説明

エレクトロクロミック組成物、エレクトロクロミック組成物の形成方法、およびエレクトロクロミック装置

本発明は、第一の電極層と、第一の電極層から隔てられて実質的に平行に配置された第二の電極層とを含むエレクトロクロミック装置に関する。エレクトロクロミック層は、第一の電極層と第二の電極層との間に配置する。電解質層は、エレクトロクロミック層と電極層のうちの1つとの間に配置する。エレクトロクロミック層は、加水分解された芳香族化合物の脱水反応生成物を含む。エレクトロクロミック組成物は、芳香族コアと、この芳香族コアにぶら下がっているケイ素をベースとする基少なくとも2つとを有する芳香族成分を含む。これらのケイ素をベースとする基は、加水分解性基、加水分解性基の水解物、およびこれらの組合せからなる群から選択されるケイ素に結合した基を有する。エレクトロクロミック層の厚さは、厚いエレクトロクロミック層の典型的な特徴である所望のエレクトロクロミック特性を達成しながら最小化することができ、これによって、エレクトロクロミック装置に優れた汎用性および柔軟性が付与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック組成物、より詳細には、ケイ素をベースとする置換基を有する芳香族成分を含むエレクトロクロミック組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック組成物は知られており、典型的には、エレクトロクロミック装置においてエレクトロクロミック層を形成させるために利用されている。エレクトロクロミック装置は、典型的には、エレクトロクロミック層、電解質層、ならびに第一および第二の電極層を含む。第一および第二の電極層は、互いに隔てられており、かつ、互いに実質的に平行に配置されている。エレクトロクロミック層は、第一および第二の電極層の間に配置される。電解質層は、エレクトロクロミック層と電極層のうちの1つとの間に配置される。
【0003】
典型的には、エレクトロクロミック装置は、第一および第二の基材層をさらに含み、この第一および第二の基材層は、典型的には、ガラス、例えばエレクトロクロミックウィンドウを形成させるためのガラスである。エレクトロクロミック装置のさらなる例には、室内用および室外用ディスプレイ、電子データディスプレイ、鏡、時計、サンルーフ、シェードバンド、モニター、セキュリティ用またはプライバシー用パーティション、ソーラーパネル、スカイライト、およびインフォーメーションディスプレイが含まれる。
【0004】
エレクトロクロミック装置は、第一の電極層と第二の電極層との間に電圧を適用することによって作動する。第一の電極層と第二の電極層との間に電圧を適用すると、エレクトロクロミック層内に電界が生じる。この電界が、エレクトロクロミック層内のエレクトロクロミック効果を誘起し、これによってエレクトロクロミック層の光透過特性に変化、例えば、透明から不透明または着色への変化がもたらされる。エレクトロクロミック層の光透過特性のこの変化は、典型的には、一定の期間持続するが、エレクトロクロミック層の光透過特性の変化は、電圧の極性を反転させることによって反転させることができる。いくつかの異なるタイプのエレクトロクロミック層が典型的に利用されている。しかし、エレクトロクロミック層の主要なタイプは、無機薄層、有機ポリマーフィルム、および有機溶液である。
【0005】
エレクトロクロミック層の光透過特性の変化の程度は、さまざまな因子に依存する。例えば、エレクトロクロミック層の厚さは、エレクトロクロミック層の光透過特性の変化の程度に影響を与える1つの因子であり、厚いエレクトロクロミック層を用いると、一般に、薄いエレクトロクロミック層より強化されたエレクトロクロミック効果を得ることができる。しかし、エレクトロクロミック層の厚さは、エレクトロクロミック層の柔軟性および汎用性に逆比例し、エレクトロクロミック層を含むエレクトロクロミック装置の伸長、柔軟性、および汎用性によって、エレクトロクロミック層が薄いほどエレクトロクロミック装置の柔軟性および汎用性が高くなる。したがって、厚いエレクトロクロミック層が有するエレクトロクロミック特性を維持しながらエレクトロクロミック層の厚さを最小化することが有利である。
【0006】
エレクトロクロミック層の光透過性の変化は、典型的には、そのエレクトロクロミック層の固有の特性に限定され、例えば、不透明化または着色化効果は、特定の色に限定される。一部の用途では、この特定の色を、既存のエレクトロクロミック層によってもたらされる特定の色とは異ならせることが望まれる。したがって、エレクトロクロミック層に存在する芳香族基をベースとして、光透過特性の変化によって呈されるこの特定の色をカスタマイズすることができるようなエレクトロクロミック層を提供すること(例えば、特定の色を、エレクトロクロミック装置の特定の用途のためにカスタマイズすることができること)が有利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、エレクトロクロミック層の光透過特性における所望の変化を達成するために必要とされるエレクトロクロミック層を、その厚さを同時に最小化しながら形成させるために好適なエレクトロクロミック組成物を提供することが有利である。加えて、エレクトロクロミック組成物を形成させるための反応のメカニズムを提供することが有利である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第一の電極層と、第一の電極層から隔てられて実質的に平行に配置された第二の電極層とを含むエレクトロクロミック装置を提供する。エレクトロクロミック層は、第一の電極層と第二の電極層との間に配置する。このエレクトロクロミック層は、芳香族コアと、この芳香族コアにぶら下がっているケイ素をベースとする基少なくとも2つとを有する、加水分解された芳香族成分の脱水反応生成物を含む。これらのケイ素をベースとする基は、ケイ素に結合した加水分解性基の水解物を有する。電解質層は、エレクトロクロミック層と電極層のうちの1つとの間に配置する。
【0009】
