説明

エレクトロウェッティングにおける液滴の接触角変位及び変化速度の増加方法及びその方法により形成された液滴を適用した液滴制御装置

【課題】親水性液滴の界面接触角変位及び変化速度を増加させる。
【解決手段】親水性液滴に2元電解質または3元電解質を添加して前記親水性液滴とオイルまたは空気が形成する界面の接触角変位及び変化速度を増加させる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレクトロウェッティング(electrowetting)原理を利用した親水性液滴の制御方法に関するもので、より詳細には、親水性液滴の接触角変位及び変化速度の増加方法及びその方法により形成された液滴制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、微小化学物質分析システム(micro total analysis system、以下マイクロTASと称する)に対する関心が増加している。その中でもマイクロTASの一種類であるラボオンチップ(lab−on−a−chip、以下LOCと称する)は、試料を採取してこれを反応させる前の前処理過程を経て実際に反応させ、それを分離及び分析する全ての過程を一つのチップ上で可能なように具現することを目標に研究されている。
【0003】
このようなLOCを具現するにおいて、最も重要な課題として浮き上がっているのが、LOCの中で様々な過程を行うため微細流動場を制御するものである。現在、LOCの中で微細流動場を制御するために使用している方法のうち、特に微細流動場の移送を制御するため、注射器ポンプ、電気浸透(electro osmosis)、高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography、以下HPLCと称する)などを使用する方法がある。ところが、注射器ポンプ、HPLC等は流動が脈動的な形態を示したり、価格が高いといった短所があり、電気浸透は流動の制御速度が遅く、高電圧を必要とするといった短所がある。
【0004】
一方、微細流動場において流体に作用する色々な力のうち、特に表面張力が最も重要である。このような表面張力を利用して流動を制御する方法として、フランスの物理学者リップマン(Lippmann)は外部で誘発された静電気電荷により電解質溶液と金属表面の毛細管力の変化を利用した電気毛細管現象を提示したことがある。しかし、電気毛細管現象を利用した流動場の制御方法は流体に電気が伝達される恐れがあり、電気化学反応により表面状態が変わるといった短所がある。
【0005】
このような電気毛細管現象として現れた短所を解決するための代案として親水性液滴を金属電極に直接接触させることなく、絶縁物質でコーティングした電極上に親水性液滴を滴下した後、外部電圧を印加して親水性液滴を制御する方法であるエレクトロウェッティングに関する研究が本格化した。
【0006】
親水性液滴の表面張力を利用するエレクトロウェッティングは微小電気機械システム(micro electromechanical system、MEMS)の発展に伴って数ボルトの低電圧を使用して効果的に液滴の流動を制御でき、その装置の製作が簡単で経済的であり、微細チャンネルに流体を満たした後、流動を制御する方法に比べて試料を節約できるという長所もある。
【0007】
現在、エレクトロウェッティングが有するこのような長所を応用するための研究が多数行なわれ、また、進行中のものもある。
【0008】
特に、特許文献1には簡単なエレクトロウェッティングの原理を利用して液滴の接触角を変化させる電極パッチを連続的に構成し、電気回路を通じて電極パッチに転位を印加することによって、液滴の分配、混合、移送を容易にする技術が開示されている。特許文献1の技術は、既存の微細流体システムで使用する連続流体操作法の限界を克服するため、各液滴に対する離散化の操作を可能にして低電力、高速の微細流体システム駆動方式の革新をもたらしてきた。
【0009】
前述した特許文献1に基づいて、LOCに適用可能であり、より向上したエレクトロウェッティングの原理を利用した微細流体システム駆動方式が開発されている。
【0010】
また、CeBIT2004で注目を集めた液体レンズは、エレクトロウェッティング現象を利用し極性溶媒と非極性溶媒に電圧を印加すると、二つの流体の接触面に特定の曲率が形成されることによって、既存の光学レンズのように機械的に駆動せずに、事物との距離によって自動で焦点を調節できるという特徴を有している。このような液体レンズを利用して自動で焦点を調節する相補型金属酸化膜半導体(CMOS)方式の携帯電話用130万画素カメラモジュールが韓国で開発された。
