説明

ウイルス疾患の予防または処置のための長いペントラキシンPTX3の使用

ウイルス疾患の予防または処置および/またはウイルス活性化を阻害するための医薬品の調製のための、長いペントラキシンPTX3 (PTX3)またはその機能誘導体の中の一つの使用を、説明するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載した発明は、ウイルス疾患の予防または処置および/またはウイルス活性化の阻害のための医薬調製のための長鎖PTX3(PTX3)またはその機能的誘導体の一つの使用に関し、ここで該ウイルスが、ヘルペスウイルス、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)、インフルエンザウイルス、例えばH1N1、H3N2、H5N1またはH5N7ウイルス、パラミクソウイルス、例えば麻疹、呼吸器合胞体ウイルス、コロナウイルス、例えばSARS、HIVウイルス、肝炎ウイルスまたはロタウイルスからなる群から選択される。
【背景技術】
【0002】
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)は、約50%の一般的集団に広く見出されるヘルペスウイルスである。HIVに罹患している約90%の人はHCMVを担持する。一般的集団において、該ウイルスは、通常、初期感染後体内組織中に潜伏したままである。しかしながら、他人からの感染源として働く口腔、尿および生殖管にうつる。該免疫系がなんらの理由で障害となる場合に、HCMVによる感染は、二次的な、より重大な感染をもたらし得る。
【0003】
垂直感染によりHCMVとなる幼児のおよそ5%は深刻な先天性欠損症を有する。これらは、脳損傷、成長阻害、盲目および他の欠損を包含し得る。この問題は、通常、母親が妊娠中に初めてHCMVを有する場合に生じる。
【0004】
一般的な成人集団において、HCMVは不活性状態にあるが、冠状動脈疾患の進行と関連する可能性がある。HCMV感染は、動脈プラークおよびアテロ−ム性動脈硬化症の進行に関連がある。
【0005】
HCMVは、弱くなった免疫系を有する人々に重大な問題を引き起こし得る。
【0006】
これは、AIDSに罹患している患者または免疫抑制療法中の患者において、最も一般的な問題である。HCMVは、HIV陽性患者の75〜100%に感染している。HCMVに関連のある最も一般的な副作用は、脈絡網膜炎;肝炎、食道炎、大腸炎、胃炎および膵炎を包含する胃腸管感染症;脳炎および多発性神経根炎を包含する神経発達;肺障害;および精巣上体炎を包含する。
【0007】
広範囲にわたる癌に罹患する人々または臓器または骨髄移植を受ける人々が、一般的に影響を受ける。感染は、HCMVへの第一回目の暴露を理由とするか、または反応活性HCMVの結果であり得る。移植および癌患者において、HCMVは、通常肺炎または下痢を引き起こす胃腸感染をもたらし、これは死亡の原因となり得る。さらに、HCMVは、固体臓器移植レシピエントにおける慢性の同種移植機能不全の進行に関与する。肺移植レシピエントにおけるHCMV疾患と閉塞性細気管支炎の進行とのこの関係は、十分確立されている。さらに、HCMVは、同種移植損傷をもたらし得る多くのリスクファクターの一つである。異種の直接的なウイルス浸潤は、肝臓または腎臓移植患者においてHCMV肝炎をもたらし得る。HCMVにより発症した直接的な症状に加え、このウイルスによる感染による真菌および他の日和見感染、例えばニューモシスティス・カリニ(Pneumocystis carinii)肺炎およびエプスタイン・バー(Epstein-Barr)ウイルスに関連する臓器移植後のリンパ球増殖疾患に対するリスクも増加し得る。
【0008】
大部分の人々は、成人になる時期までにHCMVに感染している。輸血または臓器移植を受容するあらゆる人は、HCMV感染のリスクがある。
【0009】
さらに、弱くなった免疫系を有する人々および胎児は、重症疾患に対するリスクがある。
【0010】
弱くなった免疫系を有する人々における能動的なHCMVの処置は、現在、抗ウイルス剤、例えば、ガンシクロビル、ホヅカネットおよびシドフォビルを用いて為されている。
【0011】
インフルエンザウイルスにより、風邪、ヒトの気道(鼻、喉および肺)に感染する接触伝染性疾患がもたらされる。通常、インフルエンザは突然生じて、次の症状を含み得る:熱、頭痛、倦怠感(病気に罹ったように感じ、極度な疲労感を感じる)、咳、咽喉炎、鼻詰まりおよび身体の痛み。
【0012】
パラミクソウイルス科のウイルスは、ヒトにおける広範な独特な臨床病気を包含し、これらは、麻疹ウイルス;耳下腺炎、精巣炎および脳炎の症状を有する流行性耳下腺炎ウイルス;および呼吸器病原体であるパラインフルエンザウイルスを包含する。
【0013】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、幼児や1歳までの子供のなかで細気管支炎および肺炎に関する最も一般的な病因である。病気は、発熱、鼻水、咳および時には喘鳴による始まることが最も多い。RSVは、通常、軽症−重症の風邪の様な症候と関連して一生を通して繰り返される感染をもたらす;しかしながら、重症な下気道疾患は、あらゆる年齢で、特に老人の間で、または障害のある心臓、肺または免疫系を有する人々の間で起こり得る。
【0014】
コロナウイルスは、多様な哺乳動物および鳥類に感染し、ヒトにおいては、経腸感染による重症急性呼吸器症候群(SARS)および神経学的症候群を包含する呼吸器感染を引き起こす。成人感染は一般的ではなく、また再感染は一生にわたり発症すると思われる。
【0015】
ヒトの免疫不全ウイルス(HIV)はレトロウイルスである。レトロウイルス粒子中の遺伝子情報は、RNAにコードされている。宿主細胞中に入る際に、このRNAは、ウイルス逆転写酵素によりDNAに複製される。ウイルス遺伝子の情報であるこのcDNAコピーは、核中の宿主細胞の染色体に組み入れられ得る。このプロウイルスは、再活性化されて、より感染性のより高いレトロウイルス粒子を産生する前に、多くの細胞区分に対して不活性にすることが出来る。
【0016】
ウイルス性肝炎は、ウイルス感染によりもたらされるあらゆるタイプの肝臓炎症である。肝臓疾患をもたらすと認識される3つの最も一般的なウイルスは、肝炎A、肝炎Bおよび肝炎非A、非B(肝炎Cとも呼ばれる)である。いくつかの他の型が認識されている:肝炎D、肝炎Eおよび最近同定された肝炎G。7番目のタイプ(肝炎F)の嫌疑はあるが確認されていない。
【0017】
ロタウイルスは、子供の間で、米国において毎年およそ55,000人の子供を入院させ、全世界で年間600,000人以上の子供を死亡させる重症な下痢の最も一般的な病因である。
【0018】
PTX3は、様々な細胞型において、特に炎症性サイトカインのインターロイキンβ(IL-lβ)および腫瘍壊死因子α(TNF−α)に暴露後の単核の食細胞および内皮細胞において発現したタンパク質である(Bottazzi, etal., J. Biol. Chem, 1997; 272; 32817-32823)。
【0019】
このタンパク質は、2つの構造ドメイン、即ち任意の既知分子と関連しないN末端および短鎖ペントラキシン、例えばC反応性タンパク質(CRP)と類似したC末端からなる。実質的な類似性は、ヒトPTX3 (hPTX3)および動物PTX3との間に見出される。