本発明はさらに、エレクトロクロミック組成物を提供する。このエレクトロクロミック組成物は、芳香族コアと、この芳香族コアにぶら下がっているケイ素をベースとする基少なくとも2つとを有する芳香族成分を含む。これらのケイ素をベースとする基は、加水分解性基、加水分解性基の水解物、およびこれらの組合せからなる群から選択されるケイ素に結合した基を有する。
【0010】
本発明はさらに、芳香族基を準備する工程と、この芳香族基にケイ素をベースとする置換基少なくとも2個を結合させる工程とを含む、エレクトロクロミック組成物の形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本エレクトロクロミック組成物、および加水分解された芳香族成分の脱水反応生成物を含む本エレクトロクロミック層は、優れたエレクトロクロミック特性を有する。加えて、本エレクトロクロミック層の厚さは、厚いエレクトロクロミック層の典型的な特徴である所望のエレクトロクロミック特性を達成しながら最小化することができ、これによって、エレクトロクロミック装置に優れた汎用性および柔軟性が付与される。特に、芳香族成分に特定のタイプのケイ素をベースとする置換基を2個含ませることによって、得られる脱水反応生成物が、結果として得られるポリマー鎖に組み込まれる芳香族基を含み、これによってエレクトロクロミック層内に存在する芳香族基の密度が最大化される。芳香族基は、エレクトロクロミック層のエレクトロクロミック特性に関与する。エレクトロクロミック層の芳香族基の密度が最大化されるため、エレクトロクロミック層の厚さを、厚いエレクトロクロミック層の典型的な特徴である所望のエレクトロクロミック特性を達成しながら最小化することができる。さらに、エレクトロクロミック層内に存在する芳香族基をベースとして、エレクトロクロミック層の光透過特性の変化によって得られる特定の色をカスタマイズすること(例えば、特定の色を、エレクトロクロミック装置の特定の用途のためにカスタマイズすること)ができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
エレクトロクロミック装置を提供する。このエレクトロクロミック装置は、これらだけに限定されないが、室内用および室外用ディスプレイ、電子データディスプレイ、鏡、時計、サンルーフ、シェードバンド、モニター、セキュリティ用またはプライバシー用パーティション、ソーラーパネル、スカイライト、窓、およびインフォーメーションディスプレイを含む用途に利用することができる。
【0013】
エレクトロクロミック装置は、第一の電極層と、第一の電極層から隔てられて実質的に平行に配置された第二の電極層とを含む。エレクトロクロミック層は、第一の電極層と第二の電極層との間に配置する。電解質層は、エレクトロクロミック層と第一の電極層のとの間に配置する。典型的には、エレクトロクロミック装置は、これらの電極層のうちの一方の外側であって、対象となる電極層の電解質層またはエレクトロクロミック層とは反対側の表面上に配置された第一の基材層を、具体的な電極層に応じてさらに含む。エレクトロクロミック装置は、典型的には、残りの電極層の外側の表面上に配置された第二の基材層をも含む。言い換えれば、エレクトロクロミック装置は、典型的には、このエレクトロクロミック装置の機能的部分、例えば、電極層、電解質層、およびエレクトロクロミック層などを封入する第一および第二の基材層を含む。エレクトロクロミック装置の機能部分を封入することによって、第一および第二の基材層は、典型的には、第一および第二の電極層のための支持体を提供し、かつ、エレクトロクロミック装置を天然の分子から遮蔽することによってエレクトロクロミック装置の劣化を防止する。
【0014】
エレクトロクロミック装置を作動させるために、第一の電極層と第二の電極層との間に電圧を印加する。電圧は、エレクトロクロミック層内に電場を発生させる。この電場は、エレクトロクロミック層内のエレクトロクロミック効果を誘起し、これによってエレクトロクロミック層の光透過特性に変化、例えば、透明から不透明または着色への変化がもたらされる。光透過特性の変化は、電圧の除去後、一定の期間持続し得る。しかし、この光透過特性の変化は、電圧の極性を反転させると同時に透明状態に反転させることができる。
【0015】
第一の基材層および第二の基材層は、実質的に透明な任意の材料、これらだけに限定されないが、ガラス、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、または任意のポリマー材料、セラミック材料、もしくは当分野で実質的に透明であることが知られている他の材料を含む材料を含むことができる。本出願を通して用いる用語「実質的に透明」は、可視光の透過率が70%を超えることを意味する。本発明の1つの実施態様では、第一の基材層および第二の基材層の厚さは、エレクトロクロミック装置が企図される特定の用途次第でさまざまに変化し得る。しかし、第一の基材層および第二の基材層の典型的な厚さは、約0.5〜約10ミリメートルである。
【0016】
本発明の1つの実施態様では、第一の電極層および第一の電極層はそれぞれ、酸化インジウムスズ(ITO)を含む。ITOは、酸化インジウム(III)および酸化スズ(IV)の混合物である。このITOを、第一および/または第二の基材層上に、電子ビーム蒸着法、物理的気相成長法、スパッタリング蒸着法、または電極層を形成させるための当分野で知られた任意の他の方法によって、堆積させることができる。あるいは、別の実施態様では、第一および第二の電極層は、導電性カーボンナノチューブ、アルミニウムがドープされた酸化亜鉛、酸化インジウム(III)、酸化スズ(IV)、アンチモンスズ酸化物、フッ素がドープされた酸化スズ、イリジウムスズ酸化物、または当分野で電気を通すことが知られている任意の他の実質的に透明な材料を含むことができ、これらは、当分野で知られている方法によって、第一および/または第二の基材層上に堆積させることができる。第一の電極および第二の電極の典型的な厚さは、約10〜約50ナノメートル、より典型的には約100〜約300ナノメートルである。
