インナーワイヤ及びワイヤ撚線機
【目的】 多数の金属素線に対する撚り合せと表面のダイス成形とを同時に行なえるワイヤ撚線機を提供する。
【構成】 撚り口ダイス12と巻取り装置13の間に、弓形の回転体15と前後の仮撚装置16、17を配置し、回転体15と前側の仮撚装置16の間に、撚線aを摩擦ローラ30に巻取る張力受け装置28を設ける。撚り口ダイス12において金属素線の撚り合せと表面のしごき加工を行ない、そのダイス成形によって撚線aに付加される張力を摩擦ローラ30で受け止める。摩擦ローラ30から引き出した撚線aは、弓形の回転体15に通して二度撚りし、巻取リール33に連続して巻き取る。
【構成】 撚り口ダイス12と巻取り装置13の間に、弓形の回転体15と前後の仮撚装置16、17を配置し、回転体15と前側の仮撚装置16の間に、撚線aを摩擦ローラ30に巻取る張力受け装置28を設ける。撚り口ダイス12において金属素線の撚り合せと表面のしごき加工を行ない、そのダイス成形によって撚線aに付加される張力を摩擦ローラ30で受け止める。摩擦ローラ30から引き出した撚線aは、弓形の回転体15に通して二度撚りし、巻取リール33に連続して巻き取る。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、二輪車のブレーキ操作等に用いられるインナーワイヤと、そのワイヤを製造するための撚線機に関するものである。
【0002】
【従来の技術及びその課題】自転車のブレーキ装置においては、ブレーキレバーに連結したインナーワイヤをガイドチューブ内に摺動させてブレーキパッド等を作動させる構造がとられているが、このようなチューブ内でのインナーワイヤの動きに引掛かり等があると、ブレーキの操作性が著しく悪くなるため、上記インナーワイヤには、滑らかにチューブ内を摺動できる摺動特性が求められる。
【0003】また、上記インナーワイヤには、ブレーキ操作に十分に耐え得る破断強度と、小径で軽量である特性が求められる。
【0004】従来のインナーワイヤは、図10に示すように中央の金属素線43の回りに、Z字状に複数の金属素線44を撚り合せて下撚り層41を形成し、その下撚り層41の回りにS字状に複数の金属素線45を撚り合せて上撚り層42を形成する方法で製作されており、通常2回の撚り工程を経て製作されている。
【0005】しかし、上記のような従来のインナーワイヤは、金属素線をそのまま撚り合せて形成されているため、上撚り層42の表面に金属素線45の撚り形状が露出し、ワイヤ表面が凹凸の激しい形状になっている。このため、インナーワイヤとチューブ間での摺動に引掛かりが生じやすく、ブレーキ等の操作性が悪い問題があった。
【0006】また、Z字状とS字状に異なった撚り方をされる金属素線44、45同士が点接触の状態となり、素線44、45の間に空隙46が生じやすいため、所要の破断強度を得るのに必要な本数の素線を撚り合せた場合、ワイヤの断面径が大きくなりやすい不具合がある。
【0007】さらに、2回の撚り工程によりワイヤを形成する方法では、製造に時間がかかり、また、ワイヤ製作に複数の撚線機が必要になるため、製造コストが高くつく問題がある。
【0008】一方、上記のような問題に対処するため、撚線の外径をダイス成形してワイヤ表面から凹凸をなくし、また、1つの撚線機で複数の金属素線を同時に撚り合せてワイヤを形成する方法が考えられる。
【0009】ところが、従来のインナーワイヤは、図10R>0のようにZ字撚りとS字撚りされる内外の金属素線44、45同士が点接触状態となるため、ダイス成形と同時に金属素線を組み合せる場合、素線の接触部にずれ等が生じやすく、ワイヤ表面が正確な真円形になりにくい問題がある。
【0010】また、従来、複数の金属素線を同時に撚り合せるワイヤ撚線機として、図11に示すように撚り口51と巻取り装置52の間に弓形の回転体53を設け、撚り口51から引き出した撚線aを弓形の回転体53に通して回転させることにより二度撚りする撚線機があるが、この撚線機においては、撚り口51にダイスを設け、金属素線の表面をダイスで強制的にしごいて成形しようとした場合、ダイスから撚線を引抜く時の抵抗によって撚線に大きな張力が作用する。
【0011】すなわち、上記ワイヤ撚線機においては、巻取り装置52の引取キャプスタン54を一定速度で回転させると、引取キャプスタン54に巻き付けられた撚線の摩擦力により撚線が一定ピッチで引取られるが、この引取りによって撚口ダイスから引取キャプスタン54の間で撚線aがダイス成形時の引抜き張力を受けることになる。
