説明

エポキシ樹脂用硬化剤としての、フェナルカミンと塩形成されたアミンとの混合物

本発明は、塩形成されたポリアミンまたは塩形成されたポリアミン−エポキシ付加物と混合されてエポキシ樹脂用硬化剤を生成するフェナルカミンを含んでなる、エポキシ樹脂用硬化剤であって、塩形成されたポリアミンまたは塩形成されたポリアミン−エポキシ付加物の第一級アミン基の少なくとも3分の1がブロックされている硬化剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、フェナルカミンと塩形成された(salted)アミンとの混合物、特に、低温硬化条件下でエポキシ樹脂を硬化させるのに適したエポキシ樹脂用硬化剤としての、フェナルカミンと塩形成されたアミンとの混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
フェナルカミンは、カルダノール、ホルムアルデヒドおよび有機ジアミンから構成されるエポキシ硬化剤である。カルダノールは、カシューナッツ殻液(CNSL)から調製される。フェナルカミンは、1molのアルキルフェノール、2molのホルムアルデヒドおよび2molのポリアミンを縮合させることによって、低分子量ポリマーを調製するためのマンニッヒ反応により調製され得る。該ポリアミンは、芳香族または脂肪族であり得る。商業的には、エチレンジアミンおよびジエチレントリアミンを使用して、Cardolite NC541およびCardolite NC 540が各々調製されている。
【0003】
フェナルカミンは、化学的にはC15アルキルフェノールであってCNSLから得られる油の主要成分であるカルダノール(I)と、脂肪族(第一級または第二級)アミンおよびホルムアルデヒドとの反応生成物(縮合生成物)である。
【化1】

[式中、n=0、2、4、6(二重結合の数の2倍)。]
【0004】
縮合工程は、まず、少なくとも触媒量のアミンの存在下におけるホルムアルデヒドの反応への添加、それによるアルキルC15フェノールメチロールプレポリマーの生成、そして水を放出するポリアミンとの縮合によって、実施される。合成中の温度は、色の発現を最少にするために90℃未満でなければならない。
【0005】
フェナルカミンに関する更なる情報は、刊行物に見ることができる:Zhishen Datら、"Phenalkamines: Multipurpose Epoxy Curing Agent"; Cardolite Corporation, Newark, New Jersey, USA; Reprint EPI-ERF Conference, September 1994。
【0006】
粗CNSLは、アナカルド酸(II)を主に含有する。酸の存在下でCNSLを蒸留することにより、カルダノールと副生物としてのカルドール(III)とを主に含有する組成物が得られる(例えば、米国特許第6,262,148号および同第6,229,054号参照)。粗CNSLの蒸留が、カルダノールと、副生成物としてのカルドールおよび少量の2−メチルカルドールおよびアナカルド酸とを主に含有する組成物をもたらすことが見出された。
【化2】

【0007】
このようにして得られたカルダノール/カルドール混合物は、以下の3つの技術的不都合を有する:
(1)粗CNSLからの蒸留による調製は、重合によるカルダノールの一部の損失を含むので、最終的に、抽出物中のカルダノールの収率は50〜60%にすぎない;
(2)初期には淡黄色であったカルダノール/カルドール混合物が、貯蔵中に変化し、その色が急速に褐変する(これは、カルドールの存在に起因する);および
(3)カルダノール/カルドール混合物から得られる生成物もまた、貯蔵中に、望ましくない変色を生ずる。
【0008】
得られる生成物はエポキシ硬化剤として有効であるが、ガードナースケールに基づいて12より大きい暗色を有する。現存する生成物の暗色は、不純物に起因する。該不純物には、貯蔵中或いはフェナルカミン調製中に、前駆体カラーボディーを生じる急速な重合反応および酸化反応をもたらす、カルドール(ジ−ヒドロキシアルキルフェノール)が含まれる。現行の製造方法では、黒ずみが生じない十分な水準でカルドール不純物が分離されない。加えて、低温、即ち0℃での硬化速度は緩慢である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,262,148号
