説明

エリスリトールを用いた糖衣掛け菓子及びその製造方法

【課題】従来のエリスリトールを用いた糖衣方法と比較して少ない使用量で、適度な冷涼感を呈し、低甘味、低カロリーで且つ比較的安価な糖衣菓子とその製造方法を提供すること。
【解決手段】糖衣組織中のエリスリトール含量100重量部に対し、マルチトールを101重量部以上500重量部以下の範囲で組み合わせ、該糖質混合物100重両部を35〜100重量部に水に溶解することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷涼感を呈し、低甘味、低カロリーで且つ比較的安価な糖衣組織を有する糖衣掛け菓子、またはその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷涼感を呈する糖衣組織を得る方法として、キシリトールやソルビトールを用いる方法は一般的である、しかしこれらの糖質は非常に吸湿耐性が低い為バリア性の高い包装材料で個装するなど包装方法が限定されるものであった。
【0003】
また冷涼感を呈し、低カロリーな糖衣組織を実現する素材としてエリスリトールが考えられる、しかしエリスリトールのみで糖衣を行なった場合、非常に組織が脆弱なものである為、該可食性センターへの付着が弱く均一かつ平滑な糖衣組織を得る事は困難である。
【0004】
特許第3332987号公報ではエリスリトールを用いた糖衣組織を得る手段が開示されている、しかしこれは糖衣組織中にエリスリトールを50%以上使用する必要があるため、製品全体に占める糖衣組織の重量比によってはエリスリトール独特のエグミが強く出過ぎる事、及びエリスリトールは他の糖アルコールに比べ高価であるため安価な製品設計に支障があるなど制約のある手段である。
また同公報では糖衣組織中のエリスリトール含量が50%未満の場合、糖衣シロップからの糖質の晶化が遅延し且つ粘稠性を呈する為、均一な糖衣組織を効率的に形成する事が困難であるとしている。
【0005】
特開2000−316479公報においても糖衣の手段が開示されているが、これはキシリトール、エリスリトール、マンニトールから選ばれる1種の糖アルコールを固形分として80〜99%含有するものであり、キシリトールの場合には吸湿耐性の問題、エリスリトールの場合は前述の味質のエグミ及び価格の問題、マンニトールの場合には冷涼感を呈しないなどの問題がある。
【特許文献1】特許第3332987号公報
【特許文献2】特開2000−316479公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、従来のエリスリトールを用いた糖衣方法と比較して少ない使用量で、適度な冷涼感を呈し、低甘味で且つ比較的安価な糖衣組織を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、適度な冷涼感を呈し、低甘味、低カロリーで且つ比較的安価な糖衣組織を得るために、糖衣組織中のエリスリトール含量100重量部に対し、マルチトールを101重量部以上500重量部以下の範囲で組み合わせることにより本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明の糖衣方法は糖衣組織中のエリスリトール含量を50%未満にできるため、適度な冷涼感と低甘味、低カロリーを同時に実現し、且つ安価で均一な糖衣組織を効率的に得る事ができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明をより詳細に説明する。本発明に用いるエリスリトールとは、ブドウ糖を原料に、酵母の発酵により産出される四炭糖の糖アルコール、またはエリスロースに水素添加を行い化学的に合成したものである。
本発明に係るエリスリトールの形態は、糖衣用シロップに使用する場合は粉体、結晶など特に限定されない。
【0010】
本発明でいうマルチトールとは、グルコースがα−1,4結合してなる二糖であるマルトースの還元体を意味する。
本発明に係るマルチトールの形態は、エリスリトールと同様、糖衣用シロップに使用する場合は粉体、結晶など特に限定されない。
【0011】
本発明の方法において、糖質混合部の糖の構成はエリスリトール100重量部に対し、マルチトールを101重量部〜500重量部配合する。マルチトールが500重量部以上になると目的とする適度な冷涼感が得られず、101重量部未満であると製品全体に占める糖衣組織の重量比によってはエリスリトール特有のエグミが感じられやすくなる上、エリスリトールの構成比が増加するので原料コストが高くなる。