【0020】
PTX3遺伝子は、ヒト3q領域(q24-28)と類似した領域において、3q 25領域内のhPTX3に関する確認された位置に沿ってマウス染色体3上に位置している。さらに、マウスPTX3 (mPTX3)(Introna, M., et al.: Blood, 87 (1996) ; 1862-1872)は、構成、位置および配列に基づいてhPTX3と非常に類似している(Breviario,F., etal. : J. Biol. Chem., 267. 22190, 1992)。
【0021】
特に、配列間の同一性の程度は、ヒト遺伝子およびマウス遺伝子との間で82%であり、保存性置換を考慮すると92%に達する。
【0022】
hPTX3の配列とmPTX3の配列間の高度な類似性は、進化の過程におけるペントラキシンの高度な保存性に関する表れである(Adv. Immunol. 34: 141, 1983)。
【0023】
ペントラキシンの概説として、H. Gewurz, etal., Current Opinion in Immunology,1995, 7. 54-64を参照されたい。
【0024】
PTX3の従来の使用は既に知られている。
【0025】
本出願人の名称で提出した国際特許出願W099/32516(which is the closest prior art)は、伝染性(真菌、細菌、原虫またはウイルス)、炎症性または腫瘍性疾患の治療のための長鎖PTX3の使用を説明するものである。W099/32516において、PTX3はHCMVまたはインフルエンザウイルスを処理するために有用であるということは、全く記載されていない。
【0026】
W002/38169は、増殖ファクターFGF-2の異常な活性化に関連する疾患の処置に有用な医薬品の調製のための長鎖PTX3の使用を説明するものである。
【0027】
W002/36151は、自己免疫疾患の処置のための長鎖PTX3の使用を説明するものである。
【0028】
W003/011326は、メス不妊症の処置のための長鎖PTX3の使用を説明するものである。
【0029】
W003/084561は、増殖ファクターFGF-8の異常な活性化と関連する腫瘍疾患の処置のための医薬品の調製のための長鎖PTX3の使用を説明するものである。
【0030】
WO03072603は、腫瘍の処置のための自己移植のワクチンを調製するための長鎖PTX3の使用を説明するものである。
【0031】
WO2005060988は、骨または軟骨疾患の処置およびメス不妊症の処置用の医薬品の調製のためのペントラキシンPTX3およびTSG-6の組合せ物の使用を説明するものである。
【0032】
WO2005060997は、自己免疫疾患および骨および軟骨の退行性疾患の予防および処置のための医薬品の調製のための長鎖PTX3の阻害剤の使用を説明するものである。
【0033】
WO2005107791は、真菌感染、特にAspergillus fumigatusにより引き起こされる感染症処置のための、抗真菌剤とペントラキシンPTX3との組合せを説明するものである。
【0034】
Blood, 1 January 2006, Volume 107, Number 1では、PTX3は、炎症症状および自己反応性細胞の活性化の下にある組織損傷を制限するために貢献することを説明するものである。
【0035】
驚くべきことに、かつ予測不可能なことに、本発明にて、長いペントラキシンPTX3がウイルス活性化の阻害および/またはウイルス疾患の予防または処置のための医薬品調製のために有用であることを見出した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
すなわち、本発明の目的は、哺乳動物対象において、ヘルペスウイルス、例えばサイトメガロウイルス(CMV);インフルエンザウイルス、例えば、H1N1、H3N2、H5N1またはH5N7ウイルス;パラミクソウイルス、例えば麻疹;呼吸器合胞体ウイルス;コロナウイルス、例えばSARS:HIVウイルス;肝炎ウイルス;またはロタウイルス疾患を含む群から選択される、ウイルス性疾患の活性化の阻害に関する医薬品調製のための有効量の長いペントラキシンPTX3の使用である。
【0037】
本発明のさらなる目的は、哺乳動物対象において、ヘルペスウイルス、例えばサイトメガロウイルス(CMV);インフルエンザウイルス、例えばH1N1、H3N2、H5N1またはH5N7ウイルス;パラミクソウイルス、例えば麻疹、呼吸器合胞体ウイルス;コロナウイルス、例えばSARS、HIVウイルス;肝炎ウイルス、またはロタウイルスを含む群から選択される、ウイルス性疾患の予防および/または処置に関する医薬品調製のための有効量の長いペントラキシンPTX3の使用である。
【0038】
本発明のさらなる目的は、サイトメガロウイルス誘発症候群を処置するための、医薬品調製のための有効量の長いペントラキシンPTX3の使用であって、ここで、
−該症候群がCMV単核症であり;
−該症候群が免疫不全宿主と関連がある;
−該免疫不全宿主がAIDSに罹患しており;
−該免疫不全宿主が臓器移植レピシエント、である。
【0039】
本発明のさらなる目的は、インフルエンザ誘発症候群を処置するための医薬品調製のための有効量の長いペントラキシンPTX3の使用であって、該症候群は、H1N1、H3N2、H5N1またはH5N7ウイルスからなる群から選択されるウイルスに依拠するものである。
【0040】
下記実施例は、本発明を例示的に説明するものであって限定するものではない。
【実施例】
【0041】
材料および方法
使用した略語:
HCMV:ヒトCMV;MCMV:マウスCMV;DC: 樹状細胞;gB:糖タンパク質B;pDC: 形質細胞様DC; PTX3:ペントラキシン3。
【0042】
マウス
メスの8〜12週齢野生型(WT)の同系交配のC57BL6、129/SvおよびBALB/cマウスを、Charles River Breeding Laboratories (Calco, Italy)から購入した。同型接合体TLR9-(TLR9/)、TLR4-(TLR4/)、TLR2-(TLR2/)、MyD88-(MyD88/)およびIL-12 p40 (IL-12p40/)-欠損マウス(C57BL6バックグラウンド上で全て)、IFN-γ-欠損マウス(IFN-γ/) (BALB/c バックグラウンド上で)の生育対(Science 2003, 301:640) (NatureImmunol. 2001, 2:1144) (Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2004, 101:3516) (Immunity 2004, 21:107) (J. Exp. Med. 2002, 195:517)。PTX3-欠損マウス(PTX3/)(129/Sv-C57BL6混合バックグラウンド上で生じた)(Nature 2002, 420:182)。IFN-αβ受容体欠損マウス(IFN-αβR/)を使用した(J. Exp. Med. 2003, 197:885)。
【0043】
病原体、感染および処置