【特許文献2】米国特許第6,229,054号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Zhishen Datら、"Phenalkamines: Multipurpose Epoxy Curing Agent"; Cardolite Corporation, Newark, New Jersey, USA; Reprint EPI-ERF Conference, September 1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
低温で有効に硬化するエポキシ樹脂硬化剤に対する要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨に従って簡潔に記載すると、エポキシ樹脂用硬化剤は、塩形成されたポリアミンまたは塩形成されたポリアミン−エポキシ付加物と混合されてエポキシ樹脂用硬化剤を生成するフェナルカミンを含有する。ここで、塩形成されたポリアミンまたは塩形成されたポリアミン−エポキシ付加物の第一級アミン基の少なくとも3分の1はブロックされている。
【0013】
本発明の別の要旨によれば、エポキシ樹脂用硬化剤の製造方法は、フェナルカミンを供給する工程、および該フェナルカミンを、塩形成されたポリアミンまたは塩形成されたポリアミン−エポキシ付加物と混合してエポキシ樹脂用硬化剤を生成する工程を含む。ここで、塩形成されたポリアミンまたは塩形成されたポリアミン−エポキシ付加物の第一級アミン基の少なくとも3分の1はブロックされている。
【0014】
本発明の別の要旨によれば、低温でのエポキシ樹脂の硬化方法は、本明細書に記載した硬化剤をエポキシ樹脂に添加する工程を含み、約−10℃〜約25℃の温度で硬化が起こる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書で使用する場合、用語「含んでなる」、「含んでなり」、「包含する」、「包含し」、「有する」、「有し」またはこれらの他の変形は、別の要素または成分が含まれ得ることを意味する。例えば、要素のリストを含んでなる、プロセス、方法、物品または装置は、明確に記載された要素に必ずしも限定されるのではなく、明確に記載されてはいないが、そのようなプロセス、方法、物品または装置に本来備わっている別の要素を含み得る。加えて、そうではないと明確に記載されていない限り、用語「または」は、包括的な「または」を意味し、排他的な「または」を意味しない。例えば、条件A「または」Bとは、以下のいずれか1つを満足する:Aであって(Aは含まれ)Bではない(Bは含まれない);Aではなく(Aは含まれず)Bである(Bは含まれる);およびAとBの両方である(AとBの両方が含まれる)。
【0016】
本明細書で使用する場合、用語「a」または「an」は、本発明の要素および成分を記載する。これは、読者の利便性のため、および本発明の一般的意味を与えるために行う。「a」または「an」の使用は、1または少なくとも1を包含すると理解されるべきである。加えて、そうではないと記載されていない限り、単数形は複数形も包含する。例えば、「化合物(a compound)」を含有する組成物については、少なくとも1種以上の化合物を含有することを含む。
【0017】
本発明の態様によれば、フェナルカミンは、実質的に純粋なカルダノールを用いて調製される。カルダノールは、単純な短行程蒸留(プロセスが迅速に完了するので、副次的プロセス(例えば重合または酸化)が抑制または最少化される)を包含する蒸留による、粗CNSLからの(1,000〜3,000の分子量を有する)オリゴマーの実質的な除去によって調製される。蒸留中、CNSLの約15〜20重量%が、オリゴマーとして除去される。
【0018】
短行程蒸留は以下のように実施し得る。
工程1:(用いたCNSLに基づいて)2〜5重量%の初留を、150〜200℃の温度および1〜5mmHgの圧力で取り出し、その後、220〜260℃の温度および1〜5mmHgの圧力で主留分を取り出す。この主留分(工程1からの留出物)は、粗カルダノールと称される。
工程2:工程1からの留出物をホウ酸(HBO)と反応させて、二価フェノールを対応するホウ酸エステルに転化させる。工程1からの粗カルダノールとホウ酸とのモル比は、3:0.07〜3:0.1の比に調整し得る。反応温度は、約120℃〜約150℃の範囲に調節し得る。反応時間は、30〜90分である。反応中に生じた水を、系から連続的に除去し得る。使用するホウ酸の量は、工程1からの粗カルダノール中に存在するカルドールに対する化学量論量である。
