説明

エレクトロクロミック材料を用いた透過率可変素子、光学系および光学機器

【課題】カラーバランスの向上とゴーストの低減を可能にしたEC材料を用いた透過率可変素子、光学系および光学機器を提供すること
【解決手段】2つの基板2a,2bと、前記2つの基板に挟まれた2つの透明電極層3a,3bと、前記2つの透明電極層に挟まれ、電気制御により透過率が可逆変化するエレクトロクロミック層4と、前記2つの基板の一方と当該一方に最も近い前記透明電極層との間に設けられ、前記透過率可変素子の反射を低減する第1の誘電体層6a,6bと、を有し、前記第1の誘電体層は、屈折率差が0.2以上の屈折率が高い層と低い層が交互に2層以上積層した多層膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック材料を用いた透過率可変素子、光学系および光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電気制御によって着色し、透過率が可逆変化するエレクトロクロミック(EC)材料を用いた透過率可変素子において、一対の基板に挟まれた一対の透明電極層の間にEC層、電解質層が積層された構造を開示している。特許文献2は、EC材料を用いた透過率可変素子の透過率を向上させるために基板の透明電極と反対側に反射防止膜を設けることを提案している。
【0003】
これらの透過率可変素子を撮影光学系に用いて光量調整をすると、従来の可変開口絞りの回折現象に起因した像性能の低下を抑制することができ、また、NDフィルターと比較して駆動部が不要で配置の制限がないために撮影光学系が小型になる。更に、液晶と偏光子を用いた透過率可変素子と比較して、消色時の透過率が高く、偏光依存性がない。
【0004】
また、特許文献3は、EC材料を用いた透過率可変素子の透過率を向上させるために基板と透明電極の間に基板と透明電極の中間の屈折率の反射防止層を設けることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−95165号公報
【特許文献2】特開平9−152634号公報
【特許文献3】特開2005−77825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のEC材料を用いた透過率可変素子は基板、透明電極、EC層、電解質層の各界面の屈折率差に伴う反射および各層の干渉作用が起こる。このため、撮影光学系に応用した場合、透過光の波長平坦性(カラーバランス)が悪く、且つ反射率が高いことに起因するゴーストが発生するために、像性能が低下してしまうという課題があった。
【0007】
また、特許文献3によれば、屈折率1.75〜1.95の誘電体薄膜は基板と透明電極の間の反射を下げることはできる。しかしながら、透明電極層およびEC層の干渉による反射を抑制することが困難であり、透過光の波長平坦性の向上とゴースト抑制の効果が十分でないという課題があった。しかも、この屈折率1.75〜1.95の誘電体薄膜は安定的に製造(量産)することが技術的に困難であるという課題もある。
【0008】
そこで本発明は、安定的に製造でき、カラーバランスの向上とゴーストの低減を可能にしたEC材料を用いた透過率可変素子およびそれを有する光学系および光学機器を提供することを例示的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の透過率可変素子は、2つの基板と、前記2つの基板に挟まれた2つの透明電極層と、前記2つの透明電極層に挟まれ、電気制御により透過率が可逆変化するエレクトロクロミック層と、前記2つの基板の一方と当該一方に最も近い前記透明電極層との間に設けられ、前記透過率可変素子の反射を低減する第1の誘電体層と、を有し、前記第1の誘電体層は、屈折率差が0.2以上の屈折率が高い層と低い層が交互に2層以上積層した多層膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安定的に製造でき、カラーバランスの向上とゴーストの低減を可能にしたEC材料を用いた透過率可変素子、光学系および光学機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の透過率可変素子の断面図である。(実施例1)