【0017】
エレクトロクロミック装置の電解質層は、導電性媒体中に遊離のイオンを含む任意の好適な材料であってよい。1つの実施態様では、電解質層は、ゲル状物質である。典型的には、ゲル状物質または固体物質である電解質層は、ポリマーマトリックス、溶媒キャリア、およびイオン源を含む。ポリマーマトリックスは、任意の好適なポリマーマトリックス、例えばポリ塩化ビニルであってよく、イオン源は、任意のイオン源、例えば過塩素酸リチウム(LiCl4)であってよい。電解質層は、固体物質を含んでいても液体物質を含んでいてもよいことを理解されたい。本発明の1つの実施態様では、電解質層は、液状電解質である。この液状電解質は、エレクトロクロミック層に浸透することができ、これによってエレクトロクロミック層内のエレクトロクロミック効果を、電圧の適用直後に実質的に瞬間的に誘起することが可能になる。液状電解質層は、既知のエレクトロクロミック層を過度に劣化させる場合があるが、本発明のエレクトロクロミック層は、液状電解質を用いる場合でも十分な耐久性を維持し、これは、本発明のエレクトロクロミック層の独特の利点である。液状電解質は、当分野で知られた任意の導電性液体であってよい。電解質層は、当分野で知られている方法によって形成させることができる。電解質層の典型的な厚さは、約100〜約2000マイクロメートル、より典型的には500〜1000マイクロメートルである。
【0018】
エレクトロクロミック層は、芳香族コアと、この芳香族コアにぶら下がっているケイ素をベースとする置換基少なくとも2つとを有する加水分解された芳香族成分の脱水反応生成物を含む。これらのケイ素をベースとする置換基は、それぞれ、ケイ素に結合した加水分解性基であって脱水反応を起こすことを可能とする基を有し、脱水反応が起こる結果として、以下にさらに詳細に記述する固体ポリシロキサンが得られる。
【0019】
エレクトロクロミック層は、より詳細には、芳香族成分を含むエレクトロクロミック組成物から形成させる。この芳香族成分は、芳香族コアであって、この芳香族コアにケイ素をベースとする置換基が少なくとも2つぶら下がっているものを含む。ケイ素をベースとする置換基は、加水分解性基、加水分解性基の水解物、およびこれらの組合せからなる群から選択されるケイ素に結合した基をそれぞれ有する。ケイ素をベースとする置換基が全て加水分解性基の水解物である場合、芳香族成分は、エレクトロクロミック層を製造するための脱水反応に供される上述した加水分解された芳香族成分と同じである。加水分解性基は、一般に加水分解されて脱水反応を可能にすることは容易に理解されるが、エレクトロクロミック組成物は、本発明との関連において、このような加水分解性基が加水分解の前に提供されてもこのような加水分解の後で提供されてもよく、本発明は、加水分解可能な基の加水分解状態に制限されない。
【0020】
芳香族コアは、少なくとも2個のケイ素をベースとする置換基を有することによって、ポリシロキサン鎖にぶら下がる芳香族官能基を単に含ませることとは対照的に、ポリシロキサン鎖に効率的に芳香族官能基を組み込む。こうして、脱水反応に由来するポリシロキサンに存在する芳香族官能基の密度は最大化され、これによって、加水分解された芳香族成分の脱水反応生成物を含むエレクトロクロミック層のエレクトロクロミック特性が最大化される。
【0021】
1つの実施態様では、芳香族コアは、炭素原子および水素原子だけを含んでいてよい。あるいは、別の実施態様では、芳香族コアは、芳香族アミン、芳香族エーテル、または芳香族チオールであってよい。芳香族アミンにおいて、エーテル類、チオール類、および窒素、酸素、または硫黄をベースとする基が、それぞれ、コアの環状部分に結合していてよい。本明細書において、環状部分は、1個以上の芳香族環を含む芳香族コアの部分である。この環状部分が1個より多く芳香族環を含む場合、環状部分は、ポリ芳香族成分を含む芳香族成分として特徴づけることができ、したがって、芳香族成分はポリ芳香族成分を含む。1個より多く芳香族環を含む環状部分の複数の環は、炭素-炭素結合を共有していてもよく、あるいは、他の非芳香族構造によって結合していてもよい。窒素、酸素、または硫黄をベースとする基は、環状部分内に統合されていてもよい(すなわち、窒素、酸素、または硫黄をベースとする基は、環状部分の環のうちの1つに組み込まれていてもよい)。あるいは、窒素、酸素、または硫黄をベースとする基は、コアの環状部分の外側の残基であってよい。例えば、窒素をベースとする基は、芳香族コアの一部である異なる2つの環状部分の間に位置していてよい。この場合、芳香族コアは、ポリ芳香族成分として特徴づけることができる。エレクトロクロミック組成物は、さまざまなタイプの芳香族コアを有する芳香族成分の組合せを含んでいてよいことを理解されたい。
【0022】
前述したとおり、芳香族コアは、そこからぶら下がったケイ素をベースとする置換基を少なくとも2個有する。1つの実施態様では、ケイ素をベースとする置換基は、芳香族コアの反対側に結合して立体障害が最小化されている。別の実施態様では、ケイ素をベースとする置換基の3個以上が芳香族コアに結合している。芳香族コアに3個以上のケイ素をベースとする置換基が結合している場合、3個以上のケイ素をベースとする置換基は、典型的には、ケイ素をベースとする各置換基の間の距離が概して同じであって、これによって立体障害を避けながら良好に架橋される可能性が最大化されている。3個以上のケイ素をベースとする置換基を含むことは、エレクトロクロミック組成物に架橋するための優れた能力を付与するための1つの方法である。得られるエレクトロクロミック層の優れた架橋性は、架橋されていないかまたは架橋性がわずかであるエレクトロクロミック層と比較して、エレクトロクロミック層をより不溶性かつ耐久性にする。エレクトロクロミック層の不溶性および耐久性は、エレクトロクロミック装置の全体としての堅牢性に寄与する。上述にもかかわらず、本発明は、架橋可能なエレクトロクロミック組成物に限定されないことを理解されたい。
【0023】
1つの実施態様では、ケイ素をベースとする置換基は、下記一般構造(I)を有する:
【化1】