Smith 株 MCMV 唾液腺抽出物のストックを、BALB/c マウスから調製し、BALB/c マウス胎児線維芽細胞(MEF)に対する標準プラークアッセイにおいて力価を決定した(J. Gen. Virol. 2002, 83:2983)。
【0044】
インフルエンザウイルス A/Sydney/5/97 (H3N2) 株を、有胚卵中で増殖させ、イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来の細胞株(Madin Darby Canine Kidney)(MDCK)に対する標準プラークアッセイにて力価を決定した(Virology 2005, 340:296)。
【0045】
感染を、MCMVの105 (BALB/c)、5 x 105の(C57BL6, PTX3+/+およびPTX3/)プラーク形成単位(PFU)を腹腔内注射により開始した。採取した組織を、各々ホモジネートし、上清を-80℃で貯蔵し、その後ウイルス力価を標準プラークアッセイによりMEFに対して定量した。PTX3で感染したCHO細胞の培養上清の免疫親和性(Nature2002, 420:182)により内毒素不含条件下でPTX3を獲得し、そして感染を開始して7または14日間腹腔内投与(1または4 mg/kg)行った。ガンシクロビル(GCV)(Cymevene; from Recordati, Milan, Italy)を、感染6時間後に開始する、40 mg/kgにて週に3回腹腔内投与した。コントロールには希釈液のみを与えた。組織学について、パラフィン埋包組織の切片をパス染色法により染色した。A. fumigatusの株および培養条件は、記載されている(Blood 2003, 102:3807)。
【0046】
共感染のために、MCMV-感染マウスを、ウイルス感染後に5 x 105 のAspergillus conidiaを静脈内投与にて2週間与え、その後1週間一日に1回PTX3(1mg/kg/腹腔内)により処置する。真菌増殖の定量を、キチンアッセイにより行い、結果をグルコサミン/臓器(Blood 2003, 102:3807)のμgとして表した。
【0047】
実験的なHSCTモデル
レピシエントマウスを致死用量の8 Gyに暴露し、上記したように(Blood 2003, 102:3807)、ドナー同種異系のマウス由来のT細胞枯渇ドナー細胞(<1% T-細胞含有)(107/mL)を注入した。
【0048】
MCMV再活性化に続くHSCT
マウスを、上記のとおりにMCMVを用いて感染させた。3ヶ月後に、MCMV潜伏を、分子MCMV潜伏の原発部位と見なした両方の臓器の脾臓(J Immunol 2005, 174:1587)および肺(J Virol 1997, 71:2980)において急性MCMV感染がないことにより確認した。感染マウスを、同種異系のドナー非感染骨髄細胞(MCMV+レシピエント)のレシピエントとしてか、または非感染レシピエントに注射されるべき骨髄細胞(MCMV+ドナー)のドナーとしてのいずれかとして使用した。PTX3(1mg/kg/腹腔内)を2週間毎日投与し、翌日HSCTを開始する。死にかけているまたは生存しているマウス(HSCT13日後に屠殺)を、プラークアッセイにより肺内のMCMVウイルス負荷について評価した。
【0049】
DCサブセット作成
マウスDCを、CD11+DCを得るために7日間150 U/mL マウスrGM-CSF (Sigma)および75 U/mL rIL-4) (R&D システム)、またはpDCを得るために9日間(Blood 2003, 102:3807)200 ng/mL FLT3-L(Immunex Corporation, Seattle, WA)の存在下で、Iscoveの修飾培地(Blood 2003, 102:3807)中で培養した骨髄細胞から得た。Blood 2003, 102:3807に記載したように最終成熟を行い、CD11+DCを、CD11c発現に対して識別し、CD8α+ DCおよびCD11b+ DCを明らかに含んでいた。pDCをCD11c Ly6G+ CD8α+/ 細胞として定義した。脾臓DCを、CD11c MicroBeadsおよびMidiMacs (Miltenyi Biotec)を用いて磁性活性化分別により精製した。写真を、AxioVision Software Rel. 3.1 (Carl Zeiss S.p.A., Milano, Italy)を用いる高解像度顕微鏡カラーカメラAxioCamにより撮影した。
【0050】
フローサイトメトリー分析
全てのFACS分析について、細胞を、まず抗CD16/32(2.4G2)とインキュベートし、FcRのブロッキングを確実にし、CELLQuest(登録商標)を備えたFACScanフローサイトメーター (Becton Dickinson, Mountain View, CA)により抗原発現について分析した。不適切なAbを用いて細胞の染色コントロールを使用して、バックグラウンドの蛍光値を得た。AbsはBD Pharmingenからである。得られたデータを陽性細胞のパーセンテージとして評価した。ヒストグラムは4つの独立した実験のうちの1つを表している。
【0051】
プラークアッセイ
プラークアッセイを、コンフルエンス以下まで増幅した細胞に対して決定し、連続希釈ウイルスサンプルと共に2時間37℃でインキュベートした(Science 2001, 292:934)。
【0052】
非感染動物由来の全ての臓器は負のウイルスであった。ウイルス力価をlog10(平均±標準偏差,SE)として表現した。
【0053】
固定化ウイルスに対するPTX3 結合アッセイ
96ウェルプレートを、104 PFU MCMVまたはH3N2 ヒト インフルエンザウイルスを含有する0.05 M 炭酸塩溶液 [Na2CO3(0.159g)およびNaHCO3(0.293 g), pH 9.8](Sigma)を用いて終夜4℃で被覆した。非特異的結合部位を5%ウシ血清アルブミンPBS溶液によりブロッキングした。HCMVへのPTX3結合をHCMV Ag被覆プレート(AID GmbH, Germany)を用いて測定した。結合を、0.5、1または5μg/mL ビオチン標識PTX3(PTX3bio+)を用いて2時間37℃で行った。阻害を、PTX3bio+を添加する前に、0.5または5μg/mL 非ビオチン化PTX3 (PTX3bio-)を用いて2時間37℃にてプレインキュベーションにより行った。450 nmでの光学密度を、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ基質キット(Bio-Rad Laboratories, Life Science Group, Segrate Italy)を用いて読んだ。ウイルス非被覆プレートへのPTX3の非特異的結合は最小であった。
【0054】
ウイルス複製の阻害
