説明

エキソンスキッピングを誘発する為の手段及び方法

【課題】エキソン内部AONを用いてエキソンスキッピングを最適化するための手段及び方法の提供。
【解決手段】スキッピング効率が、エキソン内の推定上のスプライシング調節配列(ESE)を標的とすることによる改善。そのような二重標的化は特に、以前には効率的なスキッピングを得ることが困難であったエキソンについて特に有用。成熟mRNAのエキソン含有前駆体を産生する細胞内で、該mRNAからエキソンが排除される該効率が増加されうるかどうかを決定する方法であって、該細胞に、該エキソンのエキソン内部部分とハイブリダイズすることができる第1のアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を与えること、及び、該エキソンの他のエキソン内部部分とハイブリダイズすることができる第2のAONを該細胞に与えたときに該効率が増加されるかどうかを決定することを含む上記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴヌクレオチド及びその等価物、並びにmRNAからのエキソンの排除を誘発するためにそれらを使用する方法に関係する。
【背景技術】
【0002】
アンチセンス技術が近年、相当に開発された。アンチセンス技術の一般的な分野は、いくつかの領域に分けられうる。これらの領域の一つは、エキソンスキッピングの分野である。
【0003】
この分野において、1つのメッセンジャーRNA(mRNA)のスプライシングを特異的に干渉する為に、より特には成熟mRNA中の特定のエキソンの組み込み又は組み込みの欠如を干渉する為に、小さな分子が細胞に加えられる。
【0004】
エキソンスキッピングの分野において、2つの一般的なアプローチが区別されうる。1つのアプローチは、スプライシングの酵素的過程、すなわちエキソン配列の物理的な連結を干渉することに焦点を当てる。他のアプローチは、スプライシング過程の「ロジスティクス」、すなわちスプライシング機構によるエキソンの認識を干渉することに依存する。両方のアプローチは、所望の効果を得るために、小さな分子を使用する。該小さな分子は全て、相補的配列と「ハイブリダイズ」することができるための、核酸の特徴を共有する。そのような小さな分子の例は、もちろん、RNA及びDNAであり、並びに、LNA及びモルフォリノのような修飾されたRNA及びDNAでもあり、並びに、PNAなどの核酸模倣体である。これらの分子はさらに、一般的な語「小分子」と呼ばれ、又は、よりしばしば用いられる語「アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)」と呼ばれる。
【0005】
該小分子は、前駆mRNA上の特定の位置へとハイブリダイズすることによって作用すると考えられる。該ハイブリダイゼーションは、スプライシングの酵素的過程又はエキソンの認識を干渉すると考えられる。
【0006】
現在は、エキソンスキッピングは、成熟mRNAからの1以上のエキソンの特異的排除に焦点を当てる。しかしながら、他のエキソンがmRNAに含まれるようなスプライシング機構に向け直すことも可能である。例えば、このアプローチは、選択的スプライシングに向けられる遺伝子において使用することである。これらの状況において、特定の選択物がより効率的に作られるようにスプライシング機構を向け直す小分子が設計されうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明において、エキソンスキッピングプロセスがより効率的になされうることが発見された。エキソンスキッピングについてのより早期の研究の多くは、ジストロフィン遺伝子におけるエキソンスキッピングに対して向けられるAONを用いてなされた。現在までに、我々は、培養された筋細胞内の、35のエキソンのスキッピングを誘発する為の、114のエキソン内部AONの一連を同定した(14)。我々のデータは、エキソンのスプライシングエンハンサー(ESE)部位への、セリン/アルギニンに富む(SR)タンパク質ファミリーのメンバーが結合することの立体障害によって、有効なエキソン内部AONが作用する傾向にあることを示す(15)。SRタンパク質は、エキソン配列モチーフに結合し、そして、他のスプライシング因子を募って、スプライシングを媒介する(19)。我々が研究した多くのエキソンについて、単独のESEのAON標的化が、有意な水準のエキソンスキッピングを誘発する為に十分であった(14)。しかしながら、いくつかのエキソンについては、スキッピング効率は、低い〜ゼロであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、我々は、スキッピング水準が、2以上のエキソン内部AONによってエキソンを標的とすることにより改善されることを実証した。この目的の為に、本発明は、成熟mRNAのエキソン含有前駆体を産生する細胞内で、該mRNAからエキソンが排除される該効率が増加されうるかどうかを決定する方法であって、