(式中、Xは、加水分解性基、加水分解性基の水解物、およびこれらの組合せからなる群から選択され;Yは、X、一価の脂肪族C〜C10基、フェニル基、およびこれらの組合せからなる群から選択され;かつ、Rは、0〜10個の炭素原子を有する二価の脂肪族基であり、Rは、前記芳香族コアに結合している)。Rは任意選択であり、ケイ素原子は芳香族コアに直接結合していてよいことを理解されたい。あるいは、ケイ素原子は、Rを介して芳香族コアに結合していてよい。さらにあるいは、ケイ素原子は、Rと、他の連結原子(例えば、酸素原子、窒素原子などの芳香族コアに結合した連結原子)との両方を介して芳香族コアに結合していてよい。
【0024】
任意の加水分形成基がXに好適であり得るが、好適な加水分解性基の例には、これらだけに限定されないが、ヒドリド基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アシロキシ基、ケトキシメート基、アミド基、酸アミド基、およびアミノキシ基が含まれる。好適な水解物の例には、任意の前述した加水分解性基の水解物が含まれる。所与のケイ素をベースとする置換基内には加水分解性基または加水分解性基の水解物が1つだけ存在する場合があるが、「これらの組合せ」という句は、エレクトロクロミック組成物が複数の異なる芳香族成分を含む場合があり、異なる芳香族成分のケイ素をベースとする置換基が異なるタイプの加水分解性基を有する場合があるため適切であることを理解されたい。
【0025】
ケイ素をベースとする置換基のそれぞれは、少なくとも1個の加水分解性基または加水分解性基の水解物を有するが、ケイ素をベースとする置換基は、複数の加水分解性基、加水分解性基の水解物、またはこれらの組合せを有していてよいことを理解されたい。ケイ素をベースとする置換基における加水分解性基または加水分解性基の水解物の効用は、架橋可能性に関連し、芳香族成分中に存在するそのような基の数がより多いことは、架橋可能性がより高いことに結びつく。架橋可能性が高いことは、結果として得られる上述したエレクトロクロミック層の良好な不溶性および耐久性に寄与する。ケイ素をベースとする置換基が、1個より多い加水分解性基または加水分解性基の水解物を有する場合、上記一般構造(I)中の少なくとも1個のYは、エレクトロクロミック組成物の優れた架橋能力を促進するための加水分解性基または加水分解性基の水解物であってよい。一般構造(I)中の1個だけのYが加水分解性基または加水分解性基の水解物である場合、残りのYは、一価の脂肪族C〜C10基であってよい。
【0026】
芳香族成分の特定の例には、これらだけに限定されないが、一般構造(II)、(III)、および(IV)として表示された以下の成分が含まれる。
【化2】