【0012】ところが、上記構造の撚線機では、高速回転する回転体53の慣性重量を小さくするため、弓形の回転体53の厚みを小さくし、強度的に比較的脆弱に形成されているため、撚線に大きな張力が作用した場合、回転体53の変形が問題になる。
【0013】特に、10数本の金属素線をダイス成形と同時に撚り合せようとした場合、増大する撚線の張力が弓形の回転体53の耐久強度を越える場合がある。
【0014】この発明は、上述した問題を解決するためになされたもので、その第1の目的は、1回の撚り工程で形成でき、摺動特性に優れると共にワイヤの小径化や軽量化も実現できるインナーワイヤを提供することである。
【0015】また、この発明の第2の目的は、多数の金属素線をダイス成形と同時に安定して撚り合せることができるワイヤ撚線機を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】上記第1の目的を達成するため、この発明のインナーワイヤは、複数の金属素線をダイスに通すと同時に同じ撚り長さで撚り合せ、その撚り合せにより中央の素線の回りに所定数の素線からなる下撚り層と、その下撚り層の倍数の素線からなる上撚り層を形成し、この上撚り層の表面形状を、ダイス成形した素線の組合せによって略真円形に形成したのである。
【0017】また、第2の目的を達成するため、この発明のワイヤ撚線機は、撚り口と巻取り装置の間に、撚線を通す弓形の回転体を設け、その回転体の前又は後或いは前後に仮撚装置を配置し、撚り口から引き出した撚線を弓形の回転体で回転させて二度撚りし、上記仮撚装置により撚線の金属素線に弾性限界を超える捩れを加えるワイヤ撚線機において、上記撚り口に、撚線の表面を真円形に成形するダイスを設け、上記弓形の回転体の前側に、ダイス成形によって撚線に加わる張力を受け止める張力の受け手段を設けた構造としたのである。
【0018】
【作用】上記のインナーワイヤにおいては、下撚り層と上撚り層の金属素線を同じ撚り長さで撚り合せるので、上下の素線同士が線接触の状態となり、素線の接触部で位置ずれが生じにくい。このため、上撚り層にダイス成形した素線を正確に位置決めすることができ、ワイヤの表面を真円形で維持することができる。
【0019】また、この発明のワイヤ撚線機では、ダイス成形によって撚線に加わる張力を、回転体の前側に配置した張力の受け手段で受け止め、弓形の回転体に余分な張力が加わらないため、多数の金属素線をダイス成形と同時に撚り合せることができる。
【0020】
【実施例】図1及び図2は、実施例のインナーワイヤを示している。このインナーワイヤ1は、中央の金属素線4の回りに、6本の金属素線5をS字状に撚り合せて下撚り層2を形成し、その下撚り層2の回りに、12本の金属素線6、7をS字状に撚り合せて上撚り層3を形成している。
【0021】上記インナーワイヤ1を形成する全ての金属素線4、5、6、7は、ダイスを通すと同時に撚り合されており、下撚り層2の金属素線4には、同一の径をもつ同じ種類の素線が使用されている。
【0022】また、上撚り層3を形成する金属素線は、径の異なる2種類の金属素線6、7を組み合せて形成され、この両金属素線6、7は、円周方向に交互に組み合された状態でその外径面がダイスによってしごき加工され、表面がほぼ真円形の形状に形成されている。
【0023】この実施例のインナーワイヤ1は、表面が真円形状で凹凸が無いので、ガイドチューブ内部を滑らかに摺動することができ、ブレーキ装置の操作等に使用した場合にスムーズで良好な操作性を発揮する。
【0024】また、下撚り層2の金属素線5と上撚り層3の金属素線6、7は、共にS字状に同じ撚り長さで撚り合されているため、各素線同士が撚り方向に沿って線接触する。このため、外力が作用しても上下の金属素線の接触部でずれが生じにくく、真円形である上撚り層3の表面形状が安定して維持される。
【0025】さらに、全ての金属素線4、5、6、7が線接触して撚り合されるため、各素線同士が密着して相互間に無駄な空隙ができず、図9に示す従来のインナーワイヤに比べてワイヤ断面に占める素線の断面積割合が大きくなる。このため、同じワイヤの破断強度を得ようとした場合に、従来のインナーワイヤに対してワイヤの断面を小さく形成でき、ワイヤの小径化を図ることができる。