該細胞に、該エキソンのエキソン内部部分とハイブリダイズすることができる第1のアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を与えること、及び、該エキソンの他のエキソン内部部分とハイブリダイズすることができる第2のAONを該細胞に与えたときに該効率が増加されるかどうかを決定することを含む上記方法を提供する。該効率増加は好ましくは、いずれかのAON単独の効率と、水準を比較することにより決定される。語「増加した効率」は、本明細書において用いられるときに、(i)標的エキソンが排除されるmRNAの量がいずれかのAON単独によるよりも高い状況、又は(ii)標的エキソンの排除が該細胞において検出されることができる期間が増加される状況、又は(iii)両方の組合せの状況をいう。本発明の方法は、単独のAONを用いるエキソンスキッピングの方法と比較したときに、付加的な頑強さも提供する。それ故に、本発明はさらに、細胞により産生される前駆mRNAにおけるエキソンスキッピングを誘発する方法であって、該前駆mRNA上のエキソンの異なるエキソン内部部分とハイブリダイズすることができる少なくとも2のAONを該細胞に与えること及び該細胞を培養して該前駆mRNAのスプライシングを許すことを含む上記方法を提供する。
【0009】
配列は通常、該配列が最後には成熟mRNAとなる前駆mRNAの一部である故に、エキソンといわれる。前駆mRNAは、少なくとも1のイントロンを含む。最初のエキソンはキャップ部位を含む一方で、最後のエキソンは典型的にポリAシグナルを含む。本発明において、エキソンスキッピングは選択的に内部エキソンに向けられる。内部エキソンは、エキソン2〜エキソンn−1のいずれか1つであり、ここでnは該前駆mRNA内のエキソンの総数である。エキソンがスキップされるとき、それはもはや成熟mRNAへと含まれない。この特徴は、該配列がもはやエキソンでなくむしろイントロン(の一部)であることを意味するとしてもみなされうる。それ故に、エキソンは、本明細書において、前駆mRNA中に存在する配列であって、該エキソンのスキッピングを誘発するAONを、該前駆mRNAを発現する細胞が与えられないときに、該細胞のスプライシング機構により、成熟mRNAへと組み込まれる上記配列として定義される。それ故に、本発明におけるエキソンスキッピングの方法は、エキソン配列をイントロン配列へと変える方法としても言われ、代わりに、本発明の方法は、該エキソン配列が、隠されたときに、細胞のスプライシング機構によりエキソンとしてもはや認識されないようにエキソン配列を隠す方法である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A−1】エキソンとAONの配置を示す図である。
【図1A−2】エキソンとAONの配置を示す図である。
【図1B】エキソン47についてのRT−PCRの結果を示す図である。
【図1C】エキソン57についてのRT−PCRの結果を示す図である。
【図1D】エキソン45についてのRT−PCRの結果を示す図である。
【図1E】エキソン2についてのRT−PCRの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
細胞は、多くのさまざまな方法において、AONを与えられうる。好ましい実施態様において、該AONは、遺伝子デリバリー媒体、好ましくはリポソームへと、該AONを組み込むことにより該細胞へ与えられる。他の好ましい実施態様において、該AONは、該AON又はその前駆体を発現するベクターにより該細胞へ与えられる。好ましい実施態様において、該ベクターは、ウィルス性ベクター、好ましくはアデノ随伴ウィルスベクターを含む。すなわち、本発明はさらに、同じエキソンに特異的な少なくとも2のエキソン内部AONを含む遺伝子デリバリー媒体を提供する。
【0012】