【0027】
エレクトロクロミック組成物は、1個だけの芳香族成分を含んでいても、あるいは芳香族成分の任意の組合せ(例えば、一般構造(II)、(III)、および(IV)によって表される芳香族成分の組合せなど)を含んでいてもよいことを理解されたい。
【0028】
芳香族成分を含むエレクトロクロミック組成物は、芳香族成分の芳香族コアとなる芳香族基を準備することによって形成させることができる。次いで、少なくとも2個のケイ素をベースとする基を、この芳香族基に結合させて、ケイ素をベースとする基を芳香族コアにぶら下がっているケイ素に結合した置換基にする。
【0029】
本発明の1つの実施態様では、芳香族基を、水酸化ナトリウム、および1〜10個の炭素原子を有する脂肪族化合物であってその脂肪族化合物の両端にビニル部分とハロゲン部分をさらに有する化合物と反応させる。脂肪族化合物の1つの例は、アリルブロマイドである。この脂肪族化合物は、芳香族基に結合して、ハロゲン部分が失われることに起因する酸性副生成物を生成する。脂肪族化合物が結合したこの芳香族基を、次いで、クロロシラン(例えば、トリクロロシランなど)と、触媒(例えば、白金など)の存在下で反応させる。クロロシランと脂肪族化合物のビニル部分とが反応し、これによって脂肪族化合物が飽和する。この方法を所望に応じて繰り返して、芳香族基に第二、第三、または第四の脂肪族化合物を結合させ、その脂肪族化合物に第二、第三、または第四のクロロシランを結合させることができる。
【0030】
本発明の別の実施態様では、芳香族基を、N-ブロモコハク酸(NBS)と反応させて、臭素化された芳香族基を形成させる。この臭素化された芳香族基を、次いで、マグネシウムの存在下で脂肪族化合物と反応させる。脂肪族化合物は芳香族基に結合してハロゲン部分が失われることに起因する臭化マグネシウム副生成物を生成する。脂肪族化合物が結合した芳香族基を、次いで、クロロシランと、触媒の存在下で反応させる。クロロシランと脂肪族化合物のビニル部分とが反応し、これによって脂肪族化合物が飽和する。この方法を所望に応じて繰り返して、芳香族基に第二、第三、または第四の脂肪族化合物を結合させ、その脂肪族化合物に第二、第三、または第四のクロロシランを結合させることができる。
【0031】
1つの実施態様では、エレクトロクロミック組成物は、一般構造(V)を有する分岐剤成分をさらに含んでいてよい:
【化3】