【0026】なお、上記の例では、各金属素線5、6、7をS字状に撚り合せたが、Z字状に同じ撚り長さで撚り合せるようにしても同じ作用効果が得られる。
【0027】一方、図3乃至図9は、上記インナーワイヤ1を製造するための実施例のワイヤ撚線機を示している。
【0028】このワイヤ撚線機は、前端部に、図示省略してあるサプライボビンから引き出された複数の金属素線を集合させるための目板ダイス11と、各金属素線を撚り合せると共にその撚線の外径を成形する撚り口ダイス12とを備え、後端部に、撚線を連続して巻取る巻取り装置13が設けられている。
【0029】上記撚り口ダイス12は、図4に示すように中央にストレートなしごき孔14を有し、撚り合された撚線がそのしごき孔14を通過すると、撚線の上撚り層における金属素線の外径面がしごかれ、ワイヤ表面が真円形に成形されるようになっている。
【0030】この撚り口ダイス12と巻取り装置13の間には、撚線が通される弓形の回転体15が配置され、その弓形の回転体15の前後に、それぞれ仮撚装置(オーバーツイスタ)16と17が配置されている。
【0031】上記弓形の回転体15は、前後にガイドローラ18、19を備え、その回転体15の表面に撚線を通した状態で回転体15が回転すると、撚線aがガイドローラ18、19において捩られ、二度撚りされる。
【0032】上記仮撚装置16、17は、撚線の金属素線に弾性限界分のねじれに相当する撚りを付加するものであり、金属素線のねじれ状態を定着させ、素線の撚り合せの強制的な戻りを防止する機能がある。
【0033】前側の仮撚装置(前OT)16は、図5に示すように、撚線機の駆動モータと接続する駆動軸20に歯車やベルト等の伝達機構21を介して連結する回転軸22を備え、その回転軸22に筒状ケース23を一体に設け、その筒状ケース23に前後に並列する2個のローラ24、25を回転可能に取付けて形成されており、撚り口ダイス12から引き出した撚線を後側のローラ25から前側のローラ24に交互に掛け回した後、仮撚装置16の後方へ送り出している。
【0034】このように撚線の掛け回した状態で筒状ケース23が回転すると、公転するローラ24、25を通過する間に撚線aには大きな捩れが加えられ、各金属素線に弾性限界以上の撚りが加えられる。
【0035】また、後側の仮撚り装置(後OT)17は、図3に示すように、前OTと同様に、撚線機の駆動軸に連動して回転する2個のローラ26、27を上下に配置し、そのローラ26、27に撚線aを掛け回した状態でローラ26、27が公転することにより、撚線に余分な捩れを与えるようになっている。
【0036】上記前後の仮撚装置16、17においては、駆動軸20に対する各ローラ24、25又は26、27を変えることにより撚線に加える捩れ量の大きさが変化し、金属素線に対する捩り比率をそれぞれ独立して任意に変化させることができる。
【0037】一方、前側の仮撚装置16と弓形の回転体15の間には、回転体15に加わる撚線の張力を軽減させるための張力受け装置28が設けられている。
【0038】この張力受け装置28は、図6乃至図9に示すように、撚線機の駆動軸20に連結するロータ29と、そのロータ29の内部で支持される摩擦ローラ30を備え、この摩擦ローラ30を複数の歯車から成る変速機31を介して駆動軸20に連結し、撚線aを摩擦ローラ30の表面に2〜3重に巻き回した後、弓形の回転体15に送り出している。
【0039】上記の張力受け装置28では、ロータ29を前側の仮撚装置の回転に対して同速又は増速回転させ、それに内蔵される摩擦ローラ30を引取キャプスタン32の引出し速度と同速又は増速して回転させ、その状態で摩擦ローラ30の表面に撚線を巻取ることにより、ローラと撚線の間に生じる摩擦抵抗によって撚線を引取キャプスタン32の引出し速度と同速又は増速させて送り出している。
【0040】これにより、撚り口ダイス12と張力受け装置28の間で撚線に生じる張力、すなわち撚線をダイス12から引き抜くことによって撚線に生じる大きな張力は、前側の仮撚装置16を介して摩擦ローラ30で受け止められ、ローラ30の後方側には伝わらない。一方、張力受け装置28から後側の撚線には、引取キャプスタンによって引取られる速度と同速又は増速回転された摩擦ローラ30から撚線が送り出されるため、弓形の回転体15にかかる負荷は極めて小さくなる。