【0011】
液体レンズカメラモジュールは、事物との距離によってレンズの厚さが自動で変わりながら焦点を調節するという点で、人の目の水晶体に似ており、5cm距離の超近接撮影が可能であるので、携帯電話で指紋や文字を認識することもできる。また、焦点調節に要する時間がせいぜい100分の2秒にしかならず、製造コストも既存の光学レンズ方式より40%程低廉で光学レンズ代替品として脚光を浴びると予見する。
【0012】
ところが、いままで知られてきたエレクトロウェッティングの原理を利用した液滴制御方法に使われる親水性液滴は、エレクトロウェッティングの臨界電圧が低くて液滴の接触角変位を十分広く取ることができないだけでなく、その変化速度も大きくないなどの問題点がある。
【特許文献1】米国特許第6,565,727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の発明者は前述した従来技術の問題点を解決するために鋭意研究努力を重ねた結果、エレクトロウェッティングの原理を利用した親水性液滴の制御時、親水性液滴に特定電解質を一定濃度で添加すると、エレクトロウェッティングの臨界電圧が増加して親水性液滴の接触角の変化範囲が増加することを確認して、本発明を完成することに至った。
【0014】
従って、本発明の目的は、エレクトロウェッティングの臨界電圧を増加させて親水性液滴の疏水性と親水性との間における界面の接触角変位及び変化速度を増加させることができる界面の接触角変位と変化速度の増加方法を提供することにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、LOCまたは液体レンズなどのように、エレクトロウェッティングの原理が適用される装置の動作性を向上させるために、界面の接触角変位と変化速度の増加方法により増加した接触角変位と変化速度を有する液滴が適用された液滴制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述した目的を達成するために、本発明に係る界面の接触角変位と変化速度を増加させる方法は、絶縁体でコーティングした電極上の親水性液滴に外部電圧を印加すると、親水性液滴の接触角が変化するエレクトロウェッティングの原理を利用した液滴制御方法であって、前記親水性液滴に2元電解質または3元電解質を添加して前記親水性液滴と非極性流体が形成する界面の接触角変位及び変化速度を増加させることを特徴とする。
【0017】
まず、本発明で使われるエレクトロウェッティングの原理について説明する。
【0018】
エレクトロウェッティングは、高電圧で表面張力を制御できるように金属板と親水性液滴との間に薄い絶縁膜をコーティングし、印加する電圧の変化によって親水性液滴の表面模様を変化させることができ、電圧が高まるほど親水性液滴が金属板上で広がる現象が現れるので、電気で水をぬらすという意味でエレクトロウェッティングと命名したものである。
【0019】
より詳細に、エレクトロウェッティングは、図1の概念図に示したように、絶縁体でコーティングした電極上に親水性液滴を滴下した後、親水性液滴に外部の電圧(V)を印加すると、親水性液滴の接触角(q)が変化する現象を意味する。
【0020】
この時、接触角(q)は下記数1式により計算できる。
【0021】
【数1】

【0022】
ここで、eは絶縁体の誘電率、gVLは流体−親水性液滴界面の界面張力、dは絶縁膜の厚さ、Vは外部から印加する電圧である。
【0023】
数1式より分かるように、接触角の変化範囲を大きくする場合は、電圧が高くて、絶縁膜の厚さは薄いほど好ましい。しかし、今まで知られてきたことによれば、外部から電圧を印加する時、特定電圧以上ではそれ以上接触角が変わらず、絶縁膜の破壊(dielectric breakdown)が現れる臨界電圧(V)が存在する。
【0024】
従って、一旦最小限の絶縁膜の厚さを必要とする点を勘案すると、絶縁膜の厚さを最小化して接触角の変化範囲を増加させるよりは、外部から印加する電圧、すなわち親水性液滴の臨界電圧ができるだけ増加するように親水性液滴の界面特性を変化させることが好ましい。
【0025】
本発明者は親水性液滴に2元電解質または3元電解質を添加すると、電解質の添加前に比べて、親水性液滴の臨界電圧が非常に増加することを確認し、本発明を完成することに至った。
【0026】
従って、親水性液滴にイオン性粒子、中性粒子、生体物質及び磁性粒子からなるグループから選択される1種以上の物質を含むと、親水性液滴の界面特性がより一層悪くなる。しかし、本発明の方法を使用すると、このような粒子が含まれた場合にもLOCに適用可能な程度の界面特性を有するように親水性液滴の臨界電圧を非常に増加させることができる。