【図2】図1に示す透過率可変素子の透過率及び反射率のグラフである。(実施例1)
【図3】本発明の透過率可変素子の断面図である。(実施例2)
【図4】図3に示す透過率可変素子の透過率及び反射率のグラフである。(実施例2)
【図5】本発明の透過率可変素子の断面図である。(実施例3)
【図6】図5に示す透過率可変素子の透過率及び反射率のグラフである。(実施例3)
【図7】本発明の透過率可変素子の断面図である。
【図8】本発明の透過率可変素子の断面図である。
【図9】実施例4の撮影光学系の断面図である。(実施例4)
【図10】従来の透過率可変素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を、添付図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は実施例1の透過率可変素子1Aの断面図である。透過率可変素子1Aは、基板2a、2b、透明電極層3a、3b、エレクトロクロミック層(EC層)4、電解質層5、反射防止(AR)層6a、6b、7a、7bを有する。透過率可変素子1Aは、上から順番に、基板2a、反射防止層6a、透明電極層3a、反射防止層7a、EC層4、反射防止層7b、電解質層5、透明電極層3b、反射防止層6b、基板2bが配置されている。
【0014】
基板2a、2bは、平板またはレンズからなり、2つの基板2a、2bに挟まれた2つの透明電極層3a、3bの材料はITOである。透明電極層3a、3bに挟まれて電気制御により透過率が可逆変化するEC層4の材料は高密度酸化チタン(TiO)である。電解質層5は透明電極層3a、3bに挟まれて可視域で透明である。
【0015】
基板2aと透明電極層3aの間にある反射防止層6aと、基板2bと透明電極層3bの間にある反射防止層6bは、それぞれ屈折率が高い層と低い層が交互に2層以上積層した多層膜から構成される第1の誘電体層である。本実施例では、反射防止層6a、6bは、それぞれTiOとSiOを交互に5層および4層積層した多層膜から構成される。反射防止層6aは、2つの基板2a、2bの一方である基板2aと当該一方に最も近い透明電極層3aとの間に設けられ、透過率可変素子の反射を低減する機能を有する。また、反射防止層6bは、2つの基板2a、2bの他方である基板2bと当該他方に最も近い透明電極層3bとの間に設けられている。EC層4の両側にある反射防止層7a、7bは、TiOから構成されている単層である第2の誘電体層である。
【0016】
表1は、実施例1の各層の材料、屈折率n、消衰係数k、膜厚を示す。各材料の屈折率は波長550nmの屈折率を示している。
【0017】
【表1】

【0018】
図2(a)は実施例1の透過率可変素子1AのEC層4が消色状態の透過率(実線)とAR層6a、6b、7a、7bが設けられていない図10の従来の透過率可変素子の透過率(破線)を示すグラフである。横軸は波長(nm)、縦軸は透過率(%)である。
【0019】
図2(b)は透過率可変素子1AのEC層4が消色状態の反射率(実線)と、上記従来の透過率可変素子の反射率(破線)を示すグラフである。入射角度は垂直の場合である。横軸は波長(nm)、縦軸は反射率(%)である。
【0020】
なお、実施例1の透過率、反射率は透過率可変素子1Aの基板2a、2b間の透過率、反射率で、基板2a、2bの外側の透過率、反射率を考慮していない。基板2a、2bの外側の透過率、反射率については良く知られている各種反射防止機能を設ければ良いためである。また、電解質層5は膜厚が50μmと厚いため、干渉作用が発生しない非干渉層である。
【0021】
図2(a)から、透過率可変素子1Aは従来例よりも透過率の波長平坦性が良く、撮影光学系に応用した場合カラーバランスが良いことがわかる。また、図2(b)から、透過率可変素子1Aは従来例よりも反射率が低く、撮影光学系に応用した場合のゴーストを低減できることがわかる。これは、表1からわかるように、基板2a、2b、透明電極層3a、3b、EC層4、電解質層5の各界面の屈折率差が比較的大きく、反射防止層を設けないと各界面からの反射と各層の干渉作用が起こるためである。特に、波長550nmにおける屈折率差(表1の屈折率nの差)が0.3以上の界面では反射が大きいので反射防止層を設けることが好ましい。