工程3:工程2からの混合物を蒸留して、低沸点成分を除去する。比較的高分子量のホウ酸エステルが残留物中に残る。蒸留は、短行程蒸留または常套の分留の条件下、真空中で実施することもできる。
【0019】
必要に応じて、工程3の主留分を、少量の吸着剤および/または還元剤で処理してもよい。適当な還元剤の例は以下を包含するが、それらに限定されない:ヒドロ亜硫酸ナトリウム(Na)、メタ重亜硫酸ナトリウム(Na)、ホウ化水素ナトリウム(NaBH)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)、塩化錫(SnCl)またはケイ酸マグネシウム。適当な吸着剤の例は以下を包含するが、それらに限定されない:ケイ酸マグネシウムまたは化学的に同等の化合物。使用される吸着剤または還元剤の量は、(工程3で得られた主留分に基づいて)0.1〜5重量%であり得る。
【0020】
別の態様として、工程2における留出物を無水酢酸と反応させて、好ましくない発色団を捕捉してもよい。使用する無水酢酸の量は、留出物に基づいて約1〜5重量%であり得、反応温度は約50〜70℃に調節し得る。生じた酢酸を系から連続的に除去(ストリッピング)し得る。得られた混合物を分留する。
【0021】
6を超える理論段を有する分留塔を、分留のために使用できる。1つの態様では、頂部、精留部、供給板、ストリッピング部および底部を有する典型的な分留塔を、連続的な分留のために使用する。塔の上端(頂部)でカルダノールを取り出し、塔の下端(底部)でカルドールを取り出す。過熱を回避するため、分留塔頂部での温度範囲180〜210℃/0.5〜1.5mmHg、かつ塔底部での温度範囲230〜260℃/1.5〜3mmHgで、蒸留を実施する。塔底部における生成物流は、カルドールリッチな留分を含有し、カルダノールおよび酢酸を少量しか含有しない。
【0022】
本発明に従って使用されるカルダノールは、98%を超える純度を有し、カルドールは0.2%未満で存在する。塩形成されたポリアミンまたはポリアミン−エポキシ付加物と組み合わせて、実質的にカルドールを含有しない高純度カルダノールを使用することにより、存在するカルドールの低減された量に起因して、粘度がより低くなる。
【0023】
本発明によれば、ポリアミンは、2個以上の第一級アミン官能基を含有する任意のアミンであってよく、2個以上の第一級アミン基に加えて第二級アミン官能基を含有する化合物を包含する。適当なジアミンおよびポリアミンは、以下の式によって表される:
【化3】

[式中、RおよびRは2〜20個の炭素原子を含有する二価のヒドロカルビル基であり、mおよびnは0〜5の整数であり、m+nは少なくとも1である。]。ヒドロカルビル基は、結合したアミンが第一級または第二級の脂肪族アミンであるという条件で、分枝または直鎖のアルキレン基、脂環式基であるかまたは芳香族基を包含し得る。
【0024】
ジアミンおよびポリアミンの例は以下を包含するが、それらに限定されない:エチレンアミン、例えば、1,2−エタンジアミン(EDA)、N−(2−アミノエチル)−1,2−エタンジアミン(DETA)、N,N−ビス(2−アミノエチル)−1,2−エタンジアミン(TETA)、N−(2−アミノエチル)−N’−[(2−アミノエチル)アミノ−エチル]−1,2−エタンジアミン(TEPA)、アミノエチルピペラジン、および高級ポリエチレンポリアミン、1,3−ベンゼンジメタンアミン(MXDA−メタキシリレンジアミン);1,3−シクロヘキサンジメタンアミン(1,3−BAC);1,2−ジアミノシクロヘキサン(DACH);ノルボルナンジアミン;イソホロンジアミン;5−アミノ−1,3,3−トリメチルシクロ−ヘキサンメタンアミン(IPDA);トリメチルヘキサメチレンジアミン(TMD);1,3−ペンタンジアミン(DYTEKTM EP);2−メチル−1,5−ペンタンジアミン(DYTEKTM A);1,6−ヘキサンジアミン(HMDA)および4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(PACM)。
【0025】