【0027】
ここで、前記生体物質は核酸、蛋白質、ペプチド、バクテリア、ウイルス及び哺乳動物の細胞からなるグループから選択される1種以上の物質を含むことが好ましい。
【0028】
本発明においては、親水性液滴と界面を形成する非極性流体はオイルまたは空気であることが好ましい。
【0029】
また、前記絶縁体はパリレンC、テフロン(登録商標)及び金属酸化膜からなるグループから選択される1種以上の物質を含むことが好ましい。
【0030】
また、前記電極はインジウムスズ酸化物(ITO)、Au/Cr、Al及び伝導性ポリマーからなるグループから選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0031】
一方、本発明で使われる2元電解質は、LiCl、KCl、NaClを含むハロゲン化アルカリ金属から選択される一つ以上であり、3元電解質はKSO、NaSOを含むアルカリ金属硫酸塩またはアルカリ金属窒酸塩から選択される一つ以上であることが好ましい。上に列挙した塩はLOCで主に使われる生体物質と親和的であり、沈殿が形成されないので、本発明の効果を確認するために使用した。
【0032】
この時、2元電解質または3元電解質は後述する実施例1から分かるように、1mM〜100mMの濃度で添加することが好ましく、1mM〜30mMの濃度で添加することがより好ましい。
【0033】
また、親水性液滴に中性粒子が含まれた場合、2元電解質または3元電解質は1mM〜100mMの濃度で添加することが好ましく、10mM〜30mMの濃度で添加することがより好ましい。
【0034】
さらに、親水性液滴に負電荷または正電荷を帯びた粒子が含まれた場合、2元電解質または3元電解質は30mM〜150mMの濃度で添加することが好ましく、30mM〜100mMの濃度で添加することがより好ましい。
【0035】
また、本発明の液滴制御装置は、非伝導性の第1基板と、前記第1基板の上面に配設された第1電極と、前記第1基板の上面に対向して配設されて所定の空間を形成する非伝導性の第2基板と、前記空間に隣接して第2基板の表面に配設された第2電極と、前記空間と前記第1電極との間または前記空間と前記第2電極との間に位置する絶縁膜と、前記空間と前記第1電極との間または前記空間と前記第2電極との間に位置する疏水性膜と、前記空間内に位置し、2元電解質または3元電解質を含む親水性液滴と、前記空間内に位置するオイルまたは空気と、を含むことを特徴とする。
【0036】
ここで、非伝導性の第1基板及び第2基板は、その形状の制限を受けないで平板や曲面の構造体でも可能であり、その素材においても非伝導性であれば、いずれも可能である。
【0037】
また、第1基板と第2基板が形成する一定空間の中で対向してこれらの基板の表面に対面して配設される第1及び第2電極は、インジウムスズ酸化物(ITO)、Au/Cr、Al及び伝導性ポリマーからなるグループから選択される1種以上を含んでなることが好ましい。伝導性ポリマーは、ポリアセチレン(polyacetylene)、ポリピロール(polypyrrole)、ポリアニリン(polyaniline)及びポリチオフェン(polythiophene)からなるグループから選択される1種以上を含んでなることが好ましい。
【0038】
また、絶縁膜はパリレンC、ポリテトラフルオロエチレン[polytetrafluoroethylene,テフロン(登録商標))]及び金属酸化膜からなるグループから選択される1種以上の物質を含んでなることが好ましく、疏水性膜は疏水性を有する素材であれば、いずれも利用可能である。金属酸化膜は、シリカ(silica)、アルミナ(alumina)、セリア(ceria)、チタニア(titania)、及びジルコニア(zirconia)からなるグループから選択される1種以上を含んでなることが好ましい。
【0039】
従って、本発明の液滴制御装置では、第1電極または第2電極のいずれか一方だけに絶縁膜が形成されるので、前述の空間に位置する2元電解質または3元電解質を含む親水性液滴に電圧を印加すると共に、印加した外部電圧により液滴を制御する。この時、液滴の臨界電圧を増加すると、液滴とオイルまたは空気との間に形成された界面の接触角変位を増加するだけなく、液滴の変化速度も増加することによって、液滴の制御をより精密に行うことができる。
【0040】
一方、本発明の液滴制御装置に使うその他の構成要素については前述したものと同様であるので、それについての詳細な説明は省略する。
【0041】