コンフルエンス以下まで増殖したMEF 細胞(2x104/ウェル)を、血清不含DMEMに希釈した5-0.5 μg/mL PTX3と共に2時間37℃でプレインキュベートし、次いで104 PFU MCMVを添加するか、または5-0.5 μg/mL PTX3を用いて2時間37℃で前処理した104 PFU MCMVを用いて非処理および非感染とした。選抜実験において、PTX3中和化モノクローナル抗体(70ng/100μL)(Clin. Exp. Immunol. 2000, 119:196)を使用して、キャリー・オーバー効果を最小にする。伝染力を、最初の実験に示したとおりに、37℃で72時間インキュベーション後に測定した。プレートあたり一つのウェルを、偽感染(mock-infected)させて、細胞コントロールとして用いた。DCの場合には、106/細胞/ウェルを血清不含DMEMに希釈した5 μg/mL PTX3を用いて2時間37℃でプレインキュベートした後に105 PFU MCMVを添加するか、または処理せずに2時間37℃で5 μg/mL PTX3を用いて前処置した105 PFU MCMVを用いて感染させた。細胞を、インキュベーション48時間後に伝染力についてアッセイした。H3N2複製の阻害のために、3x104 PFU ビリオンを、密集MDCK細胞に添加する前に5-0.5 μg/mL PTX3に2時間37℃で暴露した。伝染力をプラークアッセイによる感染後種々の日数でアッセイした。
【0055】
NK細胞の細胞毒性活性
DX5マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)による脾臓から精製したNK細胞をNK1.1+CD3- 細胞と定義した。NK 細胞溶解活性を、51Cr標識YAC-1 リンパ腫細胞に対して評価した(Blood 2005, 106:4397)。
【0056】
MCMV mRNAの定量化のためのリアルタイムRT-PCR
高感受性RT-PCRアッセイをMCMV 糖タンパク質B(gB)DNAの356-bp セグメントの増幅のために使用した(Virus Res 2003, 98:17)。
【0057】
全細胞性RNAを、液体窒素中で細胞分裂後にTRIzol抽出物により得た(Invitrogen Life Technologies, Milan, Italy)。cDNAの合成およびPCRを記載したとおりに行った(Blood 2003, 102:3807)。合成DNAオリゴヌクレオチドプライマーを、MCMV gB 遺伝子の確認した配列から選択した(J. Immunol. 2005, 175:6723)。
【0058】
センスプライマーは、cDNA No. 2416-2443:5'-AAG-CAG-CAC-ATC-CGC-ACC-CTG-AGC-GCC-3'、およびNo. 2745-2772に対するアンチセンス:5'-CCA-GGC-GCT-CCC-GGC-GGC-CCG-CTC-TCG-3'に基づいている。各実験においてDNAの存在を検証するために、平行なアクチン増幅を、下記オリゴヌクレオチド:5'-GAG-ACC-TTC-AAC-ACC-CCA-GCC (センス)および5'-GGC-CAT-CTC-TTG-CTC-GAA-GTC(アンチセンス)を用いて行った。PCRをサーモサイクル(MasterCycler gradient; Eppendorf)にて行い、サイクル条件は、3分間95℃での初期変性、続いて1分間95℃、1分間50℃および20秒72℃のサイクル、そして10分間72℃での最終伸張であった。
【0059】
ELISAおよびELISPOTアッセイによるサイトカインの定量化
有糸分裂促進物質刺激性脾臓細胞またはMCMVパルス化DC(24時間)における培養上清中のサイトカインのレベル(10 μg/mL ConAを用いる48時間刺激)を、ELISA(R&D System およびPBL, Biomedical Lab, Milan, Italy)により決定した。アッセイの検出限界(pg/mL)は、IL-12 p70については<16、IFN-γについては<10、IL-10については<3 および IFN-αについては<10であった。IFN-γ-産生NK細胞を、記載したとおり脾臓から精製したNKに対するELISPOTアッセイにより計測した(Blood 2003, 102:3807)。結果を、細胞の2倍連続希釈物の複製物を用いて計算した、105 細胞あたりのサイトカイン産生細胞(±SE)の平均数として表した。
【0060】
ELISAによるPTX3の定量化
血清および肺ホモジネート(感染後一週間)中のPTX3の定量を、記載したとおりにELISAにより行った(Eur. J. Immunol. 2003, 33:2886)。
【0061】
統計的解析
対をなすStudent t検定を使用して、実験群における有意値(有意性をP<0.05と定義した)を決定した。生存データを、マン・ホイットニー(Mann-Whitney)U検定を用いて試験した。インビボ群は6体の動物で構成した。特に記述のない限り、データは平均±SEである。
【0062】
結果
PTX3はインビトロでのCMV感染を阻害する
PTX3がインビトロでのCMV感染に影響するかどうかを試験するために、i) HCMVまたはMCMVへの結合に対するPTX3の能力、ii)許容状態のMEF細胞中への増殖感染に対するPTX3へのウイルス暴露の効果、およびiii) その後のウイルス感染に対するPTX3によるMEF細胞処置の効果を評価した。用量依存様式において、HMCVおよびMCMV両方に結合するPTX3を有意に低下し、該結合は非標識PTX3 (図1A)の存在下に有意に低下した。PTX3のHCMVへの結合は、150 (後期)、65および52(初期)または28(特異的)kDa抗原に対するヒト抗体の存在において阻害しなかった、知見はPTX3およびヒト特異的抗体によって認識された多様なウイルス分子を示唆している。PTX3への暴露は、非感染細胞におけるMCMV gB 転写物の低いレベルにより72時間後に評価した場合、用量依存様式において、ウイルス感染を強く阻害した(図1A)。抑制効果は急速であり、既に不活性化を暴露30-45分間後得た。興味深いことに、PTX3の最高濃度を用いる細胞の前処置は該感染を阻害した。残余PTX3を特異的抗体により中和した実験は、細胞またはウイルスのいずれかに対して遊離PTX3の潜在的なキャリー・オーバー効果を排除したので、これらの知見は、PTX3がウイルス伝染力および感染に対する細胞の許容性に影響することを示唆している。PTX3が他のエンベロープウイルスを同じように結合するかどうかを評価するために、H3N2 ヒトインフルエンザウイルスを結合し、インビトロの伝染性を阻害するPTX3の能力を評価した。図1Bは、使用したPTX3の最高濃度で観察された完全に低下した細胞変性効果により決定したとおり、PTX3が濃度および特異的様式においてウイルスを強力に結合し、インビトロでのその伝染性を強く阻害することを示している。また、PTX3は、細胞の前処置に対してわずかに感染を遅らせ、知見により、感染に対する細胞寛容性に対するPTX3の可能な効果を確認される。細胞の両方の型において、PTX3は、細胞単層および/または細胞形態学のコンフルエンシーに対して可視的効果を示さず、PTX3が非毒性であることを確認する。
【0063】
MCMVによる急性感染は、一過性ではあるが完全な、感受性BALB/cマウスにおける免疫抑制を誘導し、これはCD11+DCの感染と関連し得る(Nat Immunol 2001, 2:1077)。CD11+DCは、インビトロおよびインビボの両方でMCMVの増殖感染を支持するが、MCMVはpDCにおいては複製しない(J. Exp. Med. 2002, 195:517)。
【0064】