ポリアミン−エポキシ付加物の調製に適したエポキシ官能性物質は以下を包含するが、それらに限定されない:170〜525の範囲のエポキシ当量を有するビスフェノールAのジグリシジルエーテルを包含する、ビスフェノールAエポキシ樹脂;156〜190の範囲のエポキシ当量を有するビスフェノールFのジグリシジルエーテルを包含する、ビスフェノールFエポキシ樹脂;ビスフェノールFエポキシノボラック樹脂;クレゾールエポキシノボラック樹脂;および様々な単官能性、二官能性および三官能性の反応性エポキシ「希釈剤」、例えば、ブチルグリシジルエーテル、C8〜10アルキルグリシジルエーテル、C12〜13アルキルグリシジルエーテル、C12〜14アルキルグリシジルエーテル、クレシルグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、およびレゾルシノールジグリシジルエーテル。エポキシ官能性物質は、ジアミンまたはポリアミンと反応して、ポリアミン−エポキシ付加物を生成する。反応は、反応体の選択に依存して、20〜80℃またはより高い温度で実施できる。付加物は常法によって調製され得る。
【0026】
フェナルカミンのためのエポキシ硬化剤変性剤として有用な塩形成されたアミンは、その第一級アミン基の少なくとも3分の1が、エポキシとの反応によりブロックされているか、または酸性水素供与基の添加によって「塩形成」されているものである。アミン官能性エポキシ硬化剤のこの変性により、望ましくないアミン「ブラッシュ」と呼ばれる、重炭酸塩またはカルバミン酸塩を生じる大気中の二酸化炭素および水分との反応が極めて起こりにくくなることが見出された。これらの硬化剤はまた、エポキシ樹脂および他のエポキシ官能性物質と反応する際、迅速な硬化反応を示し、適当な成分を選択することによって、その系は、従来達成されていた温度より有意に低い温度で優れた硬化特性を示す。ジアミンおよび/またはポリアミンとエポキシ樹脂または他のエポキシ官能性物質との反応により生じたアミン付加物が、十分な酸性水素供与基と更に反応して、残留第一級アミン基の少なくとも3分の1、または約2分の1、またはほとんど或いは全てがブロックまたは「塩形成」されるならば、このように調製された硬化剤はまた、大気中の二酸化炭素および水分と反応せず、優れた低温硬化特性を示す。
【0027】
本発明の硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化させるのに有効な量で存在する。本発明の硬化剤によってもたらされる迅速な硬化速度の故に、促進剤は必要とされないが、エポキシ樹脂系の硬化速度を更に高めるために使用してもよい。促進剤が硬化剤に溶解できるならば、様々なアミン適合性促進剤を使用できる。適当な促進剤の例は以下を包含するが、それらに限定されない:2,4,6−トリス−(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N−ジエチルエタノールアミン、およびN,N−ジメチルベンジルアミン。促進剤の濃度は、硬化剤の重量に基づいて0.1〜10%であり得る。
【0028】
硬化性エポキシ樹脂は、1以上の1,2−エポキシ当量を有し、好ましくは平均して一分子あたり約1.5以上のエポキシ基を含有する。エポキシ樹脂は飽和または不飽和、直鎖または分枝、脂肪族、脂環式、芳香族または複素環式であってよく、硬化反応を実質的に妨げない置換基(例えば臭素)を含有してもよい。エポキシ樹脂は、単量体または重合体、液体または固体であり得るが、好ましくは室温で液体である。
【0029】
適当なエポキシ樹脂は、アルカリ性反応条件下で実施される、エピクロロヒドリンと少なくとも1個、好ましくは2個以上のヒドロキシル基を含有する化合物との反応によって調製されたグリシジルエーテルを包含する。適当なエポキシ樹脂の例は以下を包含するが、それらに限定されない:多価フェノールのポリグリシジルエーテル、エポキシノボラックまたは同様のグリシド化ポリフェノール樹脂、アルコール、グリコールまたはポリグリコールのポリグリシジルエーテル、およびポリカルボン酸のポリグリシジルエステル。
【0030】