また、本発明の液滴制御装置が適用されたラボオンチップ(LOC)の場合、液滴は50V〜140Vの電圧下で電気的に移動できる。このような移動は、移動を望む方向に液滴界面だけに電気を印加してエレクトロウェッティングを誘導する方式で移動が行われる。このように本発明の液滴制御装置をLOCの微細流動場の移送に利用すると、従来の液滴を利用した移送より速く移動できるようになる。
【0042】
従って、本発明の液滴制御装置が適用されたLOCにおいて、実験または分析しようとする生体分子(biomolecule)を含有する試料を液滴を通じて一定量ずつ望む所に電気場を利用して移送することが可能である。この時、電流が流れないため電力消耗がなく、試料に含まれた生体分子に及ぼす影響が小さい。
【0043】
また、本発明の方法に係る界面の変位及び変化速度の増加した液滴及び液滴制御装置は、液体レンズにも適用できる。ここで、液体レンズはエレクトロウェッティングの原理を利用して密閉空間に満たされた電解質溶液に印加する電圧を高めたり低めたりしてレンズ(非伝導性有性液体との境界面)の厚さと焦点距離を調節することが可能である。従って、水晶体のように自ら屈折率を調節できるので小型化に有利であり、製造コストも低廉であると知られている。
【0044】
このように知らされた液体レンズの製造時、密閉空間に満たされた電解質溶液と本発明の方法により疏水性及び親水性界面の間における接触角の変位及び変化速度が増加した液滴を使用すると(事実上、本発明の液滴制御装置が適用される)、液滴の制御がより容易になり液体レンズの動作性が顕著に向上することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、エレクトロウェッティングの臨界電圧を増加させることによって親水性液滴の疏水性と親水性との間における界面の接触角変位及び変化速度を増加させることができ、界面の接触角変位と変化速度の増加方法により増加した接触角変位と変化速度を有する親水性液滴が適用された液滴制御装置を提供することができる。従って、本発明の液滴及び液滴制御装置によれば、LOCまたは液体レンズなどのようにエレクトロウェッティングの原理が適用される装置の動作性をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態についてより詳細に説明する。また、以下の実施例は本発明を例示するためのものにすぎないため、本発明の範囲がこれらの実施例に限定するものと解釈してはならない。
(比較例1)
図2に示した液滴の接触角変化確認実験を行うためのガラス毛細管(capillary glass tube)を利用した装置を用いることによって、エレクトロウェッティングの原理を利用した液滴制御方法で使われる液滴の接触角の変化を観察した。ここで、前述の装置はガラス管装置、電源供給装置、コンピュータ、光学顕微鏡付きのCCDカメラ、光源から構成される。
【0047】
ガラス管装置はガラス板上にITO薄膜を蒸着してITO電極を設けた後、ITO電極上に図2に示したようにガラス管が配設される。このガラス管の表面にはITO薄膜を蒸着してITO電極が形成され、その内面に形成されたITO電極の上には絶縁膜が形成される。この時、絶縁膜は光学的透明性と生体適合性に優れており、疏水性(接触角〜104° )のパリレンC(Parylene C)を、化学的蒸着法を利用して2.5mmの厚さでITO電極上にコーティングして形成する。
【0048】
このように構成したガラス管装置であるガラス管にマイクロピペットを使用してPBS(1mM sodium phosphate、15mM NaCl、pH7.4)を滴下した後、電源供給装置から1kHz、140V未満の交流電圧を印加する。続いて、PBS液滴の接触角変化を観察しながら、絶縁膜の破壊が起きる臨界電圧を探し出した。この時、電圧の変化によるPBS液滴の接触角変化はCCDカメラを利用して撮影し、カメラで撮影した映像はコンピュータに設けられたA/Dボード、映像ボード及びソフトウェアなどを利用して画像ファイルとして保存した。
【0049】
PBS液滴は60Vで絶縁膜の破壊による電気分解により気泡が発生したことが観察されたため、臨界電圧は60Vであることが分かる。
(比較例2−1)
PBSに1mmないし3mmのシリンダー状のE.coli(弱い疏水性であり、水に混ざって非常に弱い負電荷を帯びるが、ほとんど中性粒子と見なす)がさらに含まれたことを除いては、比較例1と同一の方法で実験を行なって接触角の変化を観察した。この時、54Vで絶縁膜の破壊による電気分解により気泡が発生したことが観察されたため、E.coliが含まれたPBS液滴の場合、その臨界電圧が54Vであることが分かる。
(比較例2−2)