該エキソンをスキップする為に同じエキソンに特異的な少なくとも2のエキソン内部AONを用いることは、本発明の方法をより頑強にする。さらに、それは、ただ1つのAONを用いたときに効率的にスキップしないエキソンの効率的なスキッピングを許す。理論にとらわれることなく、エキソン内部AONは、エキソンのスプライスエンハンサー(ESE)部位に結合するいわゆるSR(Ser−Arg)タンパク質が結合することを邪魔することによりエキソンのスキッピングを誘発することが考えられる。本発明において、とりわけ、エキソンは、いわゆる独立性ESE部位を含みうることが発見された。これは、1のESE部位の活性が、例えば該エキソン上のAONの存在により、ブロックされ又は邪魔されたときに、該エキソン上の他の独立性ESEは機能的なままであることを意味する。このESEが機能的なままであるので、該エキソンはmRNAへとなお効率的に組み込まれる。この効果は、該エキソン上の独立性ESE部位の全てを標的とすることにより、相殺されうる。この場合、ESE部位の本質的に全てが、AONにより標的とされ、それにより該ESE部位へSRタンパク質が結合することをブロックし又は邪魔し、これは結果として、このように標的とされたエキソンの効率的なスキッピングをもたらす。ESE部位をブロックすること又は邪魔することは、種々の方法において達成されうる。例えば、該AONのハイブリダイゼーションは、SRタンパク質がもはや該ESE部位に結合することができないように、エキソンの二次構造を変えうる。好ましい実施態様において、該AONは、標的エキソン上の予測されたESE部位の少なくとも一部と重複する。このようにして、該部位へSRタンパク質が結合することが、そこへの該AONのハイブリダイゼーションにより立体的にブロックされる。該AONが、少なくとも1の予測されたESE部位に重複することが好ましい。予測されたESE部位は、クラスター形成する傾向を有するので、該AONが、該エキソン上の少なくとも2及び好ましくは少なくとも3つの予測されたESE部位と重複することが好ましい。すなわち、好ましい実施態様において、該エキソンのRNA上の該第1のAONのハイブリダイゼーション部位は、該エキソンRNA上の少なくとも1の予測されたESE部位と重複する。好ましくは、該エキソンRNA上の該第2のAONのハイブリダイゼーション部位は、該エキソンRNA上の少なくとも1の予測されたESE部位と重複する。該第1及び該第2のAONを、該エキソンRNA上のただ一つの予測されたESE部位に向けることは好ましくない。これが事実であることもあり得るが、該第1のAONは、該第2のAONと異なるESEを標的とすることが好ましい。これは、種々の方法で達成されうる。同じESEを標的とすることは好ましくは、該エキソンRNA上の該AONのハイブリダイゼーション部位におけるかなりの重複を回避することにより回避される。すなわち、好ましくは、該第1のAONのハイブリダイゼーション部位と該第2のAONのハイブリダイゼーション部位とは、5未満の連続するヌクレオチドの重複を示す。より好ましくは、該部位は、3未満及びより好ましくは1未満の重複を有し又は重複を有さない。そのような重複は、AONの選択により容易に回避されうる。本発明のAONは好ましくは、該エキソンRNAに対する線状且つ連続的なハイブリダイゼーション部位を有するので、重複は好ましくは、用いられるAONにおけるかなりの配列同一性を回避することにより回避される。この点において、該第1の及び該第2のAONが、5未満の連続するヌクレオチド配列同一性を有することが好ましい。好ましくは該エキソンRNA上の該第1及び該第2のハイブリダイゼーション部位は、3未満の連続するヌクレオチドの重複、より好ましくは2未満、及び好ましくは1未満のヌクレオチドの重複を有し又は重複を有さない。同様に、該第1の及び該第2のAONは好ましくは、3未満の連続するヌクレオチド配列同一性、より好ましくは2未満、及び好ましくは1未満のヌクレオチド配列同一性を有する。好ましい実施態様において、該エキソンは、少なくとも2の独立性ESE部位を含む。該第1のAONは好ましくは、少なくとも2の独立性ESE部位を標的とし、及び該第2のAONは、その第2を標的とする。
【0013】
本明細書において用いられるときの条件「配列同一性」は好ましくは、ヌクレオチドA、C、G又はTを用いる同定をいい、ここでTはUにより置き換えられうる。近年、多くの様々なヌクレオチド類似体が作られた。これらのいくつかは、言及された古典的又は天然のヌクレオチドと質及び量において同じ結合特性を有する。しかしながら、それらの多くは質において結合特性を模倣するが、量においては模倣しない。多くの場合、相補的ヌクレオチドへの類似体の結合強度は、対応する古典的ヌクレオチドのそれよりも低い。2以上の古典的なヌクレオチドの結合特性を模倣する類似体もあり、そして、核酸に効率的に組み込まれるが、対立する鎖の特定の古典的ヌクレオチドとの、有意な選択性又は結合性を示さないヌクレオチド類似体もある。当技術分野の当業者は、これら及び同様の類似体の詳細に詳しく、そして、本発明のAONにおいて、該AONが該エキソンRNA上のハイブリダイゼーション部位へとハイブリダイズすることができる限りにおいてそれらを使用することができる。
【0014】