【0012】
これらの糖質混合部100重量部を35〜100重量部の水に溶解し、糖衣用シロップを作成するが、このときの溶解方法は特に限定されず、溶解後にシロップが透明で溶け残りなどがなければよい。また、水が35重量部未満であると糖質濃度が高すぎて表面を完全に被覆する前に固化が生じてしまい伸展しにくくなるため、均一な糖衣を形成することができず、水が100重量部を超えると蒸発させるべき水分が過剰となり糖衣形成時間がかかりすぎるので望ましくない。
【0013】
調製された糖質シロップは50℃〜80℃に保つのが好ましい。50℃未満ではエリスリトール、マルチトールの結晶化が起こる可能性があり、80℃を超えると蒸発により、糖液シロップの濃度が高くなるため、伸展しにくくなり、均一な糖衣が困難になるからである。
【0014】
また、乾燥は20℃〜40℃の温風を使用するのが好ましい。20℃未満では乾燥速度が遅く、作業効率が劣り、40℃を超えると可食性センターの変形等が起こる可能性があるからである。
【0015】
本発明でいう糖衣組織とは可食性センターに糖衣用シロップの添加、伸展、乾燥を繰り返すことにより形成された糖衣層をいう。このとき作業性向上を目的として、糖衣用シロップが伸展した段階で粉末のエリスリトール、マルチトール、または両者の混合品を粉末状態で添加してもよい。
また、本発明で使用する糖衣シロップには必要に応じて、糖衣作業性向上を目的としアラビアガム、ゼラチン、デキストリンなどを使用してもよく、着味の目的で香料、着色の目的で着色料などを適宜添加してもよい。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。なお、以下の実施例、比較例において冷涼感、甘味については専門パネラー5人による官能評価により総合的に判断した。
【0017】
(実施例1)
エリスリトール100重量部に対し、マルチトール101重量部を混合し混合糖質部を得、混合糖質部100重量部を水47重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整し50〜60℃に保温した。一方、可食性センターとして長辺19mm、短辺12mm、厚さ5mmの枕状のチューインガムを調整した。このようにして調整されたシロップおよび可食性センターを用い伸展、乾燥を繰り返して、糖衣ガムを得たところ糖衣ガム中の糖衣組織の重量は35%であった。
得られた糖衣ガムについて冷涼感、甘味についての官能評価、糖衣の作業性、均一性の評価を行った結果、冷涼感は非常に良好であり、甘味、糖衣の作業性、糖衣の均一性についても良好であった。
【0018】
(実施例2)
エリスリトール100重量部に対し、マルチトール150重量部を混合し混合糖質部を得、混合糖質部100重量部を水47重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整し50〜60℃に保温した。一方、可食性センターとして長辺19mm、短辺12mm、厚さ5mmの枕状のチューインガムを調整した。このようにして調整されたシロップおよび可食性センターを用い伸展、乾燥を繰り返して、糖衣ガムを得たところ糖衣ガム中の糖衣組織の重量は35%であった。
得られた糖衣ガムについて冷涼感、甘味についての官能評価、糖衣の作業性、均一性の評価を行った結果、冷涼感、甘味は非常に良好であり、糖衣の作業性、糖衣の均一性については良好であった。
【0019】
(実施例3)
エリスリトール100重量部に対し、マルチトール150重量部、アラビアガム4部を混合し混合糖質部を得、混合糖質部100重量部を水47重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整し50〜60℃に保温した。一方、可食性センターとして長辺19mm、短辺12mm、厚さ5mmの枕状のチューインガムを調整した。このようにして調整されたシロップおよび可食性センターを用い伸展、乾燥を繰り返して、糖衣ガムを得たところ糖衣ガム中の糖衣組織の重量は35%であった。
得られた糖衣ガムについて冷涼感、甘味についての官能評価、糖衣の作業性、均一性の評価を行った結果、冷涼感、甘味は非常に良好であり、糖衣の作業性が非常に良好であり、糖衣の均一性についても良好であった。
【0020】
(実施例4)