PBSに4.16mmのポリスチレンビーズ(polystyrenebead、PS beadとも称する、疏水性であり、水に混ざって非常に弱い負電荷を帯びるが、ほとんど中性粒子と見なす)が2% v/vでさらに含まれたことを除いては、比較例1と同一の方法で実験を行なって接触角の変化を観察した。この時、54Vで絶縁膜の破壊による電気分解により気泡が発生したことが観察されたため、PS beadが含まれたPBS液滴の場合、その臨界電圧が54Vであることが分かる。
(比較例3−1)
PBSに1.05mmのカルボキシル酸基で終結した磁性ビーズ(COOH beadとも称する、親水性表面を有し負電荷を帯びる)が2%v/vでさらに含まれたことを除いては、比較例1と同一の方法で実験を行なって接触角の変化を観察した。この時、58Vで絶縁膜の破壊による電気分解により気泡が発生したことが観察されたため、COOH beadが含まれたPBS液滴の場合、その臨界電圧が58Vであることが分かる。
(比較例3−2)
PBSに1.5mmのアミン基で終結した磁性ビーズ(NH2+beadとも称する、親水性表面を有し正電荷を帯びる)が2%v/vでさらに含まれたことを除いては、比較例1と同一の方法で実験を行なって接触角の変化を観察した。この時、53Vで絶縁膜の破壊による電気分解により気泡が発生したことが観察されたため、NH2+beadが含まれたPBS液滴の場合、その臨界電圧が53Vであることが分かる。
【0050】
前述した実験結果から液滴(PBS液滴)の臨界電圧は60Vであり、液滴に中性粒子、負電荷粒子、正電荷粒子などが含まれると、臨界電圧がより低くなることが分かる。従って、臨界電圧を増加させて接触角の変化範囲を増加させることができる新しい方法が要求されることが分かる。
(実施例1−1)
比較例1のPBSにNaSO1mMをさらに添加したことを除いては、比較例1と同一の方法で実験を行なってNaSO添加PBS液滴の接触角変化を観察しながら、絶縁膜の破壊が起きる臨界電圧を探し出した。1mM NaSO添加PBS液滴は、85Vで絶縁膜の破壊による電気分解により気泡が発生したことが観察されたため、臨界電圧は85Vであることが分かる。
(実施例1−2)
PBSにNaSOを10mM添加したことを除いては、比較例1と同一の方法で実験を行なってNaSO添加PBS液滴の接触角変化を観察しながら、絶縁膜の破壊が起きる臨界電圧を探し出した。10mM NaSO添加PBS液滴は、110Vで絶縁膜の破壊による電気分解により気泡が発生したことが観察されたため、NaSO添加量が多くなるほど臨界電圧が増加することが分かる。(図3参照)
(実施例1−3)
比較例1のPBSにKCl 1mMをさらに添加したことを除いては、比較例1と同一の方法で実験を行なってKCl添加PBS液滴の接触角変化を観察しながら、絶縁膜の破壊が起きる臨界電圧を探し出した。1mMKCl添加PBS液滴は、65Vで絶縁膜の破壊による電気分解により気泡が発生したことが観察されたため、臨界電圧は65Vであることが分かる。
(実施例1−4)
PBSにKClを10mM添加したことを除いては、比較例1と同一の方法で実験を行なってKCl添加PBS液滴の接触角変化を観察しながら、絶縁膜の破壊が起きる臨界電圧を探し出した。10mMKCl添加PBS液滴は、90Vで絶縁膜の破壊による電気分解により気泡が発生したことが観察されたため、臨界電圧は90Vであることが分かる。
【0051】
従って、KClの添加量が多くなるほど臨界電圧が増加することが分かる。(図3参照)
実施例1よりPBS液滴に2元電解質または3元電解質がさらに添加すると、その臨界電圧が比較例1の60Vに比べて、非常に増加することが分かる。
(実施例2−1)
NaSOを10mMさらに添加したことを除いては、比較例2−1と同一の方法で実験を行なって接触角の変化を観察した。この時、91Vで絶縁膜の破壊による電気分解により気泡が発生したことが観察されたため、E.coliが含まれたPBS液滴の場合、その臨界電圧が54Vであったこととは異なり、E.coliが含まれたPBS液滴にNaSOを10mMさらに添加すると、その臨界電圧が91Vに顕著に高まることが分かる。
(実施例2−2)
NaSOを10mMさらに添加したことを除いては、比較例2−2と同一の方法で実験を行なって接触角の変化を観察した。この時、79Vで絶縁膜の破壊による電気分解により気泡が発生したことが観察されたため、PS beadが含まれたPBS液滴の場合、その臨界電圧が54Vであったこととは異なり、PS beadが含まれたPBS液滴にNaSOを10mMさらに添加すると、その臨界電圧が79Vに顕著に高まることが分かる。
【0052】
