説明

エスカレータ用治具

【課題】エスカレータのトラス内に用いられる締結部材を好適に引き抜くことができるエスカレータ用治具を提供することである。
【解決手段】エスカレータ用治具10であって、第1挿入部110aと第1延伸部120aとを有する第1引き抜き部100aと、第2挿入部110bと第2延伸部120bとを有する第2引き抜き部100bと、第1挿入部110aと第2挿入部110bとを連結する連結部100cと、第1引き抜き部100aの貫通孔130aに設けられる螺子切りに螺合する第1螺合部140aと、第2引き抜き部100bの貫通孔130bに設けられる螺子切りに螺合する第2螺合部140bと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータ用治具に係り、特に、エスカレータのトラス内の締結対象部を締結し、頭部と胴部とを有する締結部材を引き抜くために用いられるエスカレータ用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商業施設等の様々な場所において、エスカレータが設置されている。高揚程のエスカレータ等においては、各ステップを駆動するためのステップチェーンの代わりに、1ステップ毎の伸び量が小さいステップリンクが用いられている。エスカレータの乗降口付近では、ステップが水平状態となり、それ以外の部分ではステップが階段状態となっている。また、ステップは、乗降口に到着した後はトラスの内部側を移動するが、湾曲したインナーレールとアウターレールによって形成されたターンマッチ部によって軌道の反転動作が行われる。
【0003】
本発明に関連する技術として、例えば、特許文献1には、エスカレータのステップ反転部でステップを連続的に移動させるステップリンク列が通過する空間軌道を形成する対向するインナーレールとアウターレールで構成されるターンマチック部の配置調整を行う調整装置が開示されている。そして、アウターレールまたはインナーレールのいずれか一方のレールの基準位置に着脱可能な第1着脱子を有する長尺の本体部材と、他方のレールの基準位置に着脱可能な第2着脱子を有し、本体部材の長手方向に対して直交する方向にスライド自在に係合するスライド部材と、を含むことが述べられている。さらに、スライド部材は、各レールの基準位置に装着された第1着脱子及び第2着脱子が形成するスライド部材に沿った離間距離を表示する表示部を有することが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−63768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エスカレータの保守点検作業の1つとして、ランディングプレートの少なくとも一部を開いて、保守作業員がトラス内に入ってインナーレールやアウターレール等の部品を取り替える場合がある。このとき、例えば、ターンマッチ部に設けられた締結部材を取り外すことがあるが、当該締結部材の焼きつき等が原因で当該締結部材を引き抜くことが困難な場合がある。
【0006】
本発明の目的は、エスカレータのトラス内に用いられる締結部材を好適に引き抜くことができるエスカレータ用治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエスカレータ用治具は、エスカレータのトラス内の締結対象部を締結し、頭部と胴部とを有する締結部材を引き抜くために用いられるエスカレータ用治具であって、前記締結対象部と前記頭部との間に挿入可能なテーパ部を含む第1挿入部と、前記第1挿入部から延伸する第1延伸部とを有する第1引き抜き部と、前記締結対象部と前記頭部との間に挿入可能なテーパ部を含む第2挿入部と、前記第2挿入部から延伸する第2延伸部とを備え、前記第1引き抜き部と一対となるように設けられる第2引き抜き部と、前記第1挿入部と前記第2挿入部とを連結する連結部と、前記第1引き抜き部の貫通孔に設けられる螺子切りに螺合し、先端部が前記締結対象部に当接したときに前記第1引き抜き部を前記引き抜き方向に押し上げる第1螺合部と、前記第2引き抜き部の貫通孔に設けられる螺子切りに螺合し、先端部が前記締結対象部に当接したときに前記第2引き抜き部を前記引き抜き方向に押し上げる第2螺合部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るエスカレータ用治具において、前記第1挿入部及び前記第2挿入部のうち少なくとも1つは、前記胴部の外形に沿った形状を有する切り欠き部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、第1螺合部及び第2螺合部をそれぞれ第1引き抜き部の貫通孔及び第2引き抜き部の貫通孔に螺合させることで、第1引き抜き部及び第2引き抜き部を押し上げることができる。これにより、エスカレータのトラス内に用いられる締結部材を好適に引き抜くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る実施の形態において、エスカレータの乗降口付近の様子を示す図である。
【図2】図1において点線Aで囲まれた部分の拡大図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、インナーレールから締結部材を引き抜くためのエスカレータ用治具の構成を示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、エスカレータ用治具を用いてインナーレールから締結部材を引き抜いている様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態を詳細に説明する。また、以下では、全ての図面において、同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0012】