(式中、XおよびYは上述したものと同じである)。名称が示唆するように、分岐剤成分は、エレクトロクロミック組成物中に、結果として得られる加水分解された芳香族成分および分岐剤成分の脱水反応生成物に架橋を導入するために存在させることができる。分岐剤成分によって脱水反応生成物に導入された架橋は、エレクトロクロミック層に優れた不溶性および耐久性をもたらす上述した架橋と同じ効果を有する。
【0032】
1つの実施態様では、エレクトロクロミック組成物は、芳香族成分および場合により分岐剤成分に加えて、追加の芳香族成分をさらに含んでいてよい。この追加の芳香族成分は、芳香族成分とは異なり、芳香族部分と、この芳香族部分からぶら下がっているケイ素をベースとする置換基ただ1個とを有する。
【0033】
芳香族成分と追加の芳香族成分との違いは、芳香族部分からぶら下がっているケイ素をベースとする置換基の数にある。追加の芳香族成分は、芳香族部分からぶら下がっているケイ素をベースとする置換基を1個だけ有するため、追加の芳香族成分を芳香族成分と一緒に反応させた場合、得られる脱水反応生成物は、追加の芳香族成分からの芳香族成分をポリシロキサンのペンダント基または末端基として含むポリシロキサンである。ペンダントまたは末端の芳香族部分は、エレクトロクロミック組成物およびそれから形成されるエレクトロクロミック層のエレクトロクロミック特性にさらに寄与する。
【0034】
芳香族成分のための上述した特定の芳香族コアは、追加の芳香族成分のための芳香族部分にも好適であり、追加の芳香族成分のケイ素をベースとする置換基ただ1個は、芳香族成分においてケイ素をベースとする置換基を芳香族コアに結合させた上述の方法と同様の方法で、芳香族部分に結合させることができる。ケイ素をベースとする置換基ただ1個は、芳香族成分のための上述したケイ素をベースとする置換基と同じであってよく、例えば、追加の芳香族成分のためのケイ素をベースとする置換基ただ1個は、加水分解性基、加水分解性基の水解物、およびこれらの組合せからなる群から選択されるケイ素に結合した基を有する。
【0035】
追加の芳香族成分の特定の例には、これらだけに限定されないが、一般構造(VI)、(VII)、(VIII)、(IX)、および(X)として表示された以下の成分が含まれる。エレクトロクロミック組成物は、1個だけの追加の芳香族成分を含んでいても、複数の追加の芳香族成分の組合せを含んでいてもよいことを理解されたい。
【0036】
【化4】

(式中、X、Y、およびRは、上述したものと同じであり、Rは、水素原子、メチル基、下記一般構造(XI):
【化5】

を有する基、下記一般構造(XII):
【化6】

を有する基、およびこれらの組合せからなる群から選択され;Rは、水素原子、メチル基、およびこれらの組合せからなる群から選択され;nは1〜3の整数である)。
【0037】
1つの実施態様では、芳香族成分と、場合による分岐剤成分と、追加の芳香族成分とを含むエレクトロクロミック組成物は、加水分解性基が既に加水分解された形態で提供することができる。あるいは、エレクトロクロミック組成物は、芳香族成分、存在する場合には分岐剤成分、および追加の芳香族成分に存在する加水分解性基を加水分解するために水と反応させることができる。水との反応の前に、エレクトロクロミック組成物を、典型的には、有機溶媒に分散させる。本発明の1つの実施態様では、有機溶媒は、ケトン、例えば、メチルイソブチルケトンであるが、当業者に知られている任意の好適な溶媒を利用することができる。有機溶媒は、エレクトロクロミック組成物のキャリアとして働くことができ、典型的には非反応性である。水との反応は、加水分解反応である。すなわち、水が、芳香族成分、分岐剤成分、および追加の芳香族成分のケイ素に結合した基に結合した加水分解性基と反応して、加水分解性基の水解物を生成する。本発明の1つの実施態様では、ケイ素に結合した基の加水分解性基がハロゲンである場合、ハロゲン基がヒドロキシル基で置換されるため、酸性の副生成物(すなわち臭化水素酸)が存在する。この酸性の副生成物は、エレクトロクロミック組成物と水との溶液から、エレクトロクロミック層を第一または第二の電極層上に堆積させる前に、追加の水を用いて洗い流すことができる。溶液から水が自然に蒸発するため、芳香族成分、存在する場合には分岐剤成分、および追加の芳香族成分は、シロキサン結合を互いにわずかな数のみ形成し、これによって、エレクトロクロミック層を形成する固体ポリシロキサンを生成する脱水反応の完結前には依然として液体であるオリゴマーを形成することができる。
【0038】
エレクトロクロミック組成物は、優れた加工性を有する。この加工性は、エレクトロクロミック組成物中の化学種の平均サイズに関連する。本発明細書において化学種は、個々の成分、および、水の除去を含むさらなる加工工程の前にエレクトロクロミック組成物中に存在するこれらの成分の部分反応生成物である。約1ミクロン以下の平均の化学種サイズを有するエレクトロクロミック組成物が、優れた加工性を有する。平均の化学種サイズは、エレクトロクロミック組成物をフィルターに通すことによって測定される。
【0039】
エレクトロクロミック層は、典型的には、第一および第二の電極層上に、エレクトロクロミック組成物および水を含む溶液を、スピニング法、スプレー法、プリンティング法、化学的気相蒸着法、物理的気相成長法、または当業者に知られた他の方法によって堆積させることによって形成させる。エレクトロクロミック層中の溶液は、脱水反応中に硬化してポリシロキサンを形成する。より詳細には、ケイ素に結合した加水分解性基の水解物は、脱水反応すると、ポリシロキサン結合(Si-O-Si)を、副生成物としての水と共に生成する。エレクトロクロミック層からの水を除去すると、脱水反応が促進される。エレクトロクロミック層から水を除去するために、エレクトロクロミック層を第一または第二の電極層上にその溶液から形成させた後、その溶液から水を蒸発させ、これによって脱水反応を促進させ、ポリシロキサンを生成させることができる。あるいは、エレクトロクロミック層を、第一または第二の電極層上にその溶液から形成させた後に加熱し、これによって脱水反応を促進させ、ポリシロキサンを生成させることができる。典型的には、脱水反応は、その溶液から形成させたエレクトロクロミック層を、150〜300℃、より典型的には165〜250℃、最も典型的には180〜200℃に加熱することによって達成される。エレクトロクロミック層は、1〜10分、より典型的には2〜8分半、最も典型的には4〜6分の時間の間加熱することができる。
【0040】
上述したとおり、ポリシロキサンは、用いる具体的な芳香族成分次第で、さらにエレクトロクロミック組成物に分岐剤成分を含ませるか否か次第で、架橋していても架橋していなくてもよい。エレクトロクロミック組成物に分岐剤成分を含ませる場合に生成される架橋したポリシロキサン部分の1つの非限定的な例は、一般構造(XIII)にみることができる。
【化7】