PTX3がDCのMCMV感染に影響するかどうかを評価するために、PTX3処理MCMVを、BALB/c マウス由来のCD11+DCおよびpDCに添加し、伝染力を上記のとおりに評価した。DCを感染前にPTX3で前処理した。この結果から、MCMVはCD11+DC中で複製するが、ウイルスまたは細胞のいずれかのPTX3処置によりウイルス複製が大幅に低下することを示した。いかなるものであれ、pDCにおいて明らかなウイルス複製はなかった(図1C)。PTX3は、C57BL6マウス由来のCD11+DCにおいてウイルス複製を低下させる。これらの結果は、PTX3が、ウイルス伝染力を阻害することによって、また感染のその後の段階を抑制することによってMCMV感染を防止し得ることを示唆するものである。
【0065】
PTX3は、インビボでのCMV感染および再活性化から保護する
上記結果から、PTX3がインビボでの抗ウイルス効果を示し得ることが予測されるであろう。感受性(BALB/c)または耐性(C57BL6)マウスのいずれかの急性初期感染において、さらにHSCTの実験モデルにおいて再活性化において、PTX3投与効果を評価した。マウスを、MCMVの致死用量以下を用いて腹腔内投与により感染させ、PTX3またはGCVの様々な用量を用いて処理し、脾臓、肺、肝臓および唾液腺中に保持する力価を、感染1、2および4週間後に、標準プラークアッセイ力価により決定した(図2A)。以前の報告と一致して(Virus Res 2003, 98:17)、MCMVは、C57BL6 マウスよりも感受性BALB/cの内臓において、特に感染の初期段階において高力価に複製した。しかしながら、PTX3は、この初期段階において、効果がGCV感染一週間後の効果と同じであった特に肺および脾臓においてウイルス負荷を有意に低下させた。抗ウイルス効果は、耐性マウスよりも(2つの対数増殖期の違いよりも) 感受性が高い肺および脾臓においてより有意であった。ウイルス力価は、感受性BALB/c マウスよりも、C57BL6 耐性体の肝臓において低く、PTX3処置により大部分が影響されなかった。PTX3による長期処置(2週間)は、特に肺および脾臓中において、より効果的であった(図2A)。PTX3による処置はまた、炎症性病変および感受性マウスの肺、脾臓および肝臓における細胞動員を改善した。これらの結果は、PTX3が宿主抗ウイルス免疫応答の重要な成分であり得るとことを示唆する。この問題を直接的に解決するために、感染中に産生したPTX3のレベルを測定し、MCMVに対するPTX3-/-マウスの感受性、に加えて外因性PTX3の投与に対する反応性を評価した。PTX3の循環レベルは、感染後に増加しなかった(BALB/cにおいて16.0〜16.7 ng/mLおよびC57BL6マウスにおいて14.0〜16.0 ng/mL)。しかしながら、肺における局所レベルは、特にBALB/c マウスにおいて(0.5〜2.13 ng/mL)有意に増加した。これらの知見に一致して、PTX3-/-は、PTX3+/+ マウスよりも感染に対して、特に、ウイルス力価がPTX3による処置により大きく低下した肺において、感受性が高かった。PTX3はPTX3-/- マウス(図2B)の肝臓において低いウイルス力価を変更しなかった。興味深いことに、PTX3は、これらのマウスの唾液腺中のウイルス負荷を大きく低下させた。感染マウスの肺に関する組織学的試験は、皮細胞破壊(parenchimal destruction)、気管支周囲繊維症および乳房細胞(Globet cell)過形成の徴候と関連する重大な細胞動員からなる、PTX3+/+マウスよりもPTX3-/-マウスにおける、より重症な炎症性病変を明らかにした。しかし、マウスの両方の型において、PTX3による処置により、炎症性応答は大きく改善された(図2C)。これらのデータを併せると、PTX3がMCMVへの宿主免疫応答に関与し、PTX3の外来供給が、決定的な抗ウイルス効果を有し得ることを示唆し得る。
【0066】
同種異系の移植後の潜在的なHCMVの再活性化は、重要な臨床学的問題であり、PTX3の効果を、実験的HSCTにおけるMCMV再活性化において評価した。ドナーまたはレピシエントいずれかのHCMV 血清反応陽性が、免疫媒介性の合併症のリスク増加と関連する可能性があるので(Lancet 2004, Infect Dis. 4:725)、PTX3の活性を、感受性または耐性マウスのいずれかを用いてMCMV+レシピエントまたはMCMV+ドナーのいずれかにおいて評価した。各組合せにおいて、肺における低い生存性および高いウイルス複製によって明らかにされるように、MCMV再活性化が移植後に10〜20日以内で生じた。しかし、PTX3による処置は長期生存およびほとんどウイルス複製がないことから明らかなように、完全にウイルスの再活性化を防止した(図2D)。
【0067】
PTX3はMCMV感染マウスを浸潤性肺アスペルギルス症から保護する
HCMV再活性化は、Aspergillus sppによる重複感染を含む重大な副作用に対して生じる (Oncology (Williston Park) 2000, 14:1701)。
【0068】
既に示しているように、PTX3は、宿主抗真菌性免疫において必須的役割および、PTX3処置により実験HSCTにおいてaspergillosisを防止するという役割を担う(Nature 2002, 420:182)。PTX3によるMCMV-感染マウスの処置もまた、浸潤性aspergillosisのリスクを低下させるかどうかを評価するために、MCMV-感染マウスを、PTX3により1週間処理し、1週間後にAspergillus conidiaを用いて気管内投与により感染させた。この結果は、MCMVによる前感染は、標的臓器中の高真菌負荷から明らかなように、真菌感染性を増加した。しかし、PTX3-処置は、ほぼ完全に真菌増殖を低下させ、抗真菌耐性を復活させた(図2E)。
【0069】
PTX3は、DC/NK反応性を回復させ、MCMV 感染においてサイトカイン産生を促進する
感受性BALB/c マウスのMCMV感染の最も印象的な態様の一つは、脾臓からのCD8α+DCの早期消失であり、このDCサブセットを保持するNK細胞の欠失を理由とするようである(Nat. Immunol. 2001, 2:1077; Nat. Immunol. 2003, 4:175)。
【0070】
CD8α+DCおよびLy49H NK 細胞集団の両方の拡張は、実際には感染において相互に調節される(Mol. Immunol. 2005, 42:547)。
【0071】
そのため、我々は、MCMV感染マウスの脾臓および肺におけるDCサブセットおよびNK細胞の拡大および機能活性に対するPTX3の効果を調べた。図3は、PTX3処置は、一方、両方の臓器(A)においてはCD4+またはCD8+ T細胞の拡張に影響しないが、脾臓(B)においてはCD11c+DCおよびCD8α+DCサブセットを、脾臓および肺(C)の両方においてはNK1.1+ NK 細胞を拡張した。NK細胞を、活性化マーカーCD69(D)の発現増加から明らかなように、完全に活性化した。IFN-γ-産生細胞の頻度およびエキソ・ビボ精製した脾臓のNK細胞の細胞毒性活性を、PTX3処置によって両方を有意に上方調節した(図3E)。PTX3処置は、非感染マウスにおいてNK細胞を拡張および活性化できなかった。