本発明のAONは好ましくは、14〜40のヌクレオチド又はその類似体を含む。好ましくは該AONは、14〜25のヌクレオチド又はその類似体を含む。本発明のAONは好ましくは、10%未満のヌクレオチド類似体を含む。AONは好ましくは、4未満、好ましくは3未満、より好ましくは2未満のヌクレオチド類似体を含む。
【0015】
本発明のAONは好ましくは、修飾オリゴヌクレオチドである。特に好ましい実施態様において、該AONは、1以上の2’−O−メチルオリゴリボヌクレオチドを含み、これはRNase Hにより誘発される、DNA/RNAハイブリッドの分解に対して、該AONを耐性にする。加えて、ホスホロチオエート骨格が、ヌクレアーゼに対するAONの安定性を増加する為に及び細胞の取り込み増強する為に、用いられうる。本発明のAONは、好ましい実施態様において、完全長ホスホロチオエート骨格を有し、且つ、全塩基(ヌクレオチド)は、2’−O−メチル修飾を有する。代わりに、モルホリノホスホロジアミデートDNA(モルホリノ)、ロックド核酸(LNA)、及びエチレン架橋核酸(ENA)オリゴが、スプライシングを調節するために用いられている。それ故に、本発明のAONは、これらの修飾も有することができる。これらの修飾は、該オリゴにRNase H耐性及びヌクレアーゼ耐性を与え、そして、標的RNAについての親和性を増加する。ENA及びLNA修飾に関して、この増加は、減少された配列特異性を伴う。
【0016】
エキソンのエキソン内部部分は、該エキソンの5’−又は3’−末端との重複を示さない部分である。エキソンの5’−及び3’−末端は、該エキソンの連結領域と関連のある配列情報を含む。該エキソンのエキソン内部部分は、該エキソン境界への内側の少なくとも1、及び少なくとも2、及びより好ましくは少なくとも5のヌクレオチドである。エキソン内部AONは、本明細書上記で定義されたとおりのエキソン内部部分に加えて、該エキソンの境界へ延びる又は該エキソンの境界を越えて延びるヌクレオチドも有しうる。しかしながら、これは好ましくは当てはまらない。
【0017】
本発明の方法は好ましくは、該第2のAONを該細胞に提供することが、該成熟mRNAの前駆体を産生する細胞内で該mRNAから該エキソンが排除される該効率を増加するときに、AONの1セット中に該第1及び該第2のAONを含めることを、さらに含む。該セットは、その後好ましくは、該前駆mRNAを発現する標的細胞においてエキソンスキッピングを得るために用いられる。本発明は、少なくとも2のAONを含む1セットも提供し、ここで少なくとも該AONの第1は、エキソンのエキソン内部部分とハイブリダイズすることができ、且つ、該AONの第2は、該エキソンの他のエキソン内部部分へとハイブリダイズすることができる。本発明の好ましい実施態様において、該セットは、本発明の方法により得られる。特に好ましい実施態様において、該AONの該第1及び該第2は、該エキソンRNA上のESE部位に向けられる。より好ましくは、該AONの該第1及び該第2は、該エキソンRNA上の独立性ESE部位に向けられる。
【0018】
本発明の1セットは、多くの方法において用いられることができる。1つの実施態様において、該セットは、細胞内の異常タンパク質の産生を少なくとも部分的に減少する為に用いられる。そのようなタンパク質は、例えば、がんタンパク質又はウィルスタンパク質でありうる。多くの腫瘍において、がんタンパク質の存在だけでなく、その相対的発現水準も、腫瘍細胞の表現型に関連している。同様に、ウィルスタンパク質の存在だけでなく、細胞内のウィルスタンパク質の量も、特定のウィルスの病原性を決定する。さらに、ウィルスの効率的な複製及び伝播について、細胞内の或るウィルスタンパク質の、ライフサイクルにおける発現の時期及び量におけるバランスが、ウィルスが効率的に又は非効率的に産生されるかどうかを決定する。本発明の1セットを用いて、例えば腫瘍細胞がより腫瘍原性(転移性)でなくなるように及び/又はウィルスに感染した細胞がより少ないウィルスを産生するように、細胞内の異常タンパク質の量を低めることが可能である。
【0019】
好ましい実施態様において、本発明の1セットは、該異常タンパク質を、機能的タンパク質へと変える為に用いられる。1つの実施態様において、該機能的タンパク質は、通常は、細胞内に存在するが、処理されるべき細胞内において不在であるタンパク質の機能を実行することができる。非常にしばしば、機能の部分的な回復が、このように処理された細胞の有意に改善された性能を結果する。該より良い性能に起因して、そのような細胞は、修正されていない細胞を超える選択的な利点も有することができ、すなわち該処理の有効性の助けとなる。本発明のこの局面は特に、欠陥遺伝子の発現の回復に適する。これは、標的エキソンの特異的なスキッピングを引き起こすことにより、すなわち有害な変異(典型的にはストップ変異又はフレームシフト点変異、翻訳終結をもたらす単独エキソン又は複数エキソンの欠失又は挿入)を迂回すること又は修正することにより達成される。
