説明

インバータ自動クレーンにおける始業前点検回路

【課題】インバータ自動クレーンの始業点検回路を追加することで、自動運転始動時にブレーキドラム表面を研削し、ブレーキドラム表面が鏡面状態となることから生じるグレージング現象を防止して、自動クレーンの安定かつ安全運転を可能としたインバータ自動クレーンにおける始業前点検回路を提供すること。
【解決手段】インバータ自動クレーンCにおける自動運転回路8に、荷重と日付管理を行う始業点検回路9を追加し、かつインバータ自動クレーンCの自動運転始動前に、始業点検回路9にて現状の荷重値から指令速度を決定し、指令速度になった状態からインバータに対して急停止信号を与えて急ブレーキによる巻下停止テストを行うことでブレーキドラム表面を研削するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ自動クレーンにおける始業前点検回路に関し、特に、インバータクレーンの制御回路に始業点検回路を追加し、これにより自動運転始動時に急ブレーキによる巻下停止テストを行うことでブレーキドラム表面を研削し、グレージング現象を防止するようにして、自動クレーンの安定かつ安全運転を可能としたインバータ自動クレーンにおける始業前点検回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インバータ自動クレーンは、制御回路にて、特に限定されるものではないが、例えば、図3に示すような処理フローにて運転されている。この処理フローにおいては、クレーンを自動運転する場合、巻き下げ運転から減速停止するとき、吊り下げ具の降下速度をまず電気的に回生制動をかけて所定の減速速度まで落とした後、次に機械的制動をかけて所定の停止を行うようにしている。
そして、この回生制動時、モータから発生する回生電気エネルギーを付設の放電抵抗器にて放電し、熱エネルギーに変換して放出するようにしている。
このように、吊り下げ速度が低速状態になってから機械的ブレーキをかけることで、巻き下げ機、特に制動装置の機械的なストレスを軽減し、ブレーキライニングの摩耗を低減するようにしている。
【0003】
このように、巻上下運転において吊り下げ速度が低速状態になってから機械的ブレーキをかけるようにしているから、ブレーキライニングの摩耗を低減できる利点を有するが、ブレーキドラムの表面もブレーキライニングによる研削も低減されるものとなる。
そして、この状態で運転を続行していると、ブレーキドラムの表面が強制的に研削されることがないので、ブレーキドラムの表面はブレーキライニングにより磨かれることになって鏡面状態となる。
【0004】
このように、ブレーキドラム表面が鏡面状態となった状態でクレーンを一定期間使用し続けると、最終的に鏡面状のブレーキドラム表面とブレーキランニング間の摩擦抵抗が著しく低下してブレーキドラムの制動力が無くなり、グレージング現象が生じるようになって、吊り荷を定位置で停止させるような場合、その降下を定位置で確実に停止させることができず、吊り荷が落下して重大事故に繋がるという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、インバータ自動クレーンの有する問題点に鑑み、インバータ自動クレーンの始業点検回路(シーケンサ)を追加することで、自動運転始動時にブレーキドラム表面を研削し、ブレーキドラム表面が鏡面状態となることから生じるグレージング現象を防止して、自動クレーンの安定かつ安全運転を可能としたインバータ自動クレーンにおける始業前点検回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のインバータ自動クレーンにおける始業前点検回路は、インバータ自動クレーンにおける自動運転回路に、荷重と日付管理を行う始業点検回路を追加し、かつインバータ自動クレーンの自動運転始動前に、始業点検回路にて現状の荷重値から指令速度を決定し、指令速度になった状態からインバータに対して急停止信号を与えて急ブレーキによる巻下停止テストを行うことでブレーキドラム表面を研削するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインバータ自動クレーンにおける始業前点検回路によれば、インバータ自動クレーンにおける自動運転回路に、荷重と日付管理を行う始業点検回路を追加し、かつインバータ自動クレーンの自動運転始動前に、始業点検回路にて現状の荷重値から指令速度を決定し、指令速度になった状態からインバータに対して急停止信号を与えて急ブレーキによる巻下停止テストを行うことでブレーキドラム表面を研削するようにすることにより、1日の始業点検作業時に強制的にブレーキライニングをブレーキドラムを圧接することによりブレーキドラムの表面が削られて摩擦抵抗が増すようになって、表面が鏡面状態になることを未然に防止することができるので、グレージング現象の発生を防いでインバータ自動クレーンを安定かつ安全に運転することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明のインバータ自動クレーンにおける始業前点検回路の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
図1〜図2に、本発明のインバータ自動クレーンにおける始業前点検回路の一実施例を示す。
インバータ自動クレーンCは、特に限定されるものではないが、例えば、図1に示すように、走行台車1に荷重を検出するためのロードセル2、2を配して吊り上げ具3、例えば、バケットをワイヤロープ4を介して吊り下げ、このワイヤロープ4を巻上ドラム5にて巻き取るようにし、かつ該巻上ドラム5を巻上モータ6(巻上減速機を備えることもある)介して駆動するようにする。
また、この巻上モータ6に巻上位置検出器7を付設し、この巻上位置検出器7に巻上インバータ回路8を接続する。
なお、巻上インバータ回路8(自動運転回路)には、荷重、日付、巻下移動量管理を行うシーケンサ9(始業前点検回路)を接続し、該シーケンサ9にて巻上インバータ回路の周波数指令を行う。