特に適したエポキシ樹脂は、多価フェノールのポリグリシジルエーテルに基づく。多価フェノールのポリグリシジルエーテルは、例えば、アルカリの存在下でエピハロヒドリンと多価フェノールとを反応させることによって調製できる。適当な多価フェノールの例は以下を包含するが、それらに限定されない:2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノール−A);2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)イソブタン;ビス(2−ヒドロキシ−1−ナフチル)メタン;1,5−ジヒドロキシナフタレン;および1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−アルキルフェニル)エタン。適当な多価フェノールはまた、フェノールとアルデヒド(例えばホルムアルデヒド)との反応から得ることもできる(ビスフェノール−F)。これら多価フェノールのポリグリシジルエーテルとビスフェノール−Aのようなフェノール化合物との融合生成物もまた、エポキシ樹脂として適しており、その例は、米国特許第3,477,990号および同第4,734,468号に記載されている。好ましいエポキシ樹脂の商業的な例は、例えば、Hexion Specialty Chemicals社から入手可能なEPON(登録商標)Resins 862、828、826、825および1001、並びにDER(商標)330、331、354、661および671のようなDow Chemical Companyから商業的に入手可能なエポキシ樹脂を包含する。
【0031】
エポキシ樹脂は、脂肪族または芳香族アルコール、グリコールまたはポリグリコールのグリシジルエーテル、或いはモノカルボン酸のグリシジルエステルと混合することもできる。例は以下を包含するが、それらに限定されない:ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレシルグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、およびネオデカン酸のグリシジルエステル。グリシジルエーテルおよびグリシジルエステルは、湿潤性、粘度、可撓性、接着性、および他の特性に作用するために、1〜50%の量でエポキシ樹脂と混合し得る。EPON(登録商標) Resins 815、813および8132(Hexion Specialty Chemicals社から入手可能)並びにDER(商標) 324(Dow Chemical Companyから入手可能)が、そのような変性剤を含有するエポキシ樹脂の例である。
【0032】
様々な環境での取扱いまたは応用または使用を更に容易にするため、硬化剤またはエポキシ樹脂系を、少量の適合する溶媒で希釈できる。該溶媒は以下を包含するが、それらに限定されない:脂肪族または芳香族の、炭化水素、アルコール、グリコールエーテル、ケトンおよびエステル。
【0033】
本発明に従った硬化剤の成分、即ち、フェナルカミンと塩形成されたアミンとは、所望の用途に依存して、95:5、90:10および80:20の比で存在し得る。
【0034】
硬化剤は、助剤および添加剤、例えば、流れ制御添加剤、消泡剤、または垂れ防止剤を含有できる。他の添加剤は、意図される用途に応じて、顔料、補強剤、充填剤、エラストマー、安定剤、エキステンダー、可塑剤、または難燃剤を包含する。組成物の基本的な特性および有効性に実質的に作用しない他の常套の添加剤が存在してもよい。
【0035】
エポキシ樹脂硬化組成物は、以下を包含する用途で使用され得るが、用途はそれらに限定されない:接着剤、塗料、フローリング、注型、および封入剤。
【0036】
有利なことに、周囲条件での硬化速度の上昇により、エポキシ系で被覆された基材を迅速に使用に供することができる。低温での硬化速度の上昇は、不利な環境条件下で製品を被覆することを可能にし、エポキシ樹脂系の塗布時期の拡大に寄与する。そのような急速硬化系が、(水分の存在下における遊離第一級アミンと二酸化炭素との反応により生じた不溶性カーボネートが原因で生じた、エポキシフィルム表面上の白色粉末状被覆である)ブラッシュも回避できるなら、層間剥離を回避することもできる。
【0037】
特に記載のない限り、本明細書で使用されている技術用語および科学用語の全ては、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載したものと同じまたは同等の方法および物質を、本発明の実施または試験において使用できるが、適当な方法および物質は以下に記載する。物質、方法および実施例は、例示にすぎず、限定を意図するものではない。
【実施例】
【0038】
実施例1
ジエチレントリアミン(DETA)を用いたフェナルカミンの合成
適当な反応器に、5.60molのカルダノールおよび0.58molのDETAを導入する。