【0072】
MCMV感染におけるNK細胞の早期活性化が、NK細胞の細胞毒性および増殖を促進するIFN-α/βおよびIFN-γ産生を誘導するIL-12によって媒介されるので(J. Exp. Med. 2003, 197:885)、PTX3の存在下でのMCMVに暴露したDCサブセットによるサイトカイン産生のパターンを評価した。非感染BALB/cマウス由来の骨髄派生CD11+DCおよびpDCサブセットを用いれば、DCに対するPTX3の効果と、ウイルスそれ自体に対する効果とを区別できる。DCを、ウイルス感染前にPTX3を用いて前処理するか、または処理せずに、PTX3処理済みMCMVを用いて感染させた。以前からの知見に一致して(Nat. Immunol. 2005, 1011)、ウイルスへの応答の際に、CD11+DCよりもpDCが高いが、両方のDCサブセットはIFN-αおよびIL-12p70を産生した。PTX3は、CD11c+DCのみならず、細胞またはウイルス処置後のいずれかで、両方のサイトカイン産生、特にIL-12p70を増加させ(図4A)、そしてさほど多くないがC57BL6マウス由来のDCにより誘導された。図1のデータと共にこれらデータは、伝染力およびサイトカイン産生が、PTX3によって大きく影響されたCD11+DCとは対照的に、PTX3は、MCMVへの応答においてpDCの伝染性または活性化プログラムどちらにも影響しないことを示した。
【0073】
インビトロでのサイトカイン産生のパターンがインビボで生じるパターンと相関するため、MCMV一次感染マウス由来の脾臓細胞の培養上清におけるIL-12p70、IFN-α、IFN-γおよびIL-10産生を測定し、PTX3で処理した。感受性および耐性マウス間に加えて、PTX3/およびPTX3+/+マウス間のサイトカイン産生のレベルを比較した。PTX3による処置により、感受性マウス(BALB/cおよびPTX3-/-)および耐性マウス(C57BL6 および PTX3+/+)の両方で全てのサイトカインの産生増加をもたらすことが判った(図4B)が、後者において程度は低かった。これらのデータと併せて、PTX3はMCMVへの応答の際にIFN-α依存性経路よりもIL-12-αを促進することが示唆された。また、これは再活性化モデルにおいて確認され、PTX3による保護は、IL-12p70/IFN-γ-依存経路の活性化、特にレシピエントの血清反応陽性条件(図4C)と相関することが確認された。
【0074】
IL-12p70/IFN-γ-依存経路に依存するPTX3の効力
急性MCMV感染におけるPTX3の保護効果におけるIFN-α、IL-12p70およびIFN-γ産生生の相対的役割を直接評価するために、IFN-γ、IL-12 p40およびIFN-αβR欠損マウスにおけるPTX3の相対的な効力を評価した。既に報告されているように(J. Exp. Med. 2003, 197:885)、IFN-γまたはIFN-αβRの欠損は、対応するWTマウスと比べて肺中のウイルス負荷の1以上のlog増加から明らかなように、感染に対する感受性を大きく増加させた。対照的に、IL-12 p40の欠損により、ウイルス負荷を有意に増加しなかった(3.4 x103から4.2 x103に、WT 対 IL-12 p40-/-マウス)(図5A)。PTX3は、IFN-αβR/において1以上のlogのウイルス負荷を阻害し、効果は、WTマウスにおいて見られる効果よりも優れていた。これに対して、抑制活性は、対応するWTコントロールマウスと比べてIFN-γ-/-またはIL-12p40-/-において有意に低下した(PTX3処置後に、IFN-γ-/- では6.3 log10から6log10に vs BALB/c WTにおいて4.8 log10から3.4log10に、およびIL-12p40-/-において3.6 log10から3.4 log10に vs C57BL6 WTにおいて 3.4 log10から2.9 log10に)(図5A)。PTX3により処理したIFN-αβR-/-マウスにおいて、IL-12およびIFN-γの両方を高レベルで産生し、知見は、PTX3の保護効果におけるIL-12p70/IFNγの中心的な優れた役割を確認するものである。
【0075】
PTX3はMCMVのTLR9/MyD88独立性検出を活性化する
効果的な抗MCMV免疫性監視は、機能的TLRシグナルを必要とし、特にTLR9/MyD88シグナル伝達経路は、迅速なMCMVクリアランスについて決定的な役割を持つが、TLR2、TLR3およびTLR4は有意な役割を持つとは思われていなかった(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2004, 101:3516)。急性感染におけるPTX3の効果においてTLRの役割を評価するために、TLR シグナル伝達経路欠損マウスを、MCMVにより攻撃し、肺におけるウイルス複製に供した。公開データに従って(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2004, 101:3516)、TLR9/、特にMyD88/ マウスは、C57BL6マウスよりもMCMVに対してより感受性が高かったが、一方で、TLR2およびTLR4欠損マウスはマウス耐性に有意に影響しなかった(図5B)。TLR9/およびMyD88/ マウスにおいてPTX3が依然有効あっただけでなく、C57BL6マウスに比べ、特にMyD88/マウスにおいて(PTX3処置後にWTにおいて3.4 log10から2.9 log10に vs MyD88/マウスにおいて4.8 log10から3.2 log10、およびTLR9/マウスにおいて3.9 log10から3 log10に)、その効力は明らかに増加した。驚くべきことに、PTX3は、TLR2/およびTLR4/マウスにおいて完全に無効であり、この知見はPTX3による抗ウイルス免疫応答の活性化においてこれらのTLRが関与している可能性を示唆するものであった。またここで、他の文献により既に明らかであるとおり(J. Immunol. 2005, 175:6723)この産生レベルは低いが、PTX3の効力は、MyD88/ および TLR9/ マウス由来の脾細胞の上清において有意に増加するIL-12およびIFN-γのレベルと直接相関し、TLR2/およびTLR4/ マウスにおいて低下した(図5)。この知見は、公開されたデータと一致して、血清中では大幅に欠失するが、遅れてはいあるが、顕著に高レベルのIFN-γの有意な高レベルがMyD88/ および TLR9/ マウスにおいて産生され得ることを示す(J Immunol. 2005, 175:6723)。それ故に、MyD88アダプターがTLR3を除く他の全てのTLRのシグナル伝達にも必要とされるので(Annu. Rev. Immunol. 2003, 21:335)、TLR9以外のTLR経路は、MCMV検出およびその後のPTX3により誘導された応答に関与する。
【0076】
本発明は、ウイルス疾患を(または、ウイルス活性化の阻害のために)処置されている患者に投薬するための、または投薬における使用のための、1以上の単位用量を含む治療個装、ここで各単位用量は1以上の該単位用量の断続的投与が、例えばHCMVなどに有効であるように個装中に長いペントラキシンPTX3の量を含む治療個装、ならびに最終的な医薬容器、ここで該容器は長いペントラキシンPTX3が患者(例えば、HCMV罹患患者)の処置に対する表示を示す標識をさらに含有するかまたは含むことができる容器を意図している。