【0022】
反射防止層6a、6bはそれぞれ基板2a、2bとそれぞれ透明電極3a、3bの反射防止層、反射防止層7aは透明電極3aとEC層4の反射防止層、反射防止層7bはEC層4と電解質層5の反射防止層としてそれぞれ機能している。透明電極層3a、3b、EC層4も薄膜として干渉するため、これら全ての層の干渉作用を考慮して各反射防止層の膜厚を最適化している。特許文献3の構成ではこれは困難である。
【0023】
屈折率が高い層と低い層の屈折率差が0.2以上の可視波長帯域(400〜700nm)で透明な誘電体薄膜を積層した反射防止層を設けることによって、透過率の波長平坦性の向上と反射率を低減することが可能になる。本発明の反射防止層は基板と透明電極層の間に設けられているため、通常の反射防止層と比較して屈折率差が大きい誘電体薄膜を必ずしも設ける必要はなく、誘電体薄膜の材料選択性が広い。また、屈折率差が0.4以上の材料を選択したほうが、反射防止効果が大きくより好ましい。
【0024】
屈折率が高い層は、例えば酸化チタン(TiO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)及びそれらを含む混合材料等を用いることができる。屈折率が高い層は、これら屈折率が1.6以上の材料を用いる。また、屈折率2.0以上の材料を用いたほうが反射防止効果が大きくより好ましい。屈折率は波長550nmのものである。
【0025】
屈折率が低い層は、例えば酸化シリコン(SiO2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化アルミニウム(Al2O3)およびそれらを含む混合材料等の屈折率が1.7以下の材料を用いることができる。屈折率1.5以下の材料を用いたほうが反射防止効果が大きくより好ましい。
【0026】
膜厚は基板、透明電極、EC層の屈折率、膜厚に応じて適宜変更可能であるが、好ましくは5nm以上500nm以下が好ましい。また、層数は2層以上であれば適宜変更可能である。
【0027】
また、屈折率が高い層の物理膜厚が隣合う屈折率が低い層の物理膜厚より小さくすることよって反射防止効果が大きくなるため、より好ましい。
【0028】
本実施例では、反射防止層6a、6bはともに安定的に製造が可能な誘電体薄膜から構成されているため、本実施例の透過率可変素子を安定に製造(量産)することが可能になる。
【0029】
透明電極層3a、3bは可視波長帯域において透明性を示す導電性材料を主成分とする透明電極層である。透明電極層3a、3bの材料としては、例えばインジウムドープ酸化錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)等の透明導電性材料を用いることができる。また、カーボンナノチューブ含有物もしくは導電性を有するナノ粒子や金属のナノ粒子、ナノロッド、ナノワイヤーを高密度に分散させた層を用いることができる。
【0030】
これらの材料は透明性を有するが本発明のように高い透過率を要求される光学系に適用する場合、膜厚は10nm以上300nm以下が好ましい。特に膜厚が300nmより厚くなると透過率が低下するため、光学系に適用することが困難になるためである。膜厚が薄いほど透過率が高くが電気抵抗が大きくなり、膜厚が厚いほど透過率が低く電気抵抗が小さい関係にあり、適宜設計することが可能である。
【0031】
透過率可変素子1Aは透明電極層3a、3bに電圧を印加することにより電解質層5、透明電極層3a,3bから金属イオンや電子がEC層4に供給され、EC層4が化学変化により着色することで透過率が可逆的に変化する。このため、基板と透明電極層間には反射防止層の材質に関する制約がなく、良く知られている高屈折率薄膜と低屈折率薄膜を交互に積層した誘電体多層膜を設けることができる。但し、透明電極間は金属イオンや電子の移動、拡散のため、ある程度の導電性を持つ反射防止層のみ使用することができる。
【0032】
透明電極間の反射防止層全体の膜厚方向の1cm面積あたりの電気抵抗が100Ω以下でないと金属イオンや電子の移動が阻害され、応答速度が遅くなり、透過率可変素子1Aとして機能することが困難になる。このため、透明電極間の反射防止層7a、7bは以下の式を満足することが好ましい。