【0041】実施例のワイヤ撚線機は上記のような構造であり、図1及び図2で示した19本の金属素線を同時撚りしたインナーワイヤ1を形成するには、各金属素線4、5、6、7をサプライボビンから連続して撚り口ダイス12に供給し、そのダイス12で各金属素線を撚り合せると共に外側の素線外径をしごき加工し、表面を真円形に成形した撚線aを引き出す。
【0042】この引き出した撚線aは、前側の撚線装置16において大きな捩りが加えられた後、張力受け装置28の摩擦ローラ30に引き取られ、ダイス12のしごき加工によって撚線に生じた張力が受け止められる。
【0043】次に、上記摩擦ローラ30から引き出された撚線は、弓形の回転体15の表面に通され、回転体15の回転により二度撚りされる。ついで後側の仮撚装置17で余分な捩りが加えられた後、引取キャプスタン32に引取られ、巻取リール33に連続して巻き取られる。
【0044】このように、上記のワイヤ撚線機では、複数の金属素線を撚り口ダイス12で同時に撚り合せると共に表面のしごき加工を行い、また、ダイス成形で撚線に生じる強い張力を張力受け装置28で受け止めて弓形の回転体15に伝えないので、19本の金属素線に対して撚り合せとダイス成形を同時にを行なうことができ、摺動特性の良いインナーワイヤ1を連続的に安定して製作することができる。
【0045】なお、上記の実施例では、弓形の回転体15の前後に仮撚装置16、17を設けたが、回転体15の前側又は後側だけに仮撚装置を設けるようにしてもよい。
【0046】
【効果】以上のように、この発明のインナーワイヤは、複数の金属素線を線接触させた状態で同時に撚り合せ、その撚線の表面を真円形に成形したので、表面に凹凸がなく素線同士にずれが生じないワイヤを形成でき、良好な摺動特性を安定して維持できるインナーワイヤを提供することができる。
【0047】また、1回の撚り工程でワイヤを形成でき、ワイヤの金属素線同士が密着してワイヤ断面を小さくできるので、製造コストの低減とワイヤの小径化を図ることができる。
【0048】一方、この発明のワイヤ撚線機は、ダイス成形で撚線に加わる張力を張力受け手段で受け止め、弓形の回転体に大きな張力が加わらないようにしたので、多数の金属素線の撚り合せとダイス成形を連続して行なうことができ、摺動特性の良いインナーワイヤを効率よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例のインナーワイヤの断面図
【図2】インナーワイヤの表面を示す図
【図3】実施例のワイヤ撚線機の模式図
【図4】同上の撚り口ダイスを示す断面図
【図5】前側の仮撚装置を示す正面図
【図6】仮撚装置と張力受け装置を示す平面図
【図7】同上の側面図
【図8】同上の正面図
【図9】(a)は張力受け装置の横断平面図、(b)は縦断正面図、(c)は縦断側面図
【図10】従来のインナーワイヤを示す断面図
【図11】従来のワイヤ撚線機を示す模式図
【符号の説明】
1 インナーワイヤ
2 下撚り層
3 上撚り層
4、5、6、7 金属素線
12 撚り口ダイス
13 巻取り装置
15 弓形の回転体
16 前側の仮撚装置
17 後側の仮撚装置
20 駆動軸
24、25、26、27 ローラ
28 張力受け装置
29 ロータ
30 摩擦ローラ
32 引取キャプスタン
33 巻取リール
a 撚線
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、二輪車のブレーキ操作等に用いられるインナーワイヤと、そのワイヤを製造するための撚線機に関するものである。
【0002】
【従来の技術及びその課題】自転車のブレーキ装置においては、ブレーキレバーに連結したインナーワイヤをガイドチューブ内に摺動させてブレーキパッド等を作動させる構造がとられているが、このようなチューブ内でのインナーワイヤの動きに引掛かり等があると、ブレーキの操作性が著しく悪くなるため、上記インナーワイヤには、滑らかにチューブ内を摺動できる摺動特性が求められる。
【0003】また、上記インナーワイヤには、ブレーキ操作に十分に耐え得る破断強度と、小径で軽量である特性が求められる。
【0004】従来のインナーワイヤは、図10に示すように中央の金属素線43の回りに、Z字状に複数の金属素線44を撚り合せて下撚り層41を形成し、その下撚り層41の回りにS字状に複数の金属素線45を撚り合せて上撚り層42を形成する方法で製作されており、通常2回の撚り工程を経て製作されている。