【0020】
遺伝子導入戦略と比較して、エキソンスキッピング遺伝子治療は、はるかに小さい治療的試薬(典型的には、約14〜40ヌクレオチドを含む又は模倣するAONだが、これらに限定されない)の投与を必要とする。好ましい実施態様において、14〜25のヌクレオチドのAONが用いられる。なぜなら、これらの分子は製造することがより容易であり、且つ、より効率的に細胞に入るからである。本発明のセットは、有効且つ安全なエキソンスキッピング戦略及び/又は投与系の続く設計において、より多くの柔軟性を許す。AONの遺伝子機能回復セットの重要な追加の利点は、それが、内因性遺伝子の活性(の少なくとも一部)を回復することであり、これはその遺伝子制御回路のほとんど又は全てをなお有し、すなわち適切な発現水準及び組織特異的アイソフォームの合成を確保する。
【0021】
本発明のこの局面は原理的には、任意の遺伝子疾患又は遺伝子疾病素因に適用されることができ、ここで標的とされた特定のエキソンのスキッピングが、翻訳読み枠が最初の変異により破壊されているときに翻訳読み枠を回復する。この適用は特に、内部的にわずかに短い又は変化されたタンパク質の翻訳が完全に又は部分的に機能的であるときに有用である。この適用が治療的価値を有しうるための好ましい実施態様は:がん抑制遺伝子における第2のヒット変異(second hit mutation)への素因、例えば乳がん、大腸がん、結節硬化、神経線維腫症などに関係する癌抑制遺伝子における第2のヒット変異への素因であり、ここで活性の(部分的な)回復が第2のヒット変異による零染色体性の出現を妨げ、そしてすなわち腫瘍発生から保護するだろう。他の好ましい実施態様は、疾患を引き起こす直接的な効果を有する欠陥遺伝子産物の(部分的な)回復に関し、例えば血友病A(凝固因子VIII欠乏)、(サイログロブリン合成欠損に起因する)先天性甲状腺機能低下病のいくつかの形態、及びデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)(X連鎖性ジストロフィン遺伝子におけるフレームシフトする欠失、重複及びストップ変異が重度の進行性筋肉分解を引き起こす)である。DMDは典型的には、後期青年期又は早期成人期において致死であるが、他方で、同じ遺伝子におけるフレームシフトしない欠失又は重複は、はるかにより穏やかなベッカー型筋ジストロフィー(BMD)を引き起こし、35〜40年から正常までの平均余命に対応する。DMDに適用されるときの実施態様において、本発明は、読み枠を回復する為に及び内部的にわずかに短いがなお機能的なタンパク質を産生する為に必要とされる数の隣接エキソンによって、存在する欠失をエキソンスキッピングが延長できるようにする(又は存在する重複のmRNA産物をエキソンスキッピングが変えることができるようにする)。この誘発された欠失と同等のものを有するBMD患者におけるはるかにより穏やかな臨床症状に基づき、DMD患者における疾患は、AON治療後にはるかに穏やかな経過を有するだろう。本発明のセットの多くの臨床的用途を考慮すると、本発明の方法は好ましくはさらに、ヒト細胞に該セットを与えることを含む。一つの実施態様において、本発明は、本発明の方法により得られるAONの1セットを提供する。好ましい実施態様において、該セットは、表1または表2の少なくとも1のAONを含む。好ましい実施態様において、本発明は少なくとも表1及び/又は表2のAONを含む1セットを提供する。
【0022】




【0023】
1の局面において、本発明はさらに、腫瘍、ウィルス感染及び/又は遺伝性疾患及び/又は遺伝性素因を患う個体の処置の為の方法であって、該個体に本発明のAONの1セットを投与することを含む上記方法を提供する。本発明はさらに、本発明に従うAONの1セットを含む医薬組成物を提供する。好ましくは、該セットは、腫瘍、ウィルス感染及び/又は遺伝性疾患及び/又は遺伝性素因を患う個体の処置の為に用いられる。好ましくは、該セットは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の処置の為に用いられる。
【0024】
本発明は、mRNAのエキソン含有前駆体を産生する細胞も提供し、ここで該細胞は、該エキソンのエキソン内部部分にハイブリダイズすることができる第1のAON及び該エキソンの他のエキソン内部部分にハイブリダイズすることができる第2のAONを含む。
【実施例1】
【0025】
結果と考察
【0026】
1つのエキソン内の二重標的化
我々は、1つのエキソン内の複数のESEを標的とすることにより、単独のAONを用いて高い水準でスキップされることができないエキソンについて、スキッピング効率が増加されうると仮定した。(ESEファインダー(ESE finder)により予測されたとおりの)推定上のESEへのAONの相対的な位置は、表1Aにおいて、これらのエキソンの夫々について描かれる。