【0033】
0<Σρ≦100Ωcm (1)
ρiは電極間の第i番目の反射防止層の電気抵抗率[Ωcm]、diは電極間の第i番目の反射防止層の膜厚[cm]である。実施例1の反射防止層7a、7bに使用されるTiOの電気抵抗率は5×10Ωcmであるため、実施例1の電気抵抗は56Ωcmとなり、数式1を満たす。
【0034】
なお、反射防止層のTiOの電気抵抗率はドーピングや製造プロセスによって変化しやすいので膜厚や製造プロセスに応じて適宜変えることも可能である。反射防止膜の低屈折率膜として知られているSiOやMgFは絶縁性が高い材料のために使用することが困難である。
【0035】
実施例1においては、EC層4と反射防止層7a、7bの組成はTiOで同じであるが、これには限定されず、異なる材料でもよい。また、反射防止層7a、7bは単層膜であるが、(1)式を満たせば多層膜でもよい。
【0036】
反射防止層7a、7bが単層の場合は、反射防止層7a、7bの波長550nmでの屈折率はその両側の層の波長550nmでの屈折率の間にあるのが好ましい。例えば、本実施例での反射防止層7aの波長550nmでの屈折率2.29は、その両側である透明電極3a及びEC層4のそれぞれにおける波長550nmでの屈折率1.92、2.57の間にある。さらに、反射防止層7bの波長550nmでの屈折率2.29は、その両側であるEC層4及び電解質層5のそれぞれにおける波長550nmでの屈折率2.57、1.48の間にある。また、透明電極3a、3b間の反射防止層7a、7bの屈折率、膜厚、設計波長の関係nd/λが(2i+1)/4(i=0,1,2,…)のときに反射防止機能を有するが、本実施例のように、特にEC材料を用いた場合には以下の式を満足することが好ましい。
【0037】
1/6 < nd/λ < 1/3 (2)
但し、nは波長λの屈折率、dは反射防止層の膜厚、λは可視波長帯域(400〜700nm)内の設計波長で、ここでは550nmである。数式2を満たすと、膜厚が薄くなるので、透過率可変素子1Aの電気抵抗が小さく応用速度が速くなる。実施例1の反射防止層7a、7b層のnd/λはそれぞれ0.25、0.22であり、数式2を満たしている。実施例1においては、EC層4と反射防止層7a、7bの組成はTiOで同じであるため、反射防止機能と同時にEC層として機能する。
【0038】
透過率可変素子1Aの透過率は次式を満たすことが好ましい。
【0039】
0.9 < T(λ±20nm)/T(λ) < 1.1 (3)
但し、T(λ)は波長λの透過率、λは可視波長帯域420〜680nmに含まれる任意の波長である。数式3を満足しないと撮影光学系に応用した場合に透過率の波長平坦性が悪く、カラーバランスが悪化してしまうため、好ましくない。
【0040】
透過率可変素子1Aの反射率は可視域全域で5%以下で、かつ、次式を満たすことが好ましい。
【0041】
0.5 < R(λ±20nm)/R(λ) < 2.0 (4)
但し、R(λ)は波長λの反射率、λは可視波長帯域420〜680nmに含まれる任意の波長である。数式4を満足しないと撮影光学系に応用した場合に反射率が高く、ゴーストが発生し、且つゴーストの色味が強く目立ちやすくなるため、好ましくない。
【0042】
実施例1について数式3、4の数値を表2に示す。表2より数式3、4を満足していることが分かる。
【0043】
【表2】

【0044】
以上から、透過率可変素子1Aは、基板2a,2bと透明電極3a、3b間に高屈折率膜と低屈折率膜を積層した誘電体多層層である反射防止層6a、6bを設け、透明電極間3a、3bは導電性を有する反射防止層7a、7bを有する。この結果、透過率可変素子1Aは、安定して製造でき、カラーバランスの向上とゴーストの低減を実現することができる。
【実施例2】
【0045】
図3は実施例2の透過率可変素子1Bの断面図である。実施例2は実施例1と比較して透明電極層3a,3bの膜厚が20nmと薄く、透明電極3aとEC層4との間の反射防止膜7aがなく、EC層4と電解質層5の間にTiOからなる単層の反射防止層7が積層されている点で相違する。また、実施例2の反射防止層6a、6bはTiOおよびSiOを交互にそれぞれ4層と3層積層した多層膜で実施例1よりも層数が少なくなっている。