【0005】しかし、上記のような従来のインナーワイヤは、金属素線をそのまま撚り合せて形成されているため、上撚り層42の表面に金属素線45の撚り形状が露出し、ワイヤ表面が凹凸の激しい形状になっている。このため、インナーワイヤとチューブ間での摺動に引掛かりが生じやすく、ブレーキ等の操作性が悪い問題があった。
【0006】また、Z字状とS字状に異なった撚り方をされる金属素線44、45同士が点接触の状態となり、素線44、45の間に空隙46が生じやすいため、所要の破断強度を得るのに必要な本数の素線を撚り合せた場合、ワイヤの断面径が大きくなりやすい不具合がある。
【0007】さらに、2回の撚り工程によりワイヤを形成する方法では、製造に時間がかかり、また、ワイヤ製作に複数の撚線機が必要になるため、製造コストが高くつく問題がある。
【0008】一方、上記のような問題に対処するため、撚線の外径をダイス成形してワイヤ表面から凹凸をなくし、また、1つの撚線機で複数の金属素線を同時に撚り合せてワイヤを形成する方法が考えられる。
【0009】ところが、従来のインナーワイヤは、図10R>0のようにZ字撚りとS字撚りされる内外の金属素線44、45同士が点接触状態となるため、ダイス成形と同時に金属素線を組み合せる場合、素線の接触部にずれ等が生じやすく、ワイヤ表面が正確な真円形になりにくい問題がある。
【0010】また、従来、複数の金属素線を同時に撚り合せるワイヤ撚線機として、図11に示すように撚り口51と巻取り装置52の間に弓形の回転体53を設け、撚り口51から引き出した撚線aを弓形の回転体53に通して回転させることにより二度撚りする撚線機があるが、この撚線機においては、撚り口51にダイスを設け、金属素線の表面をダイスで強制的にしごいて成形しようとした場合、ダイスから撚線を引抜く時の抵抗によって撚線に大きな張力が作用する。
【0011】すなわち、上記ワイヤ撚線機においては、巻取り装置52の引取キャプスタン54を一定速度で回転させると、引取キャプスタン54に巻き付けられた撚線の摩擦力により撚線が一定ピッチで引取られるが、この引取りによって撚口ダイスから引取キャプスタン54の間で撚線aがダイス成形時の引抜き張力を受けることになる。
【0012】ところが、上記構造の撚線機では、高速回転する回転体53の慣性重量を小さくするため、弓形の回転体53の厚みを小さくし、強度的に比較的脆弱に形成されているため、撚線に大きな張力が作用した場合、回転体53の変形が問題になる。
【0013】特に、10数本の金属素線をダイス成形と同時に撚り合せようとした場合、増大する撚線の張力が弓形の回転体53の耐久強度を越える場合がある。
【0014】この発明は、上述した問題を解決するためになされたもので、その第1の目的は、1回の撚り工程で形成でき、摺動特性に優れると共にワイヤの小径化や軽量化も実現できるインナーワイヤを提供することである。
【0015】また、この発明の第2の目的は、多数の金属素線をダイス成形と同時に安定して撚り合せることができるワイヤ撚線機を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】上記第1の目的を達成するため、この発明のインナーワイヤは、複数の金属素線をダイスに通すと同時に同じ撚り長さで撚り合せ、その撚り合せにより中央の素線の回りに所定数の素線からなる下撚り層と、その下撚り層の倍数の素線からなる上撚り層を形成し、この上撚り層の表面形状を、ダイス成形した素線の組合せによって略真円形に形成したのである。
【0017】また、第2の目的を達成するため、この発明のワイヤ撚線機は、撚り口と巻取り装置の間に、撚線を通す弓形の回転体を設け、その回転体の前又は後或いは前後に仮撚装置を配置し、撚り口から引き出した撚線を弓形の回転体で回転させて二度撚りし、上記仮撚装置により撚線の金属素線に弾性限界を超える捩れを加えるワイヤ撚線機において、上記撚り口に、撚線の表面を真円形に成形するダイスを設け、上記弓形の回転体の前側に、ダイス成形によって撚線に加わる張力を受け止める張力の受け手段を設けた構造としたのである。
【0018】
【作用】上記のインナーワイヤにおいては、下撚り層と上撚り層の金属素線を同じ撚り長さで撚り合せるので、上下の素線同士が線接触の状態となり、素線の接触部で位置ずれが生じにくい。このため、上撚り層にダイス成形した素線を正確に位置決めすることができ、ワイヤの表面を真円形で維持することができる。