【0027】
我々は最初に、2のスキップできないエキソン(エキソン47及び57)について二重標的化を試験した。これらのAONの種々の組み合わせにより、ヒトの対照筋管培養物が処理されたときに、エキソン47及び57のスキッピングの有意な水準が、RT−PCR分析により測定されたとおりに達成されることができた(図1BC、補足表1)。興味深いことに、エキソン47については、重複がないAONの組み合わせだけが、エキソンスキッピングを誘発した一方で、重複するそれらは、無効であった(補足表1)。同様に、エキソン57について、もう少しで重複するAONの組み合わせ(h57AON1及び2)は、エキソンスキッピングを誘発しなかった。これは、2つの相互に排他的なESE部位がこれらのエキソン内に存在するという我々の仮説に合う。
【0028】
エキソン2及びエキソン45について、単独のAONが再現性よく、低い水準のエキソンスキッピングを誘発した(夫々、h2AON1及びh45AON5)。エキソン45スキッピングの相当に高い水準が、有効なh45AON5と無効なAONとを組み合わせることにより、並びに個々には無効な2のAON(例えばh45AON3及びh45AON9)を組み合わせることにより、誘発されることができた(図1D)。すなわち、このエキソンについて、2の有効なESEが、同様に存在しそうである。対照的に、エキソン2について、AONの組み合わせは、スキッピング効率を増加しなかった。実際には、有効なh2AON1と無効なh2AON2との組み合わせが、エキソン2スキッピングを無効にした(図1E)。この干渉は、h2AON1と(h2AON2より少なく重複する)h2AON3との組み合わせに関して観察されなかった。エキソン43及び48について、有効なAONは、スキッピングの中程度の水準だけを誘発した。これらのエキソンについて、スキッピング水準は、AONの組み合わせを用いることにより増加されることはできなかった(補足表1)。これらのエキソンにおいて、3又はさらにより多いESEが存在しうる。それ故に、我々は、3の異なるAONの組み合わせによりエキソン48を標的とし、これはなおスキッピング水準を改善しなかった。すなわち、このエキソンのスプライシングは主として、ESE部位に依存しない。これは、該予測されたスプライス部位が、完全である(3’スプライス部位)又はほぼ完全である(5’スプライス部位)こと及び少数のESEだけがエキソン48について予測されることにより支持される。
【0029】
最後に、我々はエキソン46特異的AONの組み合わせを用いた。このいくつかは、個々にすでに非常に効率的であった。我々は、(ほぼ)100%へスキッピング水準を増加することを目標とした。しかしながら、用いられた組み合わせのいずれもが、単独の標的化と比較して、スキッピング水準をさらに改善しなかった(補足表1)。これは、1のESE部位のブロッキングが、このエキソンの正確なスプライシングを撹乱するのに十分であることを示唆する。このエキソンのESE部位が互いに依存し、その結果、1をブロッキングすることにより、より多く又は全てのESEが、不活性化されることも可能である。代わりに、他のESE部位がもはやSRタンパク質結合の為に利用できないように、前駆mRNAの二次構造が、AONが結合するときに変化されうる。
【0030】
興味深いことに、いったん、より多くが(部分的に)重複すると、組み合わせは、単独のAONが有効であるか又は無効であるかに関係なく、個々のエキソンスキッピング能力を負に干渉すると見えた。2の無効な、重複するAONの組み合わせもまた無効であることが予測された。なぜなら、それらは、両方ともが機能的でないESE部位を標的とするか、又は、両方ともが2(又はそれ以上)の相互に排他的なESE部位の同じものを標的とするからである。重複する、有効なAONの組み合わせについて、この発見は予測されなかった。しかしながら、これらのAONが、互いに競合し、そして、互いを、動的過程において標的転写物から引き離させ、それにより、標的部位をSRタンパク質にとって再度利用できるようにすることも可能である。結合すると、SRタンパク質は、他のスプライシング因子を該標的部位へと募るであろうし、すなわち、エキソンスキッピングよりもむしろエキソン包含を増強する。
【0031】
材料と方法
【0032】
AON及びプライマー
二重標的化実験の為に用いられた全てのAONは、前に記載された(補足表1を参照されたい)(11、14、15)。全てのAONは、2−O−メチルRNA,ホスホロチオエート骨格及び5’蛍光標識を含み、そして、Eurogentec(ベルギー)により製造された。(RT−)PCRプライマーは、スキップされるエキソンに隣接するエキソン内において選ばれた(Eurogentec、ベルギー;配列は要求に応じて利用できる)。