実施例2より中性粒子を含むPBS液滴に3元電解質をさらに添加すると、その臨界電圧が比較例2−1の54V、2−2の54Vに比べて、非常に増加することが分かる。
(実施例3−1)
NaSOを10mMさらに添加したことを除いては、比較例3−1と同一の方法で実験を行なって接触角の変化を観察した。この時、105Vで絶縁膜の破壊による電気分解により気泡が発生したことが観察されたため、COOH beadが含まれたPBS液滴の場合、その臨界電圧が58Vであったこととは異なり、COOH beadが含まれたPBS液滴にNaSOを10mMさらに添加すると、その臨界電圧が105Vに顕著に高まることが分かる。
(実施例3−2)
NaSOを10mMさらに添加したことを除いては、比較例3−2と同一の方法で実験を行なって接触角の変化を観察した。この時、78Vで絶縁膜の破壊による電気分解により気泡が発生したことが観察されたため、NH2+beadが含まれたPBS液滴の場合、その臨界電圧が53Vであったこととは異なり、NH2+beadが含まれたPBS液滴にNaSOを10mMさらに添加すると、その臨界電圧が78Vに顕著に高まることが分かる。
【0053】
実施例3より負電荷または正電荷を含むPBS液滴に3元電解質をさらに添加すると、その臨界電圧が比較例3−1の58V、3−2の53Vに比べて、非常に増加することが分かる。
【0054】
実施例1において、添加する電解質の濃度を変化させながら、引き続き行って測定した臨界電圧をグラフで示した図3を参照すれば、添加する2元電解質または3元電解質は1mM〜100mMの濃度範囲、特に1mM〜30mMの濃度範囲で有効に臨界電圧を増加させることが分かる。
【0055】
実施例2において、添加する電解質の濃度を変化させながら、引き続き行って測定した臨界電圧をグラフで示した図4A、4Bを参照すれば、液滴に中性粒子が含まれた場合、2元電解質または3元電解質は1mM〜100mMの濃度範囲、特に1mM〜30mMの濃度範囲で有効に臨界電圧を増加させることが分かる。
【0056】
実施例3において、添加する電解質の濃度を変化させながら、引き続き行って測定した臨界電圧をグラフで示した図5A、5Bを参照すれば、液滴に負電荷または正電荷を帯びた粒子が含まれた場合、2元電解質または3元電解質は30mM〜150mMの濃度範囲、特に30mM〜100mMの濃度範囲で有効に臨界電圧を増加させることが分かる。
【0057】
これは、実施例1ないし3でNaSOを濃度別に添加して得られる効果を一元化してグラフで示した図6を参照すれば、より一層明確に分かる。
【0058】
一方、実施例を通じて得られた臨界電圧の測定結果を単純化して表示した図7及び図8を参照すれば、添加した電解質による効果をより一層明らかに理解することができ、添加した電解質の効果は現象学的に大きく二つの区間に分けることができる。区間Iは添加した電解質濃度によって臨界電圧が増加する区間であり、区間IIは添加した電解質濃度が増加しても臨界電圧が増加せず、むしろ減少する区間である。
【0059】
区間Iの場合、添加した電解質により全体電解質混合液の電気伝導度が増加し、これを通じて液滴が絶縁膜と接触している界面に加えられた電荷の追加移送が起きることによって、エレクトロウェッティングの接触角における変化が発生する。このような現象は、加えられた電解質の濃度が増加するほど、活発に起きてエレクトロウェッティングの臨界電圧が上昇する結果になる。
【0060】
しかし、このような現象は一定濃度以上の電解質を添加すると変わる。すなわち、区間IIのように、高濃度の電解質イオンによる電荷移動、すなわち電荷の運動エネルギー(kinetic energy)の上昇が界面における接触角の変化をもたらすことができる表面エネルギー(surface energy)の限界を超過する時、これ以上のエレクトロウェッティング現象が起こらず、超過運動エネルギーが絶縁膜を破壊する作用をする。結局、区間IIでは加えられた電解質の濃度が増加するほど、むしろエレクトロウェッティングの臨界電圧が減少する結果になる。
【0061】
図7に示した区間Iにおける粒子添加による効果は、電解質液滴に粒子が含まれながら、添加する電解質の濃度による臨界電圧増加効果を鈍化させるものと現れる。液滴内に中性粒子が含まれながら、液滴が絶縁膜と接触している界面における表面状態に影響を及ぼすようになる。これによって、エレクトロウェッティング現象を引き起こす表面エネルギーに変化をもたらす。このような変化は電解質の添加による臨界電圧の上昇を阻害する役割をする。また、負電荷または正電荷を帯びた粒子が液滴内に存在すると、粒子表面に活性化される+/−作用基と添加した電解質とのイオン吸着が発生して、電解質の添加による追加電荷の移送効果が鈍化されるようになる。それによって、臨界電圧の上昇効果がより一層減少するようになる。