【0019】また、この発明のワイヤ撚線機では、ダイス成形によって撚線に加わる張力を、回転体の前側に配置した張力の受け手段で受け止め、弓形の回転体に余分な張力が加わらないため、多数の金属素線をダイス成形と同時に撚り合せることができる。
【0020】
【実施例】図1及び図2は、実施例のインナーワイヤを示している。このインナーワイヤ1は、中央の金属素線4の回りに、6本の金属素線5をS字状に撚り合せて下撚り層2を形成し、その下撚り層2の回りに、12本の金属素線6、7をS字状に撚り合せて上撚り層3を形成している。
【0021】上記インナーワイヤ1を形成する全ての金属素線4、5、6、7は、ダイスを通すと同時に撚り合されており、下撚り層2の金属素線4には、同一の径をもつ同じ種類の素線が使用されている。
【0022】また、上撚り層3を形成する金属素線は、径の異なる2種類の金属素線6、7を組み合せて形成され、この両金属素線6、7は、円周方向に交互に組み合された状態でその外径面がダイスによってしごき加工され、表面がほぼ真円形の形状に形成されている。
【0023】この実施例のインナーワイヤ1は、表面が真円形状で凹凸が無いので、ガイドチューブ内部を滑らかに摺動することができ、ブレーキ装置の操作等に使用した場合にスムーズで良好な操作性を発揮する。
【0024】また、下撚り層2の金属素線5と上撚り層3の金属素線6、7は、共にS字状に同じ撚り長さで撚り合されているため、各素線同士が撚り方向に沿って線接触する。このため、外力が作用しても上下の金属素線の接触部でずれが生じにくく、真円形である上撚り層3の表面形状が安定して維持される。
【0025】さらに、全ての金属素線4、5、6、7が線接触して撚り合されるため、各素線同士が密着して相互間に無駄な空隙ができず、図9に示す従来のインナーワイヤに比べてワイヤ断面に占める素線の断面積割合が大きくなる。このため、同じワイヤの破断強度を得ようとした場合に、従来のインナーワイヤに対してワイヤの断面を小さく形成でき、ワイヤの小径化を図ることができる。
【0026】なお、上記の例では、各金属素線5、6、7をS字状に撚り合せたが、Z字状に同じ撚り長さで撚り合せるようにしても同じ作用効果が得られる。
【0027】一方、図3乃至図9は、上記インナーワイヤ1を製造するための実施例のワイヤ撚線機を示している。
【0028】このワイヤ撚線機は、前端部に、図示省略してあるサプライボビンから引き出された複数の金属素線を集合させるための目板ダイス11と、各金属素線を撚り合せると共にその撚線の外径を成形する撚り口ダイス12とを備え、後端部に、撚線を連続して巻取る巻取り装置13が設けられている。
【0029】上記撚り口ダイス12は、図4に示すように中央にストレートなしごき孔14を有し、撚り合された撚線がそのしごき孔14を通過すると、撚線の上撚り層における金属素線の外径面がしごかれ、ワイヤ表面が真円形に成形されるようになっている。
【0030】この撚り口ダイス12と巻取り装置13の間には、撚線が通される弓形の回転体15が配置され、その弓形の回転体15の前後に、それぞれ仮撚装置(オーバーツイスタ)16と17が配置されている。
【0031】上記弓形の回転体15は、前後にガイドローラ18、19を備え、その回転体15の表面に撚線を通した状態で回転体15が回転すると、撚線aがガイドローラ18、19において捩られ、二度撚りされる。
【0032】上記仮撚装置16、17は、撚線の金属素線に弾性限界分のねじれに相当する撚りを付加するものであり、金属素線のねじれ状態を定着させ、素線の撚り合せの強制的な戻りを防止する機能がある。
【0033】前側の仮撚装置(前OT)16は、図5に示すように、撚線機の駆動モータと接続する駆動軸20に歯車やベルト等の伝達機構21を介して連結する回転軸22を備え、その回転軸22に筒状ケース23を一体に設け、その筒状ケース23に前後に並列する2個のローラ24、25を回転可能に取付けて形成されており、撚り口ダイス12から引き出した撚線を後側のローラ25から前側のローラ24に交互に掛け回した後、仮撚装置16の後方へ送り出している。
【0034】このように撚線の掛け回した状態で筒状ケース23が回転すると、公転するローラ24、25を通過する間に撚線aには大きな捩れが加えられ、各金属素線に弾性限界以上の撚りが加えられる。