【0033】
組織培養、形質移入、及びRT−PCR分析
対照及びDMD患者由来の筋管培養物は前に記載されたとおりに得られた(9、22)。エキソンスキッピング実験の為に、形質移入が、200nMの夫々のAONにより少なくとも2回実施された。全ての実験において、ポリエチレンイミン(PEI、Exgen 500、MBI Fermentas)が、製造者の指示に従い、1μgのAON当たり2〜3.5μlのPEIで、用いられた。夫々の標的エキソンについて利用できる有効なAONの数に基づき、AONの種々の組み合わせが試験された(補足表1)。夫々のAONについて、AON−PEI複合物の個々の溶液が調製された。形質移入効率は、核蛍光シグナルの存在に基づき、概して80%超であった。RNAは、形質移入の24〜48時間後に単離され、そして、RT−PCR分析が、前に記載されたとおりに実施された(14)。夫々のAONの成功した形質移入は、標的エキソンに隣接するエキソン内のプライマーによるRT−PCR分析によって確認された。PCR断片がアガロースゲルから単離され、そして、配列分析が、前に記載されたとおりに実施された(10)。
【0034】




++ 正常対照筋管培養物における転写物の25%超で観察されたエキソンスキッピング;+ 転写物の25%までで観察されたエキソンスキッピング;− エキソンスキッピングは検出されなかった
夫々のAONについて、最高の値が、SRタンパク質の夫々について与えられる
ヌクレオチド内のAONと5’及び3’スプライス部位(SS)との間のヌクレオチド数。3’及び5’スプライス部位への距離は、標的配列内の最初(3’スプライス部位)又は最後(5’スプライス部位)のヌクレオチドから測定される。
AONの、全長に対する、予測された二次RNA構造内の、AONにより標的とされる利用可能なヌクレオチドの割合
このAONは、欠損Kobe(Matusoら、1990;Matusoら、1991)において欠損したESEの一部を標的とする
前に発行された(van Deutekomら、2001)
前に発行された(Aartsma−Rusら、2002)
前に発行された(van Deutekomら、2001;Aartsma−Rusら、2003;Aartsma−Rusら、2004)
【0035】

【0036】


“+” この個々のAONについて観察されたエキソンスキッピング、“−” この個々のAONについて(再現性よく)観察されなかったエキソンスキッピング
単独の標的化と比較した二重標的化の結果;“+” 単独のAONによる標的化のいずれよりも効率的である二重標的化、“=” 最も効率的な単独のAONに匹敵する二重標的化の効率、“−” 効率的でない、又は、最も効率的な単独のAONよりも効率的でない二重標的化。
効率的なAONは明るい灰色で影を付けられる、最も効率的な単独のAONよりも顕著によく働く組み合わせは、より暗い灰色で影を付けられる、重複する組み合わせは下線付加された。
【0037】
図面の簡単な説明
図1、二重標的化。(A)。エキソン2、43、45〜48及び57内のAON及び推定上のESE部位の相対的な位置。エキソン及びAONは、夫々のエキソンについての線として、一定の縮尺で描かれる。ESEファインダーにより予測されたとおりの、SF2/ASF、SC35、SRp40及びSRp55の推定上の結合部位は、それらのぞれぞれの位置で、四角として描かれる。(B〜E)。二重標的化実験後のRT−PCR分析のいくつかの例。(BC)。エキソン47及び57について、再現性よくエキソンスキッピングを誘発する利用可能なAONはなかった。しかしながら、これらのAONの組み合わせを用いて、エキソン47及び57スキッピングは、再現性よく、有意な水準で誘発された。エキソン57について、h57AON3を含む組み合わせが最も効率的であった一方で、エキソン47について、重複しない全ての組み合わせが、エキソン47スキッピングの匹敵する水準を誘発した。いくつかの場合で、(野生型の産物よりも若干短かった)追加のバンドが、エキソン47PCRにおいて観察されることができた。このバンドは、再現性が無く、処理された試料及び処理されていない試料の両方で観察され、そして、DMDエキソン72〜74を含むa−特異的PCR産物であると分かった。(D)。エキソン45について、利用できるAONのただ1つが、再現性よく、スキッピングを誘発したが、低水準であった(h45AON5)。とても低い水準のエキソンスキッピングが、h45AON1及びh45AON4について時々観察されたが、これは再現性が無かった。エキソン45スキッピングは、AONの組合せを用いて、はるかにより高い水準で達成されることができた。