エリスリトール100重量部に対し、マルチトール150重量部、アラビアガム16部を混合し混合糖質部を得、混合糖質部100重量部を水47重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整し50〜60℃に保温した。一方、可食性センターとして長辺19mm、短辺12mm、厚さ5mmの枕状のチューインガムを調整した。このようにして調整されたシロップおよび可食性センターを用い伸展、乾燥を繰り返して、糖衣ガムを得たところ糖衣ガム中の糖衣組織の重量は35%であった。
得られた糖衣ガムについて冷涼感、甘味についての官能評価、糖衣の作業性、均一性の評価を行った結果、冷涼感、甘味は非常に良好であり、糖衣の作業性が非常に良好であり、糖衣の均一性についても良好であった。
【0021】
(実施例5)
エリスリトール100重量部に対し、マルチトール500重量部を混合し混合糖質部を得、混合糖質部100重量部を水47重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整し50〜60℃に保温した。一方、可食性センターとして長辺19mm、短辺12mm、厚さ5mmの枕状のチューインガムを調整した。このようにして調整されたシロップおよび可食性センターを用い伸展、乾燥を繰り返して、糖衣ガムを得たところ糖衣ガム中の糖衣組織の重量は35%であった。
得られた糖衣ガムについて冷涼感、甘味についての官能評価、糖衣の作業性、均一性の評価を行った結果、冷涼感は良好であり、甘味も非常に良好であった。糖衣の作業性、糖衣の均一性についても良好であった。
【0022】
(比較例1)
エリスリトール100重量部に対し、マルチトール90重量部を混合し混合糖質部を得、混合糖質部100重量部を水47重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整し50〜60℃に保温した。一方、可食性センターとして長辺19mm、短辺12mm、厚さ5mmの枕状のチューインガムを調整した。このようにして調整されたシロップおよび可食性センターを用い伸展、乾燥を繰り返して、糖衣ガムを得たところ糖衣ガム中の糖衣組織の重量は35%であった。
得られた糖衣ガムについて冷涼感、甘味についての官能評価、糖衣の作業性、均一性の評価を行った結果、冷涼感は良好であったが、エリスリトール独特のエグい甘味を感じた。糖衣の作業性、糖衣の均一性については良好であった。
【0023】
(比較例2)
エリスリトール100重量部に対し、マルチトール1000重量部を混合し混合糖質部を得、混合糖質部100重量部を水47重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整し50〜60℃に保温した。一方、可食性センターとして長辺19mm、短辺12mm、厚さ5mmの枕状のチューインガムを調整した。このようにして調整されたシロップおよび可食性センターを用い伸展、乾燥を繰り返して、糖衣ガムを得たところ糖衣ガム中の糖衣組織の重量は35%であった。
得られた糖衣ガムについて冷涼感、甘味についての官能評価、糖衣の作業性、均一性の評価を行った結果、甘みは良好であったが、冷涼感が感じられなかった。また、糖衣の作業性、糖衣の均一性については良好であった。
【表1】

【0024】
(実施例6)
エリスリトール100重量部に対し、マルチトール150重量部を混合し混合糖質部を得、混合糖質部100重量部を水35重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整し50〜60℃に保温した。一方、可食性センターとして長辺19mm、短辺12mm、厚さ5mmの枕状のチューインガムを調整した。このようにして調整されたシロップおよび可食性センターを用い伸展、乾燥を繰り返して、糖衣ガムを得たところ、糖衣の作業性、均一性ともに良好であった。
【0025】
(実施例7)
エリスリトール100重量部に対し、マルチトール150重量部を混合し混合糖質部を得、混合糖質部100重量部を水43重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整し50〜60℃に保温した。一方、可食性センターとして長辺19mm、短辺12mm、厚さ5mmの枕状のチューインガムを調整した。このようにして調整されたシロップおよび可食性センターを用い伸展、乾燥を繰り返して、糖衣ガムを得たところ、糖衣の作業性は非常に良好であり、均一性も良好であった。
【0026】
(実施例8)