(式中、Aは、芳香族成分からの芳香族コア部分であり;YおよびRは前述したとおりであり;式中、切断された結合は、個々のケイ素原子から、別の芳香族成分、分岐剤成分、および追加の芳香族成分の酸素原子への結合を示す。さらに、YがXと同じであってよいため、上述の構造中のYは、個々のケイ素原子から、別の芳香族成分の酸素原子への別の切断された結合を表していてもよい。一般構造(XIII)は非限定的な例であり、実際の架橋ポリシロキサン中に実際に存在しない場合もあることを理解されたい。実際の架橋ポリシロキサンの構造は、エレクトロクロミック組成物中において、用いる芳香族成分、分岐剤成分を用いるか否か、および追加の芳香族成分が存在するか否か、ならびにこれらの成分のそれぞれに相対的な量に左右される。
【0041】
エレクトロクロミック層は、典型的には、第一および第二の電極層上に、約1〜約1,000ナノメートル、より典型的には100〜500ナノメートルの厚さに形成させる。このような厚さは、本発明のエレクトロクロミック層と同等のエレクトロクロミック特性を達成する比較のエレクトロクロミック層の厚さより薄くすることができる。実際に、エレクトロクロミック層の厚さを、より厚いエレクトロクロミック層の典型的な特性である所望のエレクトロクロミック特性をなお達成しながら最小化することができる。さらに、エレクトロクロミック層の光透過特性の変化を、エレクトロクロミック層内で利用する芳香族成分に応じてカスタマイズすることができる。すなわち、エレクトロクロミック層内に特定の芳香族成分を存在させる場合に、特定の色を達成することができる。芳香族成分、追加の芳香族成分、および場合により含まれる分岐剤成分の優れた相溶性によって、エレクトロクロミック組成物に求められる加工性および形成性の要求が最小化されることに起因して、エレクトロクロミック組成物をカスタマイズすることが容易になる。
【0042】
本発明のエレクトロクロミック組成物の形成方法を例証する以下の例は、例証を企図するものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0043】
250 mLの無水THFに、3-ブロモ-9-メチルカルバゾール(21.4 g、82.5 mmol)、3,6-ビス(エチレンボロナト)-9-アリルカルバゾール(13.0 g、37.5 mmol)、およびAliquat 336(7.0 g、20%(w/w)のモノマー質量)を加えた。この溶液、K2CO3水溶液(2 M、94 mL、188 mmol)、および100 mLの無水THFから、アルゴンを60分間バブルさせることによって酸素を除去した。次いで、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムをこの無水THFを用いて溶解させた。K2CO3水溶液をカニューレを介して添加した直後に、この触媒溶液を添加した。得られた溶液を還流させ、撹拌しながら還流させた状態に3日間保った。その後、溶液を室温に冷却し、水相を除去した。溶媒を有機相から除去し、残渣をシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーによって精製した。ヘキサンおよび塩化メチレンの5:1〜3:1を用いて溶出させることによって、3,6-ビス(9-メチルカルバゾール-3-イル)-9-アリルカルバゾールを、約7.5 gの収量、および約38質量%の濃度で得た。
1H NMR (CDCl3):δ 8.55 (d, 2 H, J = 1.5 Hz); 8.47 (d, 2 H, J = 1.5 Hz); 7.88 (dt, 4 H, J = 8.4, 1.8 Hz); 7.48 (m, 8 H); 7.29 (m, 2 H); 6.10 (m, 1 H); 5.25 (d, 1 H, J = 10.2 Hz); 5.15 (d, 1 H, J = 17.7 Hz); 3.88 (s, 6 H).
【0044】
還流冷却器および滴下漏斗を備えた三ツ口フラスコに、3,6-ビス(9-メチルカルバゾール-3-イル)-9-アリルカルバゾール(10 g)、無水THF、および白金(0)1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体(無水トルエン中の0.05%溶液250 mg)を加えた。次いで、トリクロロシラン(30 g)をゆっくりと添加した。トリクロロシランの添加が完了した後、混合物を60℃に加熱し、この温度に2時間保った。その後、混合物を0.02トールで蒸留して揮発成分を除去し、9-(3-トリクロロシリル-1-プロピル)カルバゾールを、約5.6 gの収量、および約90質量%の濃度で得た。
1H NMR (CDCl3):δ 8.53 (d, 2 H, J = 1.5 Hz); 8.46 (d, 2 H, J = 1.2 Hz); 8.21 (d, 2 H, J = 7.8 Hz); 7.87 (m, 4 H); 7.48 (m, 8 H); 7.27 (m, 2 H); 6.10 (m, 1 H); 5.40 (d, 1 H, J = 9.0 Hz); 5.14 (d, 1 H, J = 15.9 Hz); 5.00 (m, 2 H); 3.91 (s, 6 H).
【0045】
一つ口フラスコに、9-(3-トリクロロシリル-1-プロピル)カルバゾール(7.4 g)、N,N-ジフェニル-4-(3-トリクロロシリル-1-プロピル)アニリン(12.6 g)、およびメチルイソブチルケトン(250 g)を加えた。次いで、四塩化ケイ素(1.6 g)および4-(トリクロロシリル-1-プロポキシ)-9-(3-トリクロロシリル-1-プロピル)カルバゾール(2.4 g)を添加した。得られた溶液を-78℃にて1時間冷却した。次に、水(10 g)を1時間かけて添加した。水の添加が完了した後、溶液をゆっくりと室温に戻した。室温に戻った後、溶液を水で、洗液がもはや酸性ではなくなるまで洗浄した。残った水を減圧下で除去し、溶液を、0.1μmのPTFEシリンジフィルターを用いて濾過して、エレクトロクロミック組成物を形成させた。
【0046】
ITO/ガラススライドを、ナイロンブラシおよび1%Alconox溶液を用いて洗浄した。次いで、このスライドを、1%Alconox溶液中、脱イオン水中、イソプロパノール中、およびトルエン中でそれぞれ10分間超音波にかけた。次いで、このスライドをオーブン内で150℃にて短時間乾燥させた。その後、スライドを酸素プラズマに5分間かけた。エレクトロクロミック組成物を用いてこの基材上にスピンコーティングして、エレクトロクロミック層を形成させた。次いで、このエレクトロクロミック層の一端の約5 mmを、トルエンに浸したコットンの綿棒を用いて除去した。その後、このエレクトロクロミック層を、ホットプレート上で、190℃にて30分間硬化させた。KLH-Tencor Alpha Step 表面形状測定装置を用いて厚さの測定値を得て、エレクトロクロミック層とむき出しの基材との間の高さの差を測定した。次いで、スピンコーティング工程を、エレクトロクロミック組成物の代わりに純粋な溶媒を用いて繰り返した。エレクトロクロミック層を、オーブン内、100℃にて短時間乾燥させて、厚さ測定を繰り返した。溶媒洗浄の前後のエレクトロクロミック層の厚さの比を、耐溶媒性の測定値とした。エレクトロクロミック層は、ここでは、少なくとも90%の厚さ比を示した。
【0047】
CV測定値を、PAR 263aポテンシオスタット(定電位電解装置)およびPowerSuiteソフトウエアを用いて得た。作用電極は、ITO/ガラススライドであった。HIM CV実験を、ITO/ガラススライド上に堆積させた30 nmの厚さを有する硬化したエレクトロクロミック層を用いて行った。補助電極は、白金ワイヤであり、準参照電極は、非水性Ag/Ag+参照電極であった。この電解質溶液は、アセトニトリル中の0.1 Mテトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレートであった。全てのCVデータは、印加バイアスを参照電極に対して0と1ボルトとの間でサイクルさせることによって得た。エレクトロクロミック層は、透過性の中性状態と、不透明な青い酸化状態とを示した。状態間の遷移は、参照電極に対して500〜800 mVの範囲で起こった。エレクトロクロミック層は、双安定性であることが判明した。エレクトロクロミック層は、その中性状態と酸化状態との間を、見かけの性能を何ら劣化させることなく数百回切り替えた。
【0048】
本発明を、本明細書において例示的な方法で記述してきたが、用いた用語は、記述的な性質を有することが企図されたものであり、制限的なものではないことを理解されたい。明らかに、上述した教示に照らして、本発明をさまざまに修飾および変形することが可能である。本発明は、明細書に具体的に記載された方法以外の方法でも添付の特許請求の範囲の範囲内において実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族コアと、
前記芳香族コアにぶら下がっているケイ素をベースとする置換基少なくとも2個と
を有する芳香族成分を含み、
前記ケイ素をベースとする置換基が、加水分解性基、加水分解性基の水解物、およびこれらの組合せからなる群から選択されるケイ素に結合した基を有する、エレクトロクロミック組成物。
【請求項2】
前記芳香族コアが、芳香族アミン、芳香族チオール、芳香族エーテル、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項3】
前記芳香族コアがポリ芳香族成分を含む、請求項1または2に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項4】
前記ケイ素をベースとする置換基の少なくとも1つが、加水分解性基、加水分解性基の水解物、およびこれらの組合せからなる群から選択されるケイ素に結合した基を1個より多く有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項5】
前記ケイ素をベースとする置換基が、一般式:
【化1】