【0035】また、後側の仮撚り装置(後OT)17は、図3に示すように、前OTと同様に、撚線機の駆動軸に連動して回転する2個のローラ26、27を上下に配置し、そのローラ26、27に撚線aを掛け回した状態でローラ26、27が公転することにより、撚線に余分な捩れを与えるようになっている。
【0036】上記前後の仮撚装置16、17においては、駆動軸20に対する各ローラ24、25又は26、27を変えることにより撚線に加える捩れ量の大きさが変化し、金属素線に対する捩り比率をそれぞれ独立して任意に変化させることができる。
【0037】一方、前側の仮撚装置16と弓形の回転体15の間には、回転体15に加わる撚線の張力を軽減させるための張力受け装置28が設けられている。
【0038】この張力受け装置28は、図6乃至図9に示すように、撚線機の駆動軸20に連結するロータ29と、そのロータ29の内部で支持される摩擦ローラ30を備え、この摩擦ローラ30を複数の歯車から成る変速機31を介して駆動軸20に連結し、撚線aを摩擦ローラ30の表面に2〜3重に巻き回した後、弓形の回転体15に送り出している。
【0039】上記の張力受け装置28では、ロータ29を前側の仮撚装置の回転に対して同速又は増速回転させ、それに内蔵される摩擦ローラ30を引取キャプスタン32の引出し速度と同速又は増速して回転させ、その状態で摩擦ローラ30の表面に撚線を巻取ることにより、ローラと撚線の間に生じる摩擦抵抗によって撚線を引取キャプスタン32の引出し速度と同速又は増速させて送り出している。
【0040】これにより、撚り口ダイス12と張力受け装置28の間で撚線に生じる張力、すなわち撚線をダイス12から引き抜くことによって撚線に生じる大きな張力は、前側の仮撚装置16を介して摩擦ローラ30で受け止められ、ローラ30の後方側には伝わらない。一方、張力受け装置28から後側の撚線には、引取キャプスタンによって引取られる速度と同速又は増速回転された摩擦ローラ30から撚線が送り出されるため、弓形の回転体15にかかる負荷は極めて小さくなる。
【0041】実施例のワイヤ撚線機は上記のような構造であり、図1及び図2で示した19本の金属素線を同時撚りしたインナーワイヤ1を形成するには、各金属素線4、5、6、7をサプライボビンから連続して撚り口ダイス12に供給し、そのダイス12で各金属素線を撚り合せると共に外側の素線外径をしごき加工し、表面を真円形に成形した撚線aを引き出す。
【0042】この引き出した撚線aは、前側の撚線装置16において大きな捩りが加えられた後、張力受け装置28の摩擦ローラ30に引き取られ、ダイス12のしごき加工によって撚線に生じた張力が受け止められる。
【0043】次に、上記摩擦ローラ30から引き出された撚線は、弓形の回転体15の表面に通され、回転体15の回転により二度撚りされる。ついで後側の仮撚装置17で余分な捩りが加えられた後、引取キャプスタン32に引取られ、巻取リール33に連続して巻き取られる。
【0044】このように、上記のワイヤ撚線機では、複数の金属素線を撚り口ダイス12で同時に撚り合せると共に表面のしごき加工を行い、また、ダイス成形で撚線に生じる強い張力を張力受け装置28で受け止めて弓形の回転体15に伝えないので、19本の金属素線に対して撚り合せとダイス成形を同時にを行なうことができ、摺動特性の良いインナーワイヤ1を連続的に安定して製作することができる。
【0045】なお、上記の実施例では、弓形の回転体15の前後に仮撚装置16、17を設けたが、回転体15の前側又は後側だけに仮撚装置を設けるようにしてもよい。
【0046】
【効果】以上のように、この発明のインナーワイヤは、複数の金属素線を線接触させた状態で同時に撚り合せ、その撚線の表面を真円形に成形したので、表面に凹凸がなく素線同士にずれが生じないワイヤを形成でき、良好な摺動特性を安定して維持できるインナーワイヤを提供することができる。
【0047】また、1回の撚り工程でワイヤを形成でき、ワイヤの金属素線同士が密着してワイヤ断面を小さくできるので、製造コストの低減とワイヤの小径化を図ることができる。
【0048】一方、この発明のワイヤ撚線機は、ダイス成形で撚線に加わる張力を張力受け手段で受け止め、弓形の回転体に大きな張力が加わらないようにしたので、多数の金属素線の撚り合せとダイス成形を連続して行なうことができ、摺動特性の良いインナーワイヤを効率よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例のインナーワイヤの断面図