エリスリトール100重量部に対し、マルチトール150重量部を混合し混合糖質部を得、混合糖質部100重量部を水47重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整し50〜60℃に保温した。一方、可食性センターとして長辺19mm、短辺12mm、厚さ5mmの枕状のチューインガムを調整した。このようにして調整されたシロップおよび可食性センターを用い伸展、乾燥を繰り返して、糖衣ガムを得たところ、糖衣の作業性は非常に良好であり、均一性も良好であった。
【0027】
(実施例9)
エリスリトール100重量部に対し、マルチトール150重量部を混合し混合糖質部を得、混合糖質部100重量部を水67重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整し50〜60℃に保温した。一方、可食性センターとして長辺19mm、短辺12mm、厚さ5mmの枕状のチューインガムを調整した。このようにして調整されたシロップおよび可食性センターを用い伸展、乾燥を繰り返して、糖衣ガムを得たところ、糖衣の作業性、均一性ともに良好であった。
【0028】
(実施例10)
エリスリトール100重量部に対し、マルチトール150重量部を混合し混合糖質部を得、混合糖質部100重量部を水100重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整し50〜60℃に保温した。一方、可食性センターとして長辺19mm、短辺12mm、厚さ5mmの枕状のチューインガムを調整した。このようにして調整されたシロップおよび可食性センターを用い伸展、乾燥を繰り返して、糖衣ガムを得たところ、糖衣の作業性、均一性ともに良好であった。
【0029】
(比較例3)
エリスリトール100重量部に対し、マルチトール150重量部を混合し混合糖質部を得、混合糖質部100重量部を水30重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整し50〜60℃に保温した。一方、可食性センターとして長辺19mm、短辺12mm、厚さ5mmの枕状のチューインガムを調整した。このようにして調整されたシロップおよび可食性センターを用い伸展、乾燥を繰り返して糖衣ガムを得た。しかし、シロップの粘稠性が高いため伸展性が悪く、糖衣の作業性、均一性ともに悪かった。
【0030】
(比較例4)
エリスリトール100重量部に対し、マルチトール150重量部を混合し混合糖質部を得、混合糖質部100重量部を水30重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整し50〜60℃に保温した。一方、可食性センターとして長辺19mm、短辺12mm、厚さ5mmの枕状のチューインガムを調整した。このようにして調整されたシロップおよび可食性センターを用い伸展、乾燥を繰り返して糖衣ガムを得た。しかし、シロップの水分含量が高いため乾燥効率が悪く、作業に時間を要する事がわかった。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0031】
実施例で具体的に述べたように、本発明によって従来に比較して、適度な冷涼感を有しつつ、エリスリトール特有の独特のエグい甘味のない糖衣製品を比較的安価に作業性を低下させることなく製造することが可能となるため、冷涼感と甘みを有する糖衣製品の風味向上に寄与するところが大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖衣組織中のエリスリトールが100重量部に対し、マルチトールが101重量部〜500重量部であることを特徴とする糖衣菓子。
【請求項2】
エリスリトールが100重量部に対し、マルチトールを101〜500重量部混合し、該糖質混合部100重量部を水35〜100重量部に溶解させて糖衣用シロップを調整するとともに、一方糖衣用釜内に可食性センターを投入し糖衣用釜を回転させた状態で糖衣用シロップを適量添加し可食性センター表面に伸展させた後、送風乾燥させ、このように糖衣用シロップ添加、伸展、乾燥の工程を繰り返す事により糖衣組織を形成する請求項1記載の糖衣菓子の製造方法。

【公開番号】特開2007−20554(P2007−20554A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235544(P2005−235544)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】