本発明の始業前点検回路は、特に限定されるものではないが、例えば、図2の処理フローに示すように、従来のインバータ自動クレーンの自動運転回路に追加するものである。
【0010】
図2の処理フローに示すように、インバータ自動クレーンの自動運転回路により運転を開始する。
この場合、インバータ自動クレーンの自動運転始動をかける前に荷重と日付管理を行い、その日の1回目運転時に始業点検回路により、現状の荷重値から指令速度を決定し、指令速度になった状態からインバータに対して急停止(フリーランストップ)信号を与えるようにする。
【0011】
クレーンの自動運転によりクレーンの走行位置を確認した後、該走行位置が吊り上げ具3、例えば、バケットの巻下げが可能か否か、巻下可能位置を始業前点検回路により確認する。なお、この場合、巻下可能位置でなければ横行位置を確認し、横行させた後、走行位置を確認し、所定の走行位置を確認し、再度巻下可能位置を確認する。このようにして所定の巻下可能位置を確認し、その後吊り上げ具3を巻下げるよう巻上モータ6に巻下指令を与える。そして、吊り上げ具3が巻下目的値達したとき、急ブレーキによる巻下停止テストを行って巻下急停止させる。すなわち、インバータに対して急停止信号を与えてブレーキライニングによる急ブレーキを強制的にかけ、巻下停止テストを行うことでブレーキドラム表面を研削するようにする。
これにより、ブレーキドラムの表面が強制的にブレーキライニングにて削られて粗面となり、ブレーキドラム表面の摩擦抵抗が増加するようになって、グレージング現象(鏡面現象)の発生を防ぐことができる。
【0012】
この場合、一般的に、急停止時の放電電流とインバータ定格電流(インバータの許容範囲)との関係は、
ピーク放電電流=モータ容量×1.5倍/(√2×入力電圧)<インバータ定格電流×Ni
Ni:インバータメーカ毎の過負荷耐量
の関係を守る必要がある。
仮に上記容量を越えた場合、インバータが過負荷耐量を検出し、インバータの保護回路が作動して回路がOFFとなりインバータトリップとなる。
【0013】
また、
モータ容量=荷重×速度/(6.12×機械効率×電気効率)
の関係から、始業前点検回路を起動させる場合の指令速度は、荷重の値により変化するため、ピーク放電電流を考慮して、
指令速度<{モータ容量×1.5×6.12×機械効率×電気効率/(荷重×√2入力電圧)}
とし、巻下時間は、一定速度になったことを確認する必要があるため、簡易的に把握する場合は、インバータの周波数モニタ機能により速度到達状況を確認する。
また、実速度を把握する場合は、自動運転用として採用している巻上位置検出器もしくはレーザー距離計により移動量を移動時間で微分し、実速度を把握し、停止させることもできる。
ただし、始業前に巻下をする前にクレーン巻下移動距離が確保できることを確認し、確保できない場合は、作業エリア内の高さを把握し、巻下可能な位置へ移動することを必要とする。
【0014】
指令速度をVmとすると、インバータからの指令周波数fの関係は、
Vm=(r/i)×π×D×2/n
Vm:速度[m/min]
r:モータ回転数[rpm]
i:減速比
n:ワイヤ掛数
D:ドラム径[m]
モータ容量[Kw]
荷重[t]
入力電圧[V]
r=120×f/p
f:指令周波数[Hz]
p:モータポール数
の関係から、
Vm=((120×f/p)/i)×π×D×2/n
となり、
f=(Vm×n×p×i)/(120×2×π×D)
=(Vm×n×p×i)/(240×π×D)
となる指令周波数fを与えるようにする。
【0015】
また、上述のように巻下急停止テストを行った後、巻上モータ6に巻上指令を与えて吊り上げ具3を巻き上げ、設定した巻上上限位置に達したとき、巻き上げを停止し、始業前点検を終了する。
その後、自動クレーンの本来の運転を自動運転回路にて行うようにする。
【0016】
以上、本発明のインバータ自動クレーンにおける始業前点検回路について、実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明のインバータ自動クレーンにおける始業前点検回路は、インバータ自動クレーンの自動運転始動時に始業点検回路を追加することで、ブレーキドラム表面が鏡面状態となることから生じるグレージング現象を防止して、安定かつ安全運転を行うという特性を有していることから、自動クレーンの用途に好適に用いることができるほか、例えば、インバータを用いた扛上機、走行装置の用途にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のインバータ自動クレーンにおける始業前点検回路の一実施例を示す説明図である。
【図2】本発明によるインバータ自動クレーンの処理フローである。
【図3】従来のインバータ自動クレーンの処理フローである。
【符号の説明】
【0019】
C インバータ自動クレーン
1 走行台車
2 ロードセル
3 吊り上げ具
4 ワイヤロープ
5 巻上ドラム
6 巻上モータ
7 巻上位置検出器
8 巻上インバータ回路(自動運転回路)
9 シーケンサ(始業前点検回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ自動クレーンにおける自動運転回路に、荷重と日付管理を行う始業点検回路を追加し、かつインバータ自動クレーンの自動運転始動前に、始業点検回路にて現状の荷重値から指令速度を決定し、指令速度になった状態からインバータに対して急停止信号を与えて急ブレーキによる巻下停止テストを行うことでブレーキドラム表面を研削するようにしたことを特徴とするインバータ自動クレーンにおける始業前点検回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−23834(P2009−23834A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191700(P2007−191700)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)