【0062】
図8に示した区間IIにおける粒子添加による効果は、区間Iと同様に、大きく変化する様相を見せない。これは高濃度電解質の追加による超過運動エネルギーの絶縁膜破壊効果が粒子の添加効果より優勢に作用するためである。
【0063】
本発明の構成を好ましい実施例及び図面を参照して説明及び図示したが、これは例を挙げて説明したものにすぎず、本発明の技術的思想及び特許請求の範囲を抜け出さない範囲内で当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者ならば誰でも多様な変形実施が可能なことはもちろんであり、そのような変更は本発明の請求範囲記載の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、エレクトロウェッティングの臨界電圧を増加させて親水性液滴の疏水性と親水性との間における界面の接触角変位及び変化速度を増加させることができ、界面の接触角変位と変化速度の増加方法により増加した接触角変位と変化速度を有する親水性液滴が適用された液滴制御装置を提供することができるので、本発明の液滴及び液滴制御装置によれば、LOCまたは液体レンズなどのようにエレクトロウェッティングの原理が適用される装置の動作性をより向上させることができる。従って、本発明の産業利用性はきわめて高いものといえる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】エレクトロウェッティングの説明に供する概念図である。
【図2】本発明の方法でエレクトロウェッティングを利用した液滴制御時、液滴の接触角変化確認実験を行うためのガラス毛細管を利用した装置の概念図である。
【図3】本発明の実施例1において添加する電解質の濃度を変化させながら、引き続き行って測定した臨界電圧をグラフで示したグラフ図である。
【図4A】本発明の実施例2−1において添加する電解質の濃度を変化させながら、引き続き行って測定した臨界電圧をグラフで示したグラフ図である。
【図4B】本発明の実施例2−2において添加する電解質の濃度を変化させながら、引き続き行って測定した臨界電圧をグラフで示したグラフ図である。
【図5A】本発明の実施例3−1において添加する電解質の濃度を変化させながら、引き続き行って測定した臨界電圧をグラフで示したグラフ図である。
【図5B】本発明の実施例3−2において添加する電解質の濃度を変化させながら、引き続き行って測定した臨界電圧をグラフで示したグラフ図である。
【図6】本発明の実施例1ないし3において添加する電解質としてNaSOを使用し、その濃度別に添加して得られる効果を一元化してグラフで示したグラフ図である。
【図7】本発明の実施例を通じて得られた臨界電圧測定結果を単純化し、特に区間Iに対して示したグラフ図である。
【図8】本発明の実施例を通じて得られた臨界電圧測定結果を単純化し、特に区間IIに対して示したグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体でコーティングした電極上の親水性液滴に外部電圧を印加すると前記親水性液滴の接触角が変化するというエレクトロウェッティングの原理を利用した液滴制御方法であって、
前記親水性液滴に2元電解質または3元電解質を添加して前記親水性液滴とオイルまたは空気が形成する界面の接触角変位及び変化速度を増加させることを特徴とする界面の接触角変位と変化速度を増加させる方法。
【請求項2】
前記親水性液滴はイオン性粒子、中性粒子、生体物質及び磁性粒子からなるグループから選択される1種以上の物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の界面の接触角変位と変化速度を増加させる方法。
【請求項3】
前記生体物質は核酸、蛋白質、ペプチド、バクテリア、ウイルス及び哺乳動物の細胞からなるグループから選択される1種以上の物質を含むことを特徴とする請求項2に記載の界面の接触角変位と変化速度を増加させる方法。
【請求項4】
前記絶縁体はパリレンC、ポリテトラフルオロエチレン及び金属酸化膜からなるグループから選択される1種以上の物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の界面の接触角変位と変化速度を増加させる方法。
【請求項5】
前記電極はインジウムスズ酸化物(ITO)、Au/Cr、Al及び伝導性ポリマーからなるグループから選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の界面の接触角変位と変化速度を増加させる方法。