【0046】
表3は、実施例2の各層の材料、屈折率n、消衰係数k、膜厚を示す。各材料の屈折率は波長550nmの屈折率を示している。
【0047】
【表3】

【0048】
図4に実施例2の透過率可変素子1Bと従来例のEC層が消色状態の透過率および反射率を図2と同様に示す。
【0049】
図4より、実施例1と同様に透過率の波長平坦性の向上と反射率を低減していることがわかる。また、透明電極層の膜厚が薄いために透過率も高くなっている。
【0050】
実施例1と比較して透明電極の膜厚が薄くなっているため、反射防止層6aと透明電極3aが基板2aとEC層4の反射防止層、反射防止層6bと透明電極3bが基板2bと電解質層5の反射防止層として機能している。また、反射防止層7はEC層4と電解質5の反射防止層として機能している。さらに全ての層の干渉作用を考慮して各反射防止層の膜厚を最適化している。このような、反射防止層を設けることによって、実施例1と同様に、透過率の波長平坦性の向上と反射率を低減することが可能になる。
【0051】
実施例2の反射防止層7の電気抵抗は25.5Ωcmであり、数式1を満たし、nd/λは0.21であり、数式2を満たしている。実施例2の数式3、4の数値を表4に示す。表4より、実施例2は数式3、4式を共に満たしている。
【0052】
【表4】

【0053】
このように、素子構成が変更された透過率可変素子1Bも実施例1と同様の効果を奏することができる。本実施例は実施例1の透明電極層の膜厚を薄くしているが、他の層の膜厚や材料を実施例1と異ならせてもよい。
【実施例3】
【0054】
図5は、実施例3の透過率可変素子1Cの断面図である。実施例3は実施例1、2と異なる有機EC層を使用し、透過率可変素子1Cは、実施例1、2の単層反射防止層7、7a、7bを使用していない。また、実施例3の反射防止層6a、6bはTiOおよびSiOを交互にそれぞれ4層積層した多層膜である。
【0055】
表5に透過率可変素子1Cの各層の材料、屈折率n、消衰係数k、膜厚を示す。各材料の屈折率は波長550nmの屈折率を示している。
【0056】
【表5】

【0057】
図6に透過率可変素子1CのEC層が消色状態の透過率および反射率を図2、4と同様に示す。
【0058】
図6より、実施例1、2と同様に、透過率可変素子1Cの透過率の波長平坦性の向上と反射率を低減していることがわかる。
【0059】
実施例1、2と比較してEC層の屈折率が低いため、反射防止層6aと透明電極3aとEC層4が基板2aと電解質層5の反射防止層、反射防止層6bと透明電極3bが基板2bと電解質層5の反射防止層として機能している。さらに全ての層の干渉作用を考慮して各反射防止層の膜厚を最適化している。このような、反射防止層を設けることによって、実施例1、2と同様に、透過率可変素子1Cの透過率の波長平坦性の向上と反射率を低減することが可能になる。
【0060】
このように、素子構成が変更された透過率可変素子1Cも実施例1、2と同様の効果を奏することができる。本実施例ではEC層4の材料が実施例1、2と異なっているが、他の層の膜厚や材料を実施例1と異ならせてもよい。
【0061】
透過率可変素子1Cでは単層の反射防止層がないので、数式1、2の数値は存在しない。また、透過率可変素子1Cについて数式3、4の数値を表6に示す。表6より、透過率可変素子1Cは、数式3、4を共に満たしている。
【0062】
【表6】

【0063】
透過率可変素子1Cにおいて有機EC層は、有機材料で構成され、エレクトロクロミック特性を示すエレクトロクロミック部位と、該エレクトロクロミック部位と直接結合している芳香環とから構成される。該エレクトロクロミック部位は一つの共役面を形成し、該芳香環が有し、かつ該エレクトロクロミック部位と結合している原子と隣り合う原子は、メチル基以上の体積を有する置換基を有していることが好ましい。周辺部位がエレクトロクロミック部位を保護するので、化合物の酸化に対する安定性が高く、酸化に対する安定性が高い化合物を有することによって、素子の耐久性を高くすることができる。これら芳香環が有する置換基は、エレクトロクロミック部位の共役面と周辺部位が有する面とを直交させるとともに、立体障害の効果によりラジカルカチオンが生成するエレクトロクロミック部位を保護する役割を持つ。この観点では、メチル基以上の体積を有する置換基が好ましい。