【図2】インナーワイヤの表面を示す図
【図3】実施例のワイヤ撚線機の模式図
【図4】同上の撚り口ダイスを示す断面図
【図5】前側の仮撚装置を示す正面図
【図6】仮撚装置と張力受け装置を示す平面図
【図7】同上の側面図
【図8】同上の正面図
【図9】(a)は張力受け装置の横断平面図、(b)は縦断正面図、(c)は縦断側面図
【図10】従来のインナーワイヤを示す断面図
【図11】従来のワイヤ撚線機を示す模式図
【符号の説明】
1 インナーワイヤ
2 下撚り層
3 上撚り層
4、5、6、7 金属素線
12 撚り口ダイス
13 巻取り装置
15 弓形の回転体
16 前側の仮撚装置
17 後側の仮撚装置
20 駆動軸
24、25、26、27 ローラ
28 張力受け装置
29 ロータ
30 摩擦ローラ
32 引取キャプスタン
33 巻取リール
a 撚線
【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数の金属素線をダイスに通すと同時に同じ撚り長さで撚り合せ、その撚り合せにより中央の素線の回りに所定数の素線からなる下撚り層と、その下撚り層の倍数の素線からなる上撚り層を形成し、この上撚り層の表面形状を、ダイス成形した素線の組合せによって略真円形に形成したインナーワイヤ。
【請求項2】 上記下撚り層を同一径の素線で形成し、上撚り層を径の異なる2種類の素線を組合せて形成した請求項1に記載のインナーワイヤ。
【請求項3】 撚り口と巻取り装置の間に、撚線を通す弓形の回転体を設け、その回転体の前又は後或いは前後に仮撚装置を配置し、撚り口から引き出した撚線を弓形の回転体で回転させて二度撚りし、上記仮撚装置により撚線の金属素線に弾性限界を超える捩れを加えるワイヤ撚線機において、上記撚り口に、撚線の表面を真円形に成形するダイスを設け、上記弓形の回転体の前側に、ダイス成形によって撚線に加わる張力を受け止める張力の受け手段を設けたことを特徴とするワイヤ撚線機。
【請求項4】 上記張力受け手段が、仮撚装置に対して同速又は増速回転される回転部材と、その回転部材に巻取り装置と同速又は増速回転した状態で支持されるローラとを備え、そのローラの表面に撚線を巻き取ることにより張力を受ける構造としたことを特徴とする請求項3に記載のワイヤ撚線機。
【請求項1】 複数の金属素線をダイスに通すと同時に同じ撚り長さで撚り合せ、その撚り合せにより中央の素線の回りに所定数の素線からなる下撚り層と、その下撚り層の倍数の素線からなる上撚り層を形成し、この上撚り層の表面形状を、ダイス成形した素線の組合せによって略真円形に形成したインナーワイヤ。
【請求項2】 上記下撚り層を同一径の素線で形成し、上撚り層を径の異なる2種類の素線を組合せて形成した請求項1に記載のインナーワイヤ。
【請求項3】 撚り口と巻取り装置の間に、撚線を通す弓形の回転体を設け、その回転体の前又は後或いは前後に仮撚装置を配置し、撚り口から引き出した撚線を弓形の回転体で回転させて二度撚りし、上記仮撚装置により撚線の金属素線に弾性限界を超える捩れを加えるワイヤ撚線機において、上記撚り口に、撚線の表面を真円形に成形するダイスを設け、上記弓形の回転体の前側に、ダイス成形によって撚線に加わる張力を受け止める張力の受け手段を設けたことを特徴とするワイヤ撚線機。
【請求項4】 上記張力受け手段が、仮撚装置に対して同速又は増速回転される回転部材と、その回転部材に巻取り装置と同速又は増速回転した状態で支持されるローラとを備え、そのローラの表面に撚線を巻き取ることにより張力を受ける構造としたことを特徴とする請求項3に記載のワイヤ撚線機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開平7−238481
【公開日】平成7年(1995)9月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−22724
【出願日】平成6年(1994)2月21日
【出願人】(000162962)興国鋼線索株式会社 (6)
【公開日】平成7年(1995)9月12日
【国際特許分類】
【出願日】平成6年(1994)2月21日
【出願人】(000162962)興国鋼線索株式会社 (6)
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