図1は、エスカレータ7の乗降口付近の様子を示す図である。エスカレータ7は、移動手摺32と、内側板36と、スカートガード34と、ランディングプレート38と、トラス58を含んで構成される。
【0013】
移動手摺32は、乗客が手を添え、または掴まる部分である。内側板36は、移動手摺32の下方に設けられたステップの側面のパネルである。スカートガード34は、内側板36の下方に設けられ、ステップの側面とわずかな隙間を保って相対しているパネルである。
【0014】
ランディングプレート38は、乗降口の床板のことで、表面には滑り止め加工が施されている。また、保守作業員は、ランディングプレート38の一部を開いて形成される開口からトラス58内に出入りして保守作業を行う。
【0015】
トラス58内には、ステップ軸43や駆動ローラ44等が設けられている。ステップ軸43は、図示しないステップを支える軸である。駆動ローラ44は、ステップ軸43の両端に設けられ、ステップを駆動するためのローラである。
【0016】
ステップリンク42は、各ステップ軸43同士を連結するための連結部材である。そして、複数のステップリンク42を用いて無端状に連結している。
【0017】
往路側駆動レール46は、駆動ローラ44を案内する往路側のレールであり、上階の乗場口と下階の乗場口に渡って設けられている。そして、帰路側駆動レール54は、駆動ローラ44を案内する帰路側のレールであり、上階の乗場口と下階の乗場口に渡って設けられている。また、追従レール40は、図示しない追従ローラを支えるレールである。
【0018】
インナーレール48は、往路側駆動レール46の先端部に設けられる湾曲したレールである。そして、締結部材47は、インナーレール48の基端部と往路側駆動レール46の先端部とを締結する締結部材である。
【0019】
アウターレール56は、帰路側駆動レール54の先端部に設けられる湾曲したレールであり、インナーレール48と所定の間隔を設けてインナーレール48の外側に配置される。そして、締結部材57は、アウターレール56の基端部と帰路側駆動レール54の先端部とを締結する締結部材である。
【0020】
また、インナーレール48とアウターレール56とは、平板形状を有する連結部材50によって連結される。連結部材50とインナーレール48とは、締結部材51によって締結され、連結部材50とアウターレール56とは締結部材52によって締結される。ここで、インナーレール48とアウターレール56とを含んで構成されるターンマッチ部によって、駆動ローラ44は、往路側駆動レール46から帰路側駆動レール54に切り替わって移動する。
【0021】
図2は、図1において点線Aで囲まれた部分の拡大図である。上述したように、インナーレール48の基端部と往路側駆動レール46の先端部とは、締結部材47によって締結されている。そして、図2に示されるように、締結部材47は、頭部472と胴部474とを有する。頭部472は、六角柱形状を有する部位である。胴部474は、頭部472の底面中心部から延伸し、頭部472よりも断面積が小さく、円柱形状を有する部位である。なお、締結部材51,52,57は、締結部材47と同様の構成を有しているが、ここでは詳細な説明を省略する。そして、トラス58内は、非常に狭いため、これらの締結部材47,51,52,57の取り外し作業等が困難である。
【0022】
図3は、インナーレール48から締結部材47を引き抜くためのエスカレータ用治具10の構成を示す図である。エスカレータ用治具10は、第1引き抜き部100aと、第2引き抜き部100bと、連結部100cと、第1螺合部140aと、第2螺合部140bとを有する。
【0023】
第1引き抜き部100aは、第1挿入部110aと、第1延伸部120aとを有する。
【0024】
第1挿入部110aは、先端部112aにおいて二股に分離され、直立可能な地下足袋形状の部位である。そして、第1挿入部110aは、基端部114a側から先端部112a側に向かって厚みが薄くなり、当該先端部112aからインナーレール48の上面と頭部472の底面との間に挿入することができるテーパ形状を有する。第1挿入部110aにおいて、二股に分離された先端部112aの間には、胴部474の外形に沿った形状(略U字形状)を有する切り欠き部113aを有している。これにより、当該先端部112aがインナーレール48の上面と頭部472の底面との間に挿入された際に、切り欠き部113aには胴部474が挿入され、二股に分離された先端部112aを頭部472の底面に係合することができる。なお、挿入部110aの底面の面積は、締結部材47の形状に合わせて適宜変更することが可能であり、一例をあげると、20cm2〜30cm2とすることができる。
【0025】
第1延伸部120aは、第1挿入部110aの底面に対する鉛直方向に対して延伸している部位である。また、第1延伸部120aは、略四角柱形状を有している。そして、第1延伸部120aの上面から第1挿入部110aの底面に渡って貫通孔130aが形成されており、当該貫通孔130aには、第1螺合部140aが螺合するための螺子切りが形成されている。また、第1延伸部120aの延伸方向の長さは、第1螺合部140aの長さよりも短いものであれば、適宜変更が可能であるが、例えば、5cm〜10cmの範囲とすることができる。