【0077】
さらに、本発明は、梱包材および該梱包材内に含有された長いペントラキシンPTX3を含む製品を検討するものであって、ここで該長いペントラキシンPTX3はHCMVを処置するために治療上有効であり、該個包装材は長いペントラキシンPTX3がHCMVを処理するのに使用できる。
【0078】
本発明の使用において、用語「処置」または「処置すること」は、重症なウイルスの疾患に関する進行、活性化または退縮の、予防、禁止、軽減、阻害、改善、停止、法律規制、遅延または抑制を包含する、その通常の意味をもつ。
【0079】
本発明に従って、用語「有効量」は、目的とする結果を為し得る化合物の量を指す。例えば、ウイルスの疾患を処置する目的で投与される有効量の長いペントラキシンPTX3は、重症なウイルス疾患の進行を予防、禁止、緩和、改善、中止、遅延または逆転させるのに必要な量であり、かかりつけ医師の判断に従い、投与されるべき一日用量は対象患者の体重、年齢および患者の一般的条件に依拠する。
【0080】
また、本発明は、医薬担体との関連において、活性成分として長いペントラキシンPTX3を含有する医薬製剤を用いる方法を包含する。当業者は、かかる処方およびその製造を知っており、例えばREMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES,(16th ed.1980)を参照されたい。
【0081】
製剤は、活性成分の単位用量形態で製剤されるのが好ましい。用語「単位用量形態」は、ヒト対象に対する適切な単位用量を物理的に分配することを指し、各単位は、適切な医薬賦形剤との関連において所望の治療効果を与えるように計算された所定の量の活性材料を含有する。
【0082】
長いペントラキシンPTX3は、医薬上許容し得る担体または賦形剤との組合せにおいて、医薬組成物の形態で投与され得る、この比率および性質は、選択された担体および/または賦形剤、選択された投与経路および標準的医薬実施において、化合物の溶解性および化学特性により決定される。
【0083】
医薬組成物を、医薬分野ではよく知られている様式で調製した[例えば、REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES, (16th ed. 1980)を参照されたい]。
【0084】
担体または賦形剤とは、活性成分のためのビヒクルまたは培地としての役割をもつ固体、半固体または液体材であり得る。好適な担体または賦形剤は当業者にはよく知られている。医薬組成物は、経口、吸入、非経口または局所使用に適合され得る、錠剤、カプセル、エアゾール、吸入剤、座薬、溶液、懸濁液、リポソーム等の形態で患者に投与され得る。
【図面の簡単な説明】
【0085】
図面の考察
【図1】図1;PTX3が結合して、インビトロでCMVおよびインフルエンザウイルスの複製を阻害する(A)ヒト(HCMV)またはマウス(MCMV)ウイルスへのビオチン標識PTX3 (PTX3bio+)の結合。様々な濃度の非ビオチン化PTX3 (PTX3bio-)を、2時間37℃でHCMV Ag被覆またはMCMV被覆プレートに添加し、その後さらに2時間37℃にて様々な濃度のPTX3bio+ を添加した。ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ基質キットを用いて、光学密度を450 nmで読んだ。*P <0.05、1または0.5μg/mL vs 5 μg/mL PTX3bio+; **P < 0.05、PTX3bio-を含むPTX3bio+ およびPTX3bio-を含まないPTX3bio-。バーは標準偏差を示す。ウイルス複製の阻害のために、MEF細胞を、処理せずに非処理MCMVを用いて感染させ(0)、処理せずに5-0.5 μg/mL PTX3により前処理したMCMVを用いて感染させる(V)、または5-0.5 μg/mLPTX3を用いて予めインキュベート(C)した後に、非処理MCMVを添加した。-、非感染細胞。MCMV gB 転写物発現を感染後の72時間リアル・タイムPCRにより評価した。結果は、3つの独立実験のうちの1つの代表的な実験を示す。(B)ヒトH3N2インフルエンザウイルスへのPTX3bio+の結合。H3N2被覆プレートを、上記したとおりPTX3bio-の後にPTX3bio+を添加した。*P < 0.05, PTX3bio-を有するPTX3bio+およびPTX3bio-を有さないPTX3bio+。バーは標準偏差を示す。ウイルス複製の阻害について、MDCK細胞を0.5-5μg/mL PTX3により前処理したH3N2を用いて感染させ、ウイルス複製を標準プラークアッセイにより評価した。結果は3つの独立実験のうち1つの代表的な実験を示す。(C)DCを、GM-CSF(CD11+DC)またはFlt3L(形質細胞様、pDC)の存在下で、MCMVにより感染(MCMVとして示した)させたBALB/cマウスの骨髄前駆細胞から作成し、光学顕微鏡により形態学および上記のとおりリアル・タイムPCRによるウイルス複製について、48時間後に評価した。細胞を、感染前に2時間37℃で、5μg/mL PTX3(PTX3+MCMVaとして示す)またはPTX3処理ビリオン(PTX3+MCMVbとして示す)に暴露した。-、非感染細胞。
【0086】
【図2】図2:PTX3はインビボのCMV感染および再活性化を保護する (AおよびB)動物を、MCMVの105 (BALB/c)、5 x 105(C57BL6、PTX3+/+およびPTX3/) PFUを用いて腹腔内感染させた。ウイルス力価を、様々な時点で採取した組織に対する標準プラークアッセイにより、MEF 細胞に対して定量した。PTX3およびGCVを投与して、その日を感染開始日とする。コントロールは希釈液のみ受容した。ウイルスの力価をlog10として表した(平均±標準偏差、SE)。結果は4つの独立試験を表す。(C)MCMVにより感染させ、上記したようにPTX3 (+)または希釈液 (-)で一週間処理したPTX3+/+ および PTX3-/-マウスからの過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色した肺切片の組織学的分析。実質細胞破壊(parenchimal destruction)、気管支周囲繊維症(peribrochial fibrosis)および乳房(Globet)細胞過形成の徴候と関連する細胞動員は、PTX3+/+マウスよりもPTX3-/-マウスにおいて見られ、PTX3処理により改善された。処置1日後に組織分析を行った。全てのパネルにおいて、倍率x 10。(D) BALB/c または C57BL6 マウスを、上記したようにMCMVを用いて感染させた。3ヶ月後に、MCMV潜伏を、脾臓および肺において急性MCMV感染が存在しないことにより確認した。同種異系ドナー非感染骨髄細胞(MCMV+ レシピエント)のレシピエントまたは非感染レシピエント中に注入されるべき骨髄細胞(MCMV+ ドナー)のドナーいずれかとして、感染マウスを使用した。PTX3 (1mg/kg/腹腔内)を、HSCT後の翌日を開始日とし、2週間毎日与えた。死亡しかけたマウスまたは生存マウス(HSCT30日後に屠殺した)を、プラークアッセイにより肺内のMCMVウイルス負荷について評価した。MST、メディアン生存時間(日数)。バーは標準偏差を示す。*P < 0.05、処置マウスおよび非処理マウスの間の肺内のウイルス負荷。(E)MCMV-感染BALB/c マウスを、Aspergillus conidiaをウイルス感染後2週間静脈内投与にて与え、その後一日に一回PTX3による処置(1mg/kg/腹腔内)を一週間与えた。真菌増殖の定量を、キチンアッセイにより、感染3日後に行い、結果をキチン含量(グルコサミンμg/臓器)として表した。バーは標準偏差を示す。*P < 0.05、MCMV-感染vs-非感染マウスにおける真菌負荷。**P < 0.05、PTX3-処理 vs 非処理 MCMV-感染マウスにおける真菌負荷。