エキソン45スキッピングの最高の水準が、h45AON5と、h45AON1又はh45AON3との組み合わせ、及び、h45AON1とh45AON9との組み合わせについて観察された。対照的に、重複するh45AON2とh45AON9との混合物は無効であった。(E)。エキソン2について、重複するAONだけが利用可能であった。有効なh2AON1が、無効で、重複するh2AON2と組み合わされたときに、スキッピングは誘発されることができなかった。この効果は、h2AON1が、無効で、より重ならないh2AON3と組み合わされたときには、見られなかった。言及されたAONの配列は、文献Aartsma-Rus A, et al. (2005). Functional analysis of 114 exon-internal AONs for targeted DMD exon skipping: indication for steric hindrance of SR protein binding sites. Oligonucleotides 15: 284-297において与えられる。
NTは、形質移入されていない、−RTは、負の対照、Mは、100bpサイズマーカー。
【0038】
引用文献




【特許請求の範囲】
【請求項1】
成熟mRNAのエキソン含有前駆体を産生する細胞において、該mRNAからエキソンが排除される効率が増加されうるかどうかを決定する方法であって、
該細胞に、該エキソンのエキソン内部部分とハイブリダイズすることができる第1のアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を与えること、及び、該エキソンの他のエキソン内部部分とハイブリダイズすることができる第2のAONを該細胞に与えたときに、該効率が増加されるかどうかを決定することを含む上記方法。
【請求項2】
該第1のAONのハイブリダイゼーション部位と該第2のAONのハイブリダイゼーション部位とが、5未満のヌクレオチドの重複を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該エキソンのRNA上の、該第1のAONのハイブリダイゼーション部位が、該エキソンRNA上の予測されたエキソンのスプライシングエンハンサー(ESE)部位と重複する、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該エキソンのRNA上の、該第2のAONのハイブリダイゼーション部位が、該エキソンRNA上の予測されたESE部位と重複する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該エキソンが、少なくとも2の独立性ESE部位を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
さらに、該mRNAの前駆体を産生する細胞において該成熟mRNAから該エキソンが排除される効率を、該細胞への該第2のAONの提供が増加するときに、該第1及び該第2のAONをAONの1セット中に含めることをさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
さらに、該セットをヒト細胞に与えることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の方法により得られるAONのセット。
【請求項9】
表1又は表2の少なくとも1のAONを含む、請求項8に記載のAONのセット。
【請求項10】
表2のAON。
【請求項11】
mRNAのエキソン含有前駆体を産生する細胞であって、該エキソンのエキソン内部部分とハイブリダイズすることができる第1のAON及び該エキソンの他のエキソン内部部分とハイブリダイズすることができる第2のAONを含む上記細胞。

【図1A−1】
image rotate

【図1A−2】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図1D】
image rotate

【図1E】
image rotate


【公開番号】特開2012−147790(P2012−147790A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−70033(P2012−70033)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【分割の表示】特願2009−510471(P2009−510471)の分割
【原出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(507028653)
【Fターム(参考)】