【0026】
第2引き抜き部100bは、第2挿入部110bと、第2延伸部120bとを有する。第2引き抜き部100bは、第1引き抜き部100aと同じ構成を有し、第2挿入部110bの先端部112bは、第1挿入部110aの先端部112aと向かい合って一対となるように配置される。なお、第2引き抜き部100bの構成は、第1引き抜き部100aと同じ構成であるため、構成の具体的な説明は省略する。
【0027】
連結部100cは、第1挿入部110aと第2挿入部110bとを連結する部位である。具体的には、第1挿入部110aの二股に分離された先端部112aの一方側と、第2挿入部110bの二股に分離された先端部112bの一方側とを接続する。これにより、第1切り欠き部113aと第2切り欠き部113bとが1つの略C字形状の切り欠きを形成することとなる。
【0028】
第1螺合部140a及び第2螺合部140bは、それぞれ貫通孔130a及び貫通孔130bに螺合される締結部材である。また、第1螺合部140a及び第2螺合部140bは、それぞれ貫通孔130a及び貫通孔130bの深さよりも長い長さを有する。例えば、第1螺合部140a及び第2螺合部140bの長さは、8cm〜15cmとすることができる。そして、第1螺合部140a及び第2螺合部140bは、それぞれ平坦な底面を有している。
【0029】
上記構成のエスカレータ用治具10の作用について、図4を用いて説明する。図4は、エスカレータ用治具10を用いてインナーレール48から締結部材47を引き抜いている様子を示す図である。インナーレール48やアウターレール56の取替え等の保守作業を行う際に、保守作業員は、ランディングプレート38の一部を開いて形成される開口からトラス58内に入る。そして、例えば、インナーレール48の基端部と往路側駆動レール46の先端部とを締結する締結部材47を取り外すときに、二股に分離された先端部112a及び先端部112bをインナーレール48の上面と頭部472の底面との間に挿入する。具体的には、第1切り欠き部113aと第2切り欠き部113bとを含んで形成される切り欠きには、胴部474が挿入され、先端部112a及び先端部112bを頭部472の底面に係合させる。
【0030】
その後、保守作業員は、第1螺合部140a及び第2螺合部140bを、それぞれ貫通孔130a及び貫通孔130bに螺合させる。そして、当該第1螺合部140a及び第2螺合部140bがそれぞれ貫通孔130a及び貫通孔130bを貫通して、その底面がインナーレール48の上面に当接した際に、それぞれ第1引き抜き部100a及び第2引き抜き部100bがそれぞれ引き抜き方向に押し上げられる。これにより、先端部112a及び先端部112bが締結部材47の頭部472を引き抜き方向に押し上げるように作用する。したがって、締結部材47をインナーレール48から好適に引き抜くことができる。
【符号の説明】
【0031】
7 エスカレータ、10 エスカレータ用治具、32 移動手摺、34 スカートガード、36 内側板、38 ランディングプレート、40 追従レール、42 ステップリンク、43 ステップ軸、44 駆動ローラ、46 往路側駆動レール、47,51,52,57 締結部材、48 インナーレール、54 帰路側駆動レール、56 アウターレール、58 トラス、100a 第1引き抜き部、100b 第2引き抜き部、100c 連結部、110a 第1挿入部、110b 第2挿入部、112a 先端部、112b 先端部、113a 切り欠き部、113b 切り欠き部、114a 基端部、114b 基端部、120a 第1延伸部、120b 第2延伸部、130a,130b 貫通孔、140a 第1螺合部、140b 第2螺合部、472 頭部、474 胴部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレータのトラス内の締結対象部を締結し、頭部と胴部とを有する締結部材を引き抜くために用いられるエスカレータ用治具であって、
前記締結対象部と前記頭部との間に挿入可能なテーパ部を含む第1挿入部と、前記第1挿入部から延伸する第1延伸部とを有する第1引き抜き部と、
前記締結対象部と前記頭部との間に挿入可能なテーパ部を含む第2挿入部と、前記第2挿入部から延伸する第2延伸部とを備え、前記第1引き抜き部と一対となるように設けられる第2引き抜き部と、
前記第1挿入部と前記第2挿入部とを連結する連結部と、
前記第1引き抜き部の貫通孔に設けられる螺子切りに螺合し、先端部が前記締結対象部に当接したときに前記第1引き抜き部を前記引き抜き方向に押し上げる第1螺合部と、
前記第2引き抜き部の貫通孔に設けられる螺子切りに螺合し、先端部が前記締結対象部に当接したときに前記第2引き抜き部を前記引き抜き方向に押し上げる第2螺合部と、
を備えることを特徴とするエスカレータ用治具。
【請求項2】
請求項1に記載のエスカレータ用治具において、
前記第1挿入部及び前記第2挿入部のうち少なくとも1つは、前記胴部の外形に沿った形状を有する切り欠き部を有することを特徴とするエスカレータ用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−140220(P2012−140220A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79(P2011−79)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】