【0087】
【図3】図3:PTX3はインビボでの樹状細胞およびNK細胞の活性化を促進する 非処理(-)またはPTX3 (1mg/kg/腹腔内)による一週間処置(+)の翌日のMCMV-感染BALB/cマウス由来の全ての脾臓および肺細胞(A、C)、脾臓DC(B)、脾臓および肺NK細胞(D)の表現型分析。非感染マウスなし。数字はFACS分析での陽性細胞のパーセンテージを表す。(E) 上記のとおりに処理し、感染させたBALB/c マウス由来の、ELISPOTアッセイによるIFN-γ-産生脾臓NK細胞の細胞毒性の活性(YAC-1標的に対する標準的な51Cr-放出アッセイ)および頻度。バーは標準偏差を示す。*P < 0.05、感染マウス vs 非感染マウス。**P < 0.05、PTX3-処理 vs 非処理感染マウス。示した結果は、5つの独立実験のうちの3つの代表的な実験を表す。
【0088】
【図4】図4:PTX3はサイトカイン産生を促進する(A) DCを、GM-CSF(CD11c+ )またはFlt3L (pDC)の存在下にBALB/c マウスの骨髄前駆細胞から作成した。サイトカイン産生のために、DCを、5 μg/mL PTX3に予め暴露して後感染(a)させるか、または処理せずにPTX3-処理ウイルス(b)を用いて感染させた。培養上清中のサイトカインを、ELISAアッセイにより決定し、pg/mLとして表した。バーは標準偏差を示す。*P < 0.05、MCMV-感染DC vs 非感染DCにおけるサイトカイン産生。**P < 0.05、PTX3処理ウイルスにより感染したDC vs PTX3-処理したDC。(B) MCMV感染中のマウスにおけるサイトカイン産生。MCMV一次感染し、PTX3により処理されたマウス由来の脾臓細胞由来の培養上清中のサイトカインレベル(pg/mLとして)。*P < 0.05、PTX3処理 vs 非処理マウス。(C) MCMV再活性化モデルにおけるサイトカイン産生。BALB/cまたはC57BL6 マウスを、MCMVにより感染させた。同種異系のドナー非感染骨髄細胞のレシピエント(MCMV+ レシピエント)または非感染レシピエント中に注入されるべき骨髄細胞のドナー(MCMV+ ドナー)として、感染マウスを使用した。PTX3 (1mg/kg/腹腔内)を、HSCT後のその日を開始日とし、2週間毎日与えた。脾臓細胞の培養上清中のサイトカイン (pg/mL) レベルを、ELISAアッセイにより決定した。バーは標準偏差を示す。*p < 0.05、PTX3処理マウス vs 非処理マウス。
【0089】
【図5】図5:PTX3活性はIL-12/IFN-γ-依存性およびTLR9/MyD88非依存性である。(A) MCMV 感染およびPTX3 処置に対する、BALB/c、IFN-γ/、C57BL6、IL-12p40/およびIFN-γ/ マウスの感染およびウイルス負荷。動物を、MCMVの105(BALB/c、IFN-γ/)、5 x 105 (C57BL6、IL-12p40/およびIFN-αβ/) PFUを用いて腹腔内感染させた。ウイルス力価を、感染7日後に取り出した肺組織に対する標準プラークアッセイによりMEF細胞で定量した。PTX3 (1mg/kg/腹腔内)を投与して、感染を開始し、一日に一回一週間投与した。コントロールは希釈液のみ受容した。ウイルス力価はlog10として表す。バーは標準偏差を示す。*P < 0.05、MCMV処理マウス vs MCMV 非処理マウス。結果は4つの独立試験を表す。(B) PTX3により処理したC57BL6、TLR2/、TLR4/、TLR9/およびMyD88/マウスにおけるMCMV複製。マウスを、上記のように処理したMCMVおよびPTX3の5 x 105(C57BL6、TLR2/、TLR4/、TLR9/、MyD88/) PFUを腹腔内に接種した。肺MCMV力価を、プラークアッセイにより感染1週間後に決定した。コントロールは希釈液のみ受容した。ウイルスの力価をlog10として表した。バーは標準偏差を示す。*P<0.05、MCMV処理マウス vs MCMV 非処理マウス。結果は4つの独立試験を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物対象におけるウイルス疾患の予防および/または処置のための医薬調製のための、長いペントラキシンPTX3の使用。
【請求項2】
ウイルス活性化の阻害のための、請求項1記載の使用。
【請求項3】
ウイルスが、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、パラミクソウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、コロナウイルス、HIVウイルス、肝炎ウイルスまたはロタウイルスからなる群から選択される、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
ヘルペスウイルスがサイトメガロウイルス(CMV)であり、インフルエンザウイルスがH1N1、H3N2、H5N1またはH5N7からなる群から選択され、パラミクソウイルスが麻疹ウイルスウイルスであり、コロナウイルスがSARSである、請求項3記載の使用。
【請求項5】
サイトメガロウイルス誘発症候群を処置するための請求項1記載の使用であって、ここで、
該症候群がCMV単核症であり;
該症候群が免疫不全宿主と関連があり;
該免疫不全宿主がAIDSに罹患しており;
該免疫不全宿主が臓器移植レピシエントである、使用。
【請求項6】
インフルエンザ誘発症候群を処置するための、請求項1記載の使用。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−529563(P2009−529563A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558765(P2008−558765)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051889
【国際公開番号】WO2007/104646
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(306032202)テクノジェン・ソシエタ・ペル・アチオニ (5)
【氏名又は名称原語表記】TECNOGEN S.p.A.
【Fターム(参考)】