撹拌しながら窒素流中で、温度を45℃にする。次いで、70℃の温度限界を超えないようにして、12.83molのホルムアルデヒドを約1時間にわたって添加する。反応を更に90分間維持する。続いて、温度を70℃に維持しながら、10.70molのDETAをゆっくり添加する。DETAの添加完了後、反応を更に1時間続ける。その後、水および他の低沸点物質を除去するために、50mm/hgまでの減圧下、反応混合物を85℃に加熱する。水が除去されるまで、反応器内を減圧にしながら反応を維持する。反応器を放冷し、その後、フェナルカミンを取り出す。
【0039】
分析結果:
性状:透明、粘稠液体
ガードナー:6
アミン価:502mgKOH/g
25℃での粘度:910cps
【0040】
実施例2
塩形成されたアミンの合成
適当な反応器に、5.5gのサリチル酸(0.08酸当量)、27gのビスフェノールA(0.24酸当量)、10gのベンジルアルコール、および51gのメチルキシレンジアミン(0.75第一級アミン当量)を導入する。窒素流中、反応器内の混合物を60℃の温度まで加熱し、15分間維持する。6.5gのDER 331(0.03エポキシ当量−第一級アミンをブロックする)をゆっくり添加し、温度を100℃に維持する。DER 331の添加完了後、温度を160℃に上昇させ、1時間維持する。反応器を放冷し、エポキシ硬化剤を取り出す。
【0041】
計算:
【数1】

分析結果:
性状:透明液体
ガードナー:1
アミン価:420mgKOH/g
25℃での粘度:3600cps
【0042】
実施例3
実施例1で得たフェナルカミン950gを、実施例2で得た塩形成されたアミン50gと混合した。
【0043】
実施例4
実施例1で得たフェナルカミン900gを、実施例2で得た塩形成されたアミン100gと混合した。
【0044】
実施例5
実施例1で得たフェナルカミン800gを、実施例2で得た塩形成されたアミン200gと混合した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の対照例は、実施例1のフェナルカミンであり、実施例2の塩形成されたアミンを含有しない。上記データが示すように、様々な比(即ち、95:5、90:10および85:5)での塩形成されたアミンのフェナルカミンへの添加が、25℃および0℃での短縮された乾燥時間を有する硬化剤を有利に提供することがわかる。乾燥時間特性は、被覆された部品をいかに迅速に使用再開できるかについての重要因子であるスルー硬化時間の55%短縮による25℃での著しい向上を示している。この向上は0℃でも見られ、このことは、寒冷気候における、橋、タンク、パイプラインおよび船に関する屋外被覆用途での特性向上を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩形成されたポリアミンまたは塩形成されたポリアミン−エポキシ付加物と混合されてエポキシ樹脂用硬化剤を生成するフェナルカミンを含んでなる、エポキシ樹脂用硬化剤であって、塩形成されたポリアミンまたは塩形成されたポリアミン−エポキシ付加物の第一級アミン基の少なくとも3分の1がブロックされている硬化剤。
【請求項2】
第一級アミン基の約2分の1がブロックされている、請求項1に記載の硬化剤。
【請求項3】
フェナルカミンを供給する工程、および
該フェナルカミンを、塩形成されたポリアミンまたは塩形成されたポリアミン−エポキシ付加物と混合してエポキシ樹脂用硬化剤を生成する工程
を含む、エポキシ樹脂用硬化剤の製造方法であって、塩形成されたポリアミンまたは塩形成されたポリアミン−エポキシ付加物の第一級アミン基の少なくとも3分の1がブロックされている方法。
【請求項4】
塩形成されたポリアミンまたは塩形成されたポリアミン−エポキシ付加物の第一級アミン基の約2分の1がブロックされている、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の硬化剤をエポキシ樹脂に添加する工程を含み、約−10℃〜約25℃の温度で硬化が起こる、低温でのエポキシ樹脂の硬化方法。

【公表番号】特表2011−506698(P2011−506698A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538414(P2010−538414)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010453
【国際公開番号】WO2009/080209
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】