説明

エラストマー組成物

【課題】 本発明の目的は、低温領域から高温領域までの広い温度領域で高いtanδが発現し、制振材料として好適な組成物、およびこのような組成物からなる制振材を提供することにある。
【解決手段】 エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)30〜70重量部とスチレン系エラストマー(B)70〜30重量部(但し(A)と(B)の合計量は100重量部)を含むエラストマー組成物、およびこのような組成物からなる制振材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材料に好適なエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含むエラストマー組成物に関する。さらに詳しくは、広い温度範囲で制振性を発揮する(メタ)エチレン・アクリル酸エステル共重合体を含むエラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
制振材料としては、加硫タイプの制振ゴムが広く使用されてきたが、最近制振材料を熱可塑性材料とする傾向にある。このような傾向の中でスチレン系エラストマーの骨格を制御した特殊エラストマーが提案されている(例えば)。このタイプの制振材料は、室温領域においては高い制振性(高損失正接tanδ)を発現するものが見られるが、低温領域または高温領域では十分な制振性が得られていない。
【0003】
制振材料として、低温領域から高温領域までの広い温度領域で高い制振性を発揮する制振材料の開発が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開平7−68710号公報
【特許文献2】特開2002−284830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低温領域から高温領域までの広い温度領域で高いtanδが発現し、制振材料として好適な組成物を提供することにある。
本発明はまた、このような組成物からなる制振材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)30〜70重量部とスチレン系エラストマー(B)70〜30重量部(但し(A)と(B)の合計量は100重量部)を含むエラストマー組成物を提供する。
【0007】
−80〜80℃の温度範囲で測定した最小tanδが0.02以上である前記したエラストマー組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0008】
20℃で測定したtanδが0.5以上であり、−20℃で測定したtanδが0.07以上である前記したエラストマー組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0009】
前記スチレン系エラストマーが、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体エラストマー(SIS)である前記したエラストマー組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0010】
前記前記スチレン系エラストマーが、ビニルSISブロック共重合体である前記したエラストマー組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0011】
本発明はまた、前記したエラストマー組成物からなる制振材を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、低温領域から高温領域までの広い温度領域で高いtanδが発現し、制振材料として好適なエラストマー組成物が提供される。
本発明により、低温領域から高温領域までの広い温度領域で高い良好な制振性を示す制振材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願発明は、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)30〜70重量部とスチレン系エラストマー(B)70〜30重量部(但し(A)と(B)の合計量は100重量部)を含むエラストマー組成物を提供する。
【0014】
本発明のエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)(本発明では、エチレン・アクリルゴムということがある)としては、エチレンと(メタ)アクリル酸エステルとからなる二元共重合体、またはエチレン、(メタ)アクリル酸エステル及び架橋サイトとなり得るモノマーとからなる多元共重合体を挙げることができる。なお、ここに(メタ)アクリル酸エステルという記載は、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを意味するものである。
【0015】
エチレン・アクリル酸エステル共重合体における(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどを例示することができる。これらの中では、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル又はアクリル酸n−ブチルを共重合成分とする共重合体の使用が好ましい。
【0016】
前記多元共重合体における架橋サイトとなり得るモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノイソプロピルのようなマレイン酸モノエステル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルのような不飽和モノカルボン酸グリシジルなどを例示することができる。とくにマレイン酸モノメチル及びマレイン酸モノエチルのようなマレイン酸モノエステルの使用が好ましい。
【0017】