(式中、Xは、加水分解性基、加水分解性基の水解物、およびこれらの組合せからなる群から選択され;
Yは、X、一価の脂肪族C〜C10基、フェニル基、およびこれらの組合せからなる群から選択され;かつ、
Rは、0〜10個の炭素原子を有する二価の脂肪族基であり、Rは、前記芳香族コアに結合している)
によって表される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項6】
前記芳香族成分が、下記:
【化2】

、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項7】
下記一般式:
【化3】

(式中、Xは、加水分解性基、加水分解性基の水解物、およびこれらの組合せからなる群から選択され;
Yは、X、一価の脂肪族C〜C10基、フェニル基、およびこれらの組合せからなる群から選択される)
を有する分岐剤成分少なくとも1個をさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項8】
芳香族部分と、
前記芳香族部分にぶら下がっているケイ素をベースとする置換基ただ1個と
を有する追加の芳香族成分をさらに含み、
前記ケイ素をベースとする置換基ただ1個が、加水分解性基、加水分解性基の水解物、およびこれらの組合せからなる群から選択されるケイ素に結合した基を有する請求項1〜7のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項9】
前記芳香族部分が、芳香族アミン、芳香族チオール、芳香族エーテル、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項8に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項10】
前記芳香族部分がポリ芳香族成分を含む、請求項8または9に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項11】
前記ただ1個のケイ素をベースとする置換基が、加水分解性基、加水分解性基の水解物、およびこれらの組合せからなる群から選択されるケイ素に結合した基を1個より多く有する、請求項8〜10のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項12】
前記少なくとも1個の追加の芳香族成分が、下記:
【化4】

(式中、Xは、加水分解性基、加水分解性基の水解物、およびこれらの組合せからなる群から選択され、
Yは、X、一価の脂肪族C〜C10基、フェニル基、およびこれらの組合せからなる群から選択され、
Rは、0〜10個の炭素原子を有する二価の脂肪族基であり、
は、水素原子、メチル基、下記構造:
【化5】

を有する基、下記構造:
【化6】

を有する基、およびこれらの組合せからなる群から選択され、
は、水素原子、メチル基、およびこれらの組合せからなる群から選択され、
nは1〜3の整数である)
、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項8〜11のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項13】
平均の化学種サイズが約1ミクロン以下である、請求項1〜12のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック組成物。
【請求項14】
芳香族基を準備する工程と
ケイ素をベースとする基少なくとも2個を前記芳香族基に結合させる工程と
を含み、
前記ケイ素をベースとするぶら下がった基少なくとも2個が、加水分解性基、加水分解性基の水解物、およびこれらの組合せからなる群から選択されるケイ素に結合した基を有する、エレクトロクロミック組成物の形成方法。
【請求項15】
前記芳香族基が、芳香族アミン、芳香族チオール、芳香族エーテル、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項14に記載のエレクトロクロミック組成物の形成方法。
【請求項16】
前記芳香族基がポリ芳香族成分を含む、請求項14または15に記載のエレクトロクロミック組成物の形成方法。
【請求項17】
前記ケイ素に結合した基少なくとも2個のうちの少なくとも1個が、加水分解性基、加水分解性基の水解物、およびこれらの組合せからなる群から選択されるケイ素に結合した基を少なくとも1個有する、請求項14〜16のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック組成物の形成方法。
【請求項18】
第一の電極層;
第一の電極層から隔てられて実質的に平行に配置された第二の電極層;
第一の電極層と第二の電極層との間に配置されたエレクトロクロミック層であって、加水分解された芳香族成分の脱水反応生成物を含み、前記芳香族成分が、芳香族コアと、前記芳香族コアにぶら下がっているケイ素をベースとする置換基少なくとも2個とを有し、前記ケイ素をベースとする置換基が、ケイ素に結合した加水分解性基の水解物を有する、エレクトロクロミック層;および
前記エレクトロクロミック層と第一の電極層との間に配置された電解質層
を含む、エレクトロクロミック装置。
【請求項19】
前記芳香族コアが、芳香族アミン、芳香族チオール、芳香族エーテル、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項18に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項20】
前記芳香族基がポリ芳香族成分を含む、請求項18または19に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項21】
前記エレクトロクロミック層が、芳香族部分を有する追加の芳香族成分の脱水反応生成物をさらに含み、前記芳香族部分が、前記芳香族部分にぶら下がっているケイ素をベースとする置換基ただ1個を有し、前記のケイ素をベースとする置換基ただ1個が、ケイ素に結合した加水分解性基の水解物を有する、請求項18〜20のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項22】
前記エレクトロクロミック層が、一般式:
【化7】

(式中、Xは、加水分解性基の水解物であり、かつ、
Yは、X、一価の脂肪族C〜C10基、フェニル基、およびこれらの組合せから選択される)
を有する少なくとも1種の分岐剤成分の脱水反応生成物をさらに含む、請求項18〜21のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項23】
前記電極層のうちの一方の電極層の前記電解質層とは反対側の外側面上に配置された第一の基材層をさらに含む、請求項18〜22のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項24】
前記電極層のうちのもう一方の電極層の前記電解質層とは反対側の外側面上に配置された第二の基材層をさらに含む、請求項23に記載のエレクトロクロミック装置。
【請求項25】
前記電解質層が液体電解質を含む、請求項18〜24のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック装置。

【公表番号】特表2011−509440(P2011−509440A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−542271(P2010−542271)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/000109
【国際公開番号】WO2009/089031
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(596012272)ダウ・コーニング・コーポレイション (347)
【Fターム(参考)】