【請求項6】
前記2元電解質はハロゲン化アルカリ金属であり、前記3元電解質はアルカリ金属硫酸塩またはアルカリ金属窒酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の界面の接触角変位と変化速度を増加させる方法。
【請求項7】
前記2元電解質または3元電解質は1mM〜100mMの濃度で添加することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の界面の接触角変位と変化速度を増加させる方法。
【請求項8】
前記2元電解質または3元電解質は1mM〜30mMの濃度で添加することを特徴とする請求項7に記載の界面の接触角変位と変化速度を増加させる方法。
【請求項9】
前記親水性液滴に含まれた物質が中性の場合、前記2元電解質または3元電解質は1mM〜100mMの濃度で添加することを特徴とする請求項2に記載の界面の接触角変位と変化速度を増加させる方法。
【請求項10】
前記親水性液滴に含まれた物質が中性の場合、前記2元電解質または3元電解質は10mM〜30mMの濃度で添加することを特徴とする請求項9に記載の界面の接触角変位と変化速度を増加させる方法。
【請求項11】
前記親水性液滴に含まれた物質が負電荷または正電荷を帯びた場合、前記2元電解質または3元電解質は30mM〜150mMの濃度で添加することを特徴とする請求項2に記載の界面の接触角変位と変化速度を増加させる方法。
【請求項12】
前記親水性液滴に含まれた物質が負電荷または正電荷を帯びた場合、前記2元電解質または3元電解質は30mM〜100mMの濃度で添加することを特徴とする請求項11に記載の界面の接触角変位と変化速度を増加させる方法。
【請求項13】
非伝導性の第1基板と、
前記第1基板の上面に配設された第1電極と、
前記第1基板の上面に対向して配設されて所定の空間を形成する非伝導性の第2基板と、
前記空間に隣接して第2基板の表面に配設された第2電極と、
前記空間と前記第1電極との間または前記空間と前記第2電極との間に位置する絶縁膜と、
前記空間と前記第1電極との間または前記空間と前記第2電極との間に位置する疏水性膜と
前記空間内に位置し、2元電解質または3元電解質を含む親水性液滴と、
前記空間内に位置するオイルまたは空気と、
を含むことを特徴とする液滴制御装置。
【請求項14】
前記親水性液滴はイオン性粒子、中性粒子、生体物質及び磁性粒子からなるグループから選択される1種以上の物質を含むことを特徴とする請求項13に記載の液滴制御装置。
【請求項15】
前記生体物質は核酸、蛋白質、ペプチド、バクテリア、ウイルス及び哺乳動物の細胞からなるグループから選択される1種以上の物質を含むことを特徴とする請求項14に記載の液滴制御装置。
【請求項16】
前記2元電解質はハロゲン化アルカリ金属であり、前記3元電解質はアルカリ金属硫酸塩またはアルカリ金属窒酸塩であることを特徴とする請求項13に記載の液滴制御装置。
【請求項17】
前記2元電解質または3元電解質は1mM〜100mMの濃度で添加することを特徴とする請求項13ないし16のいずれかに記載の液滴制御装置。
【請求項18】
前記2元電解質または3元電解質は1mM〜30mMの濃度で添加することを特徴とする請求項17に記載の液滴制御装置。
【請求項19】
前記親水性液滴に含まれた物質が中性の場合、前記2元電解質または3元電解質は1mM〜100mMの濃度で添加することを特徴とする請求項14に記載の液滴制御装置。
【請求項20】
前記親水性液滴に含まれた物質が中性の場合、前記2元電解質及び3元電解質は10mM〜30mMの濃度で添加することを特徴とする請求項19に記載の液滴制御装置。
【請求項21】
前記親水性液滴に含まれた物質が負電荷または正電荷を帯びた場合、前記2元電解質または3元電解質は30mM〜150mMの濃度で添加することを特徴とする請求項14に記載の液滴制御装置。
【請求項22】
前記親水性液滴に含まれた物質が負電荷または正電荷を帯びた場合、前記2元電解質または3元電解質は30mM〜100mMの濃度で添加することを特徴とする請求項21に記載の液滴制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−93605(P2007−93605A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263977(P2006−263977)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】