【0064】
透過率可変素子1Cにおいて有機EC層は着色状態において波長平坦性を得るために複数の有機EC材料を混合したほうが好ましく、混合した材料の屈折率に応じて反射防止層を適宜変更することが可能である。
【0065】
また、図7に示す透過率可変素子1C’ように、着色状態において波長平坦性を得るためにEC層4は、異なる種類の複数の層4a、4b、4cを積層したものから構成されていてもよく、各材料の屈折率差が大きい場合は各界面に反射防止層を設けてもよい。
【0066】
また、図8に示す透過率可変素子1C”は、酸化タングステン(WO)に代表される酸化性EC層4dと酸化ニッケル(NiO)に代表される還元性EC層4eを有する。透過率可変素子1C”においては、比較的各EC層の界面の屈折率差が大きいために実施例1と同様に反射防止層7a、7b、7c、7dを設ける構成が好ましい。
【0067】
このように、素子構成が変更された透過率可変素子1C’、1C”も実施例1と同様の効果を奏することができる。
【実施例4】
【0068】
図9はカメラ等の撮影光学系の断面図であり、101〜106はレンズで、107は光軸、108は結像面であり、フィルムまたはCCD等の光電変換素子が配置されている。透過率可変素子109は、透過率可変素子1A~1C”のいずれかから構成され、不図示の電気信号線で制御回路と電気的に接続されている。制御回路により透過率可変素子109の透過率を電気的に制御している。
【0069】
透過率可変素子109によって、カラーバランスが良く、ゴーストが少ない高性能な撮影光学系が得られる。図9では平板基板の貼り合せ面に透過率可変素子を設けたが、これに限定されるものではなく、レンズ表面やレンズ貼り合せ面に設けてもよい。
【0070】
また、本実施例では、カメラの撮影レンズの場合を示したが、これに限定するものではなく、ビデオカメラの撮影レンズ、事務機のイメージスキャナーや、デジタル複写機のリーダーレンズなどで使用される結像光学系に使用しても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
透過率可変素子は、光学機器に使用される光学系に適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1A、1B、1C、1C’、1C”…透過率可変素子、2a、2b…基板、3a、3b…透明電極層、6a、6b…反射防止層(第1の誘電体層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの基板と、
前記2つの基板に挟まれた2つの透明電極層と、
前記2つの透明電極層に挟まれ、電気制御により透過率が可逆変化するエレクトロクロミック層と、
前記2つの基板の一方と当該一方に最も近い前記透明電極層との間に設けられ、前記透過率可変素子の反射を低減する第1の誘電体層と、
を有し、
前記第1の誘電体層は、屈折率差が0.2以上の屈折率が高い層と低い層が交互に2層以上積層した多層膜であることを特徴とする透過率可変素子。
【請求項2】
前記第1の誘電体層は、前記2つの基板の他方と当該他方に最も近い前記透明電極層との間に更に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の透過率可変素子。
【請求項3】
前記第1の誘電体層の屈折率が高い層の屈折率が1.6以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の透過率可変素子。
【請求項4】
前記第1の誘電体層の屈折率が低い層の屈折率が1.7以下であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の透過率可変素子。
【請求項5】
前記第1の誘電体層の屈折率が高い層の物理膜厚が隣合う屈折率が低い層の物理膜厚より小さいことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の透過率可変素子。
【請求項6】
