくする必要がなくなるため、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0062】
以上の実施例1、2を含む実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0063】
(付記1)チャンバ容器本体の内部に収容したシャーレ内の細胞に対して上板プレートに形成された通孔を通じて、微細な針により目的物を注入するインジェクション装置であって、
前記インジェクション装置は、
前記チャンバ容器本体を包囲する第一の筐体と、当該第一の筐体の下側に位置し、前記目的物の注入を観察する顕微鏡が配置される第二の筐体とを備え、
前記チャンバ容器本体は、前記第一の筐体の内部でXY方向に移動可能となるように配置されたXY移動機構上に搭載され、
前記上板プレートは、
前記第一の筐体に形成された開口部において、当該開口部に対してXY方向には固定されるとともに、Z方向には移動可能となるように静置されることを特徴とするインジェクション装置。
【0064】
(付記2)前記チャンバ容器本体は、
前記上板プレートに対して、前記XY移動機構によるXY方向への移動時に、前記チャンバ容器本体の上面部が前記上板プレートの下面部に対して摺動可能となるように配設されたことを特徴とする付記1に記載のインジェクション装置。
【0065】
(付記3)前記上板プレートに形成された通孔の幅寸法は、前記針の径寸法よりも僅かに大きい寸法となるように設定されていることを特徴とする付記1または2に記載のインジェクション装置。
【0066】
(付記4)前記上板プレートに形成された通孔に対する前記針の傾斜角度および前記細胞に対する前記針の突き刺し傾斜角度は、所定の固定傾斜角度に設定されていることを特徴とする付記3に記載のインジェクション装置。
【0067】
(付記5)前記チャンバ容器本体の内部に収容したシャーレを搭載するシャーレ搭載台は、前記XY移動機構により、XY方向に移動可能であることを特徴とする付記1〜4の何れか一つに記載のインジェクション装置。
【0068】
(付記6)前記上板プレートの一端部には、前記第一の筐体の一端部に設けられた回動手段と連結する連結部が設けられるとともに、前記上板プレートは、前記連結部により回動自在に構成されていることを特徴とする付記5に記載のインジェクション装置。
【0069】
(付記7)前記上板プレートの両端部には圧縮スプリングを備え、当該上板プレートは、前記チャンバ容器本体に対して圧縮スプリングにより当該チャンバ容器本体に形成された開口部に押圧された状態で嵌合されることを特徴とする付記6に記載のインジェクション装置。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例1に係るインジェクション装置を示す全体構成図である。
【図2】実施例1に係るチャンバ容器本体のXY移動による上板の上下移動を説明する図である。
【図3】図1のインジェクション装置の要部を示す拡大図である。
【図4】図3とは別の細胞に対するインジェクションを説明する説明図である。
【図5】本実施例2に係るインジェクション装置の全体構成図である。
【図6】従来のインジェクション装置を示す全体構成図である。
【符号の説明】
【0071】
1、1a、1A インジェクション装置
10 上部側筐体
15 上板ガイド
20 下部側筐体
30 細胞シャーレ
40 壁柱部
41 上面
42 通孔
50 チャンバ容器本体
53 シャーレ搭載台
54 加湿器
55 XY可動台
56 XYステージ
60 顕微鏡
70 チャンバ制御ユニット
80 3軸マニピュレータ
90 上板プレート
91 開口部
92 下面
100 上板プレートユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ容器本体の内部に収容したシャーレ内の細胞に対して上板プレートに形成された通孔を通じて、微細な針により目的物を注入するインジェクション装置であって、
前記インジェクション装置は、
前記チャンバ容器本体を包囲する第一の筐体と、当該第一の筐体の下側に位置し、前記目的物の注入を観察する顕微鏡が配置される第二の筐体とを備え、
前記チャンバ容器本体は、前記第一の筐体の内部でXY方向に移動可能となるように配置されたXY移動機構上に搭載され、
前記上板プレートは、
前記第一の筐体に形成された開口部において、当該開口部に対してXY方向には固定されるとともに、Z方向には移動可能となるように静置されることを特徴とするインジェクション装置。
【請求項2】
前記チャンバ容器本体は、
前記上板プレートに対して、前記XY移動機構によるXY方向への移動時に、前記チャンバ容器本体の上面部が前記上板プレートの下面部に対して摺動可能となるように配設されたことを特徴とする請求項1に記載のインジェクション装置。
【請求項3】
前記上板プレートに形成された通孔の幅寸法は、前記針の径寸法よりも僅かに大きい寸法となるように設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のインジェクション装置。
【請求項4】
前記上板プレートの一端部には、前記第一の筐体の一端部に設けられた回動手段と連結する連結部が設けられるとともに、前記上板プレートは、前記連結部により回動自在に構成されていることを特徴とする請求項3に記載のインジェクション装置。
【請求項5】
前記上板プレートの両端部には圧縮スプリングを備え、当該上板プレートは、前記チャンバ容器本体に対して圧縮スプリングにより当該チャンバ容器本体に形成された開口部に押圧された状態で嵌合されることを特徴とする請求項4に記載のインジェクション装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−254298(P2009−254298A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108239(P2008−108239)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】