本発明のエチレン・アクリル酸エステル共重合体は、ゴム的特性を考慮すると、一般には(メタ)アクリル酸エステルの重合単位を25〜70重量%程度、好ましくは30〜65重量%程度の範囲で含有しているものが好ましい。また多元共重合体の場合、加硫特性を考慮すると、架橋サイトとなり得るモノマーの重合単位を10重量%まで、例えば0.1〜10重量%、とくに0.3〜7重量%の範囲で含有することが望ましい。
【0018】
またエチレン・アクリル酸エステル共重合体は、その加工性、加硫物性などを考慮すると、ムーニー粘度(ML(1+4)、100℃)が5〜100、好ましくは10〜70程度のものを使用することが好ましい。
【0019】
本発明のスチレン系エラストマー(B)としては、スチレン系熱可塑性エラストマーと呼ばれるものが好ましく、スチレン−ブタジエンブロックコポリマー(S−B),スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(S−B−S)、スチレン−イソプレンブロックコポリマー(S−I),スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(S−I−S)、スチレン−ブタジエン/イソプレン(ブタジエンとイソプレンのランダム共重合体ブロック)ブロックコポリマー(S−B/I)、スチレン−ブタジエン/イソプレン−スチレンブロックコポリマー(S−B/I−S)などのスチレン含有ブロック共重合体;などのブロックコポリマーおよびこれらの水添物を挙げることができる。
【0020】
これらのスチレン系熱可塑性エラストマー中でも、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジェン−スチレンブロック共重合体、およびこれらの水添物が好ましく用いられる。
【0021】
本発明のスチレン系エラストマー(B)の特に好ましい例は、ハードセグメントにポリスチレンを有し、ソフトセグメントに水素添加ポリイソプレンを有するトリブロックコポリマー(以下、SEPSブロックコポリマーと記す)である。この場合、ポリイソプレンは、高シス1,4型が良く、これに水素を添加することにより構造的にはエチレン/プロピレン相互共重合体となっている。このSEPSブロックコポリマーは、耐オゾン性に優れ、温度依存性に優れ、硬度(JIS A)が低く、反発弾性が高い、という特性を有し、商品名「セプトンCJ103」((株)クラレ製)及びこれの同等品を使用できる。
【0022】
本発明スチレン系エラストマー(B)の他の好ましい例は、熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントにポリスチレンを有し、ソフトセグメントにビニル構造のポリイソプレンを有するビニル系のトリブロックコポリマーもしくはこれらの部分水素添加物(以下、ビニルSISブロックコポリマーと記す)である。この場合のポリイソプレンは、シス型でもトランス型でもよい。
【0023】
このビニルSISブロックコポリマーのスチレン含有量は、硬度、MFR(メルトフローレート)の点で、5ないし50重量%、特に10ないし35重量%であることが好ましい。一方、ポリイソプレンは、3,4結合+1,2結合のいわゆるビニル結合が主体のブロックであり、ビニル化度を60%以下、好ましくは30ないし60%としたものがよい。
【0024】
このようなビニルSISブロックコポリマーとして、商品名「ハイブラー 5127」((株)クラレ製)及びこれの同等品を使用できる。また、本発明において、耐熱性、耐候性、特に耐オゾン性を高める必要がある場合には、ビニルSISブロックコポリマーとして、ソフトセグメントを部分的に水素添加したものを使用するのが好ましい。
【0025】
本発明のエラストマー組成物におけるエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)の配合割合は、30〜70重量部、好ましくは35〜65重量部であり、スチレン系エラストマー(B)の配合割合は70〜30重量部、好ましくは65〜35重量部である。(但し(A)と(B)の合計量は100重量部)
【0026】
本発明のエラストマー組成物は、通常非架橋の組成物として使用されるが、架橋して使用してもよい。本発明のエラストマー組成物は、アミン架橋が容易であるので、ポリアミンを架橋剤として架橋することができる。その際ポリアミンを架橋剤と共に、加硫促進剤としてグアニジン類を使用してもよい。
【0027】
本発明における組成物には、柔軟性と流動性を向上させる目的で、軟化剤を配合してもよい。この軟化剤の例として、公知のパラフィン系、ナフテン系等の石油系軟化剤又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0028】
また、本発明のエラストマー組成物に、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム等の熱可塑性エラストマーに一般的に使用されている充填剤や補強剤や、フェノール系安定剤、リン系安定剤、硫黄系安定剤、アミン系安定剤などの酸化防止剤、光安定剤を含む各種安定剤を、本発明の目的を損なわない範囲で添加することもできる。さらに、必要に応じて、上記の配合剤に加えて難燃剤、抗菌剤、滑剤などをさらに添加してもよい。
【0029】
本発明のエラストマーにおける各成分の混合は、各種押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、あるいはこれらを組み合わせたものなどを使用して、上記各成分を混練することにより行うことができる。
【0030】
また、本発明のエラストマー組成物は、一軸またはニ軸押出機を用いて混練し、押し出してペレット状とすることができるので、本発明のエラストマー組成物をペレット状で使用したり、供給したりすることができる。
【0031】
本発明のエラストマー組成物においては、低温領域から高温領域までの広い温度領域で高いtanδが発現するので、本発明のエラストマー組成物は制振材料として好適な組成物である。特に室温領域および低温領域において高いtanδを示す。
−80〜80℃の温度範囲で測定した本発明のエラストマー組成物の最小tanδは、0.02以上であることが好ましい。また、エラストマー組成物のtanδが、20℃で測定して0.5以上であり、−20℃で測定して0.07以上である態様は、本発明のエラストマー組成物の好ましい態様である。