前記透明電極層の膜厚が10nm以上300nm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の透過率可変素子。
【請求項7】
前記エレクトロクロミック層と当該エレクトロクロミック層に最も近く波長550nmにおける屈折率差が0.3以上の前記透明電極層の間に設けられ、前記透過率可変素子の反射を低減する第2の誘電体層と、
を更に有することを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載の透過率可変素子。
【請求項8】
前記2つの透明電極層に挟まれ、可視域で透明な電解質層と、
前記エレクトロクロミック層と前記電解質層との間に設けられ、前記透過率可変素子の反射を低減する第2の誘電体層と、
を更に有することを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載の透過率可変素子。
【請求項9】
前記第2の誘電体層の波長550nmでの屈折率は、前記第2の誘電体層の両側の層の波長550nmでの屈折率の間にあることを特徴とする請求項7または8に記載の透過率可変素子。
【請求項10】
前記第2の誘電体層は導電性の材料で構成されていることを特徴とする請求項7乃至9のうちいずれか1項に記載の透過率可変素子。
【請求項11】
前記第2の誘電体層が以下の式を満足することを特徴とする請求項10に記載の透過率可変素子。
0<Σρ≦100Ωcm
ここで、ρiは前記透明電極間の第i番目の前記第2の誘電体層の電気抵抗率[Ωcm]、diは電極間の第i番目の反射防止層の膜厚[cm]である。
【請求項12】
前記第2の誘電体層は単層であることを特徴とする請求項7乃至11のうちいずれか1項に記載の透過率可変素子。
【請求項13】
前記第2の誘電体層は前記エレクトロクロミック層と同じ組成であることを特徴とする請求項7乃至12のうちいずれか1項に記載の透過率可変素子。
【請求項14】
前記第2の誘電体層の膜厚が以下の式を満たすことを特徴とする請求項7乃至13のうちいずれか1項に記載の透過率可変素子。
1/6 < nd/λ < 1/3
ここで、nは波長λの屈折率、dは反射防止層の膜厚、λは550nmである。
【請求項15】
前記エレクトロクロミック層および前記第2の誘電体層は酸化チタンであることを特徴とする請求項7乃至14のうちいずれか1項に記載の透過率可変素子。
【請求項16】
前記エレクトロクロミック層が有機材料で構成され、
エレクトロクロミック特性を示すエレクトロクロミック部位と、前記エレクトロクロミック部位と直接結合している芳香環とから構成され、
前記エレクトロクロミック部位は一つの共役面を形成し、
前記芳香環が有し、かつ前記エレクトロクロミック部位と結合している原子と隣り合う原子は、メチル基以上の体積を有する置換基を有していることを特徴とする請求項1乃至14のうちいずれか1項に記載の透過率可変素子。
【請求項17】
前記透過率可変素子の消色状態における透過率が次式を満たすことを特徴とする請求項1乃至16のうちいずれか1項に記載の透過率可変素子。
0.9 < T(λ±20nm)/T(λ) < 1.1
ここで、T(λ)は波長λの透過率、λは可視波長帯域420〜680nmに含まれる任意の波長である。
【請求項18】
前記透過率可変素子の消色状態における反射率が可視域全域で5%以下で、かつ、次式を満たすことを特徴とする請求項1乃至16のうちいずれか1項に記載の透過率可変素子。
0.5 < R(λ±20nm)/R(λ) < 2.0
ここで、R(λ)は波長λの反射率、λは可視波長帯域420〜680nmに含まれる任意の波長である。
【請求項19】
請求項1乃至18のうちいずれか1項に記載の透過率可変素子を有することを特徴とする光学系。
【請求項20】
請求項19に記載の光学系を有する光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−101309(P2013−101309A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−188154(P2012−188154)
【出願日】平成24年8月29日(2012.8.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】