【0032】
本発明のエラストマー組成物は、高い振動吸収性能を有し、かつ温度依存性が優れており、低温、高温に耐えるので、低温から高温まで広い温度範囲で制振材料として使用することができる。本発明のエラストマー組成物は、音響機器、情報機器、ビデオ機器、映像機器、家庭用電気製品などの電気機器用や、自動車用内・外装材、バンパーなどの自動車関連機器用の振動を吸収する防振材として好適に使用できる。そのほか、事務機器、スポーツ用品、各種機器の内・外装材、建材などにも使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下に本発明を、実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
本発明における物性測定は、下記の方法によって行った。
(1)損失正接tanδ
動的粘弾性測定装置(TAインスツルメントジャパン株式会社製 RSA3)を使用して、温度範囲−80℃〜+80℃、昇温速度3℃/分、周波数10Hzの条件で測定した。
(2)メルトフローレート(MFR)
JIS K 6760−1995に従って、温度190℃、荷重2160gで測定した。
【0034】
(原材料)
(A)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体:エチレン・アクリル酸メチル・架橋サイトモノマーランダム共重合体(MFR12g/10分、ム−ニー粘度(ML1+4、100℃)15)
(B)スチレン系エラストマー:ビニルSISブロックコポリマー(水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー、商品名 「ハイブラー 5127」、株式会社クラレ製、スチレン含量:20重量%、MFR:5g/10分)
【0035】
(実施例1)
上記(A)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体50重量部と、上記(B)スチレン系エラストマー50重量部を混合し、二軸混練押出機を用いて、スクリュー回転数260rpm、混練温度200℃にて混練し、小型ニーダーを用いて、スクリュー回転数50rpm、混練温度180℃にて混練し、得られた配合物を160℃に設定したプレス成形機にてテストサンプルを作成した。このテストサンプルについて、tanδのピーク値における温度(℃)を測定した。結果を表1に示した。
【0036】
(実施例2)
実施例1において、(A)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体を40重量部、(B)スチレン系エラストマーを60重量部とするほかは同様にして、テストサンプルを作成した。このテストサンプルについて、tanδのピーク値における温度(℃)を測定した。結果を表1に示した。
【0037】
(比較例1)
実施例1において、(A)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体100重量部とし、(B)スチレン系エラストマーの使用を省略して、実施例1と同様にしてtanδを測定した。結果を表1に示した。
【0038】
(比較例2)
実施例1において、(B)スチレン系エラストマー100重量部とし、(A)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の使用を省略して、実施例1と同様にしてtanδを測定した。結果を表1に示した。
【0039】
(比較例3)
実施例1において、(A)エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体を25重量部とし、(B)スチレン系エラストマーを75重量部とするほかは実施例1と同様にしてtanδを測定した。結果を表1に示した。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により提供されるエラストマー組成物は、低温領域から高温領域までの広い温度領域で高いtanδが発現する制振材料として好適なエラストマー組成物である。
本発明により提供されるエラストマー組成物は、特に室温領域および低温領域において高いtanδが発現するという性質を顕著に示す制振材料として好適なエラストマー組成物である。
本発明によって提供されるエラストマー組成物からなる制振材は、広い温度領域で高い制振性を示す制振材である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)30〜70重量部とスチレン系エラストマー(B)70〜30重量部(但し(A)と(B)の合計量は100重量部)を含むエラストマー組成物。
【請求項2】
−80〜80℃の温度範囲で測定した最小tanδが0.02以上である請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項3】
20℃で測定したtanδが0.5以上であり、−20℃で測定したtanδが0.07以上である請求項1または2に記載のエラストマー組成物。
【請求項4】
前記スチレン系エラストマーが、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)またはその水素添加物である請求項1〜3のいずれかに記載のエラストマー組成物。
【請求項5】
前記前記スチレン系エラストマーが、ビニルSISブロック共重合体である請求項1〜3のいずれかに記載のエラストマー組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のエラストマー組成物からなる制振材。

【公開番号】特開2007−162010(P2007−162010A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310038(P2006−310038)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】